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NOVEL

Un tournesol 〜深き悩み、加えて、新たなる波乱?〜
15

注意) 女装エッチ/鏡に映す/体臭/陰語/伏字なしの性器名称/オンナ発言

 俺の傍に居てくれるか――?
 頭の中にその言葉が何度か木霊する。
 思いもしなかった、想像さえもしていなかった直輝の言葉に、蒼衣は欲情と感動と驚きで潤む瞳で直輝を見返す。すぐ下にある直輝の瞳は、その言葉が本心からだとそう語っていた。
 もう一度頭の中で、今直輝が蒼衣に向けて言った言葉を繰り返す。
 これからも傍に居てくれるか? これからも。傍に。居て。くれるか?
 真剣な言葉がずっしりと蒼衣の心に語りかけ、不安に苛まれていた蒼衣の心を不思議なくらい温かくしてくれる。
 蒼衣がずっと夢見ていた未来がすぐそこにある。
 直輝が差し伸べてくれた手がすぐそこにあった。
 だが、すぐには直輝の言葉に応える事も、その手を取る事も出来そうもなかった。
 胸の中は、言葉にならない想いで溢れ、渦巻き、様々な感情が入り混じって蒼衣自身訳が分からない状態になっている。
 それでも、ただ一つはっきりと分かっているのは。
 嬉しい。
 その感情だけだ。
 ひたすらに嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて。
 言葉にする事さえもどかしく、そして、難しいほど、嬉しいという感情が様々な複雑な正の感情を交えて蒼衣の心の中を吹き荒れている。
 言葉で書けば、嬉しい、そのたった一言。
 だが、その内容は実に様々で、色々な側面があって、そんな一言で言い表すのさえもったいないくらい深い感情だった。
 この言葉をどう伝えていいものか、どういい表わしたらいいものか、語録が少ない蒼衣には表現する術がない。
 ただ、ひたすらに直輝の瞳を見つめ返し、言葉を伝えようと唇を緩く動かす。
 だけどどう言えばこの感情を直輝に的確に伝えられるのかが分からなくて、結局は困ったような表情になると唇を閉じてしまった。
 それに、果たして本当に自分のような人間が直輝の傍に居てもいいものか、というのもある。
 自分から直輝に、直輝くんと一緒に居る未来を望んでもいいの、などと聞いておきながら、やはりそんな事を聞くべきではなかったのではないかという後悔が頭をもたげてきた。
 先ほど勇に指摘され気付いたたように、自分の存在は直輝の両親や親せきには到底受け入れられるものではないし、紹介などできる筈もないだろう。だが、直輝の傍に居ればいつかは絶対に、少なくとも直輝の両親には蒼衣の存在は知られる事になる。
 勿論その時に、ただの友達だと言って、蒼衣と直輝の本当の関係を誤魔化す事も出来るだろうが、直輝の両親がそれで誤魔化されてくれるのかまでは想像もつかないし、蒼衣自身の雰囲気や態度で何かが可笑しいと勘繰られることだって充分にありうる。
 蒼衣は自分では自分の行動がどれだけ“普通の人間”と乖離したものなのかは分からないし、そもそもが自分を“普通の人間”とも思っていない。
 だからそんな“普通でない人間”が、本当に今の直輝の言葉に素直に頷いていいものか、分からなかった。
 結局のところ、蒼衣の頭の中はさっき勇に指摘された後と同じように躊躇ばかりが堂々巡りしてしまう。
 本心は頷いてしまいたい。だけど、それは本当に直輝の為になるのか。果たして、迷惑にならないのだろうか。そんな思いばかりが頭の中を占め、嬉しい気持ちさえもどこか自分のエゴではないのかと、そこまで考えてしまう。
 その為、結局蒼衣は口をつぐんでしまうしかなかった。
 困ったように直輝の顔を見下ろし、その真剣さの含まれている瞳に勇気づけられながらも、未来の事を考えれば不安になる。
 一体どうしたらいいのだろう、そんな言葉を胸の中に落とす。
 そして、そんな蒼衣を見返しながら、直輝は少しばかり不安になっていた。
 どんな形であれ、蒼衣は自分の言葉に頷いてくれるものだと、喜んでくれるものだと、今までの蒼衣の態度や言葉からある程度の確信を持ち、そして、先ほどの蒼衣の希望を含んだ言葉にその確信を後押しされた形で尋ねたのだ。
 だが、実際には蒼衣は最初こそその瞳を潤ませて直輝を見つめ返したものの、言葉にならない言葉をその口の中で繰り返した後、とても困ったような表情になった。
 まさか言葉を言い淀むほど、そして、ありありと表情に表すほど蒼衣を困らせる質問をしたとは思わず、直輝は自分がとんだ思いあがりで蒼衣に見当外れの事を尋ねたのかと、不安になってくる。
 しかしそれでも自分が不安な顔をすれば、更に蒼衣が答えを言いにくくなるのが目に見えて分かっているだけに、それは顔には出さず、ただじっと蒼衣の困惑を湛えた、そして、涙も湛えた瞳を見返し続けた。勿論、これ以上の言葉は直輝も発しない。
 蒼衣の胸中にどんな不安や、思いがあるのか推し量れない今、どんな言葉をかけたとしてもそれは先ほどの言葉をただ薄っぺらい同情の言葉に変えてしまうような気がしたからだ。
 だからただ、直輝は先ほどの言葉は本心からの言葉だと、そう瞳に真剣さを湛えて蒼衣の不安のありありと現れている瞳を見返す。
 そして、互いに見つめ合い暫く無言の時間が流れた後、蒼衣は相変わらず困惑を湛えた表情のまま、未だどんな言葉で返事をしていいのか見当もつかなかったが、それでも直輝の真剣な瞳に、想いに応えようとゆっくりと口を開く。

