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NOVEL

Un tournesol 〜深まる欲情?愛情?友情?〜
01

注意) 女装H/焦らし/言葉攻め/淫語/羞恥プレイ

 つけっ放しのテレビには、女優と男優の濃厚なラブシーンが延々と演じられていた。
 流石に洋画だけあって、邦画ではなかなか有り得ないような際どい女優の裸が画面に映し出され、男優の手や唇がいやらしくその肌の上を這い回っていた。
 字幕には女優や男優が話す艶めいた台詞が白く浮き上がっていたが、それを見るまでもなく英語で語られるその睦言は赤面するには十分な淫靡さが含まれている。
 それを聞くともなしに聞き、眺めながら、俺は小さく溜息を吐く。

「……あのさ、DVD観ねぇの?」

 思わず蒼衣にそう尋ねる。
 だが、すぐには返答はなかった。
 チラリと視線を下に向けて蒼衣を見る。
 今、何故か蒼衣は俺の股間に顔を埋めていて。
 というよりも、俺がまるで膝枕しているように蒼衣は俺の胡坐を掻いている膝の上に頭を乗せ、顔を俺の股間の方に向けていた。そして、チノパンの上からぎゅううっと俺の腰に抱きつき、時折、酷く切なそうな溜息を吐いていて。
 そんな蒼衣の変な態度に、俺は呆れと心配の入り混じった声でもう一度言葉をかける。

「蒼衣?」
「……ん、うん、観るけど……、その……あの……。」

 俺の再度の呼びかけに蒼衣は漸く、顔を俺の股間から挙げ、俺を上目使いに見た。
 その顔があの日見た蒼衣の顔とダブり、俺の心臓がドキリと強く脈打つ。
 蒼衣はピンク色に薄く頬を染め、俺をチラチラと見上げる瞳はトロンと酷く熱っぽく溶けている。何かを言いたそうに薄く開き、切なそうに吐息を漏らす唇は、男の癖に妙に艶めいていた。
 それを見て、俺は漸く蒼衣がどうした訳か、欲情している事に気がつく。
 そして蒼衣が俺に対して何が言いたいのか、少し解ったような気がした。
 だからさっきから俺の腰にしがみついていたのか、などと妙に冷静に蒼衣の行動を分析してみる。
 だが、何故突然こんな風に蒼衣の中にそんな欲求が住み着いたのかが解らない。
 まさかとは思うが、今テレビ画面の中で繰り広げられているラブシーンのせいなんだろうか。
 もしそうなら、恋愛映画のラブシーンに充てられて、なんて、案外蒼衣も簡単な奴なんだな、とも思う。
 だが、蒼衣の欲情の原因などはこの際関係ない。
 それよりも重要な事は、今現在、蒼衣が俺に対してそういう欲望を抱き、俺を潤んだ瞳で見上げている事だ。
 幾らそんな欲情に潤んだ瞳で見られても、頬を染められても、蒼衣の欲求に俺は応えられない。大体、俺としてはそんなつもりで、今日、蒼衣の所に泊まりに来た訳ではなかったし、そもそもあの日のあれが最初で最後だと互いの間で暗黙の了解があった筈だ。
 事実、あの日以降、何度かこうして蒼衣の家に泊まったとしても、蒼衣と関係を持つことはしなかったし、もちろん、蒼衣もあの日以来、俺に迫ることもなくて。
 そもそも、俺は蒼衣の事は新しく出来た男友達の一人としか見ていない。
 それは蒼衣も同じ筈だ。
 そりゃ、蒼衣自身が本当の所、俺の事をどう思っているのかは、今まで敢えて聞いたことがないから俺には解らない。
 ただ俺達の“友達”ってー関係は蒼衣が言い出した事だ。それを踏まえたとしても、蒼衣が俺の事を友達と思ってないとは思えない。
 ――それなのに。
 それなのに、だ。
 何故、今、あの日から一ヵ月半が経過した、今。
 蒼衣が上気した顔で、俺の腰に抱きつきながら、俺の顔を物欲しそうな顔をして、切なそうな瞳をして見上げているのか。
 ……確かに、あの日。
 夏休みに入る少し前。
 賑やかな表通りを一本奥に入った人気のない裏道で。
 妙にガラの悪い奴らに絡まれていたのを助けた縁で、初めて蒼衣と話をし、そして、成り行きでそのまま蒼衣の部屋に泊まった日――。
 その夜にあった出来事は俺にとっては決して忘れられるものではない。
 それは俺にとって、今までの人生観全てが崩れ落ち、新しい世界を知った日。
 あれは、十九年の人生において初めての衝撃と興奮だった。
 その時の事を思い出すと、あの日から一ヶ月以上経った今でも体中の血が滾り、どうしようもない興奮を覚える。
 だが、だからといって、『友達』になった相手に、いや、友達になろうと意識して友達になった相手だからこそ、あの日以降、手を出そうとは思わなかったし、出せない。
 ――出す訳にはいかない。
 だいたい蒼衣だって、あの日以降、俺に対してはあの日にあった事など嘘だったかのように、普通に振舞い、あの日見せたもう一つの顔を見せる事はなかった。
 だからこそ蒼衣の事は、今となっては本当に良い友達だと思っている。
 意外に話せば話も合うし、買い物に行ってもなかなかに楽しい。
 作る飯は上手いし、淹れるコーヒーは至福だ。
 それになにより、蒼衣の家は妙に居心地がいい。
 いつ来ても部屋は綺麗に整頓、掃除されているし、心なしか良い香りが漂っている。
 しかも狭い部屋にも関わらず、俺達が習っている専門分野に関する本なんかは綺麗に本棚に納められているし、その蔵書量にも目を見張るものがある。
 よくあんなかさばる資料やら、参考書やらをこうも綺麗に整頓して並べられるものだと毎度訪れるたびに感心してしまう。
 そして、参考書だけでなく普通の雑誌や漫画なんかもそこそこ蒼衣の部屋には置いてあり、退屈する事はない。
 まぁ、ただ押入れの一角に隠すように置いてあるタンス代わりの収納ボックスの中には、蒼衣の趣味である女物の服と下着がぎっちりと入ってはいるが……。
 その事を気にしなければ、いたって普通の大学生の部屋で。しかも居心地が良いとなれば、ちょくちょく訪れたくもなる。
 だが、それはあくまでも普通の男友達の家に遊びに来た、というだけだ。
 決して蒼衣にエロい事を期待していたわけでも、蒼衣と不埒な行為に耽ろうなどという下心はない。
 それなのに。
 相変わらず蒼衣は俺の股間と俺の顔を切なそうに何度も見比べ、もじもじと言い難そうに口を動かしていた。
 その蒼衣をもう一度チラリと見下ろし、俺は深く溜息を吐く。

「……あのさ、俺達って友達だよな?」

 蒼衣の今感じている欲求に釘を刺すつもりでその単語を口にする。
 すると蒼衣はきゅっと唇を噛むと、コクリと小さく頷いた。だが、俺の体からは離れない。
 寧ろ、更に強く俺の腰にしがみつきその顔を俺の股間に押し付けてくる。
 その事に俺はこれ見よがしにもう一度深く溜息を吐いて見せた。

「だったら、いい加減離れろよ、蒼衣。」

 俺の腰にしがみつき、ささやかな抵抗をするかのように顔をそこに押し付けている蒼衣の腕を掴むと、それを無理矢理外しながら俺はそう蒼衣に更に追い討ちをかける。
 蒼衣はそれで漸く諦めがついたのか、俺の腰に回していた腕の力を緩め、股間に埋めていた顔もゆっくりと挙げる。
 そして、俯いたまま俺の前にひょろりと高い体を、猫背気味にしてちんまりと座った。
 蒼衣が俺から離れた事にホッと息を吐き、項垂れている蒼衣の頭をポンポンと軽く撫でる。

「にしても、一体どーしたんだよ? 映画のラブシーンにでも当てられたのか? ま、確かに濃厚ではあるけどよー。」

 キシシ……とわざとおどけた感じに歯を見せて笑い、蒼衣にそう尋ねてみた。
 俺の言葉に蒼衣は、俯いているまま小さく頭を横に振ってそれを否定する。その事に俺は、おや?
と思う。
 ラブシーンに触発されてその気になったのかと思っていたが、どうやら違ったらしい。
 じゃあ、なんで。
 そんな疑問が頭に浮かぶ。
 しかし俺がその疑問を口にする前に、蒼衣は顔を挙げて口を開いた。

「あ、あの……、怒らない?」

 そしてそんな事を言い出す。
 一体何に対して、俺が怒ると言うのだろう?
 俺が怪訝な顔をして蒼衣を見ると、蒼衣は困ったように眉を下げて眼鏡の向こう側から俺を熱く潤んだ目で見つめていた。
 明らかに先程よりも欲情していると解るその目に、ゾクッとした感覚が下半身から起こり、背筋を上がってくる。

「な、何でだよ……?」

 思わず、上ずった声が漏れた。
 俺のその声に蒼衣は一度困ったようにゆっくりと瞳を左右に泳がせたが、すぐに俯き、表情が見えなくなる。

「蒼衣?」
「……あのさ、僕、変なんだ……。」

 俺がそう蒼衣の名を呼ぶと、蒼衣は俯いたままそう言い始めた。
 その声が妙に沈んだ暗いもので、俺は余程蒼衣の身に何か異変が起きたのかと構える。

「僕、今までこんな事なくて……、でもどうしようもなくて……。直輝くんに今みたいに怒られるの、解ってるんだけど……、もう、どうしていいか……解らなくて……。胸が苦しくて……、切なくて、辛くて……っ。」
「な、なんだ? 一体どうしたんだ? な、なんか変なモンでも食ったのか?」

