注意) 睡姦/同意のないセックス/狂気/一方的な想い
いつかこの瞳が前のように感情を映すことはあるのだろうか。
いつかこの唇が前のように言葉を発することはあるのだろうか。
いつかこの体が前のように意思をもって動くことはあるのだろうか。
医療の進歩は目覚ましい。
いつか、きっと……。
彼の瞳が感情を映し、唇が言葉を発し、体が動くこ日がくるだろう。
ぼくはそう信じ、祈っている。
その寝顔はまるで眠り姫のようだと思った。
長い寝たきり生活で、すっかり長く伸びた髪がその白い頬を覆っている。多少顔色はまだ悪いけど、それでも最初のころに比べるとかなり血色が良くなっていた。
そして、光を浴びないせいで白かった肌はますます白くなり、それこそ、砂糖菓子のようだ。甘くて、白くて、ほろほろと溶ける砂糖菓子。
そんな事を思い、ぼくはふっと笑う。
ぼくらしくもなく、なんて乙女チックな事を考えるのだろう。
それでも、目の前で眠っている一臣は、まるで眠り姫のように可憐で可愛くて、そして砂糖菓子のように儚く感じた。
舌を這わした肌は、想像していたような甘さは感じなかった。感じるのは微かな塩味と、そして、消毒液の苦い味。
見た目と味は反比例するんだな、そんな事を思いながらその白い肌にくまなく舌を這わして行く。 呼吸のたびに微かに上下していた胸がその息が荒くなるにつれて大きく上下し始める。そしてあの事件によって声帯を傷つけてしまった為に明確な言葉としての声は聞こえず、ただ、ひゅーひゅーという息が抜けるような音がその喉元から聞こえた。
しかしぼくの唇が彼の乳首を含み、そこを強く吸い上げると、ひゅーひゅーという音に混じって「ぁ、あ……っ。」と言葉にならない音が彼の唇から洩れる。
それを聞きながらぼくは更に強く乳首を吸い上げ、歯で甘く噛み、舌先で転がすようにしてその突起を舐めると、その声は確かな音となって更に大きくぼくの耳に届いた。
「感じているんだね……。まったく眠っているのに、エッチな子だ。」
ぼくが胸を吸い上げたりする度に彼は断続的に掠れた声で、「あっ、あ、あ……っあぁ……っ。」と可愛く鳴く。その度にその喉からは相変わらず、ひゅーっひゅーっと空気も抜ける音も聞こえてくる。
声が、言葉が、「あ。」しか言えないのは少し寂しく感じるが、だが、それは我慢しなければいけない。
彼は言葉がしゃべれなくなってしまったのだから。
言葉自体を発することも、誰かと対話することも、今の彼はまったくできない。
彼の声帯は著しく傷つき、その喉には痛々しい器具が取り付けられている。
彼が何故声帯を傷つけられ、言葉をしゃべれなくなったのか。その経緯を思い出すと、ぼくの胸は小さく痛む。
彼はその身に降りかかった不幸のせいで、その可愛い声を失う羽目になったのだから。しかも、声だけじゃない。
彼は元々持っていたその体の様々な機能や器官、動きさえも失ってしまった。
まず目につくのは、左耳。
根元からごっそりと切り落とされたその傷口は未だに痛々しさが付きまとう。
次にその体全体。
服を脱がさなければ解らないが、体のあちらこちらに深い傷跡が引きつれた跡になって残っている。
手足に多数残るその傷は筋肉を傷つけ、その先にある神経をも傷つけ、彼の体の動きを著しく制限していた。
そして、体にある傷の中には臓器まで達している深い傷もある。
こんな大怪我を負って今こんな形でもその命を繋ぎとめているのは、一種、奇跡だ。
そして。
きっと一番の傷は見える場所にはなかった。
彼の体の中で一番大きなダメージを受けたのは。
その、――聡明だった、脳。
あの事件で激しいショックを受けた為か、その脳は一日の大半を寝て過ごす。
だから彼はベッドに横になったまま、あの日からずっと、こうして眠り続けている。
――いや、目は開いているから真の意味では寝ているとは言えないのかもしれない。だが、その脳に取り付けた機器により確かに脳は一日のほとんどの時間を睡眠時と同じ脳波の動きを示している事が分かっていた。
