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アタシ達は運命を 嘲う(あざわらう) side.Asuka

第3話 屠られる 無用の偽神(アダム)   by saiki 20030924-20060607



過剰な(?)破壊活動で、柱がみしみしと大いに不安げな音を立てる、
地獄の最下層から、アタシはもう何年も住み慣れた官舎の、自分の部屋へと帰ってきた。
アタシは、帰り道でちょっと寄道して失敬した、だぶだぶの上着の袖をまくりながら、
部屋の中のけはいを探る・・・そして、誰も居ないはずの部屋の中からは、見知った感触が二つ、
アタシが、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべて、ドアを開けると・・・

「よう!お邪魔してるよアスカ」
「加持さん、それにミサトも・・・あんた達、なんで避難しないの?」

アタシの椅子に座り、ふん反り返って軽く手を上げ挨拶する加持さんと、
怒りかなんかで、ぶるぶる震えながら銃をアタシへポイントする、ミサトが居た。
そんな二人へ、アタシは小悪魔みたいに嫌〜な笑みを浮かべて、ワザとらしく訊ねて見る。

「いや、ここで待っていたら、アスカがひょっこり荷物を取りに来るかと思ってな・・・」
「うふふ・・・見透かされちゃったか・・・流石にトリプルスパイてとこね、加持さん」

アタシが、にへらっと瞳に危険な、獲物をいたぶる肉食獣の様な光を浮かべて、意地悪く笑う、
加持さんの額に、つぅっと一筋冷や汗が流れるのを、アタシはニヤニヤと眺めた。

「・・・あ、アスカ・・・それをばらすのは、勘弁してくれないかな」
「いいから!投降なさい、いまなら刑も軽くて済むから!」

ミサトが、何所で仕入れてきたのか、ワルサーP38をアタシへと向ける。
アタシは、ニヤリと意地悪く笑って、それへ指先を向けチョィと斜めに振った、
最弱の不可視のATフィールドの刃が、まるで手品のようにワルサーを輪切りにする。
なんかこんなシーンが、ジャパニメーションで有ったわよね・・・えーっと斬鉄剣とか・・・

「あ・・・あたしの・・・ワルサーちゃんが・・・」

ミサトが、グリップを残してくず鉄と化したワルサーを見て、
ううっと涙目になり、加持さんが青くなって、顔を引きつらせながら、
ミサトを庇うように、その身をアタシとホルスタインとの間にねじ込んだ。

「お、おい、アスカ・・・ちょっとやりすぎじゃ・・・」
「ミサトの分際で、アタシに銃なんか向けるからよ・・・
当然の報いだわ、なますに刻まれないだけ、ありがたいと思って欲しいわね」

重戦車さえ真っ二つに出来るアタシの前で、身をていして庇ったって無駄だって・・・加持さん・・・
アタシは、二人の前で、ますます調子の乗って、妖艶な笑みをそのピンクの唇に浮かべた。

「それに、あのまま放って置くと、加持さんは2016年の半ばには、
どこぞやの組織に消されるし、ミサトは最後の使徒を倒した後に、
ネルフを占拠しようとした戦略自衛隊に、射殺される事になってたんだから」

アタシは、チシャ猫笑いを顔に浮かべて、未明の未来をちょっとだけ小出しに明かす。

「お、俺が、消されるって?」
「ちょっと、どう言うことよ、それ!」
「アタシが、あんた達の命の恩人だって事じゃ無いの?」

ニヤーッと顔に小悪魔の様な笑みを浮かべるアタシへ、二人の引きつった顔の目線が集中する。

「とても、信じられないって顔してるわね・・・
でも、アタシは、親切だから、嫌でも信じられるようにして上げる」

ズンと、一気に迫力を増したアタシのけはいに、金縛りに遭う二人へ向けて、
右手の人差し指と中指から、超極細の赤い燐光を発するATフィールドで形成された針を眉間へと突き刺す。
そして、ナノ秒内で脳内のシナプシス構造を解析した、アタシの無意識領域を介して、
怒涛のごとく、加持さんとミサトの未使用脳海馬領域内のシナプシスへ、
あの使徒との戦いの一年が、超高速の書き込みモードで、多少のデータ欠損を考慮せずに刻み込まれる。

