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バサーカーズフロント・EVA.ver
銀河繁種船アヤナミ2015
中編 知恵の収穫

by saiki 20030112




「出力120パーセント、艦首軸、標的アステロイドへ、対閃光、対ショック防御・・・」
「あの・・・アスカ・・・」

私達には、何だか解らない所で盛り上がるアスカに、シンジ君が声を掛ける・・・

「艦首軸線砲発射!」
「・・・アスカってば・・・」

アスカの声と共に、艦首から磁場誘導された反陽子が発射される・・・
確かにこれは破壊力が大きいけど・・・艦の軸線を合わせないといけないような兵器は、使いにくいわ・・・
シンジ君が頭を抱えている・・・そうねアスカは・・・武器マニアなのかもしれないわね・・・

「目標・・・消失!」

狭い艦橋に、アスカのフォロの満足そうな声が響く・・・
目標になっていた、直径50キロの小惑星が、対消滅で放射能を残して虚空より消えさる・・・

「アスカ、気が済んだ?・・・スケジュールが押してるから、そろそろ出すからね・・・」

困り顔のシンジ君が、哀れを誘う・・・私は、彼のフォロの目とアイコンタクトして、
艦のコントロールを自分の手元へ戻す・・・アスカはちょっと不満顔だ・・・

「・・・アスカ・・・我慢して・・・」
「わ、分かってるわよ、レイ・・・」

私の声に、フォロのアスカは目をそらす・・・そう、アスカも一応、自覚はあるのね・・・
アスカの同意済みと見て、私はアヤナミの艦首を、重力勾配の低い宙域へ向ける・・・

「・・・次の超光速移動後に、目的地の惑星”イズモ”の宙域に入るわ・・・」
「うんレイ、パーソナルの受け入れの準備をするよ」

流石にシンジ君はそつが無い、私が言う前にさっさと準備を始めている・・・

「あ、アタシは何をすればいいの・・・レイ?」
「・・・アスカ、貴方は武器の整備を念入りにお願いするわ・・・嫌な感じがするの・・・」

ただのデータの塊にしか過ぎない、AIの私が勘とか言い出すので、アスカがいぶがしそうな顔をする・・・

「まじなの・・・レイ」
「・・・ええ、近い内にきっと貴方の活躍する時が来るわ・・・」
「うーん、そんな時は来ない方が良いんだけどね・・・」

でも・・・なぜか悪い事があるような気がするのよアスカ、背筋が寒くなるような不吉な感じが・・・
私は、艦体が重力の凪の状態の宙域に入ったので、C++機関を起動する。

C++機関は、荷電したマイクロブラックホールを、超高速で磁力加速リングの中で回転させ、
局部的に空間を歪ませる、艦の周りの空間が歪みフィールドと艦との間でチャレンコフ放電が始まり、
艦首から艦尾へと、チャレンコフ放電の青白い輪が移動して行く・・・
輪が過ぎ去った時、そこにはすでに私達の姿は無かった・・・

   ・
   ・
   ・

私の白銀の艦体が、惑星”イズモ”の宙域コントロールの範囲に入る・・・

「ようこそ惑星”イズモ”へ、AD43エリアコントロールです、艦名およびIDを送信してください」
「・・・本艦はアヤナミ、シリアル2015、IDはJAC2002WEB-KOKEN-S2015A・・・
第1967本部の指令によりパーソナル収容作業のため接近中・・・担当エリアの指示を願います・・・」

フォロに現れたのは、腰まである金髪のAY”ユキ”シリーズのペルソナだった、
彼女の耳障りの良い声が、私へ響く・・・私も、おおむね好意的な口調でデータを返した・・・

「貴艦の担当エリアはD56、同系艦の1995との共同作業になります、問題ありませんか?」
「・・・了解・・・エリアD56に向かい収納作業に入ります・・・」

私達は、質量軽減を行いながら衛星軌道にパークする、
惑星級戦記系列艦”武蔵”を優雅に回避しながら・・・
担当エリアへ向かう・・・暇なアスカが、光学装置のデータを見ながら呟く・・・

