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NOVEL

罪 悪 感  〜第十三話〜

注意)誘拐犯×主人公 誘惑 淫語 伏字

 そう、俺は決意したんだ。

 後悔と悲しさの狭間で。

 
自分に出来る、唯一つの事はこれだけだから。

 俺は相手を上目使いに見詰めながら、ゆっくりとその瞬間を見極める。
 初めて自分の意思で、獲物を狙う。
 そして。
 意識を切り替える。
 今までの気弱な自分から。
 娼婦とでも言うべき、自分へと。

 渉。散々教え込まれた事を思い出せ。
 男を誑かす為の、言葉を、仕草を、視線を――。
 相手を観察する冷静さと、洞察力を――。

 思い出して、実行に移す。

 ――ゆっくりと一呼吸を置いて。

 俺は、口を開いた。

「……ねぇ、さっきアンタ言ったよね。クライアントの命令って。クライアントって誰? アンタ達を雇ったのって誰? 崇さん? それとも美奈さん?」

 返っては来ないと解っていても、取り合えずそう聞いてみる。
 だが、男の表情に幾ばくかの感情が表れた。それは、自分が失言した事に気がつき、それを責める色。
 男はどうやら無意識の内に、クライアント、と言う単語を口にしたらしい。
 それはこれからの男を攻略するには、重大なヒントを俺に与えた事になる。

「その質問には答えられません。」
「そっか……、そうだよね。無理な事聞いて、ごめんなさい。」
「ご理解頂き、ありがとうございます。」
「車の中でも、アンタには釘さされてるからね。」

 硬質な声の答えを聞くと、俺は一旦納得した振りをして、小さく溜息を吐いた。
 そして男のうわべだけの感謝の言葉を聞きながら、ドアノブから手を離すと男に声を掛けつつ目の前に居る男の胸板に手を伸ばす。
 その俺の手に男の体がビクリと一瞬だけ緊張した。しかし、俺の手になんの武器も何もないのを見て取るとすぐに体の緊張を解いて、俺の手が触れるがままに任してくれた。
 それは俺自身が相手に対して暴力を振るう気持ちがない、と言うのと、たとえ暴力に訴えた所でなんなく俺の手を捻り上げる事が出来ると言う男の自信の表れで。
 そんな男をつぶさに観察しながら、俺はくすりと鼻を鳴らして笑うとまた口を開いた。

「じゃあさ、俺が連れて行かれる場所まで、これからどれ位時間がかかる? これにも答えられない?」
「……それを知ってどうするおつもりですか?」

 俺が笑いと共に零した第二の質問に、男は訝しげな声で問い返してくる。
 声同様、男のポーカーフェイスの中に小さな戸惑いが現れた。
 それは恐らく俺が先ほどまで泣いていた男とは思えないような笑みと態度を示したからだろう。
 今の男の感情はさっきまでの男よりも随分と楽に読める。
 戸惑いの中に俺に対する興味が混じり始めたのも見て取ると、俺は更に言葉を続けた。

「どうするって? だってもしそこに着くまで凄く時間がかかるのなら、その間、暇、だろ?」
「…………。」
「アンタ、凄く俺の好みなんだ。だから、せめてそこに着くまでの間だけでいいから、俺の“相手”をしてくれない?」

 男の胸板を柔らかく掌で撫でながら、俺はそっと体を男へと寄せてそう囁いた。
 そこまで密着しても男は俺を押しのける仕草さえしない。
 もし男を、いや、俺を抱くことに嫌悪を抱いたのならば、この時点で男は俺を突き放している筈だ。
 なのにそれをしようとはしない男に、俺は内心引っかかった、と思った。
 そしてかなり鍛えてある分厚い胸板が俺のその言葉に小さく反応を返した事に更に満足しながら、俺は体を男にすり寄せながら男を見上げる。

