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NOVEL

罪 悪 感  〜第十一話〜

注意) 【現在】幼馴染×主人公 淫語 伏字 縛り

これは夢――?

これはなんて幸せな夢?

もし夢なら、このままずっと醒めないで。

「じゃぁ、お前は床の上で構わないんだな?」
「え?」

 続いた航矢の言葉の意味を図りかねて、俺は聞き返したが航矢はもう何も答えなかった。
 ただ、そのまま肩に担いでいる俺の体を台所と隣の部屋を繋ぐ廊下の上に降ろす。足先が板張りの感触を伝えたかと思うと、俺の体は航矢に抱き締められたまま床の上に押し倒された。
 したたかに背中を床に打ちつけ、俺はその痛みに少しだけ顔を顰めながら航矢を見上げる。

「!? 航っ――。」
「お前さぁ、なんで俺だけダメな訳?」

 俺の上に覆い被さりながら、俺が驚き発した言葉を遮ると、航矢は口の端を吊り上げてどこか何かを含んだ瞳で俺を見詰めながらそう言う。
 航矢のその言葉の意味が解らず、俺はただ今のこの状況に目を瞬かせ自分の上に馬乗りに跨っている航矢の悪餓鬼じみた顔を見詰め返していた。
 そんな俺を苦笑の混じった顔で見下ろし、航矢は突然俺に顔を近づけてくる。

「航矢っ!?」
「俺だけダメ、って事ねぇよなぁ、渉。結婚式の日に、俺のを美味そうにしゃぶってたじゃねーか。」

 くすくすと瞳を細めて笑いながら、航矢の唇が俺の唇に軽く触れた。そして俺が何か反論をする前に、一気に深く口付けられ、抵抗する間もなく口の中に舌まで差し込まれる。
 俺は航矢のこの突然の行動にただただ驚き、うろたえて情けない事に大した反抗も抵抗も出来ずにそのキスを受け入れてしまった。
 航矢の舌が俺の舌を絡め取ると、強く吸われる。そして巧みに口の中を嬲られ、唾液を流し込まれた。
 その余りに久しぶりな他人との触れ合いに、俺は意識が遠のきそうになる。
 ただのキスにどうしようもないほど体が熱くなり、体の芯から湧き上がってくるゾクゾクとした喜悦に流されそうになる。
 だけど、それは許されないことで。
 一体どういった理由で航矢が俺に対してこんな行動を取ったのか解らず、俺は必死になって流され受け入れそうになる自分を戒める。

「――っ、ふっ、止めっ……航、矢っ!!」

 なんとか航矢の唇を振り払い、上がりそうになる息を宥めながら航矢に対して抗議の声を上げた。
 しかし俺の怒りを滲ませた声を航矢は柳に風、と受け流す。そして間近で俺を見下ろしながら、ニヤリと笑いかける。

「お前、俺がお前と、男とセックスできねぇと、思ってたんだろ? ワリィな、違うんだ。」

 そう言うや否や航矢は俺のシャツの襟に両手をかけたかと思うと、力任せにシャツを破った。その反動でシャツのボタンが辺りの床の上にぱらぱらと飛び散る。
 航矢の言葉と行動にまたもや俺はパニックを起こした。
 航矢は一体何を言ってる?
 航矢は一体何をしようと――?
 頭の中をぐるぐると回るのはそんな事ばかりで。抵抗する事も忘れて目の前で不敵な顔で笑っている航矢を呆然と見詰め返す事しか、その時の俺には出来なかった。

「渉。俺はお前が思ってるような男じゃねぇ。俺がホモが嫌いなのは、あのクソ親父の血を脈々と受け継いでいる自分が嫌いだったからだ。」
「な、に言って……。」
「解んなくても、構わねぇよ。ただ、俺はお前が思ってるほど、お前の事を嫌ってねぇって事だけ、理解しろ。」
「航矢……。」

 航矢の言葉に行動に翻弄され、言われた言葉の意味にまったく頭が追いつかず俺は、バカみたいに自分を鋭い目つきで見詰めている航矢を見詰め返してその名を呟く。
 と、また航矢の顔が降りて来て俺の唇を柔らかく吸う。そして愛おしむように、包み込むように普段の航矢の粗雑な行動からは想像も出来ないほど、繊細な優しいキスをされた。
 歯列を割り侵入してきた舌も、柔らかく俺の舌を絡めとリ蕩けるような愛撫を与えられる。

