注意) 淫語
***
聞きたい事があった。
だけど、聞く事は出来なかった。
それだけが俺の後悔。
***
幸田一臣。
そいつの事は最初、何も知らなかった。
精々、同じクラスの地味な真面目くん。それくらい。
野々村がちょっかいを出し始めてその存在を知ったくらい、クラスでも存在感の希薄な男だった。
だから、まさか、こんな関係になるなんて思いもしなかった。
白くて薄い胸板にある、その部分だけ赤みが差している突起を口に含む。
女の胸にあるのとは違う小さなそれに吸いつき、舌先でぐにぐにと舐めてやると、幸田の体がビクビクと揺れた。
しかも頭上からは男の癖にやけに色っぽい、可愛い声が断続的に聞こえてくる。
その声に煽られ余裕をなくしそうになるのを俺は必死になって抑えて、じっくりと幸田の体を貪った。
赤く色づく乳首に舌を這わせながら、手を下へと下ろす。そして、幸田の穿いている下着の中へと手を突っ込んだ。
指先はすぐに幸田のモノにあたり、それが硬くなっている事に俺はひっそりと笑う。
幸田は、淫乱だ。
今まで付き合った女よりもよっぽど。
そりゃ、コータみたいに大量の女と付き合った事がある訳じゃないが、それでも、幾人かは女は知ってる。……まぁ俺と付き合うような女は、レベルもそれなりで。コータみたく可愛い女や美人とはお付き合いなんざ無理。しかも、ビッチの癖してセックスはヘタクソ。そして基本マグロ。上げる声だってお約束の様な適当なAV女優みたく演技がかった空々しい声。
そんな女達に比べりゃ幸田は、そりゃーもう雲泥の差で可愛くて当たり前。しかもセックスにゃ積極的だし、声は可愛いし、喘ぎ声だって演技じゃねーっぽいし、マグロじゃねーし、顔もめちゃ可愛い。
……いや、まぁ、ヤローを可愛いなんて思うのは自分でもどうかとも思うが、それでも、幸田は可愛い。誰が何と言おうと、可愛い。
最初はマジで真面目なただの空気だとばっかり思っていた。
野々村がちょっかいを出し、初めてまじまじと顔を見て、その顔が男にしちゃ結構可愛い顔だってことに気が付いた。
その顔が困ったように顰められたり、苦痛に歪んだり、絶望に彩られるのが何とも言えず快感で、俺達は野々村に煽られるままに、命じられるままに幸田に暴力を奮い、いわゆる“いじめ”ってー奴をやっていた。
だから、マジで今のこの状況の意味はわかんねぇ。
それでも、こんな俺でもこいつが一緒に居たいっていうし、俺もまんざらでもねぇっていうか、今ではぶっちゃけこいつに、多分、惚れてる……、と思う。
はっきりと、惚れてる、って言い切れないのは、そりゃ、こいつも男で、俺も男だからだろうが。
だが初めてこいつの口にチンコぶち込んで舐めさせた時から、こいつの顔に、ヤられてた。
その顔が見たくて、その後も暫くは野々村達の目を盗んでこいつにフェラをさせて、それだけで満足していた筈だったのに。
まさかの、この展開。
こいつには嫌われていると思っていた俺にとって、こいつの誘いはそりゃーもうセイテンのヘキレキ?、ってー奴だった。
でも、あんな可愛い顔で仲良くしたいって言われたら、普通、落ちるだろ? 頷くしかねーだろ?
