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NOVEL

Un tournesol 〜深き悩み、加えて、新たなる波乱?〜
07

注意) 羞恥/強制洗浄排泄(微スカトロ?)/蒼衣の過去
※強制洗浄シーン割愛バージョン  強制洗浄シーンありバージョンはこちら

 直輝が口付けをしてくる。
 それを蒼衣はうっとりとした気持ちで受けた。
 最近は蒼衣も直輝とのキスに随分と慣れ、直輝の舌の感触に小さく、んっ……、と上擦った声を喉の奥で上げると自分から体を折り曲げて積極的に舌を絡めてくる。
 くちゅくちゅと唾液を交ぜ合わせながら直輝と深いキスを繰り返し、喉の奥で小さく、んっ、んっ、と甘い声を上げながら時折、堪え切れないように体を密着させて直輝の体の上を蒼衣の指が這う。
 肩や背中をくすぐるように動く蒼衣の指先に、緩く微笑みながら直輝は蒼衣の頬を包んでいた手のひらを動かし、その耳へと指先を滑り込ませた。
 途端に蒼衣の体が、びくんっ、と大きく揺れる。
 絡み合っていた舌が離れ、あ、あぁ……っ、と蒼衣の口から甘い嬌声が漏れた。
 その声に気を良くしながら直輝は、蒼衣の耳たぶやその縁に指を這わせ、蒼衣が感じる所を的確に刺激していく。
 びくっ、びくっ、と体が快感に揺れ、蒼衣の膝から力が抜けて行った。

「ぁ……っ、ん、んん……っ。」
「蒼衣、可愛い。」
「ひ、あぁ……っ!」

 直輝の耳への愛撫に過剰なほど感じ、体の力が抜けて行く蒼衣を受けとめながら目の前にまで落ちてきたその耳へと直輝は欲情を絡めた掠れた声で、蒼衣が悦ぶ言葉を囁く。
 すると、小さな悲鳴にも似た嬌声を上げ、蒼衣の体から本格的に力が抜ける。
 細い体を抱きしめて必要以上に崩れ落ちないようにしながら、直輝は、何度も何度も蒼衣の耳に、可愛い、を吹き込みながら今度は舌と唇で蒼衣の弱点の一つでもある耳を弄っていった。
 がくがくと体が揺れ、かつんっ、と蒼衣が手にしていたシャワーが床の上へと落ちる。未だ流れ続けている温水が直輝の足に当たり、それが妙に心地よかった。
 蒼衣の耳を舐め上げながら、直輝は蒼衣の体に回している腕を一つだけ外すと、今度は蒼衣の胸板へと持ち上げる。
 そのまま平らな胸板を手のひらで撫で、また蒼衣の体が過剰ともいえる反応を返すのをほくそ笑みながら直輝は目当ての所を指先でつまんだ。
 途端に、また蒼衣の喉から甲高い悲鳴のような嬌声が零れる。

「ふ、ふぁああ……っ!」
「乳首、硬くなってるな。ここ、気持ちイイか?」

 コリコリとしこりのあるその突起を指先でつまみ、その間で潰すように揉むと蒼衣はまた悲鳴のような嬌声を上げる。
 そして直輝の言葉に、小さく恥ずかしそうに頷いた。
 最初こそあれだけ直輝に体を弄られる事を嫌がっていた蒼衣だったが、最近は割合素直に直輝の愛撫を受け入れている。
 だが、やはりどこか心細いのだろう。
 直輝の背中にいつの間にか回っていた両腕は不安を訴えるかのようにかりかりと肉を掻いていた。
 それでも、最初のころに比べたら大した進歩だ。
 直輝が半ば無理矢理に慣らした感も拭えないでもなかったが、蒼衣自身が直輝の愛撫を受け入れてきつつあると言うのが素直に直輝としては嬉しい。
 蒼衣は直輝、いや、セックスの相手に対して奉仕するのが当たり前になっている。自分の体にはほとんど触らせず、ただ、相手の男を喜ばすために、その為だけにフェラと手淫と肛門でのセックスに特化させられたいわば動くダッチワイフとして今までは生活してきた。
 そんな歪んだセックス観を少しでも直輝が、自分の手で、治していければいいとそう思っている。
 蒼衣の硬く尖った乳首を直輝は指先で執拗に弄り、撫で、痛くない程度に爪を立てたり、潰したりして蒼衣の体に愛撫の気持ち良さを叩きこんでいく。
 直輝の指の動きに蒼衣の唇からは絶えず甘くて艶のある声が零れ、はぁはぁとどんどんと息が荒く上がっていく。
 体を半ば直輝に預けた形で蒼衣はびくびくと体を快感で震わせながら、霞んでいく意識の中で、だが妙に冷静な部分が、どうしよう、と思っていた。
 体自体は洗ってある。
 だが、肝心の部分の洗浄がまだだ。
 きっとこのままだと直輝くんにまた花火大会の日のように洗浄していない部分に挿入されるかもしれない。
 そんな不安が快感に溺れそうになる意識を繋ぎ止めていた。

「んっ、……っ、はぁ……っ、ん、なお、く……っ。」
「……。」

 掠れて甘ったるくなった声で蒼衣は、直輝の名を呼ぶ。
 だが、直輝の耳にはその呼びかけが聞こえなかったのか、直輝は無言のまま蒼衣の耳に舌を這わせ、そしてその顔を少しずつずらしていく。
 耳たぶからその直下の首筋へと舌が這い、そのざらっとした感触に蒼衣の声が少し高くなる。
 ぞくぞくとした微弱な電流が体中を走り、蕩けそうになった。
 最近は本当に直輝にこうして触られているだけで、蒼衣はイってしまいそうで不安だった。体中がふにゃふにゃに蕩け、直輝が触れている部分の全てがまるで性感帯になったみたいに過剰に快感が湧きあがる。
 ただ、それは今までに感じた事のない心地よさで。
 必死になってあの部分の洗浄が済んでいない、と言う事を伝えなきゃ、と思う反面、もうこのまま最後までシたい、突っ込んで欲しい、とも思う。
 後ろの穴はもうさっきからうずうずしてどうしようもないし、まるで女みたいに腹の奥に直輝の性器と精液を注いで欲しくてきゅんきゅんしている。そして、蒼衣の男としてのシンボルもまた、直輝同様に勃ち上がり、その先端からはとろとろと透明な雫がさっきからひっきりなしに流れ出ていた。
 伝えなきゃ、でも、もう挿れて欲しい、そんな葛藤のせめぎ合いの中で蒼衣はそれでも必死になって流されそうになる自分を律していた。