「ふっ……ん、はぁ……ちゅっ。」

 気がつけばすっかり航矢のペースに合わせて俺も航矢の舌に自分から舌を絡め、その甘さに酔っていた。
 航矢から与えられるキスは、我慢に我慢を重ねてきた俺の理性も良心をもあっさりと吹き飛ばす。それほど、巧みで気持ちが良かった。

 ――たかがキスだけで、イってしまいそうになるほど。

 下半身には急激に血液が集まり、この半年まったく男を受け入れてなかった後ろは疼き火照る。
 もうこのまま前技も何もかもすっとばして、航矢の男をそこで食べたくて仕方なくなった。
 頭の中が、セックスで一杯になる。
 航矢、航矢、航矢、と相手の名を何度も何度も心の中で呼び、その航矢が俺を抱いている姿を想像して、震えと衝動が凄まじい速さで俺の中を暴れ始めた。
 歓喜の震えが――。セックスを渇望する衝動が――。
 俺をただのセックスに飢えたケダモノへと変える。
 その堪えきれない衝動のままに俺は航矢のキスを受けながら、航矢の背中に回していた両手を前へと回し、航矢の作業着に通っているベルトを外すと、ジッパーを下ろす。そしてその中へと右手を潜り込ませた。
 潜り込んですぐに航矢の下着越しに航矢の男に指先が触れる。その下着越しでさえはっきりと解る硬さと熱さに、航矢も欲情しているという事実に、俺はもうどうにも堪らなくなった。
 久々の事に焦りながら、下着の隙間から航矢自身を何とかして引っ張り出す。そして航矢のモノを掴んでいる手とは反対の方の手で、自分のベルトを外しジーンズのボタンとジッパーも引き下ろす。そのまま軽く腰を持ち上げてジーンズを脱ごうとした。
 すると航矢の手が俺のその行動を止めるかのように、俺の手首を掴む。

「――そう、がっつくなよ。渉。」

 漸く唇を離し、航矢は俺を欲情で染まった瞳で見下ろしながら、意地悪な顔で笑った。
 その航矢の欲情を滲み出した笑顔に俺は、また激しい欲情を感じ体を震わせる。

「楽しみは最後まで取っとくもんだぜ。」

 くつくつと喉の奥で低く笑い航矢は掴んだ俺の手首を、俺の頭上まで持ち上げると片手でそこに縫いとめた。そして今度はもう片方の手も同じように、俺の頭の上に持ってくると一つにまとめ、自分の作業着から抜き取ったベルトで俺の両手をぐるぐる巻きに縛る。
 航矢が施した拘束によって俺は、自分で自分の両手を使う事が出来なくなった。
 その事で俺は更に興奮を覚えた。

「やだ……、航……、矢ぁ、ダメ、俺もう欲しくて、堪んない……。頼むよ、挿れて、お前の。嫌じゃなかったら、俺の後ろ、貫いて――航矢ので……。お願い……っ。」
「……っ、お前、なんつー顔……。――ダメだ。もう少し我慢しろ。」
「航矢ぁ……。」

 興奮して疼く後ろの穴を早く航矢のモノで一杯にして欲しくて、俺は恥も外聞もなく航矢に懇願する。だが、航矢は俺の懇願を苦しそうな顔をしながらも、きっぱりと拒否した。
 その事が悲しくて俺は、唇を噛み締めると目の前にある航矢の欲情に色づいた顔を、じっと見詰める。
 俺がその時どんな顔をしていたのかは自分では解らないが、航矢はじっと見詰めている俺に一瞬何かに耐えるような顔をして見せた後、おもむろに視線を外すと俺の首筋に顔を埋めてきた。

「んぁっ……!」

 航矢の唇が首筋に触れ、その中から出てきた舌が丹念に俺の首筋を舐め始めると、俺はたったそれだけのその感覚に身悶えて簡単にあられもない声を上げてしまう。
 ちゅうとキツク吸われると、その微かな痛みと快感に背中が弓なりに反る。そして航矢は俺の肌に強く弱く吸い付き、噛み付きながら徐々に顔の位置をずらしていった。

「あっ、あぁぁぅ……っ! や、だぁ、航矢っ、乳首、やだぁ……っ!」

 航矢の口が俺の乳首をその中に吸い込み、軽く歯を立てられると凄まじい電流が俺の体の中を駆け巡った。ビクビクと体を痙攣させ、縛られた両手を無意味に動かしながら床に爪を立てた。
 れろれろと航矢の舌全体で乳首を転がされれば、もうどうしようもなく下半身は疼き、後ろの蕾は男を求めて収縮を繰り返す。
 そして、もう片方の乳首を航矢の親指と人差し指で挟まれ抓り上げられた途端、俺は我慢できずに達してしまった。