「それとも、男を抱くのは気持ち悪い? でも、俺だったらそこら辺の女よりも、きっとずっとアンタに好い思いさせてあげらるよ。こう見えても、俺、結構フェラチオとか上手いと思うから。体も、多分女なんかよりもずっとアンタは満足出来るんじゃないかな。……ただ、胸はないからパイズリとか出来ないけど。」

 くすくすと鼻を抜ける甘い笑い声を立てながら、俺は男の胸板を撫でていた手を下へとゆっくりと降ろした。
 そして男が無言なのをいい事に、そのまま男の股間まで手を降ろしジーンズ越しに男のイチモツを柔らかく撫でる。男のモノはジーンズ越しでもはっきりと解るほど、巨大だった。その事に、少しだけ俺は内心早まったかな、とも思う。
 だけどもう、後には引けなくて。
 俺に出来る事なんて、この体を使って男から情報を聞き出すこと位だから。上手くすれば、懐柔だって出来るかもしれない。
 それほどの魅力が果たして自分にあるかどうかは、とても謎だったけれども。
 それでも何もせずここでどこかに連れ去られるのをじっと待つなんて、今の俺には出来なかった。
 せめて崇さんに仕込まれたこの体を使って、少しでも出来る事をしなければ。と男を上目使いに見上げながらもう一度、強く決意を固める。

「アンタの、凄い大きいね。俺、こんな大きいの初めてだ……。」

 努めてうっとりとした口調になるようにそう話し、男の股間をジーンズ越しに撫で擦った。
 と、掌の中で微かな男のモノの変化が伝わる。
 その事に俺は口の端を吊り上げた。男から見て、なるべく艶然とした表情に見えるように。

「やっぱり男を抱く事に抵抗がある? だったら俺を抱く必要はないよ。だけど、せめて俺にアンタのを口で奉仕させて? なんか、俺、アンタのに触れてるだけで気持ちイイみたい。……ねぇ、それも、駄目、かな?」
「…………。」

 俺の言葉に男は酷く戸惑ったような表情をその顔に初めて浮かべた。
 今までずっとポーカーフェイスを通してきた男のその戸惑いに、俺は内心ほくそ笑みながら男に更に体を寄せる。
 すりすりと甘えるように男の胸板に顔をすり付け、男の股間を撫でている手を動かしジーンズのジッパーに指をかけた。
 そして、ゆっくりとそのジッパーを降ろしていく。

「もし、嫌ならはっきりと断って? 今なら、俺、アンタの事諦めるからさ。」
「……仁科、様。」

 話をしながらジッパーを完全に降ろすと、止め具のボタンも外しジーンズの中に俺は手を忍び込ませていく。
 男が俺を拒否するとは到底思えず、俺はかなり大胆な所作でジーンズの中に手を入れると、すぐに男のモノの感触が掌に当たった。
 下着越しにそれを柔らかく握ると、漸く男は酷く困ったような口調で俺の名を呟く。
 そんな男に俺は、顔を向けるとにこりと笑って見せる。

「これ、少し硬くなってる。俺のこと、嫌って訳じゃないんだ……嬉しいな。」
「っ……! 仁、科……。」
「あぁ、凄い。本当に、とってもおっきい……。」

 男のを掌で撫で、その先端を指先で弄ぶと徐々に男の男根は硬さを増していく。その事にうっとりと微笑み、俺は手の動きに更に熱を込めた。
 男は俺の手の動きに確実に戸惑いと、そして欲情を膨らませていっているみたいだった。
 ノーマルとは言っても、意外と男に触られて勃つ奴も多い。そして、勃ってしまえばかなりの確立で男にも突っ込める。
 大体が最初の時点で俺を突き放さなかった、と言う事がこの男が俺に対してそう言う意味の興味を抱き始めている証拠で。
 俺に興味があるのなら、勃たせればこちらのものだ。
 後は手と口と、仕草で男を骨抜きにしてしまえばいい。手淫も口淫も俺はノーマルの相手だって充分に高ぶらせる事が出来るくらいのテクニックは持っている。
 それは崇さんの所で散々仕込まれた事だった。
 ……何度崇さんの元で、ノーマルの男を誘惑させこの体に溺れさせた事か……。そんな事を懐かしく思いながら、手の中で熱く脈打つ男のモノを弄りながら、その太く逞しい太股に腰をすりつける。
 自分が男に欲情し始めているのを、知らせる為に。

