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NOVEL

Un tournesol 〜神社裏と花火と大好きな人〜
02

注意) 野外エッチ/女装エッチ(女物浴衣)/淫語/いちゃいちゃ

 と、まぁそんな経緯で僕達は花火を見に出かけた筈だったのに。
 最初は普通に直輝くんと花火をする会場の付近にある夜店を冷やかしに回っていた。だけど、何故だか物凄く周りの視線が僕達に集まってしまい、僕も直輝くんものんびり夜店周りをする事が気分的に難しくなってしまった。
 ただ見られるだけならいいんだけど、何か僕達を見た後こそこそと話している姿を見ると僕は女装しているのが周りにバレたんじゃ、と気が気ではなかったし、直輝くんは何故かどんどん機嫌が悪そうに顰め面になっていくし言葉数は少なくなってくるしで、僕は不安な気持ちが抑えきれなくなってしまう。
 しかも、直輝くんが少し僕の傍を離れた瞬間に、僕は何故か同年代くらいの男の人数人に、一人ー? とか、どっか行かない? ってなんだかわかんないけど声かけられちゃうし。
 知らない人達だったこともあるし、なんとなく声をかけてきた男の人達の雰囲気が怖くて、それは必死になって断っていたら、すぐに直輝くんが戻ってきてくれたからその男の人達にそれ以上しつこくはされなかったんだけど、ただ、その後から直輝くんの機嫌が更に目に見えて悪化しってって……。
 やっぱり女装して出かけるんじゃなかった、なんて後悔していたら、直輝くんが不意に移動しようって言い始めた。
 花火はまだ始まってなかったけど、だけど、こんな状態ではまともに花火を見ることは出来そうになかったから少し残念だったけど僕は直輝くんの提案に頷いた。
 そうしたら……。
 てっきり家に帰るのかと思っていたんだけど、なんでか直輝くんに花火会場とは逆にある寂れた神社に連れてこられ、そして、その拝殿の裏の濡れ縁に腰掛けたまま今のこの状態になっている。

「っ、ん……っ。っ……く、ん……っ。」

 僕は必死になって声を抑えていた。
 ゆったりとした浴衣の袖をくしゃくしゃにして口に咥え、直輝くんに触れられる度にあげそうになる声をそこでとどめるべく努力をする。
 だけど、直輝くんはそれが面白くないのか、無理矢理僕に声を上げさせようと執拗なくらい僕の耳たぶや首筋に舌を這わせ、甘く歯を立てたり、無骨な手で僕の太ももを撫でたり揉んだりしていた。
 しかも僕が噛み締めている袖を何度も何度も僕の口から外される。
 その度に僕はまた袖や、自分自身の腕、指などを口に含み、それを噛み、ささやかながら直輝くんに抵抗をしていた。

「……蒼衣。」

 そっと耳に直輝くんの低い声が囁かれる。それだけで僕の体には甘い電流が走り、触れられている所に熱がこもってしまう。それを直輝くんは熟知しているだけに、僕の体がヒクンと反応を返すとまた甘い声で僕の名を僕の耳に何度も囁くのだ。
 直輝くんはずるいと思う。
 僕が直輝くんに触られたり囁かれたりしたら抵抗できなくなるって解ってて、こんな場所で、僕に自分から直輝くんを求めるように仕向けようとする。
 僕だってここが外じゃなかったら、そりゃ、直輝くんの求めにすぐにだって応じるけど……。でも、幾ら直輝くんが穴場だって力説しても、人が来るかもしれない、っていう可能性が0じゃない場所でいつもみたいに直輝くんにエッチして欲しいなんて言えないよ。
 そりゃ、今までの人生で野外での経験が全然ないって訳じゃないけど……、直輝くんとこんな風に女装姿で野外でスるなんて想定外だよ。大体、僕は直輝くんと繋がっちゃうと自分でも恥ずかしいくらいにエッチな声が出ちゃうのに……。それを解っている上で、こんな場所でエッチなんて無理だって……!
 そんな事を思いながら、僕の隣に腰掛けて、だけど上半身は半ば僕に覆いかぶさるような格好で僕の体にエッチな悪戯をしている直輝くんを少しだけ瞳を開けて恨めしく睨みつけてみた。
 すると直輝くんが僕の首筋に埋めていた顔をちょっと持ち上げて、上目使いで僕の顔を見返す。
 まるで僕が瞳を開けたのを察したかのようなタイミングの良さに、僕はドキリと心臓が高鳴り、慌てて直輝くんから視線を逸らした。

「……なぁ、蒼衣。そんなに嫌か?」

 僕が直輝くんから視線を逸らしたのを見て直輝くんがひっそりと笑った気配がする。そして、柔らかく直輝くんの唇が僕の頬に押し当てられながらそう改めて聞かれた。

「っ……だって、外で、しかも神社の裏手とはいえ敷地内でこんなコトするのって……罰当たりだし……、人に見られたら……、どうするの……? 通報されちゃうよ……?」

 直輝くんの唇の感触にまたゾクゾクとした淡い快感を覚えながらも、僕はそう精一杯主張する。
 そんな僕の主張に直輝くんは僕の頬にキスをしながら、喉を低く鳴らして笑った。その笑い方がなんだか妙に意地悪な響きを持っていて、僕はちょっと驚く。

「直輝くん……?」

 恐る恐る直輝くんの名前を呟き、視線を直輝くんへと戻すと、直輝くんは僕の瞳を見返しながらニヤリと本当に意地悪く笑った。

「別に見られたら見られたでいいじゃねぇか。つか、寧ろ見せ付けてやりゃいい。」

 くつくつと何か意地悪に、そして楽しそうに笑う直輝くんの言葉に僕は唖然とする。
 まさか直輝くんがここまで豪胆な人だとは思いもしなかった。だって直輝くんは周りに興味を持ってなさそうに見えて実は意外に人の視線や世間体を気にしているタイプの人だと僕は思っている。だから僕との付き合いだって、昔から仲の良い友達達にも隠してるって程でもないけど話していないっぽいし、その友達達が遊びに使っている界隈とは僕と一緒に出かけようとしない訳だし。そんな直輝くんが、僕とのエッチを人に見られてもいいだなんて、何を考えてるんだろう。
 直輝くんの言葉にびっくりして目を瞬かせて直輝くんの顔を見返していると、直輝くんは少しだけ瞳を細めた。

「蒼衣、お前、俺の事意外に小心者だと思ってたんだろ?」
「えっ?! や、そんな事、全っ然っ思ってないよ!! 思ったこともないよっ!!」

 少しだけ剣呑な光りの混じる瞳に睨まれ僕は慌てて頭を振る。必死になって否定してみるが、何故か直輝くんの瞳に含まれる剣呑な光りはますます強くなっていったように感じられた。

「……ていうかよ、蒼衣。お前さ、男の客に告られたってマジ話?」
「へぁ……?」

 直輝くんの瞳に含まれる剣呑さにこれからどんな意地悪をされるのだろうかと、ドキドキしていると、不意に直輝くんが変な事を聞いてくる。あまりに突然に、今までの会話と繋がらない事を聞かれ僕は虚を突かれてしまい、きょとんと直輝くんの顔を見返し間抜けな返事をしてしまう。
 すると直輝くんは眉間に皺を寄せると、ムッとした表情のままもう一度同じ事を聞いてきた。

「だから、マスターが言ってたろ? お前が男の客に告られて困ってるって……。あれ、マジ話なのか?」
「え、えぇっと……、ぅ、うん、まぁ……。何度かお店終わった後にデートしよう、とか、彼氏いないなら付き合ってって言って来たお客さんは何人か居たけど……。あっ、で、でも、多分、ていうか、確実に冗談だよ? 幾らなんでもいい年をした男の人がメイド姿の女装男に本気で告白するなんってあり得ないって。直輝くんもそう思うでしょ?」

 憮然とした表情で直輝くんに聞かれ、僕は少し苦笑をするとそう説明をする。確かに何度か告白めいた事を言われたけど、僕は全部本気には受け取っていない。しつこく同じ事を言ってくるお客さんも居るけど、それだって今言ったみたいに冗談の範疇だろうし。お酒を飲んで来てる人なんかだと、からかう為にそういうことを言う人は多いから。そう思って居る事を直輝くんに笑いを交えて伝える。
 だけど同じように笑い飛ばしてくれると思っていた直輝くんは、何故かますます機嫌が悪そうな顔になり、妙に真剣な目つきで僕を見ていた。

「直輝くん?」

 直輝くんの反応があまりに予想外で僕はきょとんと小首を傾げながら直輝くんに声をかける。
 すると直輝くんは何故か盛大に溜息を吐いた。そしてそのまま驚いている僕の肩を抱き寄せる。

「な、直輝くん?」
「……お前が女装してるって知ってるのか、その客。」
「……え?」

 抱き寄せられ驚いている僕に直輝くんは低い声でまたそう聞いてきた。直輝くんが何の意図があってそんな事を聞くのか解らないので、僕はまた間の抜けた返事を返してしまう。
 それでも声の感じからして直輝くんが真剣に僕にその事を聞いてきていると思うので、直輝くんがまたもう一度同じ事を口にする前に僕は口を開いた。

「え、えっと……、知らない……と思う。で、でも、こんなに背の高い女の子なんてあんま居ないし、声だって僕、男らしい低音とは言わないけど普通に男の声に聞こえると思うし、だから、気がついてる、と思うよ……? ……多分、気がついてるんじゃないかな……。」