 我ながらアホな質問をしていると思う。
 だが、蒼衣の妙に落ち込んだ、神妙な、それでいてどこか切羽詰ったような声に尋常ではないものを感じ慌てる。
 そして俯いている蒼衣の肩に手を置き、その顔を覗き込もうとした。
 だが蒼衣はふるふると頭を振ると、俺の視線から逃げるように顔を横へ向ける。
 しかし横を向いても蒼衣の口から漏れる早い呼吸が、俺の不安を煽り、俺は更に蒼衣が向いた方向へ体をずらし蒼衣の表情を伺おうとした。

「おい、どうしたんだよ、蒼衣? 大丈夫か?」
「……も、ダメ、かも……。」
「え? あ、おいっ、蒼衣っ!? 蒼衣?!」

 無理矢理蒼衣の顔を覗きこもうとしながら蒼衣に声をかけ続ける。
 すると、蒼衣は俺の方へ倒れこんできた。そのまま蒼衣はさっきと同じようにぎゅっと俺の体に手を回し、今度は股間ではなく俺の胸に顔を埋める。
 その蒼衣の行動に俺は、驚き、慌てた。
 余程具合が悪いのかと、俺は蒼衣の体を抱きとめ、思わず無意識のうちに蒼衣の華奢な体を抱きしめ返す。

「……直輝、くん……。」
「どうした? 大丈夫か? 蒼衣、蒼衣?」

 どこか苦しそうな響きと吐息を伴って蒼衣が俺の名を呼んだ。
 それに答えながら、俺は妙に体温の高い蒼衣の体に心臓が高鳴る。
 まさか熱があるんじゃないか、とか、だから瞳が潤んでたのか、とか、だったら誤解をして悪かったな、とか、ていうか、そんな体調の悪い時に押しかけて悪い事をした、とかとかとか、そんな事を思いながら、蒼衣の体を擦る。
 だが蒼衣の唇から零れる早い息は収まるどころか、尚早くなったような気がした。
 その呼吸に不安を煽られ、蒼衣の名を呼び続ける。

「あ、あの……、怒らない……?」

 すると、ぎゅうっと抱きついてくる蒼衣がまた先程と同じような質問を、切羽詰った声でしてきた。
 先程された時も、何に? と思ったが、だが、今度はそんな事を聞いている場合ではないと思う。蒼衣の体は小さく震え続け、俺に抱きついてくる腕の力がゆっくりと抜けていくのを感じたからだ。

「あ、あぁ、怒らない。怒らないから、言えよ。どうしたんだ?」
「……い……て。」
「え?」

 蒼衣の体を抱き返しながら、俺が頷くと、蒼衣は小さく安堵の溜息を吐いた後、小さな声で何かを呟いた。
 どんな事を呟いたのか良く聞こえなくて、思わず聞き返す。
 すると、蒼衣は俺の胸に埋めていた顔を漸く挙げた。
 その顔を見て、俺はぎょっとする。
 蒼衣は、頬をピンクに染め、眼鏡の奥にある瞳は先程よりも更に潤みを増し、半分開かれた唇からは熱い吐息と共に赤い舌がチロチロと誘うように蠢いていた。
 明らかに尋常ではないその様子に、俺は戸惑い、蒼衣の体に回していた手の所在に今更ながらに困る。
 だが、蒼衣の零す熱い吐息と熱い体温に、結局はその手を離す事は出来ず、仕方なくそのまま蒼衣の体を抱きしめ続けた。

「……直輝くん……。」

 そっと蒼衣が囁くように俺の名を呼ぶ。
 その声にはっとして、改めて蒼衣の顔を見下ろす。
 縋りつくような色が浮かぶ瞳と、俺のシャツを握り締めている蒼衣の手の感触に俺は背中に嫌な汗が流れるのを感じた。

「な、なんだよ……?」

 戸惑いがそのまま声に現れ、情けない事に声が震える。
 そんな俺に蒼衣はうっすらと消えそうな笑みで笑うと、もう一度俺の体に強く抱きついてきた。

「……蒼衣?」
「僕、きっと可笑しくなっちゃったんだ……。」
「え……?」

 抱きついてきた蒼衣の体を戸惑いがちに抱きしめ返しながら、蒼衣に問いかける。
 すると蒼衣は、俺の胸板に額を擦りつけ、なんとも言えない溜息を吐いた。

「僕ね、直輝くんとこうして二人っきりで居ると、可笑しくなるんだ……。今まで、こんな風になったこと、誰と居てもなかったのに……。」
「蒼衣……。」

 ゆっくりと溜息と共に語られる蒼衣の言葉に、俺はただ、戸惑いながらその名を呼ぶ事しか出来ない。蒼衣が一体何が言いたいのか、俺と居るとどう変になるのか、俺には想像もつかなかったから。
 すると蒼衣は俺の戸惑いに気がついたかのように、その背中に回っている俺の腕を手に取ると、体を起こした。そのまま、蒼衣は俺の手を自分の胸に押し当てる。
 まだ夏の暑さの厳しいこの季節。
 蒼衣の着ている薄いシャツを通して俺の手のひらに、蒼衣の驚く程早い鼓動が伝わる。早鐘のように脈打つそれに、俺は驚き、改めて蒼衣の顔を見た。
 蒼衣はどこか恥ずかしそうに頬を染め、俺の視線から逃げるように顔を下に向ける。

「……僕、本当に、可笑しいんだ。直輝くんと居ると、あの日からずっと、こんな風に胸が高鳴って、苦しくなって、体が熱くなって……。」
「…………。」
「直輝くんの事、僕、ちゃんと友達だって、思ってる。……思ってるのに……っ。」

 蒼衣が喋るたび、蒼衣の心臓はそれに呼応するかのように強く、早く俺の手のひらにその緊張も高鳴りも伝えてきた。
 その緊張と蒼衣の言葉に俺は口を挟めず、ただ固唾を呑んで蒼衣の話を聞くしか出来ない。
 ただ、その話の終着点がなんなのか。ひょっとしたら、と言う予測が頭の中を横切り、否応なく俺の心臓まで高鳴り、緊張してくる。

「直輝くん……僕……あの……。」
「……。」

 確信に話が近づいているのを悟り、俺はゴクリと生唾を飲んで、蒼衣の次の言葉を待つ。

「……僕、直輝くんと、え、エッチ……、したい……。あの日みたいに……。……ねぇ、僕とスルの、やっぱり、嫌、かな……?」
「!」

 俺の想像とは少し違った蒼衣の告白だったが、それでもその内容は俺の心に多大なるインパクトを与えた。
 ズクンッ、と心臓と下半身が痛いほど脈打ち、更に高鳴る。
 蒼衣は恥ずかしさと、恐らく欲情で赤く染めた顔と潤んだ瞳で俺の返事を待っているようだった。
 ここまで言われて、“友達”なんて言葉を使ってまで蒼衣を遠ざけようとするのは男として罪なのだろうか?
 体の求める熱い欲求とは裏腹に、俺の頭はそんな事を思う。
 だってそうだろう?
 俺と蒼衣は、一度体を繋げた事があるっていっても、あくまで“友達”だ。
 その友達とまた体を繋げるという事がどういう事になるか。馬鹿な俺にだって解る。――恐らく今までのように、ごく普通に付き合う事なんて出来なくなる。
 こいつとの友達関係を壊したいのか? そうでないなら、今、こいつの欲求を突っぱねるべきだ。そう、俺の頭は答えを出している。
 それでも目の前で、昂ぶる感情と、欲情に潤んでいる瞳で俺を見つめる蒼衣を無下に遠ざける事なんて俺には出来そうもなかった。

「……蒼衣。お前、自分が何言ってるか、解ってんのか?」

 蒼衣の持つ艶っぽい雰囲気にゴクリと生唾を飲み込むと、それでもそう、蒼衣に確認を取る。
 ……なんて俺は卑怯な男なんだろう。
 こんな事を確認しなくとも、恐らく蒼衣の心は決まっている。だって、あの日からずっと……、そう、蒼衣は言った。
 それはつまり、あの日以降俺と会う度に蒼衣は俺に対する欲情を感じ、それに戸惑い、蒼衣の性格上、ずっとどうするべきか悩み続けたのだろう。
 それでも結局、こうして俺にその胸の内を吐露する、ってー事は、蒼衣の中で一つの答えが出たって事だ。そしてそれ以上に、切羽詰った体の変化があったのだろう。
 それが、俺との友人関係をぶち壊すものだとしても。
 俺の問いかけに、蒼衣はきゅっと唇を噛んだ。
 その辛そうな表情一つとっても、今俺が考えた憶測はあながち間違っていない事が解る。
 どれだけ蒼衣が思い悩んだか、思いつめたか。
 戸惑ったような、苦しそうな蒼衣の表情が全てを物語っていた。
 そうして暫くの間、蒼衣は視線を落ち着かなく彷徨わせ、俺の質問にどう答えようか迷っているようだった。
 だが、漸く決心がいったのか、彷徨わせていた視線を俺に戻すと、一度ゴクリと生唾を飲み込んでから口を開く。

「――あの、普通の友達になって、って自分から、言っておいて、今更こんな事言うの、自分でも馬鹿じゃないかって思うんだけど……。でも、もし、直輝くんが良いなら、僕、あの……、せ、セックス、フレンド、でも、構わない……から……。うぅんっ、寧ろ、ダッチワイフとか便所って扱いで構わないっ。それに、直輝くんが動くの面倒くさいなら、その、僕が勝手に、その、なっ、直輝くんの、上に、の、乗るし、口で、あの、奉仕……してもいいから……、だから……っ。」

 早口で零された蒼衣の言葉に、いや、その中に含まれていた不穏な単語の数々に、俺は尋常ではない怒りが腹の中に溜まっていく。
 セックスフレンド?
 ダッチワイフ?
 便所?
 口で奉仕?
 はぁ?! なんだ、それ。
 ふざけんなっっっっ!!!!
 そんな言葉が怒りと共に、ぐるぐると頭の中を回る。
 切羽詰った顔でそんな言葉を吐いた蒼衣を怒りのまま俺は睨み付けた。

