HOME >>

NOVEL

Un tournesol 〜神社裏と花火と大好きな人〜
03

注意) 女装エッチ(女物浴衣)/淫語/いちゃいちゃ/蒼衣の過去

 この日の直輝くんと見た花火は、僕の人生の中での大切な大切な思い出の一つになった。
 こうして誰かと並んで同じものを見て、同じように笑えて、同じように感じられるこの瞬間が僕にとっては本当に奇跡のようで、幸せで、とても楽しい。
 しかも隣に居るのが直輝くんだというのが、凄く凄く嬉しい。
 なにより、こんな風に人を好きだと想う気持ちをもてた事が何よりも嬉しい。
 昔の僕にはこんな時が来るなんて全く想像が出来なかった。
 一生、僕はこの汚泥のような世界を這いつくばって人を好きになる事も、好きになってもらう事もなく生きていくんだって、ずっとずっと思っていたから。
 だから、まさかこんな風に誰かを凄く大切だと想い、大好きだって想って、傍に居るだけで幸せな気持ちになる時が来るなんて、あの時代の僕には本当に思いもしなかった事だろう。
 あの頃の僕は、全てに関して無関心だったし、それ以上に自分に対して無関心だったから。ただ一つ、執着しているものがあるとしたら、それはきっと“生きる”って事だけだった。何が何でも生きる、生き抜く、ただそれだけの為に僕は施設に居た頃は叔父の仕打ちを受け入れ、施設に住む少年達や男の職員、そして叔父の性処理に明け暮れ、そこを出た後も僕は生きるという強い思いと本能だけに従ってなりふり構わず生きてきた。
 だからか、時折今のこの時間は夢なんじゃないかって思う瞬間がある。
 直輝くんと過ごしているこの楽しくて幸せな時間は、実は施設に未だに居る『僕』、もしくは、一番荒んでいた時期の『僕』が寝ている間に見ている夢なんじゃないかって。
 ふっと目が覚めたら、やっぱり僕はあの暗くて不衛生でベッドと机しかない無機質なあの部屋に居て、ただただ無感動に、機械的に男の人の相手をしなきゃいけない日常に戻るんじゃないかって。
 そんな事を思うと、途端に凄く怖くなる。
 自分の立っている足元が、ガラガラと大きな音を立てて崩れ落ちていく、恐怖。
 真っ暗な奈落に向かってズルズルとどこまでもどこまでも果てなく落ちていく、恐怖。
 自分の意思などなく、現実感もなく、ただただ深い闇と混沌に飲み込まれていく、恐怖。
 あの当時を思い出すとそんな感覚が一斉に僕を襲い、お前みたいな人間には人を好きになる資格はない、直輝くんの傍に居る資格はない、ともう一人の自分や当時関わった人達に大声で糾弾されているような気持ちになった。
 それらの感情や自分の内から溢れ出る自分を貶める言葉に、僕は体を震わせ、幸せに酔いそうになる僕をひたすら止めようとする。
 こんなにも直輝くんと居る時間は幸せなのに、僕の過去は僕にいつもこうして現在(いま)の僕を戒め、冷静であれ、と警鐘を鳴らす。
 そう、これはいつかは覚めてしまう夢。
 そうだと直輝くんに会う度に思い知らされ、そして、だけど、直輝くんと一緒に過ごすこの幸せと奇跡に夢を見てしまいそうになる。
 だけど、これがもし夢であっても、あの頃の『僕』が未来に希望を持たせようと見ている夢でも、それでも、少しぐらいこの夢に浸ってても構わないよね……?
 だって少し手を伸ばせば、『夢』だとは思えないくらい温かくて弾力のある直輝くんの体がある。
 そっと触れると、どうした? って僕を見て優しい声をかけてくれる。
 こんなにしっかりとした存在感と触れる温かさと声の優しさがあるんだから、それを感じることくらいは良いよね……?
 こうして触れてても、構わないよね。

「……うぅん、何でもないよ?」

 直輝くんの問いかけに笑って誤魔化し、僕は辺りに誰も居ないのを確認すると少しだけ屈んで怪訝な顔をしている直輝くんに自分から唇を重ねた。
 そして直輝くんの存在を、温かさを、柔らかさやその体臭も、全部全部記憶に、心に刻み込むように僕は深く深く口づけをする。
 そんな僕に対して直輝くんがどう思ったのかは解らなかったけど、直輝くんは僕の体を抱きしめ返すと僕のキス以上に深く熱くキスをしてくれた。
 直輝くんとのキスは、本当に凄く気持ち良くて心地よくて幸せで。
 ここが花火を見た後の帰り道だって事さえも忘れてしまいそうになる。
 そして、さっきまで散々僕に警告を発していた僕自身の言葉さえも。
 ちゅ、くちゅ、と唾液と唾液が混ざる音や、舌と舌を絡める卑猥な音が互いの唇から漏れ、僕は段々と頭がボーとして体から力が抜けそうになった。
 だけど直輝くんが突然僕から唇を外すと、直輝くんの唇が離れて少しだけ不満な思いをしている僕の手首を掴む。そのまま僕を強引に歩かせ、僕のアパートがある方向へと向かった。

「直輝くん……?」

 足早に歩く直輝くんに合わせカタカタと下駄音を鳴らしながら、そう呼びかけると直輝くんはチラリと僕を横目で見る。
 そして、一旦足を止めると、少しだけムッとした表情で僕を見上げた。