「なおき、く……っ、ま、待って……っ、ぁ、あはぁ……っん、や、待って……っ。」
「……んだよ?」

 必死の思いで直輝の名と、制止の言葉をのぼせた口に乗せていると、漸く蒼衣の言葉に直輝が気が付き首筋に埋めていた顔を起こして蒼衣を見た。
 愛撫を中断され少しだけ不満そうな直輝の顔に申し訳なさを感じながら蒼衣はゆっくりと息を吸い込むと、口を開く。

「あ、あのね……、その、あ、……っ、あ、あそこ、まだ、綺麗にしてないから……っ、その……っ、これ以上は、……あの……っ。」

 改めて感じる恥ずかしさに顔を真っ赤にしながら蒼衣は直輝にあの部分の洗浄が出来てないからこれ以上はここじゃできない、と言う意味の言葉を伝えようとする。
 だが、途中まで言いかけた所で直輝の顔がにやりと意地悪く歪むと、蒼衣の口をその手で制して止めた。

「大丈夫だって。」

 お前が何を言いたいのかちゃんと解ってるって、そんな意味を込めて蒼衣の耳に直輝は低い声でそう囁く。……尤も、直輝の思惑は蒼衣の伝えたいこととはまた違う場所にあったのだが。しかしそんな事はおくびにも出さず、直輝は蒼衣に対して微笑みかけた。
 そして小さく鼻を鳴らして笑い、困ったような顔をしている蒼衣を安心させるように唇を寄せる。
 戸惑いを現している唇を甘くついばみ、舌先で解すようにちろりと柔らかく舐めた。

「っ、ふ……んっ。」

 深く唇が合わさるとそれだけで溶けそうな甘い声が蒼衣の鼻腔から抜けて出る。
 その声を心地よく聞きながら直輝は更にソフトに、だが、どこか酷く熱っぽいキスを蒼衣の唇に繰り返し与えた。
 そうしながら直輝の手はまた蒼衣の胸板へと戻り、そこにある敏感な性感帯を指先ではじいたりつまんだりして蒼衣の体に快感を刻んでいく。
 すっかり力が抜け、直輝の体にしなだれかかるようになっている蒼衣の体を抱き寄せながら、直輝はゆっくりと狭い浴室内へと腰を落として行った。
 ひんやりとした水に濡れた床の感触を尻に感じながら直輝は床の上に直に胡坐を掻くと、蒼衣の体を弄りながらゆっくりとその体をその胡坐の上へと落としていく。
 太ももの上に蒼衣の尻が乗っかり、そのまま蒼衣は横向きの体勢で直輝と暫く熱っぽく唇をかわしあった。
 蒼衣の腕はすっかり直輝の首へと周り、切なそうにその指が直輝の項や頭を掻く。
 そして、合わさった唇の合わせ目からは甘さと熱っぽさの混じった吐息や喘ぎ声が薄く漏れる。
 直輝の筋肉質な腕が蒼衣の腰へと周り、その周辺を撫で上げると直輝の太ももの上で蒼衣の体が緊張したように跳ね上がった。

「は、……っ、ん……っんん……っ。」

 直輝の手のひらと指先が蒼衣の恥骨の上を擦るようにすると、堪え切れないような嬌声が蒼衣の喉を震わせる。
 しかももう片方の手はそれこそ執拗に、と言った表現がぴったりくるほど蒼衣の乳首やその周辺を弄り、どんどんと蒼衣の体温を上げていた。
 湿度の高い浴室の中でこうして直輝に触れられ、感じ、蒼衣の体は湯だけではなく汗で更に濡れて行く。額から滴り落ちる汗と水分が蒼衣の頬を伝い、顎に溜まるとぽたり、ぽたりと小さな水滴を落として行った。
 その汗を直輝は乳首を弄っていた手のひらを動かして手に取ると、蒼衣の体にまるで塗りたくるように伸ばしていく。汗と湯が混じったそれは、少しだけぬるっとした感触を蒼衣に伝え、乾いた手で触られるのとはまた違った快感を蒼衣の中へと湧き上がらせた。

「ぁ……はっ、……んっ。」
「……すげぇ汗だな。そんな熱いか?」

 合わさった結び目が解け、それでもまだ触れあうほど近くに寄せたままで直輝は少しだけ意地悪な色をその瞳に浮かべながら、蒼衣の肌に浮かぶ大量の汗について聞く。
 するとうっとりと細められていた瞳が薄く開き、直輝の顔を見下ろす。
 完全に欲情に飲まれている熱っぽい視線を直輝と絡め合わせながら、蒼衣はこくんと頷いた。