「……僕は……。」

 しかし、そこでやはり一旦言葉を止めると、目の前にある直輝の瞳からそっと視線を外し、唇を噛んだ。
 蒼衣の視線が自分から外れた事で、直輝の胸中は今までにないくらいの不安が溢れて来る。やはり自分の告白は勇み足で、蒼衣が求めていなかった言葉なのだろうか、と考える。
 もしそうであるのならば、今更撤回が出来ない言葉の決着をどうつけるべきか。
 かといって、ここで更に蒼衣に言葉の先を促す事は出来ない。
 しかし、先ほどの言葉が、蒼衣にとって迷惑だったり、これ程までに困惑させ、不安にさせるような言葉であったのならば、どうにかして答えを今すぐではなく先延ばしにした方がいいのかもしれない。そんな事も思う。
 とは言え、直輝としては、今、蒼衣の心を少しでも聞いておきたかった。
 これから先、ずっと自分と一緒に居たいのか、居たくないのか。
 蒼衣が、そんな未来を望んでもいいの、と聞いてきた事で、もし居たくない、などと言われてしまった時のことなど全く考えずに伝えた言葉だったが、ここに来て、その可能性も多少なりともあるのだと気が付き、直輝自身、早まった、とそう思う。
 もっと蒼衣が直輝に対してその心の内を見せ、打ち解けてから言うべきだったか。いや、しかし、今を逃してしまうと自分の事だから、また暫くは今までのようなどっちつかずな曖昧な関係をだらだらと続けていってしまう可能性だってある。
 だからと言って、やはり一度口にしてしまった言葉は撤回などできない。
 どうするべきか……。
 そんな事をぐるぐると考えていると、一度逸れた蒼衣の瞳がようやく直輝へと戻ってくる。
 何か少し思いつめたような瞳の色で直輝の瞳を見つめ、そして、一度きゅっと唇を噛んで何かを決心したような表情になると、直輝の唇に自分から自身の唇を押し当ててきた。

「っ!?」

 突然の蒼衣からのキスに直輝が驚き、瞳を見開く。
 その瞳を蒼衣は唇を合わせながらも見詰め、ゆっくりと直輝の薄く開いた唇の中へと自身の舌を震えながらも差し入れていった。そして、直輝の舌に自分の舌を絡め、直輝から教えて貰ったキスを感謝の気持ちを込めて直輝に返す。
 驚きを表した直輝も、どう言った意図で蒼衣がキスをしてきたのかは分からなかったが、それでもこのキスが蒼衣なりの答えなのだと思い、すぐに蒼衣の舌に自身の舌を絡めるとその唇に深く唇を合わせていく。
 互いに甘く喉を鳴らしながら、柔らかく、深く、情熱的に唇を合わせ、舌を絡め、吸い取り、唾液を交ぜる。
 気が付けば互いに見つめ合っていた瞳は、うっとりと閉じられ、蒼衣の腰に回した腕には力が籠り、蒼衣もまた直輝の背中にあった手を首に回し悩ましく絡めていき、その体全てを互いに押し付け合い、まるで体まで深く繋がりあうかのように強く強く抱きしめあう。