「んっ……、もう、手だけじゃ我慢できない……っ。」

 男に聞こえる位の小さな声で、聞かせるつもりで俺はそう欲情を乗せた声で呟く。
 そして頬を擦り付けていた胸板から、顔をゆっくりと下へと降ろしていった。
 男は無言だった。
 それは俺の奉仕を受け入れた、と言う事。
 その事に俺は、男の股間を目の前にして微笑んだ。
 目の前には男のくつろいだジーンズの割れ目から男の巨大な男根がくっきりと下着にその形を浮かべている。しかも、先端の部分はもうすでに下着には収まらず、下着の中からその雄雄しい亀頭と括れを俺の目の前に晒していた。

「はぁ……っ、凄い……、もうこんなに、下着からはみ出してる……。」

 そんな蕩けそうな声を出しながら、俺は航矢以外の男を久々に目の当たりにして今更ながらに多少の気持ち悪さが湧き上がってきていた。
 だけどここでそれを面に出してしまえば、全て台無しだ。だから、俺は瞳を細めて恍惚とした表情を作ると、両手を使って男の隆起している男根に触れる。
 男のモノは俺の手の中でピクリと跳ねた。そして、焼けるような熱さが両手に伝わってくる。
 その熱さに内心更に嫌悪を感じながら、俺はゆっくりと男のモノをジーンズと下着から解放していく。完全に腰の辺りまで両方を下ろすと、男の男根が勢い良く飛び出してきた。
 飛び出してきたそれを改めて両手でやんわりと掴むと、俺は顔をそっと寄せる。途端に、男の匂いがむわっと俺の鼻に突き刺さった。
 汗が下着の中で蒸れた、多少すっぱい匂い。
 その匂いに俺は一瞬吐き気を催す。
 しかしそれを無理矢理飲み込むと、男の先端に唇を寄せた。そのままやんわりと唇で先端を口に含むと、男のモノがピクリと手の中で跳ねる。活きのいいそれをゆっくりと掌で扱きながら、先端の溝に舌を押し当てた。じわりと湧いてくる男の先走りを舐め、ちゅっと音を立てて先端を強く吸いながらその溝に舌を捻じ込んでいく。
 と、男が慌てたように腰を後ろに引いた。

「んんっ……、強かった……? ごめんなさい、もっと優しくするよ。」

 腰の引けた男にそう心にもない謝罪をすると、俺はまた男の男根に舌を這わせる。
 男のモノは余りにも大きくて先端より先を口で含むには流石にきつそうだったので、俺は唇と舌でぴちゃぴちゃと卑猥な音をわざと立てながら、その全身を愛撫していく。男の咽るような強い匂いに、眩暈のようなものを感じながら俺は熱を込めて奉仕し続けた。
 いつしか男は俺の頭をその大きい手で押さえ、腰を揺すりながら俺の愛撫を完全に享受していた。
 俺はそれに気を良くし、更に大胆に男のイチモツに舌を這わせ、そして自由な両手を使って竿の下にある袋や、男の後ろの窄みをも刺激していく。
 そうすることで男はどんどん欲情に飲まれて行ったみたいだ。

「っ……お前、凄いな……、どこで、こんな事を覚えた?」

 男が荒い息を吐きながら俺の頭を揺すり腰を押し付けながら、突然そんな事を聞いてくる。
 その言葉に俺はチラリと上目使いに男を見た後、男の竿に舌を絡めていたのを名残惜しげに外した。