「だ、だって……っ、直輝くんに、っ、触られてるんだもん……っ、もう、体、熱くて、熱くて……、溶けそう……。」

 はぁはぁと熱い息を吐き出しながら蒼衣は、それでも少し恥じらいを浮かべた瞳で直輝を見つめながら、直輝の劣情を更に煽る様な言葉を口にする。
 蒼衣の表情と言葉に、直輝はごくりと生唾を飲み込むと、もう一度唇を寄せて、だが、さっきとは違い荒々しくその唇を奪う。
 小さく喉の奥で、んっ、と声を上げながら蒼衣は直輝の深くて強いキスに更に脳が快感でくらくらと理性を溶かして行くのを感じた。
 そのせいで必死になって押さえてきた挿入されたいと言う欲求が溢れだしそうになる。
 体の奥はもうすでにどうしようもないほど直輝を欲し、尻に当たる直輝の硬い、筋肉質な太ももの感触がそれを更に煽っていた。
 無意識のうちに腰を揺すり、直輝の太ももに尻を左右に振って擦りつける。それだけでは物足りなさを感じ、首に回していた腕を片方外すと、自分で肉を広げてその割れ目に直輝の太ももを直接当てるようにすると、穴の部分に直接その皮膚の感触を擦り付けた。
 直輝の太ももに生えている毛の感触が少しだけくすぐったくて、そしてちくちくとした痛みの様な妙な快感を蒼衣のその部分に感じ蒼衣は直輝と激しいキスをしながら、どんどんと腰の動きを激しくしていく。
 気が付くと、蒼衣と直輝の顎は互いの唇から溢れ出た唾液でべたべたになり、直輝もまた興奮したように鼻で息をしながら蒼衣の体を乱暴に弄っていた。
 体を動かす事で更に蒼衣の体からは汗が吹き出し、どんどんと滴り落ちて行く。そして、直輝の太ももと接している蒼衣の尻の穴の部分にもそれは溜まっていき、ぬるぬるとした汗の感触とそれによって湧き上がる快感を直輝にも蒼衣にも与えて行った。
 だが、無理な体勢での擦り付けのせいで蒼衣は少しだけ物足りなさを感じる。
 そろそろと足を動かし、横向きになっている体を移動させ、直輝の腰を両足で挟むような感じに体の向きを変えると、蒼衣は自分の性器を直輝の性器へと押し付けた。
 硬くて熱いその欲望の塊の感触に蒼衣は直輝とキスをしながら、うっとりと微笑む。
 そして尻は蒼衣の動きに合わせて直輝が足を動かしたまま相変わらず直輝の太ももに押し付けた状態で、腰を今度は前後に振り始めた。
 先端から溢れ出ている互いの先走りがぬるりと滑り、亀頭同士の擦りつけを難しくする。それでも、先端が触れあった瞬間に感じる体全部が蕩けそうになる快感に蒼衣は堪らず直輝から唇を離した。

「ぁ……っ、はぁ、はぁ、……はふ……っ、ん、なお、く……っ、なお、き、く……ん……っ。」

 体中が狂ったように切なくて、熱くて、尻を直輝の太ももに押し付けながら肉棒の先端を蒼衣同様怒張している直輝の肉棒の先端へと擦りつける。
 その蒼衣の行動に直輝もまた、堪らなくなり、ぺろりと獰猛な顔で舌なめずりをすると、蒼衣の腰を掴んで自分からも蒼衣の性器に性器を擦りつけ始めた。
 そうしながらもう片方の手を直輝の太ももに擦りつけている蒼衣の尻へと伸ばす。
 柔らかい尻肉を押し開きながら太ももに密着している蒼衣の菊門に指先を這わした。
 途端に蒼衣の体がびくびくっと細かく痙攣を起こし、それだけで、蒼衣が軽く達した事を知る。

「はぁ……っあぁ……っ、ぁ、あっーーぁあっ、あっ……はぁ……っふぁっ。」

 びくんっ、びくんっ、と体を直輝の太ももの上で跳ねあげながら蒼衣はぎゅうっと直輝にしがみつく。その体はびっくりするくらい熱くなっていて、大量の汗のせいでやけにぬるぬるとしていた。
 蒼衣の体が直輝の体に密着するような形になったせいで、更に二人の性器は強くぶつかり合い、互いの先走りが潤滑油の役目を果たしてぬるぬると滑る。体がびくびくと震える度に、何をしなくても互いの性器が絡み合い、直輝にも蒼衣にも強い快感を与えた。
 しかも、蒼衣の汗と、先走りとが混ざり合い、くちゅくちゅと嫌らしい音までが浴室中に響き、それが更に二人の劣情を煽る羽目となる。

「蒼衣……っ、蒼衣、可愛い……っ。超可愛い……っ。」
「ぁ、あぁん……っ、あ、やぁ……っ、はぁ、あ、あぁ……っ、あっ、はっ……ふっんっ。」

 互いの体から噴き出す汗を擦り付けるようにして体を密着さえながら、より快感を得ようと二人して腰を揺すり、肉棒同士を擦りつけ、直輝の指は蒼衣の尻穴に指先を押し当ててぐいぐいと押さえたり撫で上げたりすると、蒼衣の体は何度も何度もびくびくと女のように震える。
 入口を触っているだけでこうして蒼衣が軽くとは言え何度もイくのを快感に思いながら直輝は、赤く染まっている蒼衣の首筋に丹念に舌を這わせ続けた。
 そして、ゆっくりと顔を落として行く。
 首筋から鎖骨と降りて、ぎゅうぎゅうとしがみついてくる蒼衣の体を少しだけ離すと、ちょうど目の前に来た蒼衣の胸板へと舌を這わせ、そして、赤く色づき、まるで勃起しているように硬く勃ち上がっている乳首を唇に含んだ。
 そのまま舌先で乳首を転がし、歯でこりこりと甘く噛むと蒼衣の体が大きく仰け反った。
 感度の良いその反応に、直輝は殊更気分を良くすると、もっとよがらせてやろうと唾液をたっぷりと乳首へと擦り付けながら強くそれを吸う。