「お前のせいだからな。」
「へ……?」

 突然僕のせいにされ僕は何が悪かったのか解らずきょとんとする。
 すると直輝くんは少しだけ背伸びをし、僕の頭の後ろに手を回して僕の頭を下げた後、僕の耳に囁いた。

「……お前がこんな所で突然キスなんざするから、早く帰りてーんだよ。」
「え……あっ……! えと、ご、ごめん……。」

 しまった、迷惑かけちゃった、と思い慌てて直輝くんに謝ると、直輝くんは、そうじゃねぇよ、ちげーよ、と機嫌悪そうに言う。
 それにますます申し訳なく思い謝りながら俯くと、直輝くんは小さく溜息を吐いた後、更に僕の耳に顔を近づけてきた。

「流石にココじゃセックス出来ねーだろが。」
「へぁ?! え、ぁ……、そ、そー言う……意味……?」
「……いいから早く帰ろーぜ。」

 吹き込まれた言葉の意外性とストレートさに僕は顔面を真っ赤にさせてしどろもどろになる。
 直輝くんの言葉と意味に一人で勝手にあわあわしている僕に直輝くんはブスッとした顔でそっけなくそう言うと、また僕の手首を掴んで先に立って歩き出しす。
 カラコロと下駄が地面とぶつかる音が人通りのない住宅街に小さく響き、その音だけを結局アパートに着くまで僕達は止まる事無く聞き続けた。
 その下駄の音は妙に現実的な音で、僕は何故か少し安心した。




 アパートに戻り、部屋に入ると直輝くんはすぐに僕をベッドに押し倒した。
 そして、僕の着ている浴衣の袂を神社でシた時とは比べものならないくらい荒々しくはだけさせると、その下に着けていた極厚パッドを入れているブラジャーも一気に上にずり上げられる。

「ひゃ……ぁっ! やっ!」

 心の準備をする間もなく直輝くんの唇が僕の真っ平らな胸にある突起を含み、思わず変な声が漏れる。
 だけど僕のそんな声などに頓着する事無く、直輝くんは僕の乳首をその口の中で捏ね繰り回し、前歯で甘く噛んだり強く吸い上げたりした。
 その唇と舌と歯の感触に僕の体は色々な感情から震え、唇を噛み締めると、ん、ん、と小さく喉を鳴らす。そうしながら僕は直輝くんの着ているTシャツを掴み、未だに湧き上がってくる愛撫への恐怖を押し殺した。
 だけど恐怖は恐怖で確かにあるのだけど、それ以上に直輝くんに触れられる幸せと歓喜が自分の内に溢れ、込み上げてくる。
 僕の乳首を吸い、舐め回し、その舌で押さえる様にぐにぐにと捏ね繰り回される度にその胸に感じる直輝くんの息遣いと熱さと感触に嬉しさまで感じてしまう。そして、どうにもならない快感も。
 直輝くんの口に含まれている部分からトロトロと溶けるような感覚を味わい、僕は、上げそうになる喘ぎ声を無意識に口に手をやりその指を噛んで抑える。
 すると直輝くんの手が伸びてきて僕の手をやっぱりまた口から離す。

「もう声抑える必要ねぇだろ。」

 ちゅる、と音を立てながら僕の乳首から唇を離すと、直輝くんは少し意地悪な顔で僕を見上げながらそう言った。
 その言葉に僕は顔を赤らめると、直輝くんと視線を合わせるのも恥ずかしくてつい視線を逸らしてしまう。

「だ、だって……、恥ずかしいんだもん……っ。」

 それでも僕はそう直輝くんに自分の偽らざる思いを伝えると、直輝くんが体をずらして僕の真正面にその顔を持ってきた。そして、そのまま直輝くんに顎を掴まれ、突然キスをされる。

「んっ……ん……っ? ふ……ん、ぅ。」

 舌を差し込まれ、強く舌を吸い込まれる。それだけでじんわりと体に熱が広がり、甘い感情で心の中が満たされた。
 直輝くんが何を考えてこんな風に突然キスをしてくるのかは解らなかったけど、こうして唇を合わせて舌を絡めあい、口の中をその舌で刺激されるとさっきまで感じていた恥ずかしさがとろりと溶けていってしまう。
 そんな僕の気持ちを察したのか、直輝くんは僕にキスをしながらそっと手を僕の胸に持ってくる。そして、その指で僕の乳首を摘むとくりくりと捏ねるように回す。その直輝くんの指の感触と、与えられるピリピリとくる快感に体がゾクゾクと震えた。
 直輝くんのTシャツを掴んでいる自分の手がまるで自分の意思とは関係ないように、直輝くんの背に勝手に回りその筋肉質な体を求めるように抱きしめる。

「……っはっ……っ、ん、ふ……っ。」

 僕の手が直輝くんの背中に回ったのがまるで合図だったかのように、直輝くんは僕から口を離す。そして、名残惜しそうに僕の唇を舐め、そこから漏れる僕の吐息に満足そうに笑った。
 直輝くんのそのちょっとだけ意地悪さを含んだ笑いにまた少しだけ羞恥心が湧き上がったが、それ以上に直輝くんの手と指が胸を弄るそのなんとも言えない感覚についつい小さな吐息を漏らしてしまう。それがまた直輝くんの思う壺のような気がして恥ずかしい。
 でも、それでも、直輝くんに乳首をぐりぐりと指と指で捏ねられ、押しつぶされるように弄られると下半身がもじもじするような快感ともくすぐったさともつかない電流が体に流れ、どうしても男とは思えないような甘ったるい声や息が自分の口から出てしまう。
 恥ずかしい、でも、抑えられない。
 そんな感じで僕は直輝くんの意のまま、小さく喘ぎ声を漏らしながら、それでも恥ずかしくて顔を見られたくなくて、ギュッと直輝くんにしがみついた。