「はっ……、そんな、野暮な事、知りたいの……?」

 つまらないことを聞いてくる男に、俺はくすりと笑ってやる。
 と、男は暗闇の中、その顔に血を上らせたみたいだった。無言で俺の頭に置いていた手を外すと、跪いて男に奉仕している俺の肩を強く押す。その余りに強い押しに、俺はバランスを崩してそのまま床の上に倒れた。
 そして男は、俺に圧し掛かってくる。

「――いや、いい。どうでもいい事だしな。」

 そう低い声で呟くように言うと、男は俺のシャツの中に手を入れてきた。
 かかった……!
 俺は瞬間的にそう勝利を確信して、男に向かって妖艶に見えるように微笑む。そして、床に投げ出していた両手を持ち上げると、男の野太い首に絡めた。

「優しく抱いて、なんて言わない。アンタの好きにしていいよ……。」

 男に向かって微笑みながら俺は、首に回した腕に力を込めて上半身を少しだけ持ち上げると、男の耳元へと囁く。
 甘く、欲情に濡れた声で。
 途端男の手が俺のジーンズにかかった。そのまま太い指が器用に俺のジーンズの金具を外して、一気に下着とジーンズを俺の足から抜き取る。
 下半身に感じる肌寒さに少しだけ鳥肌をたてながら、俺は男のむき出しになっている太股に自分の足を擦り付けて相手を煽っていく。
 そして、男は俺の誘いにまんまと乗ってきた。

「……元より、もう優しくなど出来ん。」

 俺を見下ろしながら男は、その素顔を俺に晒して酷く凶暴な顔で笑う。もうそこには最初に会った頃の様な慇懃無礼さも、落ち着きも何一つ見出せなかった。
 目の前に居る男はすっかり仕事の顔を剥ぎ取り、飢えた獣のような荒々しさを面に表している。
 そんな男に俺はくすりと笑い返すと、自分から足を広げて男のモノを掴んでソコへ案内した。

「アンタで一杯にして。この中を。ねぇ、俺、もう我慢出来ない……。」

 俺がそう言うや否や、男は俺の後ろの窄まりに一気にその巨根を突き刺す。潤いのないソコに標準よりもかなり太いソレが無理矢理押し入ってくる引き裂かれるような感触に、俺は男の首にしがみついて耐えた。
 ギチギチと後ろが軋み、裂けそうになるのを俺は必死になって体とその部分の力を抜いて受け止める。
 そして、男のモノが全て俺の中に納まった頃、俺は自分から腰を動かしていた。

「あっ……、あぁ……、凄い……、アンタ、凄いよ……あふ…っ、イイ、感じる……っ。」

 熱に浮かされているような声で男の耳にそう囁く。
 そんな俺に男は微かに笑ったようだった。そして、俺の腰を動かす速度よりも速く、そして強く男は俺の中に杭を打ち込んできた。

「アンタもな……。なんて、ケツだ……、すげぇ、吸い込まれる……っ。」

 ぐちぐちと結合部から粘ついた音を立てながら、男は俺の中を引き裂いていく。太い剛直で内壁を擦りつけ、そして引きずり出す。
 それが、俺の中にある欲望を掻きたてて行った。
 そう、俺は酷く感じていたのだ。
 俺は航矢じゃなきゃもう嫌だと思っていた行為を、今、航矢以外の男としている。そして、男を口にした時から、気持ち悪さと平行して、体は欲情を感じていた。男の匂いに、固さに、熱さに、俺自身は熱く滾り、そして、後ろも男を受け入れたくてウズウズしていた。
 それは、確実に崇さんの施した調教のお陰で。
 心とは裏腹に俺の体は、どんな男でも受け入れ快感を得る。浅ましくも、醜い、そして、とても欲望に忠実な体に作り変えられていた。
 その事に少しだけ悔しさと切なさの混じった感情が湧き出してきたが、それ以上に俺は崇さんに感謝していた。
 こんな男に好き勝手されても簡単に心が壊れないような人間に作り変えていてくれた事に。
 だから、なんの感情も持たない相手に俺は安心して体を開き、淫らに腰を振ることさえ出来る。

