「ひぎいいいぃぃっ」
薄暗い一室の中、少女の絶叫が響く。部屋の中央、一人の少女が縛られた両手を天井から釣られ、ぶら下がっている。
革ベルトを巻いただけのような破廉恥な格好では、本来隠すべき肌はほとんどが剥き出しである。その晒された肌にはいくつもの赤い線が走り、少女の白い体を痛々しく彩る。少女の顔はすでに涙でグチャグチャだった。
バチィィィッ!
「うぎいぃぃっ!」
暗闇の中から鞭が閃き、少女の体に新たな赤い線を描く。食いしばった歯から苦痛の呻きが漏れ、目尻にたまっていた涙が宙を舞う。
「ああっ、もう、許してあげてくださいっ」
助けを乞う声。それを上げたのは吊るされている少女自身ではなく、その目の前で女性に抱きかかえられ、体中をいじくりまわされている別の少女だった。
「こ、こんなの、ひどすぎますっ。もうやめてあげてください、蓉子様っ」
少女は首をめぐらせ、背後から彼女を抱きかかえて体を撫で回している美女……前ロサ・キネンシス、水野蓉子に訴えた。
「ダメよ、真美ちゃん。ここでやめたらオシオキにならないでしょう」
蓉子は諭すように話しかけ、抱きかかえた新聞部次期部長候補、山口真美の頭を撫でながら、涙に濡れ光る頬をペロリと舐める。
「でも、こんな、こんなことっ」
「じゃあ、真美ちゃん代わってあげる?真美ちゃんが鞭で打たれてどんな声で啼くのか、私興味あるなぁ」
鞭の柄を撫でながら、全身を白のエナメルで統一した日本人離れした美女、前ロサ・ギガンティア、佐藤聖が舌なめずりをする。
「ひっ」と小さく声をあげ縮み上がるものの、それでも姉を助けるためならばと頷こうとしたその時。
「い、いいのよ、真美」
吊るされている少女、築山三奈子が、か細くも真美に笑顔を返した。
「もともと、私の責任なんだもの。あなたは関係ないわ、真美。私が罰を受ければすむことだから……」
「で、でもっ」
「三奈子さんの言うとおりよ、真美さん。貴方が肩代わりしても意味はないの。三奈子さんには、この鞭の痛み一発一発を噛み締めてもらわなくてはね。それに……」
もっともらしいことを言っていても、満面の笑顔を浮かべていては自分が楽しんでいるとしか思えない。そして実際、魅惑的な肢体を金のボディコンワンピースに押し込めた、前ロサ・フェティダこと鳥居江利子は、今この時が楽しくて仕方がないのだった。
手袋に包まれた手が、むき出しの乳房を優しく撫でる。サテンのサラサラした感触が敏感な部位をくすぐり、柔らかなふくらみがフルリと揺れた。
「ほら、三奈子さんのココ、こんなに尖ってる。感じているのよね。私達山百合会のメンバーに、こうして虐められるのが嬉しくて仕方がないのよね」
「そ、それは……」
「そうなんでしょっ」
ギュリリィッ。
「あぐっ、う、嬉しいですっ」
江利子に乳首をつねり上げられ、三奈子は呻きながらもブンブンと首を縦に振った。
「フフ、じゃあ、ちゃんと自分の言葉で真美さんに教えてあげなさい」
つねりあげられ紅潮した乳首をあやすように優しく撫でながら、江利子は三奈子の顎をしゃくって真美と顔を向き合わさせる。
「私、築山三奈子は……山百合会の皆様に虐めていただいて、喜んでいます……感じてしまっていますっ」
「虐められて嬉しくて感じちゃうなんて、おかしいわよね。どうして?」
聖女のような微笑みを浮かべて、三奈子を恥辱の底に突き落とす江利子。戸惑う三奈子に近寄り、聖がポソポソと小声で耳打ちする。頬を真っ赤に染め俯こうとした三奈子だが、顎を江利子にガッチリ掴まれてそれも許されず、しばらく中空を漂っていた視線が、再び真美の視線と交錯した。
「それは、私が…………ゾ、だから……」
「えー、何? よく聞こえなーい」