「……ん、ふ……っ、ぁん……っ。」

 背の高い蒼衣が少しだけ身を屈めた姿勢で直輝の首に回していた腕の位置を変えた。その逞しい肩を撫で、背中に回し、手のひらで直輝の筋肉を感じる。直輝が少し身じろぎすればそれは筋肉を伝い、蒼衣の手のひらにも届けられた。
 その事にどうしようもない嬉しさと、そして愛しさを感じながら、蒼衣はゆっくりと手のひらを動かして、その腕を下ろしていく。
 直輝の言葉に、言葉での返事をする事はどう言えばいいのか分からないし、果たして頷いたとしても最終的に直輝を困らせてしまうのは蒼衣の望むところではない。だから、せめて自分が嬉しかった事をこうしてキスをし、体を摺り寄せる事で蒼衣は伝えようとしていた。
 深く唇を合わせ、口の中に直輝の熱さを感じながら蒼衣は自分の体を直輝へと更に寄せていく。
 そのまま、ゆっくりと下ろしていった手を自分の穿いているスカートへと戻すと、すっかり降りてしまっていたその布地を持ち上げていく。露わになる太ももを直輝の足へと擦りつけるようにして絡め、そして、先ほど直輝の手によって途中までずらされていたストッキングと下着をもどかしく思いながらも、自身の中心を直輝の中心へと押し当てた。
 自分の欲望に触れる、熱を持ち、今だ硬く持ち上がっているそれの感触に、ふるり、と背中が震える。そして、その感触をもっと求めて、自分で腰を揺すって先端を直輝の肉棒へと擦りつけるようにした。
 先端から溢れ出た先走りがぬるりと互いの性器に絡み、それが、堪らない快感を生む。

「っ……ん、はぁ……ぁあ……ん。」

 腰から湧き上がってくる快感に、思わず深く繋がっていた唇が緩く解ける。その緩んだ隙間から、蒼衣の甘い溜息が零れた。
 まるでそれがきっかけだったかのように、直輝の腕が更に強く蒼衣の腰を引きよせて抱きしめると、その手が素早くスカートの中へと入り込み、蒼衣の臀部を肉厚な直輝の手のひらがその肉を揉むように掴む。
 そして、互いの腰を押し付け合いながら、直輝の手は更に激しく蒼衣の尻を撫で、その指先は肉と肉の割れ目へと侵入した。

「は……っ、ぁ、ぁあ……ふ、ぁ……っ。」

 直輝の指先が蒼衣の窄まりに触れ、そこを中心に捏ねるように動くと、耐えきれないように蒼衣の唇が直輝から離れ、その体にしがみつく。そのまま、自分からも直輝の指を求めるように軽く尻を後ろに突きだす形で、腰を揺する。勿論、互いの性器が離れない距離で、自身の肉棒にも直輝の熱さを感じながら、亀頭部分を擦り合わせると蒼衣の耳に直輝の荒い息が届いた。
 その吐息を嬉しく感じながら蒼衣は、直輝にしがみついていた腕を前へと回し、自分の欲望と直輝の欲望をその手の中へと納める。そして、手の中で互いの性器を擦り合わせ、扱くように動かせば、耳に聞こえる直輝の声はますます荒くなっていき、蒼衣の尻に回されているその指も性急に蒼衣の窄まりをその指先で捏ねくり、押し付け、指先をその中へと沈めようと激しく動かされた。しかしその指は穴の中に直接的に沈む事はなく、入口付近でただただ浅く沈みかけると離れるという動作を小刻みに行われるだけ。
 蒼衣のその部分は直輝のその動きに熱く疼き、もっと深く、もっと強く、とじんじんとした快感で持って蒼衣に強く訴えかけてくる。しかしどれだけ蒼衣の後ろがそれを求めても直輝の指は決して浅い部分以上に突っ込まれる事はなく、ひたすらに入口部分に快感を与えているだけだった。
 直輝の指から与えられるそのもどかしい快感に蒼衣の息もどんどんと荒くなっていく。そして、後ろの窄まりから湧き上がってくるどうしようもない欲望に、欲求に、今まで必死になって押しとどめていた我慢の限界がとうとう訪れた。