「あっ、あんんっ……っ。凄い……、凄いよぉ、こんなの、初めてだ……っ、凄い、お腹の中、一杯になってる……。」
「っ……く、男のケツがこんなにイイもんだとは、思わなかったぜ。もう、イきそうだ。」
「ふぁ……っ、いい、よ、来て……っ。俺の尻の中にアンタの精液、ぶちまけて。ん、ぁ……、俺も、もう……っ。」
「イきそうなのか?」
「う、うん……、アンタのおっきいのに掘られて、凄い気持ちイイ、からっ……あっ、やあぁぁっ!」

 男の首にしがみつき男の動きに合わせて腰を振りたくりながら俺は、男が優越感と征服感を感じるであろう言葉を選んで口にする。
 すると、男は俺の背中に手を回して強く俺を抱きしめながら更に激しく俺の中を掻き回し始めた。
 俺と男の結合部から、ぐちゅぐちゅといやらしい音が部屋の中に響き、俺はぶるりと体を震わせる。
 男のモノが俺の中でまた一回り大きくなったような気がした。それが俺の中を擦り上げ、俺は下半身に溜まっていく快感を吐き出したくてどうしようもなくなっていく。
 と、男の手が突然俺のいきり立っている息子を、掴んだ。そして、それを緩く扱き始める。
 途端にゾクゾクとした強い快楽が、股間から背中を一気に駆け上がっていった。

「ん、んんっ……、やだっ、駄目……アンタの手、汚しちゃう……っ。あっ、あぁ……っ、くぅ……止め……あぁ、んっ。」
「構わん、いいから出せ。」
「やっ、駄目、やだぁ、そんなにされたら、俺、俺っ……はぁ、ぅ、んんんっ――っ!!」

 男の手の動きに俺は加速度的に襲ってくる射精感に、必死になって抵抗しながら男に嫌々をする。だが、男は肉厚の唇を笑いの形に歪ませながら、俺の牡をぎこちないながらもその手で擦った。
 余り上手ではないそのやり方に、だけど俺は後ろを突かれて限界まで膨れ上がった自分の欲望を我慢するなんて出来なかった。男の低い声で囁かれ、耳朶を噛まれると抵抗どころではなくなる。男に握られている股間と、貫かれている後ろの穴から自分ではコントロールできない快感が俺の頭の中を支配した。
 男の手の中に勢い良く自分の欲望を吐き出し、後ろは男の精を求めて太い男の男根をキツク締め付ける。そしてビクビクと自分の意思とは関係なく体が痙攣を起こし、腰が更に男のモノを感じるように淫らにくねった。

「く……っ、俺も、出すぞ……。」
「あっ、き、て……出して、俺の中にアンタの熱い精液、出して……っ!」

 俺の締め付けにか、腰の動きにか、男も白旗を上げた。
 その言葉に俺は待ってましたとばかりに、男の腰に自分の足を絡めると男を更に深い所にまで飲み込もうとする。
 後ろの穴が小刻みに収縮を起こし、男から早く精液を搾り取ろうと蠢くと男は呆気なく俺の中に、溜め込んでいた精を吐き出した。

「はぁ……ぅ……、アンタのが、俺の中に溜まっていってる……んっ、凄いっ……アンタの精液、滅茶苦茶、気持ち、イイっ……っ。」
「…………アンタ、男の癖にすげぇ淫乱な奴だな。」

 俺が男が吐き出す精液の熱さに恍惚となって呟いている言葉を聞き、男は俺の顔を見下ろしながら今だ欲情の色が濃い声でそう言う。
 そんな男に俺は、瞳を薄っすらと開くと笑いかけた。

