NOVEL

注意）　【現在】義父×主人公　無理矢理Ｈ

ココロが崩壊していく。

感情が凍結する。

答えの無い疑問ばかりが自身を埋め尽くしていた。

　──ふと、目を覚ますと、俺は柔らかなベッドの上に横たわっていた。
　見慣れない天井に、首を傾げ、更に今の自分の状態を確かめようと意識をあちらこちらに伸ばす。
　そして、気がついた。
　今まで下半身を支配していた、無機質なオモチャの唸りがなくなっている事に。
　そして、今まで着ていたスーツは脱がされ、白い清潔なガウンを羽織らされていることにも。
　一瞬、血の気が引く。

　一体誰が？
　どうしてこんな事に？

　そんな疑問が一気に噴出して、俺はパニックを起こしかけた。
　と。

「あぁ、良かった。　気がついたんだね。」

　そう、声をかけられた。
　しかしその声に、俺は更に血の気が全身から引くのを感じた。
　声の方向へ、恐々視線を向ける。
　すると、予想通りそこには。

　……一也さんが居た。

　それを認めた瞬間、俺は飛び起き、一也さんから逃げようとベッドの下へと足を降ろした。──が、じゅうたんに足のつま先が着く前に、後ろから一也さんに抱きしめられ、そのままベッドの上へと押し倒される。

「──っ！　は、離してっ……っ！！」

　言いようの無い恐怖が全身を包み、俺は無我夢中で暴れる。
　その手を足を、一也さんはその全身で押さえ込み、とうとう俺をベッドの上に縫い付けた。

「ダメ、だよ。　君はとても衰弱してるんだ。　だから、しっかり身体を休めないと。　──それは、そうと。」

　ニコリと柔らかい笑みを俺に向け、諭すように一也さんは言った。
　だが、次の瞬間。
　その顔から笑顔は消え落ち、鋭い視線が俺を貫く。

「君の身体に、こんなものが突っ込まれてたけど……、誰がこんな酷い事を？」

　片手を伸ばすと、サイドボードの上にあったソレを俺の目の前に持ってきた。
　ソレは電池を抜かれたのか、俺を苦しめていた動きは止まり、今ではただの凸凹のある棒になっていた。
　その凹凸の部分に、俺が零した体液が乾いてこびりついているのを認めた瞬間、先程までの記憶がまざまざとよみがえり、俺は思わずソレから顔ごと目を逸らす。
　だが。

「まさか、自分でこんなモノを挿(い)れて、航矢の式に出た訳じゃないよね？　そこまで君が堕ちたとは、思いたくない。　……どうなんだ？」

　かなり強い力で顔を元に戻され、ソレを唇に押し当てられた。オモチャ自体の匂いと、自分の体液の匂いが鼻をつき俺は、ソレから逃げようと必死に首を動かす。しかし、顔はしっかりと固定されソレからは逃げる事が出来なかった。
　無言の俺を、どういった答えと取ったのか、一也さんは困ったように溜息を吐いた。

「そりゃぁね、あれから何年も経ってるから、渉に好い人が出来てても可笑しくはないと思うよ。　でも、こんな事を強要するような男ってのは、ちょっと頂けないな。」

　ソレで俺の顔を撫でるように動かしながら、一也さんは薄ら笑いを浮かべていた。
　その表情に、俺の背筋にゾクリとした恐怖が沸きあがる。
　それは、その表情は、初めて俺を犯した時の顔に酷似していたから……。

「──本当はね。　アイツに言われて、君の家を出て、それでこの数年の間に君の事はすっかり諦めがついているつもり、だったんだけど……。」

　一通りオモチャで俺の顔を嬲ると、一也さんはソレをベッドの下へ放り投げた。そして、今度は自身の指先でオモチャが通過した場所を丹念に、なぞり始める。
　俺は、その指の感触になんとも言えない気持ち悪さを感じ、目を強く瞑った。だが、それは返って触れられる事の気持ち悪さを際立たせただけだった。
　それでも目の前にある一也さんの顔を見る事が怖くて、俺は目をあけられなかった。
　一也さんに触れられる不快感に、胃が、キュウッと縮こまる。同時に、吐き気がこみ上げてきる。
　それを必死で我慢している間にも、一也さんはとうとうと言葉を繋いでいた。

「でも、こうしてまた君が腕の中に居ると、やっぱりダメ、だねぇ。　君を離したくなくなってしまう。　他の人間になんか渡したくなくなってしまう。　今、君を自由にしている男から、奪ってしまいたくなる──。」

　暗闇の中で、一也さんが自分に覆い被さってきたのが、解った。

「っ！　やっ、一也さん、止め──っ！！」

　ゾロリと首筋を舐め上げられ、羽織らされているガウンの胸元を大きく開けられる。
　胸の中に恐怖と嫌悪感が湧き上がり、必死に一也さんの身体を押し戻そうともがいた。
　だが、先程から容赦の無い責めに従事していた俺の身体は、俺の望み通りには動いてはくれず、ただ力なく彼の肩を押しただけだった。
　そして、絶望が俺を黒く染めた。