 自分でそう言いながらも、少し無理があるかも、と思う。だってバイトで働いている時には僕も女装してるっていう意識があるから普段の声よりも少し高めの声で受け答えしてるし、地声で話をするほどお客さんとは長く会話しないし、そもそも色々話しかけられても基本笑って誤魔化して必要最低限しか話はしないし、話しかけられてもすぐにマスターがフォローしてくれるって形だったから。別段自分の女装が完全に女性に見えるというものだとは思ってないけど、僕は何故か男にしては体毛も薄いし髭も目立たない。髭剃りなんてそれこそ二、三日に一回すれば大丈夫なレベル。そもそも女装する為に手とか足とかのムダ毛はちゃんとケアしてる。だって女の子の格好してるのにムダ毛ボーボーだったら、自分で言うのもなんだけど、萎えるじゃないか。腕くらいはともかく、スカートから覗く足にすね毛、とかはやっぱり女装する際にはNGだって僕は思ってる。
 それになにより、お店は昼でも照明を落とし気味にしてて薄暗い。その中で僕を見たとしたら、ひょっとしたら背が高くてちょっと骨太な女の子に見えているかもしれない。
 その事を考えると、告白してきたお客さん達が僕の事をはっきりと『男』だと認識してあーいうことを言っているのかどうかは、凄く謎だった。
 その僕の不安と言うか自信のなさが直輝くんに伝わったのか、直輝くんはもう一度小さく溜息を吐く。そしてその溜息と共に直輝くんは口を開いた。

「……お前、明日もバイトだったよな?」
「へ? あ、う、うん、そうだけど……っ、ひゃっ?!」

 直輝くんに明日のバイトの有無を聞かれ、僕は素直に頷く。だが直輝くんに、それがどうしたの、と聞く前に直輝くんに体を、今僕達が座っている拝殿の濡れ縁の床板の上に押し倒された。
 そしてそのまま直輝くんは僕の体の上に圧し掛かり、戸惑う僕に構うことなく、僕の着ている浴衣の襟を掴んでそれを緩くはだけさせる。

「っ、な、直輝、くん……っ! や……っ、ダ、ダメ、だって……!」

 流石に直輝くんが本気でヤる気になったのを感じ、慌てて直輝くんがはだけさせた浴衣の袂を閉じようと掻き寄せる。だが、直輝くんはそんな僕の手を掴むと、易々とバンザイの格好で床板の上に縫いとめてしまった。
 そして片手で僕の両手首を纏めて掴み、動きを封じると直輝くんは僕の上でニヤリと不敵に笑う。暗闇と、神社の社の屋根、そして木々の枝が直輝くんの背中越しに見える。それらと相まって、直輝くんの笑みは酷く凄みを帯びて見えた。

「変な男共に茶々入れられないように、俺がお前に魔除けの印つけておいてやるよ。」

 くつくつと肩を揺らして笑い、直輝くんはペロリとその唇を舐める。その仕草がやけに肉食獣のような凶暴さを含んでいて、僕は怖さから少しだけ体が竦む。だけどそれだけじゃなくて、体の内側からなんともいえないゾワゾワとした歓喜にも似た感情が這い出してきた。そして怖いはずなのに、何か下半身が妙に熱くなって来て、僕は自分の体のだらしなさをまた嫌になるくらい知ってしまう。
 そんな僕の内面の変化を知ってか知らずか、直輝くんの顔がゆっくりと降りてきて僕の唇を奪い、ねっとりと舌を差し込んでくる。
 直輝くんの舌の感触と、熱さに、僕の体は簡単に熱くなっていく。しかも、今のこの状況、つまり野外でいつ人が来るかもしれない状況、が更に僕の中にある羞恥心を刺激して、変な快感を僕の中に生み出した。

「……っ、ぁ、はぁ……っ。ん……っ。」

 直輝くんの舌が執拗に僕の舌を嬲り、吸い込み、口の中を舐められるとどうしても感じているような甘い声が吐息と共に漏れてしまう。その自分の声に慌てて、これ以上声を出すまいと抑えようとするが、直輝くんに口を奪われている状態では唇を噛み締めるわけにもいかなくて、しかも手も直輝くんに押さえつけられてしまっているしで、どうしても緩く開いた部分から吐息が漏れてしまった。
 それがまた僕の羞恥心を煽って、本当に悲しくなるくらい僕の体は更に熱くなっていく。
 しかもさっきまでの直輝くんの触り方やキスの仕方がどれだけ子供だましな、からかい半分のものだったのか今更ながらに理解して、それが更に僕の体温を上げた。
 だって、直輝くんも明らかに興奮しているらしくて、密着している直輝くんの体は凄く熱くなっているし、何よりまるで飢えているみたいに深く濃厚に唇を合わせてくる。零れる息は荒いし、しかも、押し付けられる直輝くんの下半身が如実に興奮している事を物語っていた。
 薄い浴衣の生地越しに、直輝くんの厚手のジーンズの向こうにある下半身の膨らみと熱さが強く感じられる。
 そしてそれを直輝くんは故意的に僕の太ももに押し付け、腰を小さく動かしたりなんかする。
 こういう時、本当に直輝くんは、僕の扱いが上手いな、って思う。
 こんな風に求められて僕が酷く拒絶する事なんて出来ないって解ってるんだもん。

「ん……っ、ぁ、なお、っく……んっ。」

 と、突然、今までガツガツと唇を貪っていた直輝くんの唇がまるで焦らすかのようにゆっくりと僕から離れる。だけども、薄く触れ合ったまま直輝くんの唇は僕の頬に移動し、柔らかくそこにキスを落としながらまたゆっくりと僕の首筋へと頭を移動させていく。
 気がつけば床板に押さえつけられていた筈の僕の両手は自由になっていて、変わりに直輝くんの手が僕の体を浴衣の上から荒々しく撫でていた。
 もうここまで来て直輝くんを僕の上から押しのける事なんて僕には出来ない。
 体は直輝くんの愛撫に敏感に反応しているし、何より、もう力なんて入らなかった。
 段々と移動していた直輝くんの頭が僕の肩口に埋まり、そしてそこで止まると、直輝くんの唇が僕の首筋を吸う。ピリッとした痛みのような電流が僕の体に走った。

「ん、んんっ……っ。ふ……あっあ……んっ。」

 今までにないくらい強く首筋を吸われ、そして歯を立てて小さく噛まれ、僕は堪え切れない喘ぎ声を零す。微かな痛みはあったが、それと平行してピリピリとする快感が首筋から体の中へ流れ込んできた。
 何度も吸ったり、離したり、歯を立てて噛まれたり、その部分を執拗に直輝くんに嬲られ、僕は自由になった手を口元に当て、自分の指を甘く噛む。そうする事で少しでも大きく喘ぎそうになる自分を押し留め、じんじんする快感を我慢する。
 だけど直輝くんはそんな僕の手をまた剥がしにかかった。
 浴衣の上から乱暴に僕の体を弄っていた片手を持ち上げると、口に当てている僕の手を握り無理矢理そこから引き剥がす。

「っ……ふ、や、直、き……くっ。」
「我慢するなって言ってんだろ? 聞かせろよ、声。」

 抗議の声を上げると、直輝くんは僕の首筋から漸く唇を離しまたそんな意地悪なことを言った。もう、どうしてこんな意地悪なんだろう。もし誰か来たら、直輝くんはどう繕うつもりなんだよ。
 そんな思いを込めて、唇を噛み締めると横目で直輝くんを睨みつける。
 だけど、それは直輝くんには逆効果だったみたいだ。
 僕の視線を平然と受けただけでなく直輝くんは、暗闇でもはっきりと解るくらいニヤリと凶悪な顔で笑う。

「それ逆効果だぜ? お前がそんな顔したら余計に鳴かせたくなっちまう。」

 くすくすと喉を低く鳴らして笑い、そんな恐ろしいことを口にする。
 そして直輝くんはまた僕の首筋に顔を近づけると、今度はカリッと音がするくらいきつくその部分を噛んだ。

「いっ、痛……っ!」

 僕が痛みの声を挙げると、直輝くんが少し笑った気配がする。その気配に僕はちょっとだけムッとした。
 だけど、すぐに直輝くんの舌が今噛んだ部分をゾロリと舐めあげ、吸われると抗議をするどころじゃなくなってしまう。
 その上、直輝くんの手が動きさっきまで浴衣の上を這い回ってたそれが太ももへと伸び、浴衣の裾を割って中へと進入してきた。

「っ……ぁ、ん、んん……っ!」

 直に太ももを直輝くんの肉厚な手で撫でられ、そして、指先でくすぐるように触られる。
 それだけで僕の下半身には更に血液が集まっていき、自分でも解るくらい体が熱くなっていった。

「蒼衣、体熱くなってきてるぞ。イイんだろ?」

 僕の体の変化を楽しんでいるようなくすくすと言う直輝くんの笑い声が耳に掠めるように聞こえ、しかも直輝くんはそんな意地悪な言葉を僕の耳に囁く。
 カァッと体中が羞恥心に燃え上がり、それと同時にドクンと僕の中心が下着の中で返事をするように跳ねた。それがまた恥ずかしくて、僕はいやいやをするように頭を振る。そのせいで髪に挿していた簪が外れ、髪留めも床に擦れてずれていく。
 折角奥さんが綺麗にセットしてくれた髪型が崩れてしまうのが少しだけ悲しくて僕は、唇を噛むともう一度直輝くんを見る。
 だけど直輝くんは僕のそんな顔を見て、またくすりと笑うと僕の噛み締めた唇にその唇を落としてきた。柔らかく唇を吸われ、ペロリとその舌で舐め挙げられる。そのまま唇は薄く触れ合ったまま、直輝くんは僕の瞳を直近で覗き込みながら口を開いた。

「言ったろ? お前のそういう顔はそそられるから逆効果だって。」
「っ……、う、で、でも……っ!」

 肉食獣の獰猛さを持ってさっきと言い方は違うけど同じ内容の事を言われ、僕は何か言い返そうとするが上手く言葉にならない。
 だけどそれ以上に、神社の表の方から人の声が聞こえたような気がして僕は息を呑んだ。
 直輝くんもどうやらその声が聞こえたようで、僕から視線を外し、少しだけ体を起こすと顔を声のする方、つまり僕の頭が向いている方へと向ける。

「……ね、だ、誰か来た……みたいだよ……?」
「……そうみたいだな。」

 神経を尖らせ、意識を全て微かに聞こえてくる人の声へと集中させた。そうしながら、小さな声で直輝くんに言うと、直輝くんは少しだけ苦笑しながら僕の言葉に同意を示す。
 だけど全然僕の上から退けようとはせず、僕は訪れた人達が拝殿の裏に回ってこっちに来るんじゃないかと冷や冷やしてしょうがなかった。だって声は遠のくどころかゆっくりとだけどこちらに近づいてきてるように聞こえたから。

