「んん……」
 肌寒さに思わず目を覚ますと、そこは真っ暗な部屋だった。明かりといえば、壁を照らす幾つかの淡いオレンジ色の光のみ。目を凝らし、ようやくそれが蝋燭の光だと気づく。
「ん〜…………あら?」
 起き上がろうとしたところで、体がうまく動かせないことに気づく。自由に動かせるのは首だけ。両手は後ろ手に手錠をはめられており、足首も枷をはめられ立ち上がれない。三奈子は芋虫のようにうつ伏せで地面に転がっていた。
「な、なに? なんなの?」
 慌てて体を起こそうとするも床をのたくたとはいずるだけ。唯一自由になる首をめぐらせれば、そこには沢山の鎖や三角に尖った木馬のような物などがある。それはいわゆる、テレビなどで見た拷問部屋に良く似ていて。
「ヒ、ヒイッ」
 慌ててズリズリと尺取虫のように床を這いながら逃げ出そうとする三奈子だが。
「あくっ」
 乳首に痛みを感じ動きを止める。そこで初めて、自分が裸なのだと気づいた。体には胸をくびりだすような革ベルトが巻きつけられているが、胸もそうだがアソコやお尻、肝心な部分が一切隠れていない、服とは呼べないようなものを身につけさせられていた。床にこすり付けられ、摩擦で乳首が赤くなってしまっている。
「な、なんなのよ……助けてっ、誰か、誰かぁっ!」
 パニックを起こし大声で助けを求める三奈子。が、実際に耳にカツーンという靴音が聞こえると、口をつぐんでしまう。この破廉恥な格好を見られてしまう、そう思うと三奈子の喉で助けを求める声が引っかかってしまった。
 カツーン、カツーン……。ゆっくりと近づいてくる靴音。やがて、三奈子の前に顔に蝶の形のマスクをつけた女性が立ち塞がった。赤いレザーのビスチェで包まれた体はうらやましくなるほど悩ましくくびれ、胸とお尻は大きく張り出しているが決して全体のバランスを崩すほど下品な大きさではなく絶妙のバランスを保っている。両手脚はそれぞれ光沢を放つ肘上のラバーグローブと膝上のラバーストッキングにムッチリと包まれ、足元にはヒールが15センチはあろうかというこれまた真っ赤なピンヒールを吐いている。
「お目覚めかしら、築山三奈子さん」
 頭上から声をかけられ、呆けたようにそのバランスのとれた悩ましい肢体を眺めていた三奈子の視線が再び首から上に向けられる。襟足で綺麗に切り揃えられた黒髪が蝋燭の明かりに照らされて鈍く輝く。真っ赤なルージュをひいた唇が濡れ光り、蝶の羽の奥に見える意志の強そうな瞳がまっすぐに自分を見つめている。どこかで聞いたことのあるこの声……。
「あ、あなたは誰なの? 私をこんな所で、こんな格好にして、何をしようっていうの!」
 もう少しで思い出せそうなところまで来ていたが、目の前の人物を当てることより先に悪態が口をついて出てしまった。
「あら、わからない? どうしてここへ連れてこられたのか」
「わ、わかるわけないじゃないっ。こんな、こんなのっ」
 三奈子はなんとか女性の視線から己の体を隠そうとするが、元々全てむき出しなのだからいまさら隠す手段もなく、体を丸めてみるもののそれは丸いお尻をよけいに強調しただけであった。
「あら、かわいいおしり」
「み、見ないでっ」
 三奈子は顔を真っ赤にして金切り声で叫ぶ。三奈子とて自分の体は捨てたものではないと自負してはいるが、目の前で圧倒的な妖艶さを放つ美女に見せつけられるほどの絶対的な自信もない。
「築山美奈子さん。アナタは知りすぎてしまったの。秘密を知りすぎたジャーナリストがどうなるか、わかる?」
 秘密? 秘密とはなんだ。こんな目に合わされるほどの大変な秘密なんて、私が知っているはずが……。
「ま、まさか、小笠原家のっ」