「ぁ、あぁん……っ、は、ぁ、直、輝……くん……、僕……、ぁ、も、ダメ……、ぉ、ねが……ぃ、ぁ、こ、れ、挿れて……っ、お尻、これで、掻きまわし、てぇ……っ! おちんちん、お尻に、挿れて……っ! ぁ、あぅ、指、だけじゃ、やだぁ……!」

 自身の肉棒と直輝の肉棒を激しく擦り合わせ、手の中で扱きあげながら蒼衣は、理性もなにもかもをかなぐり捨て直輝に哀願するように卑猥な言葉を口にする。
 そんな蒼衣に直輝はその体を抱きとめ、尻に指先を埋めるか埋めないかの微妙な位置で動かしながら、ひっそりと笑う。
 ようやく素直になり、直輝を求めた蒼衣につい嬉しさが込み上げてきたのだ。
 直輝の言葉への返答はまだ貰ってはいないが、それでも、こうして蒼衣が自分を求めてくれた事が嬉しかった。
 唇を釣り上げて笑うと、直輝は蒼衣の尻穴を弄っていた指を一度名残惜しそうに強く押し付けた後、ゆっくりと離す。

「ぅ、ん……っ、なお、きく……んっ。」

 指が離れた事にどこか切なそうな、不満そうな吐息を上げる蒼衣に直輝は、意地の悪い笑みを滲ませると、その紅潮している頬に唇を押し当てる。そして、柔らかく熱くなっているその頬をついばむようにキスをしながら蒼衣に囁いた。

「蒼衣、その壁に手を突いて、こっちに尻を突き出せよ。」
「ん……、ぁ、ん……こ、こ、に……こぅ……? っ、え……ぁっ……やぁっ?!」

 蒼衣の体を少しばかり無理矢理に直輝は壁の方へと向ける。そして、そこの壁に蒼衣の手を持っていくと、そんな命令を蒼衣に下す。
 直輝の言葉に蒼衣は陶然とした表情のまま微かに頷き、素直にその壁へと手を突いて言われたとおりの恰好をしようとする。
 だが、視線を壁に向けた時、そこには自分の紅潮し、欲情に蕩けている顔が映っていて少しばかり驚く。しかし、すぐにそれが鏡だと気が付くと、直輝を少し困ったような表情で振り返った。

「直輝、くん……っ、ここ……に?」
「そう、そこ。んで、しっかり鏡見てろよ。」
「っ、ぁ、で、でも……。」
「いいから、見てろって。」

 戸惑う蒼衣に直輝はにやりといつものように意地の悪い笑みを見せ、有無を言わせない口調で蒼衣にそれを強要すると、その手を握り鏡を跨ぐ形で蒼衣の手を壁へ押し付け、その体を鏡へと押し付ける。
 そしてそのまま蒼衣の背後へと回ると、蒼衣のスカートを持ち上げ下半身を露出させた。

「っ、は、ぁ……っ。」

 自分の真っ赤な顔が鏡に映し出され、視線を下へと下ろせば今直輝が捲りあげたスカートの中身が全て隠すことなく鏡の中へ映し出されていた。
 その光景に蒼衣は知らず知らずのうちに陶然とした溜息を洩らす。
 蒼衣のその吐息に直輝はますますその唇に獰猛な笑みを刻み込むと、その場にしゃがみ込む。
 そして、スカートを持ち上げたまま蒼衣の足をもう少し開くように言うと、蒼衣は顔を真っ赤にしながらも直輝の言葉に素直に従った。緩く足を開き、鏡越しに、足の間から直輝の肉食獣のように飢えた顔が蒼衣にも見える。直輝の顔に、そして、今自分がしている恥ずかしい恰好と、鏡に映る自分の姿とに蒼衣は体中の血液が沸騰するような感覚を覚えたが、しかしそれだけでなく、何とも言えない快感が体全体を覆う事に心臓が激しくドクドクと脈打つ。

「ぁ、あ……ぅ、や、直輝、くん……、ぁ、やぁ、……っ、恥ずかしぃ……っ。」

 思わずそう言葉にしてみるが、その声は欲情で掠れ切り、合間には明らかな欲情の溜息が交じる。蒼衣自身、自分で口にした声に、言葉に、羞恥以外の感情が含まれている事を知ると、更に顔を赤くしてその瞳を伏せようとした。
 しかし。