「どうかしら?何が有って、アタシ達がこんなに苦労してまで、相対的な過去へ干渉してるか、
多少なりとも理解するだけの判断力は・・・お二人へも、期待しても良いと思いたいけど?」

アタシは指先と、加持さん達二人の眉間とを繋ぐ、極細のフィールドの針を、
ザンとばかりに瞬時に引き抜き、ニタ〜リといやーな笑いを、その唇へと浮かべる。
途端に、ちょっと放心した様子の二人の逝っていた瞳に、理性の光が意思の奥底から浮かび上がるように戻った。

「あ・・・ああ・・・ミサト、すまなかったな・・・」
「そうね・・・加持が、あの時言えなかった言葉を、言ってくれたら特別に許しちゃうかも・・・」

ミサトが加持さんの胸へ背後から腕を回し、加持さんもその手を両手で包みこむように優しく抱える。
こいつら、アタシが居るのを無視して、なんで突然バカップルモードに突入するかな?
アタシは、そのまま、ディープなキスに縺れ込みそうだった二人を、ちょっと無粋かなと思いつつも止めた。

「ちょーっと!アタシの前で、そう言う事は止めてもらえない?」
「あ、ああ・・・すまんなアスカ・・・」
「ごみん・・・アハ、ちょっと焼けぼっくいに火が点いちゃって」

アタシは、真赤になって愛想笑いを浮かべる二人に、大きな溜息をついて、やってられないと肩をすくめた。
まあいいか、アタシは、帰り道でちょっと失敬して来た、だぶだぶの上着のポケットから、
PDAを取り出すと、アンダースローでミサトへと放った・・・ミサトは、抜群の運動神経で、
危なげなくそれを、空中でキャッチすると、怪訝な表情でアタシを睨む。

「アスカ、なにこれ?」
第一使徒(アダム) の周りに仕掛けた、8発のN弾頭の同時起爆のコードが入ってるわ、アタシが、
殺るつもりだったけど・・・アイツはアンタに任せて上げる、まあ結婚のご祝儀と言うことにしときましょ」

アタシの説明を聞いたとたん、ミサトの瞳に危険な炎が灯る。
それを見たアタシは、ちょっと早まったかなと、少しだけ後悔した。

「おいおい・・・あの・・・ 第一使徒(アダム) を見て来たのかい、アスカ?」
「うん・・・これぐらいの、ベークライトに封印された、気味悪い胎児みたいな奴だったよ、加持さん、
本部の地下にある 第2使徒(リリス) もでかくて気持ち悪いけど、小さくても気持ち悪さには代わり無いわ」

アタシは加持さんに、身振り手振りでちょっと天狗になって、アダムの事を説明する。
だから、ミサトの奴が何してたかなんて事までは、少し疎かになっていたのは、自分でも油断だと思う。

『上位権限により 人工知能(MAGI) の決議を省略して、アダムの滅却処理の過程に入りました・・・』

アタシと加持さんは、突然聞こえてきた合成ボイスに、ミサトの方を揃って振り向く、
合成ボイスは、ミサトの持つPDAから流れていた・・・アタシは、思わずミサトへ怒鳴り散らした。

「ちょっとミサト!まさかアンタ、N弾頭の同時起爆を選択したの?」
「あ・・・うん・・・」
「お・・・おい・・・ミサト、勘弁してくれよ」

アタシと加持さんの剣幕に、さすがにヤバイ事をしたのを悟ったのか、ミサトはその顔に愛想笑いを浮かべる。
思わず、アタシと加持さんは図らずも見詰め合ってゲゲッと、田んぼのカエルの如き呻き声を上げた。

「ミサト、新旧取り混ぜて60メガ爆弾8発、さあ合計は幾らに成るでしょう!」
「よ、480メガ・・・」

さすがに掛け算ぐらいは出来る様で、やっと何をしたのか悟ったミサトの顔から、血の気が音を立てて引く、
もちろん加持さんの顔も、紙の様に白い・・・アタシは、ミサトの馬鹿さかげんにげっそりして、肩を落とす。

「その480メガが、ドイツ第三支部の地下深くで爆発したら、どうなるか分かるわね?」
「あ・・・あははっ・・・な、なんとなく分かるような気がするような・・・」
『N弾頭による、アダム滅却処理まで後122秒です、全所員は速やかに退避して下さい・・・』