「蒼衣。」
「んっ……んん……っ、は、ぁ……んっ。」

 直輝くんが僕の名前を呼ぶけど、僕はそれに応えるのも恥ずかしくて直輝くんの肩に顔を埋めながらただただ直輝くんの指に与えられるもどかしい快感に震える。
 そんな僕に直輝くんは小さく笑い、もう一度甘い声で僕の名前を呼んだ。
 だけどそれは僕の返事を求めての呼びかけじゃないらしく、直輝くんは、直輝くんの肩に顔を埋めている僕の髪をその手で掻き上げると露になった僕の真っ赤になっているであろう耳をその口に含む。そのまま耳の輪郭に沿って舌を這わせ、耳たぶを甘く噛む。直近で聞こえてくる直輝くんの唇から発せられる、僕の耳を舐める水音や、呼吸が僕の体を更に熱くさせた。
 じゅる……、じゅ、くちゅ……。
 その音が耳の奥に響く度、僕の体は小刻みに揺れ、そして僕の口は甘い息を吐いてしまう。

「っ、ぁ……ん……っふっ、はぁ……、あ……っ。」

 ビクビクと体を揺らしながら、直輝くんの舌と唇と手と指の感触に全神経を集中させる。それだけで体中は甘い痺れに満たされ、どんどんと僕の中にある羞恥心は剥ぎ取られていった。
 更に直輝くんに耳を甘く噛まれ、その合間に直輝くんに僕の名前を呼ばれると僕はもう堪らなくなって掻き抱いている直輝くんの背中を切羽詰ったように撫で、そのシャツを引っ張る。
 そして、浴衣の裾が捲れることも気にせず直輝くんの足の間に自分の足を割り込ませると、直輝くんの股間に自分の太ももを擦り付ける。直輝くんの穿いているジーンズのざらざらした布地の感触にさえも僕は微かな快感を感じ、そして、その布地の向こうにある硬さに小さく吐息を吐く。

「ん……っ、直輝、くん……っ。僕……っ。」

 自分でもびっくりするほど甘くて切羽詰った声が漏れた。
 だけどそれ以上に自分が何故か物凄く飢えて居る事に気がつく。
 だって僕の体はもうすでに直輝くんに突かれたがっていた。愛撫なんてって言うと直輝くんに申し訳ないけど、今の僕はそんなもどかしい快感よりも、もっと直接的な快感を欲していて。
 直輝くんを煽るつもりで僕は太ももを直輝くんの股間に擦りつけ、そして、背中を撫で回していた手を下に下ろすと、自分の太ももと直輝くんのジーンズの間に滑り込ませ指先だけでジーンズのボタンとチャックを下ろした。
 そんな僕の様子に直輝くんは僕の耳を舐め回しながら、小さく苦笑したようだった。

「どうした、蒼衣。」

 しかもそんな解りきったことを意地悪く聞いてくる。
 直輝くんの言葉に僕は顔を赤らめると、それでも体の飢えには敵わず、きゅっと唇を一度噛んだ後、指を直輝くんのジーンズの中へと忍び込ませた。そして、そのまま下着の上から直輝くん自身を手で握る。

「も、コレ、欲しいの……っ。ねっ、後ろに、挿れて……くれる……?」
「……。」

 下着越しに感じる熱さと硬さに僕は恥ずかしいくらい欲情し、息を荒くしながら、それでも直輝くんにそう本音を伝えてみた。
 すると流石に直輝くんも面食らったのか、少しの間沈黙が落ちる。
 そして直輝くんは少しだけ体を起こして上から僕の顔を見下ろした。
 電気が点いたままの部屋で、電灯が直輝くんの背中の向こうにある為直輝くんの顔は逆行になっている。だけど、翳っていても直輝くんの表情は凄く良く解った。
 直輝くんは困ったような、でも、嬉しいような複雑な表情をしている。
 どうしたんだろう、と思って見上げていると、直輝くんは一つ溜息を吐いた。

「……蒼衣、お前さぁ。」

 しみじみと呆れたような感情を滲ませて何かを言いかけた直輝くんに、僕はまた怒られるんじゃないかってちょっと身構える。二度目にエッチした時、僕がつい口を滑らせて言ってしまった、セックスフレンドだとかダッチワイフだとかの言葉を聞いた時の直輝くんを思い出したのだ。
 あの時の直輝くんは、それはもう、凄く怒って。僕を、僕の愚かしさを、糾弾してくれた。
 だけど直輝くんはそこで言葉を止めたまま、少しの間言う事を思案するように視線を動かす。
 その直輝くんの思案顔に僕は直輝くんが怒るつもりじゃないんだって解り、ホッと息を吐く。
 怒られる訳じゃないなら、と思うと、僕は自分の中にある飢えを満たす為、行動を起こした。
 ジーンズの中に忍び込ましている手で下着越しに直輝くんを刺激する。手のひらで形に添って擦り、下にある柔らかい袋に指を少しだけ沈ませた。そうしながら直輝くんの背中に残していた方の手を直輝くんのジーンズにかける。
 そして僕の行動に驚いたような顔をして見せている直輝くんに向けて、僕は少しだけ意地悪っぽく笑いかけた。