「ひぁ……っ、あ、あぁーーーっ、あ、はぁああ……っあ、あぁ……!! っ……っ、?! やぁっ、な、で……っ?!」

 ちゅうちゅうと強く吸い上げると、蒼衣の腰がびくびくと跳ね上がる。そして、直輝の性器に擦りつけているその肉棒の先端から、びゅくっ、と精液が飛び出してきた。そのまま白濁とした液は蒼衣と直輝の腹を汚し、汗でぬめる体からゆっくりと二人の体の間へと落ちて行く。
 どうやら直輝の指で何度も軽くイかされる位、穴の入口を刺激された事と、乳首を吸われ、甘く噛まれた事が蒼衣の性感を強く刺激し、射精させたらしい。
 その事にまず蒼衣自身が酷く驚き、射精をする快感に飲み込まれながらも、唇に疑問符を登らせる。そんな蒼衣に嬉しさを隠しきれない笑みを浮かべた直輝が、乳首から唇を離し舌から見上げた。

「善かったか? 蒼衣。」
「やっ、やぁ……、見ちゃ、や……っ、見ない、で……っ! は、恥ずかし、ぃ……っ。」

 下から覗き込むように直輝に見られて、体中に火がついたように羞恥心が膨れ上がった。挿入もされていないのに、しかも性器自身にも直輝の手は触れていないのに、ただ、乳首を吸われ、尻穴を指先で撫でられているだけで達してしまった自分が本当に恥ずかしくて、蒼衣は必死になって直輝の視線から逃げようと顔を背ける。
 だが、当然直輝がそんな事を許す筈もなく。
 蒼衣の腰に回していた残りの腕を持ち上げると蒼衣の顎を掴み無理矢理直輝へと戻す。

「っ、や、……やぁ……ぅ。」

 恥ずかしさで涙を浮かべている瞳を見上げ、泣きそうに顔を歪めている蒼衣に直輝は歪んだ性欲が掻きたてられるのを感じる。
 それは、蒼衣を泣かしたい、もっともっと恥ずかしがらせたい、と言った非常に厄介な物で。
 常々直輝は蒼衣に優しくしてやりたいとは思っているが、一度こうした感情が胸の内に宿ってしまうと、どうしてもその感情に従って蒼衣をぐちゃぐちゃに泣かせたくなってしまう。
 そんな歪んだ欲望を慌てて抑え込もうとするが、目の前にある今にも泣き出しそうになっている蒼衣を見てしまうとどうしてもそんな簡単に自分の中に湧き上がった欲求を抑え込む事は困難だった。

「蒼衣……。」

 そっと蒼衣の名を口にする。
 それだけで直輝の体にはぞくぞくとした加虐的な快感が走った。
 直輝の呼び掛けに蒼衣は相変わらず泣きそうな顔で、羞恥の涙で潤んだ瞳で直輝を見下ろす。その瞳がまた直輝の中にある歪んだ欲望を刺激するとも知らずに。

「なお、きくん……。」
「なぁ、そろそろ挿れてーんだけど……、後ろ、洗浄しねーとやっぱ挿れたくねぇ?」

 おどおどとした瞳で直輝を見つめながら直輝の名を呼び返すと、直輝はどこか獰猛な色を秘めた瞳で蒼衣を見詰めながらそんな事を聞いてきた。
 その直輝の言葉に蒼衣は恥ずかしそうに瞳を伏せると、本当は今すぐにでも挿れて欲しい、と思いながらもそれは口にせず小さく頷く。

「……そうか。解った。」

 蒼衣の頷きは当然予想の範疇だったのか、直輝は酷くあっさりとそう納得したように頷いた。その頷きに蒼衣は自分勝手だとは思いながらも、少し物足りなさを感じる。だが、それはやはり口には出来ずに、直輝の顔を恥ずかしさから見られずに視線を逸らした。
 と、直輝の手が蒼衣の腰にかかると、蒼衣の体を軽く持ち上げて直輝の膝の上から降ろした。

「……?」
「洗浄すんだろ? 待っててやるから、しろよ。」

 突然降ろされ、密着していた体を離された事に寂しさと疑問を感じ改めて直輝へと視線を戻すと、直輝は酷く意地悪な顔で蒼衣に向けて笑ってみせる。
 直輝の笑顔と、そして言われた言葉に蒼衣の顔にさっと朱が広がり、そして少し遅れて漸く直輝が体を離した意味を理解した。
 途端に顔だけでなく全身が茹であがったような錯覚を覚える。
 つまり、直輝は、蒼衣に、直輝の、目の前で、洗浄を、行え、と、そう蒼衣に向かって言ったのだ。






 ぼろぼろと我慢のできない涙を零し、目の前に居る筈の直輝をも見られず蒼衣は声にならない声を上げてその場で泣き崩れる。
 そんな蒼衣の姿を見下ろしながら、直輝は今更ながらに蒼衣に対していつも以上に酷い事を強いてしまった事を知った。
 最初から蒼衣は嫌がっていたのだ。
 それなのに。
 今しがた自分が蒼衣に強いた事を頭の中で反芻しながら、直輝は今更ながらに強い後悔に襲われる。
 最初はほんの好奇心からだった。
 前に蒼衣か言った、アソコの中を洗う、という言葉に直輝はバカみたいにやらしい想像を膨らませ、それを実際にこの目に出来るかもしれないと言うそんな幼稚な欲望の前に、蒼衣が本気で嫌がったのを無視して、それを強要したのだ。
 いくら蒼衣が直輝自身に対して従順で、どんな辱めにも最終的には受け入れ、悶えてきたからとはいえ、これは流石にやりすぎだし、何より、蒼衣の一人の人間としての尊厳を踏みにじったようなものだ。
 直輝の強要に、一度はそれを諦めの境地で飲み込み、震えながらも直輝にやり方を教えた蒼衣。
 せめて、そこで止めておけば良かった。
 それ以上を好奇心のままに性急に求め、無理矢理この場に留める。冷静になった今、これがどれだけ酷い事なのかが否が応でも直輝の胸の中に痛みを伴って迫って来ていた。
 普段でも、それを、いわゆる、排泄の場面を見られるのは誰だって嫌だろう。そもそも人に見せるものではない。
 しかも好きな相手な相手ならばなおさらだ。
 それを、直輝は蒼衣に強要し、そして、こうして無理矢理止めた結果。
 蒼衣の体内に一度入り込んだその温水は、今、直輝の目の前で蒼衣の中から少しずつ零れて流れて排水溝に消えていく。
 すまない。悪い。ごめん。
 思わずそんな言葉を飲み込み、蒼衣に伸ばしかけた手を空中に浮かせたまま少しの間どうするべきか彷徨わす。指を握ったり開いたり躊躇を如実に表して、だが、それでも直輝の手は蒼衣の体にゆっくりと伸びて行った。