ミサトは、現実逃避モードで虚ろな笑いを漏らす。
アタシと加持さんは、ガーッと叫んで、自分の頭を掻き毟った。
その間も情け様者無い合成ボイスが、その冷たく整った女の声で、残り時間を非情にカウントダウンする。

「ミサト・・・あんたに、まともな理性を求めたアタシが、馬鹿だったわ・・・」

頭にビールが詰まっているミサトに、ご祝儀に贈るにはN弾頭8発なんて、過ぎた贈り物だったようだ。
アタシは、合成ボイスのいらいらするぐらい冷徹な声を聞きながら、自分の愚かさににちょっと悲しくなる。
復讐で、その お頭(おつむ) をスポイルされたホルスタインに、いったいアタシは、何を求めていたのだろう?

「弐号機ーっ!!!」

アタシの呼び声に答えて、弐号機がライオンのように雄々しく吼える・・・
その頼もしい真紅の巨体が、ベランダのすぐ前にのそりと、その山のような姿を表した。
やっぱりこの辺りで、頼りになるのはアンタだけね。

「何でこうなったかは・・・後でミサトに直接苦情を申告してちょうだい。
もうアンタも、やることは分かってるわね・・・じゃあ・・・来るわよ、ATフィールド全開!」

はた迷惑そうな唸り声と共に、ネルブ第三支部を囲み込む様に、円筒形のATフィールドが瞬時に展開された。
アタシ自身もATフィールドを全開で展開し、蒼い目が内からの赤い光に侵食され、明るい紫色へとその色を変える。
弐号機の円筒状に展開されたATフィールドが、被害を押さえるために爆発の衝撃波を空に逃がし、
アタシが球状に展開する、位相を弐号機とシンクロさせたフィールドが、N爆発から自分達と弐号機を守った。

轟音と共に、第三支部の地底から光の柱が吹きあがり、辺りを眩い閃光の中へと溶かし込んで行く、
地面が揺れ、既に跡形も無い支部を中心に地割れが放射状に広がる。
熱と衝撃は、アタシのATフィールドで完璧に遮られたが、地面の揺れはどうしようもなかった。
けたたましい音と共に、転倒する家具の下へと、加持さんがミサトを覆い被さる様に庇ってその姿を消す。

「ミサトの・・・ぶぁっかぁぁぁ〜〜〜っ!!!」

アタシの部屋が揺れ続ける、五階建てのアパートの4階に位置する部屋のせいか、多少揺れが大きいようだ。
さっきから、ミサトと加持さんは、転倒した家具の下敷きになって、アタシの視界に入らなくなっていた。
ママの遺品の家具や食器が、次々と壊れ、そして割れていく・・・アタシは柄も無く、泣き声を上げた。

「ママの使ってたマイセンが・・・ああ、ママのドレッサーも・・・み、ミサトぉ・・・覚えてらぁっしゃいぃっ!・・・」

アタシの怨嗟の籠った叫びが、N爆発の引き起こす地震に揺れる部屋に響き渡る。
当初の予定では、もう少し陣営を整えて爆破するはずが、ミサトのお蔭で全ての段取りが無に帰したままで、
最悪の時を向かえる破目になってしまった・・・アタシと、弐号機の位置関係が悪いせいか、
自分の張ったATフィールドの外に僅かに出ていた、弐号機の肩のウエポンベイが真っ黒に煤けていく。

「みさぁとぉ・・・絶対にこの借りは返してもらうかぁらねぇ〜っ!!!」

僅かに舞い込んだ爆風が、部屋中を駆け巡り埃や紙屑を舞わせ、アタシの朱金の髪を弄る。
アタシは固く心に誓う、暇になったら絶対ミサトにデッキブラシで、弐号機を磨かせてやるっ・・・と・・・
その時、最後まで天井でがんばっていたシャンデリアが・・・アタシの目の前に落下して、その儚い命を散らす。

