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EVA・きっと沢山の冴えたやり方

・第十一話 鳴らない、電話・小鳥達の日常U   by saiki 20021122




綾波に妹が出来た次の日・・・
ちょうど非番のミサトさんを呼んで、僕達はささやかなパーティを開いた。
何のパーティなのと聞くミサトさんに、綾波が答える・・・

「・・・私に、妹ができました・・・その祝いです・・・」
「レイ、妹が出来たって・・・いったいどういう事!」

絶句するミサトさんを、僕は必死に笑顔でなだめ誤魔化し・・・
ちょっと常識に疎いアイカを、戸惑いながらもミサトさんが我が子の様に、可愛がってくれ・・・
ミサトさんが連れてきた、ペンペンとアイカがすっかり仲良くなり・・・
僕達の用意したビールを全て飲み干して、ミサトさんはほろ酔い気分で自宅へ帰って行った・・・

   ・
   ・
   ・

そして、瞬く間に一週間が過ぎた・・・

アイカには父さんの手配でちゃんと戸籍を用意した、第四使徒戦以後に、小学校へ転校させようと思う。

そのために、急いで小学校6年生ぐらいの学力を持たせようと、僕達はがんばって・・・
アイカも小学校に行くのを楽しみにしていて、僕達の個人授業に必死で付いて来ている。

ただ問題だったのは、欠けてる一般常識だ、
最終的には綾波や僕と記憶交換に近い裏技まで使ってなんとか、
10歳ぐらいに見えるところまで引き上げた・・・つもりだ・・・

そして、やはり最後まで問題になったのは、人間関係だ・・・
僕も綾波も、お世辞にもうまいとは言えない・・・
また護身上、綾波が格闘の知識を与えたので、
過剰防衛と言う問題も出てきた・・・怪我人が出ないと良いけど・・・

僕としては、アイカが良い学校生活を送ってくれればと願い、もう少し改善しようと努力している・・・

そして、僕の中学への転校も決まった・・・
僕達が二人とも学校へ行ってしまうと、アイカが一人で留守をする事になるので、
本当は休学する気だったんだけど、僕がレイのお願いに折れた形で、転校が決まってしまった・・・
今度は、トウジの妹が無事なのが、確認できたから・・・
前のように、彼らと仲良くなれるかどうか解らないけど・・・
でも・・・彼の妹が無事で、ほんとに良かった・・・

できれば、今回はトウジとヒカリさんの仲を早めにまとめてあげたい・・・
とりあえず、アイカを一人で留守させるのは問題なので、一月分のお弁当と
引き換えに、ペンペンを昼間の間借り出した・・・すまないペンペン・・・

結局、アイカは僕達が居ない間、ペンペンと一緒にインターネットと勉強をしている・・・
なんだか、お父さんと同じ事をやってるようで後ろめたい・・・ごめんよアイカ・・・

     ・
     ・
     ・

ある日の夕方、僕がアイカの勉強を見ていると、玄関で呼び鈴が鳴る・・・
ミサトさんかな?・・・ここの所、ミサトさんは良く食事をたかりにくる・・・
僕は、加持さんに、こんな彼女をちゃんとフォローできるのか、しばしば悩むことがある・・・
手の離せない僕に代わり、綾波が玄関へ応対に出た・・・

「綾波さん!いままでどうしてたの!無事だったの!貴方の家に行ったら部屋が荒らされてるから私!」
「・・・・・・」

玄関からは、どこかで聞いたような人の声が・・・

「綾波?誰が来てるの?」
「レイおねーちゃん、どうしたの?」

僕とアイカが玄関へ顔を出すと、顔ににきびがうっすらと残る、
お下げ髪の少女が学生服に身を固め立っていた・・・綾波が、やっと彼女の名前を思い出したようだ・・・

「・・・ 洞木(ほらぎ) ・・・さん・・・」

そしてお下げの彼女は、僕達を見わたして目を丸くして大声で叫ぶ・・・

「ふ!ふけつよ〜〜〜〜〜〜〜っ!」

コンフォート17の平和な夕方を、お下げの少女の雄叫びが破った・・・

どうやら洞木さんは、溜まったプリントを届けようとして綾波のマンションへ行き、
ドアが開いてたので中を見て、そのあまりの惨状に誘拐強盗と勘違いをして学校に通報、
先生達を慌てさせたが、おりしも住所変更が確認され誤解が解け、ここへわざわざ寄ってくれたらしい・・・