「蒼衣……。わりぃ、……すまねぇ……。」
「っ……ぅ、うぅ……っ、やっ、やだっ、やっ……っ! 触らっ、ないでっ!! っ、うわぁああああ……っ!!」

 蒼衣の肩にそっと指先が触れ、直輝は心底申し訳なさそうな声で蒼衣に謝罪の言葉をかける。
 だが、蒼衣は見られたくない姿を直輝に見られた事に寄るパニックで顔を左右に激しく振ると、顔を覆っていた手で直輝の手を払い落す。そして、また蒼衣は顔を両手で覆うと、今度は声を上げて泣いた。
 半狂乱、と言っても良い蒼衣の姿に直輝は一瞬息を飲む。そして、蒼衣に完全に拒絶された事にショックを受けた。
 完全に蒼衣の中にあった触れてはいけない場所に触れてしまった事に、直輝はこれ以上どう蒼衣に対して言い繕っていいか解らなくなる。
 それでもこのまま蒼衣に拒絶され続けるのは、――自分の勝手だと解っていても――、とても辛くて、そして、苦しくて、直輝はふるふると頭を振って弱気になった自分を振り払う。

「すまない、蒼衣。俺、本当デリカシーなくて……。お前の恥ずかしがる姿がすっげぇ可愛くて暴走した。ごめん。俺、お前がこんな嫌がるなんて思ってなくて……っ、軽率だった、ごめん。」

 そこまで言うと蒼衣の泣き声が少し落ち着いてきている事に気が付く。伏せていた瞳を持ち上げ、視線を下へと向けると蒼衣は直輝を睨むようにして見上げていた。

「ぼ、僕……っ、確かに女装趣味で、男とエッチしちゃうような変態だけど……、でも、こんなの……っ、こんな姿、見られて悦ぶような人間じゃないよ……っ! そ、そりゃ、今まで直輝くんには何されても、最終的には受け入れたし、感じまくっちゃうような淫乱だから、直輝くんには、意地悪されて悦ぶドMな変態だと思われてるかもしれないけど……っ、で、でも、流石に、……っ、こんな……っ、お尻に入れた、お、お湯……っ、出してるとこ、なんて……っう、ぅ……ぅ、直輝くんには、見せたくないし、っ、……見られっ、たくない、ひっく……っ、姿だったの、っに……っぅ……ぅうう……う……ふっ、ぅうう……っ。」

 唇を切れるほどに噛みしめながら、蒼衣はボロボロと涙を零し直輝に対してどれだけ自分がこんな姿を見られたくなかったのかを訴える。だが、最後の方は言葉にならず涙声をしゃくりあげるだけになってしまう程感情が先立ち、上手く言葉にならない。先ほどまでの半狂乱な泣き方ではないにせよ、まだ蒼衣自身、様々な負の感情に溺れていて、完全にはパニックから脱出出来ていない。
 なにせ直輝の目の前で直輝のせいとはいえ腸内に溜めた湯を排泄してしまった、その屈辱感や、背徳感、今までにない羞恥心、そして何よりも自身への嫌悪が蒼衣を襲い、溢れだす涙も嗚咽も抑えられない。
 確かに過去には、蒼衣の叔父などには直腸洗浄を強要され、その目の前で中身を排泄した事もある。だが、叔父や蒼衣を性欲処理の人形と考えて、そう見ている人間の前でこの行為を行う事と、蒼衣自身心を寄せている直輝にこの行為を、――例え直輝が強要し、無理矢理この場に留めた結果だからと言っても――、見せる事は全く意味合いも、蒼衣自身の気持ちの持って行き方も違った。叔父達に強要されていた時は、そもそも根本的にその手の羞恥心自体が未熟だった子供であり、歪んだ価値観を押し付けられていた生活を送る蒼衣の中にはあまりなかった事もある。施設での生活は、普通の世間一般では狂っているとしか言いようがない生活ではあったが、蒼衣にとってはそれが世界の全てでそれが常識だったのだ。
 尤も基本、施設時代も直腸の洗浄は蒼衣が自分ひとりの時にトイレなどで行っていたが、酔狂な大人達は蒼衣に目の前でそれをする事を望む事も多かった。それが狂っている事だとも、可笑しい事だとも判別のつかない子供時代にそれを叩きこまれ、大人を悦ばすために蒼衣はそれに感じる背徳感も羞恥心も理性も無理矢理ねじ伏せ、その命令にただただ生きる為だけに、生きて行く為だけに従ってきた。
 だが。
 施設から出た後、それがどれだけ狂気じみた可笑しな行為だったのかを、他人の強制や干渉がない世界で改めて他人の手に寄って知れば知るほど蒼衣は排泄や洗浄の姿を人に見せる事が人間としてどれだけ屈辱的な事か、恥ずべき姿だったのか、そして、改めて叔父達に人として扱って貰えなかった事へ行き場のない悲しみと、それに従っていた自分に対しての嫌悪感が住み着き、それは蒼衣の消えない傷の一つとなった。
 まだ、直輝が湯を中に入れるまではいいとしよう。
 だが、恋心を抱いている直輝にそれを排泄している所を見られる、と言うのは蒼衣にとっては本当に死んでも避けたかった行為の一つだ。
 直輝がどんなつもりでここまで蒼衣にこの行為を強いたのかは蒼衣には真の意味では解らない。
 それでも、直輝のちょっとした好奇心が蒼衣を追い詰めて、元あった傷を更に傷つけたのは確かだった。
 過去に蒼衣が狂った大人達に施されたその仕打ちをしらない直輝でさえも蒼衣が己のちょっとした好奇心に傷つき、今までにない程悲しんでいるその姿や、吐き出される嫌悪の混じった言葉に、直輝は息を飲み、いたたまれない表情になると瞳を伏せた。
 改めて直輝は蒼衣に無理な事を強いた事を酷く後悔する。
 今まで蒼衣がなんでも言う事を聞いていたからと言って少し調子に乗っていた自分にも今更ながらに気が付き、その事に対しても直輝は心の中で自分を叱責し、強く反省と後悔をした。