「・・・く・・・ううぅっ!・・・プラスっ禁酒一ヶ月〜っ!!!」

アタシの額には、ぶっとい青筋がその存在をがんがんと鼓舞した。
やっとゆれが納まり、埃や煙が晴れ、辺りの惨状がアタシの目に入る。

「やれやれ・・・こんな筈じゃあなかったのに・・・」

アタシは、ちょっとセンチになって、瞳を潤ませながらぼやく。
ママのマイセンも、お気に入りだったアンティークも、既にどうしようも無い。
その元凶はと言うと・・・
ウーとかアーとか、元気に家具の下で唸ってるようだから、きっと怪我一つも無いんだろう・・・

「理不尽ね・・・上で撥ねてやろうかしら・・・」

下から抜け出そうとしているのか、
ゴトゴトと弱々しく蠢く、家具の残骸に氷点下の蒼い目線を向けて、アタシは呟いた。
弐号機が、太い指先で器用にベランダのガラス戸を開けると、クーッと低く唸り声を上げる。

「アタシを心配してくれるのね・・・優しい奴・・・
アンタも災難だったわね・・・煤けてるけど大丈夫なの?」

アタシの労わる様な声に、弐号機は軽く人差し指をチチッと左右に振る。
その仕草に、少しだけ自分の気が晴れて行くのを感じた。
でも、これは何所から手をつけたら良いのかしらね・・・元家具だった物を目にすると、溜息が漏れる。

「あのまま放って置く方が、世の為、人の為の様な気がするんだけどね。
目障りだから、アンタ・・・あれ、何とかしてくれるかしら?」

アタシは、無様にゴキブリの様な生命力で足掻く、酔いどれホルスタインが居るはずの辺りを指差さした。
弐号機も、溜息のような唸りを一つ上げて、あまり気が進まない様子で、器用に家具の残骸をどけると、
赤い上着をぼろぼろにした、ビア樽ミサトを掘り出して、その指で摘み上げる。

「ちょっ!ちょっと!アニすんのよ!」

弐号機は、暴れるミサトの襟首を捕まえたまま手荒に縦にシェイクして、大雑把にゴミを落とすと、
ぶっとい指先で器用に軽く弾いて塵を叩く・・・堪らずミサトが、宙に吊るされたまま情け無い悲鳴を上げた。

「それは、こちらのセリフよミサト・・・アンタこそ何考えてんの?
貰ったからって時と場所を選ばずに、火を付けんじゃ無いわよ・・・N弾頭は花火じゃないのよ」
「うっ・・・そ、そうね・・・」

アタシの言葉に、弐号機もブルドックのような唸りで同意する。
ミサトは弐号機のフェィスカバーの奥の、らんらんと輝く目を見て、顔を引きつらせながら嫌な冷や汗を流した。

「はん、判かってんなら話は早いわミサト、アンタには罰として、暇見て弐号機のボデイを磨いて貰うわ、
それと禁酒1月ね、加持さんにも、連帯責任で、
そうね、引越しの手伝いと、アタシ達の、対外交渉のアドバイザーでも頼もうかしら。
もちろん、加持さんにはアドバイザーとしてのお給料は出すわ」
「な・・・なんでアタシが・・・」
「おいおい、アスカ、俺もかぁ?!」

アタシは、ニタッーといやーな笑みを浮かべ、部屋の中を指差す。

「アタシのママの形見のマイセンやドレッサー、それにアンティーク、一体幾らに成ると思うの?
ミサトのローンが残ってる、ルノーを売っても追いつかないわよ、それに弐号機も納得しないだろうしね」

アタシは、じたばた空中で足掻くミサトを絶対零度の目付きで見つめ、弐号機も威嚇するように唸り声を上げた。

「それとも弐号機と、富士の裾野で一晩鬼ごっこしてみる?
ミサトが逃げ切ったら、チャラにするのも考えて上げないことも無いけど、
チャレンジして見る?・・・ミサト・・・多分弐号機は、絶対手加減してくれないと思うけど?」
「うぐっ・・・わ、判ったわよ・・・」

ミサトが項垂れる、まあこればっかりは、加持さんも同情はしないでしょうね。

「じゃあ、納得の上って事で、アンタ達も日本までは、
アタシの弐号機に便乗させて上げるから、荷物を手早くまとめて持って来た方が良いわよ。
よかったわね、ミサトも加持さんも私と同じ官舎で、ここなら幾らかでも無事な荷物が残ってるでしょうから」
「はーっ・・・負けたわよアスカ、加持、ちょっと行って来るわ」