「おい、蒼衣……。」

 直輝くんが僕の行動を制止しようと声をかけてくる。
 だけどその声は無視して僕は、直輝くんのジーンズにかけている方の手で無理矢理直輝くんのジーンズを脱がしにかかった。

「おいっ、蒼衣っ!」

 再度同じ言葉を、今度は焦ったような、怒っているような口調で叫ぶ。
 でももう僕の手は止まらなかった。
 ジーンズの中に忍び込ませていた手も直輝くんのジーンズを脱がす事に加担させ、膝までそれを何とかして摺り下ろすと、今度は直輝くんの下着にも手をかける。
 流石にそこまで来て直輝くんの手が直接止めに入った。

「蒼衣。」

 少し強い口調で名前を呼ばれる。
 そんな直輝くんを僕は上目使いに見上げると、口を開いた。

「ね、お願い……。僕を犯して……? このまま、直輝くんのおちんちん、後ろに、お尻の穴に挿れて……?」
「っ……!」

 どうしようもない渇望が、まだ全然理性の残っている僕にこんなエッチな言葉を言わせる。
 僕の言葉に、直輝くんは更に面食らったみたいで、ちょっと怖い顔になった。
 だけど、また深く浅く溜息を吐くと直輝くんはそのまま無言で掴んでいる僕の手首からその手を離す。
 そして腰を持ち上げると自分からジーンズと下着を脱いだ。

「直輝、くん……。」

 しかも僕の目の前でTシャツまで脱ぎ、その逞しい体を僕の目に晒し僕はますますどぎまぎしてしまう。
 直輝くんの体は男の僕から見ても本当に惚れ惚れするくらい逞しい。
 ボクシングをしている人ってイメージ的にはどちらかと言うと痩せ型で、その上で筋肉が引き締まったイメージが強いけど、直輝くんはK−1とかの格闘技をしている人みたいにしっかりと盛り上がった筋肉を身に着けている。
 昔、ボクシングをやっていた頃は階級の関係で体を絞ることが多くて最初のイメージみたいな体つきだったらしいんだけど、ボクシングを辞めた後に体が鈍るのを回避する為に鍛えていたら自然とこうなったそうだ。
 そんな逞しい体を煌々と灯りが降り注ぐ部屋の中で僕の体に馬乗りになった状態で、まるで僕に見せ付けるように晒しているので、僕の視線は自然と直輝くんの分厚い胸板や引き締まった筋肉の盛り上がりが見える二の腕、そしてしっかりと割れている腹筋へと降りていき、最終的にその股間の部分で止まってしまう。
 直輝くんの股間は、思わず僕の方が赤面してしまうほど上を向いて勃ち上がっていて、妙な凶悪ささえも感じた。だけどそれ以上に、僕の心臓は早鐘のように打ち鳴り、いやらしい感情で心が一杯になる。
 ゴクリと僕は小さく喉を鳴らして生唾を飲み込むと、恐る恐る直輝くんの股間に向けて手を伸ばした。
 そして直輝くんが拒む素振りを見せないのをいい事に、そのまま直輝くんの太くて逞しいおちんちんを自分の手の中に収める。手のひらを通じて直輝くんの脈動が熱さを伴って伝わってきて、僕の下半身もまるでそれに呼応するようにヒクンと震え、お尻に切なくなるような快感が走った。
 自分でも本当に淫乱だって思うんだけど、僕のお尻はもう本当に今、自分の手の中にあるこの直輝くんのモノを凄く凄く欲していて、ヒクヒクと自分でも解るくらい収縮を繰り返している。

「ぁ……う、なお、き、くん……っ、コレっ、ちょーだい……っ、僕のエッチなお尻の穴に、この太いの……っ、挿して……っ、ねぇ……っ、もぅ、我慢できないよぉ……っ。」

 直輝くんのモノを手でいやらしく扱きながら、僕はそうさっきよりもいやらしい声で、口調で直輝くんにおねだりをした。直輝くんの目から見てもいやらしく見えるように、僕は、自分の唇をねちっこい動作で舐め、トロンとした目つきで見上げる。
 余りに僕の態度が、求め方が性急なのを見て直輝くんは僕を見下ろしながら、また苦笑をした。
 そして、体を折ると僕の上に覆いかぶさりその唇を僕の耳に近づける。

「どうしたんだ? えらく今日はエロいじゃねーか。外でシたのがよっぽどヨカッタのか? ん?」

 くすくすと笑い声を含んだ声で、意地悪く僕に囁きかけてくる。
 だけど今の僕にはそんな意地悪さえも愛撫をされてるみたいで、はぁっ……、と甘い溜息を吐く。
 ゾクゾクとした微弱な電流が全身を駆け巡り、僕は直輝くんのその意地悪な言葉に小さく頷くと、片手を直輝くんの首に回した。

「ん……っ、そ、なの……っ、僕……、あんなエッチ初めてで……っ、だから、もぉ、体の中が、全部エッチなコトで一杯になっちゃったような、感じで……。ね、直輝くん……、今日は、乱暴に、シて? 優しく、しないで……。愛撫も、もぅ、いいから、ねっ、早く、お尻に直輝くんのおちんちん、一杯、挿れて、掻き回してよぉ……っ。いっぱい、いっぱい、お尻の中、直輝くんで、いっぱいにしてぇ……ね、僕、もう……もぅ……っぅ。」
「蒼衣……。」