「ひっ……、イ、ぅ……っ! やぁぁぁっ!!!」

 大きく背を仰け反らせ下着の中に、欲望を吐き出す。下着の布地に勢いよく噴出した精液が当たり、そのまま下着を濡らしつつ俺のモノもグチョグチョに濡らしていった。

「なんだ、これだけでイッたのかよ。早いな、渉。」

 俺が射精した事に気がつくと航矢は漸く俺の乳首から口を離し、どこか興奮した面持ちで笑いながら俺にそう意地悪を言ってきた。
 そんな航矢の言葉に俺は恥ずかしさを覚え、肩で息をしながら航矢から視線を反らす。

「だって……、だって、俺……、本当はずっとシたかったんだもん……航矢と……。お前、気持ち悪いって思うかも、だけど、俺、本当に航矢とエッチしたかった……から。だから、こんなの、感じすぎちゃうよ……嬉しくて……っ。幸せで……、凄いキモチイイんだもん……。」

 航矢から顔を背け、俺はそれでも自分の気持ちを航矢に伝える。きっとこんなどうしようもない俺に航矢は、本気で愛想を尽かすかもしれない。
 だけど、それでも航矢に触られて、キスされて、凄く嬉しいって事を伝えたくて。今までにないくらい、感じてるって事、伝えたくて。
 これでもう航矢とのこの幸せな生活が駄目になったって、俺はきっとこのささやかな触れ合いだけを胸に秘めて生きていけるから。
 少しだけ駄目になる事を思って胸が痛かったけど、それでも俺は自分の感情に気持ちに嘘は吐けなくて、恥ずかしくて死にそうだったけど、俺は遠くにあるちゃぶ台の足を睨み付けながら航矢に小さな声でそう吐露する。
 と、航矢の指が俺の顎にかかると顔ごと俺の視線を航矢に向けさせた。

「お前、可愛すぎ。」

 くつりと俺を見て笑いながら航矢の口から、信じられない言葉が飛び出す。
 可愛い?今、確かに航矢はそう言った?まさか!聞き間違いだよな?航矢がヤローに対してそんな事言う筈ないよ、な?
 余りに航矢の口から飛び出た言葉が信じられなくて、思わず自問自答してしまう。
 だが、航矢は俺の目の前で見た事のないような笑みを浮かべて俺を見詰めていた。

「渉、お前は本当可愛いよな。アイツ等がお前を無茶苦茶にしたくなった気持ち、今なら良く解る。」

 ペロリと舌を出すと自身の唇を舐めて航矢は、俺にそう言った。そして、俺の前髪を一房取ると航矢は肉食獣の笑みをその唇に浮かべて、それに口付けをする。
 その航矢の言葉と行動に、俺はまた背筋が震える。
 ゾクゾクと駆け上がってくる快感に、一度欲望を吐き出した自分自身がまた熱を帯びてくるのが解った。
 もう航矢に滅茶苦茶にして欲しかった。
 服を引き裂いて、後ろに突っ込んで乱暴に出し入れをして。
 それこそケダモノのように。
 俺を喰らい尽くす勢いで、航矢に抱いて欲しくて、貪って欲しくて。引き裂いて欲しくて――。
 目の前で肉食獣のような獰猛な顔をしている、航矢に、激しく抱いて欲しくて、堪らなくなる。

「航、矢ぁ……。お願、い、早く俺を全部食べて……? 俺のアソコに航矢の、硬くて熱いおち×ち×ぶち込んでよぉ。もう、俺、航矢が欲しくて欲しくて、可笑しくなりそう……っ。」
「渉……。」

 苦しくて。
 もう、辛くて。
 後ろの穴が航矢を欲して、女のようにはしたなく涎を垂らしている。前ももうすっかり勃ち上がって、次の射精を、航矢に突っ込まれて吐き出す事を望んでいた。
 だから俺は目の前にある航矢の顔に向かって、俺なりに精一杯甘い声で、甘えた声で、いやらしい言葉で航矢に求める。そして腰を浮かせると航矢のむき出しになっている股間に自分の股間をすりつけた。
 途端航矢の顔に、欲情の色が広がる。眉根を寄せ、厚めの唇から熱い息を吐く。