「な、直輝くん……、あの……。」
「しっ。静かにしてろって。」

 せめて上から退いて貰えないだろうかと、勇気を振り絞って声をかけると直輝くんの手で口を塞がれる。
 あれだけ人が来たら見せ付けてやれ……とか色々と豪胆な事を言ってたのに、実際に人が来たら僕の口を塞いで静かにしろってどういう事だよ……とか思っていると、直輝くんの視線が僕へと戻ってきた。
 そして僕の瞳を覗き込み、ニヤリと笑うとその笑みを浮かべたまま僕の顔に直輝くんは顔を近づけてくる。

「……蒼衣、耳を澄ませてみろよ。」

 囁くような声で僕にそう言うと、直輝くんはまた悪戯っぽくニヤリと笑い、視線をまた声の聞こえてくる方へと向けた。
 その直輝くんの言葉に疑問符を浮かべながら、それでも、僕は意識を声のする方に向けそれに集中する。
 微かに聞こえてくる声は、離れている為か少し聞こえ難いけどどうやら男の人と女の人の声らしかった。くすくすと互いに笑う声も漏れ聞こえてきたがそれ以上に女の人の、ダ〜メ、とか、やぁん、とか言う甘えた声が風に乗って途切れ途切れに聞こえてくる。
 その聞こえてくる内容から想像するのに、どうやらこの神社に訪れたのは恋人同士のようだ。

「……ここはな、穴場なんだよ。恋人同士にとってな。」

 僕が聞こえてくる声に意識を集中していると不意に直輝くんがくすくすと笑いながら小声でそう言い始める。
 その言葉の意味が解らなくて、僕が直輝くんに視線を戻すと、直輝くんは口元を意地悪に歪めた。そして、直輝くんはきょとんとしている僕に向けてもう一度くつりと声に出して笑うと、僕の首筋にまた顔を埋めてくる。

「ちょ……っ、直き……もがっ!」

 行為を再開しようとする直輝くんに驚き、僕が声を挙げそうになると直輝くんの手がまた僕の口を塞いだ。
 塞がれた口をそれでももがもがと動かし直輝くんに抗議をするが、直輝くんはそれを少しくすぐったいとでも言うように手を小さく動かしただけで、首筋に加える愛撫を止めようとはしない。それどころか、もう一方の手を僕の浴衣の中へと忍ばせ、さっきしていたように太ももを撫でたり、揉んだりする。
 その手の動きに僕は驚き不覚にも抗議のもがもがを止めてしまう羽目になった。
 直輝くんの手はいやらしく僕の太ももを触る。その手の動きに僕は抗いたいけど、でも、抗えなくて勝手に力が抜けていく体を忌々しく思う。
 それに、僕の弱い所をすでに熟知し、それを的確に攻めてくる直輝くんに対しても悔しい思いが湧き上がってきた。
 だって直輝くんってば本当に触るのが上手で。首筋にある直輝くんの唇も、肌を這う舌の動きも、僕の体から確実に抵抗する力を奪っていく。
 なんでこんなにも僕は、うぅん、僕の体はだらしがないんだろう。
 こんな場所で、しかも僕の位置からでは姿は見えないけど確実にそんなに遠くない場所には人が居るっていうのに。
 それなのになんで直輝くんを跳ね除けることも拒絶することも出来ないんだろう。
 しかも僕の体はどんどん直輝くんを受け入れる体勢が出来ていく。
 直輝くんの唇が僕の首筋を這い、その舌が僕の肌を舐めると、もうそれだけで僕の背中には快感の電流が走る。それと共に体温がどんどん上がっていき、直輝くんの手に塞がれている口からは堪えきれない熱い吐息が零れてしまう。
 太ももだって直輝くんに触られて、強く揉まれればびくびくと反応を返すし、その近くにある僕の欲情を示す場所だって下着の中で直輝くんを求めて震えている。
 あぁ、もう、本当に僕って、なんでこんなにも簡単なんだろう。過去の経緯があると言っても流石にこの状況でさえこんな風になる自分が自分で嫌になる。
 ふと気がつくと、僕の体は完全に直輝くんに服従し、抵抗をする事を放棄していた。体は完全に弛緩し、両手はくったりと濡れ縁の床板の上に投げ出されている。直輝くんが触れている脚は、直輝くんを受け入れるかのように開き、もどかしさに直輝くんの体へともじもじと膝や太ももを擦り付けていた。
 そんな僕の体が勝手に起こしている反応に僕は情けなさが込み上げてくる。
 だからこそ必死になって、直輝くんの愛撫に派手に喘がないように声を抑え、直輝くんの手で覆われている唇をきつく噛み締めた。
 幸いさっき聞こえてきた恋人同士と思しき声の主達はこちらまでは回って来なかったみたいで少しだけ安堵した。でも、僕の頭の先にある表側に向かう角を曲がればそこにその二人は居るような気配がする。
 なにせさっきよりも近くにその恋人同士の声が聞こえてきてるような気がしたから。
 しかも、その……、あれだけ女の人は、ダメ、だとか、やぁだ、とか言ってたのに、今聞こえてくる声は……、その……凄く困った事に確実にアノ時に出すような甘い、艶っぽい喘ぎ声だった。
 まるでAVを見ているようなその女の人の艶っぽい声に僕は今自分が直輝くんにされている事もあって、余計にドキドキと胸が脈打つ。
 まるでシンクロするように見えない場所で喘ぐその彼女に、僕の体は直輝くんに触られているだけでない熱さが込み上げて来た。

「……っ、ふ、……ぁん……っ。」

 意識が彼女の挙げる嬌声と、直輝くんの触れる箇所へと知らず知らずの内に集中してしまう。そのせいで、僕は必死になって噛み締めていた唇がほろりと解け、堪えていた声が直輝くんの手のひらに向けて零れてしまった。
 その僕の声に直輝くんがわざとらしく顔を上げる。
 そしてどこか酷く興奮したような顔で僕の顔を見下ろし、僕の口を覆っている手を外した。

「蒼衣。」

 囁くように小さい声で直輝くんが僕の名を呼ぶ。
 それだけでまた僕の体にはジンジンとしたいやらしい電気が走り、綻びた唇から返事をするように甘い息が漏れた。

「ぁ……んっ。」
「……いやらしい顔してるな。」

 直輝くんが意地悪を言うように顔を歪めそう僕に囁く。その言葉に、どっちが、って思ったけど今の僕にはそれを言葉にする事なんてもう出来なかった。
 ただ、直輝くんにもっと触れて欲しくて床の上に投げ出していた手を持ち上げると、直輝くんの鍛え上げている背中へと回し抱きつく。そして、自分から直輝くんの唇に噛み付くようにキスをした。

「んっ……ちゅ……っ、んん……っ。」

 ハッハッと獣の息遣いを合わせた唇の合間から漏らしながら、僕はこの年になって初めて覚えたキスを直輝くんにする。
 舌を直輝くんの口の中へと挿しいれ、いつも直輝くんが僕にするように直輝くんの舌に自分の舌を絡めた。そして、くちゅくちゅと音を立てて絡め、吸い、何度も何度も角度を変え、位置を変えて深く深く、口から直輝くんと同化出来たらいいな、と思いながら唇を合わせる。
 そんな僕からのキスに直輝くんは当たり前のように応え、僕の体を抱きしめ返しながら直輝くんもまたガツガツと飢えたように舌を絡め、吸い付いてきた。
 直輝くんとする情熱的なキスは、僕の体にある官能をどんどんと引き出してくる。
 もうここが外である事も忘れ、少し離れた場所に体を絡ませている恋人同士が居る事も忘れ、ただがむしゃらにひたすらに僕も直輝くんも互いの唇を貪りあい、体をその手と腕で撫で擦り、抱きしめていた。
 じんじんとした快感が体中を駆け巡り、僕は自分から足を直輝くんの足へと絡ませる。
 浴衣がめくれ、素足の部分が直輝くんのジーンズに触れると、それがもどかしくて僕は直輝くんの背中に回していた右手をそっと下へと下ろす。そのまま直輝くんのジーンズの前ボタンの場所まで移動させると、指先を器用に操ってボタンとジッパーを下ろした。

「ん……っ、いいのか? 蒼衣。」

 僕の手がジーンズの中へと忍び込もうとした瞬間、直輝くんは僕の唇から逃げ、そして直輝くんの股間にある僕の手首を緩く掴む。そして、そう僕の耳元に囁いた。
 直輝くんの低い、掠れた声に僕はそれだけで堪らなくなり、コクコクと頷く。

「いい、よ。だって、僕、もう……。」
「蒼衣……。」

 直輝くんの確認に僕は頷くだけではなく小さな声でそう返答をする。そして、自分の中心を直輝くんの足へ擦り付けた。
 僕のアソコはもうはしたないくらい膨れ上がっていて、浴衣の下で下着を押し上げ先端は湿っていた。
 ジーンズ越しでその感触を悟ったのかどうか、直輝くんはゴクリと生唾を飲み込むとまた僕の体を包むように覆いかぶさって来る。
 そして荒々しく手を動かし、僕の浴衣の裾を乱すとその中へと両手を突っ込む。そのまま僕の下着に手をかけると一気に僕の下着を脱がした。

「……っ、ん。」

 流石に下着を脱がされると夜気に肌が晒され、忘れていた羞恥心が蘇ってくる。だけどもうこの羞恥心は僕の欲情に油を注ぐだけだった。
 僕は先程止められた手を動かし、直輝くんのジーンズの中へと手を入れる。そして下着越しに感じる直輝くんのアレの熱さと硬さにうっとりとしながら、下着をずらし、その中から直輝くんの欲望を取り出した。

「……凄いね。いつもよりドクドク言ってる。」

 直輝くんのモノを手で掴むと手のひらにダイレクトに直輝くんの熱さと硬さ、そしてその中を脈打つ血液の鼓動が伝わり僕はゾクゾクしたものを感じながら思わず小さい声だったがそう呟いてしまう。その僕の声が聞こえたのか直輝くんは僕の耳元で生唾を飲み込んだ。ゴクリと言う生々しい音が聞こえ、それがまた僕の欲情を煽る。