 僕が心の奥底から湧き上がるどす黒い欲望をそのまま口にすると、直輝くんは酷く驚き戸惑ったような顔をして僕を見下ろす。
 そして困ったような顔をした後、僕の髪を優しく撫でてきた。

「おい……どうしたんだ……? 何か辛いのか……? 蒼衣?」

 直輝くんは困ったような戸惑ったような少しいつもよりもオロオロとした感じで僕の頭を撫で、そして僕の頬に優しくキスの雨を降らす。その上、凄く優しい声でそんな意味の解らない事を聞いてきた。
 だけどその優しささえも今の僕には、直輝くんには悪いけど、ちょっと煩わしくてプルプルと否定の意味を込めて頭を振る。
 そのまま直輝くんの首に両手を絡め直輝くんにしがみつくと、僕は腰を浮かせて自分の下半身を下着越しに直輝くんの脚の間に擦り付けた。

「ちがう、のぉ……、えっち、したいの……、なおきくんに、らんぼうに、おしりのあな、ほってもらいたいのぉ……っ、ね、いれてぇ……、これっ、おちんちんっ、いれて……っ。」
「蒼衣……。」

 腰を押し付け直輝くんに自分がどれだけ切羽詰っているかを教えながら、股間が直輝くんの脚や股に当たる度にそこから湧き上がる耐え難い快感に僕の言葉はどんどん蕩けていき、卑猥さを増していく。
 そんな僕に直輝くんは困ったような声を漏らした。
 それでも僕の切羽詰った状況を直輝くんなりに理解したのか、一つ溜息を吐いた後、直輝くんは足の位置を変え、僕の足の間にその体を潜り込ませた。そして、僕の足を抱えると、浴衣の下に穿いている僕の下着をずり降ろし、僕の尻の割れ目に直輝くん自身を押し当ててくる。
 直輝くんの先端の熱さと、そこから沸きあがっている露が押し付けられ、その感触に僕の体は悦びに震えた。
 自分でも解るくらいゴクリと生唾を飲み、自分から足を広げ腰を直輝くんが挿入し易い位置まで引き上げると固定する。そのまま、自分の手を臀部に持って行くと、直輝くんに見えるようにそこを両側から押し広げた。

「ここ……、ほら、なおきくん……、はやく、……ね……っ。」
「っ。」

 直輝くんのモノの感触に否が応でも期待値は上がり、僕は上擦った声でそう直輝くんを急かす。そして自分で腰を揺らして、薄く当たっている直輝くんの先端に自分の肛門を擦り付けた。
 ぬるっとした直輝くんの先走りの感触が何度も何度も肛門付近に薄く当たり、それがまた堪らない快感を僕の中に生む。

「ぁ……っ、ぬるぬる、して、きもち、い……っ、はぁ……っ、なおき、くん……っ、ね、なおきくん……っ、なおきくんの、えっちなおしる、きもちイイよぉ……っ。」
「っ……くそっ。」

 直輝くんの先走りでアソコが濡れていく気持ちよさを直輝くんの名を呟きながら口にしていると、直輝くんが根負けしたように小さくそう呟いた。
 そして、直輝くんは僕の腰をぐっと掴むと、直輝くんの先走りで薄く濡れてはいてもほぐれていない僕の肛門にその硬くそそり立っているモノをぐぐぐ……と押し付けてきた。

「あっ……あぁん……っ。」

 お尻を無理矢理開かれる懐かしい痛みに、だけど、僕の喉はいやらしい声を漏らす。
 痛みを少しでも抜く為に浅く呼吸を繰り返し、極力体に力を入れないように努める。ぐいぐいと直輝くんのモノが僕の解れていない狭い肛門を押し開き、酷くゆっくりと僕の中へとその先端を潜り込ませてきた。

「うっ……、く。」
「はぁ……っ、ぁ、ん……っ、はいって、きたぁ……っ、ん、ぁ。なおきく、……っ、ん、んん……っ。」

 潤いが少ない為直輝くんもなかなか入らない僕の後ろに少し苦戦しているみたいだった。
 だけどじりじりと直輝くんのモノは僕の中に埋まっていき、その感覚に僕は痛みよりも快感を覚える。……いや、どちらかと言えば痛みを快感に変換していたのかもしれない。
 それでも僕が直輝くんの侵入をこれ以上ないくらい気持ちイイって感じていた事は確かで。
 僕は直輝くんのおちんちんが入り易いように、自分で自分の尻肉を強く掴みそこを広げるようにする。
 すると少し挿入が楽になったのか、直輝くんは僕の体に体重をかけて一気に、それこそ無理矢理に僕の中にその全てを埋め込んできた。
 まるでお尻から体を引き裂かれるような激しい痛みが一気に脳天まで突き抜ける。
 だけど、僕の体は、いや、脳はそれさえも快感だと変換して、はしたないいやらしい嬌声を僕に上げさせた。

「ひあぁああ……っ! あっ、あぁ……っ、ふっ、ひゃ、あっ、いっ、いっぱい……っ、なおき、く、が……、いっぱひ……っ、ひぁ……ぁ、ん……っ、う、れし……っ、なぉ……くん……っ。」
「あお、い……っ、つ……っ。」