「……てめぇ、自分が何言ってんのか解ってんのか? あ?」
「なお、輝、くん……?」

 その俺の目と表情と、そしてドスの利いた低い声で再度問いかけた俺に蒼衣は、どれだけ自分がくだらない言葉を吐いたのか気がついたようだった。ハッとした表情をした後、泣きそうな顔で俯いた。
 俯いてしまった蒼衣に、俺の中で何かが切れる、ぶちっ、という音が俺の中に木霊する。
 その感情のままに蒼衣の顎に手をかけると、俺は無理矢理上に顔を向けさせた。

「蒼衣、テメェがどんだけ切羽詰ってんだが、知んねぇが、つまんねぇ事言ってんじゃねぇよ。ヤりたいならヤりたいでそりゃ別に構わねぇ。それに俺も一度はお前を抱いたんだ。求められて悪い気はしねぇ。だが、自分から便所だ、ダッチワイフだってー扱い望むってー事は、俺がてめぇをどんな風に扱っても良いって事になんだぞ? お前をそんな体にしたあの施設の奴らと同じようにしても良いって事だぞ? ……それ解って言ってんだろうな? あぁ?」

 蒼衣の怯えた瞳を覗き込みながら、酷く荒々しく乱暴な気持ちのままそう俺は脅し文句を口にする。
 それがどんな感情に基づいて言った物か、自分でも良く解らない。だが、俺は蒼衣の言葉に酷く腹を立て、妙に残虐な気持ちで居た事だけは確かだった。

「……っ、わ、解ってる……よ……。自分が何、言ってるのかくらい……っ。で、でもっ、どうしようもないんだ……! 直輝くんと居ると、自分が自分じゃなくなるくらい、体が疼いて……っ、後ろが疼いて……っ! 直輝くんのアレを舐めたくて、突っ込んで欲しくて……滅茶苦茶に、して欲しくて……ぅ、自分が可笑しいって事くらい、解ってるよ……。直輝くんは、あの人達とは違うって事だって……っ!! だけど、このままじゃ……僕……、僕……、直輝くんと、エッ、エッチしたくて、したくて、気が狂っちゃう……っ。」

 俺の言葉に蒼衣はもう一度きゅっと唇を噛んだ後に、その顎を掴んでいた俺の手を払う。そして、そのまま自分の体を両腕で掻き抱くと、ふるふると頭を振りながらほとんど叫ぶように己の体に感じている欲求をそのまま口にした。
 その蒼衣の鬼気迫るような姿に、叫びに、俺は自分の中にある何かが妙にざわつき、開けてはいけない扉が蒼衣の言葉でゆっくりと開いて行くのを感じる。
 それは、酷く危険なモノだった。
 蒼衣の叫びは、俺の中にあるなにか凶暴な獣を目覚めさせたのかもしれない。
 目の前で長い髪を乱して、体に湧き上がる欲求を耐え忍んでいるような蒼衣の姿に、俺は体内にやたら熱い杭を打たれ沸騰するような感覚を覚えながら、頭はやけに冷え冷えと冷酷なまでに醒めていくのを感じた。

「――そんなに、俺とシたいのか?」

 俺の意思とは関係なくそう俺の唇が動き、蒼衣に尋ねる。
 すると蒼衣は自身の体を抱きしめたまま涙で潤む瞳を俺に向けると、コクコクと何度も頷いた。
 俺の唇が嫌な形に歪むのを感じる。

「なら、俺の言う事、何でも聞けよ。な、蒼衣。」

 喉が低く震え、嫌な声で俺は嗤う。
 そのまま蒼衣の答えを待たず、なぜか小さく震えている蒼衣の唇に己の唇を重ね、深くその唇を貪る。
 蒼衣の唇は、酷く甘くて、そして苦かった。




「直輝くん……、こ、これで、いい……?」

 そう消え入りそうな声で言いながら、蒼衣が羞恥で上気した目を、俺に向けている。
 その体は同じく羞恥心で小刻みに震え、俺に曝け出しているその部分もぴくぴくと震えていた。

「い〜い眺めだなぁ、蒼衣。」

 くつくつと喉を震わせて笑いながら、俺はベッドに腰掛けた姿勢で、蒼衣の姿を舐めるように見る。
 そんな俺に、蒼衣は更に恥ずかしさで肩を震わせ、潤んでいる瞳を伏せた。あの後、眼鏡からコンタクトに代えさせたせいで、はっきりと解る長い睫が瞳を彩り、その表情に淫靡な影を落とす。

「な、直輝……くん、も、もう、いい? こ、こんな格好、は、恥ずかしいっ……よぉ……っ。」
「はっ、女装が趣味の奴が何言ってんだ。それに恥ずかしがってる割には、女モンのソレからはみ出てるお前のモノ、えらくでっかくなってねぇか? それに、先端からは涎も垂れまくりだし。」
「……っ、う……っ。」

 俺の言葉に、蒼衣は恥ずかしさからか完全に下を向いてしまった。
 だが、下を向けば嫌でも己がどんな恥ずかしい格好であの部分を俺に向けて自分の手でどういう風に曝け出しているのかがはっきりと解る。
 いくら俺とシたいからといって、まさかこんな格好でこんな事を命令されるとは夢にも思っていなかったのだろう。
 だが、それでも蒼衣は俺の命令を素直に聞き、俺の命令を今のところ全て受け入れていた。
 そう、蒼衣は今、俺の命令で女装をしている。
 どこの学校のモノかは知らないが、濃紺のセーラー服を身につけ、長く伸ばしている髪はツインテールにアップされている。顔には薄化粧。
 相変わらず蒼衣は女装をすると人が違って見える。
 元々切れ長で睫の多い瞳はしっかりとマスカラで強調され、薄く形のいい唇には淡いローズピンクの口紅を引き、リップグロスでたっぷりの潤いと艶を加えていた。
 俺の命令とはいえ、完璧に女装をした上で、恥ずかしさを堪えてこうして俺の前で制服のスカートを捲り上げている。
 ――そう俺が蒼衣にしたもう一つの命令。
 それは自分自身の手でそのスカートを大きく捲り挙げ、俺にその中身を晒す事、だった。
 そんな羞恥心を最大限に煽るような命令に、それでも蒼衣は激しく恥ずかしそうに身を縮めながらも俺の目の前にその中身を晒している。
 しかも、恥ずかしいのはスカートを捲り上げている事だけではない。
 捲り上げているスカートの下には、当然のように白の女物のショーツ。
 そこからはもうすっかり立派に成長した蒼衣の欲望がにょっきりと顔を出していて。やけに扇情的で、倒錯した光景がそこにはあった。
 そのせいか、蒼衣は一度は下に向けた顔を今度は、横に向け、ぎゅっと瞳を閉じる。
 そんな蒼衣に小さく溜息を吐くと、俺はベッドから立ち上がる。そして、蒼衣のまん前に立ち、音を立てないようにチノパンのジッパーを降ろす。

「目、閉じんな。こっちを見ろよ。蒼衣。」

 自分の格好を見ようともしない蒼衣に、俺は更に残酷な言葉を投げかける。その俺の言葉に、蒼衣はビクッと体を震わせると、嫌々ながらも俺の声がする方に顔の向きを変え、そろそろと瞳を開けた。
 だが、すぐに目の前に突き出されているモノに気がつくと、カァッと顔を赤くし、俺からまた視線を外そうとする。

「視線外すなって言ってんだろ。見ろよ、ほら。お前が欲しがってたモンだぜ?」

 横を向きそうになる蒼衣の顔を手で掴むと、無理矢理こちらを向かす。
 そしてその目前に、尚更見せびらかすように俺のモノを突き出してやる。
 顔を俺に固定されたせいで、蒼衣は顔を背けることが出来なくなり、否応なくギンギンに張り詰めた俺のソレに蒼衣の視線が吸い付き、絡まり、止まった。

「これ、好きなんだろ? さぁ、どうしたいんだ? 言えよ、蒼衣。どうしたいのかをさ。」

 俺のモノを食い入るように見つめている蒼衣の前髪を掴むと、その頬に先端を押し付けながら俺は囁くように蒼衣に答えを求める。
 そんな俺の言葉と、モノの存在に蒼衣は震える唇を動かして、熱い吐息を吐きながら欲求を口にし始めた。

「……っ、ぅ、しゃ、しゃぶ、らせて、……ください……っ。」
「へー、しゃぶるだけでいいのか?」
「っ……、い、挿れ……て、欲しい、です……っ。」
「どこにだ?」
「ぅ……っ。」

 恐らく自分でもどうにも出来ないほどの熱情と、羞恥心で焦がれているのだろう。蒼衣は、今にも涙が零れそうなくらい瞳に潤みを湛え、小さな声で俺の言葉に答えていく。
 それでも最後の質問には羞恥心が答えるのを躊躇わせたのか、蒼衣は口ごもった。

「ほら、言えよ。どこに挿れて欲しいんだ、蒼衣。言わねーと、これ、しゃぶれねぇし、お前のして欲しい事シてやれねぇぞ。」

 我ながらどこまで意地悪なんだ、と思う。
 だが、蒼衣には男をそういう風にさせてしまう何かがあるのだと思う。おどおどとした態度や、その癖妙な所で積極的で、淫乱な体してて、俺の言う事に素直に従うような大人しさが、俺の中にあるサド心を酷く掻き立てる。
 というか、恐らく蒼衣が、マゾなんだろう。
 俺に元々趣味とは言えこの状況に女装姿を強いられ、言葉で苛められ、責められ、挙句、卑猥な言葉を口にする事を強要されているというのに、蒼衣のイチモツは相変わらず蒼衣が自分の手で捲っているスカートの下で、小さな女物の下着から頭を出すほど勃起している。
 マゾ気質でなけりゃ、こんな風にはならないだろう。寧ろ、こんな羞恥を催す格好を強要され、言葉で露骨に責められ、嬲られたら萎える筈だ。
 それなのに、蒼衣のモノは一向に萎える素振りも見せず、それどころか俺に卑猥な言葉をかけられそれを強要される度に、ピクピクと下着の中で快感に震えるように跳ねている。
 だからこそ、余計に俺も俺の中にあるサディズムをくすぐられ、蒼衣に意地悪な言葉と行動を取ってしまう。
 俺の意地悪な言葉に蒼衣は、戸惑うように瞳を揺らせる。
 それでも、その瞳の奥に轟々と燃えている欲情の炎が、俺の言葉に従うのだと、そう俺に伝えていた。