だから。
それでもなんだか今でもこれは俺の見ている都合のいい夢なんじゃないか、とか思う。
コータみたいな男でも惚れ惚れするくらい綺麗だと思うような顔ならともかく、俺みたいなニキビ面のブサメンヤローに男のこいつが惚れるなんて思えない。
大体が、俺はこいつに優しくしていた訳でもない。野々村のいじめを止めようとしていた訳でもない。かばった事さえない。
その上嫌がるこいつに無理矢理フェラを強要して、その口に射精して、飲み込む所を見せる様に命令さえしてた。気に入らなければ最初の頃は、散々殴った。
そんな俺に、いつ、そんな好意をもったのか、本当に解らねぇ。
だけど、あの時のこいつは本当に必死だった。
俺に縋るようにして、自分の感情にも戸惑っているようで。
何かの罠じゃないか、とも最初は思った。
それでも、こいつの家で初めてこいつを抱いて、最初は不安そうで、いやそうだったその顔がその内、真っ赤に紅潮して、溶けるようなエロい顔になって、俺にしがみついて、悶えて。
その時に、あれ?ひょっとしてこいつ俺に対して本気なんかな、そー思った。直感した。
自分でも単純だと思う。
片思いっつーか、こっちの一方的な感情? 欲情? だけなら幾らでも酷い事が出来たっつーのに、こいつの想いが解ったら、ンな事出来なかった。
出来れば幸田にも気持ち良くなって貰いたい一心で、ケツ穴舐めて、処女は相手した事なかったが昔読んだ雑誌に書いてあった事を思い出しながら、痛みだけじゃなくなるように必死になってゆっくり動かしたり。
こんなに気を使ってセックスをしたのなんて、童貞を捨てた時以来だ。
つっても、その時は年上の女にほとんどまかせっきりなそんな情けないセックスだったが。それでも、中坊なりに女に気を使って、出来る限りはした。マ○コだって舐めたし、言うとおりに腰だって振った。だから、まかせっきりっちゃまかせっきりだが、俺なりに頑張ったってー事だ。
そして、今。
あの時よりかは格段に向上したテクを使って、あの時以上に幸田の反応を見て、気を使って、せめて苦痛ではないセックスになるようにと色々したらその努力は実って、今ではすっかり俺ので感じる体になった。
それを素直に嬉しいと思う。
もし最初のセックスが苦痛でしかなければ、今のこの状況は生まれてなかっただろうし、こいつに無茶ばかりをさせる結果になっちまう。
俺は野々村と一緒になってこいつをいじめていたサイテーな男だが、それでも、せめて惚れた相手にセックスの時くらいはがっつり気持ち良くなって貰いてぇ。
手の中で跳ね上がる幸田のブツを扱きながらそんな事を思う。
頭上からはさっきよりも荒くなった息に混ざって、蕩けたような甘い声。
幸田が感じている。
それがホンキ嬉しかった。
***
聞きたいと思った。
なんでだ?と。
だが聞けなかった。
***
乳首に吸いついていた唇を、少し名残惜しそうに一度強く吸い上げた後、離す。
視線を先ほどまで口にしていた乳首に落とせば、それは真っ赤に染まり、まるで勃起しているように立ちあがっている。そして俺の唾液でぬるぬるとぬめって、なかなかにいやらしい。
その乳首をもう一度舌でざらりと舐め上げると、頭上から幸田の、堪え切れないような喘ぎ声が振ってくる。
「ふ……ぁあ、んンッ……ぁう。」
「幸田ぁ、すげぇチンポがちがちじゃねーか。エロいなぁ。」
「んっ、やぁ、……っ、だって、さ、っ川く、が、触る、から……っ。」
「俺が触る前から、勃ってたじゃねーか。」
甘い声を上げる幸田に向けてそう意地悪を言うと、幸田はますます甘い息を声に混ぜながらそんな風に俺のせいにする。
実際俺のせいな訳だがそこはそれ。
ホントは優しい言葉とかをかけてやりたいが、それは俺が言うにはキャラ的に合わねーし、男相手に甘い言葉っつーのも、なんかこっぱずかしい。