まあ、一月あまり休んでてどうしたのだろうという、好奇心に勝てなかったのもあるのだろうが・・・
委員長(かのじょ) らしい責任感も否定できない、そして僕達三人を見て”子供が出来て同棲”と勘違いし、
先ほどの雄叫びを上げたらしい・・・
まあ子供の件以外は、あまり現実と違いないけど、あえて何も言わないほうが無難だ・・・

「ごめんなさいね、綾波さん、私、あわてものだから・・・」
「・・・なんでもないわ洞木さん・・・紅茶飲んで・・・落ち着くから・・・」

洞木さんが恐縮しながら、僕達に謝る、綾波が安心させるように微笑み紅茶を勧める・・・
綾波の笑顔を見て、洞木さんが惚けたように動きを止める・・・
無理ないな、僕が見てもほんとに可愛いし・・・

「こちらこそ、混乱させたみたいだね洞木さん」
「おねーちゃん大声上げるから驚いちゃった・・・」
「クァーッ」

洞木さんに、僕はにこっと微笑む、アイカとペンペンもそれぞれ笑いかけた・・・
彼女は微笑む僕達を見て頬を紅く染め動きを止める、うん、アイカとペンペンはほんとに可愛いから・・・

「・・・洞木さんプリントありがとう・・・これお礼・・・食べてくれる?・・・」
「うん、とても良い匂い、いただきます、綾波さん・・・」

綾波が洞木さんに、午前中に僕と一緒に作ったクッキーを出す・・・綾波は最近料理を僕から学んでる・・・

「おいしい・・・綾波さんお菓子作るのとっても上手なのね・・・」
「・・・ありがとう・・・でも、碇君に教えてもらって始めて作ったの・・・」

洞木さんがクッキーを誉めると、綾波が恥ずかしそうに俯く・・・

「うそ・・・碇君も作るの・・・」
「・・・碇君の料理は・・・とても美味しいの・・・」
「うん、お兄ーちゃんの作るりょーり、アイカ大好き」
「クアッ、クアッ」

洞木さんが驚きの表情を浮かべ、綾波、アイカ、ペンペンが、肯定しつつ、
料理の味を反芻して恍惚の表情を浮かべる・・・皆が美味しいと言ってくれると、僕も嬉しい・・・

「僕は得意なのは洋食だけど、洞木さんは?」
「・・・私は、父さんと姉と妹の食事を作ってるだけだから・・和食しか出来ないわ・・・」

僕は洞木さんの言葉にちょっと思いついて、あることを提案して見た・・・

「じゃあ洞木さん、プリントを届けてくれたお礼に、うちで晩御飯を作って帰らない?」
「えっ?」
「今から買い物して帰ると遅くなるから・・・終わったら僕が送ってくよ・・・それと、僕も料理作るから
半分メニューを交換しない・・・たまには綾波やアイカに、僕の味以外も食べさせたいから」
「え、ええっ?・・・碇君、いいの?」

洞木さんは僕の提案に目を白黒させる、僕はいたずらっぽくクスクス笑った・・・

「・・・わたしも・・・洞木さんの料理食べて見たいわ・・・」
「アイカも食べて見たい、お願い洞木お姉ちゃん・・・」
「クワッ・・・クゥゥッ」
「わ・・・わかったわ綾波さん、アイカちゃん、それからペンペンさん?・・・」