「んっ……、航矢ぁ。ほら、俺のまたこんなになってる……。航矢のだって、こんなに硬くて大きく、なってるよ……? ねぇ、この航矢の熱くて硬いの、俺の後ろに、オンナになってる穴に突き刺して? 航矢のエッチなこれで、俺の中、一杯にして? 俺、航矢とエッチしたい。航矢とじゃなきゃ、嫌だ……っ。」
「っ、渉、お前、自分が今、何、言ってっか解ってんのかっ?」
「解ってる、よ? でも、本心なんだ。航矢に、エッチな事、一杯して欲しい……。俺、航矢が好き、なんだ。航矢の事、恋愛感情として、凄く好き。だから、もう、幼馴染なんて関係、止めちゃうくらい、滅茶苦茶に、乱暴に、航矢に抱いて欲しい……。俺を航矢の、航矢だけのオンナにして? ねぇ、航矢、ダメ? やっぱり、俺じゃ、ダメ? 男だから、ダメ? 今まで他の男ともエッチ、シてきたような男だから、やっぱりそんな俺とエッチなんて気持ち悪くて、出来ない?」
「――っ!」

 一生懸命航矢のむき出しになっている牡に自分の股間を下着越しに擦りつけながら、俺は航矢に哀願する。
 心の中にまで欲情が染み込み、自分自身からいやらしい事やひた隠してきた自分の気持ちを口にして航矢を煽った。
 そんな俺に航矢は、何故か酷く辛そうな顔をして見せる。
 そして、突然俺の体をうつ伏せに転がすと、一気に俺のジーンズと下着を足から抜き取り、そのまま俺の腰に腕を回すと、腰を持ち上げた。
 その体勢に、俺の胸は期待に膨らむ。
 きっと航矢の目の前に曝け出された俺の下半身は、いやらしくひくついて女みたいに涎を垂らしてる。それを航矢がどんな気持ちで見ているかは解らなかったけど、俺は航矢の前に自分の恥ずかしい場所を全部曝け出したことに、酷く興奮をしていた。
 ゾクゾクとした今まで感じた事のないような、快感が体中を支配する。
 航矢が、俺のいやらしい窄まりを見てる。
 航矢が、俺の勃起してるおち×ん×んを見てる。
 俺は今、航矢の前に、大好きな人の前に、淫らな場所を全て曝け出して、いる――。
 それだけで、それを想像するだけで、もうどうしようもなくなって触られてさえいないのに、俺は一気に上り詰めた。

「あ……っ、あぁ……っ、航矢ぁっ、どうしよう、俺……っ。あっ、ダメっ、お前に見られてると思うと……ふっぁ、んん―――っっ!!」
「!? おまっ、なんで……?」

 後ろに突き刺さる航矢に視線に耐えられなくて、見られているという俺の想像に耐えられなくて、俺ははしたなく航矢の視線だけでイってしまった。ビクビクと腰を痙攣させ、むき出しになった自身から二度目だというのに勢いよく精液が噴出して、板張りの床の上に染みを作る。
 そんな俺に流石に驚いたのか、航矢が俺の後ろで素っ頓狂な声を出した。

「ご、ごめんっ……っ。俺、今まで感じた事ないくらい、凄い興奮してる、みたい……っ。お前に見られてるだけで、イッちゃうだなんて……、俺、恥ずかしいよぉ……。」

 こんな事は俺自身初めてで。どうにもならないくらい恥ずかしかった。全身が、火を噴出したように火照る。
 もうマトモに航矢の顔が見れなくて、俺は自分自身の腕の中に顔を押し当てて航矢から顔を隠した。
 そうしながらも俺の牡からは、はしたなくポタポタと精液が零れている。それがまた、恥ずかしくて。そして、やたらに興奮して。
 後ろが、航矢を欲していやらしく収縮するのが、自分自身でも酷くはっきりと解り、それが航矢の目にどう映っているのかを考えると、無意識の内に腰を航矢に向けて更に差し出して誘うように揺らしていた。

「あ……っ、はぁ……、こう、矢ぁ……。ごめん。俺、変態で、ゴメン……っ。でも、俺……、俺……。」
「…………。」

 顔を腕に床に擦り付けながら、俺は自分のはしたなさを航矢に謝る。
 しかし航矢は俺の言葉になんの応えも返さなかった。
 その事に航矢が俺の事をどんだけ呆れて、蔑んでいるのかを思い、俺は軽く絶望を感じる。
 と、航矢は無言のまま突然、俺の後ろの穴に熱い塊が押し当てられた。
 そして、航矢の体が俺の上に覆い被さると、床に顔を押し当てている俺の項に航矢の熱い唇が触れる。