「こんなデカ物が配置されるなんて・・・この辺りは相当ヤバイようね・・・
レイの予感も、あながち外れじゃないようね・・・シンジも覚悟なさいよ・・・」
「僕が覚悟して、どうなるって言うのさ、アスカ・・・戦闘は全部、君にまかすよ」

アスカが不服そうな顔で、シンジ君を睨む・・・でもアスカ、シンジ君に何をしろって言うの?
多分、アスカは、始めての戦闘前でいらいらしてるだけかもしれない・・・
でも、兵器に心を付けたがる人間達・・・彼らは、兵器の心をわかっているのだろうか・・・

白兵戦時には、幾多の体を操り戦わなければならないアスカ・・・艦の心として一体化する
私と同じように、彼女は戦闘用に最適化されているはず・・・
私が、彼女に出来る事は、戦闘に成らないよう祈るだけかもしれない・・・

惑星級仮想戦記系列艦”大和”の傍らを回って、私は所定の位置に着く・・・
そして、艦尾を惑星方向へ向けるよう機動して惑星表面に対して自動懸垂を開始した・・・

シンジ君は、私の頷きを合図に、艦尾の移乗ブロックを単分子ワイヤで惑星表面へ
吊降ろして行く・・・レーザーでトラッキングしながらとはいえ、かなり微妙な作業だ・・・

隣の、光学センサーに辛うじて捕らえられる辺りに、クローキングデバイスを使わず、
優雅にたたずむ白く細長い機体・・・始めて見る、私の同系艦・・・アヤナミ1995・・・

私は、こちらから挨拶しようとしたけど、向こうの方が若干早く気づいたようだ・・・
古風なテキスト形式のデータがパケットで届く・・・

《混乱下の惑星”イズモ”へようこそ、下でお待ちしてます:”レイ1995”》

スクリーンに表示された電文を読んで、アスカのフォロが歯軋りする・・・
面白いしぐさのサブルーチンね・・・アスカ、私に、コピーさせてもらえないかしら?

「いまどき、テキストだなんて、なんか舐められてない?・・・私達・・・」
「相手がただ懐古趣味なんじゃ無いかな?アスカは考えすぎだよ・・・」
「・・・どのみちアスカには、ここへ残って警戒してもらわないといけないわ・・・」

アスカが、私を不満そうに見つめる・・・やはりアスカは、私以上に感情の彩が豊かだ・・・

「なんでよ!レイ」
「・・・感じ無いの・・・この周りに漂う重圧感を・・・何かが起こるわ・・・」
「僕としても、アスカにこっちへ居てもらった方が落ち着くから・・・」

アスカが、シンジ君の言葉に顔を赤く染めて俯く・・・

「・・・戦闘に特化した貴方が、真に力を振るえるのはここ・・・
惑星表面のいざこざは、シンジ君・・・そして、私が補助するから・・・
貴方はここで、しっかり周りに気を配って・・・私達を、安心させて・・・」
「分かったわよ・・・アタシはしんがりを守るのがお役目ね・・・」

不服そうなセリフとは裏腹に、彼女の顔は微笑んでいる・・・
そう、この緊迫した空間こそが、貴方の生きるところ・・・最も、輝く場所なのだから・・・

もうすぐ、地表に艦尾から単分子ワイヤで吊降ろされた、移乗ブロックが地表に到達する・・・
分子の幅しか無いワイヤでも多少空気の対流に流される・・・
シンジ君は、移乗ブロックの安定装置を使って、私は艦の位置を動かして、降下を微妙に調整する・・・

ちょっとしたビルぐらいある、移乗ブロックが地表にめり込む、そしてそのショックが波になって、
単分子ワイヤを揺らし、艦を微妙に揺らす・・・私は船を操り、共振しないように処置した・・・

移乗ブロックからのレーザー回線も、だんだん安定して来る・・・

「・・・アスカ、後をお願いね・・・」
「アスカ、頼んだよ」
「大船に乗ったつもりで任せなさい・・・シンジ、レイ」

私とシンジ君は、メインの処理をレーザー回線を介した移乗ブロックの、
リアルボディに移す前に、アスカへ声を掛ける・・・
フォロのアスカは、そんな私達に笑顔で小さく手を振った・・・私達は、1億人を収容するか、
緊急事態で呼び戻されるまで、アスカにほとんど対応できないほどに、下で忙しくなる・・・