聖がおどけて耳に手を当て、三奈子の口元に寄せる。
(まったく、この二人に同時に虐められるんじゃ、さしもの三奈子さんもたまったものではないわね)
その様子を見て思わず苦笑する蓉子。
「それは、私が……マ、マゾッ……だから、です……」
自らの言葉で己自身を貶めることで被虐の度合いが強くなったのか、羞恥の前に三奈子の全身が桃色に染まった。
「そっか〜、三奈子ちゃんは、マゾ、なんだね〜」
聖が『マゾ』を強調して、三奈子の羞恥の火に油を注ぐ。自分で言わせたくせに、とツッコミたくなった蓉子だが、あえて口を挟むのはやめた。
「フフッ、そう。三奈子さんはマゾなのね。では、もっと恥ずかしい目に合わせてあげなくてはね」
江利子はいったん三奈子から離れると、革バンドの先端にフックのついたものを手にぶら下げて戻ってきた。
「フフフ、ほ〜ら、三奈子さんのかわいい顔がこれで台無しよ」
ブランと垂らしたフックをヨーヨー釣りのように鼻にひっかけ、ゆっくり、ゆっくりと引き上げていく。フックに引っ張られた三奈子の鼻が、わずかずつひしゃげていった。
「まぁ、三奈子さんったらはしたない。鼻の穴が丸見えになってしまっているわよ。毛まで見えてしまいそう」
「ひゃ、ひゃめてぇ……」
屈辱というよりも、羞恥の為に、三奈子の双眸から再び涙が溢れ出した。
「お姉さま……」
その強引な取材姿勢や行き過ぎた報道も、薔薇様方をもっと身近に感じたいという姿勢の表れ。本当は誰よりも薔薇様方に強い憧れを抱いているのは三奈子自身であることを、真美はよくわかっていた。そんな三奈子であるから、肉体的苦痛などよりも自らの無様な姿を薔薇様方にさらけ出してしまう方が、よほどつらい事なのだろう。
それを知っているのかどうか、江利子はフックで三奈子の鼻を弄びながら満面の笑みを浮かべてなおも責め立てる。
「あらあら、かわいい鼻がつぶれちゃったわ。まるでブタさんね。ねぇ、子豚ちゃん。鳴いてみて。ブウブウって」
「そ、そんな……ひどい……」
三奈子は泣きながら江利子に許しを乞うが、当の江利子は取り合う気もない様で、三奈子の鼻の輪郭をフックを持っていないほうの手でなぞったりしている。
「あ、あんまりです江利子さまっ!」
思わず真美が叫ぶが、江利子はむしろそんな真美をからかうように三奈子の鼻をなおも弄んでみせる。
「あらそう? かわいいじゃない、子豚ちゃんの鼻。ねぇ、聖」
話を振られた聖は、笑いながらも特に答えるつもりはないようだ。
「江利子さっ、ムグッ」
突然口を塞がれ、真美は目を白黒させた。口と鼻にラバーのツンとした香りが広がる。蓉子は真美の口を押さえながら、小声で耳打ちした。
「ダメよ真美ちゃん。貴方が嫌がればますます江利子は面白がるわよ。ここは黙って見ていなさい」
「む、むぅ……」
誰よりも江利子と付き合いの深い蓉子の言葉である。真美は大人しくするしかなかった。どちらにしろ、真美にできるのは口を挟む事だけで、それが江利子に油を注いでしまうというのなら黙っているしかない。
蓉子が真美を大人しくさせてしまったため、江利子は一瞬つまらなそうな顔をしたが、すぐに三奈子に向き直りまたフックをいじりだす。
「ほら、真美ちゃんも見たいって、貴方がブウブウ鳴くところ」
「う、うう……」
渋る三奈子に、聖が耳打ちする。
「江利子はしつこいから、言うまでやめないと思うよ。三奈子ちゃんの鼻、潰れて元に戻らなくなっちゃうかもね」
「うぅ〜」
三奈子は鳴きながら目を伏せ、小さく「ブゥ」と鳴いた。
「え、なに? よく聞こえなかったわ」
「ブゥ……ブゥ……」
「だめだめ、そんなのじゃ。もっとメス豚らしく、浅ましくお鳴きなさいっ」
