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PartyParty 4


ホテルの部屋の窓越しにモルゲンレーテ研究所の灯りが消えるのを確認し、ディアッカはふむふむと頷きながら双眼鏡を下ろした。
「やんなるくらいに変化が無いなぁ」
到着した日から3日、研究所の動向を探ってみると、そこはとても重要機密を扱っているとは思えないほど無防備で、退屈なほどに変化が無い。
毎日同じ時間に研究員が出社し、同じ時間に退社する。
しかも、研究所はビルの1フロアを丸ごと使ってはいるものの、ビル自体はテナントビルで、スポーツジムやカフェといった深夜まで営業している店舗も入居しており、そこに行くフリをすれば建物に侵入することはそう難しくはない。
まるで侵入者が計画を立て安いようにわざとやっているのではないかと思うほど、何もかもがおあつらえ向きだ。
「どうしようかなぁ…」
下唇に人差し指を当て、暫し考え込む。横目で室内を見回し、ふぅと溜息をついた。
流石というべきか、やはりというべきか。ホテルの中はどこも滞在客が快適に過ごせるよう隅々まで気配りがなされ、最低限の設備しかないAAとは雲泥の差。
街に出れば、人々は笑いさざめき平和を満喫している。常に敵襲を警戒し、張り詰めた緊張を強いられるあの戦場と、とても同じ時間軸に存在する世界と思えない。
自分がここいる理由を忘れた訳ではないけれど、この任務を完了してしまえば、また殺伐とした前線に戻ることになるのか、と思うと、少しだけ名残惜しい。今こうしている間も、アスランやキラは戦場に居るのだと思うと、一日でも早く戻らなければ、とは思うのだが。

堂々巡りの思考を振り払うように、ディアッカは双眼鏡をテーブルに置くと、ソファに腰を下ろした。柔らかなクッションとスプリングが、ディアッカを包み込むように受け止める。
ディアッカはバッグから通信機を取り出し、近くにいる筈のサポート部隊を呼び出した。着信を確認すると、応答を待たずに話し始めた。
「今夜、行動する。上手くいけば明日にはここを離れることになると思う。コロニーからの脱出方法を指示してほしい」
「……随分と急だねぇ。平和の街にもう飽きたのかな?!」
揶いを滲ませた声音に虚を突かれた。
「あんた…なんでそんなとこにいるんだよ」
AAにあるMSはバスターとストライクの2機だけ。
自分以外の誰もバスターを動かせない以上、今のAAで戦力らしい戦力はストライクしかない。それなのに何故そのストライクのパイロットが、フラガが通信機の向こうにいるのか。あまりの不可解さにディアッカは眉を顰めた。
通信機越しに伝わるディアッカの動揺に、楽しげな口調でフラガは言葉を続ける。
「なんでって、そりゃないでしょ。おまえのために待機してんのにさぁ」
「でもっ、あんたまでここにいて、一体誰がAAを守ってるんだ?」
「AAは単独で行動している訳じゃないでしょ。エターナルもクサナギもいる。いざとなればキラやアスランが出てくるさ。----それに、おまえがそこにいる間はザフトの攻撃は無いよ」
「なんでそんなことがわかるんだよ?!」
「ふん、理由なんてどうでもいいだろ。そんなに心配なら、さっさとやることやっちまって戻って来いよ。終わったら連絡しろ。迎えに行ってやるから。じゃあな」
反論する間もなく、唐突に会話が打ち切られ、通信機のディスプレイには通信が切断されたことを告げるメッセージが表示された。
ディスプレイの鈍い光をディアッカは睨みつけた。
嬉しかったのに。
来てくれたのがフラガだったことが本当に嬉しかったのに。
それなのに、フラガは一言も自分の安否を確認する言葉も、状況を確認する言葉も、何一つなくて。
たった一言「大丈夫か?」とでも言ってくれてもいいのに、と思い、その反面、そんなことを思う自分を「らしくない」とも思う。
ディアッカは小さく舌打ちすると、通信機をバッグへ投げ入れた。