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NOVEL

罪 悪 感  〜第三話〜

注意) 【現在】幼馴染×主人公 侮蔑 玩具 一人H

コイツは何がしたいのだろう……?

コイツは何故こんな事をしてるのだろう……?

今の、この状況は………?

 瞳を閉じ、荒く肩で息を吐く。
 足の内股は、先程吐き出した精でべっとりと白く汚れていた。しかも未だ内壁から送られる緩慢な刺激によって、先端からは残っていた精液が漏れ零れ落ち、汚れを床にまで広げる。

「ぅ……んっん……ハァ……ぁっ…。」

 アイツ自身は俺が絶頂を迎えたと同時に、口から引き抜かれていた。
 自由になった口で思うがまま空気を肺に吸い込み、射精の余韻を味わう。顔に撒き散らかされていたアイツの精もその開放感のお陰でまったく気にならなかった。
 ただ、時折息を吸い込む瞬間にトロリと垂れてきたアイツの白濁液が口に入り、口中に青臭い匂いが充満する。
 それさえも今の俺には、甘露で……。
 無意識の内に唇に垂れてくるアイツの精液を、舌先で舐め取りその感触と青臭さを味わう。
 甘い、溜息が漏れた。

「チッ! 本当、骨の髄までお前、男好きになっちまったんだなっ。」

 そんな俺に頭上から毒を含んだ声が降って来た。
 その声で漸く俺の中に理性が戻って来て、慌てたようにニ、三度瞳を瞬かす。
 そして、改めてアイツの顔を見上げる。
 アイツは憎憎しげに顔を歪め、侮蔑を含んだ瞳で俺を見下ろしていた。
 ズキンッと、何処か深い所で鈍い痛みが走る。

「……っ、悪かった、な……。 俺だって……。」

 そこまで言いかけて俺は口を閉ざす。
 俺だって、好きでこうなった訳じゃない……、そう言い掛けそうになり、その言葉を飲み込んだ。
 意味のない事だ。今更、そんな事をコイツに告げた所で。

「俺だって、なんだよ? 女と出来る、とか言いたいのか?」

 だが、アイツは俺の言葉を追求してくる。
 その見当はずれな追求に俺は、唇の端だけで笑う。

「まさか。 女は嫌いだ。」

 そして、吐き捨てるように答えた。

 そう、女は嫌いだ――。
 だけど、男はもっと――。

 胸の内でそっと続きを呟きながら、俺はトイレットペーパーを引き出した。
 まだ剥き出しのままになっているアイツのモノを優しくトイレットペーパーで包み込み、俺の唾液とアイツの吐き出した精を丹念に拭っていく。

「ふんっ、後始末まで言われなくても率先してするとはな……。 それもボスの調教の賜物かよ?」

 嘲りを含んだ言葉に、俺はチラリと一瞬だけ視線をアイツの顔に走らせたがすぐに手元に戻す。

「……そうかもな。 それよりも、お前そろそろ式の準備に行く時間じゃないのか?」

 感情を極力排除した声でアイツの言葉に答え、アイツを拭い終ったトイレットペーパーを丸めると、便座の蓋を上げ、その中に投げ込む。
 そして、壁に手を付いて立ち上がろうとした。
 が、まだ後ろにオモチャが刺さったままな上、未だ強い刺激を内壁に与え続けている為に、膝から力が抜け、思うように体を起こす事は出来なかった。

「……っ、おいっ、コレ、いい加減止めろっ……っ。」

 体を動かした事によってオモチャが緩く角度を変えたのか、今までとは違う場所に先端が当たり痛みと緩い快感が背筋を這い上がってきた。
 しかし俺の訴えも空しく、アイツは軽く眉を上げただけで、リモコンを操作する素振りさえ見せない。
 仕方ない、そう思い俺はソレ自体を抜こうと後ろに手を回した。
 しかし。

「勝手に抜こうとしてんじゃねーよ。」

 そんなアイツの無常な声と共に、俺の腕はアイツに捻り上げられ空を掻いた。
 どうして止められるのか理解できず、俺は眉根を寄せて今一度アイツの顔をまじまじと見詰める。
 アイツはニヤニヤと意地の悪い笑みをその顔に浮かべ、手の中にあるリモコンを俺に見せ付けるように、ちらつかせた。

「式が終るまで、そのままで居ろ。」

 そして下される、命令。
 アイツの真意が掴めず、俺は視線をうろつかせた。
 もう充分だろ――?何故、そこまで俺を貶めようとする?
 そんな疑問が脳裏を掠め、口を突いて出ようとするのを俺は留めた。
 続いて出た、アイツの言葉によって。