 三奈子の声に、美女は艶然と微笑む。三奈子は心臓が止まる思いがした。小笠原祥子は、あの天下の小笠原家のご令嬢なのである。そのとんでもないスキャンダルをすっぱ抜いた自分が、小笠原家お抱えの秘密部隊に拉致され、口封じに消されてしまう。それは、十分考えられる事態である。
「いや……こ、殺さないで……」
 途端にガタガタと体が震えだし、涙腺が緩んで視界を歪ませる。今更ながら、自分がしでかしてしまったのがどれだけ大変なことなのか思い知る。
「フフ、安心しなさい、三奈子さん。殺しはしないわ」
「ほ、本当?」
 三奈子はすがりつくように尋ね返す。が、返ってきた言葉はある意味で死より過酷な内容だった。
「ええ。名門女子校のお嬢様を殺してしまうなんて、そんなもったいないことはしないわよ。そうね、薬漬けにして、海外に売り飛ばしてしまおうかしら。肉人形として、ね」
「ヒィィィッ」
 三奈子は床に顔を伏せ、ただガタガタと震えていた。ああ、自分はなんとバカなことをしてしまったのだろう。こんな、こんなことになるなんて……。
ピシィィッ!
「ヒッ」
 突然床を打つ乾いた音が部屋中に響き、三奈子は再び縮み上がった。
「甘いなぁ」
 音のする方、真っ赤な美女の背後から、鞭を手にした女性が現れた。日本人離れした顔立ちにこれまた白いバタフライマスクをつけ、ブラジャー・ホットパンツ・肘上のグローブ・太腿まで覆うほどのスーパーロングブーツ、これら全てを白のエナメルで統一していた。
「あらそう?」
「ああ、あまあまだね。見なよこの生意気そうな顔。思わずいじめたくなるでしょ」
 白い女性がしゃがみこみ、三奈子の顎に手をかける。脚関節のエナメルが擦れキュッと小気味いい音が鳴る。ホットパンツにピッチリと張りついた尻肉が艶かしい。
「こういう生意気な娘をいじめるのが楽しくて楽しくてたまらないって人が、世の中にはけっこういてさ」
 白い女性は三奈子の顎から手を放して立ち上がると、ブーツで三奈子の尻を踏みつけた。
「あぐっ」
「フフ。いい声で鳴いてよね」
 三奈子の尻肉にブーツのヒールが刺さり、グリグリと踏みにじられることによりヒールがギュリギュリと尻肉をねじこむ。
「ぐひぃぃぃ……い、いたいぃ……」
 三奈子が目に涙を溜め、苦悶の表情を浮かべると、白い女性は本当に楽しそうに笑った。
「いいよ、ゾクゾクしてくるね。ただの肉人形じゃもったいない、被虐専用のマゾ奴隷として一生金持ち達に痛めつけられながら生きていくのが似合っているよ」
「あぁぁ……そんなの、いやぁぁ……」
「ふふ、ますますいじめたくなる、ホントいい声してるよ」
 白い女性の持った鞭の柄で尻をこづかれ、無様に呻く三奈子の耳に、また別の靴音が響いた。
「あら、楽しそうなことしてるじゃない」
 ほんの少しだけ助けを期待した三奈子は、新たに現れた女性の第一声で再び絶望に突き落とされた。
 女性は目が痛くなるほどの金色のボディコンワンピースで身を包んでいる。膝上20センチというほとんど隠すという本来の役目をはたしていないスカート部分から、これまた金色のパンティが丸見えになり、盛り上がった媚肉に布地がムッチリ食い込む様がいやらしい。金色の二の腕までのサテンロンググローブをはめた手袋には、ゴールドの扇子が握られている。目元を隠す仮面と前髪をまとめるヘアバンドもまた金で、一昔前にはやったお立ち台ギャルなどを連想させるド派手ぶりだった。
「……すごいわね」
「ふふ、ありがと」
 赤い女性がため息混じりにつぶやいたその言葉を、金色の女性は褒め言葉と解釈してしまったようで、ニコリと笑顔を浮かべた。
「この娘にピッタリの責めっていうと、なにか思いつく?」