 痛みを感じているアソコを、僕は直輝くんの腰へと押し付け自分で浅く深く直輝くんのモノを出し入れする。
 腰を上げただけの無理な体勢で、しかも腰の下には浴衣の帯が潰れてゴツゴツとした不快感を与えるような体勢の為、それほど深くは直輝くんのモノは突き刺さなかったけど、ただそれでも、直輝くんのおちんちんが僕の中を擦っている、それを感じるだけで僕の心は甘いいやらしい痺れで満たされ、はしたない嬌声を上げながら、もっと、もっと、と貪欲に直輝くんのおちんちんを感じようと腰を振りたてた。
 そんな僕の行動に、戸惑いと、だけど、どこか興奮したような掠れた声で直輝くんは僕の名を呼ぶ。
 そうしながら荒い息を吐きながら、僕の腰に直輝くんは自分から腰をぶつけ始めた。
 ごっ、ごっ、と直輝くんの骨盤と僕のお尻の内側にある骨がぶつかる音が漏れる。そして、直輝くんが腰を引くと、乾いたアソコは直輝くんのモノに引っ付いて僕の内臓までを外に引き出そうとした。
 当然僕のお尻は引き攣れてピリピリした痛みを伴い、恐らく直輝くん自身もこんなに乾いていて、しかもぎゅうぎゅうに締め付けられすぎていては気持ち良くないんじゃないか、とは思う。
 だけど僕は直輝くんに今までない位乱暴に攻めたてられて、酷く嬉しかったし、酷く興奮していたし、酷く感じていた。
 でも僕だけ気持ち良くても仕方がない。
 僕は自分の口の中に指を突っ込むとその指にたっぷりと唾液を絡める。
 十分に唾液が絡まると、そのままその指を直輝くんとの結合部へと持って行った。

「ん……っ。」

 僕の唾液に塗れた指が結合している場所に触れると、直輝くんが喉の奥で小さく呻く。その声を嬉しく思いながら、僕は直輝くんのおちんちんの根元と、僕の肛門にその唾液を塗りこめていった。
 何度も何度もそうして自分の口と、直輝くんとの結合部までを唾液を絡めた指を往復していると、ある瞬間から直輝くんの出し挿れがスムーズになってくる。
 そうなると、ずりゅ、ぐちゅ、とえっちな音を立てながら直輝くんは遠慮なしに僕のお尻におちんちんを突き立ててくれた。

「蒼衣、あおい……っ!」
「ぁ……っ、はぁ……っ、ん……、ひゃ……ぁ、あぁ……あ、ん……っ。なおっ、く……っ、おしり、きもち、いぃ……っ、おちんち……っ、すごく、きもちいぃよぉ……っ!」

 スムーズに出し挿れが出来るようになると、直輝くんの声はより一層興奮したものになった。そんな直輝くんに負けじと僕は蕩けた声で、どんなに直輝くんのおちんちんが気持ちイイのかを口にする。
 僕の言葉に直輝くんは、ハァハァ、と獣じみた息を漏らし、僕の唇に噛み付くような、喰らいつくようなキスをしてきた。
 ベロをいやらしく絡めあい、くちゅくちゅと唾液を混ぜあう。
 舌を突き出して直輝くんの突き出している舌と絡めると、それだけでもう僕はイきそうになった。

「んん……っ、じゅっ、ちゅっ、んふ、やっ、イ、イ……きそぅ……っ、もぅ……、ぼくっ、おしりでイっちゃ……っ!」
「はっ、はぁ……っ、いいぜ、蒼衣、ケツでイけよ……っ! 俺のちんぽでイケッ……っ! ほらっ、ほらっ!」
「ひぁ……っ、あっ、あっ……っ、あ、あぁああーーっ!!」

 直輝くんが意地悪な声で僕の耳にエッチな言葉を吹き込み、それが引き金となって僕の頭の中は一気に沸騰する。目の前が一瞬で真っ白になり、沢山の光りが飛び散り、流れていく。
 心臓が壊れそうな程ドクンドクンと脈打ち、今まで感じた事のないような大きな快感のうねりが自分の体も心も脳も飲み込んでいった。
 僕の体がビクビクと激しく痙攣を起こし、僕の半勃ち状態だったおちんちんからは少しだけドロリと白濁した液が零れる。
 そんな僕の様子を見下ろして直輝くんは、僕のおちんちんを後ろを突きながら握り締めた。

「こっちはあんまイケなかったみたいだな。」
「……っ、はぁ、はっ……、んっ、なお、く……っ! やぁ……っ、だめぇっ、あっ、あぁん……っ!」

 後ろだけではなく前も直輝くんはイかせたいみたいで、体中が敏感になっている今の僕の最も敏感な部分をやわやわと扱き始める。
 それだけで男としての本能が体中を駆け回り、僕は後ろと前の気持ち良さにベッドの上で暴れた。
 もうすでに髪留めも全て取れてしまっている髪を振り乱し、嫌々をするように僕は顔を左右に振る。そうしながら僕の手は直輝くんの腕や肩、背中、腰、ベッドの上、と忙しく移動し最終的にシーツを強く握り締めた。
 直輝くんが僕のおちんちんを扱く度に、僕のおちんちんからはビュッ、ビュッと小さな噴水のように精液が飛び出す。
 その射精の感覚と、直輝くんに荒々しく後ろを掘られる感覚に僕の頭の中はめちゃくちゃになった。

「あっ、あっ、や……っ、あっ、は、あっ……っ、あっ、や、また、イっちゃ……ぅ……っ、おち、んち……、も、おし、りも……っ、あっ……ふぁ……っ、イっ、ちゃ……っっつ、なぉ……く、の、ちん、ち……、すきぃ……っ、イクぅ……ぅ、う……っんんんんっ……っっ!!」
「ぅ……っ、あおいっ、俺も……っ、イク……っ。」