「ね、直輝くん……、コレ、口でシていい……?」

 手に感じる熱さと直輝くんから感じる興奮に僕は堪らなくなり、そうおねだりを口にした。
 すると直輝くんは無言のまま体の位置をずらすと、僕の顔の前にソレを持って来た。目の前に直輝くんの隆々と勃ち上がっている欲望の塊が曝け出されると僕はソレに夢中になってむしゃぶりつく。
 先端を口に含み、滲み出している先走りを舌先で掬い飲み込むと口の中に汗と先走りのしょっぱさが広がる。その味と、お風呂に入らずにしているせいで尚一層強く感じる直輝くんの汗などの匂いに、僕は興奮で少しくらくらしながら直輝くんのモノをしゃぶり続けた。
 先端だけでなくその全部を口の中に飲み込み、くびれている部分に舌を這わす。ピリッと舌先に強い塩気を感じながら上あごと下あごの部分でしごくように顔を上下すると頭上で直輝くんが小さく息を呑んだり、声を押さえて呻くような吐息が聞こえてきた。
 それが凄く嬉しくて僕は両手も添えて尚一層激しく直輝くんのおチンチンを口いっぱいに頬張った。

「ん……ちゅ、ぅん……っ、はむ。」

 顔を横に傾けて直輝くんの竿の部分を甘く噛みながら、血管が太く浮き上がっているソコに丹念に舌を這わす。そして、根っこの部分を指先で作った輪っかで擦ると、堪らない様な呻き声が直輝くんから聞こえてくる。
 それは明らかに感じているような呻き声で、息遣いもどんどんと荒々しいものになっていた。
 僕のする事で直輝くんが感じてくれるのは本当に嬉しい。
 だからもっともっと気持ちよくなって欲しくて僕は、ちょっとずつ体を起こす。今のままだと体勢的に無理が出来ないから、大した事は出来ない。だから、体を起こして上か、真正面から直輝くんのモノをフェラ出来るようにしたかった。
 直輝くんも僕の行動の意味を悟ったのか、僕が顔を持ち上げ、体を起こすようにするとそれに合わせて直輝くんも体の位置を変えてくれる。僕の体に覆いかぶさっていた体は完全に上から退け、僕の体は自由になった。
 そのまま徐々に体の位置を変え、口には直輝くんのモノを咥えたまま僕は腰を下ろした直輝くんの股間に顔を埋める格好になる。
 乱れた髪の毛が顔に落ちてくるのを片手でかき上げて押さえながら僕はゆっくりとストロークを始めた。喉の奥を絞り、舌全体で直輝くんのおチンチンを包むようにしながら、上下に動かすと直輝くんの零す息が更に荒いものへと変わっていく。

「んっ、んっ……、くちゅ……っ、む、……んっ。」

 リズムをつけて頭を動かし、時折犬歯で甘く先端を噛む。それだけで直輝くんのおチンチンの先端から滲み出る先走りの量が増え、口の中をしょっぱさが満たしていった。
 その味と口の中に感じる直輝くんの熱い鼓動が僕の欲情も煽りたて、浴衣の下で僕のアレは触ってもいないのに破裂寸前になる。
 自分でも我慢できない程零れる息は興奮してて、直輝くんが零す息よりももっと荒くて、少し恥ずかしい。
 と、直輝くんが少し身動ぎしたかと思うと、突然、直輝くんの手が僕の浴衣の中へと突っ込まれた。
 そのまま僕の下半身を撫で、その感触に震える間もなく直輝くんの手は僕の破裂寸前のモノを握り締める。

「っ……! ん、んん……っ、ふぁ……ぁっ!」

 根元を強く握られ、その場に欲望を押しとどめられてしまう。
 それが強い快楽をもたらし、射精できない苦しさと相まって僕は思わず口から直輝くんを離すと、ビクンと背を仰け反らした。
 そんな僕に直輝くんは浴衣の帯を持つと、僕を無理矢理立たせる。
 がくがくと足が揺れまともに力の入らない僕が立てる筈もなく、ふるふると頭を振ると、直輝くんは僕の体を無理矢理反転させ拝殿の壁に押し付けた。
 背中を壁に支えられる形で直輝くんに誘導され僕が漸く半腰で立つと、直輝くんは何を思ったのか僕の浴衣をペロリと捲る。
 浴衣の中にさぁっと風が入り込み、僕はそれだけでブルブルと快感で体が震えてしまう。

「……もうイきそうみたいだな。」

 僕の中心を見てくつりと笑う声が聞こえ、そして直輝くんに何もかも見透かされたような言葉を投げかけられる。
 その声と言葉にさえも僕の体は反応し、恥ずかしさに瞳を伏せ、唇を噛んだ。
 そんな僕を直輝くんは上目使いに見ると、もう一度くすりと笑う。
 だけど次の瞬間、直輝くんは捲っている僕の浴衣の中へと頭を突っ込むと、僕のモノをその口に含んだ。
 直輝くんの生暖かい唇と、ぬるっとした咥内の感触、そして少しざらつきのある舌に僕のモノは瞬間的にイきそうになる。
 でも、それは叶わなかった。
 相変わらず直輝くんの指がキツク僕の根元を締め付けていて、僕が射精(イ)くのを無理矢理止めていたから。
 射精をしたい、という狂おしいほどの欲求と、そして、僕自身が感じる直輝くんの口の中の感触と快感に僕はどうしていいか解らない。
 ただ、息も絶え絶えに荒い吐息を零し、否が応でも目に入る景色にここが外であるという事実に大きく喘ぎそうになる口を必死になって両手で押さえて留める。それだけじゃまだ喘ぎそうになるので、僕は口の中に指を何本か突っ込み、それを噛みながら小さく、んっ、んっ……っ、と吐息を零した。
 そんな僕を相変わらず直輝くんは上目使いに見ながら、慣れないフェラをしてくれる。
 先端を舐め、口に含み、全体を口でしごく。それが震えるほどに気持ちよくて、でも、直輝くんの手と指に射精は止められていて、行き場のない感覚に僕はただただ声を出さないように気をつけながら悶えることしかできない。
 そんな下半身から湧き上がる行き場のない快感の苦しさに涙目になりながらも、それでも、直輝くんがこうして僕も喜ばそうと思っていてくれる事が凄く嬉しい。でもその反面、物凄く申し訳なく思う。
 元々ノーマルの直輝くんだから、本当は自分についてるのと同じ形の僕のモノを舐めるとか口にするとか、絶対に嫌な筈なのに……。
 普段家でエッチをする時も、直輝くんは僕に凄く気を使ってくれる。
 愛撫をされた事なんてなかった僕が怖がらないように優しく丁寧に僕の様子を見ながら愛撫はしてくれるし、挿入だって、僕の体の準備が十分整ってからだ。
 だからこそ余計に、こんな僕にどうして……? といつも思う。
 僕の育った施設では、僕は性欲旺盛な盛りの子供達(自分も子供だったけど)や叔父さんを始め施設の職員である大人の男の人達の性欲処理用の玩具、便所として生きてきた。
 叔父さんにはそう言われて育てられたし、その叔父さんにそう調教された。
 だから準備が整ってなくても僕の体は突っ込まれれば、それ相応に感じるように反応するように出来上がってる。求められれば自分で後ろをほぐす事だって厭わない。いや、寧ろそうしなければ僕の体が持たない。
 勿論、僕自身が後ろをほぐすのを相手が待てない時だってある。そんな時は当然、ほぐれてない後ろにローションやオイルを少し振り掛けただけで無理矢理挿入されてしまう。少量の潤滑油だけでは全然潤いは足りなくて、そもそもアソコが開いていなければそりゃ凄く痛いし最悪入り口が酷く切れる事もあるけど、それでも、何度か突かれている内に体が勝手に反応して、自分の意思とは関係なく声だって出るし、アソコだって腸液や相手のカウパー液、精液、血液なんかで滑りが良くなる。前だって、触られなくても後ろに突っ込まれれば反射のように勃起する。
 ……そりゃ突っ込まれてるだけじゃ射精まではイけなかったし、後ろだけでイク事もなかったけど……。
 だけど、後ろは確実に男の人の性器に感じてたし、イケなくても別段僕自身は不満を感じることもなかった。だって、僕がイクとかイかないとかってのは重要じゃなくて、相手の男の人が僕の体や口や手で性欲を発散出来るかどうかが当時の僕には最大の重要課題だったから。
 それに、相手を満足させられなかったら、暴力と罵声が浴びせられ、ご飯も数日抜きにされる。成長期だっただけに、ご飯抜きだけは流石に避けたくて、少年時代の僕は相手を満足させる事に心血を注いでいた。そして注ぐように叔父さんに強要されていた。
 だから自ずと自分からエッチに対して貪欲になったし、相手を喜ばせる為の技術を自分の体に仕込む叔父さんの言いなりになってきた。
 そんな風に男として色々とダメな僕だし、直輝くんにこんな風に優しく触ってもらう資格なんてない僕なのに、なんで毎回毎回こんなに時間をかけて直輝くんは僕まで気持ちよくしてくれるんだろう。
 僕は直輝くんが僕の体や口で気持ちよくなってくれたらそれだけで本当に嬉しい。だから、僕自身の体をこんな風に愛撫してくる直輝くんには未だにどうしても戸惑ってしまう。そりゃ物凄く嬉しいけど、本音を言えば、凄く不思議だし、申し訳ないし、それにやっぱり相変わらず怖い。
 それでも何で愛撫をするのかって直接直輝くんには恥ずかしくて聞けない。それに今更、それが怖いとも言えない。
 僕が愛撫を怖がっている、される事に抵抗があるというのは直輝くんも知っている。最初に直輝くんと体を合わせたあの日、あの後、僕は直輝くんに施設でどんな風に施設の職員やそこに居る少年達に体を与えていたのかをほんの少しだけど説明した。その折に、僕は愛撫される事は凄く怖いっていうのも伝えてある。
 なのに、僕が自分の欲望に負けて直輝くんにエッチを求めた時、最初こそ凄くサディスティックに僕を虐めてたけど、途中から直輝くんは人が変わったように物凄く丁寧に愛撫をしてくれた。
 その時に直輝くんに、怖いか? って聞かれて、僕は思わず、頷いてしまった。そしてその後に、取り繕うように、直輝くんに触られるのは好きだ、って付け加えた。
 ……でも実は、あれ、本当は少し違う。
 確かに直輝くんに触られるのは相変わらず怖かったりするけど、でもそれでももっと触れて欲しいって思うけど、あの時は、お腹に当たる直輝くんのアレが凄く熱くて、硬くて……。恥ずかしい話だけど僕は、早く直輝くんが欲しくて欲しくて。あの時は、一度は二人とも射精した後だったけど、まだ直輝くんのモノ自体は僕のナカに一度も入ってなくて、だからそれを挿れて欲しくて、直輝くんのモノで後ろを犯して欲しくて……。
 怖さよりもそっちの欲求が強くなっていたから、思わずあんな取り繕った言葉を言ってしまった。あの時の直輝くんは僕の言葉をそのまま受け止めてくれたみたいだけど、実際の僕は怖くて怖くて仕方なくて、だけど、直輝くんが欲しくて欲しくてどうしようもなかった。
 その相反するといってもいい感情が、結局僕に恐怖心を抑える方法を教えてくれたのかもしれない。
 あの時の僕は、必死になって怖さを押さえつけ、頭の中を直輝くんで一杯にした。
 たったそれだけで僕は、愛撫される恐怖を薄れさせる事が出来た。
 だけど、やっぱり戸惑いは残る。
 今もこうして直輝くんに口でシて貰っていると、本当にいいのだろうか、と言う思いが凄くこみ上げてくる。
 僕が直輝くんを気持ち良くさせなきゃいけない立場なのに、今の僕は直輝くんに気持ち良くして貰っている。それが嬉しいよりも申し訳なくて、怖くて、だけど、嬉しくて……頭の中がぐちゃぐちゃになってしまう。
 そして、そんな感情さえもトンでしまいそうなくらい、今、こんな場所で直輝くんにアソコを舐められるのが恥ずかしくて、気持ち良くて、良すぎて可笑しくなってしまいそうだった。