だから眠っているといってもそう齟齬はないだろう。
自分から自発的に動く事もなく、喋る事もなく、ただ、虚空を見つめ、人の手を借りて漸く食事を摂り、排泄をし、その身をベッドの上へ横たえ続けている。
過去、彼はとても聡明で利発な少年だった。頭の回転も速く、勉強もできる。ぼくに近い人種。それが今は見る影もなく、ただただその体に蓄積した疲労をとるためにか、それとも他の理由かは分からないが、ずっとその意識を外の世界、つまりぼく達と断絶し続けている。
彼の母親の声にも、呼びかけにも彼は一片の反応さえも見せない。その度に彼の母親は酷く落胆し、その肩を落とし、彼を生かし続けるための費用を稼ぐために外の世界へと出かける。
その母親の後ろ姿はぼくの目から見てもとても哀れで、可哀想だ。
だが、その半面ぼくは少しばかりの優越感を持っていた。
だって、彼はぼくには少しの反応を返してくれるのだから。
彼が唯一反応するのは、ぼくが彼に口づけを落とす時。
ガラス玉の瞳に、幾ばくかの感情が蘇り、その体に意思を灯す。
だから、彼は眠り姫。
ぼくだけの、――秘密の眠り姫。
キスをすれば目覚める、ぼくの可愛いお姫様。
そのお姫様を庇護し、慈しみ、その命をこの世に繋ぎとめているのが、彼の唯一無二の王子であるぼく。
ぼくが居なければきっと呆気なくその命を終わらしてしまうだろう。
なにせ彼の体も心の傷もとても深い。その上、こうして今では寝たきりの身だ。
彼の多忙な母親では彼の世話はとてもじゃないが難しい。あちらこちらを飛び回り、その身をやつして仕事をこなしている彼女には、こんな風に一日の大半を彼の傍に付いていてやる事なんて出来ないのだから。
仮に誰か他の人間の手を借りたとしても、ぼく程甲斐甲斐しく世話は焼かないだろう。せいぜい仕事として割り当てられた範囲での世話しかできない。
そんな奴らに代わってぼくは毎朝その体を清め、体の位置を数時間おきに変え、食事を与え、その他にも寝たきりとはいえ身だしなみを整えてやったり、医師免許や看護師免許は持っていないとはいえ、父親が医者であるが為にそれなりの医療の知識があるぼくが彼の簡単な治療や消毒などを行う。
ここまでいたせりつくせりで彼の世話を行える人間がぼく以外どこに居るだろう。
そしてなにより。
こうして、彼の欲を飲みこんでやる事が出来る。他の人間では、ましてや女では、彼の母親では出来ない、大切な仕事。
それをぼくはこうして彼に与えてあげられた。
彼はあの過酷な日々のせいで、寝ていてもこうして時折人の肌を求める。
触れてやればその体を薄桃色に染め、あどけない顔に似合わずとても妖艶な表情をその寝顔に浮かべた。そして、言葉にならない音で、感じている事をぼくに伝える。
彼の体はとても性的欲求には素直で。男だと言うのに彼の後ろの穴は、まるで女のように男の欲望をたやすく飲み込み、しかも、そこで激しく感じる。
それがぼくには少しばかり悔しい。……いや、正直になろう。ぼくは、凄く、悔しい。
ぼく以外の男が、人間が、彼にこんな風に触れていいはずがなかった。
それなのに、彼はぼくの手をすり抜けあんな悪辣な男達の手に堕ちた。
最初はあのにきび面の男。あの男に口を汚され、そして、エスカレートした奴に体までを汚された。
挙句の果てにあんな頭の悪い不細工な男に誑かされて、ぼくの庇護さえも拒絶した。
ぼくが折角守ってやろうとしたのに……!
ぼくが折角助けてやろうとしたのに……!!
あんな不細工な男に抱かれ、あんないやらしい事をされ、あんなふしだらな顔を見せる。
信じられない光景だった。
僕の大切な彼があんなに、あんな男に乱れ、狂い、喘いでいるのが。
――それが今でも解らない。
あんな男に彼が心を奪われる筈もない。偏差値もその行動も、ぼく達に比べて著しく知能が低いとしか思えない男に、どうしてあんな事をされて悦んでいるんだ……!
