「〜〜〜〜♪」
 南太平洋にある小さな島。海岸沿いの岩場の上で、柔らかな潮風と暖かな太陽の日差しに包まれながら、私は歌を唄っていた。
 ここは、この辺りに広がる群島の一つで、滅多に人間が訪れることのない無人の島だった。
 滅亡して数年が経った南太平洋の王国だが、私が無事だと知ると、他の王国に逃げ延びたり隠れて暮らしていた人魚達が一人また一人と集まり、徐々にではあるが復興の兆しを見せ始めていた。
 プリンセスとしての激務に疲れた私が束の間の休息を取る場所。それが、この小さな島だった。昔から、何かあった時や一人になりたい時に来ていた場所。数年経ってもその姿をまったく変えず、ひっそりと在り続け私を迎えてくれる。
「〜〜〜〜♪♪」
 一曲歌い終えたちょうどその時、太陽が雲に隠れて辺りが薄暗くなった。風の流れも少し変わった気がする。何かが気にかかり辺りを見回していると、岩場の少し奥、海沿いの洞窟の中から突然パチパチと拍手が響いた。
「誰っ?」
 この場所を知っているのは、近しい者数名だけなはず。それに普段は気を使ってか、私を一人にしてくれている。ここまでわざわざ訪ねてくるなんて、余程火急の用件なのだろうか、と思ったが。
「すばらしい歌声ですわ、プリンセス・ココ」
「ホント、ゾクゾクしちゃった」
 暗闇から姿を現したのは、私もよく知る、けれどもう二度と会うことのないはずの者たちだった。
「ブ、ブラックビューティシスターズ!?」
 私は驚いて目を見開いた。そんな、彼女達がどうしてここに……。いえ、それ以前に無事だったというの?  二の句が告げられない私に、いつものように人の悪い笑みを浮かべながら話しかけてくる二人。
「お久しぶりですわね、プリンセス」
「元気してた?」
 私の動揺などどこ吹く風といった感じで、まるで十年来の友人と話すような気安さで話しかけてくる。
「あなたたち、無事だったの?」
 私の問いに、二人は肩をすくめて答える。
「ま、無事だったってわけじゃないんだけどね〜」
「あるお方に力を授かって、こうして再び舞い戻ったというわけですわ」
 あるお方? ……もしや、ガイトが復活したの? ……いえ、ありえない。あの時、ガイト城は海底に沈み、ガイトもまたサラと共に眠りについたはず。
 なら、誰が? 再び海の平和を脅かす者が現れたというの?
「で、せっかく力を取り戻したんだから〜」
「一番最初にアナタに会いに来たというわけ」
 無防備に近寄ってくる二人に、私は思わず身を引いて胸の真珠を握りしめる。
「近寄らないでっ」
「アラ、つれない態度ねぇ」
「また3人で楽しもうよ、ウフフッ」
「だ、誰がっ」
 もう私は、あの頃とはちがう。真珠もこの手に戻り、何より守らなければならないモノがある。彼女達の良い様にされるわけにはいかない。私は眼光鋭く、彼女達を睨みつけた。
「アラ怖い。なら、どうするの?ご自慢の歌で私達をやっつけるつもりかしら」
「そう言えば変身したココを見るのって初めてだよね。ちょっと楽しみ〜」
 二人の言葉の端々に余裕が感じられる。授かった力とやらがそれほど強力だということ? だとしても。もう、私は負けるわけにはいかない。
「甘くみないで! イエロー・パール・ヴォイス!」
 掛け声と共に、胸の真珠が光る。人間の姿になった身体を、私の真珠の色、黄色のコスチュームが包んでゆく。これが、マーメイドプリンセスである私に与えられた、特別な力。
「へえ〜」
 相変わらずのニヤニヤ笑いを続ける二人を鋭く見すえ、私は敢然と言い放った。
「私には、守るモノがある。だから、もう、アナタ達の好きなようにはさせないっ。
 いくわよっ、ピチピチヴォイスでライブスタート!!」

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