「蒼衣。目は瞑るなよ。鏡を見てろ。」

 すぐに蒼衣の行動を察した直輝が、そう釘を差す。
 直輝の言葉に蒼衣は伏せかけていた瞳を、ハッと持ち上げると、おろおろと戸惑いがちに視線を彷徨わせた後、しかし、素直に視線を鏡の中へと戻した。
 途端に、足の間から覗く直輝と視線が合う。
 にやり、と意地悪く、サディスティックに笑う直輝のその瞳に、蒼衣は自分の背中にぞくぞくとした何とも言えない歓喜が這いあがってくるのを知る。
 今まで相手をしてきた叔父や、その他の少年や男達も、直輝同様いつもサディスティックな笑みを浮かべて蒼衣の体を玩具にしてきた。だが、こんな風にその瞳で見つめられるだけでどうしようもない歓喜が湧き上がり、体中を快感で支配されるという経験など今まで一度だってなかった。寧ろ、叔父達のそのサディスティックな笑みにはいつだって恐怖を覚え、心も体も委縮してばかりだった。
 それなのに。
 何故、直輝の獰猛な、サディスティックな笑みにはこんな風に全てを飲み込まれ、自分から直輝の欲求に、要望に否応なく従って、跪いて、服従してしまいたくなるのだろう。
 叔父達にそれを要求された時は、暴力による恐怖から逃れるための嫌々ながらの服従だった。それも日を追い、回数を追えば、どれ程叔父達に迫られる行為を嫌がったとしてもそれをしなければ食事にさえありつけないという現実に、諦めを覚えてその服従を受け入れるしかなかった。
 全てを諦め、人間として生きる事も、一人の個人として生きる事も諦め、ただ叔父に言われる通りの事をこなし、上手く出来ればわずかながらに褒められ、食事を与えられる。それだけをただただ生きる糧として、目的として過ごしてきた蒼衣にとって、直輝との行為は本当に何もかも、自分の心が感じる事も、体の感じ方も、全てが初めてな事ばかりだった。
 しかも、その心と体の変化は蒼衣にとってとても心地がいいもので。まるで、今まで抑圧されていた心が解放へと羽ばたくような、そんな感覚さえ覚える。
 直輝と居て、話をして、触れ合って、体を繋げて、心を通わせて。
 それだけで蒼衣は不安もあれど、自分の心も体も今まで知らなかった感情に満たされていく。
 その事に陶然となりながら、蒼衣は直輝の次の命令を胸を高鳴らせながら、鏡越しに直輝の瞳を見詰めながら待つ。

「いい子だ。そのまま見てろよ。」

 蒼衣の表情の中に直輝の言葉を素直に受け入れる心づもりが出来た事を直輝は見て取ると、また獰猛な笑みをその唇に浮かべ、そう蒼衣に言う。その言葉に蒼衣が頷くのを見とどめる前に、直輝は目の前にある蒼衣の尻へとその鼻先を押し付けた。

「っ、ぁ、あっ、や……っ。」

 鏡の向こうで直輝の顔が自分の双丘へと埋まった事に、蒼衣は一瞬戸惑いの声を洩らす。だが、すぐにその言葉を口の中に封じ込めると、羞恥で赤く染まった目元のまま先ほど直輝に言われたように視線を鏡の中、自分の足の間へと向ける。
 直輝は蒼衣の尻の割れ目にその鼻先を突っ込むと、そこに満たされている蒼衣の体臭に自分の下半身が更にエレクトするのを感じた。ずくずくと脈打つ己自身に心の中で、少し待ってろ、と呟くと、口を開き中から舌を突きだす。そのまま、蒼衣の足の間から尻の割れ目までをゆっくりと舐めあげていく。
 舌の上に蒼衣の味が広がり、汗の塩気と微かな酸味がぴりりと舌を刺激する。
 それを味わいながら直輝は何度も何度も、下から上へと蒼衣の割れ目を舐めあげていく。