   ・
   ・
   ・

私達が移乗ブロックに配置されている、サイバー・ナノ・ペーストで、
自分のリアルスペースにおける体を形作リ終わると・・・私の耳を騒音が襲う・・・

慌てて移乗ブロックの外へ走り出ると、私の真っ白なプラグスーツを身にまとった体がこわばった・・・
そこでは、地元治安維持軍と一部住民がつばぜり合いを繰り広げていた・・・なんでこんな事が・・・

私は絶望にくれる・・・こんな中で、1億人の収容をどうしようと言うのだろう・・・
人は一枚板ではありえないことを、私は、知識として知ってはいたけれど・・・

立ちすくむ私と違って、シンジ君は情勢をすばやく観察すると、声が通るように、
放送設備にその声を乗せて、第一声を発した・・・

「皆さん!お静かに・・・僕達は、双方の責任者の方と話し合う用意があります・・・
責任者不在の場合は次席、あるいは急遽、責任者を選出してください・・・
僕のつかんでいる裏情報によると、48時間以内にバサーカーがここを襲うかもしれません」

彼のバサーカーの言葉に、場は一瞬で静寂を取り戻す・・・流石は、私達のシンジ君だ・・・
全ての人の目線が、シンジ君の青いプラグスーツへ集まる・・・
そして、今度はいざこざではなく、話し合いが急速に始まったようだ・・・

私は、隣の一キロ先に見える、1995号艦の移乗ブロックを、光学最大望遠で見つめた・・・
良く見ると設備に欠損が見られる・・・動乱の後だろうか・・・小さく赤いプラグスーツ姿が多数・・・
なんてこと、1995号艦は地上でアスカ達戦闘体まで動員している・・・
細いレーザー回線で複数の戦闘体達を動かすことは、至難の業だ・・・

彼らは、そこまで追詰められていたの・・・これなら、テキストしか送れないのも、無理無いかもしれない・・・
1995号艦の演算能力は、
複数の戦闘体達に、先読みしたデータを用意するのに、全て使い尽くされているかも・・・
私は、まだ私達の前に、責任者が現れないのを利用して音声回線でアスカへ事情説明を行う・・・

「・・・アスカ、地上は大変な事になっているわ・・・」
「どうしたのレイ、あんた達まで声だけなんて・・・こちらに帰れないほど大変なの?」

私もだけど、アスカは戦闘に特化されていて、人との付き合いが上手いとは言えない・・・
だから、人たちの前で、ナノ・ペーストに体を還元するのは、あまり趣味の良い振る舞いとは言えない・・・

「・・・こちらは動乱の只中、1995号艦はおそらく処理能力を、全て地上に投入している・・・
悪いのだけど1995号艦の警戒もアスカが代行してあげて・・・情報はテキストベースで・・・」
「アタシもそっちへ下りなくて良いの?・・・」

やっとアスカも、事態が飲み込めたみたい・・・アスカの声に、緊迫感が漂う・・・

「・・・こちらは大丈夫、シンジ君が主導権を取ってるから・・・」
「流石は私達のシンジね・・・僚艦の警戒代行をふくめて、分かったわ・・・気を付けてね・・・」

私は、わざと交渉前なのを伏せた・・・アスカに乱入されたら、まとまる物もまとまらない・・・
通信を切ってふと前を見ると、1995号艦の移乗ブロックから、白いプラグスーツ姿がこちらへ、
ハイペースで駆けて来るのが見えた・・・その姿を見て、私は確信した・・・レイ1995だ・・・

私の目の前に、青いショートの髪、赤い眼でプラグスーツ姿の少女が立った・・・

「貴方もレイなのね・・・よろしく、私もレイよ、でも・・・
私は、リナレイって呼んでくれた方が嬉しいわ・・・」

明るい声の少女、レイ1995、いや自称リナレイに、私は疑惑を投げかける・・・

「・・・リナレイ、何故こんな事になったの・・・」

私の問いかけに彼女は深い溜息をついた・・・

「最初の5千人までは順調だったんだけど・・・どうやらこの地区の自治体は、私達が
破壊型データ変換機を使ってる事を、意識的か、無意識にか、説明して無かった様ね」
「なるほど、それがこの混乱の元か・・・自治体の無策の付けを、僕達がかぶってるわけだね・・・」