二人と一匹のお願いに洞木さんは折れた・・・彼女は家に電話をしてその旨を伝え・・・
そして僕と二人でエプロンに身を固めキッチンに立つ、
さすがだ洞木さん、彼女は流れるような動作で、8人前の夕食を仕上げていく・・・
僕も負けじと彼女の動きを縫うように場所と器具を使い、やはり8人前の夕食を手がける・・・

「さすがだ・・・やるね、洞木さん」
「いえいえ、碇君にはまだ及ばないわ・・・」

きっちりと後片付けまで終わったキッチンに、僕達二人が立ちお互い不敵に微笑む・・・
こうして、碇家、第一次料理の鉄人対決は、引き分けに終わった・・・
僕達の背中を、綾波は微妙な嫉妬を視線に込めて、アイカは純粋な羨望の眼で、
ペンペンは自分の飼い主が、ここまでやれたらという涙ににじむ目で見つめる。

「じゃあ、みんな食べててね、洞木さんを家まで送ってくるから」
「おやすみなさい綾波さん、アイカちゃん、ペンペン・・・」

洞木家の夕食のタッパーを持った僕と、鞄を持ち三人に手を振る洞木さんが玄関にたつ。

「・・・おやすなさい、洞木さん・・・」
「おやすみなさい洞木おねーちゃん」
「クアッ」

皆が洞木さんに別れを惜しむ・・・僕はすっかり日が落ちた道を、洞木さんを家へ送るため一緒に歩く・・・

「アイカちゃん可愛い・・・うちのノゾミも同じように可愛ければ良いのに・・・」
「洞木さんそれは”隣の芝生は青い”だよ・・・こんどノゾミちゃんを連れて遊びに来てよ、歓迎するから」

僕は洞木さんに笑顔で語りかける・・・洞木さんはちょっと頬を染めて、それに答えた・・・

「じゃあ日曜日で良いかしら、あの子もペンギンさんが居るから喜ぶわ・・・
それに、綾波さんも、もうしばらく学校へこれないんでしょ、タッパー返しに行かないといけないから・・・」
「うん、お願いするよ、アイカはこっちに友達いないから、きっと喜ぶよ」

この後、洞木さんの家に着いた僕達は、僕を新しいボーイフレンドと勘違いしたコダマさんとノゾミちゃんが、
盛大に引きとめようと、上がってお茶でも攻撃にさらされたとか・・・いろいろ、面白い事もあったけど・・・
まあ無事に帰れたから、良しとしよう・・・
そして、家に帰った僕は目を涙で潤ませた二人と一匹に再会する・・・

結局、綾波、アイカ、ペンペンは、僕が帰るのを食べずに待って居てくれた・・・
少し冷えた料理を僕達四人は楽しく食べる、洞木さんの料理もとても美味しい・・・
そして日曜に、洞木さんの妹が遊びに来ると、僕が教えるとアイカがすごく喜こぶ・・・
二人が仲良くなってくれれば良いんだけど・・・そうだ、同じクラスにするよう父さんに頼んでみようかな・・・

     ・
     ・
     ・

あの後、不眠不休のマヤさんによって、稼動状態まで修復された零号機は、
お父さん達のこまごまとした工作で、伸びに伸びた松代への出張から帰った、
リツコさん主導で行われた起動試験で、見事に初起動を果たした・・・

いつの間にか、怪我から復帰したレイに不審の目を向けつつも、リツコさんは
起動試験に臨み、レイがシンクロ率99.89%を叩きだすのを見て頭を抱え、
彼女はすごい目つきで試験に同席した僕を睨みつけた・・・
やっぱり怪しすぎますか、リツコさん、でも貴方が望まないと僕は何も話しませんよ・・・
僕の目が、笑いながらそう語っているのを悟ると、リツコさんは目をそらした・・・