「渉。」
「ぅ、んっんんーー……!」

 優しく名前を呼ばれたかと思うと、一気に俺の中に航矢の杭が突き立てられた。
 航矢の熱が、硬さが俺の中を押し広げ、奥まで止まる事無く押し進む。そして、尻に航矢の肌がぶつかるまで突き進むと漸く航矢の全身は止まった。

「渉。乱暴にして、いいんだな?」
「こう、やぁ……っ、うんっ。うん、乱暴、にして……っ。滅茶苦茶に、してっ、いい、からっ……! 俺、航矢に、滅茶苦茶にされたいんだ……っ! 航矢になら、何されても、嬉しい……っ。」

 奥に突き刺された航矢の熱に、航矢に後ろを犯された事に、幸せが一気に俺の中を駆け巡る。そして、俺は浮かされたように呂律が妖しくなっている口調で、航矢の言葉に必死になって頷いた。
 途端、航矢が激しく動き始める。
 俺の体は板間の固い床の上で大きく揺さ振られ、縛られた両手が俺の頭の上でその動きに合わせて床に跳ねた。
 そして、俺の腰も跳ね、突き刺さる航矢の杭の熱さと硬さに、俺は必死になって三度目の射精を堪える。
 先程放出した俺自身は、もうすでに充血してみなぎっている。先端からは、見なくても先走りが糸を引いて床に零れているのが解った。
 パタ、ポタ、という水の滴る微かな音が俺の耳に届き、航矢に穿たれている後ろと俺の男から零れた体液がどんどんと板張りの床の上にいやらしい染みを作っていってるのもその音で良く解る。
 そんなはしたない自分自身に強烈な羞恥心を感じると共に、航矢に抱かれているという事実が酩酊するほどの幸福感を俺の中に湧き上がらせてくる。
 そして、あっさりと俺の我慢は限界点を突破した。

「ひぁっ……っ、こう、やぁっ、ダメっ、また、イッちゃうっ……―――ぁ、あーーーーっ!!」
「渉っ……っ!」

 結局航矢の突き上げに、俺は呆気なく三度目の射精をした。
 びゅるびゅると俺の先端から精液が飛び出し、ビチャビチャと音を立てて床の上に盛大に水溜りを作る。
 そして、航矢も。
 俺がイッたとほぼ同時くらいに、俺の腰をがっしりと掴むと俺の最奥にその欲望を放出したみたいだった。
 腹の奥に男の熱い精が溜まって行く感覚に、俺は恍惚とする。久々に感じるこの感覚に、俺のアソコは激しく収縮を繰り返し、航矢の精液を最後の一滴まで搾り出そうとしていた。

「っ、渉、お前の、すげぇ……っ。」

 俺の背中を抱きしめながら航矢が掠れた声で、小さく呟いた。
 すると、航矢の腕が俺の腰をしっかりホールドして、俺の上半身を持ち上げる。そして、俺に突き刺したまま航矢はその場に胡坐をかくと、俺の体をその上に乗せた。

「抜かずで何発犯れるか、試してみるか?」

 くつくつと笑いながら航矢が俺を胡坐の上で揺すりながら、そう俺の耳元で囁く。
 その航矢の言葉に俺は、思わず真っ赤になった。だけど、もう三度もイってると言うのに、体はまだまだ貪欲に航矢を求めていて。
 俺は航矢の方に顔を捻じ曲げる。

「――航矢が、俺としたいなら……。」

 そう言いながら、航矢の唇に俺から柔らかく口付けた。



 そして俺達は、一体何回抱き合ったか解らないほど互いの体を貪った。


 きっとこのとき、俺は最良の幸せを手に入れたのだろう――。
 人生最高の、そして最後の幸せを……。

◇◆◇◆◇

 ボスから航矢が資産家の娘に見初められた、と言う話を聴いてから、数日後。
 突然、予期せぬ人物が俺の元を尋ねてきた。


 ピンポーン。と、軽いインターホンの音が人が尋ねてきたのを俺に知らせる。
 いつもの俺なら予定以外の他人の訪問には、居留守を使って対応に出る事はないのだが、その時は妙な予感のようなものに導かれて、そのインターホンのモニター画面を覗いた。
 そして、意外な人物がモニターの前に立っているのを認めると、俺は驚きのあまりその場に固まる。
 だがインターホンに対応しようかどうか迷っている間にも、呼び鈴を押す音は絶え間なく室内に響いていた。しつこすぎるぐらいしつこく人工的で耳障りな甲高い音が、室内に鳴り響く。
 結局余りにもしつこく鳴る音に耐えられず、俺はインターホンの受話器を取り上げた。