やっと、弐号機に降ろしてもらったミサトが、肩を落としたまま、すごすごと、足を引きずるように立ち去る。
アタシは、厳しい目つきを少し緩めて、ニヤニヤ笑う加持さんを見た・・・この人も、懲りないんだろうな・・・

「さてと・・・脳までビール漬けのミサトが、居なくなったから、加持さんにはちゃんと言っとくわね、
ミサトにはああ言ったけど、アタシには、ここへ二人を残して行ったら、その後の無事が保証出来無いの」

アタシは手を休めて、加持さんを見つめるが、彼が何も口を開かないので、話の先を続ける事にした。

「ゼーレのドイツ在住のトップ・・・キールとかいったわね、あれは多分、ナルシスホモが、
止め刺してると思うけど、大きな組織だから他にも残党か居るでしょうから、まあ、ていの良い、人身保護かな?」
「・・・なるほど、アスカは優しいんだな・・・じゃあ、お世話に成るとするよ、
で、ちょっと聞いて見たいんだが・・・その、ナルシスホモって、なんだ?やっぱりチルドレンなのか?」

アタシは、加持さんの口からアイツの話が出たとたん、不機嫌になり思わず眉をひそめる。

「そう、渚カヲル・・・フィフスチルドレンよ、しかも第17使徒で男の癖にシンジを狙ってるの」
「そいつは、チルドレンで、しかも使徒なのか?・・・なんでそんな事になるんだ?」

アタシは、瓦礫の中からお気に入りの服を引きずり出しながら、加持さんの話に相槌を叩く・・・

「ああアイツわね、作ったんだか、拾ったんだかされた様ね、ゼーレから送り込まれて来たらしいから。
でも、驚く事は無いわよ加持さん、人類はS器官を捨てて知恵と多様性に活路を求めた、
第18使徒(リリン) だし、本部のファーストチルドレンのレイの奴も、 第2使徒(リリス) の一部だから。
さっき、加持さん達に書き込んだ、前の時の記憶にもあるはずだけど、その辺の記憶が混乱してるの?」
「そう言われれば・・・おぼろげに・・・で、シンジ君てサードチルドレンだよな・・・
その渚カヲルが・・・なぜ彼を狙ってるんだ?ひょっとして、使徒としてアスカ達と敵対してるのか?」

アタシは、服を抱えたまま、ギリリッと奥歯を噛締めて低い唸り声を上げた。

「加持さん、アイツはね、よりにもよって男の分際でシンジの童貞を狙ってるのよ」
「はああっ?」

加持さんはアタシの話を聞いて、思わず間抜けた声を漏らして目を大きく見開く。

まあ、加持さんが呆れるのも分かる様な気がするけどね・・・アタシは、弐号機がベランダに乗せた、
貨車に載るような大きなコンテナに、あの地震から生き残った私物を放り込みながら、大きく溜息をつく。

「ほら加持さん、手がお留守になってる。
生き残ったカップやお皿なんかを、毛布やタオルで包んでこのダンボール箱へ入れてよ」
「お・・・おう、すまんな」

茫然自失状態のままでも、加持さんはミサトよりよほど役に立つみたいね、
やっぱ、ミサトを追い払って、加持さんを残しておいて正解だわ。

「・・・使徒で・・・ホモで・・・童貞を狙ってる・・・わ、分からん・・・」

加持さんの口からまるで念仏のように、小さな呟きが漏れ続ける。
これは、逝っちゃってるわね・・・アタシは、タラーリと嫌な汗を背中に感じた。
それでも自分より断然てきぱきと、無意識に仕事をこなす加持さんは、
さすがに、伊達でトリプルスパイをしてるのでは無いと、
アタシを唸らせる、でも、いまのアタシの一番は、何が有ってもシンジだけどね。

「加持さん?」
「あ・・・あぁ、なんだアスカ?」

アタシの声に、やっと加持さんが正気に戻る、どうやら、まだ逝ったままだったようだ。
大体、アタシの荷物の詰め込みは終わったし・・・
ミサトは、まだ帰って来ない様だから、加持さんに見に行って貰った方が良いだろう。