「……っ、後ろ……、後ろの穴、に、挿れて……欲し……っ。」

 少しの戸惑いの後、蒼衣はそう俺に告げた。
 その言葉に俺はニヤリと口角を吊り上げる。
 だが、これだけではダメだ。これだけでは正解ではない。
 俺はそんな加虐的な気分と優越感に浸りながら、ゆっくりと口を開いた。

「後ろの穴ってなんだ? 蒼衣、はっきり言えよ。」
「っ!」

 蒼衣が息を呑む。
 俺の余りに意地の悪い言葉に、蒼衣の瞳にみるみるうちに涙が盛り上がってきた。わなわなと恥ずかしさからか唇を震わせ、羞恥で肌を赤く染め上げる。
 そんな蒼衣を上から舐めるように見下ろしながら、俺は蒼衣を征服し思う様に動かしている快感に酔いしれた。
 蒼衣は、そんな俺の感情が解っているのか、解っていないのか。真っ赤にした顔で俺を見ながら、パクパクと口を動かす。声にならない声が、蒼衣がその単語を口にする事を酷く躊躇っているという事を物語っていた。

「蒼衣?」

 猫なで声のように気持ちの悪い優しい声で、蒼衣の名を呼ぶ。
 その声に蒼衣の体がふるりと震え、涙が並々と溜まっている瞳が伏せられた。途端にぽろりと、溜まっていた透明な雫が零れ落ち、その頬を塗らす。

「……っ、ぅ、お、お尻の、穴に……、アナルに、挿れて、ください……っ。」

 ポロポロと涙を零しながら、蒼衣は今にも消え入りそうな小さな声で、そう俺に懇願した。
 涙を零す蒼衣を見ても、俺は何故か不思議と良心の痛みを覚えない。それどころか、ゾクゾクとした快感が背中を駆け上がり、もっと蒼衣を泣かせて苛めたくなってくる。

「何を挿れて欲しいんだ?」
「ぅ……っ……、な、直輝、くんの……、お、おチン、チン……っ。」

 今度は本当に少しだけの躊躇の後、蒼衣は、涙で塗れた瞳を持ち上げ、俺を見つめながらそう答えた。それはやけっぱちなのか、それとも、諦めからの言葉なのかは俺には判別はつかない。
 ただ、蒼衣はこれ以上ないくらい頬を上気させ、俺の意地悪な言葉にさえ感じているようだった。
 自分でも下衆な笑い方をしていると思いながらも、俺は唇に上るニヤニヤ笑いを止める事が出来ない。
 蒼衣が俺の言葉に感じ、息を上げる。
 その事が酷く俺の中の官能を誘い、俺自身も高ぶっていく。

「じょーできだ。じゃあ、ほら、蒼衣。ご褒美をやるよ。」
「な、お輝、くん……っ。」

 くすくすと笑い、蒼衣の頬に押し当てていた俺の肉棒を蒼衣の唇に押し当ててやる。その俺のモノの熱さにか、硬さにか、蒼衣は酷く上擦った声で俺の名を呼ぶと、一度だけ確認するようにチラリと俺を見た。
 それに俺は横柄に頷いてやる。
 すると蒼衣はゴクリと生唾を飲んだ後、恐る恐る唇を開き、俺のモノの先端を含んだ。途端に俺の腰に甘く重い痺れが走る。
 蒼衣の舌がチロチロと俺の先端を舐め、溢れ出ている先走りをその口の中へと舐め取っていく。そして、一呼吸置いた後、蒼衣はその口の中へと俺の全てを吸い込んだ。

「……んっ、ちゅる……っ、んむ……っ。」
「く……っ。」

 蒼衣がその口の中で俺を強く吸ったり、舌で亀頭から竿までを舐るように包み込むと、流石に腰からあがってくる快感が段違いに強くなり、俺は口の中で呻く。
 荒く息を吐き出しながら、蒼衣の頭に手を置き、少し力を込めそこに固定する。そして、ゆっくりと蒼衣の口に向けて腰を振った。
 俺が腰を引き、突き入れる度、蒼衣の頭が苦しそうに揺れる。だが、蒼衣は俺から口を離そうとはせず、それどころか更に俺に吸い付くと俺の動きに合わせて口と舌の動きを変え俺に強い快感を与えた。
 見下ろせば、蒼衣は恍惚とした表情で俺のモノをしゃぶっているのが解る。しかも律儀にスカートは捲り上げたままだ。
 その顔と、体に纏う女物のセーラー服姿、そしてその下に着けている女物の下着から完全に飛び出している蒼衣の男に、俺は酷く倒錯した快感を感じた。
 蒼衣の頭に置いていた手を今度はそのセーラー服のスカートへと伸ばす。短めのそれは、前側は蒼衣に寄って上へ上げられているが、後ろ側は蒼衣の尻と太ももを覆っている。それを、体を折り曲げて上部を指先で掴み、じりじりと持ち上げ、隠れていた腰から下を露出させていく。
 俺がスカートを捲っているのを感じ取った蒼衣は、少し嫌そうに腰をくねらせる。だが、そんな蒼衣の態度はますます俺の加虐心に火を点けた。
 じりじりと上げていたスカートを一気に捲り上げ、女物の小さなショーツに包まれている尻を外気に晒す。途端に蒼衣の手がスカートを元に戻そうと背中へと回り、スカートを取り戻そうと動かす。それを俺はもう一つの手で阻み、蒼衣の背中に固定すると、ゆっくりと腰を下へと落としていく。
 段々と蒼衣の顔が俺の腰の位置に合わせて下がっていき、俺が畳の上に座るころには蒼衣は俺のモノを咥えたまま腰を高く突き上げたポーズを取っていた。

「んっ、んんっ……っ!」

 そのポーズに蒼衣は嫌々と俺を咥えたまま首を横に振る。だが、その蒼衣の行動が本当の意味で嫌がってのものではない事ぐらい俺にはわかっていた。
 ただ少し恥ずかしくて、嫌がっているポーズをとって見せているだけだ。
 それならば、その恥ずかしさが吹き飛ぶくらい蒼衣を乱れさせればいい。
 ニヤリと口角を歪めて笑うと、捲り上げているスカートを蒼衣の腕を押さえつけている手の下辺りにあるウェストベルトに挟みこみ、簡単には戻せないようにする。
 そして体を折り曲げ、自由になった片手を俺の目の前に晒されている蒼衣の穿いているショーツへと伸ばす。
 ショーツから覗いて見える尻の割れ目に指先を当てると、蒼衣の体が驚いたようにビクリと揺れた。

「いい子だ。俺のモノから口を離すなよ。」
「……っん、……ふ?」

 俺の言葉に、蒼衣の口から疑問符が混じったくぐもった声が漏れる。
 その声を聞きながら俺は蒼衣のショーツの割れ目に触れていた指先をその淵に合わせてゆっくりと滑らせていく。すると、蒼衣の体がびくびくと小さく痙攣するように震えた。

「んっ……んむ……っ!」

 びっくりしたような、感じているような曖昧なくぐもった声を蒼衣は零す。
 それでも蒼衣は俺の言いつけ通り俺のモノから口は離さず、俺に刺激を与え続けた。その従順な態度に俺は気をよくすると、更に蒼衣の体に指だけの愛撫を加えていく。
 ショーツのラインに沿って走らせていた指先を、腰骨の辺りでショーツの中へ潜り込ます。それだけで蒼衣はまたびくびくと腰を揺らした。
 ショーツの中で今度は手のひらで撫でるように腰骨を触ると、ビクンッと蒼衣の腰が大きく跳ねる。
 それは快感と、そして、緊張からの反応だった。

「ひゃ……っ、んぐ……っ、はっ……む。」

 一瞬俺のモノから口を離し、小さな悲鳴を蒼衣は上げたがすぐにまた俺のチンコにむしゃぶりつくと丹念にソレに舌を這わす。
 蒼衣のその舌の動きに俺自身も腰を揺らしてしまう。

「っ、はぁ……っ、ぅ、蒼衣……、いいぞ、気持ち、イイ……っ。」

 荒く息を吐き、俺が蒼衣にそう伝えると、蒼衣の舌が更に熱っぽく俺の竿に絡み、先端をその喉で吸い付いてきた。
 チラリと視線を蒼衣の顔へと向ける。
 すると蒼衣も俺のほうへ視線を向けており、しっかりと視線が絡んだ。
 蒼衣の瞳は明らかに欲情で潤み、尺ってる頬は赤く染まり、すぼんでいてやたらにエロい。
 その蒼衣の顔にゴクリと生唾を飲み込むと、俺は蒼衣のショーツの中に突っ込んでいた手を更に広範囲に動かし、蒼衣の腰や臀部を撫で付け、揉みしだいた。
 俺の手が蒼衣の感じるところを撫で、揉む度に蒼衣の腰はいやらしくくねり、俺に吸い付いている蒼衣の口が少しだけ緩む。だが、すぐに熱く濃厚に蒼衣の舌が竿に絡むと、カリの部分へねちっこく刺激を与えてきた。
 その腰が溶けそうになるほどの快感を与える蒼衣の舌と口に、俺は喉の奥で唸り、獣じみた荒い息を漏らす。
 蒼衣もまた、俺のモノを咥えながら興奮しているのか、熱く荒い息が口から鼻から漏れていた。
 そんな蒼衣に俺は段々と余裕を失っていくのを感じる。
 だがここで湧き上がる欲望のままに蒼衣を犯してしまっては、楽しみが減ってしまう。
 俺は今にも腰を突き動かして蒼衣の口の中にぶちまけたい欲求を必死になって抑えると、蒼衣の尻を揉みしだいていた手をゆっくりとその割れ目へと侵入させる。