だから俺らしく下品に、更に幸田が恥ずかしがるだろう言葉をその耳に吹き込みながら俺は下着の中で握っている幸田のモノを強く扱く。
「ひぁ……っ、あ、あ……っ、ふぁ……っ。」
「へへ、声、や〜らしぃなぁ。」
「や……っ、も……っ。」
本気でやらしい声を上げる幸田に、思った事をそのまま伝えると、幸田は顔を紅潮させながらも俺を見下ろしてぷぅっとその頬を膨らませた。
その顔がまた可愛くて、俺はにやにやと笑いながら幸田の口を奪う。
口の中で幸田が何か抗議めいた声を上げたのは感じたが、そんな事には構わずべろべろとその唇と歯と舌と口の中を舐め回す。
するとすぐに幸田は諦めたように体を弛緩させ、なすがままだったそのキスに積極的に自分からも絡んできた。
「ん、はぁ……っ、ふ……ん、ちゅ……っ。」
俺と幸田の口の間からどっちの息かは解らない位混じり合った甘い吐息と水音が漏れる。
そうして幸田の口を愉しみながら俺は、幸田の竿を握っていた手を離し、口の中で幸田が不満そうな息を吐くのを無視しながら、その下着に手をかけてその足から抜き取った。
そのまま幸田の片足を大きく開くようにして少し持ち上げ、尻の間に手を入れる。
「は……っん、んふ……っあ、ぁん……っ。」
俺の指先が幸田の尻穴に触れるとその腰がぴくんっと跳ね、俺の口の中に甘い声を木霊させた。
その声にますます俺は興奮し、まだローションも唾液も何もついていない乾いているその部分を爪が立たないように気を付けながら指先で捏ね繰り回すと、幸田の足と腰がびくびくと震える。
ちゅっ、くちゅっ、と口からは相変わらず音が零れるほど激しく舌を絡ませ、キスを深めていきながら、俺はもう片方の手で自分自身の竿を握り、幸田のいきり立っているチンポに俺の先端を擦りつけてやった。
「ぁ……っ、あぁん……っ、んぁ……ぁあっ……!」
幸田の口が俺の口から離れ、甲高い喘ぎ声を漏らす。
そして幸田の手が何かを求めるように俺の背中へと回り、そこの皮膚を爪で掻いた。
くすぐったいような、むず痒いような感覚が背中へ広がる。しかもそれは段々と強くなっていき、最終的にはしっかりと爪が俺の背中に食い込んで少し痛い。
だがそんな事には気にしていられなかった。
幸田を追い詰めるつもりだったのに、あいつの硬く勃ちあがっているブツに自分のを擦りつけるその快感に俺まで追い詰められていく。
俺のものか幸田のものか解らない荒い息が煩い。
幸田のと俺のを手の中に入れ、傍から見たら恐らく酷く笑える光景だろうな、と頭の隅で思いながら俺は腰を間抜けに振る。その度に先端同士が擦れあい、割れ目から洩れてくる先走りがぬるぬると互いのブツに絡まっては言葉にできない快感がその部分から湧き上がってくる。
「幸田……っ、幸田……っ。」
はぁはぁと獣の様に息を荒げ、幸田の名を呼びながら、腰を振りたくった。
俺の下では幸田もまた俺と同じように荒い息を吐き、そして、俺とは違う甘い声を交えながらいやいやをするように顔を左右に振り、俺の背中にぎりぎりとその爪を食いこませている。
股間から湧き上がる快感は、どんどんと俺達を追い詰め、まだ挿入すら果たしてないっつーのに、じんじんとその瞬間に向けて加速度的にのぼりつめていく。
「っ……ん、あぁああ……っ、や、さ、川く……っ、ふぁ……だ、め……いっ、ぃっちゃ、うっ……っ。」
俺の下で幸田が我慢できないようにふるりと体を震わせた。
そして、その細い体をしならせ、俺に強くしがみ付き、股間のいきり立つモノを自分からも擦りつけてくる。
それがすごく可愛くて、愛しくて。
俺は幸田をイかす為に痛くない程度に強く自分のチンポを奴のに押し付けて先端から出る液を擦り付けてやった。
「っあ、幸田……っ、いいぜ……、ほら、イけよ。出せよ。……ふ、ぁ、お前の、すげぇよ、カチカチでぬるぬるで……、なぁ、一緒にイこうぜ……っ、幸田ぁ……っ、はぁ、はぁ……っ。」