「――こう言った仕打ちが、好みなんだろ?」

 顔を近づけ、囁くように言う。
 アイツの顔はサディスティックに歪み、瞳の奥にチラチラと優越感のような炎が瞬いていた。
 それを見た俺は、もう何も言えなかった。
 コイツは結局、今まで俺を良い様に弄んでいた奴等と同じなんだろう。ゲイとかノーマルとか関係なく、そう言う人種。
 だから、俺を咎めたり辱めたりするのに大した意味はない。強いて言うなら、人を征服する欲求や優越感を満たしたいだけでする行為。
 俺をこうする事になんらかの意味がある訳じゃない。
 それに気が付くと、途端に気分が楽になった。
 あの事がコイツに知られていて、それで、コイツがこんな事をしてるんだと、漠然と思っていたから。
 だから、俺は感情を切り替える。


「っ、何、笑ってんだよ。」
「……いや、俺の事良く知ってるな……って思ってさ。 俺がどんなセックスが好きか、ボスに聞いたのか?」

 どうやら俺は薄く笑っていたらしい。
 コイツがあいつ等と同じなら、俺自身で居る必要はない。あいつ等が求めるあいつ等にとって都合の良い、『俺』に変わる。
 俺は笑みを深くすると、目の前で戸惑っている幼馴染に問い返した。
 だけど、返って来たのは酷く激しい感情だった。

「俺から聞く訳がねぇだろうが!! アイツが……ボスが、俺とお前が幼馴染だって知って、聞いてもいねぇのに色々と教えてくれたんだよ! お前がボスにどう扱われてるか、どんなセックスしてんのか、どんな奴とどんなプレイしてるとか、全部な!!」

 吐き出すように憎悪をぶちまける。
 それが俺に向けられたものか、ボスに向けられたものかは、解からなかったが。……多分きっと、両方なのだろう。
 その余りの激昂ぶりに、一瞬俺はまじまじとあいつを下から見上げる。
 ──と。
 ふいに、あいつの視線が俺から外された。
 そして、足元にわだかっている自身のスラックスと下着とを無言で引き上げ、ジッパーをあげる。
 ジッパーを閉じ終えた所で、奴は漸く口を開いた。

「……兎に角、お前は今、俺の手中にあるんだ。お前は、俺の命令を聞きゃいいんだよ。黙ってな。──取り敢えず、」

 そこで一旦言葉を止める。
 そして、また俺に視線を戻した。その頃にはあいつの表情にも、瞳の中にも、少し前と変わらずサディスティックな炎が燃えていた。

「さっきも言ったが、そのオモチャ、式が終わるまで外すな。それ挿()れたまま、俺が幸せになる瞬間から目を反らすな。……いいな。」

 最後の言葉俺の顎に手をかけ、持ち上げると、顔を近づけて獰猛な笑みと共に零された。
 その笑みにゾクリとしたものが、背筋を走る。
 これは、快楽なのか、恐怖なのか──。
 だが、その答えを得る前に、あいつはスラックスのポケットの中にオモチャのリモコンを押し込むと、個室の鍵を開けた。
 それに、慌てる。

「っ…! ま、待てよっ! せめて、もう少しだけ振動、弱めてくれ……っ。 これじゃぁ、まともに式にも集中できねぇ……。 それに、音も……。」

 羞恥に頬が染まった。
 体内で暴れているソレは、激しく回転し、振動を与え、そして、振動音を体外へもくぐもってはいるが、漏らしていた。
 そして、更に悪い事に。
 身体が悦んでいる、水音までも。
 身体を揺さぶる快感は、どうにか耐えれるかもしれない。
 だが、その音だけは……。
 慌てた拍子にあいつのスラックスの足を掴んだ。
 まるで縋り付くかのように。

「……チッ……。」

 頭上で舌打ちの音が大きく響いた。

「なんだよ。 別に今更だろ? お前と同席の奴は組織の連中だ。 お前がどう、弄られてようがオモチャにされてようが気にしねぇんじゃね? それに──、上手くすればその音に気がついた奴に、犯って貰えるだろ?」

 ニヤリと、心底蔑んだ笑みを浮かべて、あいつは俺に言い放った。
 そして、俺の手を振り解くと今度は、振り返りもせずに歩いてく。その足音がどんどん遠ざかり、とうとうトイレの外へと出たのを確認すると、俺は、熱い吐息を溜息と共に漏らした。
 下半身が燃えるように熱かった。
 一度放った精は、だが、後から断続的に、強制的に送られる感覚にまたみなぎり始めている。
 俺は、そっと個室のドアを閉め、鍵をかけた。
 そうして、便蓋を閉じた便器の上に上体を預けると、先程の行為では満たされなかった部分を自分で刺激する。
 後に刺さっているオモチャの出ている部分を握ると、ゆっくりと出し入れさせる。
 口からは喘ぎの混じった、空気が漏れた。
 そして。

 言葉には出来ない、名前を呼んだ。


 ──それから俺は、自身が満足するまで、そして、そうそうソレで反応をしなくなるまでその無機質なオモチャで後ろを慰め、あいつの命令通りそれを飲み込んだまま、あいつの幸せの門出へと出席した。
 それは、どん底だと思っていた自分がまだまだ堕ちる事が出来ると、知った、瞬間だった。