しかも、あの男とだけでなく、あいつの仲間とその猿山のボスにまであんなに酷い醜い事をされて、何故、なすがままになっていたんだ。
嫌だった筈だろうに。
反吐が出るほど気持ち悪かっただろうに。
自分よりも格下の男達にその体を貪られ、あんな汚らわしい事を強要されて、吐き気を催すような事をされて、それでも何故、彼はぼくに助けを求めてくれなかったんだろう。
ぼくはいつでも彼が呼べばすぐに駆けつけるつもりだったのに。
たった一言。
たった一言で良かったのに。
なのに。
何故、義弟にまで……。
そこまで考えて思考を停止させる。
心の中にあの日のようにまたどす黒い感情が湧きあがりそうになったからだ。
その黒い感情をぼくは深呼吸をして押さえつける。
彼はもうぼく以外の男にこの足を開く事はない。
淫らな顔を見せる事さえもない。
彼の心が他の男を見ることもない。
その白い体を隅々まで知り尽くし、舐め上げ、その性感帯をピンポイントで刺激し、快感を与えることが出来るのは、もう、ぼくだけなのだ。
ふるふると頭を振り、ぼくは漸く彼の乳首から口を離す。
ぼくが吸い、舐め上げたそれは赤く尖り、ぴんっとその場でいやらしく立ち上がっていた。
その突起を指でつまみこねる様に動かせば、また頭上から「ぁ……ぁ、あ、あ……っ。」と甘い息遣いだけが降ってくる。
そのまま乳首を弄りながら、体を、顔を移動させ、白いシーツの上にその白い裸体を横たわらせている彼の唯一浅黒くなっている場所へと顔を落とす。
そこには乳首なんかよりもはっきりと大きく、そして、グロテスクな彼の性器が快感にその幹を膨らませてぴくぴくと揺れていた。
顔立ちに似合わず立派な雄である証拠のそれに、ぼくはうっとりと微笑みかける。
ぼくの愛撫でそれは快感の滴をその溝から滴り落とし、いまか、いまか、と次なるぼくの愛撫を待ち構えていた。
その期待に応えるべく、ぼくが躊躇することなくそれを口に含むと、彼の声が一際熱の籠った甲高いものへと変貌する。
聞きようによってはまるで獣の唸り声のようなその声も、今のぼくにはただただ甘美なメロディーにしか聞こえない。
顔を上下に動かしそれに刺激を与えてやれば、動かない体をもどかしそうに揺する。唾液をたらたらと垂らしてその部分をたっぷりと濡らし、先から洩れてくる彼の雫を舐め取りながら、そっと零れた唾液を後ろの穴へと塗り込めて行く。その感覚にも彼はもどかしそうにその腰を揺すり、我慢できない、とでも言うように動かない足を少しだけぶるりと震わせた。
人差し指をその穴に挿入すれば、体自体も大きくふるりと震える。
そして、ぼくの口の中で彼の性器が大きくなり、驚く程呆気なくぼくの口の中へとその精を吐き出した。
「ん……っ、溜まってたんだね。ごめんね、昨日はシてあげれなくて。」
喉に絡まるそれをやっとの思いで飲み込みながら、そう荒くひゅーひゅーと息を吐いている彼の頭を撫でてやる。
そうしながらぼくは自分の体を彼の足の間に滑り込ませ、自身の意志では動かす事が出来ない足を無理させない程度に開かせた。そして、ぼくの性器をその淫らな穴へと押し付ける。それだけで彼の体はまるで飢えていたようにふるふると震えて、半開きになっている唇からたらたらと涎が垂れた。
「あぁ、欲しくて仕方ないんだね。今挿入してあげるから、ちょっと待ってね。」
優しくそう声をかけ、ぼくはゆっくりとその部分に自身の分身を埋め込んでいく。
快感を感じるためか瞑られている瞼がぴくぴくと痙攣をおこし、その下で彼の眼球がぎょろぎょろと動くのを感じる。眉根は苦しそうに、しかし、どこか妖艶さを増して強く寄せられていた。
半開きの唇からは絶えず「あぁ、あ、あぁああ……あ、ぁあ……っ。」と甘い声が漏れている。
その声はぼくには、早く、早く、と言っているようにしか聞こえなかった。
彼の可愛い喘ぎ声に急かされるように、ゆっくりと、ゆっくりとその体の中に僕自身を埋め込み終えると、僕はまたゆっくりと腰を振り始めた。
眠り続けている彼とこうしてセックスをするのは、酷く背徳感がある。そして、普段冷静に努めているぼくでさえ、冷静さを欠いてしまうほど、とても興奮する。
だってそうだろう?