密着していた体を更に密着させながら、俺は幸田の耳にそう囁く。それだけで幸田の体はまたびくびくと震え、可愛い声がひっきりなしにその口から洩れて俺まで高ぶらせる。
そして高ぶるままに自分もイきそうだと幸田に伝えた。
途端に幸田の体が更に大きくしなった。
「あぁあっ……っは、ふあぁ……っ、ん、い、イっく……っ、やぁ、笹、がゎ、く……っ、でちゃ……っ!!」
「ん、んんっ……っ、く、キた、俺も……っ、こう、だ……あ、っああっ!!」
互いに汗まみれで、その汗を互いの体に塗りたくるように密着させながら、俺と幸田はほぼ同時に達した。
***
聞くべきだとは思った。
ただ問題がありすぎで。
聞きそびれて、聞けなくて。
***
ゆっくりと幸田の尻に俺のブツを挿入し、それこそ、ゆっくりと腰を振る。
一度放出した後だけに、ゆっくりと、長く楽しめるように。
「ん、ぁあ……っ、はぁ、あ……ふ、ぁ……っ。」
ゆっくりと奥まで挿入すれば幸田の口から甘い溜息のような声が漏れる。
相変わらず幸田の腕は俺の背中に回ったまま、そこにまた新たな爪痕を残していた。痛みよりも、幸田が感じて俺にしがみつくようにこうして爪を立てるこの瞬間が、堪らなく嬉しい。
唾液と舌と指でたっぷりと濡らしほぐし、そしてローションで滑りを良くした幸田のそこは女のように濡れていて、だが、女よりかは強い締め付けで俺のチンポをぐいぐいと奥へ奥へと咥えこんでいく。しかも、幸田自身も無意識にか俺を煽るように、俺のゆっくりな動きよりも激しくその腰をいやらしく振っていた。
それがまた堪らなくて、嬉しくて俺は殊更幸田の腰の動きを無視するようにゆっくりと出し入れを続ける。
「こうだぁ、めっちゃ腰振ってんぜ? どうしたんだよ? ん〜?」
「っ、ぁ、や、もっとぉ……っ、んんっ、こんなんじゃ、やだぁ……っ、ささ、がわく……っ、ね、もっと、ねぇ……っ、奥……っ。」
「奥をどうして欲しいんだよ? ん? 言えよ?」
意地悪く幸田のその行動を指摘してやると、幸田は顔を赤くしたまま欲情で潤んだ瞳を俺に向けてそんな風に、もっと、とおねだりをする。その言葉ににやにやとだらしなく鼻の下を伸ばし、だが、俺は更に意地悪をするつもりで幸田にその先を言わそうと躍起になった。
すると幸田は少し拗ねたような顔をした後、そのでっかい瞳を恥ずかしそうに伏せると俺にぎゅとしがみ付いてくる。
そして、俺の耳に小さな声でその先の言葉を囁いた。
「焦らさないで、奥、を、激しく突いて、よぉ……。こんなんじゃ、足りない……っ。もう、僕……っ、お尻が、ジンジンして、可笑しくなっちゃう……っ。」
喘ぎ声の混じった、切羽詰まった声で。
あぁ、なんつー可愛い奴なんだ!! そんな風に思う。
だから、俺は幸田の足を肩に担ぎ直すと、幸田の要望通りに、強く早く、幸田が感じる場所へ自分のブツの先端を遠慮なしにぶち当て、攻めて行く。
途端に上がる幸田のあられもない喘ぎ声。
幸田は本当に淫乱だ。
幸田のアナルバージンを奪った時から、それは感じていた。
最初は苦しそうだったそれが、ある瞬間から酷くエロい表情になって、苦しい筈のそれに狂ったように悶えた。
それが妙に嬉しくて、興奮して俺もまた猿みたいに幸田の中を擦り、突いて、抜き差しして、感じて、――中出しした。
女であればすっげぇ勢いで怒られるそれを、幸田は、ありがとう、と言って、俺に微笑んだ。
その顔に、俺はのぼせたんだろうな。
今俺の下で悶え狂っている幸田の顔を見下ろしながら、俺はあの初めての行為の興奮を思い出し、再現しながら幸田のケツに自分のビンビンに勃ったブツを無茶苦茶に出し入れする。その度に幸田の体はしなり、仰け反り、俺の背中に爪痕を増やしていく。
それが俺にとっては、やけに幸せだった。
***
聞いてみた事が、ある。
聞きたい言葉とは別の言葉で。
それに返って来た答えは?