◇◆◇◆◇

 そう、蜜月は唐突に終わったのだ。



 ある日、家に帰るとそこはもぬけの空だった。
 あの人の持ち物はそのままに、──いや、最小限の衣類や金銭等はなくなってはいたが──、いつまで待ってもあの人は帰ってこなかった。
 用意した食事がどんどん冷めていき、夜が更け、朝が訪れても何の連絡もなくあの人──一也さんは帰ってこなかった。
 それが一日経ち、二日経ち、一週間を超えた時に、漸く俺は自分が捨てられたのだと、気がついた。
 不思議と悲しみは沸かなかった。
 ただ、心の中が空虚になっていくのを、頭の片隅が少しだけ感知しただけだった。
 そうしてその空虚を抱えたまま、俺は無断欠勤していたバイト先に退職の電話をかけた。
 が、自分が辞める、と言う前に向こうからクビを言い渡された。そして、怒涛のような文句が始まった。
 だが、俺は自分がクビになった事実だけを聞くとその文句の半分も言い終えてないうちに電話を無言で切った。
 なにもかも麻痺して、感情さえも凍ってしまったみたいだった。
 それは体の感覚さえも奪ったのか、何も食べなくとも空腹は感じず、まるで人形になったかのように壁にもたれたまま数日をその姿勢で過ごした。
 いっその事、このまま本当の人形になってしまいたい──そんな事をぼんやりと考えた。
 しかしまだ人間である証拠であるかのように、時折睡魔が襲い、うつらうつらと浅く眠る。
 そして目が覚めると、未だ人形になれてない自分を恨んだ。
 そうして自分を恨みつつ、そして胸のうちは空洞のまま、ただ対面にある壁を見続けた。
 人形になれる日を夢見ながら。





 そんな生活を脱する事が出来たのは、自分がクビになってから五日もした頃に元バイト先の同僚がアパートを訪ねてきたからだ。
 そう仲が良かったわけでもなく、寧ろ、ほとんど話もした事もないそいつが何故、自分の所へ来たのか、なんて分らなかった。
 だが、奴は抜け殻になっている俺を発見して、慌てたように救急車を呼んだ。
 そのお陰で衰弱しきっていた身体は、点滴と、適切な処置により徐々に回復する事が出来た。
 後から聞いた話だが、その時俺は餓死寸前だったそうだ。
 最初は尋ねてきた元同僚を恨んだ。
 あのまま放っておいてくれれば、俺は人形になれたのに、と。
 その事も、そいつに八つ当たりでぶちまけた。怒鳴り散らし、手近に有ったモノを投げつけた。
 だが、そいつは俺の癇癪にちょっとだけ困った顔で笑うと、それでも俺に生きていて欲しかった、と小さく呟いた。
 そして、今度は打って変ったようにニッコリと嬉しそうに笑うと、仁科が元気になってくれて本当に嬉しい、と付け加えた。
 俺には訳が分らなかった。
 ほとんど話もした事がない、こいつがどうしてこんな事を自分に言うのか。
 どうして、クビになった後に俺の住所を店長に聞いてまで、会いに来たのか。
 そして、何故、そんなにも嬉しそうに笑うのか──。
 なにもかも、解らなくなっていた。



 その後。
 ある程度体も回復し、退院した後。
 そいつは俺に、友達になろう、と言って来た。
 ずっと、自分と仁科は気が合う、そう思っていたと。
 俺はそんな事を言われたのは、初めてで。
 じっと俺を見つめて、返答を待つあいつとその言葉に俺はただ狼狽するだけで。
 すると、数秒の間の後、アイツはまたちょっとだけ困ったように笑うと、頭を掻きながら返事はいつでも良いよ、と言って、アパートを後にした。
 ポツンとすっかり生活の匂いの消えたその場所で、俺は暫く動く事が出来なかった。
 ただ、ずっと元同僚の言葉が思考を埋め、どう返答をするべきか、考えていた。




 しかし、結局俺がそいつの言葉に返答する事はなかった。
 その日から、ぷっつりとそいつも俺の元に現れる事はなかったから──。
 からかわれたのだと、割合すぐに理解し、俺は自分自身を哂った。
 そんな都合のいい話がある訳ない、と。
 自分のような根暗な人間に、友達になろう、なんて言う奇特な人間なんていないのだから。
 それに気がつき、漸く俺は一也さんの事に対しても決別する踏ん切りがついた。
 そうだよ。自分なんかを一也さんが愛してくれてた、なんて幻想なんだ。
 あの温もりも、囁きも、微笑みも、全てはまやかしだだった。勘違いした自分がバカ。
 そういう事さ。
 そう、胸の内で呟き、嘲笑って、翌日には家の中にある、一也さんの持ち物は全部捨てた。
 そしてまた一人暮らし始めた頃の自分の生活を取り戻すことが出来た。
 漸く自由になった──、その時はそう切実に実感した。



 だが。
 それから数日後。
 父親と同様に、幼馴染が唐突に尋ねてきた事で、俺の人生は一変した。


 更に、悪い方へと───……。



to be continued――…