「……わりぃ、蒼衣。」

 一度跳ねのけられた手をそれでも直輝はもう一度蒼衣の肩に置き、それが拒絶されないのを見て取ると、視線を蒼衣の目線までゆっくりと降ろして行く。
 そして視線がちょうど同じ位置に来た時に、そのまま蒼衣の体を抱き寄せ、後悔の気持ちと、謝罪の気持ちを強く込めて蒼衣を抱きしめる。
 突然抱きしめられ、蒼衣は直輝の腕の中で抜けだそうと必死になってもがくが、直輝は更に強く蒼衣が逃げ出さないように、それこそしっかりと強く強く震える体を抱きしめた。
 直輝の抱擁に、蒼衣は改めて拒絶の色を込めて必死になって腕を突っ張ってその中から逃げようとする。見られたくない姿を見られた屈辱感と、羞恥心、そして、言葉にならない直輝に対する今まで感じた事のない嫌悪が蒼衣の拒否を強めさせた。
 再度強いパニック状態になり、無茶苦茶に直輝の腕の中で暴れる。
 直輝の肩を何度も何度も強く叩いたり、髪を引っ張ったり、その肌に爪を立てひっかいたり、そうしながら蒼衣は言葉にならない言葉を口にしながら泣き喚く。湯に濡れた長い髪を振り乱し、わぁわぁと泣きながら、離して、離して、と弱々しく直輝に訴える。
 しかし何度も何度も直輝に耳元で真剣な声色で謝られていると、少しずつパニックを起こしていた頭が冷静になり、直輝に感じていた嫌悪も少しずつ薄れて行った。
 そうしてどれだけの時間直輝は蒼衣のパニックに真剣に付き合い、向き合い、蒼衣の攻撃を受け入れ、謝り続けたのだろうか。
 漸く蒼衣が直輝を拒絶する行動が小さくなったのを認めると、ホッと安堵の溜息を心の中で吐く。

「蒼衣……、本当にごめんな……。」
「……。」

 今更ながらに強く蒼衣の震える体を抱きしめながら、そう心の底からさっきの行為に対しての謝罪の言葉を口にする。
 それにもう蒼衣は半狂乱な言葉を返す事はしなかった。
 その事にもう一度直輝はホッと安堵の息を緩く吐くと、ゆっくりと言葉を重ねて行く。

「ほんと、俺、ダメだな。お前があんまり俺の言う事いっつも聞くもんだから、何しても良いって気になってた。馬鹿だよな、んな訳ねーのに。お前を泣かしたくねーってずっと思ってんのに、何してんだろうな、俺。」
「……っ、ぅ……ぅ。」
「本当にごめんな。蒼衣。もう、無理強いしねぇから。無茶な事、いわねぇから。ごめんな。」