「はぁ、……ん、ふぁ……ぁ、あ、あ……っん、ひっ、ぁ。」

 直輝の舌のざらざらとした感触と、擦り付けられる唾液のぬるぬるとした感触に蒼衣の喉から堪らないような掠れた喘ぎ声が漏れる。
 がくがくと腰が揺れ、直輝の手でスカートがすっかり持ち上げられて露わになっているその中心部分が後ろからくる快感にこれ以上ないくらい勃起し、びくびくとまるで震えるようにそこで踊っていた。その先端からは、快感の証でもある半透明な滴がだらだらと零れ落ち、赤黒い幹を流れ、袋の部分に溜まるとそのまま蒼衣の太ももまで流れていく。
 今は蒼衣も、直輝も触れてさえいないその欲望の中心は、だが、後少しのきっかけさえあれば簡単にそこに溜まった欲情を吐き出してしまいそうだった。
 そんな蒼衣の状態を、蒼衣の尻の割れ目を舐めながら直輝は鏡がかろうじて見える位置まで少し顔を動かすと、鏡を通して見詰める。
 ゆっくりと舌を動かし、割れ目に這わせながら、その中心にある窄まりへと舌先を押し付ければ、鏡の中で蒼衣の男が激しく反応をし、蒼衣の腰もいやらしくくねり直輝を挑発する。その姿に直輝は口の中に溜まる唾液を嚥下しながら、それでもまだ溢れて来る唾液を蒼衣の尻へとなすりつけていく。そうしながら、蒼衣の窄まりを舌先でつつくように、刺激するととうとう蒼衣が根を上げた。

「あっ、あぁ……あーっ、あ、はぁ、ふ、あ、ぁ、な、ぉきく、ぅ、ん……っ、あぁん……やぁ、もっ、そ、……っ、あはぁ……っ、ぅ、ん……っ焦ら、しちゃ、やぁ……っ! ひぁ、なお、き、くん……っ、あぁ……っ、やだぁ、挿れて……っ、おち、ん、ちん、挿れてぇ……っ!」

 嫌々と頭を振りながら蒼衣は、じれったい刺激に、直輝に硬くて熱いモノを挿入してくれ、と懇願する。
 だが、直輝はその声を聞きながらも、無視をした。
 くちゅくちゅと音を立てて蒼衣の尻の窄まりを舐め、そこを舌先で軽くつつく。そうしながらちゅうっと唇を押し当てて、吸いつくと、蒼衣のそこはひくひくといやらしく収縮を繰り返し、その腰は淫らに直輝の顔へと押し当てられ、もっと、もっと、とでも言うように揺すられた。
 蒼衣の尻が強く直輝の顔に押し当てられ、蒼衣の匂いが直輝の鼻や口の中に更に充満する。
 それに酷く興奮を覚えながら、直輝は更に激しく蒼衣の窄まりに吸いついて行く。

「ひぁっ!! ぁ、あああ……っ、やぁ……っ、あ、はぁ……っ! あぁん……っ、だめぇ、あーっ、あぁ……っ、ひ、ぁ、あ、そんな、ぁああ……っ、は、あ、やぁ、おか、しくなっちゃ……っ、お尻、だめぇ……っ、な、ぉ、っく……っ、お、しり……っ、ふぁっ、おかしくなっちゃ……っ、あぁっ、いっ……くぅ……っ、あああああ……っ!!!」

 ふーっ、ふーっ、と直輝が鼻で興奮の息を洩らしながら、蒼衣の菊門を執拗に舐め、舌先を捻じ込むようにしながら刺激を与えると、びくんっ、びくんっ、と大きく蒼衣の腰が跳ね上がる。その様に更に直輝が興奮して、一気に舌を穴の中へと挿し込むと、蒼衣の体が大きく仰け反った。
 そして、その喉から快楽の喘ぎ声が弾けた。
 どうしようもなく荒れ狂うような快楽に蒼衣の目尻からは涙が零れる。それとともに、限界まで膨れ上がっていた蒼衣の男性自身から、白く濁った精液がどろどろと零れ始めた。最初は少しだけ勢いよく飛び出し、目の前にある鏡を汚した後はまるで溶岩が流れ落ちるように、蒼衣の血管の浮いている肉棒に絡まりながら滴り落ちていく。それは先ほどまで零れていた先走りと同じルートを辿り、蒼衣の太ももを白く汚していった。更には、膝のあたりまでずり下ろされている下着と、肌色のストッキングの上にも零れ落ちていく。
 びくびくと射精の余韻で体を痙攣させながらも、まだ続けられているアナルへの直輝の愛撫に、蒼衣は体の中に新たな快感が溜まっていくのを感じる。
 それは蒼衣の心にある余裕も、理性も全てを奪い尽し、侵しつくす、獰猛な快感で。
 射精をしながらも、蒼衣は直輝の顔に自分の臀部を強く押し付けて、その舌をもっと深く穴の中へと挿入させるようとする。
 壁に着いている両手を離し、自分の意思で直輝が顔を埋めている尻へと持っていった。