「っ……はっ、ぁ、ぁう……ん……っ、は、はぁ……っっ。」

 必死になって指を噛み、声を抑えようとするけど、どんどんとそれさえも難しくなってくる。
 申し訳なさと怖さと恥ずかしさと気持ち良さが頭の中でぐちゃぐちゃに混ざり合い、僕が僕であると言う意識さえもトンでしまいそうだった。
 それが解っているのか解っていないのか、直輝くんは僕のアソコを執拗にその口で嬲る。
 直輝くんの口と僕のモノから、直輝くんの唾液がトロトロと零れ、それが僕の根元を掴んでいる直輝くんの手を汚して、僕の肌の上を流れていく。その生暖かさが段々と外気に触れて冷たくなっていくのが解り余計に僕の体の熱を上げる。
 と、突然直輝くんの口が僕自身から離れた。
 その感覚にさえも僕の体は快感に震え、直輝くんの手の中ではしたないくらいビクビクと僕のモノが脈打つ。それが恥ずかしくて、僕は強く口に突っ込んでいる指を噛んだ。鈍い痛みが、だけど、すぐに快感に変換され、また僕の分身はピクンと跳ねる。

「イきたいか? ……イきたそうだなぁ。」
「っん、はぁっ、はぁっ、なぉ、きく……、僕、ぼ、く……ぅっ。」

 直輝くんが意地悪な顔で僕を見上げながら、僕のアレを指先で先端から握り締めている根元までをツツツ……ッと這わせ、そんな事を聞いてきた。だけどすぐに僕のモノがビクビクと震えるのを見て、喉の奥で笑い声を響かせながら意地悪に呟く。
 そんな直輝くんに僕は嫌々をするように頭を振り、口の中に突っ込んでいた指を抜くと直輝くんの頭に置く。そして、柔らかい直輝くんの髪を指に絡めながらぐしゃぐしゃに掻き回す。

「なんだ?」
「も、だめぇ……、ぉねがい……、も、挿れて……っ、おかしく、なっちゃぅ……ぅっ。」

 僕がそう懇願すると、直輝くんは僕を見上げながらニッと口角を上げた。
 そして僕の中心を握り締めたままで直輝くんは立ち上がると、僕の頭の後ろに手を回すと軽く力を込めて僕の顔を直輝くんの顔の位置まで下げさせる。そのまま僕の耳元に唇を寄せると、僕の耳の輪郭に舌を這わせた。

「ぁ……んっんっ……は……ぁ、あ……っ。」
「蒼衣。」

 耳を這い回る直輝くんの舌の感触に僕は震え、甘い声を漏らしてしまう。たったそれだけで僕の体は射精を求め、その熱はまた下半身にどんどんと溜まって行く。熱くて苦しくて、でもどうしようもなく気持ちよくて……。
 だから直輝くんが次に僕の耳に囁いた言葉の意味が一瞬解らなかった。

「……ここ外だけど、マジでいいのか?」

 体の中で荒れ狂う欲望と快楽に溺れ、僕は意味を理解する前にとにかくどうにかして欲しくて、その直輝くんの言葉に何度も頷く。
 それがどれだけリスキーな事なのか、恥ずかしい事なのか、判断できないくらいこの時の僕は意識が混濁していたんだと思う。
 だけど、この時の僕の頭の中はもう直輝くんに突っ込まれたい、後ろをめちゃくちゃに犯して欲しい、ただそれだけだった。
 後ろはジンジンと疼き、解す必要がない程解けているのが自分でも解る。

「ん、挿れてぇ……、早く……、も、我慢、出来ない、よぉ……っ。」

 そう言いながら僕は自分で浴衣の裾を持ち上げていく。そして、ガクガクする足を奮い立たせ体を反転させると、拝殿の壁に手を突いてお尻を直輝くんに向けた。そのままお尻を突き出すようにすると、ちょうど直輝くんのお腹辺りに当たった。その服越しに感じる温かさがまた僕の中の欲情を膨らませ、僕の気持ちを早く早くと追い立てる。
 そんな僕に直輝くんは僕の背後で少し苦笑したような気配がした。
 だけどその気配だけで特に何か言葉は発する事はなく、ただ、無言のまま直輝くんの手が僕の腰を掴む。それだけで僕の中の期待感は膨らみ、後ろはどうしようもなく直輝くんを求めていやらしく収縮を繰り返す。

「ね、はやくぅ……っ、ねぇ、なおきくん……っ。」

 我慢が出来なくて我ながら甘ったるいと解る声で直輝くんをねだる。すると、直輝くんはまた苦笑したようだったけど、僕の腰に手を置いたまま僕に直輝くんのモノを挿れるような素振りを全然見せない。
 そんな直輝くんに焦れて僕は腰を揺すって体でも直輝くんをねだる。
 と、後ろで直輝くんが体を落とした雰囲気が伝わってきた。
 それに、あっ、と思う間もなく僕の後ろの穴に何か酷く生暖かくて、ぬるぬるして、少しざらついたものが押し当てられたのが解る。しかも、お尻の上の部分には直輝くんの髪の毛がさらさらと当たり、くすぐったい。
 だけどそれらの感覚を全部感知する前に、僕は瞬間的に体をねじり、それから逃げようとした。だけど、直輝くんにがっちりと腰を押さえつけられていた為逃げられずに、その部分に直輝くんの唾液をたっぷりと塗り込められてしまう。

「あ……っ! あぁ……っ、ん、んん……っ!!」

 フェラされていた時もそうだったけど、それ以上にどうにも我慢出来ない声がついつい漏れてしまう。
 だけどすぐに僕は壁に突いていた手の片方を持ち上げると自分の口を覆い、その肉を噛んで声を必死になって抑える。
 直輝くんの舌が僕の穴を舐め、舌先でくすぐるようにすると堪らない快感がそこから体中を走った。
 そして、それと同時にふと、お風呂に入っていない、と言う事実が余りにも無残に僕の脳裏に浮かぶ。その瞬間に僕の体は快感よりも羞恥の熱が走り回り、慌てて直輝くんの顔をそこから離そうと口を覆っていた手を後ろに回した。そのまま直輝くんの頭に手を置くと、必死になって腕に力を入れて引き離そうとする。

「ぁ……っ! だ、めっ……、や、そこ、舐めちゃ、だめぇ……っ! 汚っ……からっ! だめぇ……っ!」

 何度もダメ、ダメ、とうわ言のように繰り返し直輝くんの頭を押す。だけど、今の僕には満足に力を入れることが出来ない。
 直輝くんの頭は当然離れる事無く、僕に押し返されたことにまるでムキになったかのように顔を更に僕のお尻に押し付けてきた。その上、僕の窄まりにその舌先をぐりぐりと差し込もうとする。

「ひぁ……っ、ぁ、あ……っ、やぁ、ダメぇ……っ! あ、ぁはぁ……ぁあぁっ!」

 直輝くんの進入してくる舌に、はしたないくらい感じてしまい声を抑える間もなく僕の口からは野外だというのに歓喜の甘い声が漏れた。
 しまった、と思った時にはもう遅く、お尻がビクビクと痙攣を起こし強い快感が脳天を突くようないままで感じた事のない絶頂を迎えてしまう。
 射精を伴わないこのオーガズムに僕の体は、ピクン、ピクン、と跳ね、足がガクガクと今までにないくらい揺れ、一気に体から力が抜けていった。ガクン、と壁に突いていた手が落ち、そのまま直輝くんに抱きしめられている腰はそのままに、僕の上半身はずるずると拝殿の壁に沿って下へと落ちる。

「ぁ……はぁ、はぁ……っ、ぁっ! ぁあん……あはぁ……はぅ……ぅあっ!」

 頭が拝殿の床に突くまでくたりと崩れ落ちたが、直輝くんはそんな僕に頓着する事無く続けて僕の後ろの窄まりをその舌でぐりぐりと堀り、唾液をなすりつけながら出し入れしていた。
 それにまた軽くオーガズムを迎え、僕は自分の唇の端からたらたらと零れる涎を拭うことも出来ず、ヒクヒクと小さく痙攣を起こしながら呆然としてしまう。
 幾ら直輝くんに根元を握り締められているとは言え、まさかこの状態でイくとは思わなかった。
 しかも射精せずに、イくなんて全く考えたこともなかった。
 だけどそれを深く考える前に、また直輝くんの舌の動きで絶頂を迎えそうになる。