　──身体が、反応を示し始めていたのだ。

　首筋を舐められ、耳たぶを甘く噛まれ、胸板を手のひらで嬲られる。
　ココロは嫌がっているのに、身体は俺の気持ちなど関係ない、と言わんばかりに反応を返していく。

「ふぅん、さっきまでのオモチャのせいかな？　敏感になってるね。」

　少しつまらなそうな声が一也さんから漏れる。
　そして、鎖骨を舐め上げていた舌が、胸の突起を強く舐めあげた。そのままそこは一也さんの唇に吸い込まれ、その中でいいように捏ね繰り回される。

「──っひぁ、んっ！」

　思わず口から、快感を伴った声が漏れた。
　しまった──、と思った時にはもう遅く、更に一也さんの行動に熱をこもらせてしまう。
　舌と唇で胸の突起はこねくり回され、甘く噛まれる。
　そして、自分を押さえつけていた腕は外れ、太ももと腰を柔らかく撫で上げられた。
　重い快感が、触れられた部分から湧き上がり、嫌悪感と共に俺の脳髄を犯していく。

「い、嫌、だっ……！　お願い、止めて、一也さんっ！　こんなの、嫌、だ……ッ！！」

　体が溺れそうになるのを必死で留め、一也さんに訴える。
　しかし、その願いは聞き入れて貰えなかった。

「ダメだって、言ったろう？　君は私のモノだ。　もう私以外の男や女に、君を自由にはさせない。　あの時は、不本意ながらアイツの言葉に従ってしまった。　でもそれは間違いだったんだ。　あの時、君を手放さなければ、そうすれば、今も君は私の隣に居て、私以外の人間の手に触れられる事もなかったのに……！　ましてや、こんな酷いオモチャにされる事もっ……！！」
「！？　っやぁっぁっ……っ！！」

　突然、なんの前動作も無く一也さん自身が、最奥に突き入れられる。
　その無理やり開かされる痛みに、俺は悲鳴を上げた。一瞬大きく見開いた瞳には、すぐに涙が溜まり、重力には逆らえず頬を滑り落ちていく。
　幾ら先程までオモチャで馴らされていたとしても、それも抜かれてからそれなりの時間が経っている上に、余りに無理やりで性急な押し入り方だった。
　あの部分が突然襲った質量に耐え切れず、肉が切れ、生暖かい液体が太ももを流れ落ちていくのを感じた。

「嫌っ……っ、やだっ……止め…っ、痛、いっ…ぅっ…くっ！」
「何が、嫌、だって？　アソコは吸い付いてきてるよ？　オモチャじゃ、満足できなかったんだろ？　……ほら、ちょうど血も出てきて滑りも良くなってきた。　すぐに、いつも通り私にしがみついて、もっと、っておねだりする様になるよ。　ね？　渉？」

　一也さんのくすくすと言う楽しげな笑い声が耳朶をくすぐる。
　身体を酷く窮屈に折り曲げられ、足を限界まで開かされる。そして、一也さんは更に深く俺の中へ、自身を潜り込ませてきた。
　血か、それとも滲み始めた体液にか、一也さんが俺の中を行き来する度にぐちょぐちょと粘ついた音が漏れる。
　内臓を掻き回す様な動きに、窮屈な姿勢に、俺は吐き気と息苦しさを感じた。
　犬のように舌を突き出し、酸素を求める。そして、助けを求めるように伸ばされた手は、何もない空中を引っ掻き回すだけだった。

「渉、良い、よ。　ほら、もっと締め付けて。　あぁ、そうだ……良い子だね……。」
「ひっ……ぅ、ぁあっ……やっ…ぁ…っ。」

　頭上から、一也さんの気持ちよさそうな声が降ってくる。
　だが俺にはもう、それに答える余裕などなかった。
　オモチャにはない、熱さ。
　それに突き入れられ、突き落とされ、掻き回され、擦られ、俺はどんどんとそれに飲まれていく。
　悲しいくらいにその行為に馴らされてしまっている俺は、意思とは関係なしに体が反応し、痛みさえももうすでに快感へと変換していた。
　声に甘いものが混ざり、背筋を突き入れられる快感が襲う。
　宙を彷徨っていた手は、いつの間にか自分を陵辱する男の背に回され、愛しそうにその背を撫で上げる。
　そして一也さんの言葉通り、俺はいつしか、もっと、と彼にせがんでいた。
　どれくらいの間、そうしていたのか。
　一際大きく突き入れられ、一也さんが絶頂の呻き声を漏らす。
　それと同時に、俺も今日何度目かの絶頂を迎えた。
　その時、一也さんの呟きが耳に入った。