眠っているとはいえ、愛しているヒトをこうしてこの腕に抱いて、自分の好きなようにできるんだから。
ぼくが抱きたいように抱いて、愛して、口づけて、彼の体のどこにだって愛した証をつけ、ぼくの中にある愛情を注ぐことができる。
これで興奮しない訳がない。
ゆっくりと振っていた筈の腰は、気が付けばかなり早いスピードで彼の排泄の為に穴を乱暴に出入りしていた。
彼の穴は柔らかくて、温かくて、そして適度な締め付けでぼく自身に今まで経験がしたことのないような素晴らしい快楽を与えてくれる。
ぼくの唾液と、彼の精液で濡れているそこはぬぷぬぷと卑猥な水音を立てる。その音に更に興奮を高め、腰を強く振り、こすりつけ、ベットをきしませ、ぼくはいつしか彼の為だけでなく、自分自身の快楽の為に彼の穴の中へ自分自身を激しくこすりつけて行った。
「っ……はぁ、はぁ、あ、いい……っ、気持ちいい、よ……っ。」
なくなっている左耳にそう囁いてやれば彼はどこか嬉しそうな色を混ぜた声で、更に甲高く鳴く。
可愛いよ、ぼくのお姫様。
そう積年の愛を込めて心の中で囁きながら、我慢の限界に達し、ぼくはその柔らかな肉の中に精を放出した。
汗ばんだ彼の体を抱きしめながらぼくは暫くその強い快楽の余韻を貪る。
腰を緩慢に振り、吐きだした精を彼の穴の中で掻き混ぜると、彼の薄い唇が震えながら、か細く甘い声を洩らした。そして、彼の穴がまるで、もっと、と言うようにぼくの性器に絡みつき、扱きあげる。
本当に淫らな子だね。
いやらしく蠢く彼の腸壁の動きを感じてそう思い、ぼくはまだ萎えきっていない己の性器を彼の穴に出し入れし、彼の求めるままにこの神聖な儀式を続ける。
――そう、これは儀式。
この子をこの世界に呼び戻す、神聖な儀式。
あいつらがこの子にしたあんな汚らわしい行為とは違う。
愛情をこめて、この子の体を清め、そしてその魂をこの体に戻すために行う、神聖な儀式。
ただ汚らしい欲望に、欲情に、滾った精を吐きだすためだけのものじゃない。
慈しみ、尊び、労り、彼の苦しみを吸い取るための儀式。
可愛い、可愛い、ぼくの天使。お姫様。お人形。
幼稚園のころに誓った誓いに従ってぼくは君を守り、護り続けるよ。
腰をゆっくりと振り、彼に快感を与えながら、ぼくはそっと恭しく彼の赤く色づいている唇へと己の唇を重ねる。
それは、まるで砂糖菓子のように、甘く、蕩けていた――。
眠り姫は今日も虚空をずっと見つめている。
白々とした感情を移さないその瞳は、遥か彼方の世界を眺めているようだ。
だけどぼくは確信している。
きっとその視線の先は、ぼくを、ぼくだけを見ているのだと。
だって、ほら。
「一臣。」
優しく名前を呼べば、その瞳がゆっくりとぼくを見る。
焦点のあってないその瞳の奥底に、確かにある感情がひそやかに漂っているのを見て、ぼくは満足そうに微笑む。
「――愛しているよ。ずっとずっと、君だけを。」
なくなった左耳に愛しさをこめてそう囁くと、ガラス玉の瞳に先ほどよりも強くその感情が浮かんだ。
あぁ、その感情を見るだけでぼくの背中は歓喜に震える。
そうだ。
もっと、もっと。
感情を蘇らせておくれ。
君の心にぼくだけを映して、残して。
その感情に溺れて、それ以外は全て忘れて。
痛々しい傷口にぼくは唇を寄せ、だが切り取った当初のような平らではなく、もう肉が盛り上がりふさがっている、その部分へと舌を這わす。
あるべきはずだった耳の形をたどるように舌を動かせば、まるでそこにあると体が錯覚を起こすのか、彼の体がびくびくと揺れた。
