ポップは少し悩んでいた。ここは外で洞窟。事に及ぶと言っても、慣らすのに使うものがない。
(塗り薬……なんて、いいモン持ってねぇもんな)
かと言って、このままダイのものを受け入れてしまうと、本気で壊れかねない。いくら、あの不思議な力で傷を回復させたと言っても、どの程度のものか、ポップには想像出来なかった。
どうしてよいのか分からないのはダイも同じようで、正座をしたまま硬直している。けれども、その視線は一定に定まる事なく、忙しない動きを見せていた。
どうも、こちらが着ている上着の下が、気になるようである。申し訳程度に隠されている剥き出しの下肢が気になるようだ。形こそ違うものの、自分にだって同じものがついているはずなのだが。そんな相手の様子に、思わず噴き出しそうになるのを堪え、ポップは嵌めている手袋を外すと、露になった右手の指二本を口に咥えた。
宙を行ったり来たりしていたダイの視線が、ここで初めて一点に固定される。数秒後、相手がぽつり、と呟いた。
「ポップ……指、美味しい?」
「ぶほっ!!」
ダイの場違いな質問に、ポップは今度こそ、本当に噴き出した。
「お腹すいてるなら、やっぱ食べれる物を――」
「アホかっ! 指濡らしてんだよっ」
言っている意味が分からないのか、首を傾げる相手に、ポップは盛大な溜息をついた。
あの時強引に突っ込んだのは、相手が慣らすという行為自体を知らなかったからだと、今更ながらに納得する。
「あのな……だ、出すトコに物突っ込むんだぞ……なんかで滑りよくして、慣らしてやらねぇと、さっきみたいになるんだよ」
本来、受け入れる場所ではない所を無理に使用するのだから、少しでも負担を減らすよう、その準備をしてやらなければならないという事を、ポップはダイに説明した。
身振り手振りを混ぜての説明に対し、相手は一々こくこく、と律儀に頷いている。理解しているのか、甚だ怪しいものでしかなかったのだが。
「わーったら、ちょっと待ってろ」
言い置いて、ポップは再び指を咥える。ダイの顔を直視しながらは、流石に出来ないので、目線を僅かに下げた。
ダイの視線を痛いくらい感じる。湧き上がる恥ずかしさを消し去るように、ポップは一生懸命指を舐めた。結果、周囲が気にならなくなるのに、さほど時間を要しなかった。
行為に没頭するあまり、ポップの唇が知らず緩まる。指を舐める度、口角の隙間から僅かに水音が漏れ、垂れた唾液が指の股を伝い汚していった。
外気に触れ、熱が消え失せ冷たさを覚え、ポップはそこでようやく掌を汚すものに気付き、舌を這わせる。
その恥ずかしさに、目元をほんのりと赤く染めて。
ダイの目が徒ならぬ光を帯び、呼吸が通常よりも荒くなった事に、ポップが気付く事はなかった。
頃合を見計らって、ポップは口内から指を抜く。覚悟を決めて下半身へと、濡れた指を下ろしてゆく途中、ダイの腕によって、その動きを止められた。
「な、なんだよっ」
驚きと、途中で止められた事によって決意が鈍りそうになり、ポップはつい、相手にきつい物言いをしてしまう。その内心を知る由もないダイは、それでも腕を放さなかった。
「それを………あ、あそこに……入れるの?」
「……入れないで、どーすんだよ」
「………痛く、ない?」
心配そうに顔を覗き込まれ、ポップは思わず脱力してしまう。
「いや、だからな? 痛くないようにだな……」
「でもっ、指を入れる時って……痛くないか?」
なおも問いかけてくるダイに、ポップは呆れてしまった。あの時の、おもいきりの良かったダイはどこへいってしまったのか。
「……まぁ、痛いとは思うけど。なんの為に、おれが舐めたと思ってんだよ」
「いくら舐めても……乾いたら、痛くないか?」
「乾いたら……う、うーん………そりゃま、ちょっとは……」