リナレイは、一瞬で全てを把握したシンジ君を見つめて、ポッと頬を染める・・・
私の胸が、ちくりと嫉妬に燃える・・・こんな時に、嫉妬なんて・・・私は、嫉妬深い女なのかもしれない・・・

どうやら、騒乱の主導者間で話し合いは終わったようだ・・・数人が、私達の方へゆっくりと足を運ぶ・・・
シンジ君の前に立った男達は、皆屈強で理性より衝動で動くタイプなのが私にも分かった・・・

「僕はシンジと言います・・・皆さんの行動は、誤解の上の行動だと思いたいのですが・・・」

ひときわ背の高い男が、シンジ君に凄む様に一歩前に出た・・・

「俺達は誤解なんかして無いぜ!・・・この機械やろう!」

男の拳が、シンジ君を殴り飛ばす・・・彼は数メートルも殴り飛ばされ、肌をアスファルトで削られる・・・
私と、リナレイがシンジ君を助けようと飛び出す・・・男は、そんな私達を蹴り飛ばした・・・

痛い・・・体が削れボデイがへこむ・・・私は、瞬時に予備のナノマシーンで怪我を修復するが・・・
リナレイは、すでに予備のナノマシーンまで使いきったのか、頬に醜い裂傷を残したままだ・・・

「・・・何をするんです!・・・」

私は、涙を流しながら誰何した・・・自分に始めての痛みを与えたのが、私が守るべき人間だなんて・・・
胸が締め付けられるように悲しい・・・そして、歯軋りするほど悔しい・・・

「ふん!ざまは無い、機械仕掛けのダッチワイフめ、痛みを知らんお前らでは憂さ晴らしにもならん」

治安維持軍の人達が、同情の眼差しで私達を助け起こしてくれる・・・
私は、少しホッとした、守るべき人の全てが、私を蹴り飛ばした彼の様では無い事に・・・

「貴方達は、何が望みなんです・・・自治体の説明不足は、
僕が変わってお詫びしますが、それで、あなた方の行動が、全て正当化されることはありません」

尊大な態度を取り続ける男が、さも当たり前のように口を開いた・・・

「我々は、人としての尊厳を持って、死に望む事を希望するだけだ・・・」

シンジ君の眉がつりあがりる・・・私は心底、目の前の男が消えてくれることを願った・・・

「では、それを、他人に強制するのは辞めてください!
貴方の行為で何千の人が確実な死を向かえるんですよ!」

シンジ君が男を怒鳴りつける、男は驚いたように目を見張った・・・

「貴方の言われる通り、私達がしてることは、バサーカと同じ様に、
人を殺してるのと、貴方には同じ事のように見えるかもしれません・・・」

シンジ君は、無理に自分を押さえるように目を瞑って、今度は静かな口調で諭すように語る・・・

「でも、これは、かりそめの死です・・・ここに留まって確実なバサーカによる死より、
少しでも復活の機会がある、私達に掛けてはもらえないでしょうか?・・・」

そして、シンジ君は、悪戯っぽく笑って、さらりと彼らの行く末を暗示する・・・

「特殊治安維持法第4563条によって、現時点で貴方達はすでに死刑か無期懲役です・・・
僕にはそれをたてに、貴方達をどうこうする気はありません・・・
でも、嫌なら早めにどこなりとも消えて下さい・・・」

騒乱の主導者達の間で、動揺が走る・・・事態がそこまで深刻な事に、彼らは始めて気がついたのだ・・・
それに追い討ちを掛けるように、シンジ君が治安維持軍の人達へ、指示を出す・・・