「んっ?! ん、ふぅっ……っ、ふぁ……っ!?」

 汗で湿ったその部分に指を這わせ、じりじりとその奥にある窄みへと近づけていく。その俺の動きを察したのか、それとも割れ目に指が這う感触にか、蒼衣が俺のモノを咥えたままで高い声で啼く。
 その声を心地よく聞きながら、俺は蒼衣のアナルの窄まりを探し当てると、そこに指を押し当てた。
 途端に、甲高い嬌声と共に蒼衣がとうとう俺のモノから口を離した。

「っ……ひぁ……んっ、んんんっ……はぁ……っ、やぁ……っ。」
「蒼衣、口離れてるぞ。」

 ニヤニヤと笑いながら蒼衣にそう言うと、蒼衣は俺の方を潤んだ瞳で見る。そして、小さくふるふると首を横へ振った。

「……っ、ぁ、なお、き、くん……っ、ダメっ、僕、そこ、触られたら、集中できない……っ。」

 甘く蕩けた声で俺の名を呼び、どれだけ後ろの穴が蒼衣にとって弱点なのかを蒼衣は自分自身で口にする。
 その言葉に俺はにやりと笑ってみせ、ぐっと穴に押し当てている指に力を込めた。指先が柔らかな蒼衣の体内に第一関節まで沈む。
 途端に蒼衣の腰が跳ね、甲高い嬌声がその喉から漏れる。

「やぁ……っあ、ひゃぁ……っ、ダメぇ……直っ、くん、そこ、だめぇ……っ!」

 はぁはぁと荒い息を零すと、蒼衣の高く突き上げていた腰が砕け落ちていく。そのせいで折角挿れた指が、ずるりと抜けてしまった。

「おいおい、蒼衣。これじゃぁ、楽しめねーだろ? 腰上げろよ。」

 体を横倒しにして、荒く息を吐いている蒼衣に酷な言葉を投げつける。
 すると蒼衣の顔が少し持ち上がり、その顔の目の前にある俺のモノへ唇を寄せてきた。

「なお、き、くん……僕、もう、我慢できないよ……っ。」

 そう熱っぽい声と瞳で俺に言うと、蒼衣はまた俺のモノを口に含んだ。そして、俺の命令通りに震える足に力を入れ、腰を持ち上げ始める。プルプルと震えながら腰を持ち上げると、蒼衣は俺の手がまたその尻に行く前に、蒼衣自身の手がそのショーツの中へ差し入れられた。
 その蒼衣の行動に俺が少なからず驚いていると、蒼衣は俺を溶けた瞳で見つめる。

「ん……っ、直、き、く……っ。」

 俺の名を小さく口にしながら、俺のモノをその唇で愛撫し、竿とカリの部分を舌でねちっこく舐める。
 そうしながら蒼衣は、するり、とショーツを俺の目の前で下げていった。程なくして、蒼衣の何も着けていない臀部が俺の目の前に晒される。

「蒼衣?」

 蒼衣の行動をいぶかしみ、蒼衣の名を口にすると、蒼衣は俺を見ている瞳を妖艶に笑みの形に細めた。
 そして、蒼衣の手が自身の尻に行き、ゆっくりとその割れ目へと指を沈ませていく。

「……ぁ、はぁ……っ、んっ、も、ここ、に、コレ、挿れて……、直輝、くん……っ。僕、もう、直輝くんが欲しくて……、我慢、できない……っ。」

 快楽で溶けた声を出して、蒼衣は自身の穴の中に指を沈めながら俺にそうおねだりをしてきた。
 蒼衣の思いも寄らない積極的な行動に、俺は下半身が激しく滾り、ズクズクと疼くのを感じる。
 口の中に溜まる生唾を連続して飲み込みながら俺は、まるで俺に見せ付けるかのように腰を高く持ち上げて自身の穴をその指で弄くり広げていく蒼衣の痴態に魅せられた。
 その上、蒼衣の唇は物欲しそうに俺の肉棒にしゃぶりつき、その赤い舌でまるで飴を舐めるかのように下から上へと大きく舐め続けている。
 それが堪らなく痺れるような快感を俺の腰に与え、脳裏には蒼衣の扇情的な姿が快感として刻み込まれていく。

「蒼衣……っ。」

 もう一度大きく生唾を飲み込むと、俺は、蒼衣の名を今度は熱っぽく呼び、蒼衣の体に抱きつくとその体を畳の上へと押し倒す。
 先程までの蒼衣に対して感じていた加虐心など、もうすでに俺の中からはすっ飛んでいた。ただただ、淫らに俺を求める蒼衣の要望に答えたくなり、畳の上に仰向けて転がった蒼衣の上へと圧し掛かっていく。
 獣じみた息を吐き出しながら、蒼衣のセーラー服のスカートの中へと手を突っ込む。
 そして、太ももまでずらされている蒼衣のショーツを一気に足首まで引き降ろし、片足だけに残してショーツを脱がす。
 そのまま蒼衣の足首を掴むと、ぐっと蒼衣の腹の方へと足を折り曲げた。

「なお、き、くん……。」

 蒼衣が俺の名を甘く、蕩けた声で呼ぶ。そして俺の首へその細くて白い腕を絡ませた。
 その声に後押しされるかのように、俺は蒼衣の大きく広げた足の間に体を滑り込ませると蒼衣のケツの割れ目に自身の勃起した肉棒を押し当てる。先端を少しだけ焦らすように穴の入り口に擦り付けると、蒼衣が焦れたように腰を揺すって俺を誘う。
 だがすぐには挿入してやらない。
 俺自身の先端から湧き出る我慢汁をたっぷりと入り口へと擦り付ける。何度もそうやって繰り返している内に、蒼衣のそこはくちゅくちゅといやらしい水音を立て始めた。

「ん……っ、や、直輝、くん……っ、早く……、挿れてよぉ……っ。」
「まぁ、待てよ。もっとケツ濡らしてからだ。」
「? ……ど、して……? も、僕……っ。」

 なかなか挿入しない俺に、蒼衣は焦れていやいやをするように上気した顔を左右に振る。そんな蒼衣を見下ろしながら俺は、ニヤリと笑いかけた。
 すると蒼衣は怪訝そうな顔をして、潤みきった官能的な瞳を俺に向ける。
 その蒼衣の瞳に、一気に突き刺したくなる衝動を抑えながら、俺は冷静さを取り戻すために少しだけ深く息を吸った。
 そして、ゆっくりと言葉を口にする。

「――天国に逝かせてやるから、もうちっとだけ我慢しろって。」

 蒼衣の耳元に唇を寄せ、囁くようにそう言う。
 途端に蒼衣の体が震えるように、揺れ、俺の体にしがみ付いてきた。
 そんな蒼衣を、心のどこかで可愛いと思いながら、俺は腰を揺らし先走りを更に蒼衣の秘所へ塗りたくる。その度に、くちゅくちゅと卑猥な水音が俺の耳に響き、否が応にも欲情を加速させていく。
 たっぷりと俺自身の先走りでそこを潤しながら、俺は蒼衣の脚を担いでいた手を下へと移動させる。
 そのまま腰を少し引いて先走りを擦り付けるのをやめると、すっかり俺の先走りでぐちゃぐちゃに濡れている蒼衣の穴に指先をゆっくりと沈み込ませていく。

「っ……ぁ、あ……っ、ふ……あぁ……やぁっ。」

 人差し指を根元まで埋め込むと、蒼衣の口から堪えきれないような甘い声が漏れる。
 その声を心地よく聞きながら俺は、ゆっくりと蒼衣の穴にもう一本指を埋め込んでいく。流石に一瞬だけ入り口部分に抵抗を感じたが、思いの外すんなりと入っていった。

「凄いな、指、二本ずっぽり入ってるぜ? 俺の指、結構太いのにな。」
「やぁ……っ、ん、直輝、くん……っ。」

 蒼衣の足を折り曲げ、目の前にその秘所を晒しながら俺がそう囁くと、蒼衣は羞恥の声を挙げ体を震わせる。その声は熱く蕩け、明らかに蒼衣が俺の指に感じているのが解る。しかも、蒼衣の内壁が俺の指をきゅうと締め付けてきた。その内壁の動きがまた、やたらにいやらしくて、俺は思わず鼻息を荒くしてしまう。
 口の中に次々と湧き上がってくる唾を飲み込みながら、俺は、更に蒼衣のナカに沈める指を増やそうと、今度は薬指を押し当てる。
 これもまたやや入り口部分で抵抗を感じたが、俺の擦り付けた先走りのお陰かすんなりと入っていき、あっという間に蒼衣のナカへと根元まで埋まった。
 そのまま蒼衣のナカを掻き回す様に指三本をばらばらに動かす。蒼衣のナカは柔らかく、そしてめちゃくちゃ熱かった。しかも、蒼衣の体内からトロトロとした体液が溢れ出て、俺の指に絡まり、俺の先走りと混じって、ぐちょぐちょと卑猥な水音を更に立て、俺の興奮を誘う。