江利子が鼻のフックをグイッと引っ張り上げる。鼻の穴の形が縦線になってしまうほど
吊り上げられ、三奈子は大粒の涙を零しながら浅ましく鳴いてみせた。
「ブウッ、ブウブウッ、ブウゥ〜ッ」
「あ、あはっ、あははははっ!」
江利子は腹を抱えて大笑いした。手を離れ、カランと音を立てて床にフックが落ちる。幸い三奈子の鼻は広がりっぱなしにはならず、赤くなってしまってはいるものの元の形に戻っていく。それでも三奈子は、小さな声でブゥブゥと鳴き続けている。
目尻に涙さえ溜めて大笑いしていた江利子は、ようやく収まってきたのか指で目尻をぬぐうと、三奈子の頭に手を置いて優しく撫ではじめた。
「あはは、ははっ……よくできたわね、三奈子ちゃん」
「ぶぅ……」
「んもう、かわいいわ。ご褒美をあげなくちゃ」
江利子は三奈子の頬を両手で包むと、唇を寄せた。三奈子の、鼻に向かって。
「ムチュッ、ズチュ、ジュジュ〜ッ」
「ふあ、ほあぁぁぁっ」
派手に音を立てながら鼻を吸いたてる江利子。三奈子は不意打ちに、奇妙な声を上げて悶える。
「あらら、とんだご褒美だ。スッポンの江利子は伊達じゃないからね」
カラカラと笑う聖にチラリと目をやるも、視線を再び三奈子に戻し、鼻全体を咥え込む様に吸いたてる。三奈子の人よりは少々高いちょっとだけ自慢の鼻が、江利子の口内にちゅぽんと吸い込まれた。
「あ、あああ……」
三奈子の口から安堵の吐息が漏れる。経験の浅い少女にとっては、愛情表現とも快楽とも理解しがたい鼻への愛撫。奇妙な感覚から解放され一息つこうとした三奈子だが、気を抜くのはまだ早かった。江利子の『ご褒美』はまだ始まったばかりなのだ。
「んふふ〜……チュポッ、ベチョッ、ヌチョヌチョッ」
「んおぉっ、ほぁっ」
江利子は口内で舌を蠢かせ、三奈子の鼻を下から舐め上げ、輪郭をなぞり、穴にまで舌先を挿し入れる。今まで味わったことのない間隔にだらしなく口を開き、喘ぎをもらし続ける三奈子。
「ベロッ、ネロブチョッ……ウフ、三奈子ちゃんの鼻、おいしいわ」
「ひゃ、ひゃめてくらはい、えりこひゃ、はひゃうっ」
三奈子の静止も聞かず、江利子はまた咥え込み、顔を動かしてブチュブチュと出し入れさせる。たっぷり数分舐めつくされた後、三奈子の鼻はようやく解放された。
「うぅ……かはっ、けへっ」
唾液が鼻の奥まで入ってしまったのか、眉間に皺を寄せて咳き込む三奈子に、聖がどこから持ってきたのかティッシュを差し出し、鼻をかませてやる。
「うふ、おいしかった。どう、鼻も気持ちいいものでしょう」
「クン、スン……は、はい……」
まだ鼻の奥が痛いのかクンクンと空気を通すように鼻を鳴らしながら、三奈子は頷いた。ここで同意しなければ、江利子の責めはまだまだ続くだろう。
「そう。良かったわ」
一方、堪能したのかすっかり満足した表情の江利子は、視線を真美に向けた。
「うふふ、次は真美ちゃんね」
床に転がっていた革バンドを拾い上げ、フックの金属部分をネロリと舐め上げてながら、楽しそうに江利子が話しかける。
「わ、わたしはっ……」
「お姉さまの為なら、何でもするんでしょう? だったら、いやがったりしないわよね」
「……は、はい」
真美は頷きながら、視線を三奈子に移す。いまだ鼻の奥がムズムズするのか、鼻の付け根を聖に揉んでもらっている。が、真美はたしかに見ていた。鼻責めを受けながらも、隆起していく胸の乳頭と、太股を伝う透明な液体を。
真美はゴクリと息を飲む。新聞部の性か、未知の体験というものに、真美もまた弱いのだった。
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