そこまで言われると、ポップの中の恐怖心が膨らんでくる。ダイの腕を引き剥がそうと込めた力が弱くなり、思わず不安そうな表情を見せてしまった。その為、相手に易々と上体を引き倒されてしまう。
え、と思う間もなく毛布の上に仰向けの状態で。視界には暗い天井と、ダイの顔。ようやく寝転がされたという事実を頭が受け入れた時、両足を抱え上げられた。
「なっ!」
ちょうど、赤ん坊のオムツを替える時のような体勢に似ている。と、言うことは……普段誰の目にも晒す事のない場所がダイには丸見えなわけで。ポップは顔を赤く染めた。
「お、おいっ!」
「濡らすなら、直接舐めた方が早いよ……きっと」
「あ、なるほど……なんて言うか! この馬鹿っ!!」
ダイの恐ろしい提案に、ポップは何とか逃げようと身を捩った。けれども、足首をしっかり捕らえられ、相手の腕によって左右に揺れないよう固定されていては、どうする事も出来ない。
冗談ではなかった。排泄口に身体の一部を突っ込むだけでも、汚さに嫌悪感が沸くと言うのに、その部分を直接舐めると相手は言う。いくら何でも、そこまでダイにさせるわけにはいかなかった。
混乱と羞恥。迫り来る相手に抵抗すら敵わず、ポップは泣きそうになった。熱い息がその場所を掠める。瞬間、ポップの感情が爆発した。
「っ……やだ、嫌だ! やめろおおおっ!!」
洞窟内に響く叫び声。その声は反響を重ねて小さくなり、やがて僅かな余韻を残して掻き消えた。焚き火が小さな音をたてて爆ぜ、その音が二人を包み込んでいた空気を破る合図となった。
ポップは涙に濡れた瞳で、動きを止めたダイを見遣る。
暫くして、相手がのろのろとした動作で顔を上げた。その顔は今にも泣きだしそうなほど歪んでおり、大きく揺れる美しい瞳がポップを捉えている。
何か言わなければ……と、ポップが口を開こうとした瞬間、相手が動いた。
「ご、ごめんなさい!」
ポップの足を離し、ダイは弾かれたように壁まで後退した。その一連の動作を、恥ずかしい状態のまま呆然と見ていたポップであったが、やがて自分が今おかれている状況を思い出し、慌てて身を取り繕う。
その間、相手は顔を赤く染め、己の所業を悔いているような風情で項垂れていた。
「えーと、だぁい?」
名前を呼ぶと、ダイがおずおずと顔を上げた。被害者の自分が、まるで加害者のようになった気分にさせる、そんな相手の表情に、ポップは軽く苦笑いを浮かべる。
「ご……ごめん、ごめんよぉポップ。もう、もうしないからっ」
「いいから、ちょっとこっち来い」
手招きすると、ダイは目に見えて分かるほど小さく縮こまり、身体を震わせる。恐怖に怯える小動物のように見えて、ポップは知らず頬を緩ませた。
「で、でも……おれっ」
「いいから来い。おれが来いっつったら、すぐ来る」
逡巡の後、恐る恐るダイが近づいてくる。若干腰を引きつつ、こちらを窺うように顔を覗き込んでくる相手の頭を、ポップは優しく撫でてやった。
「ポップ……」
「ちょ、ちょっと恥ずかしかっただけだ。いきなりだったし……えーと、だから………続き、してくんねぇ?」
その言葉に驚いたのか、目を見張るダイに、ポップはさらに続ける。
「但し! さっきの体勢でなくて……う、うつ伏せの方でな。な!?」
早口に言い切り、ポップはダイに背を向ける。唇をキュッ、と噛み締めて、そろそろと腰を上げた。羞恥に心臓が激しく音をたてる。
「い、いいの? ……大丈夫?」
「いいから……っ」
毛布を両手で握り締め、ポップは覚悟を決めた。上着がゆっくりと腰までたくし上げられ、ダイの手がそろり、と臀部に添えられる。
相手に恥ずかしい場所を見られていると言う状況により、血が一気に沸騰し、燃えあがりそうなほどの熱が全身を駆け巡った。露になった秘部に、再び熱い息がかかった。
「ポップ、本当に……」
「るせぇ! いいったら!! 早くしろ……ッ」
「ごめん……じゃあ、舐めるよ……」
静かな声音で告げられ、ポップがきつく目を閉じる。直後、生温かな舌が秘部に触れた。