「ふぁ……っ! やぁあ……っ、んっ、ん、ふぅ……っ、直輝、くんっ……、それ、ダメぇ……っ、ぁ、あぁっ……ん、や、可笑しく、なっちゃぅ……っ!」

 俺の指が蒼衣のナカを掻き回した途端に、蒼衣が大きく仰け反った。
 そして蒼衣の手が伸びてきて俺の頭を押す。だが、その大して力の入っていない手などものともせず、俺は蒼衣のナカをもっとぐちゃぐちゃに掻き回してやる。更にばらばらに動かすだけでなく、指を抜き差ししてやると、蒼衣の体が大きく痙攣を起こした。

「ひぁ……っ、あっ、あぁ……っ、はぁ……んっ、なおきくん……っ、ダメ、僕、ぼく……っ、そんな、されると、ぼく、ぼく……っ。」

 蒼衣の嬌声に、俺はニヤリと笑うと、更に激しくぐりぐりと蒼衣の内壁を指先で押し、突き、掻き回す。蒼衣のナカはその度に俺の指を締め付け、淫らに蠢いていた。

「蒼衣、お前すげぇな……、お前のケツ穴、俺の指にすげぇ吸い付いてくる。――そんなにイイのか?」
「っ……ん、くぅ……、い、イィ……、すごく、イイ……ぉっ、なおきくんに、お尻掻き回されて、ぼく、も、イっちゃいそ……っっ。」

 俺が意地悪に尋ねると、蒼衣はコクコクと強く頷きながら、俺の体に手を伸ばしてしがみ付いてくる。そうしながら、まるで俺の指の動きに合わせるように、蒼衣は腰を女のように淫らに振りたくった。
 女装姿だけあって、蒼衣のその動きは妙に様になっている。いや、寧ろその辺の女よりも色っぽくて、官能的だった。
 そのいやらしい蒼衣の姿に俺は堪らなくなり、蒼衣の口紅を塗っている唇へ噛み付くようにキスをした。
 そして、自分の半身を蒼衣の起立している肉棒へと擦り付ける。蒼衣の我慢汁が溢れまくっているぬるぬるのそれへ自身の男根を擦り付けると、そのぬるぬる感と、焼けるような熱さに物凄い快感が下半身から俺の体内を駆け巡り、脳髄まで一気に駆け上っていく。
 一瞬でイってしまいそうになるのを、なんとか気力で抑え付け、俺は蒼衣のモノに自分の欲望を何度も擦りつけ快感を得る。
 それは蒼衣も同じらしく、俺にしがみ付いたまま俺の唇を激しく吸い、舌を絡め合いながら荒い息と甘い吐息を零し続けていた。

「や……ぅ、なおき、くん……っ、ぼく、うしろも、まえも、きもちよすぎて、はぁ……っ、もぅ……、本当に、ダメぇ……。」
「……っ、いいぜ、蒼衣。イけよ……、俺も、お前のチンポぬるぬるすぎて、も、イきそ……っ。」

 たっぷりと互いの唇を貪り終わり、薄く唇を離すと、蒼衣が堪えきれないようにたどたどしい声で俺に限界が近い事を知らせる。それに俺も上擦った声で答え、蒼衣に合わせて腰を振り、男根同士をこすりつける。
 互いのカリとカリがぶつかり、その先の亀頭部分がぬるぬると擦りあう。
 それが堪らなくて、俺は更に腰を振って蒼衣のモノに自分の欲望を擦り付ける。そうしながら、蒼衣の後ろに挿入させている指を、いやらしく粘ついた音をわざと立てながらめちゃくちゃに掻き回し、指先で内壁を擦り上げた。
 蒼衣のナカはこれ以上にないくらい柔らかく溶け、俺の指の無茶な動きさえもなんなく受け止めているようで、初めて抱いた時同様、蒼衣の体がこういう行為に慣れていることをまざまざと思い知らされる。
 それは何故か俺の心に小さな痛みをもたらした。
 だが、それがどんな感情からなのか、どんな思いに寄るものなのか俺にはまだ解らない。
 それでも、なんだか少しだけ悔しくて、蒼衣に擦り付ける速度を更に速め、ナカを掻き回す指が漸く探り当てた場所へ強く指先を押し付け、擦り上げた。

「……っ!? っ、ふぁ……あ、あぁぁっ――っ!」

 途端に、蒼衣の喉から快感の悲鳴が上がる。
 そして、俺のモノと擦り合わせていた蒼衣の欲望の先端から勢い良く、焼け付くように熱い液体が噴出した。蒼衣が出した熱い滾りは俺自身にかかり、その勢いと熱さに俺も我慢が出来ず、一瞬の後、蒼衣のスカートに向けて勢い良く欲望を吐き出す。

「く……っ、やべぇ、めちゃイイ……っ。」

 たかが性器同士を擦り合わせただけで、こんなにも強い快感を得られるとは思わず、体に溜まっていた欲情の開放感と、心地いい脱力感を体中に感じながら、俺は思わずそう呟いた。
 すると俺の体の下で恐らく俺と同じことを感じているであろう蒼衣がうっすらと瞳を開けると、俺の背中に両腕を回して強く抱きついてくる。
 ぎゅう、といった表現がぴったりなその蒼衣の抱擁に俺は満更でもなく、蒼衣の後ろに突き刺したままの指を引き抜くと、蒼衣の体を抱きしめ返した。





 どれだけそうして抱き合っていたのか。
 恐らくそう時間は経っていないのだろうが、互いに感じる温もりが気持ちよくて半ばまどろみかけていると、まるでかなり長い時間こうして抱き合っているかのような錯覚に陥る。
 普通男は射精、つまり欲望を吐き出してしまえば、妙に頭の中は冷静になり、自分の置かれた状況に対して我に返り、醒めるもんだ。
 だが、蒼衣とこうして抱き合っていると今まで一人でシた時や、女とセックスした後のような、抱いた女さえもどうでもよくなるような醒めた冷静な気分に陥る事はない。
 寧ろ妙に心地よくて、もっとこうして抱き合っていたいという気持ちになる。

「あー……、ヤバイ、イーわ、これ……。」

 思わずその心地よさに小さく呟く。

「……なお、きくん……、ぼくも……こんな気持ちイイの、初めて……っ。溶けちゃいそう……。」
「蒼衣……。」

 すると、まだ熱の残っている蕩けた声で蒼衣がそう俺の言葉に同意を示し、更に強く俺の体を抱きしめてくる。そして、すり、と頬を俺の頬へ柔らかく擦り付け、甘えた仕草をした。
 その蒼衣の甘えた仕草と頬に当たる蒼衣の頬の熱さに俺の体の中でまた欲望が膨れ上がる。
 蒼衣と自分自身の精液溜まりに浸っている俺自身がその欲望に反応し、ゆっくりとまた硬度を増していくのが自分でも解った。
 それは蒼衣も同じだったようで。いや、寧ろ俺のモノが蒼衣の腹に密着している分、蒼衣の方が敏感に勃起し始めた事に気がついたのだろう。

「……っ、直輝、くん……、あ、あの……、また……その……。」

 俺に甘えていた蒼衣が頬をばら色に染めて、下半身に感じる俺の熱と固さに戸惑ったような声を挙げた。
 そんな蒼衣に俺は少し体を起こし、にやり、と笑ってみせる。
 すると、蒼衣は俺の笑い顔に更に顔を赤らめた。