「皆さんには、明確な指示を出せずにお手数を掛けました、今後、去る人を引き止める必要はありません」

治安維持軍の人達に、動揺が走る・・・でも、シンジ君は構わず話し続ける・・・

「また、収容作業を妨害する人を逮捕、保留する必要もありません、
もちろん、撃ち殺すわけには行きませんから、限度ぎりぎりの麻酔を利用してください」

動揺していた、治安維持軍の人達が少し落ち着く・・・しかし、それも長くは続かなかった・・・

「また、眠らせた後の保護も必要ありません・・・
彼らが目覚めるより早く、おそらくここへバサーカーが訪れるでしょう・・・」

治安維持軍に静寂が広がる・・・
彼らは、恐怖の内に悟った・・・自分達が、どこまで追詰められているかを・・・
私の傍らで、同僚のリナレイが固まる・・・
彼女も、ここまで事態が悪化しているとは、思わなかったのだろう・・・

騒乱の主導者達が、彼らの支持者達の元へ帰って行く・・・
数百人のいた彼らは、それぞれ思いおもいの方向へ散って行った・・・

「あっ・・・まって・・・」
「・・・呼び止めては駄目よ・・・」

リナレイが、去る彼らを呼びとめようとするが、私が止める・・・
彼女は、私以上に優しい人なのだろう・・・目に、涙を溜めたまま私を振り返る・・・

「・・・リナレイ、数百の彼らを救うために何千と犠牲者を出したいの?・・・」
「でも・・・でも・・・」

私は、嗚咽を漏らす彼女の顎を持ち上げると、彼女の淡いピンクの唇に自分の唇を合わせた・・・
リナレイの口へ、私の予備のナノマシーンを流し込む・・・彼女は、喉を鳴らして私のナノを受け入れる・・・

「・・・貴方は、人々にとって新天地への導きの女神なの・・・怪我を直して、胸をはって歩きなさい・・・」

彼女は、私の眼を見ると、ゆっくりと頷いて、自分の艦の移乗ブロックへ走り去った・・・

「・・・がんばって・・・」

私は呟く・・・私には、これ以上は彼女を励ますことしか出来ない・・・
私達の艦の移乗ブロックでも、破壊型データ変換機による乗船が開始された・・・

処理事態は簡単だ、被験者が移乗ブロックに数十ある、狭いシャワールームのようなブースへ入る、
彼らの体を、ブースは一瞬の間に破壊しながらデータに変換する、そして圧縮を掛けたデータは、
レーザー回線で母艦に送られ、チュックサムが送り返される、それが合っていればブースのデータは破棄され、次ぎの被験者がブースに入る、それが永遠に繰り返される・・・気の滅入る様な、時間が続く・・・

私は、移乗ブロックを回収しない事を前提に、単分子ワイヤをガイドの一本を残し全て焼ききった・・・
これで気流に揺さぶられる事が減り、レーザー回線の安定度が20パーセント向上した・・・
早速、隣のリナレイにも、同じ処理を行うように提案する・・・私とシンジ君は、
乗船処理をどんどん最適化していき、そのつど同じ事を、隣のリナレイに提案する・・・

「大丈夫・・・僕の全てをなげうっても、貴方を向こうへ送り届けますから・・・
勇気を出してください・・・僕が保障しますよ、痛みは全くありませんから・・・」

そして、もう何百人になるんだろうか・・・ブースに入るのに、しりごみする人をシンジ君が慰めている・・・
見知らぬ人へ彼の笑顔が向けられるたびに、私の胸に嫉妬という痛みが走った・・・

「・・・貴方は、ちょっとだけ恐れただけ・・・私には判るわ・・・貴方なら、きっとやり遂げられる・・・
痛みは全然無いのよ、ただちょっと眩しいだけ・・・ね、大丈夫・・・」

私も彼を手伝うため、怖気づいた男の人たちを宥め、すかし、胸に抱き、頭を撫ぜる・・・
彼らは、私達に何を見ているのだろう・・・安心?・・・絶対的な物?・・・
それは、ひょっとして神の影?・・・ただのAIでしか過ぎない、私には判らない・・・

でも、私は祈らずにはいられない・・・神様・・・どうか、いま少しの時間を下さい・・・と・・・
人間の神は、私達ただのAIでしか無い、ペルソナの願いに答えてくれるのだろうか?