 腕の中で逃げるのを諦めた蒼衣に謝罪の言葉をとうとうと注ぎ込みながら直輝は、震え未だ小さく嗚咽を漏らす蒼衣の体を優しく、優しく撫で、長い髪をその指に絡めるとその頭も優しく撫でる。
 そして優しくその顔に、髪にキスの嵐を振らせた。
 ぼろぼろと涙が零れるその目尻にキスを落とし、溢れ出る涙を舌ですくい舐め取る。その涙は微かにしょっぱくて、舌先に苦く広がっていった。
 蒼衣に何度も何度も謝罪しながら、直輝はこの慰め方が果たして正しいのかどうかを自問自答する。
 蒼衣にしてみれば信頼していた相手に酷く傷つけられた事になるのだから、本当ならこの方法は逆効果なのかもしれない。それに、蒼衣は男だ。女であれば優しい言葉と甘い囁き、そしてキスの嵐である程度は簡単に機嫌を直してくれるだろう。だが、自尊心を傷つけられた男相手に、こんな甘っちょろい方法で機嫌を直して貰おうと言うのは虫が良い話だろうと直輝は思う。
 しかし他に方法も思いつかず、浮かばず、蒼衣に呆れられたり、信頼も失う覚悟で直輝は今まで機嫌を損ねた女相手にもした事がないようなこんな古典的な方法を蒼衣に試していた。
 そして蒼衣は直輝のこの謝罪の仕方に、少し困惑をしていた。
 直輝の優しい声も、甘い言葉も、優しいキスの嵐も確かに嬉しい。何度も何度も謝られて、もうしない、大切にすると誓ってくれた事は、本当に思わずうっとりとしてしまいそうになるくらい幸せな事だった。
 だけど、先ほど直輝が思ったように蒼衣としては女のように扱われる事が、贅沢だと思いながらも何か心に引っかかるものがある。勿論、蒼衣としても自分の立場はしっかりと理解している。最初から女装姿で直輝に迫り関係を持ったのは他ならぬ蒼衣自身だ。だから、直輝が蒼衣を女の代用品として扱っているのだろう、という思いも心の中にいつもある。事実、直輝とエッチをする時は十中八九蒼衣は女装をしていた。
 だから、直輝がどこか蒼衣を女のように思っているのだろう、と言うも理解できるし、そう見られる事も仕方がない事だとは解っている。そして、女装をしている時には“女”として扱われる事に対して嬉しく感じる自分がいる事も否定できない。
 それでもこうして直輝と遊ぶようになって、恋愛対象として直輝を見ている自分をしっかりと理解して、そんな中友達とも恋人とも言えない曖昧な状態で、気が付けば女装をしていなくても体を求められ、重ね続けていると、今のように女装をしていない“男”の時に、直輝にこんな風に女のように慰められる事に蒼衣はどう反応を返していいのかが解らなくなってしまう。
 女装の時は“女”として扱われる事が嬉しくて、そうでない時は、“男”として扱って欲しい。
 それが自分自身でも酷く矛盾した感情で自分勝手な望みだと言うのは解っていた。
 だが、それでも、こんな風に直輝に女にするように優しくされると困ってしまう。
 それに。
 こうして段々と頭が冷えてくると、蒼衣は改めて自分が何故あんなにも直輝の求めた事に拒絶をしてしまったのだろう、と言う後悔が後から後から湧いて出てくる。
 好きな相手の言う事を聞くのは当たり前の事じゃないのか? こんな些細な事で直輝を拒絶して嫌われでもしたら、それこそ悲しい。直輝くんが喜ぶなら僕の恥ずかしさなんて二の次じゃないのか?
 そんな本来なら当たり前とは言えない事を恋愛経験の乏しい蒼衣は真剣に思う。
 だからと言ってノリノリで直輝の今回の意地悪にはやっぱりノれない訳で。それでも、好きな相手の言う事は多少無理な事でも、自分が嫌な事でも、相手の望みを、求めを素直に聞いていた方が相手に好かれるんじゃないのか、なんて間違った事を考えてしまう。
 耳元では相変わらず直輝が真剣な声色でさっきの無茶を反省し、もうしない、と謝罪をし、優しい仕草で蒼衣の顔にキスを降らせ続けている。
 その声と直輝の唇の感触と冷静になっていく頭で段々と零れ落ちる涙も少なくなり、蒼衣はそっと目を開ける。すると目の前には直輝の心底後悔をしている曇った顔が見えた。
 それを見て、蒼衣はずきんっと酷く胸が痛むのを感じた。
 直輝にこんな顔なんてさせたくなかった。自分のわがままで直輝に辛い想いをさせてしまった事が途端に物凄く申し訳なくなる。

「……ごめんなさい。」

 思わずそう蒼衣の口からぽろりと直輝への謝罪の言葉が漏れた。
 その掠れた声での謝罪に、直輝はキスを落としていた唇を蒼衣の頬から離すと、驚いたように蒼衣の顔を見下ろす。
 蒼衣は涙で濡れた瞳を申し訳なさそうに伏せると、もう一度同じ言葉を直輝へと向けて口にした。
 それに直輝はますます驚いたように目を見開くと、言葉に詰まったように小さく唇を震わせる。

「な、直輝くん……、僕、あの、僕の方こそ、ごめんね。その……、直輝くんが見たいって言うなら、僕……、その、はっ、恥ずかしいけど、もう一度、その、直輝くんがそれで喜んでくれるのなら、僕、い、いいよ……。せ、洗浄……、してる、とこ……、見せる、から……。だから、そんな、謝らないで? 悪いのは、直輝くんの、言う事、素直に聞けなかった僕の方なんだから……っ。」
「っ……っ!」

 まさか蒼衣の口からそんな謝罪の言葉とあれだけ嫌がっていた事をもう一度するという言葉が出るとは思わず、直輝は驚きから息を飲む。だが、その言葉の隅々に蒼衣が無理している事が窺われ、直輝はどうしてこれ程までに蒼衣が無理をして自分の酷いわがままを聞こうとしているのか一瞬理解に苦しむ。
 だが。
 次に聞こえてきた言葉に直輝は自分の耳を疑った。

「そ、それに……、良く考えたら、昔は……、っ、お、叔父っ、さんとかに……、同じコト、強制されてた、からっ……、直輝くんだけに、見せるの、恥ずかしがる、ほうが……っ、可笑しいよね。だ、だから……っ、っつ……ぅっん……っ!?」

 無理をしてつっかえながら、そして直輝を安心させる為だろうか、引きつった笑みを浮かべて語られる蒼衣のあまりにも悲しみと苦しみを背負った過去の話の途中で、直輝は我慢が出来ずそれ以上を言わせまいとして無理矢理その唇を奪う。
 わなわなと震えている唇に強く自身の唇を押し当て、口の中に反響している言葉を吸い取り、絡め取る。
 聞きたくない、言わせたくない言葉を深く飲みこみ、相変わらず無理をして強がりを言い、震えているその体と、そして出来る事ならば傷ついて泣いているその心をも一緒に、強く抱きしめた。抱きしめようとした。抱きしめていると、願った。
 蒼衣がどんな幼少時代を送っていたのかは直輝も少しは知っている。蒼衣の口から出会った当初に語られたそれは平凡な人生を送っていた直輝にとっては酷く衝撃的な内容で、にわかには信じがたい事でもあった。
 だが、それは紛れもない真実だったのだと、蒼衣と幾度も体を重ねる度に思い知り、そして、苦しさを背負う蒼衣に何もできない自身の無力さをも思い知る。どう足掻いても時間は過去には戻らない。もし時間を撒き戻せるのならば今すぐにでも撒き戻して、こんな辛い過去を背負う原因になった蒼衣の叔父をどんな手を使ってでも蒼衣の前から排除したいと、蒼衣と体を重ねる度に何度も何度も願う。だが、それは叶わないのだ。蒼衣の過去は、変えられない。それが直輝には痛いほど解っているだけに、これ以上蒼衣に辛い過去を語らせたくなかった。そして、聞きたくなかった。それがどれだけ自分勝手なエゴで出来ている偽りの優しさだと痛いほど解っていても。

