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PartyParty 2


「はぁ?!コロニーへ潜入?何のために?っつーか何で俺が?」
いきなり艦長室に呼び出され、何かと思えばいきなりの単独任務の指示。しかも潜入。危険は目に見えている。
ディアッカの反論にひるむことなく、マリューはにこにこと笑いながら話を続けた。
「だからね、ガンダムの次世代技術がコロニー・アクロポリスにあるモルゲンレーテの研究所に保管されている、という情報が入ったの。で、それを取って来てほしいの」
理由は理解できる。
日々激化する戦闘は、地球軍の新型MSで更に激しさを増している。生き残るためにも、現装備以上の兵器は喉から手が出るほど欲しい。
しかし、
「だからー、何で俺がわざわざ行かなきゃいけないの?モルゲンレーテの研究所に保管されてるんだったら、どうせデータベースに保存されてるんでしょ。 わざわざ行かなくても、情報は取り出せると思うんだけど。クサナギにいるエリカ・シモンズさんだったら、データベースにアクセスする権限も持ってるんじゃないの? もしシモンズさんがアクセス権限を持ってなかったとしても、ハッキングでも何でもしたらいいじゃん。どうせモルゲンレーテも壊滅的状況なんだし、そんなに厳しいセキュリティ対策が今も取られているとは思えないけどね」
「それがね、アクロポリスの研究所が特に極秘事項を扱っていたせいか、データベースは外部からのアクセスが出来ない完全なスタンドアローン、通信回線に一切接続されていないのね。ハッキングは不可能なのよ。
だから誰かが行って、取ってこないといけないんだけど、ガードの厳しい場所に不法侵入しなきゃいけないし、データベースのパスワード解読も必要になるだろうから、誰でもいいって訳にはいかないの。そういう訳でディアッカ君、行ってくれない?!」
満面の笑みを浮べたマリューの表情には、その笑顔の穏やかさと相反した強固な意志が漲っている。
これは断っても承諾するまで説得が続くだけ、とディアッカは溜息をついた。
「OK。わかったよ。行けばいいんだろ。でもさ…まさか素のままで行け、なんて無茶は言わないよね。入国で俺のIDをそのまま使ったら、ザフトの憲兵がすっ飛んでくると思うんだけど。一応これでもプラントのお坊ちゃまで現在行方不明中だし」
「それは大丈夫。安心して」
マリューはごそごそとデスクの下から何かを取り出すと、嬉々として順々に机上に並べ始めた。
「まず、これはオーブ国民のIDカード。オーブのメインコンピュータにアクセスして国民登録した本物よ。で、これがそのIDで作ったクレジットカード。任務遂行のために使うこともあるだろうし使用限度額の無いプラチナカードにしてあるけど、あんまり使いすぎないでね。 あとは現金と研究所の地図、それから発信機付の通信機。あんまり通信頻度が高いと傍受されてしまう危険性が高くなるから、定時報告は48時間毎で。定時報告が無い時、それと救援要請があった時には3時間以内に救出に向かうから安心して頂戴」
「ふーん…」
ディアッカは自分の顔写真の横に知らない名前が刻印されたIDカードをしげしげと眺めた。
ダリル・トラヴァース。
これが自分の偽名らしい。昔見たスパイ映画さながらの小道具に、少しだけ胸が高鳴る。
「でもさー、どうしてオーブ国民なの?オーブは……崩壊したじゃん…」
今でも鮮明に蘇るオーブ崩壊の光景。守りきれなかった平和の国。
「確かにオーブ首脳部は炎上したけれど、それでオーブ首長国連邦が全て崩壊した訳では無いわ。いくつかの首長国は、以前のまま、とは言いがたいけれど、国として機能しているもの。 それに、これから潜入するアクロポリスも、ヘリオポリスと同様、オーブに属するコロニーよ。…今はザフトの支配が強いけれど」
オーブ首脳部崩壊とともに散ったウズミ代表を始めとした首長たち。彼らの犠牲によって、地球軍の侵攻は収まったものの、国として以前のような自治を保つことは難しく、オーブ首長国連邦に属する各国はそれぞれの地理的条件に拠って、地球軍またはザフト、いずれかの影響を強く受けるようになっていた。
「難しい任務になるかもしれないけど、気をつけてね。これからAAを降りて一旦Astrayの補給艦に移って頂戴。彼らがあなたを月まで運んでくれるから。月から民間シャトルでアクロポリスに入国してほしいの。上手くいけば3日後には着く筈よ」
「……了解。何だか何もかもが急だね」
「ごめんなさいね…でも、期待してるわ。それから、今回の任務期間はアクロポリス到着日から1週間。1週間経ったら、任務の成功、失敗に関わらず救出艇を向かわせるから。無理はしないでね」
心配そうに眉を寄せるマリューに、ディアッカは片目を瞑って「大丈夫」とばかりに親指を立てる。
「期待しててよ。ちゃんと情報は持って帰るからさ」

デスク上の小道具類を手に、ディアッカが部屋を出て行く。その後姿を見送り、マリューはデスク上の通信パネルへ指をすべらせた。
コール音が一度鳴っただけで、相手の顔が画面に写る。
「ムウ……」
「どうした?浮かない表情だな。坊主を説得できなかったのか?」
「いえ…そうじゃないわ。彼は承諾したわ。でも……何だか心配で。あなたを疑う訳ではないのだけど、この情報は本当に確かなの?」
女の勘ってのは存外鋭い、と改めて実感しつつ、フラガは自信に満ちた表情を取り繕う。
「その点は安心してもらっていい。それに、俺が近くの空域で待機するんだから、いつでも援護でも、救出でもできるでしょ。第一、多少の危険を冒してでも手に入れなきゃいけない情報じゃない」
「そうね、それはわかってるんだけど…でも……」
「はいはい、心配はわかるけど、心配しすぎは良くないよ。それじゃ俺も準備があるから。切るよ」
「ちょっと、待って。ねぇ、ムウ、待っ-----」
遮るようにフラガは一方的に回線を切った。すぐにマリューからの通信を告げるコール音が鳴り響いたが、無視を決め込む。
どうせ何が言いたいのか、どうしたいのか、自分でもわかっていない堂堂巡りの会話が続くだけなのだから。
フラガは部屋を出ると、格納庫に向かった。メカニック達と挨拶を交わしながら、ストライクに近づく。
周囲に誰も居ないことを確認し、ストライクに乗り込むとコクピットを閉め、通信機の電源を入れた。
ディスプレイに表示される指示に従い、エントリーコードとパスワードを入力する。数秒後、ディスプレイにクルーゼの顔が映し出された。
「よぉ。待たせたかな?」
フラガは操縦桿に顎を乗せ、不遜な笑みを向けた。
本来のフラガの姿。
クルーゼと、もしかしたらディアッカだけが知る顔。
「いや。時間どおりだ。ところで首尾はどうかな?」
「上々。3日後にアクロポリスに到着するんで、後はよろしく。それから、もう一回言っとくけど、期限は1週間。1週間経ったら絶対に返せよ」
「わかっているよ…随分ごご執心なようだな」
クルーゼが口の端を吊り上げる。とても笑っているとは思えない表情だが、らしいと言えば、いかにもクルーゼらしい笑顔だとフラガは思う。
「それはおまえも同様だろ」
「…確かに」
「じゃ、1週間経ったら連絡するから。またな」
「感謝しているよ。では、1週間後に」
フラガは通信を切ると、何事も無かったかのように格納庫を後にした。