「……っ、ひあぁ……っ! やぁ……っ、な、ぉきく……っ、も、ダ、メぇ……っ。」

 声を抑えることが出来ず、酷く大きな声で喘ぎそうになるのをそれでも必死になって抑え、僕は呂律の回らない口で必死に直輝くんに止めて欲しいと懇願した。
 言葉だけでは伝わらないような気がして、もう一度直輝くんの頭に手をやり、力が入らないまでもぐいぐいと押す。
 だけど直輝くんにはそんな僕の悲痛さは伝わらず、何故かもっと激しくお尻の穴をその舌でぐちゃぐちゃに掻き回して来た。その度に僕の体が激しい快感が貫き、ビクンッ! ビクンッ! と痙攣を起こす。
 しかも抑えよう、抑えよう、とすればするほど僕の口はいやらしい喘ぎ声を零してしまい、忘れかけていた恥ずかしさが全身を包んだ。仕方なく僕は直輝くんの頭を押していた手を回収すると、自分の口元に持っていき浴衣の袖をくしゃくしゃにして口いっぱいに含み、その下にある自身の腕に噛み付く。
 鈍い痛みが腕から上がってきたが、もうそんな事には構ってられない。
 兎に角これ以上大声で喘がない為にも、僕は必死になって腕に噛み付き、息苦しくても口の中に浴衣の袖を押し込める。
 そんな風にして必死になって後ろから何度も訪れる絶頂になけなしの理性で抵抗をした。
 すると今まで僕の性器の根元を強く握っていた直輝くんの手が離れる。
 途端に今まで抑え込められていた精液が、萎みかけていた僕の先端からドロリと溢れ、零れていったのが解った。それは妙に安堵を伴った射精で。

「んふぅっ……、ふー……ぅっ、ふーッ、ん、ふぅ……ぅぅっっ!」

 思わず僕の口からホッとした息が漏れたが、腕に噛み付いている為それはただの呻き声にしかならない。だけど、その溜息はすぐに激しい呻き声に変わってしまう。
 直輝くんの舌がズルリと後ろから抜け、変わりに直輝くんの熱くて硬いモノが僕の後ろに押し当てられたからだ。
 今まで散々直輝くんの舌でイかされてるのに、ここで直輝くんのモノで犯されたりなんかしたら自分がどうなるかなんて解らなくて凄く怖くなる。
 ふるふると頭を何度も振り、顔を無理矢理捻じ曲げて直輝くんを見上げた。
 だけどやっぱり夜の闇が濃いこの場所では余りはっきりとは直輝くんの顔は見えない。しかも、神社の外灯は直輝くんの背中の向こう側にある為、逆行になって余計に直輝くんの表情は見えなかった。それがまた妙に怖くて、僕は何度も何度も直輝くんに向けてふるふると頭を振る。
 すると僕が怯えているのが伝わったのか、直輝くんは僕の後ろに挿入する前にその体をグッと深く折り曲げてきた。
 そして手を伸ばし僕の頭の後ろに手を回すと、僕の頭を浮かす。そのまま直輝くんはどんどん顔を近づけて来て、僕の頭もどんどん直輝くんに向けて直輝くんの手に押されていく。
 鼻が触れ合うほど近づくと、漸く直輝くんの表情が解った。
 直輝くんは酷く興奮したような顔つきで、その目は血走っているように見える。そして、さっきまで僕のお尻を嘗め回していた舌が、唾液でヌラヌラとてかっているその唇をいやらしく舐めあげた。
 それだけで直輝くんがどれだけ僕を求めているのか、興奮しているのかが解る。

「……蒼衣。俺が怖いか? 怖いなら、嫌なら止めるぞ……?」

 だけど僕の耳元に赤くなった唇を近づけてそう聞いて来た。その声は凄く興奮しているくせに、妙に優しくて。
 僕は胸の奥がキューッと締め付けられるような苦しさを味わう。
 苦しくて、でも何故か凄く幸せな気持ちになる、この胸の痛みに僕は口に含んでいた浴衣の袖を離した。
 そして僕は自分から直輝くんの唇に自身の唇を重ねる。
 ふっと自分自身の体液と体臭の強い匂いが鼻を掠めたが、気にせず深く唇を合わせ直輝くんの舌を絡めとり強く吸う。それだけで自分の口の中は自分の味が広がり、少しだけ直輝くんに申し訳なく思う。だけどそれ以上に僕は今感じていた恐怖心が霧散し、興奮が頭をもたげてくるのが解った。
 暫くそうして自分の味を感じながら直輝くんとキスをし、その自分の味がなくなる頃に漸く直輝くんの唇を解放する。

「……ん、大丈夫……。お願い、僕の中を直輝くんで一杯にして……?」

 少しだけ名残惜しそうに直輝くんの唇を舌で舐めながら、そう直輝くんに熱っぽい声でおねだりをもう一度した。
 すると直輝くんが嬉しそうな、困ったような複雑な顔で笑う。
 どうしたんだろうと思う間もなく、直輝くんは僕の腰をもう一度掴み直すと躊躇する事無く僕の後ろを突き刺した。

「ふぁ……っ、あっ……っ、ふぅうううん……っ!!」

 しっかりと直輝くんの舌と唾液で解され潤っているソコはなんなく直輝くんの全てを飲み込み、強烈な快感を僕の体に与える。
 しかも直輝くんの片手が僕の前に回ってくると、すっかり萎んでしまっている僕の性器を掴みしごき始めた。
 それがまた強い快感を与え、僕はどうする事も出来なくて、野外なのにかなり大きい声を挙げてしまう。

「あっ……あぁあっ、ひゃ……っ、あぁ……んっ、な、き……くん……っ、ぉき……く……っ!」

 喘ぎ声を漏らしながら直輝くんの名前を何度も口にする。それだけでまた僕の体の全てが性感帯になったみたいに敏感になり、直輝くんに触れられている場所全てが気持ちよくなってしまう。
 さっきまで何度も迎えた絶頂とはまた違った絶頂が僕の中を一気に上り詰めてくるのが解る。
 でもすぐにそれを迎えてしまうのが勿体無くて、もっと直輝くんを感じていたくて、僕は自分で自分の手を下ろすと直輝くんが擦っている僕自身の根元を押さえ込む。
 直輝くんが握り締めた時のようにキツクは出来なかったけど、それでも、少しは一気に射精してしまいそうなその感覚を止めることが出来た。

「……イきたくないのか?」

 すると直輝くんが後ろから僕の耳元に顔を寄せるとそんな意地悪なことを聞いてくる。
 だけどそれを否定することは今の僕には到底無理だった。

「ぅん……うんっ……っ、ヤなのぉ……、イきたく、なぃの……っ、なぉ……くんの、もっと、欲しいのぉ……っ!」

 コクコクと直輝くんの言葉に頷き、言葉でもそう言って全身で肯定する。
 そんな僕に直輝くんはまた軽く苦笑をしたようだった。背中からそんな雰囲気がひしひしと伝わってくるけど、そんな事に構っては居られない。
 今の僕の頭の中は直輝くんとのセックスで一杯で、物凄くやらしい事しか考えていなかった。
 直輝くんのモノが僕のお尻を突き刺す度に、僕の口は外だというのにあられもない声を挙げ、もっともっとと自分からお尻を直輝くんに向けて突き出す。そして一度は自分で握った根元の部分を開放すると、今度は僕自身の全部を握り締め直し、直輝くんの手と一緒になって自分を刺激し始めた。
 その僕の行動に、直輝くんは苦笑を深くしたらしい。

「蒼衣、イきたくないって言ってんのに自分で擦ってるぜ? 手つき、めっちゃやらしいし……、なぁ、後ろと前、どっちが気持ちイイんだ?」

 くすくすくす。
 そんな笑い声が僕の耳に届く。
 だけどその笑い声さえも酷く卑猥で、僕は余計に興奮し、感じてしまう。

「はぁ……っ、あ、んっ……っ、どっちも……っ、どっちもィイの……っ、ぼく、ぼく、もぅ、おかしくなっちゃぅ……っ、あぁ……ん、イ、ィ……ッ、イィ、イ……ィ……ッ、イ、クぅ……っィク、あっ、あぁはああん……ッ!!」
「……ッ、蒼衣……っ!」

 呂律の回らない熱が上がった声で直輝くんの質問に夢中で答え、性器を擦る。そして、直輝くんに突き入れられている後ろをもっと掻き回して欲しくてめちゃくちゃに腰を振った。
 そのせいでさっき一度止めた絶頂は瞬く間に僕の体の中を駆け巡り、一気に弾ける。
 直輝くんと僕の手に握りこまれている僕のおチンチンの先端からさっきの射精とは比べ物にならない程の勢いで僕の精液が飛び出した。それは直輝くんの手を汚し僕の手を汚し、そして、拝殿の廊下まで白く汚してしまう。
 僕が射精をしてしまった事で、僕の後ろはキュウゥと痙攣し収縮した。そのせいか直輝くんも急に切羽詰ったような声を漏らしたかと思うと、今まで以上に早く僕の中を出し入れさせ、一番奥まで突き入れると同時に直輝くんの熱い精液が僕のお腹の中を満たしていく。
 その直輝くんの勢いのある射精が凄く気持ちよくて、僕は頭を床に擦りつけながら細く長く喘ぎ声を挙げ、お尻をぐちゃぐちゃと自分で動かした。




 互いに射精をしてしまうと、流石に家でエッチをするのとは訳が違い僕達は程なく正気に戻った。
 さっきまでの狂乱のような熱はスーッと下がり、今更ながらに今の自分達の条項を思い出して、今度は全身の血の気がスーッと下がった。
 その為僕は余りに恥ずかしさに直輝くんの顔も見れず、周りの状況を見る事も出来なくなる。直輝くんと結ばれた格好のままで、僕は両腕を床の上で交差刺されるとその間に顔を埋めて、うぅ……と呻く。
 そんな僕を見下ろして直輝くんは何を思ったのかは解らないけど、僕の中から直輝くん自身をゆっくりと引き抜くと、僕の着ている浴衣の裾をその上に降ろしお尻を隠してくれた。
 そして僕の隣に腰を下ろす。