「はぁ、あ。ふぁ、ぁ、やぁ、……っ、もち、ぃ、い……っ、もっとぉ……っ、なおき、く、ぁ、おしり、きもち、ぃいよぉ……っ、はぁ、ん、舐めてぇ……っ、お尻の、穴、もっと、ぐちゃぐちゃに、舐めてぇ……っ。」

 自分自身の手で尻の肉を左右に開き、頭と肩を鏡へと押し当てて体を支えると、直輝に向けて尻を突きだす。そして、中心に這いまわっている直輝の舌の動きに合わせて、蒼衣は自分から腰をくねらせ、揺すり、卑猥な言葉で直輝の欲望を煽っていく。
 蒼衣の言葉と、目の前にあるいやらしいアナルに直輝はまた口の中に唾液が溜まっていくのを感じた。それをごくりと嚥下すると、再度蒼衣の尻の穴へとむしゃぶりついて行く。
 蒼衣の望み通り激しく、ぐちゃぐちゃに、唾液を擦り付けながらひくひくと収縮を繰り返し、まるで挿入されるのを待っているかのように緩まっているそこに舌を捻じ込む。途端に周りの筋肉が収縮を起こし、直輝の舌を更に奥へと誘うように締め付けられた。
 そんな蒼衣のいやらしい体に直輝は、その腰を強く抱きしめながら顔を動かし、たっぷりと蒼衣の穴に舌を抜き差しさせる。その度に蒼衣の体は淫らに震え、頭上からは絶え間なくいやらしく卑猥な声が降り注いだ。

「ぁっ、ふ、あぁぅ……、気持ち、いぃ……っ、いいのぉ……っ、お尻、ぁ、ぐちゅぐちゅに、なってる……っ、ひぁ、直輝く、の舌、すごぃ、よぉ……っ、あはぁ……、イっちゃぅ……っ、お尻、直輝、く、のベロで、また、ィっちゃう、……っあぁ、はぁ、あ、あぁん……っ、はぁ、あぅ、い、くっ、ぃくううううう……っ!!」

 蒼衣自身もう自分が何を言っているのか、どんな行動をしているのかさえ分からなくなりながら、ただただ、鏡に映る自分の嬌態と、自身の尻で動く直輝の頭と、尻から押し寄せて来る強い快感に蒼衣は全てを委ねる。
 直輝の舌が尻穴を出たり入ったりする度に、頭の中は白くスパークし、断続的にオーガズムが蒼衣の体を包み込んでいた。
 うわ言のように、何度も何度も、イく、イく、と口にし、実際に何度も絶頂を迎える。だが、それは射精を伴うものではなく、体の奥底から湧き出て来る絶頂だった。
 蒼衣の性器は今はすっかり普通の状態になっていたが、その状態でも先端からはとろとろと絶え間なく半透明の体液を流し続けている。
 女装をした姿で、直輝に舌だけで尻穴を責められ何度もそこでイかされていると、蒼衣はなんだか鏡の中に居る自分が女になって直輝に犯されているような、そんな気持ちになってきた。
 そのせいか、脳裏に昨夜や、今日、直輝が言っていた言葉が何度も浮かんでは消えていく。
 俺のオンナって紹介する。そう、直輝は何度か蒼衣に向けて言っていた。
 俺のオンナ、その言葉が酷く強く蒼衣の脳裏に浮かび、余計に自分が直輝に女にされたようなそんな錯覚さえ覚える。