「航矢っ、五月蝿いっ!!!」

 思わず、そう受話器に向かって怒鳴る。
 するとモニターの向こうで航矢がカメラに近づくと、ニヤリと俺に向かって笑って見せた。そして、早くドア開けろよ、と俺に催促する。
 航矢の傍若無人な振る舞いに今更ながらに俺は溜息を付くと、結局オートロック解除のボタンを押して幼馴染をマンション内に招き入れてしまった。
 そして待つ事数十秒後。
 今度は部屋のインターホンの呼び鈴が鳴る。
 その音を聞くや否や、俺はドアを勢いよく大きく開いた。――あいつにぶつかる事を少し期待しながら。
 しかし航矢は、一歩下がった場所で勢いよくドアを開けた俺をニヤニヤと人の悪い笑顔を浮かべて見返していて。
 見透かされていた事に、俺は少しばかり赤面した。

「よぉ、元気か?」

 だが俺の赤面など気がつかない振りをして航矢は、昔のように気安く手を上げて挨拶をする。
 そんな航矢に俺は苦笑と一緒に溜息を零すと、体を横に退けて航矢を部屋の中に招きいれた。この光景に俺は一瞬デ・ジャブを感じる。
 思い出したのは、俺が一也さんに捨てられた後に航矢が尋ねてきた時の事。
 あの時もコイツはそれまで全然連絡もなかったくせに、唐突に俺の前に現れた。そして、俺を崇さんの会社に入社する事を勧めて……。
 そこまで思い出して、俺は頭を軽く振った。
 過去の事なんて、もう今の俺には関係のない事だ。
 それよりも大切な事は、今。
 どうして居場所を教えていなかった筈の航矢がここに現れたのか。大体コイツは俺を嫌っていたはずなのに。
 それに、一体なんの用事で俺を訪ねてきたのか。
 その事が頭を占める。
 俺の横をすり抜けて、ボスに与えられたマンションの室内をまるで物色するようにあちこち見て回っている航矢の後姿を眺めながら、奴の行動の意味を考えていた。
 だけど、その答えは一つしか思い浮かばなくて。

「航矢。お前、資産家の娘とお見合いするんだって?」

 室内に置いてある調度品の品定めをしている航矢の後姿に、そう直球を投げつけた。
 こいつが俺の元を尋ねてきたのは、その事を報告する為だろう。それ以外、航矢に対して現在の情報を持ってない俺には想像が出来なかった。
 すると、航矢は薄ら笑いを浮かべて俺を振り返る。

「――お前の“ボス”に聞いたのか?」
「……あぁ。つい二、三日前だけど。」
「ふぅん、えらく情報届くの遅かったんだな。しかも、肝心な事が伝わってねーじゃん。」
「え?」

 俺の言葉にニヤニヤと笑いながら、変な言い回しをした航矢にひくりと口の端を引き攣らせながら、一応素直に答える。
 しかし俺の答えに航矢が返した言葉に、俺は唖然とした。
 情報が届くのが遅かった……?そして、肝心な事……?
 それが一体何を意味するのか、漠然と解り、俺は不快感に眉を潜めた。

「肝心な事って……?」

 不快感からか、問い返す俺の声には棘があった。
 そんな俺に向かって航矢はニヤリと口の端を吊り上げて余裕の笑みを見せ、そして大げさに肩をすぼめ両手を広げて見せながら口を開く。

「俺、あの女と結婚する事に決まってんだよ。もう一ヶ月ぐらい前から。」
「…………。」
「大体、あの女との結婚が決まった時に一緒に居たんだがなー。シャチョー。」

 航矢の話す内容に、俺はなんとなく苛立ちを覚える。だがその苛立ちが、ボスと航矢、どちらに向けられているのか自分でも解らず、更に嫌な気持ちになった。
 そして何故か、心の奥の方に疼くような痛みさえ感じてしまう。その、ズキン、ズキン、と疼く痛みに俺は密かに眉根を寄せた。
 目の前では相変わらず人を喰ったような笑みを浮かべて、可笑しいよなー、と呟いている航矢の姿。
 それがやけに気に触って、思わず航矢に当り散らしたくなる。
 だけどその感情を航矢に当たるの見当違いだとよく解っていたので、俺は自分の中に湧き上がった感情を抑え、航矢のその声に答えはせずにくるりと航矢に背を向けるとキッチンに向かう。