「……悪かったな、蒼衣」

 僕の頭に手をやり、そっと労るように僕の頭を撫でながら直輝くんはそう謝ってきた。その声色は本当に申し訳なさそうな色が込められていて、直輝くんが心底反省しているのが解る。
 だけど僕はどうしても恥ずかしさから顔を挙げる事も出来ず、ただただ、自分の両腕に向かって呻く事しか出来なかった。
 そんな僕に直輝くんはそれ以上口を開く事はなく、ただ、優しく頭を撫でてくれる。
 その手が凄く心地よくて、でも、恥ずかしくて僕はやっぱり顔を挙げる事が出来なかった。
 と、不意に僕の耳に激しい女の人の喘ぎ声が聞こえてくる。
 しかも明らかに一組だけの声じゃなくて、幾重にも重なるように様々な声質の喘ぎ声が山の中に、神社の境内中に響き渡っていた。
 いや、今までもずっと聞こえてきていたのかもしれない。
 ただ今までは僕はもう自分の事で精一杯で周りの音も風景も何もかもがすっ飛んでいたから、最初の十数分以外は気がついていなかったのだろう。
 だけども、流石にこの声の数は尋常じゃないような気がする。
 そう思いそ〜〜っと顔を挙げる。
 すると、意外に直輝くんの顔が間近まで迫ってきていて、凄くびっくりする。

「ひぁ……っ?!」
「少しは落ち着いたか……?」

 心配そうな顔で顔を覗き込まれ、僕は顔を真っ赤にしたまま小さくコクンと頷いた。
 僕の頷きに直輝くんは、ホッとしたように息を吐くと僕の脇に両手を差込み力の入らない僕の体を起こしてくれた。そのまま直輝くんの隣に座る形になったんだけど、僕は周り中から聞こえてくる嬌声にどぎまぎして落ち着かなかったし、そもそも中出しされているのもあって素直に直輝くんの隣に座ることが出来ない。
 どうしよう、と途方に暮れていると、直輝くんが無言で僕の前にポケットティッシュを差し出してきた。

「……わりぃな。こんな事ならゴム持ってくりゃ良かったな。」

 小さな声で申し訳なさそうにそう呟いた直輝くんに僕はちょっとだけ苦笑をする。
 直輝くんのエッチでコンドームをつけたことは今まで一度もない。それに一度僕が家にあるコンドームを出したら凄く嫌そうな顔をした事があって、それ以降僕の家にあるそれを絶対に使おうとしない。だからと言って自分でコンドームを持ってくるとか、そー言うのはなくて。その事があるだけに、なんとなく直輝くんのこの言葉は可笑しかったのだ。

「なんだよ?」
「え、あ、うぅん、なんでもないよ。……ありがとうね。」

 僕の苦笑が目に入ったのだろう。直輝くんは突然憮然とした表情になると、そうぶっきら棒に聞いてくる。それに僕は慌てて首を振り否定をすると、直輝くんからポケットティッシュを受け取った。
 そして、その中から何枚か纏めて取り出すと、直輝くんには反対側を向いてもらい、僕は簡単に後ろと前の処置を始める。今更だけどこの神社に来ている他の人にも見られてはマズいし、恥ずかしいから僕は拝殿の方を向くと、そっと浴衣を捲り後ろの漏れ出した精液をふき取り、あっちこっちに飛び散った精液も綺麗にふき取る。全部綺麗にした後、ハッと直輝くんのモノの処理をしていない事に気がついた。
 だから慌てて僕が直輝くんの前に回りこみ上目使いで直輝くんを見ると直輝くんは怪訝な顔で僕を見下ろす。

「えっと……、直輝くんのも綺麗にしないといけないから……。」

 そうまるで言い訳をするように早口で言うと、いつの間にかジーンズの中に納められていた直輝くんのモノを出そうとジッパーに手をかける。
 するとその手を直輝くんに押さえられた。

「?」
「いいよ。お前にそれやられたら、またここでシたくなっちまう。」
「え、で、でも……。」

 何故手を押さえられたのか解らず上目使いに直輝くんを見ると、直輝くんは照れたような困ったような顔で僕を見下ろしていて。困ったような声で零された事に、僕はそれでも食い下がると、直輝くんは小さく溜息を吐いた後、僕に顔を寄せてきた。

「……お前ん家に戻った後、たっぷり綺麗にしてくれよ。どうせその時また汚すんだし、な?」

 そして僕の肩を抱き寄せるとそんな言葉を僕の耳に吹き込む。
 直輝くんの言葉に僕は、自然と体が熱くなるのを感じ、頬を赤く染めたままコクリと小さく頷いた。
 そんな僕に満足そうに直輝くんは笑うと、ふと、視線を持ち上げるとあちらこちらに彷徨わす。

「……しっかし、噂には聞いてたがこりゃ想像以上だな。」
「……え? 何が?」

 呆れたような、感心したような声で漏らされた言葉の意味が解らなくて思わず聞き返すと、直輝くんは妙に意地悪な顔で僕に向けて笑いかける。
 そしてまたさっきみたいに僕に顔を寄せてくると、周りには聞こえない程度の声の大きさで僕にその説明をしてくれた。

「だから、言ったろ? この場所は恋人同士とかカップルの為の穴場だって。」
「?」
「……つまり、野外プレイとか青姦したい奴らが集まんの。セックスしたくなった、でも、まぁ金がねぇ、だとか、他人に見られるかもってースリルを求めて、みたいな奴らが来て、ココのアチコチでスる為の場所らしいぜ? そー言う意味でここは結構有名な神社でさ。――ま、最もこの神社を管理してる奴らにとっちゃ迷惑な話なんだろうけどよ。」
「……。」

 ちょっとだけ意地悪な声で最初の方は言われたが、僕が怪訝な表情をすると直輝くんはそれに苦笑を漏らして、改めて詳しく説明してくれた。
 直輝くんが詳しく説明してくれればくれるほど、僕はその内容に唖然としてポカンと間抜けな顔で直輝くんの顔を見返してしまう。
 そんな僕に、直輝くんは小さくまた苦笑をすると、更に僕に顔を近づけ肩を強く抱き寄せられる。傍から見ればまるですっごく仲のいい恋人同士のように肩を抱かれ、顔を近づけられて、僕は今直輝くんから聞かされた内容もあって凄く胸がドキドキしてきた。ポーッと顔は熱くなり、頭の中は直輝くんが今言った言葉がぐるぐると回る。
 野外プレイ、青姦、セックス、恋人同士……。
 ぐるぐる、ぐるぐるとそれらの単語が頭の中を回り、僕の中でそれらの単語はなかなか上手く消化が出来なかった。
 しかも改めて意識をすると、周りには男女のあの時の声があちらこちらから恥ずかしがるでもなくまるで競い合うように大きな声で上がっている。
 獣のような息遣いや、甘ったるい喘ぎ声、微かに聞こえる衣擦れの音……。もっと耳を澄ませば結合部から漏れる水音さえも聞こえてきそうな気がした。

「ぁうぅ……。」

 余りに周りから聞こえてくる女の人の艶っぽい声に僕はなんとも言えない気持ちになり、羞恥心とも興奮とも違うような、でも同じような感情で顔を赤らめ小さく呻いてしまう。しかもそんな声がこんな間近で聞こえてくる事にどうしても男としては生理的に下半身に血液が集まってしまいそうになって……。その事に更に羞恥心を覚えると僕は俯き、座っている足と足の間に手を入れて、その部分をなんとなく恥ずかしさから手で覆う。
 そんな僕に直輝くんはくすりと笑うと、僕の頬に軽く口付けた。そしてそのまま唇を移動すると僕の耳まで持ってくる。

「……蒼衣。……うな?」

 だけどそんな風にちょうど直輝くんが僕の耳に唇を寄せて、小さな声で何事かを囁いたのと、突然、ドーンッと言うと共に上空が明るくなったのとが同時だった。お陰で直輝くんの言葉はその音に掻き消されてしまい、はっきりと聞こえない。
 しかも直輝くんの声を掻き消した山の中にも響く大きな音の一瞬の後、空には一面に大輪の光りで出来た華が咲く。
 その光景に僕は一瞬見蕩れてしまい、今、直輝くんが僕の耳に囁いた言葉よりそちらの方に意識が根こそぎ奪われてしまう。

「わ、ぁあ……っ! 花火始まったね……!」
「……あぁ、そうだな。」

 花火が始まった事でか、一瞬周りに満ちていた男女の喘ぎ声が静かになる。
 だけど僕はそんな事よりも、空を彩るその花火の艶やかさにすっかり目を奪われ、木々の合間から見えるそれらに小さいながらも歓声を上げた。
 そんな僕に直輝くんは僕の肩を抱いたまま、小さく笑うと、同意するように頷き僕と同じように夜の空に咲く大輪の華を見上げる。
 ドーンッ、ドーンッと空気を震わせながら鳴り響く花火の打ち上げ音と、その後に続く、ヒュゥウ〜〜ッ、という空気を切るような音にさえも風流を感じながら、次々に上がる様々な花火を楽しむ。
 その間は何故か周りの恋人達もエッチを控えているのか、妙に静かな、それでいてどこかざわついたような雰囲気がその神社の境内の中に満ちていた。

「綺麗だねぇ。」

 うっとりとそう呟くと直輝くんは僕の隣で、そうだな、と小さく頷く。
 その声に少なからず楽しそうな色が混じっているのに気がつくと、僕はなんとなく幸せな気分になれた。
 こんな場所で勢いのままエッチしちゃった事はとても恥ずかしいけど、それを抜きにしてもこうして直輝くんと肩を並んで花火を落ち着いて見れる事が、とても嬉しい。
 直輝くんとエッチをするもの好きだけど、でもやっぱりこうしてただ並んで傍に直輝くんの存在や体温を感じられる事が凄く幸せで。
 空に上がる花火を見ながらも、そっと視線を直輝くんに向けると直輝くんは瞳を細め、口元を少し笑みの形に緩めて空を見上げていた。
 そんな直輝くんの表情に胸の奥がキュウッと苦しくなって、すぐにホワッと温かくなる。
 本当にただの人形でしかなかった僕にこんな人間らしい感情を与えてくれる直輝くんって本当に凄い。