「もう、離さない……渉。　愛してるよ。　私はもうずっとずっと、子供の頃から君だけを見てた、だから、君は私のモノだ──。」


　そして、意識は反転し、世界は再び暗黒へと包まれた──。

◇◆◇◆◇

　目の前の男の言葉を、どうして信じてしまったのか。


　「……仕事？」

　そう、俺が聞き返したのはあらかたマグカップの中のコーヒーを飲み干した後だった。

「あぁ。　……お前、今働いてないんだろ？　だから、俺が仕事を斡旋してやろうと思ってさ。」

　どうしてこいつが、俺が今無職なのを知っているんだろう？そんな疑問が一瞬胸の中を横切った。
　だが、その疑問を口にはせず、別の疑問を口にする。

「仕事って、どんな仕事だよ？　つーか、高校中退の最終学歴、中卒の奴なんかを雇ってくれるのか？」
「安心しろよ。　俺も働いてる所だし、ほら、俺も中卒だろ？　そこは学歴は関係なくって、能力重視なんだよ。　……お前、頭は滅茶苦茶良いし大丈夫だと思うぜ。」

　最後の一滴までコーヒーを飲み込み、航矢はニヤリと俺に笑いかけた。
　その言葉に俺は首をひねった。
　そういえば、今、こいつは何の仕事してるんだ？
　思わずその疑問が口をついて出る。

「お前も働いてるところ……？　そういえば、お前って今、何の仕事してるんだ？」

　飲み終わったマグカップを手にし、台所に向かいながらそう聞いてみる。
　すると、何故かあいつも立ち上がり俺の後ろを着いて来た　そして台所に立った俺の肩に手をまわし、そっと耳打ちをするように顔を近づけ、囁いた。

「……いわゆる、指定暴力団、って奴？　そこの俺は構成員ってーのをしてる訳。」
「！？」
「まぁまぁ、そんな顔で見るなよ。」

　航矢の言葉に驚いて、奴の顔をまじまじと見る。
　と、奴はふふ……、と含み笑いを漏らすと、俺の肩をバンバンと力強く叩いた。
　その痛みに顔をしかめる。

「ま、確かに暴力団って言ったら、聞こえは悪いけどよ。　実際の所、俺の勤めてる所は普通の会社と何もかわらねぇよ。　業務内容だって消費者金融とかが主だが、それ以外にもホテル業だとかそういった全うな業務だってちゃんとしてる。　ボス……、あぁ、いや、社長……だな、が、昔風のやり方じゃ今の時代には適してないっつって、かなりまともな会社として構成し直してんだよ。　だから、そう、警戒する必要はないぜ。　勿論、お前に紹介する仕事は至極全うな部門だし。」

　ニヤニヤと笑いながら航矢は、相変わらず俺の肩に手をまわしたまま、そう説明する。
　俺はその説明を聞きながら、また首をひねった。

「……そりゃ、仕事を紹介してくれるのはありがたいが……。」
「なんだよ、何か不満でも？」
「不満つーか、疑問、だな。」
「また、疑問かよ。　……まぁ、いいや。　お前が納得するんなら、何でも答えましょ。」

　するりと、肩から手を離すと航矢は俺にウィンクを送って寄越し、さぁ、どうぞ、と先を促す。
　その態度に、一瞬だけ昔が戻ってきたような錯覚を覚え、少しだけ頬が緩む。
　だがすぐに表情を引き締めなおすと俺は口を開いた。

「まず、お前が俺に仕事を紹介する、メリット。　あぁ、幼馴染、だからってのはなし、な。　大体ここ数年まともに連絡も取り合ってなかったのに、どうして今になって、お前が俺に対してそんな事をしてやろう、なんて気になったのか。　ただの幼馴染にそんなお節介を焼くほど、お前がお人好しじゃないってのは、俺が良く知ってる。　だから、そうする事によるメリットが、必ずある筈……だろう？　それは何だ？」

　一気にそこまで言い、俺は航矢の顔をじっと見る。
　すると一拍の間のあと、航矢はやれやれ、と言った風に溜息を吐いた。

「やっぱ、お前にゃ敵わねぇな。　……実はさ、ちょっと協力して欲しい事があんだよ。」
「……協力。」
「そ、協力。──俺、ただの構成員で終わる気にはなれねぇんだよな。　やるからにはそれなりの地位にまで、上がりたいじゃん。　だから、さ。　俺がのし上がる為に、お前に協力して欲しい訳。」

　再び獰猛な笑みをその唇に宿し、航矢は言い放った。

「……俺の頭脳になって欲しいんだよ、お前に。」



　結局、俺はその後航矢と暫く話した後、この話を承諾した。　それは奴の提示する報酬などに心を動かされた訳ではなく、ただ、純粋に奴が俺をどう利用するつもりなのか、が気になったからだ。
　色々な事が立て続けに起こり、きっと俺は判断能力が低下していたのだろう。
　でなければ、そんな怪しい話に頷く筈はなかった。

　だが、しかし……ひょっとしたらそこに感じた腐敗と破滅の匂いに、俺自身惹かれたからかもしれない──。　


to be continued――…