「……航矢はコーヒーで良いんだよな?」
「ん? あぁ、いつものな。うんと濃い奴。」

 コンロの前に立ち、やかんの中に水を入れながら解りきっている事を一応確認すると、航矢はいつものように返答を返した。
 そして俺がキッチンでコーヒーを作っている間、リビングや俺の寝室、バス等を興味深げに覗きまわっていた。

「しっかし、お前滅茶苦茶良い所住んでんな。男にケツ振ってるだけで、これかよ。真面目に働いてるのがバカみてーだな、おい。」

 そして一通り見て回ると、リビングに戻ってきてソファに勝手に腰を降ろすとジーンズの後ろポケットから煙草を取り出し口に咥えながらそんな事をいう。
 それに対して俺は何も答えなかった。答える必要もないと思ったから。
 航矢も俺の答えは期待していなかったのか、それ以上俺に追及をする事無く、ソファの上でくつろぎながら煙草をふかしていた。

「ほら。」
「お、サンキュ。」

 コーヒーを作り終え、航矢の元に持っていく。手渡しすると、航矢は口の端を吊り上げて笑って俺に口先だけの礼を言った。
 そして俺も自分のマグカップを持ち、航矢の座っているソファの向かいのソファに腰をかけた。
 そのまま暫く二人で無言で、コーヒーをすする。
 あらかた飲み干した頃、先に口を開いたのは航矢だった。

「……ところで渉。お前さぁ、俺の結婚式出ねぇ?」
「は?」
「俺の“親友”として、そして会社の“同僚”として出ねぇかって聞いてんだよ。」

 予想もしてない事を言われ、俺は間抜けな声を出した。
 そんな俺に少しだけ馬鹿にしたような笑みを口許に浮かべた航矢は、更に俺を仰天させるような言葉を続ける。まさか航矢が、今更俺にそんな事を頼みに来るとは思わず、俺は不信感を露にした顔と声で航矢に問い掛けた。

「――航矢、お前一体何を企んでる?」
「人聞きわりぃな。ただ、お前に祝って欲しいだけだって。幼馴染のよしみで、さ。」

 俺の低い声に、航矢は飄々とした顔で応え、コーヒーのマグカップをガラステーブルの上に置いた。だが、俺を見据える瞳の中にはなにやら物騒な光が見え隠れしていて、俺は更に警戒をした。
 言葉どおりの意味で、コイツが俺を結婚式に招待しているとは到底思えない。
 大体、俺達の仲はあの時に決裂してるんだ。それなのに、今更“幼馴染”を持ち出してくるのは、とても不自然に思えた。
 それを持ち出すって事は、絶対に何か裏がある。
 航矢が自分の有利になるような事を想定して、俺を結婚式に招待しようとしている。
 今までの航矢の行動から考えて、俺を何か利用しようとしているとしか思えなかった。
 だから、俺は目の前で不敵な顔で俺を見詰めている航矢を睨み返す。

「そんなこえぇ顔で睨むなよな。俺もさ、大人げなかったって反省してんだぜ、これでも。」
「……お前が反省なんてするかよ。」
「言ってくれるじゃん。――お前が、ボスの男妾になったのだって、お前の意思じゃなかったのに、あの時あんなヒデェ事言ったの、本気反省してんだよ。お前に対して『ケツ掘られて喜ぶ薄汚ねぇ豚』なんてさ。マジ悪かった。ほら、このとーり謝るからさ、俺の結婚式に出席してくれよ、渉。お前に、祝福して欲しいんだよ。マジで。」