「……どした?」

 直輝くんの横顔に見蕩れていると、直輝くんが僕の視線に気がつき少し怪訝な表情で僕を見た。それに、えへへ、と僕は照れ笑いをすると、ちょっとだけ勇気を出して直輝くんの肩に自分の頭をコツンと置く。

「蒼衣?」
「……花火終わるまで、ちょっとだけこうしてても良い……?」

 頭に感じる直輝くんの肩の感触にささやかな幸せを感じながら、それでも男にもたれかかられて直輝くんは嫌かもしれないと思い、そう一か八か聞いてみる。
 すると直輝くんは小さく苦笑をした後、僕の肩に置いていた手を僕の頭に持っていくと少しだけ力を込めて直輝くんの肩へ僕の頭を押し付けた。

「好きなだけ乗せとけよ。」

 凄くぶっきら棒に、だけど、どこか温かみを感じる声で直輝くんは僕の頭を肩に押し付けながらそう言う。
 その言葉と直輝くんの声にまた僕の胸はキュウゥッと締め付けられた。
 嬉しくて、でも少し恥ずかしくて、だけどやっぱり凄く嬉しくて、僕は小さく照れて笑うと僕の頭にある直輝くんの手を握り、そのまま僕の顔まで持ってくるとその手のひらに軽くキスをする。

「えへへ……ありがとう……。」

 すり、と直輝くんの手のひらに頬を擦り付け、僕はこみ上げてくる嬉しさにもう一度笑い、直輝くんの手のひらにまた優しくキスをした。
 直輝くんの肉厚な手のひらは温かくて、少しガサガサしてて、骨太な指さえも凄く愛しい。
 指と指を絡めて握り締め、僕はこの幸福な時間がずっと続けばいいな、と思う。
 ドーンッ、ドーンッ、と花火は絶え間なく上がり、空を明るく美しく彩り続ける。
 それを眺めながら、家の中ではなく外で、こうして直輝くんの肩にまるで恋人同士みたいに頭を乗せる事が出来ている今が酷く幸せで、そして何故か少し悲しかった。
 それはきっとどれだけ願ったって、この時間は永遠じゃないって、解っているから。
 僕の幸せはいつだって短かった。
 だから、直輝くんともいつまでこうしていられるかなんて解らない。
 いつ直輝くんに飽きられるか、いつあの事がバレて嫌われるか。それを思うと今はとっても幸せなのに、不安がどす黒く胸の中に広がってきてしまう。
 折角こうして直輝くんに誘って貰って綺麗な花火を見ているのに、勝手に不安になって勝手にいつか来る別れに思いを馳せてしまう僕は本当に馬鹿で愚かだ。
 だけど。
 この直輝くんとの関係がいつまでもずっと途切れる事無く続く、なんて楽天的に思えるほど僕はもう子供でもなかった。

「……直輝くん、本当にありがとうね。」

 それでも、今この瞬間に感じる幸せを噛み締めながら、今日こんな時間を提供してくれた直輝くんにお礼の言葉を小さな声で口にする。
 その僕の言葉に直輝くんが何を思い、何を感じたのかは僕には解らない。
 だけど、直輝くんは僕が握っている手を無言のまま強く握り返してくれて、そして、優しく僕の頭にキスをしてくれた。
 そんな直輝くんに僕はうっとりと微笑むと、もう一度甘えるように、すりっ、と頭を直輝くんの肩に擦り付ける。

「……ような。」

 と、僕の髪に鼻先を埋めている直輝くんが何か小さな声で呟く。
 余りに小さな声で呟かれた為、空に打ち上げられる花火の音にその言葉はかき消され僕にははっきりと届かない。
 視線を持ち上げて直輝くんを見ると、直輝くんは少し怒ったような顔をしててちょっとびっくりする。
 だけど次の瞬間直輝くんは苦笑のような、照れたような複雑な顔で笑うと、僕の手を握り締めたまま僕の頭をポンポンと優しく叩いた。

「また、来年も来ような。花火見に。」

 なんていうか、本当になんていうか、いきなり僕の目の前はパァアァ……ッと曇りが晴れたような気がする。
 一気に僕の心音は上がり、ドキドキと脈打つ胸は痛いくらいだ。
 それって、来年のこの時期までは僕と一緒に居てくれるって事? 僕の我侭に付き合ってくれるって事?
 思わずその言葉が喉まで出かかる。
 だけどそんな事とてもじゃないけど直輝くんに直接聞くことなんて出来なくて。
 僕は直輝くんの顔を驚いたように見つめ返しながら、どう返事をしようかと戸惑う。

「んだよ。嫌なのか?」

 僕がすぐに返事をしなかった事が不満なのか、直輝くんは少し唇を尖らせてそう聞いてくる。
 それに思いっきり頭を左右に振って否定をすると、ドキドキして止まらない心臓を落ち着かせようと小さく息を吸い込む。

「ぅ、うぅん……! あの、えと……っ、直輝くんが良かったら、僕もまた来年一緒にこうして花火見に来たい……! あ、……で、でも……、その、僕となんかとで、本当にいいの……?」

 吸い込んだ息を吐き出す勢いで直輝くんの言葉を否定する。だけど、すぐに僕の心は不安になりもじもじと直輝くんを上目に見上げながら、つい、そんないらない事を口にしてしまった。
 口にしてすぐに、しまった、って思ったけど一度出してしまった言葉は回収する事は出来ない。
 だけどそれでも誤解を招いたり、直輝くんの機嫌を損ねたりしちゃいけないと思い、取り消そうと口を開きかけたが、それは直輝くんの言葉に遮られた。

「バーカ。何でお前はすぐそうやって……、あぁ、いや、今、お前を責めてもしゃーねぇな。」
「直輝くん……。」

 呆れたように盛大に溜息と共に零された言葉と、その後に続く僕に対する言葉を言いかけ、だけど直輝くんはすぐに思い直したように直前の言葉を取り消した。
 そしてすぐに僕の頭に置いてある方とは逆の手でガシガシと頭を掻くと、もう一度小さく溜息を吐いた後、僕の瞳をしっかりと見つめ返してくる。

「俺がお前とまた来たいって思ったんだ。だからお前も俺と同じ気持ちなら、余計な事考えずに、ただ頷けばいい。いちいち自分を卑下するようなコト、言うなよな。」

 相変わらずぶっきら棒に、だけど僕が変なことばっかり気にするのを解ってるって解る温かい口調で、直輝くんは僕にそう言いきった。
 なんでこんな事をさらっとこのタイミングで言えちゃうんだろう。直輝くんって相変わらず凄い。
 心にズシッて響くような、かっこいい、男らしい言葉をこんな僕に正面切って言えるなんて、つくづく直輝くんって、僕とは違う世界で生きてきた人なんだなぁって思う。
 女の子相手にこの台詞は、ひょっとしたら普通なのかもしれない。だけど、僕は男で。変態で。直輝くんにさえ言えない秘密を持ってて。それなのに直輝くんはこんな僕さえ受け入れてくれて、エッチしてくれて、しかもこんな風に僕を傍に置いておいてくれる。
 これって本当に凄い事だって思うんだ。
 エッチだけの関係でも、それが目的であっても、ノーマルで至って健全な思考の直輝くんは本来なら僕みたいな変態なんて寄せ付けないだろう。
 人の目だってあるし、男とこんな風にエッチをする付き合いをする事自体、本当は出来るような人じゃないのに。
 僕の我侭で、僕が直輝くんと一緒に居たい、友達でありたい、なんていう本当に僕の身勝手な我侭を直輝くんは許容してくれるだけでなく、こんな風にちょっとした言葉で僕の心を軽くしたり、僕を嬉しくさせてくれる。
 これって本当、凄い。
 何でなのかな? どうしてなのかな? なんでこんなに優しいのかな?
 自惚れちゃいけないって思うけど、それでも、僕は少しだけ直輝くんが僕の事をちょっとだけでも思ってくれてるんだろうか、好きでいてくれるんだろうか、なんて想像してしまう。
 もしそうだとしたら本当に嬉しい。
 その『好き』がどんな感情に基づいたものでも、同情からきているものでも、性欲からきているものでも、ちょっとでも僕の事を好いていてくれるのなら、本当に凄く凄く嬉しい。

「……なんだよ?」

 余りにも嬉しくて直輝くんの顔をジーッと見つめていたら、直輝くんが少しムッとした表情で、少し照れ隠しをするみたいにぶっきら棒にそう僕に聞いてきた。
 その声に、表情に、僕はなんとなく直輝くんの心が少し見えたような気がして、自然と僕の顔は綻んでしまう。

「なんでもないよ。ただ……。」
「ただ?」
「直輝くんって本当かっこいいなぁ……って思ってただけ。」

 大好きだよ、って本当は言いたい所なんだけど、そんな事を言ったらうざがられそうなのでそれは飲み込み、変わりにそんな風に別の本心を口にする。
 すると直輝くんは鳩が豆鉄砲を食らったような、物凄く面食らった表情をした後、何故かプイッと僕から顔を背けた。そして、何かを誤魔化すように視線を上向かせる。

「お、蒼衣、アンパンマン浮かんでんぞ。」
「えっ!? どこ?! ……わぁ、本当だ!! 最近の花火って凄いねぇ……! あっ、ねぇ、あれっ、ニコニコマーク?! わぁっ、ハートもある! 凄いなぁ!!」

 あからさまに話題を逸らした直輝くんだったけど、僕はそれには突っ込まず直輝くんの言葉に乗って自分もまた夜空に視線を戻す。
 すると直輝くんが言ってた通り、夜空にはデカデカと光りの点で作られた少し形が歪なアンパンマンが浮かんでいて、思わず僕はテンションが上がってしまう。
 そんな僕に直輝くんは小さく笑い、僕の頭をくしゃくしゃと掻き回した。
 頭を撫で回す直輝くんの手の心地よさに僕は内心うっとりしながら、空に浮かぶ様々な花火を最後の花火が上がる時まで、子供みたいにはしゃぎながら直輝くんと二人で楽しんだ。