***
何度も抜き差しし、押し込み、引きぬき、捏ね繰り回す。
円を描くように腰を回せば、幸田の尻穴の中で俺のモノがあちこちにぶつかり、その度に幸田の喉から甲高い喘ぎ声が零れる。
腰とケツがぶつかる乾いた音に混ざって、俺のが幸田のケツ穴を犯す、ぐちゅぐちゅと言う粘っこい水音が耳に心地よく、そして、やたらにエロく響いた。
腰からは今にもぶっ放してしまいたいほどの強い快感。
だがそれをぐっと我慢しながら、幸田に俺以上の快感を与えようと躍起になる。
耳から入ってくる幸田のやらしい声が絶え間なく断続的に早くなり、そして、その薄い胸板も激しく上下していた。
顔には苦痛とも快楽ともとれるような表情が浮かび、その眉を八の字に下げて眉間に深い皺が寄っている。瞳は薄く開いているが、視線はどこも見ておらず虚ろに、俺の方を見ていた。そして口はさっきからずっとだらしなく半開きの状態で、その端からはだらだらと涎が零れていた。
ほとんどトランス状態に陥っていると一目で解るそのやたらにエロい顔を見下ろしながら俺は、もっと気持ち良くさせてやろうと腰を更に早く、そして深く幸田のケツにぶっ挿していく。
「あっ、あ、あぁっ……っあ、あ、あンっ……ふあぁ、あ、あ……っ。」
すでに声は「あ」しか発していない。
それに時折、もっと、とか、気持ちイイ、ってのが混ざる。
そして、俺の名字も。
幸田は普段の時は俺の事を「くん」付けで呼ぶ。だが、この時ばかりは、何故か呼び捨てで。ささがわ、ささがわ、ささがわ、と蕩けた声で、表情で何度も何度も俺を呼ぶ。
それが嬉しくて、妙に幸せで、だが、少しだけ不満でもあった。
「あ、き、よ、し。秋喜。なぁ、幸田、笹川じゃなくて、名前で呼べよ。」
「ひぁ……っ、あ、あっ、はぁ、ン……んんンっ……ぁ、あき、よし……っ? あ、ぁきよし……っ、あきよしぃ……っ、ぁ、はっ、あぁ……っ!」
幸田の真っ赤に染まっている耳に唇を近づけて自分の下の名前を呼ぶように囁く。
トロンと潤んでいる瞳が俺の方へ向けられ、俺が伝えた名前をその意味にさえも気が付かず幸田は蕩けた声で繰り返した。
その声に、言葉に、俺の背中に一気に快感が走り抜けた。
ヤバい、そう思った時には、俺は幸田のケツを深く突き上げ、その中に思いっきり射精した。
そして俺に深くまで突かれた幸田もまた、その半勃ち状態だったチンポからどろりと精液を吐き出し、甲高い声を上げて俺にしがみ付いてきた。
***
聞いてみたい事は山ほどあった。
なんとかしてその内何個かは聞けた。
だがもっと肝心な事は聞き忘れてた。
***
ヤり疲れて幸田が俺の腕の中でうとうととまどろんでいる。
その寝顔を眺めながら、俺は小さく溜息を吐いた。
この状況は言葉にできない位幸せで。
だが、こいつとヤればヤる程、終わった後にこれまた言葉に出来ない不安が胸に広がる。
こいつは俺と居られるだけでいいという。こうして、会って、ゲームして、セックスして、俺の腕の中で眠る。それだけで満足なんだと。
そんな健気な事を言われて、あ、そう?、とそれをあっさり受け入れるには、俺自身、そこまで非道な男じゃねーし、大体が、その、抱く度に俺はこいつに心を奪われていっている。
どんどん、どんどん、俺はこいつに惹かれ、惚れこんで。
今じゃこいつが居ない生活なんて想像もできねぇくらいに、こいつ一色になっちまってた。
だから、どうしてもこいつが、幸田が、野々村達にあーやっていたぶられているのを見るのは辛い。そりゃ、少し前まで俺もその中の一員で。あいつらと一緒になっていたぶってた側の人間なのは承知している。
だが、惚れちまったら、その相手を守りたいって思うのなんて普通じゃねーか?