 へらりと悪びれた風もなく笑い、航矢は形だけガラステーブルに手をついて俺に頭を下げる。航矢のそんな誠意のない態度に、俺は苦笑を漏らした。
 航矢はいつもこうだ。
 俺に対して迷惑をかけた時も、決して本気では謝らない。へらりと笑ってそれで済ます。それが結局俺の呆れを誘い、俺は航矢に対してそれ以上怒る気力をなくしてしまう。
 そもそも俺が航矢に対して本気で怒ってないというのを、こいつはわかってるんだろう。だから俺に対して本気で謝ったりしない。
 本気で謝らなくても、俺がもうとっくに航矢の事を許してるのを知っているから。
 航矢は本当に俺の事を、よく知り尽くしている。
 だから航矢の真意がどうであれ、俺はこれ以上航矢に対して態度を突っぱねる気力を失った。
 そして航矢が今回俺をどういった事に利用しようとしているのかに対しても、興味が湧いてくる。それに、こいつがどんな女と結婚するのかも。
 だから相手の女がどんな女か、この目で見てみたくなった。
 そんな事を思いながら頭を下げている航矢を見ながら、一つ深く溜息を吐く。

「――結婚式、出てもいいよ。」
「マジか!?」

 俺が呆れたような口調で、そう言うと航矢は勢い顔を挙げた。そして、少しだけ本当に俺のこの承諾を驚いたような顔をして、呆れ返っている俺の顔をまじまじと見る。
 そんな航矢に、俺は薄く笑って見せると空になった二つのマグカップを手に取り、航矢の視線を感じながらキッチンへと戻った。そこで、作り置きしていたコーヒーをカップに移すと、またすぐに航矢の元へ戻る。

「幼馴染のお前が、結婚するんだ。今までの経緯がどうであれ、お前が俺に祝って欲しい、って言ってきたんだし。一瞬だったけど、お前の義兄(あに)にもなった俺だから、どうあったってお前の結婚と出世は祝福しなきゃ、いけないだろ。――だから、結婚式出るよ。」

 ガラステーブルの上にマグカップを置きながら、先程の言葉の続きを言う。
 すると航矢は、一瞬、本当に一瞬だったけど酷く嫌そうな表情をその顔に浮かべる。だが、それはすぐに霧散すると、俺に向かって昔みたいな笑顔を向けた。

「流石、物分り良いな。渉は。」

 くすり、と鼻を鳴らして笑うと、航矢はテーブルの上に置いたマグカップを手に取った。瞳を細め、その瞳の中に不遜な光を秘めたまま、航矢は俺に向かってマグカップを突き出してくる。

「お前に祝って貰えて、心底嬉しいよ。」
「…………。」

 獰猛な笑みを浮かべている航矢が差し出したマグカップに俺は、無言で自分のマグカップを軽く当てた。
 チンッ、と軽い金属音にも似た音が部屋に響き、俺達の間でこの話の終わりを告げる。
 それから後は結婚式とは関係のない話を暫くした。
 俺が疑問に思っていることや、航矢が俺に対して聞きたかった事などの軽い話。
 例えば、どうして航矢が今俺が住んでるマンションの住所を知っていたのか、とか。
 例えば、俺が普段どんな生活をしているのか、とか。
 航矢が俺のマンションの住所を知っていたのは、資産家の娘との話が進む中でボスから聞いたらしい。よくボスがあっさり教えてくれたものだと思っていると、どうやら俺と幼馴染だと言う事をボスに話して、それでなんとかして聞き出したらしい。
 それで先日ボスが航矢の存在を、俺に聞いてきたのかが解った。
 ただ、それでなんであんなにもボスが俺達の関係を邪推したのかは、解らなかったけど。
 その事を航矢にも聞いてみたが、航矢はまったく誤解されるような理由など思い当たらない、と珍しく真面目な顔で答えた。
 そして航矢は、俺がボスが来ない日はずっとこの部屋の中でボーッとして過ごしている事を聞くと、呆れたように溜息を吐いた。行動派である航矢としては、俺みたいに四六時中部屋の中でボーッとして過ごす、と言う事自体が有り得ないそうで。散々、その事について文句を言われた。
 そんなどうでもいい話をしながら、久々に穏やかな時間を過ごし、航矢は帰って行った。
 ただ、航矢が帰り間際に結婚式の招待状を俺に手渡ししながら、当日は大切な話があるから朝八時には式場に来てくれ、と言い残して言ってのがやけに引っかかる。
 今じゃダメなのか、と聞くと、当日じゃないと意味がない、と返された。
 航矢の言葉に釈然としないものは感じたが、俺は結局それ以上追求はせずその航矢の申し出を二つ返事で承諾した。


 まさか、あんな事を航矢が企んでいたとは露とも思わずに――。








 そして、過去と現在は交わり、流れ始める。




 ただ一人を除いて――――。





to be continued――…