「や……、直輝くん、凄いいやらしい顔、してる……。」
「お互い様だろ? お前だって今、めちゃくちゃエロい顔してんぞ。」

 くつくつと喉を震わせて笑い、顔を赤らめて俺から視線を外した蒼衣の頬にキスを落としてやる。そのまま蒼衣の顔中にキスの嵐を降らせ、改めて蒼衣の唇に自分の唇を重ねた。
 小さく蒼衣が喉の奥で息を飲み込む音が聞こえる。
 その音ごと蒼衣の唇を吸い込み、口の中をたっぷりと舌で嬲り、絡め、熱情を込めて唇を交じ合わせていく。
 俺のキスに蒼衣は、相変わらず少し戸惑い気味に、だが、俺と同じような熱情を込めて俺の唇も舌も受け止め、絡ませ、濃厚にそして激しく口付けた。
 蒼衣の唇を貪りながら、俺はゆっくりと手を動かし、精液塗れになっている蒼衣のセーラー服の中へと手を侵入させる。脇腹からへそ辺りをざらりと撫で、そのまま胸板へと向かう。すぐに指先に硬いワイヤーの入ったブラジャーの感触を感じ、その蒼衣の女装へのこだわりに俺は瞳だけで笑った。
 ブラジャーのアンダー部分をなぞるように指先で撫で、蒼衣の背中へ手を動かしていく。
 俺のその動きに蒼衣は俺がどうしたいのかを察したのか、少しだけ背中を浮かせそこに手が滑り込ませられるだけの空間を作る。蒼衣の行動にもう一度俺は瞳だけで笑うと、一気に手をそこに滑り込ませ、ブラジャーのホックを指先で探り当てると、あっさりとその戒めを解いた。
 ホックが外れ緩くなったブラジャーの中に手を忍び込ませていき、蒼衣の胸板を弄る。
 蒼衣が喉の奥で息を飲むのが解った。
 そして、体に走る緊張も。
 やはり蒼衣は俺がこうして蒼衣の体を愛撫する事に、あの日同様、抵抗を感じているのだろう。
 なにせ、あの日断片的に聞いた蒼衣の話では、おおよそこうした愛撫という愛撫はされた事がないらしいし。それに、蒼衣自身、自分が愛撫される事はいけない事だと教え込まれていると言っていた。いや、そう叩き込まれていた。
 それがどれだけこいつのセックス観を歪ませ、誤った認識を植えつける羽目になったのかを考えると、俺は蒼衣が育ったというその施設に居た蒼衣の叔父を筆頭に、こいつを性玩具として扱った野郎共がどうしても許せない。
 それでも蒼衣は、そいつらを恨んでないと言っていた。
 あいつらが居なければ自分は生きていなかっただろうから、と、微笑んで。
 それがまた酷く儚げで、壊れそうな危うさを持っていたのを、今でもはっきりと覚えている。
 だからこそ、俺は蒼衣にはあいつらが与えた苦痛以上に、セックスがただの欲望を開放する為のものではない事を、どれだけ互いの温もりを感じ快感でどれだけ心が満たされるかを教えてやりたい、と蒼衣の体を優しく愛撫しながら思う。
 ……まぁ、さっきあれ程無茶な命令をして、酷く凶暴な気持ちで蒼衣を嬲った俺が今更そんな事を思う権利も資格もないのだろうが……。
 だが、それでも、今は、蒼衣を優しく抱きたいと、そう思う。
 蒼衣のたどたどしい、だが、情熱的な口付けを感じながら俺は、蒼衣の体に愛撫を加えていく。その度に蒼衣の体は淡い快感と、相変わらず恐らく愛撫される抵抗感と恐怖にか小さく震えていた。
 初めて体を重ねた時のような目に見えた抵抗はしないが、それでも、蒼衣が俺の背中に回した腕が俺を拒絶しようと時折、俺の着ているシャツを強く掴み引っ張ろうとする。だが、すぐに蒼衣自身が思いとどまるように、無理矢理力を抜いてシャツを掴んだ手が今度は縋るように俺の背中を這う。
 そんな蒼衣の震えと行動に、俺は蒼衣に愛撫される事を恐怖だと思い込ませた野郎共への怒りが更に募り、そいつらを許せないと思う。
 しかしそれと同じくらいに、蒼衣に対する奇妙な愛しさと、守ってやりたいと思う気持ちが湧き上がり、殊更蒼衣の体に加える愛撫を丁寧に優しく行ってやる。
 そうする事でなんとか蒼衣の心に染み付いた恐怖や凝り固まっている強迫観念を自分のこの手で解して、癒してやりたい。
 そこまで思い、俺は心の中で小さく苦笑する。
 男に対して守ってやりたいだとか、癒してやりたいだとか思う自分が少しばかり可笑しかった。今までの俺なら、男に対してこんな風に思う事などなかっただろう。寧ろ、男同士でセックスする事が日常に組み込まれているような男に、こんな風に優しい気持ちやどこか愛しいと思う気持ちを持つ事自体考えられない事だ。
 大体が今まで付き合った女にさえ感じた事がない感情なのだ。
 それなのに蒼衣に対してこんな風に思うのはどうしてだろうか。一度抱いた事で情が移ったのか、それとも、友達として付き合う内にそれ以上の感情を抱くようになったのか。
 とはいえ、それ以上の感情、というのが俺にとってどんな分類に当てはまるものなのかはまだ明確ではない。
 ただ、今の所、俺が蒼衣に感じている愛しさは、恐らく恋愛のそれとは違う。
 勿論、友達に対するそれとも違うだろう。
 ならば、親兄弟に感じるもの?
 いや、それも違うな。
 だが俺が蒼衣を大事にしたいと思い、愛おしいと思って居る事は事実だ。
 確かにはっきりしない感情ではあったが、それでもいつの間にか俺は蒼衣を友達以上に大切に想っていたらしい。
 その事に今更ながらに気がつかされ、自覚した自分にそっともう一度苦笑をする。

「……蒼衣。」
「なお、き、くん……。」

 互いの唇がその摩擦によって赤く染まるまで深く口付けあった後、漸く蒼衣の唇を開放し、そっとその名を囁く。
 すると蒼衣はくったりと体を畳の上へ投げたしたまま、俺を蕩けた瞳で見た。
 熱く潤み、その癖、どこか怯えたような表情がまざっているその瞳に、俺は欲情よりもなによりもなんとも言えない切なさが胸の中に広がる。

「やっぱ、こーいう風に触られんの、怖いか? 嫌か?」
「ぅ、……うん……、ちょっと、怖い……。で、でも、嫌、じゃないよ……。」
「蒼衣……?」

 俺の質問に蒼衣は、戸惑いながらも小さく頷く。
 だが、すぐに最後の言葉に関しては打ち消して、恥ずかしそうに瞳を伏せながら言葉を続けた。

「ぼ、僕、直輝くんに、触られるの、すっ、……好き、……だから……。」

 好き、という部分を消え入りそうに小さな声で、そして、更に恥ずかしそうに顔を真っ赤にして瞳を伏せ、俺にしがみ付きながら蒼衣は自分の精一杯の気持ちを俺に伝える。
 そんな蒼衣に俺は、胸の奥が今まで感じた事のないような痛みというか、心臓を鷲づかみにされるような感覚を覚え、更に下半身に血液が集まってくるのが解った。
 さっき一度放出した筈の俺の愚息は、今またガッチガチに腹を打つほど勃ちあがり、早く早くと俺を急かす。

「……っ。」
「? なお、輝くん……?」

 下半身から襲ってくるその激しい欲望に思わず顔を顰めると、蒼衣が心配そうな表情をして俺の顔を下から覗き込んできた。その表情にも俺の愚息は反応し、ビタビタと腹を急かすように叩く。
 そんな自分の体の変化に、俺は心底ヤバイと感じる。
 折角蒼衣に優しくしてやろうと決意したばかりなのに、また、自分の中にある凶暴な獣が暴れだし、蒼衣を乱暴に犯したいという欲求がふつふつと沸きあがってきたからだ。
 だが、下半身が求める欲求に流されこのまま蒼衣に突っ込んではダメだと自分に必死になって言い聞かす。

「直輝、くん……? ど、したの……、大丈夫?」

 体の下から蒼衣が心配そうにそう声をかけてくる。
 そして、蒼衣の手が持ち上がり、そっと俺の頬に触れた。その蒼衣の手の熱さに、俺の中にある理性のダムが決壊しそうになる。
 それをなんとか宥めすかして、俺は蒼衣を安心させようと微笑んで見せた。

「大丈夫、だ。ただ、ちょっとお前の愛の告白に理性が飛びそうになっただけだから。」

 なるべくおどけて、冗談を言っているように聞こえる声色でそう言い、蒼衣に向けてウィンクをしてやる。
 しかし蒼衣にはそう聞こえなかったようで、蒼衣は俺を見上げたままボッと音が聞こえそうな勢いで、その顔を赤く染めた。

「あ、あああああああ、あいあいあああ愛、あいあいあいあいの、ここここ、こくっ、こくはく……てっ?! ぼ、ぼぼぼ、ぼく、そ、そんなつもりじゃ……っ!?」

 予想以上に蒼衣は動揺し、声を震わせ、瞳を泳がせまくりながら俺の言葉をあわあわと否定しようとしているみたいだった。
 そんな蒼衣がどうしようもなく可愛くて、俺はまた体の中に獣のような興奮が膨れ上がるのを感じ、自分でも止められないほど鼻息が荒くなっていくのが解った。

「……ヤバイ。」

 思わずそう本音を呟く。
 それに蒼衣はパニクッた表情のまま、パクパクと口を動かしながら俺を見上げた。恐らく、なにがヤバイの? と聞きたいのであろうその口を、俺はまた自分の唇で塞ぐ。

「んっ?! んーーー????」

 蒼衣が俺のキスに驚き、塞いだ口の中で声を上げる。だが、その声もろとも俺は吸い取りながら、蒼衣の足に手をかけると、一気に肩に担ぎ上げた。
 俺の行動に蒼衣の体が一瞬、ひくん、と、固まる。
 しかしすぐに俺が何をしたいのか悟ったのだろう。
 蒼衣は体の緊張を解くと、俺の背中に手を回してきた。その蒼衣の手の感触を背中に感じながら、俺はゆっくりと唇を離す。
 触れるか触れないかの微妙な位置で顔を止める。

「ワリ、もうちっとちゃんと愛撫してやりたかったんだが、無理だ。……挿れて、いいか?」
「……う、うん……、いいよ……。」

 囁くような声で、だが、欲情が盛大に絡みついた粘ついた声で蒼衣にそう尋ねると、蒼衣は頬を染め上げながらも、こくん、と頷いた。
 そして、俺の背中に回している手に更に力を込め、一瞬だけ強くしがみ付くと、蒼衣は俺が挿入しやすいように腰を持ち上げる。俺の先端が蒼衣の割れ目に当たり、その熱さに俺の息子と背中がぶるりと震えた。
 しかも、蒼衣は俺を誘うように腰を小刻みに動かしている。早く、早く、と急かすように窄まりを俺の先端に擦りつけ、俺の中の獣欲を掻き立てた。

「……挿れるぞ。」
「う、ん、来て……。」

 蒼衣の行動に、俺は我慢が出来ずそう宣言すると、蒼衣はどこか嬉しそうに、だが、恥ずかしそうにもう一度、こくん、と頷いた。
 その頷きを確認する前に、俺は先端を蒼衣の窄まりにぐっと押し当てると、一気にその中へと押し込む。
 相変わらず女のようにすんなりとは行かないが、それでも一瞬の抵抗の後にはそれなりの質量のモノが蒼衣の穴の中にゆっくりと確実に沈んでいく。俺のモノが埋まっていく感覚に蒼衣はビクビクと体を震わせ、どこか感極まったような甘い声で啼いた。

「っ……ふぁ……ん、んんんっ。ぁ、あぁ……ん、なおき、くん……っ。」

 甘い、甘い、蕩けた声で蒼衣は俺の名を溜息と共に呟くと、自分から足を俺の肩から下ろし、俺の腰へと絡ませてくる。そのまま、ねだるように腰を揺らして俺自身に快感を与え初めた。