 もう何もかもが解らなくなるくらい頭の中は直輝くんのおちんちんで一杯になって、呂律の回らない口で喘ぎ声を漏らし、エッチな言葉を呟きながら僕は直輝くんの首にしがみつく。
 体の中には律することの出来ない快感が渦巻いていて、それが直輝くんに最奥をえぐられた瞬間一気に弾けた。
 ビクンッと腰が大きく揺れ、直輝くんの手の中にある僕のおちんちんから今までよりも多い量の精液がどろりと零れる。そして、お尻から頭の中が真っ白になるような言葉に言い表せない快感が背筋から脳天まで一気に駆け抜け、無意識に体が何度も痙攣を起こした。
 そのせいか直輝くんが途端に切羽詰ったような声で絶頂が近いことを僕に伝えると、僕の腰をしっかりと掴むと一番奥におちんちんを突っ込む。
 そしてそこで直輝くんは勢いよく射精した。
 お腹の奥が燃えるように熱くなる。腸壁に当たる、直輝くんの精液の勢いと熱さに、一瞬気を失いかけてた僕だったけど、ハッと我に返り、直輝くんの精液の感触にうっとりとする。
 なんていうか、変な話だけど。
 こうして直輝くんにお腹の中に直輝くんの精液を感じると、不思議と凄く幸せな気持ちになれた。
 今までどんな男の人に中出しされてもただ気持ち悪いとか、処理が面倒くさいなぁ、とか、漸く終わった……とかしか思わなかっただけに本当に不思議だ。
 エッチはエッチで誰としたって感じちゃうんだろうけど、うぅん、実際感じてたんだけど、こうして中出しされる事自体はそれほど嬉しくなかった。寧ろ、こっちとしては迷惑だと思ってしまうことも多い。
 だって実際問題、中に出されちゃったら今でこそ平気になったけど最初の頃なんてお腹壊すことも多かったし、エッチの後にお尻から出された精液を全部掻き出して綺麗にするのが本当に面倒くさかった。疲れてても、眠くてもこれだけはキチンと綺麗にしておかないと、朝、また求められた時に相手に酷く怒られちゃうし……、下手したら殴られたりしてしまう。
 それになにより、中出しする事による性病が一番怖い。
 そんな事を思うと本当に施設の頃から中出しされる事は憂鬱だったし、嫌だった。幸い、今まで体を繋げた人達は、病気は持ってなくて検査は全て陰性だった事は奇跡だと思ってる。
 だけど、本当に不思議なんだけど。
 直輝くんにこうして中で出されるのは、初めて直輝くんとエッチした時から凄く気持ちが良い。それだけじゃなくて、幸せを感じたり、嬉しく思ったり、変な安心感を感じたり……。
 なんでだろう、って思うけど、単純に考えれば、やっぱりこれは僕が直輝くんのことを特別だって思ってるからなんだろうな。
 何も思っていない相手とエッチするのと、こうして、特別な感情を抱いている人とエッチするのじゃ、今になって初めて気がついたけど本当に雲泥の差っていうか、天と地程も感じ方が違う。
 今までして来た人達と比べるって訳でもないけど、直輝くんはとのエッチは今まで経験したことがない位に本当に身も心も蕩けてしまいそうで。
 それくらい凄く凄く気持ち良くて、幸せで、嬉しい。

「ん……っ、ん、ぁ……、すごい……っ、なおきくんのせいえき……っ、すごく、きもち、いぃ……っ。ん……っ、もっと、せいえき、ほしぃ……よぉ……っ。」

 お尻の奥に感じる直輝くんの精液に感極まって僕は、直輝くんの体にしがみつきながら、ハッ、ハッ、と息を吐きながら思わずうっとりとそう意識せずに呟く。
 すると直輝くんが僕の耳元で小さく苦笑をした。

「……なんか、お前っていっつも俺の精液気持ち良いって言ってるよな。」
「へ……?」

 僕の頬にちゅっと軽くキスをしながら思いもしないことを直輝くんに言われて、僕は蕩けていた頭が少し冷静になった。
 いつも? え? そんなにいつもこんな事言ってるっけ……?
 頭の中でそんな疑問と、今までしてきた直輝くんとのエッチを思い起こす。だけど、そんな事を言った記憶はそんなになくて。
 僕は怪訝な表情をすると、少し体を起こした直輝くんを見た。

「ん? 覚えてねーのか?」
「う、うん……、え……、そうなの? 僕、いっつもそんな……え、エッチな事、言ってるの……?」

 僕の怪訝な表情を見たせいか、直輝くんもまた少し不思議そうな顔をして僕にそう聞き返す。それに僕が真っ赤になって頷くと、直輝くんは少しだけ苦笑した。

「そっか覚えてねぇのか……。ま、それならそれでいいよ。気にすんな。」
「え、ぁう……、で、でも……。」
「いいんだよ、俺はお前にそー言って貰って嬉しいんだからさ。」

 くつくつと笑いながら直輝くんはまた僕の頬にキスをし、そして、僕の頭をぐちゃぐちゃに掻き回した。そのまま今度は僕の口にキスをしてくる。
 軽く触れ合うだけのキスをすると、一旦離れた。だけどちょっとだけ離れただけで依然直輝くんの顔は鼻と鼻が触れ合う距離で。
 間近にある直輝くんの顔と、その口から微かに零れる吐息にさえもドキドキして、僕はなんだか急激に恥ずかしくなった。
 直接直輝くんの瞳を見返す事が出来ずに、思わず軽く視線を外す。
 だって直輝くんに見られてたら、僕の心を全部見透かされそうな気がしたから。

