私の心配は杞憂に終わった。呪歌を手に入れた後も、ブラックビューティシスターズは度々私を目覚めさせては快楽の園に連れて行った。すでに守るものも失った私は、されるがまま彼女達との淫靡なる交わりに酔っていた。
目が覚めては彼女達と快楽を貪りあい、そしてまた目を閉じる。未来永劫続くかと思われたそんな爛れた生活は、だが、終わる時はあっという間だった。
「……どこかに、行くの?」
いつもと変わらないように思えるけれど、何かが違う。そんな気がして、私は思わずシェシェに尋ねてみた。
「あら、どうして?」
「いえ……ただ、なんとなく」
そう言って視線を逸らす私に、シェシェは微笑んで言った。
「そろそろ、誰かの下についているのも飽きちゃったのよねぇ」
「えっ……」
それは、つまり。
「アンタの真珠とアッチの娘の真珠、借りるからね」
こんな時でも笑顔を浮かべて、ミミが言う。
「ガイト様は変な女の言いなりで、いつまでたっても地上に侵攻しないしね。なら、アタシたちがやってやろうってわけ」
「あの真珠の力があれば、残りのマーメイドプリンセスを捕らえる事も、この城をのっとるのもたやすい事だわ」
「そんなっ。そんなことをして、もし失敗したら」
思わず大声を出した私の顔を、二人が愉快そうに覗きこむ。
「あれ〜。もしかして、心配してくれてる?」
「…………」
彼女達が敗れ、マーメイドプリンセス達の元に真珠が戻れば、いずれはこの城にやってくるだろう。そうすれば、私もこんな幽閉生活から抜け出すことができる。
それは、ずっと待ち望んでいた、今の私のただ一つの望みだった。そのはずなのに……。
「マーメイドプリンセスをやっつけて、地上も海も支配したら。そうねぇ……アナタには、南太平洋をプレゼントしてあげましょうか」
「他のマーメイドプリンセスを奴隷として仕えさせるのも面白そう、アハハッ」
能天気に笑う二人を、私は複雑な表情で見つめた。
「……それじゃ、行ってくるわね」
「アタシたちが帰ってくるの、楽しみに待ってなよ」
背を向けた二人の背中に悪態をつくことも、「行くな」と言ってしがみつく事も
できず。去って行く姿を、ただ私はじっと見つめていた。
次に目が覚めた時、目の前には、見知らぬ人魚がいた。彼女は、私に優しく微笑みかけてくる。その瞬間、私は助かったのだと。そして、彼女達は敗れさり、淫靡な夢は終わりを告げたのだと悟ったのだった……。
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