どうにかこの状況を好転させてやりたいと思うのも普通じゃねーか?
それなのに。
「なんで、ダメ、なんて言うんだよ……。アホたれぇ。」
ずいぶん前にした会話をしつこく思い出しながら、俺は腕の中で安眠を貪っている幸田のその柔らかい頬を軽く抓った。
その痛み(?)に幸田が少し俺の腕の中で身じろぎをし、そして、うぅ〜ん、と口の中で何か小さく唸ると緩慢な動作で腕を持ち上げ、頬を抓っている俺の手を払うような仕草をする。
それがなんだかまた可愛くて俺は、今度は抓らず、つんつんと頬をつつくと、更に嫌そうに眉根を寄せて手を左右に振って俺の手を払おうとした。
その行動を何回か繰り返した後、幸田の瞼がぴくぴくと起きる手前の反応を返し、俺は慌てて手を引っ込める。
折角気持ち良く寝てるのに、起こすのも悪い気がしたからだ。
暫くそのままで眺めていると、手を払う仕草も落ち着き、そのまままた、すーっ、と寝息を立てて眠りに落ちたようだった。
「……なぁ、幸……、か、かずおみ……、俺さ……。」
もう一度眠りに落ちたその寝顔を眺めながら、俺はそっと顔を近づけてその耳に俺の想いを囁いた。
俺の声と、多分、俺の息に幸田はくすぐったそうに顔を左右に振る。
そのせいで今度は俺の腕の上にある幸田の柔らかい猫っ毛が俺の腕をくすぐって、俺はそのくすぐったさに少し顔を歪めた。
多分、幸田に俺の言葉は聞こえていないだろう。
そうは思うが、もし聞こえていたら、俺は首を吊って死ぬしかない位恥ずかしい思いを感じる事になる。
それだけは勘弁だ。
そう思いながら、でも伝えたい、だが、伝えられないジレンマに悶え、俺は幸田の体を腕の中に入れ直して、目を閉じた。
今、この腕の中にある確かな存在感が俺の伝えた言葉の答えだと思って。
***
聞きたい事があった。
聞いた事があった。
本当は、言いたい事があった。
なぁ、俺の事好きか?