 白い女性が問いかけると、金色の女性は「そうね」と呟きしげしげと三奈子を眺め回すと、突然その顔を股に挟んだ。
「ふぐっ」
「ウフフ……」
 金色の女性は三奈子の鼻を中心に、自らの秘唇をパンティの上から押し付けるように腰をグラインドさせる。しばらく陶酔したように円運動を堪能した後、愛液でしっとりと濡れ始めた股間を今度は三奈子の口に押し付けた。
「そうねぇ……このままオシッコしてしまおうかしら」
「むぶぅっ!?」
 オシッコ。想像すらしていなかった言葉を投げかけられ、三奈子は錯乱して頭を振りたくるが、女性にがっちりと押さえつけられているため、顔を秘部に擦りつけているようにしか見えない。
「ああん、そんなに顔でズリズリして気持ちよくしてくれるなんて、オシッコ浴びせられるのがよっぽど嬉しいのね」
「むーっ、むぅーっ」
 三奈子は泣きながら抗うが、発情した女性の股間を押し付けられて言葉すらうまく発することができない。
「人間便器か。それもいいかもね」
「でしょう。この生意気そうな顔した娘が、涙を流しながら美味しい美味しいってオシッコやウンチをゴキュゴキュ飲み込んでしまうの。アァ、考えただけでソクゾクしてしまうわ」
「ムフゥゥゥーッ」
 次々投げかけられるおぞましい言葉に、三奈子は頭がおかしくなってしまいそうだった。 金色の女性の股間から解放されても、三奈子はすっかりおびえてガタガタと震えながら、体を丸くして「助けて……助けて……」と呟き続けるだけ。
「さあ、築山美奈子さん。貴方の人生は貴方自身で決めていいのよ。大丈夫、どれを選んでも絶頂を得られる、淫らな浅ましい体に調教してあげるから」
 赤い女性が、三奈子の顎をしゃくり顔を向き合わせる。美しい、しかし三奈子にとっては地獄の使者である3人のドミナに見つめられ、三奈子は嗚咽が止まらない。
「全ての穴で男性にご奉仕する、肉穴人形になるか」
「全身を痛めつけられて泣きながら喜ぶ変態マゾ奴隷になるか」
「排泄物を喜んで食らう人間以下の肉便器になるか」
「あ……あ……あああああ……」
 どれを選んでも泥沼の地獄が待ち受けている、究極の選択を突きつけられ、三奈子の精神は追い詰められる。もし心の中を覗く事ができるなら、三奈子の精神がポロポロと崩れだしていくのがわかっただろう。そして、最後の理性という糸が今まさにプチンと切れようとした、その刹那。
「ぷっ」
 赤い女性が、三奈子の顔を見ながら吹き出した。つられるように、白い女性と金色の女性もクスクスと忍び笑いを漏らし、やがて三人ともこらえきれなくなってのか大声をあげて笑い出した。
 赤い女性は右手で顔を覆って、金色の女性はお腹を両手で押さえて、白い女性にいたっては床を転げまわりながら、三者三様に大笑いしている。
 呆けたように三人を見つめる三奈子の頭を撫でながら、赤い女性は顔の蝶のマスクをはずした。
「ごめんなさいね、三奈子さん。怖がらせてしまって」
「!!?…………ロ……ロサ……ロサ…………」
「ふふ、ま、そういうこと」
 白い女性と金色の女性もまたマスクをはずす。そこには見慣れたお三方、先代の紅薔薇・白薔薇・黄薔薇の麗しのお顔があった。
 三奈子は地獄の底に三筋の光が差し込んだような心地がして、我慢できずに子供のようにわんわんと泣き出してしまった。そもそもその地獄へ連れて行ったのがこの三人なのだが、三奈子にはそれについて何かを言うような余裕はなく、ただ泣き続けた。前紅薔薇・蓉子は、優しく三奈子の頭を撫で続けてくれた。


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