「ん……っ、突いて……っ、なおっ、くん……っ、動いて……ぇっ。」
「蒼衣……っ。」

 だが俺以上に快感を感じているらしい蒼衣は、腰を揺すってねだるだけでなく、その声で、口で直接俺が動く事を求めてくる。
 蒼衣のその積極的な言葉と、行動、なによりもエロく蕩けたその表情に俺の下半身は言いようのない滾りを感じていた。
 何度も繰り返したキスのせいですっかり口紅は落ちている筈なのに、何故か蒼衣の唇は赤く色づき、口紅を塗っているときよりも艶めいてみえる。その赤い唇の中で踊るそれ以上に赤い舌は、俺を求めてチロチロと口の中で踊り、早く早く、と俺を煽っていた。
 一度ゴクリと生唾を飲み込むと、俺は堪えられず強く腰を抜き差しし始める。
 途端に蒼衣は体を仰け反らせ、悲鳴のような嬌声をその赤い口から零し始めた。

「ひぁ……っ、くぅぅん……っ……っ、あっ、あぁああ……っん、やぁ、ぃ、イイ……っ、キモチ、イィ……っ! はぅ……ふ……ぅう……んっんんっ!」

 己の口から漏れる歓喜の悲鳴に、蒼衣は流石に恥ずかしさを感じたのか、俺の背に回していた手を口元に持っていくと、その指を自分の口に突っ込みそれを抑えようとした。だが、それは俺が許さない。
 蒼衣の手を掴むと、そのまま畳の上に縫い付ける。そうしながら、俺は強く腰を蒼衣の中へ打ち付けた。パンッという肉と肉が打つ湿った音が部屋の中に響く。何度も何度もその音を響かせながら蒼衣の中を滾る思いのまま蹂躙する。

「なお、きくんっ……っ、なおきく……っ、あ、あぁっ……んっ、ダメっ、ダメぇ……っ、そんな、はげしくしたら、ぼく、も、イッ、イッちゃう……っ!」
「いいぜ……、我慢すんなよ……っ、イケよ……っ、ほらっ、イケッ……!」

 蒼衣の声と言葉、そしてその痴態に俺は興奮を抑える事が出来ず、掠れた声で蒼衣を言葉で体で攻め立てた。蒼衣のナカは、俺のその言葉に打ち付ける激しさに、きゅうきゅうと俺の肉棒を締め付け、蠢き、蒼衣が本気で感じている事を俺に伝える。その事がまた俺にとっても快感に繋がり、尚更早く強く蒼衣の尻の中を自分自身の欲望で擦り上げ、腸壁を突き上げた。

「はぁ、ああ、あぁんんっ、なお、っくんっ……っ、な、おきくん……っ!!」

 蒼衣が俺の名前を何度も何度も切なそうな声で呼び、畳に押し付けているその手がもどかしそうに畳の目を荒らす。綺麗にツインテールに結わえてあった髪は、すでにぐちゃぐちゃに乱れ、畳の上にその黒髪をまばらに広げていた。
 嫌々をするように顔を左右に振り、蒼衣はまるで何かを我慢するかのように一度唇を強く噛む。だが、その唇はすぐに解け、絶頂を迎えた甘ったるい悲鳴を細く喉を震わせて迸らせた。

「ぁっ、あ、あぁあーーーーーーっっ!」

 途端に蒼衣の体が細かく震え、俺を咥えこんでいる蒼衣の秘所が強く俺を締め付ける。そして、蒼衣のはちきれんばかりに膨れ上がっていた男根からは、ドクドクとその快感を示すかのように大量の白濁した精液が溢れ出した。
 俺の腹を濡らしていく蒼衣のその精液の感触と、俺自身を締め付ける蒼衣の内壁の蠢きに俺も堪らず蒼衣のナカに漏らしそうになる。
 だが、それをぐっと堪えると俺は蒼衣の中から自分のモノを抜いた。途端、開放感からか、俺の先端からは我慢し切れなかった欲望が滾り、そのまま蒼衣の股間に向けて精液をぶっかけてしまう。
 あちゃぁ、とは思ったが、それ以上に射精をした爽快感に俺は小さく溜息を吐いた。

「直輝、くん……?」

 俺の下で絶頂を迎え肩で息をしていた蒼衣が、股間にぶっかけられた事にか、怪訝そうにその瞳を持ち上げ、俺を見ながらそう俺の名を何故かどこか不安そうに呼んだ。
 潤みきって泣いている様にも見える蒼衣の瞳にゾクゾクとしたものを感じながら、俺は蒼衣から少し体を離す。

「どし、たの? なんで、抜いた、の……?」

 すると、続けてそう聞いてきた。蒼衣はどうやら俺が絶頂直前に自分の中から分身を引き抜いた事と、俺が少し体を離した事に不安を覚えたらしい。
 それに対し俺は、小さく苦笑をすると、体を屈めて蒼衣の唇に軽く触れるだけのキスをした。

「また中出しするわきゃいかねーだろ。」

 前回は勢いのまま蒼衣のナカに射精してしまった俺だったが、今回は流石にそれは自重しなきゃならない。
 後で知った事だったが、男同士に限らずアナルセックスでの中出しは相手の体に多大な負担を与えるんだそうだ。事後に腹を壊したり、傷がついていればそこから菌が入り化膿、なんて事もありえる、らしい。ってー事は、こんだけ激しく動かして、突きまくったんだ。蒼衣の腸壁に小さな傷がついている事は十分に考えられる。
 ……まぁ、コンドームも着けず、生でヤってる時点で俺と蒼衣、両者ともリスクは抱えてるわけだが……それでも、体の負担なんかを考えるとする方よりされる方のが色々と大変な事になるみたいだし。蒼衣が重大な性病を持ってない限りは、俺はせいぜい膀胱炎程度ですむ。だが、俺の中出しが原因で蒼衣が腸壁を痛め、病院通いなんて事にでもなったらシャレにならねぇ。
 そう言った思いを込めて、蒼衣にそう伝えたのだが、蒼衣は凄く不思議そうな顔をした。

「なんで……? やっぱり僕のナカに出すの、嫌? 気持ち良くなかった?」

 しかも本当に不思議そうに、そしてどこか不安そうに、そう俺に尋ねてくる。
 俺はそんな蒼衣にまた小さく苦笑すると、バーカそうじゃねぇよ、と蒼衣に言いながらその頭をぐしゃぐしゃと掻き回す。そして蒼衣の耳元に唇を寄せて、アナルセックスに関するリスクを小さく耳打ちしてやる。
 俺のその言葉に、蒼衣は酷く驚いた顔をして俺を見た。

「え……、それって、その……僕の体の事、心配してくれてるの……?」
「……そりゃするだろ。女と違って元々そこはセックスする為の場所じゃねーんだ。なんかあったらどうすんだよ。」

 蒼衣のめちゃくちゃ意外そうな声と言葉に、俺は一瞬否定をしようと口を開いたが、結局そのまま蒼衣の言葉を肯定した。別段、良い人ぶる訳ではないが、蒼衣の体を心配している、というのは事実なだけに否定するのも可笑しいような気がしたのだ。
 ただ、普段俺は他人に対して気遣いをするタイプではない。だからか、あからさまに蒼衣の事を心配しているという事がバレたのが少しばかり居心地が悪く、俺はボリボリと頭を照れ隠しに掻くと蒼衣から視線をそらせた。

「…………っ。」

 そんな俺の言葉に、蒼衣は唖然と俺を見た後、突然黙り込む。そして何故か下を向いてしまい、体を小さく震わせた。
 その蒼衣の態度に、何かまずい事でも言ったかと思い、俺は蒼衣の顔を覗き込もうとする。と、蒼衣が急に顔を挙げ、思わず驚いてしまう。

「あお……。」
「直輝くんっ……っ!」
「おわっ……っ!?」

 そして、蒼衣は俺の名を叫ぶと、俺の体にぎゅうっと抱きついてきた。感極まった様子で、蒼衣は俺の首に腕を絡ませ、俺の胸板にその額をすりすりと擦り付ける。

「な、なんだ……? どうした、蒼衣?」
「大好きっ! 直輝くん、だ〜〜〜〜いっ好きっーーーっ!」
「へ?! へぁ!?」

 蒼衣の態度に俺は戸惑い、その肩に手を置いてその行動の意味を尋ねると予想外の言葉が返ってきて、俺は目を白黒させ思わず素っ頓狂な声を挙げてしまう。
 大好きって、おまっ、とか、何言って、とか、ふざけんなバカ、とか様々な言葉が頭の中をよぎり、そのまま考える暇もなく言葉となって蒼衣に向けて言い放っていた。
 そんな俺に蒼衣は頓着することなく、まるでネコが甘えるように俺の胸板にすりすりとその頭を何度も何度も擦り付け続けている。……心なしか、ゴロゴロと喉も鳴っているような気までした。
 妙に上機嫌に、そして嬉しそうに俺に懐いて甘えてくる蒼衣のその姿に、俺は結局どう対処していいものか解らず、仕方なく暫くそのままにしておいてやる。
 好きなだけ蒼衣に抱きしめさせ、すりすりさせていると、蒼衣の手が俺の背中から漸くゆっくりと動いた。それで、漸く離れてくれるのかと思いきや。

「……直輝くん。」

 蒼衣が俺の名を妙に甘ったるい声で呼ぶ。その声に顔を下に向けて蒼衣を見た瞬間、俺の心臓が痛いくらいに飛び上がるのを感じた。
 俺に体にしがみついて俺を見上げている蒼衣は、さっきまでの蒼衣とはどこかが違っていた。
 確かに瞳は相変わらずトロンと欲情に蕩けていたし、赤く色づいている唇は艶やかなままではあったが、決定的に何かがさっきまでの蒼衣とは違う。
 それが何かははっきりとは解らなかったが、蒼衣の妙に迫力のあるその表情に俺は返事をするのも忘れて、ポカンとその顔を見下ろしていた。
 すると蒼衣は、ふっと、花が綻ぶようにその顔に笑みを浮かべる。

「今度は僕が、直輝くんを天国に連れて行ってあげるね。」

 そして艶やかな、華やかな笑顔と共に蒼衣はやたらに蕩けた甘い声で俺にそう言い、自分から俺の唇にその唇を重ねてきた。