俺はさ……。
***
「じゃあ、またね。」
俺の腕の中で少し眠り、そして、風呂に入ってから、俺達のその欲情と快感に占められた甘い時間は終わる。
さっきまで俺の下で見せていた淫乱さはすっかりなりを潜めたかわいらしい笑顔で、幸田はそう言って俺に手を振った。
それに俺も、俺なりに精一杯爽やかな笑顔で応え――もっとも幸田から見れば下卑た笑顔だろうが――、 そして、そっと腕を伸ばしてその猫っ毛をぐしゃりと掻き回す。
「――あぁ、またな。」
そう口にした後、名残惜しそうにその髪から手を離した。
明日は日曜だし、できればこのままここに泊って帰りたい。そうは思うがそれは顔には出さず、俺は踵を返し、ドアを開けて後ろ髪を引かれる思いで幸田のマンションから出た。
今日は幸田のお袋さんが夜には帰ってくる。
前に一度だけ会ったことがあるが、幸田によく似た可愛らしい感じのお袋さんだった。
若い子向けのカジュアルファッションのショップを経営している女社長らしい、その若々しいファッションと今時のメイクを施した顔立ちは実年齢よりもずっと若く、可愛く見えるようなお袋さんで。そして、なにより幸田のことを本当に可愛いと思っている雰囲気がビシバシ伝わってくる、なんつーか、いい感じの人だった。
こんな明らかにヤンキーにしか見えない、幸田のダチにしちゃ頭の弱い、ガラの悪い俺にまでにこにこと人懐っこい笑顔で話しかけてくれて、息子のことよろしくね、と言ってくれるぐらい。
いいお袋さんだと思った。
そのお袋さんが今夜は久々に帰ってくるらしい。
だから俺はこうして幸田に未練たらたらながらも幸田の家を後にしている。
なんつーか、幸田を大切に思っているお袋さんに隠れて、大切なその息子と、こーしてこそこそと男同士でセックスに耽ってるっつーのを、知られたくもないし、お袋さん自身も知りたくもないだろうし。
……それになにより、罪悪感みたいなもんもあるし。
幸田は一人息子だ。しかも将来をかなり期待されている。
そんな自慢の息子を俺がなんか奪ってるみたいな気になってしまう。
将来のことなんざまだ全然わかんねーが、それでも、幸田と別れるとかそんなんは今は考えられねーし、だが、お袋さんのことを考えたらちったぁマシな人間になってちゃんと挨拶した方がいいんだろうか、なんて事まで思ってしまう。
いや、まぁ、そりゃ俺たちは男同士だから、結婚するとかそーいうのでもないんだが……。
お袋さんに大事な一人息子をホモにしちまった罪悪感みたいなものはあるが、それで幸田とは別れらる気はねーから、だったらちゃんとお袋さんに挨拶して俺たちの付き合いを認めてもらった方がいいんかも、と思ってる訳で。
っても実際そんなことすりゃお袋さん、卒倒するだろうし、どうすりゃいいんだろうなぁ。
いや、その前に野々村達の幸田に対するいじめをどうにかする方が先決か。
俺が野々村から守ってやりゃいいんだが、俺の力じゃなかなかそれも難しいしな。
どうすべー。もう少ししたら冬休みになるし、その間に幸田と一緒に対策を練るしかねーかな……。
そんなことをつらつらと思いながら、いつも通りにマンションのエレベーターへと向かい、そこに見知った顔を見つけて俺はぎょっとした。
あいつだ。
敵意剥き出しの、普段は見たこともない顔でそいつはエレベーター横の壁にその背を持たれかけ、俺を睨みつけていた。
またかよ、そうかなりうんざりした気持ちになる。
こいつはあの日にはっきりと幸田に拒絶されたせいか、今度はターゲットを俺に変えて、こうして毎度毎度どこで監視してるんだ?ってくらい的確に俺が幸田の部屋から出てくるのをこの場所で待っていた。
そして、こうして何を言うこともなく睨みつけてくる。
いや、あの日。幸田にはっきりと拒絶されたらしい日までは、盛んに俺に話しかけてはいた。
一臣に近づくな。変なことをするな。一臣がお前なんかに気を許すわけがない。とかとか。
そんなことをずっと。
だが、俺の言葉はまったく頭から否定して聞く耳持たずだった癖に、幸田に何を言われたのかは知らねーが、あの日を境にぴたりと止まった。