「な、蒼衣。」

 そんな僕に直輝くんが薄く唇を触れ合わせながらそう呼びかける。
 だけどもう恥ずかしさで一杯になっている僕は、上手く返事も出来ず、ただ瞳を伏せて直輝くんが次の言葉を口にするのを待つ。
 でも直輝くんは次の言葉をなかなか発しない。
 その代わり、ゆるゆるとまたその腰を動かし始めた。
 じんわりとした快感が直輝くんと繋がっている場所から湧き上がる。だけどそれは最初だけで、すぐに強い刺激となって僕の体を駆け抜けた。

「っ……あっ……やぁ……あっ……っ。」

 直輝くんが腰を動かし体が揺すられる度に僕の口からは押さえきれない甘い吐息が混じった喘ぎ声が漏れる。
 結合部からはさっき出した直輝くんの精液が掻き混ぜられ、直輝くんのおちんちんが引き出される度にトロトロと隙間から漏れて背中の方へと少しずつ垂れていくのが解った。

「欲しいなら、もっと出してやるよ。」

 笑い声の少し混じった声で、だけど、興奮も混ざった声で直輝くんが僕の耳元にそう囁く。
 その言葉に僕は顔を真っ赤にしながら頷き、直輝くんの首に両手を絡めてしがみつくと後ろから湧き上がる快感に溺れていった。
 そんな僕に直輝くんはくすくすと笑い、そして、そっとまた僕の耳元に囁く。

「――可愛いぜ、蒼衣。」

 直輝くんの言葉に体中が茹で上がるような気がした。
 血液が沸騰して、頭はぐるぐるして、体はだけど感情に素直に貪欲に直輝くんを求める。心の中は恥ずかしさと、直輝くんへの愛しさと、恋しさと、エッチな気持ちとが入り混じってぐちゃぐちゃで、でも、それが凄く嬉しくて、幸せで。
 僕はその日、気を失うまで直輝くんに攻められ続けた。


 大好きだよ、直輝くん。
 出来ればずっとずっとこんな風に過ごしていけたらいいな、って本気で思う。
 だけどそれはきっと直輝くんは求めてないことで、僕の独りよがりな一方的な想いなんだろう。
 だってこんな風に毎回毎回エッチしたって、直輝くんが僕の事をどう思っているかなんて聞けないし、直輝くんも肝心の部分は言わない。
 確かに直輝くんが僕との関係に対して直輝くんなりの真剣さで考えていてくれているとは思うし、良く解ってる。
 だけど、きっと僕は欲張りで、せっかちなんだ。
 直輝くんにこうして触れられて、エッチして貰って、キスして貰って、可愛いって言って貰って、それは凄く凄く嬉しいんだけど、その反面、直輝くんが帰ってしまった部屋に一人で居ると何故か物凄く悲しくなったり、寂しくなったりしてしまう。
 男がこんな風に男に対して『たった一言』を求めて切なくなったり、悲しくなってしまう事自体、自分でも女々しいと解ってるし、正直気持ちが悪い。
 それでも、直輝くんとの付き合いは実感がなくて、どこか実態がなくて、時折、本当に時折だけど自分の存在に虚しささえも感じてしまう。
 それがどれだけ自分勝手で、エゴな事か解っては居る。だって自分から直輝くんと一緒に居たいって願って、友達になってってお願いして、こうして一緒に居て貰っているのに、こんな勝手な事考えちゃいけないって解ってるけど。
 だけど。
 僕は本当に我侭だ。
 それにいつかあの事もバレちゃうような気がしてる。
 だから僕はこうして直輝くんの事を『夢』だとか、『期間限定の』なんて思うのかもしれない。
 それなのに、直輝くんがいつか僕が思い描いている『たった一言』を言ってくれるかもしれない、なんて淡い期待を持ってしまっている。
 とんだ矛盾だ。
 直輝くんとの事は、ただの友達、エッチはするけど、ただの友達。
 そう割り切れたらどんなに楽か。
 だけどどうしても感情は直輝くんを求めるし、直輝くんをあんな人達と同列には扱えない。無理だ。
 僕の心はもうすでに固まって、決まっているから。

 直輝くん。直輝くん。
 大好き。大好き。大好き。

 その僕の中に巣食ってしまったこの強い想いだけはもうどうしても、どうやっても消すことが出来ない。
 だからもう暫く、この矛盾を抱えて僕は生きていくしかないのだろう。
 期待と、絶望と、不安と、愛しさと、そんなぐちゃぐちゃな想いを抱えて。
 せめて直輝くんが僕との関係をどうするのか、どうしたいのか、その答えを聞く日までは。そして、僕が自分自身どうしたいのか、はっきりと直輝くんに伝えられる勇気が出るまでは。
 その日までは、でも、やっぱり何が何でも直輝くんの傍に居たい。
 他愛もない会話をして、遊んで、ゲームして、買い物行って、ご飯食べて、……エッチ、して。
 そんな普通とはちょっと違う、だけど、本当に大切で特別な友達として。
 それ位は高望みじゃないよね?
 無謀じゃないよね?
 そう自分自身の言い聞かせながら。
 いつかくる、終わりか、それとも始まりか解らないその日まで。
 僕は僕の大好きな直輝くんと一緒に過ごしていたい。

第三話「神社裏と花火と大好きな人」終
【おまけ】