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偽書ブリテン興亡記
第1話 滑落 by saiki 20080828-0905
あるテレビリポーターが著名な探検家にマイクを向け言った
「それだけ危険な冒険をされて、よく今まで無事でしたね」
「なに、ただ運がよかっただけさ」
著名な探検家は翌日、
更なる刺激を求め冒険へと旅立ったが二度と帰っては来なかった。
マイケル・H・コーエン著 「冒険家達の興亡」より
我ながら
机仕事
が多いせいか日に焼けていない指で、
自慢のたっぷり時間を掛けてリンスした濡れ羽色の前髪をかき上げた。
「ん、やはり下見は必要だったかな?」
仕事柄癖になってしまった一寸男っぽい口調で中堅のSEたる私、
しばしば仕事で部下として付き合いがあるプログラマーに、其処かで
”サヤマ”の血が入っているのではと聞かれていまだ意味が分からないが。
少しだけ高めの背に、部下からは日本人にしては彫りの深い、
西洋人顔としばしからかわれるそれなりに整った顔と、
腰の辺りで切り揃えた紫の光沢を纏う様な黒髪、
そして、光によってはこれも紫を纏う少しだけ吊り上った瞳、
しばし、危なく男を誘うような肉感的な紅い口紅が似合う唇、
最後にそれなりに投資して維持した出る所が出、絞るべき所を絞った体、
真宮 凛
23歳、彼し募集中、自分で言うのもおこがましいが人並みのナイスバデーである。
こんな容貌だからか、しばしば部下に、凛としていて頼りたくなる、
ぜひ、お姉さまと呼ばせてくださいと言われるのは、我ながら心外だが。
いま私はコンビニの駐車場に止めた、知り合いの某ソフト会社の社長から借り出した、
ハマーH1ALPHAワゴン型の無骨なハンドルの上の狭い空間へ地図を広げたところだ。
あの灰汁の強い社長がアーノルド・シュワルツネッガーにでもあこがれて、
買い入れたらしい、いすゞ製ディーゼルエンジン、リッター4キロの
燃費の悪さを引換に
軍用車両
譲りのワイルドな走行を誇るコレに、
ガソリンスタンドで軽油を満タンまで給油して店員の誘導に従って、
スタンドを出た時点で慣れない路に迷った…いや、我ながら情けない。
まあ、後部座席やカヌーでも載せるためか、設置された業務用キャリアにまで、
満載した引越し荷物を物ともしないそのパワーは燃費を考えなければ逞しいとは言えるが。
エアコンを効かせるため締め切った窓の外で、
まるで嫌がらせをするように鳴くヒグラシがなんとも恨めしい。
お気に入りの白の半そでのブラウスも、濃紺のフレアスカートも
ただただ暑さを増す原因のように思えてくる…引越しの後、
取引先と会う予定さえ無ければラフなジーンズとTシャツで済ませられるのだが。
「ひぁ、なにっ!」
急に、煩かったヒグラシの鳴き声が止まった。
コンビニで買ったおにぎりを口に、今まで走ってきた県道を指で辿りながら、
コンパスと地図で現在位置を確認しようとしていた私は、
一瞬くらりと目眩を感じ、それと同時にズン言う音と共に落下感に見舞われた。
車
のサスペンションが軋み声を上げる。
思わず、狭い運転席で本能的に屈みこもうとして、緑茶のペットボトルを倒し慌ててそれに蓋をした。
「この辺りに活断層は無かったはず?」
引越しをする時に気休めにウェブで調べたので
間違いないはずだがと、辺りを見回した私は、
ハマーのボンネットの向こうに広がる風景に呆気に取られ己が目を疑う。
TVのチャンネルを切り替えでもしたかのように、
今まで目の前に合った海や車が行きかっていた県道、
さっき買い物を済ませたコンビニの店舗やその遥か後ろの山が消えうせ、
薄く靄の掛かった平原を所々頭を出す岩と、一面の背の低い草の生えた荒地が見渡す限り続いていた。
「どこだ、ここは?
いや、まて!その前に何が起こったと言うべきか?」
途方にくれ、思わず一人突っ込みしてしまった自分に唖然となる。
いや、こういう時に焦ってどうする私。
同じ現象に巻き込まれ、エスキモーの村から、
航行中の船から、川沿いの古代都市から、
その他ありとあらゆる一見繋がりの無い時と場所で無作為に人が消え、
そして、私はその現象から無事元通り再構成される事が、
それこそ天文学的な確率でしかないことを、幸運にも知らなかった。
To Be Continued...
-後書-
ハマーH1ALPHAワゴン型 = 軍用ジープを民間用にアレンジしたオフロードカー
SE = システムエンジニア、大規模プログラムの纏めをする人
アーノルド・シュワルツネッガー = ターミネーター役をしていたオーストリア出身の
マッチョなお兄さん、いまは、カリフォルニアの州知事をしている。(2008年現在)
久々のオリジナル物、しかし舞台を紀元前の
辺りにする予定なので、全体的にデータが少ないので前途多難です<自爆
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