「っ……」
痛みはない。声をあげかけたポップは、慌てて毛布を噛み締めた。柔らかな舌が、そろそろと入口を舐め上げる。肌が粟立つような感触。とても気持ちの良いとは言えない感覚でしかなかった。
ダイは、まるで腫れ物に触れるかのように、恐々と秘部に舌を這わせる。羽毛のように掠める程度に、探るよう触れるその感触に、ポップはくすぐったさを覚えた。こちらの様子を窺いながら、次第に滑らかな動きを見せ始める。
ダイは文句一つ言わず、入り口付近の皺を丁寧に舐め、秘部に刺激を与えてゆく。その甲斐あって、硬く閉ざされた場所は次第に解されていった。
舌先が綻びを掠める度に、ポップは身体を揺らし、反応した自身がビクビクと震える。
「ん……」
鼻にかかった声を小さく漏らし、ダイは舌の先を尖らせ、蕾の中へと侵入を試みる。
「ひっ……!」
ポップは思わず声をあげてしまった。瞬間、舌の触れる感覚が秘部から消失する。
「ポップ、平気? 辛いなら、やっぱり……」
「へ……きだっ。続けろ……」
「……うん、じゃあ……するね」
再び、ダイの舌が埋め込まれる。先ほど以上の慎重さをみせるゆっくりとした動きは、ポップをさらに感じさせる結果となってしまい、ポップの精神を苛んだ。
痛みはないが、所々にむず痒さを伴う時がある。多分ダイの力によって癒された傷跡なのだろう。完全には癒えていないものの、薄皮一枚分くらいは治癒されてはいるようだ。
ダイのものを受け入れた時、傷つく事は十分理解していた。けれども、もう後戻りは出来ない。
(ダイの為にも、おれの為にも……)
思考の海に沈んでいたポップは、突如生温かなものが体内に流れ込んでくるのを感覚に、意識を浮上させた。ダイが口内で溜めた唾液を流し込んだのだろう。
ぬめり気を帯びた舌が内壁を這い、丁寧に内部を潤してゆく。今や、ポップの男根は硬く立ち上がり、先端から先走りの液が滲み始めていた。
「も、いいぞ……ダイ」
自身の変化を見てとり、震える声で制止をかけると、ダイは素直に従い身を離した。ポップは一度身を起こして、体勢を仰向けに変える。戸惑う相手を手招きした。
「んじゃ、森ン時みたく……入れてみろ」
「え………」
「十分濡れてるだろうし、今度は……大丈夫、だ」
安心するよう微笑んでみせても、ダイは中々行動に移さない。けれども、こちらを窺い見る視線、浮かんでいる表情は欲情したそれで。初めて目にする相手の中の雄に、ポップはゾクリとしたものを覚えた。
「けど……けど………」
「………せっかく、ここまでお膳立てしたってのに……ふいにすんのか? お前」
それでも動かないダイに業を煮やしたポップは、自分の片足を抱え上げるという、大胆な行動にでた。
「だ、ダイ……っ、見ろ、よ」
普段のポップでは考えられないような行動だった。
ダイの雄に煽られたのかもしれない。震える身体を叱咤して、両足を開き、相手の眼前に無防備な姿を晒す。そして、空いている手を、指では直接触れた事のない箇所へと伸ばした。
指先に外気で冷えた唾液が絡む。躊躇しそうになる気持ちを奮い立たせ、ポップは自ら、入口を広げてみせた。
「ダイ……い、入れ……はや、っ」
それ以上は声にならなかった。羞恥に耐え切れず、ポップは目を固く閉じる。ダイの視線がその箇所に集中している事が、手にとるように分かった。
「ポップ……なんか、濡れてて凄く………やらしいよ」
「っ! 言う、な……そんな……ぁ」
ダイがゆっくりと近づいてくる。
ポップが抱えている足に手をかけると、腿の内側に唇で軽く触れた。その労わりにも似た行為は切なくて、ポップの心を激しく揺さぶり、胸を痛いくらい締め付ける。
目を閉じると、衣擦れの音が耳を掠め、続いて熱いものが蕾に押し当てられる。足を抱えあげられ、ポップが薄く目を開くと、心配そうなダイの顔が間近にあった。