「ふぁあ、あーっ、やぁ、なお、きく……っ、し、て……、僕を、直輝、くんの、オンナ、に、してぇ……あっ、ぁああ、また、ぃ、いくっ、いっぅう、くぅううううう!」

 気が付けば、そんな血迷った事を蒼衣は口にし、深く突きさされた直輝の舌に、また強い絶頂を迎えた。
 ぐったりと体から力が抜け、崩れ落ちる蒼衣の体を直輝はしっかりと受け止める。
 はぁはぁと荒く肩で息をしながら、絶頂を迎えた事でその体中から噴き出した大量の汗は、蒼衣の着ているワンピースにいくつもの汗染みを作っていた。
 そんな蒼衣の脱力した体を抱きしめ、受け止めながら直輝は小さく苦笑する。
 先ほど、蒼衣が絶頂を迎える時に言った言葉が、堪らなく嬉しくて、どうしようもなく心が躍ってしまっている自分に向けての苦笑だ。
 そして、半ば気を失いかけている蒼衣をこのまま襲って、今散々自分の舌でぐちゃぐちゃにした尻穴を今度は自分の男根でたっぷりと可愛がりたくてしょうがなくなっている抑制の効きそうもないこの暴走気味の欲望に対しても。
 たっぷりと汗を掻き、黒く長い髪がその頬に貼りついているのを優しくその手で取り除きながら、直輝は、その薄く開いた唇にキスをしたくて仕方がなかった。そして、今だホテルの部屋の入り口だというのに、このままベッドルームに続く廊下の上で蒼衣に圧し掛かり、その体を全部食らい尽したい衝動に駆られる。
 それをなんとかぐっと堪え、直輝は苦笑を湛えた口をゆっくりと開く。

「……蒼衣。」

 獰猛さを隠した優しい声で、愛しい男の名を呼ぶ。
 直輝の呼びかけに微かに蒼衣が直輝の腕の中で身じろぎし、薄くその瞳を持ち上げた。そして、目元を赤く染め、陶然とした表情のまま直輝の顔を見上げる。
 その何とも言えない色気をまとった蒼衣の表情に、また直輝の中に無理やり押しとどめている獣欲が暴走しそうになった。
 だが、ここで暴走してまた蒼衣を無茶苦茶にするのはダメだと、自分に言い聞かせる。

「大丈夫か? 少し休むか?」

 自分の愛撫で蒼衣が何度も何度も絶頂を迎えた事は、直輝にも舌に伝わってくる腸壁や、入口の収縮具合である程度分かっていた。
 だから、そう蒼衣の体を気遣い、暴走しそうになる自身の欲望を抑え込みながらそう蒼衣に向けて尋ねる。
 しかし。
 直輝の言葉に、直輝を見ていた蒼衣の瞳がうっとりと細められる。そして、その手が持ち上がり直輝の首へと絡まるように回された。

「蒼衣?」
「直輝くん……、ね、我慢、しないでいいよ。僕を、好きにして。したいように、無茶苦茶に、……いつもみたいに乱暴に、犯して。僕、直輝くんになら何されても、いい。恥ずかしい恰好も、さっきみたいに鏡に映しながらでも、昨日みたいに洗浄する所だって、直輝くんが望むなら、僕、どんな事でもしたい。応えたい。直輝くんに求められるだけで、僕、本当は、凄く、凄く、嬉しいんだ。だから……、」

 驚いた顔をしている直輝に蒼衣は妖艶に微笑むと、力の入らない体をそれでも持ち上げ直輝の逞しい胸へとその額を押し付ける。そして、自分の素直な気持ちを直輝へと伝える。
 だが、途中で言葉を止めると、首に回していた腕を下へと落とした。

「……ねぇ、これ、直輝くんのおちんちん。これを、僕のお尻に挿れて、直輝くんがしたいように、滅茶苦茶に掻きまわして、奥まで突きさして、沢山、直輝くんの精液、僕のお腹の中にたっぷり注ぎこんで欲しい……。」

 直輝の勃起している肉棒をその手に優しく握りしめ、上目遣いに直輝を見上げると、唾液で濡れた唇を動かし直輝を挑発するようにそんな事を言う。
 蒼衣の言葉に、表情に、直輝の喉仏が大きく上下した。
 そんな直輝の喉仏を見ると、蒼衣は更に妖艶にその唇を釣り上げ、そのままその唇を目の前にある直輝の喉へと寄せる。そして、直輝の男性性を感じさせる喉仏に柔らかく唇を這わせた後、その耳元まで顔を持ち上げた。

「お願い、直輝くん。僕を、オンナ、にして? 直輝くんの、オンナに、僕、なりたい……。」

 誘うような声で、言葉で直輝の欲情を更に煽る言葉を囁く。
 それが蒼衣の精一杯な直輝への答えだった。