「……っ、ふ……ん……っ。」

 たっぷりと時間をかけて蒼衣の苦しみを吸い取るように唇を合わせ、そこから漏れる吐息を飲みこんでいく。
 どういった気持ちで直輝がこんな風に蒼衣にキスをしてくるのかは蒼衣には解らない。
 だが、触れている唇が、体を抱きしめる直輝の腕が、蒼衣にはなんだか、無理をするな、と訴えて来ているようで、強張っていた蒼衣の体が少しずつ弛緩していく。緊張がほぐれ、無理していた心までがほぐれていくような気もする。そして、それとともに一旦は止まっていた涙が、すーっと一筋頬を伝って落ちて行く。その一筋の涙は次々に溢れ、幾筋もの流れになると顎から溜まった涙が、ぽたり、ぽたりと互いの胸板の上に落ちて行った。
 直輝の腕の中はこれ以上ない位蒼衣に安心感を与える。
 そして、これ以上ないほど蒼衣の心を掻き乱す。
 さっきは女のように扱われる事への小さな不満があったのに、今はこうして直輝に抱きしめられキスをされる事を嬉しいと思う。
 そんな自分のめまぐるしいほどの感情の移り変わりに蒼衣は戸惑いを覚えながらも、不思議なくらい心にあった苦しみが薄らいでいた。
 直輝くん。
 心の中でその名前を小さく呟く。
 途端に苦しくなるほど胸が痛くなり、そして、妙な幸福感が蒼衣の心の中を満たして行く。
 だがこの苦しみは全く辛くなかった。
 過去の事を思えば塞ぎかかった傷口がぱっくりと裂けて血が溢れだすような痛みが走るのに、直輝の事を思うとそれはまるで止血された様に痛みが引く。体を合わせれば尚更その痛みも傷口も薄く塞がり、溢れ出ていた血さえも止まる様な気がした。
 もっと抱きしめて欲しい。そう蒼衣は強く願った。
 過去を忘れるくらい、自分が男だと言う事も忘れるくらい、直輝には強く抱きしめて欲しかった。
 そう思うと自然と体の震えは収まり、だらんと下げていた腕をゆっくりと持ち上げる。そしてよく鍛えられている直輝の背中へと腕を絡め、直輝の体を抱きしめ返した。
 蒼衣の体から震えが止まり、そして力が抜けて行き背中に蒼衣の手が回ったのを抱きしめている腕と背中に感じながら、直輝は改めてこれ以上蒼衣に辛い思いをさせたくない、と強くそう思う。
 今しがた語られた蒼衣の過去に、蒼衣自身のトラウマや嫌悪、そして言葉にはできない辛さと痛みを感じたせいもある。
 だが、何よりも自分自身のわがままで蒼衣に無理をさせたくなかった。
 蒼衣は直輝の言葉ならそれがどれだけ無理難題で、蒼衣自身の自尊心を破壊するような事でもきっとこうして心に昔よりも更に深く痛い傷を負わせながら、それでも無理して笑って聞き続けるだろう。
 蒼衣の言葉を借りて言うのならば、大好きな、直輝を喜ばす為に。
 自分で言いだした言葉に蒼衣が翻弄され、泣き、それでも最終的にはいいなりになる事は正直直輝にとっては、良心が痛みつつも男としての征服欲や優越感、そして何より性欲を酷く満足させられる。
 だがだからと言って蒼衣の心を傷つけたいとは直輝は微塵も思ってはいない。
 こんな酷いわがままを言う男の事を何故蒼衣はいつまでも受け入れ、半狂乱になる程嫌がった事さえも俺が喜ぶから、と言うそんなつまらない理由で受け入れようとし、自分自身の感情まで殺そうとするのか。そんな疑問が直輝の心を占める。
 それは恐らく、蒼衣に取って直輝は“特別”だからだろう。
 その答えは解ってはいても、それに応えるだけの度胸と余裕が直輝にはまだなかった。
 これだけ大切に想っていると言うのに。愛しいと感じていると言うのに。守りたいと、切実に願っているのに。
 こうしてとても簡単でとても難しい決断を先送りにして、自分はいつまで蒼衣を待たせ、傷つけていくのだろうか。
 そんな事を漠然と直輝は思う。
 腕の中にある蒼衣の体は今やすっかり震えも止まり、背中に回されたその腕は何かを求めるように縋るように直輝を抱きしめ、その指はかりかりと皮膚の上を甘く這いずりまわる。
 出来る事ならばもう二度と蒼衣を泣かせたくはない。
 だけど、きっとまたデリカシーのない自分は欲望に飲まれて蒼衣を傷つけ泣かすだろう。
 そんな人間がいつまでも蒼衣とのこの曖昧な関係を続けて行っていいものなのだろうか。それとも、蒼衣を傷つけないように蒼衣の心がこれ以上深く自分に寄りかかる前に蒼衣の元から自分は去った方がいいのではないのか、そんな事をふと思い直輝は、ハッとする。
 そして、慌てて今考えた事を頭の中から追い払った。
 蒼衣の居ない生活なんて、もうすでに考えられない。それほどまで深く直輝の心に蒼衣はすでに存在している。
 それでも……、堂々巡りの自身の思考を直輝は無理矢理ストップさせると、背中にある蒼衣の腕の感触に導かれるように更に深く蒼衣の唇に自身の唇を押し当て、その口の中を舌で弄っていった。
 そうして直輝も蒼衣も、それぞれ自分の中にある矛盾や相手を思う愛しさ苦しさ、そして何より答えの見えない不安を抱えたまま互いの体を寄せ合い唇を深くまじ合わせ続けた。