それを合図に昨日もした儀式を、今日もまた繰り返す。
――もちろん、明日も、明後日も。
彼の体に感情を沁み渡らせるために。
ぼくをその体に覚えさせるために。
他の奴らの記憶を追い出すために。
甘い砂糖菓子の唇を塞ぎながら、その中で縮こまっている舌を無理矢理吸い上げて、くちゃくちゃと音を立てて軽く歯を立てたり、舐めたりを繰り返す。
暫くは意識のない体で、それでもどこか抵抗するように彼は舌を引っ込めていたが、しつこいくらいに吸えば、その内諦めたように自分からも絡めてくる。
そうすればもう後は、ぼくのなすがままだった。
昨日と同じ手順で、彼の乳首を貪り、体中を舐めあげ、その性器を口で癒す。
たっぷりと精を吐きだした後は、ぼくの性器を彼の中に埋め込み、彼が満足するまでぼくは彼の体に杭を打ち込み続けた。
薄く開いたそのガラスの瞳には、たっぷりとした欲情。
そして、まるで条件反射のように零れ落ちる涙。
白い頬を涙で濡らし、いやらしい顔でぼくをとことんまで煽る。
「本当にエッチが好きだね、一臣。」
くすくすと笑いながらそんな言葉を囁き、彼の瞳を覗き込む。
そこにはやっぱり欲情以外の感情はなく。
……いや。
瞳の奥底にひそかにたゆたう感情は、ずっと残っている。
嫌悪。
怯え。
恐怖。
憎悪。
殺意。
それらをごちゃまぜにした感情が彼の瞳の奥底にずっとたゆたい続け、ぼくの瞳を釘付けにする。
――あぁ、嬉しいよ。一臣。
そこまでぼくを想ってくれているなんて。
ぞくぞくとした快感にぼくの背中は震え、我慢が出来ずに彼の中へとまた精を吐きだした。
もっと、もっと、ぼくを憎んで。嫌悪して。怯えて。恐怖して。
それが君の中にぼくを残す唯一の手段なのだから。
「ふふ、いい子だね。笹川のことも、他の下賤な奴らのことも全て忘れて、今はぼくだけに抱かれて、ぼくだけを見てくれてるんだよね? だから許してあげるよ。ぼくの気持ちを、想いを、手を差し伸べた慈愛さえも、めちゃくちゃに引き裂いたことを。そして汚らわしいあいつらに抱かれたことも。だって君は確かに、あの日、このぼくの手で生まれ変わったんだから――。」
甘い、甘い、砂糖菓子。
眠れる森のお姫様。
愛しい天使。
ぼくの可愛い、お人形。
「愛しているよ。だから、ぼくをもっと憎んで、ね? 一臣。」
自分の笑う声が耳の中に甲高く木霊する。
ぼくの下でぼくの性器に悶え、乱れているはずの彼の瞳が、その時、確かに明確な意識を浮かべ、笑い転げているぼくを睨みつけた。
愛情に応える最上の感情が、同じ愛情だなんて誰が決めたんだろう。
心に深く残り、刻み、その魂をも束縛するのは、愛情なんかよりも憎悪の方が強い。
ぼくが彼に感じるのは確かに愛情だけど、彼がぼくに感じるのは憎悪でいい。
そうすれば、彼の心は永遠にぼくのモノになるのだから。
彼の憎悪が浮かぶガラス玉を見返しながら、ぼくは、尚更に甲高く耳障りな声で笑う。
笑いながら、彼の中に幾度目かの熱い精を放った。
彼の体の中にぼくの愛情を植え付けるために。
憎悪を更に煽るために。
笹川なんて低脳で下品な男には渡さない。
すでにこの世にさえいない相手に遠慮なんてしない。
心も体もその魂さえも。
ぼくだけに向き、ぼくだけを求め、ぼくだけに縛られる。
その為にぼくは彼にこの聖なる儀式を、施し続けよう。
ぼくの可愛い、愛しい、眠れるお人形さん。
いつかその目を覚まして、ぼくのこの深い愛情に応えてくれる日を楽しみにしているよ。
時たま見せるその感情のまま、ぼくを見て、言葉を話して、動いて。
イツカボクヲソノテデ……。