「ポップ……キス、していい?」
「……うん」
小さく頷き、ダイの首に腕を絡める。近づく唇に、自分から押し付けた。薄く開くと、相手の舌が口腔へするり、と滑り込んでくる。
互いを絡ませ、吐息を分かち合い、どちらともなく求め合った。不快感はない。
自分の中の、答えが見えた気がした。
■■■
ダイのものが内部へと埋め込まれる。さんざん慣らされた箇所は前よりも容易に相手を受け入れるものの、擦られる事によって、傷口が再び開き、ポップに痛みを訴えた。
「ふうっ……く、あ、あ……ッ」
「ポップ……っ、ポップ! 大丈夫!?」
内部のキツさに顔を歪めたダイの声に、ポップは頷く事しか出来なかった。痛みで声を上げる事が出来ない。
ゆっくりと、時間をかけた挿入は、それでもポップに多大な負担を与える事となった。ダイの方もそれが分かっているようで、全てを収め終えた後も、すぐには動く事無く、ポップが落ち着くのを心配そうに待っている。
ゆっくりと深呼吸を繰り返し、ポップは小さく笑って頷いた。
「も……いい、ぜ」
「……ほ、本当に平気? 痛くない? お、おれ……今なら、抜け……」
「今さら、だろ? ちゃんと……おれでっ、イって……みろ、よ」
ダイが息を飲んだ。身長差で口付けはおろか、抱きしめる事も難しい現実に、ポップは歯噛みする。少し思案して、指先をダイの口元へと伸ばした。どうしたいのか分からない相手の唇を指先で擽るように撫でると、舌が触れてくる。
ダイはポップの指を咥え、先ほど蕾に施したのと同じよう、丁寧に舐める。ポップの指は、唾液にまみれてしまった。
濡れた事により、妖しく光る自分の手を満足そうに眺め、ポップはそれを自分の口に含む。
「ポップ?」
「きふの……キスの代わり」
小さく笑ったダイが徐に動き始めた。じりじりと内部から相手のものが抜けてゆく。ポップは指を舐める事をやめ、ゆっくりと息を吐き出しすと、全身に込めていた力を抜いた。カリが入口にひっかかると同時に、今度は押し込まれる感覚がポップを襲う。
「く……ううっ……!」
焼け付くような痛みが体に走る。ポップは小さく呻いた。ダイは驚くほどゆっくりと動いている。その顔に、余裕はない。激しく突き上げたい衝動にかられながらも、こちらの身を案じて、無理をしないよう自分にブレーキをかけているようであった。
ポップは腕をのろのろと動かして、自分の男根を握り込んだ。痛みに萎えてしまったそれを、一人でする時と同じように、柔らかく上下に擦り上げる。自身に快楽を与える事で、痛みを紛らわせようとしたのだ。
刺激を受けた男根は、すぐに形を変え始める。先端の割れ目を親指で押すように撫でると、ぬるぬるとしたものが滲み出し、その液を側面に塗りつけた。
やがて、ポップの内部が変化し、痛みの中に快感が生じる。今まで異物を排除しようとしていた肉壁が、自らダイのものを求め始めたのだ。
「あ……ポップ、なんか……くっ」
その変化に、ダイは戸惑いの色を露にする。けれども、その理由を説明してやれるほどの余裕を、ポップは持ち合わせてはいなかった。
ダイの動きが、次第に早くなる。終わりを感じたポップもまた、自身を扱く手の動きを早めた。小刻みに震えるそれは、最後の刺激を狂おしいほど求めている。
足を掴むダイの腕の力が増した。鋭い呼気と共に一際深く突き上げられたポップは、声を上げながら自身を解き放った。連動するように、ダイをきつく締め上げ、解放を促す。
その強い快楽に初心者であるダイが耐え切れるはずもなく、大きく成長したダイのものが、弾けるように爆発した。
「ひァ! あつッ……ンンっ、ぁ………」
内部に熱の塊が叩きつける。意識を失う寸前、ダイの一際高い声が、洞窟内に大きく響き渡ったような気がした。
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