   ・
   ・
   ・

そして、ついに恐れていた事態が起こった・・・星系内への、予定外の大質量物体の実体化・・・
関係者へ緊張が走る・・・この反応は、おそらくバサーカーの惑星級戦闘母艦サイレンの魔女・・・

衛星級Aセーラースターズ系列艦”ツキノ”が数隻、あわだだしく哨戒に発進する・・・
私は、絶望に駆られた・・・まだ、収容すべき人々が残っている・・・
あの騒乱者達は、シンジ君の予言どおりに、呪わしい犠牲者を出してしまうのだろうか・・・

「立ち止まらないで・・・慌てず急いでください、まだじゅうぶん間に合います・・・」

私は、人々に嘘を付いている・・・おそらく、百人単位で取りこぼしが出る・・・
ああ、神様居るのなら今少しの時間を・・・彼らに分け与えてください・・・

やがて、人々の肉眼でも見える距離に、血のように真赤なサイレンの魔女が姿を表す・・・
無駄を覚悟で、衛星級Aセーラースターズ系列艦”ツキノ”が特攻を掛ける・・・
巨大なサイレンの魔女の赤い特殊鋼の平原へ、突き刺さる彼女達・・・

惑星級戦記系列艦”武蔵”が、惑星”イズモ”をサイレンの魔女の射線から守るため、
無理やり前に回り込むように、全速で機動する・・・それに、サイレンの魔女の直径数キロに及ぶ、
ビームが突き刺さる・・・機動にエネルギーを取られていた、”武蔵”の防護磁場は、
それを受け止める事が出来なかった・・・”武蔵”の表面に幾つもの光芒が広がる・・・

そして、バサーカーの惑星級戦闘母艦サイレンの魔女が、無数の搭載艦を放つ・・・半壊した”武蔵”が
生き残った砲台で、それを迎撃するが焼け石に水だ・・・やもえず”武蔵”は最期の掛けに出た・・・

半壊した”武蔵”が、自らの眩しい光芒に消える・・・あたりの空間が、突如振るえた・・・
自爆した惑星規模艦の発する重力波が広がる・・・サイレンの魔女の装甲が、空間と共に大きく裂ける・・・

バサーカーの小型艦が、次々と光の中に消える・・・生き残った大型艦へ、AY系列艦”ヤマト”達が
次々特攻して行く・・・衛星軌道上は、プラズマの光で満ち溢れ・・・地上を、太陽よりも明るく照らし出す・・・

地表が揺れる・・・地殻が傷ついたのかもしれない・・・レーザー回線にも、ノイズが増える・・・
だめ・・・回線が維持できない・・・警報が鳴る、移乗ブロックとの回線が断絶したのだ・・・

艦のデッキに、私のフォロが立上がる・・・
私は泣きながらも緊急機動に備えて、通常推進系へエネルギーを送り込み、アイドリングさせる・・・

「・・・リナレイ、聞こえる!・・・すぐに逃げ出すわよ、私に続いて・・・・」
「えっ、でもレイ!まだ下には人が・・・人が残ってるのよ・・・」

彼女は優しい・・・でも、いまは心を鬼にしてでも、救い上げた人たちを守らなければ・・・
私は最大戦速でプラズマ炎を後方へと噴射し、軌道を離れた・・・見れば、彼女はまだ動く気配が無い・・・
リナレイ、何をやっているの・・・いまは、即断の時だと言うのに・・・

「・・・リナレイ!離脱するの・・・もう地上と、レーザー回線は二度とつながらないわ・・・」

やっと、リナレイ達がプラズマ炎を吐いて動きす・・・私はホッとした・・・
でも、次の瞬間それは嘆きに変わる・・・
私達より加速に劣る、リナレイ達はサイレンの魔女の放つ、ビームの縁に捕まった・・・
惑星を、マグマ層まで掻き削るビームの縁だ、一介の繁種船に立ち打ちできるはずはない・・・

真っ白な艦体後部が黒く焼け落ちる・・・
後方光学センサーには、青白い放電に舐め尽されるアヤナミ1995が写る・・・

「・・・リナレイ!・・・」

私のフォロが叫ぶ・・・しかし、それに答える声は無かった・・・



To Be Continued...



-後書-


ごめんなさい、良い所で時間が切れてしまいました・・・
次回後編・・・はたしてレイ達の運命は・・・
外伝の”アタシの名はアスカ”読めば判りますけど・・・まあお約束で・・・(滝汗)


ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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