「こっちは、もうアタシだけで間に合うわ、済んだら下の玄関にいるから、
自分の荷物と、ミサトまだ来ないようだから、悪いけど様子を見に行ってくれる?」
「そうだな・・・ミサトの奴の事だ、纏めるんじゃ無くて、
むしろ、ばらまいてる恐れがあるか、ちょっと行ってくる、悪いなアスカ」

加持さんが、何時もの気さくな男っぽい笑みを浮かべるが、
その彼に、アタシもちょっと妖艶な笑みを浮かべて、神経が逆立つような事実を指摘した。

「気にしなくて良いわよ、まだUNのドイツ駐留軍は来てないみたいだから」
「UNか、コリャ、うかうかしてられんな」

加持さんは、素早い身のこなしで、あっという間にアタシの前から消える。
さすがにトリプルスパイ、アタシはニヤリと笑うと、弐号機に次の仕事の段取りを指示し始めた。

    ・
    ・
    ・

遠雷の様に、お腹に篭る様な重低音が立て続けに響き続ける。
こりゃ当たんなくても、そのうち精神的に嫌になるか、鼓膜に来ちゃいそうだわね・・・
アタシは、コンテナの屋根にワイヤで括り付けた、 装甲兵員輸送車(Tpz1フクス) の中で、
紺のジーンズにピンクのワイシャツ、少し大きめのGジャンと言ういでたちで、いらいらしながら二人を待っていた。

「アスカぁ・・・おそくなって、ごみん」
「おそーぃ・・・何してたのよ、あんまり遅いから、UNの戦車が来ちゃったじゃ無いの、
いい加減にしないと、アタシも加持さんも、遺憾ながらアンタを見捨てざるおえなくなるわよ」

やっと重そうなトランクを引きずってミサト達が現れたので、アタシはハッチから身を乗り出すと、
大声で怒鳴りつけ、弐号機の張ったATフィールドの向こう側を、嫌そうに指差す。
丁度、UNドイツ駐留軍の 主力戦車(MBT) がアタシ達の方を向いて、一斉に主砲を放ったところだった、
二人の顔が盛大に引きつり、顔から血の気が引き紙のように白くなる、何を今更、アタシは溜息をついた。

「ほら!きびきび動く!これ以上ドンパチさせたら、あいつらの弾代を出してる納税者に悪いでしょ!」

アタシの怒鳴り声が、一斉にATフィールドに 高速徹甲弾(APCR) が命中する轟音の中、辛うじて響く。
惚けていたミサトと加持さんが、弾かれたように慌ててコンテナの中へ荷物を押し込むと、兵員輸送車へとよじ上った。

「行くわよーっ!弐号機っ!」

アタシの声に、弐号機が嬉しそうに吼える。
弐号機は両手で、コンテナごと兵員輸送車を胸に抱え上げると、背面にオレンジ色の光を纏い、
ATフィールドの大きな羽根を広げ、神々しい光が空に舞い、ゆっくりと弐号機の巨体が宙に浮かんだ。

「さてと、チョイと寄り道するわよ」
「寄り道って?どこへ行くの?」
「お、おい、アスカ?」

アタシは、目を丸くする二人に、懐から高額紙幣の札束を一束ずつ放ると、
自慢の朱金の髪を野球帽の中へと押し込んで、丸渕のサングラスを掛ける。

「それ、二人のお小使いね、せっかくのユーロ紙幣だもの、何所でも良いから、
お土産と、身の回り品ぐらいは買って行かないとね、そうでしょ?」

アタシは、でっかい汗の幻影を、額の辺りへ浮かべる二人へ、Gジャンの懐を開き、
上着を失敬した後に、支部内の現金引き落とし機で、引き落としておいた、
ベルトへまだ幾つも挟んでいる札束を見せて、ニターリと人の悪そうな顔で笑った。



To Be Continued...



-後書-


 = エヴァ世界固有の放射能を伴わないクリーンな爆弾
マイセン = ドイツ・マイセン地方の工房で作られた高級陶磁器。
 ザクセン王家の紋章から取られた交差した2本の剣が、マイセンの陶磁器のマークとして青で描かれている。
 アスカの部屋で割れたのは、おそらくティカップやサラだと思われる。

良く考えたら、ここで終わっても良かったんだ(苦笑
うーん、まあ切が悪いけど、この後お買い物編に続きます(滝汗

ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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