代わりに、これだ。
何も言うことなく、ただただ、俺をこうして敵意をこめて、殺意にも似た感情をこめて、睨みつけてくる。
そのはっきりとした敵意の塊の瞳を俺も遠慮なく睨み返しながら俺はゆっくりとそいつに近づいていく。
間合いが詰まれば詰まるだけ目の前の男は俺に激しい敵意?殺意?を向けてくる。
いい加減諦めればいいのにな。そっちのが楽だろーに。
そうは思うが、こいつはこいつなりに譲れない想いってーのがあるのだろう。
だからって同情はしねーが。
「……。」
エレベーターの前に立つと、そいつが真横に来る。
そして互いに一言も口を開くことなく、睨みあうだけ。
それがいつものパターンだった。
だが、そのパターンが今日、少しだけ崩れる。
「……笹川。」
珍しい。あいつから声をかけてきた。
だが俺自身は声を発することはなく睨みつけているその眼だけで、なんだよ、と応える。
と、そいつが、にぃぃ、と瞳を狐のように細め、口角を釣り上げて酷く不自然で不気味な顔で笑った。
その笑顔に俺は言い知れぬ恐怖を感じる。こんな、品行方正な真面目なお坊ちゃまのどこにそんな不気味な迫力があったのか。なまじ整っている顔だけに、普段のキャラと剥離しているその笑顔が酷く気味の悪いものに感じただけなのかもしれない。
だが、確かにその時の俺は目の前にいる男のその不気味な笑顔に、俺の背筋はぞくっとした電流のようなものが走り、一瞬ではあったが恐怖に足が竦んだ。
「いつまでもいい気になってるなよ。すぐに天罰が下る。」
俺の表情が強張ったのに気がついたのか、そいつは、くすくすと喉を鳴らして笑いながら、そんなことを口にする。
なにを言ってやがんだ、そう言おうとした。
だが、乾いた唇同士がくっついて声は言葉にはならず、小さなうめき声にしかならなかった。
「ふふ、じゃあな。笹川。――気をつけて。」
気をつけて、の部分に妙な迫力と含みを持たせ、そいつはまたしても不気味な笑顔を俺に向け、そして、ちょうどやってきたエレベーターに俺の背を押すようにして、俺をその小さな箱の中へと閉じ込めた。
エレベーターの扉が閉まるまで、そいつは俺の真正面に立ち、どこか勝ち誇ったような笑みをその冷めた端正な顔に浮かべて俺を見つめている。
そして、俺は。
なにか見てはいけないものを見たようなおぞましさを目の前の男に感じ、初めてそいつから視線を逸らしてしまう。
「……さよーなら、笹川くん。」
完全にエレベーターが閉まる直前。
くすくすと笑う声に交じって、妙に楽しそうな声色で、そう呟いたその男の声が、俺の耳にいつまでも残った。
嫌な声だ、そう思いながら俺は無理矢理に耳に残るその声を無視して、呟く。
「――――。」
それは言葉にはならない言葉だった。
脳裏に浮かんだのは、先ほど別れた幸田の笑顔。
それが何故か、凄く遠くに感じた。
***
こんなことなら言っておけばよかった。
聞いておけばよかった。
聞けば、良かった。
***
きょろきょろと動く猫みたいな瞳が好きだった。
意外に気が強いところも好きだった。
柔らかい髪の毛も気持ちよくて好きだった。
まだ少年らしさの残っていた声も耳に心地よくて好きだった。
笑う顔も。泣く顔も。怒った顔も。拗ねた顔も。真剣な顔も。あの時のエロい顔も。
全部、全部、好きだった。
だから、守りたくなった。
守りたかった。
伝えておけば、良かった。
あの日、泊っておけば良かった。
そうすれば――。
自分の家へと向かう暗い夜道を歩きながら、俺は脳裏に幸田の顔を思い浮かべる。
いい年をして、帰りたくないと思うのは何故だろう。
だが、お袋さんが帰ってくるまでに、もう一度抱いて、伝えて、あいつの笑顔が見たかった。
あいつの、声を、聞きたかった。
引き返そうかと、足を止める。
だが、結局は。
ジーンズの尻ポケットに無造作に突っ込んでいたケータイのバイブにせかされて、俺は先に進んだ。
なぁ、幸田。
俺たちはどこで道を間違えたんだろうな。
引き返すことのできない迷い道に何故。