「淫乱な男は、嫌い?」

 男のいかつい顔に手を伸ばしその頬を指先で辿りながら、俺は誘うようなからかうような声で男に逆に問い掛けた。
 それに男はニヤリとやたらと凶暴な顔で、俺に笑う。

「アンタは別だな。アンタは淫乱なのが、似合ってるよ。仁科サン。」
「アンタにそう言って貰えると、嬉しいな……。でも、俺のことは、渉って呼んでくれる? そうしたらもっと嬉しい。そんな他人行儀な呼び方じゃ、悲しいよ。ね、名前で呼んで?」
「……それは出来ないな。アンタは俺にとっちゃ大事なクライアントに渡す品物だ。それをそんな親しげに呼んじゃ、クライアントにそっぽ向かれちまう。」

 男の言葉に俺は艶然と微笑むと、男の顔に顔を寄せて甘い声で囁いた。
 だが、俺の提案に男はすぐには乗ってこない。流石に、ビジネスが絡んでいる事に対しては理性が働くようで。
 内心まだまだこの男を篭絡するには時間がかかりそうだ、と思う。
 そんな事を思いながら俺は、男の頬にキスをしていく。

「じゃあさ、二人っきりの時だけで良いよ。二人っきりで居る時だけ、俺の恋人になって。……もし、それも駄目ってんなら、仁科サン、で我慢する。……ね、それでもやっぱり駄目?」
「アンタは……、男を扱うのが上手いみたいだな。咥えるのと同様に。」
「やだな、酷い事言わないでよ。俺、確かに淫乱だけど、こんな風に男を誘ったのはアンタが初めてなんだよ? それにセックスした相手に、下の名で呼んで、なんて我侭言ったのもアンタが初めてだ。」
「へぇ……、信じられないな。これだけ男に慣れてる体してる癖に。」
「……あのさ、俺、確かに男には慣れてるけど、でも、本当は男とスルのあんま好きじゃなかったんだよ。だって、いつも無理矢理犯されてばかりだったから……。いつも男とエッチしたら心が痛くて苦しくて……。だけど何故だろう……? アンタとは、初めて会った時からシたいって思ってた。これって、一目惚れって言うのかな……。可笑しいよね。こんなの……。」

 我ながらよくもここまで嘘が並べられるものだと、自分自身で自分の話す内容に妙な関心をしながら俺は男の顔を両手で柔らかく挟み男の目をじっと見詰めて、そう語った。嘘が嘘だとばれないように、瞳さえ潤ませながら。傷ついた顔さえして。
 すると、男は困ったような顔をして頭をガシガシと掻いた。

「参ったな……。アンタ、そんなだから男がほっとかないんだろうな。」
「? どう言う事……?」
「アンタ、可愛いよ。いや、そそられる、ってーのが近いかな。男に対して使う言葉じゃねぇけど、アンタ、その辺の女よりもよっぽどそそられるし、可愛い奴だと思うぜ。顔も仕草も。」
「……俺が、可愛い?」
「あぁ、可愛い。そんな目で見詰められて好きです、なんて言われたらノーマルな男でもアンタの事好きになっちまう。」
「ノーマルの男でも……? じゃあ、アンタは? アンタは俺の事、好きになってくれる? 俺を愛してくれる?」
「本当に、アンタは男を扱うのが上手いな。……渉。」

 男が俺の下の名前を俺の耳に吹き込んだのを聞き、俺は内心でガッツポーズをした。
 これで少しは航矢の元に帰れる希望が、可能性が出てきた。まだ、ほんの少しだけども。
 俺は男の首に嬉しそうに抱きつきながら、これからどうやってこの男からクライアントの名前を聞き出し、更にここから俺を逃げ出すように仕向けようかと考える。
 でも、取り合えず最初にしなければいけない事は。

「……ねぇ、俺アンタの名前まだ知らないよ。良かったら、教えてくれない? 俺もアンタの名前、呼びたい。」

 男に向けて艶然と微笑みながら、俺は男の名前を聞き出した。





to be continued――…