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     ・

今日から、僕の二度目の学生生活が始まる・・・

「行ってらっしゃい、シンジお兄ちゃん、レイお姉ちゃん」
「良い子にしてるんだよアイカ」

僕はアイカの頭を撫ぜる・・・アイカが嬉しいそうに微笑んだ・・・

「うん、ペンペンと一緒にインターネットしてるから」
「・・・ペンペンと仲良くね、アイカ・・・勉強も忘れないでね・・・」
「うん、レイお姉ちゃん、ペンペンは私の親友だもの・・・それと勉強もするから・・・」

アイカが、ミサトさんのとこから遊びに来ているペンペンを抱きしめて、一緒に手を振る・・・

この一週間でレイとアイカは、実の兄弟以上に近しい仲になっている・・・
兄弟の居ない僕は、そんな彼女らがちょっとだけ、うらやましく感じた・・・

僕と綾波は並んで通学路を歩く、綾波の僕への依存症状はずいぶん薄れてきたようだ・・・
立ち振るまいがかなり自然になって来ている、そう言えば綾波は半月ぶりの学校になるはずだ・・・

「おはよう・・・碇君、綾波さん・・・今日から二人とも学校?・・・」
「おはよう洞木さん、僕は今日から転校、綾波は復学だね」
「・・・おはよう洞木さん・・・今までありがとう・・・」

洞木さんが僕達を見つけて手を振る・・・何度も綾波にプリントを持ってきたり、
ノートを貸してくれたりして貰って、僕達はすっかり彼女とは仲が良くなった・・・

「どう致しまして・・・ああ、この前碇君にもらったおかずすごく美味しかったわ、
今度レシビ教えてね・・・それとノゾミが綾波さんに貰ったクッキーが凄く美味しいって」
「うん、お昼にでもレシビ渡すよ」
「・・・よかった・・・また今度、クッキー焼くから・・・もって帰って・・・」

それと、アイカとノゾミちゃんとペンペンもすっかり仲好しだ・・・
今では、一緒に登校するのを楽しみにしてるらしい・・・

結局、学校に着くまで料理談義で三人とも盛り上がってしまった・・・
そして、ホームルームの時間、僕は自分の名前を書いた黒板の前に立っている・・・

「第二から来ました、碇シンジです趣味はチェロと料理です、よろしくお願いします」

あの後二度と会えなかった皆が居る、教室を見回した僕の始めての印象はただそれだけだった。
だから僕は精一杯の笑顔を浮かべて挨拶した・・・教室のざわめきが消える・・・

「碇君、空いてる席に着いて下さい・・・」
「はい」

僕は最前席の洞木さんに軽く目で挨拶してから、迷わす綾波の後ろの席に着く・・・
前はこんなに静かだったっけ・・・とりあえずノートパソコンをLANに繋ぎ立ち上げる・・・
先生はセカンドインパクトの話を始めた、変わらないな・・・立ち上がった画面にメールが一件・・・

《お昼一緒に食べませんか : 洞木》

洞木さんからお昼の誘いが来た・・・
僕はさりげなく綾波の背に指を這わせると、個体ATフィールド越しに意識のプロトコルを繋ぐ。

〈綾波、洞木さんからお昼のお誘い、受ける?〉
〈・・・碇君は?・・・〉
〈受けるつもり〉
〈・・・私も・・・〉
〈じゃあお昼をお楽しみに〉
〈・・・うん、碇君・・・〉

一瞬で情報を交わして、僕は綾波の背から指をはなし、返信を打った・・・

《綾波と一緒でよろしければ喜んで、良い天気だから外で食べない? : 碇》

洞木さんからの返信が着信する・・・

《こちらこそ、綾波さんによろしく。 ps・レシビ期待してます : 洞木》

僕は洞木さんの返事に思わず苦笑すると、早速レシビをしたためる。
お昼か・・・ちょっと先だな・・・僕は早速、席が最後尾なのを良い事に、内職を始めた・・・

お昼になると、僕は綾波と外で食べる気で用意したシートを取り出し、
綾波と洞木さんを伴って、弁当を持ち外へ向かう・・・
なんだか、回りから注目されてるような気がする・・・僕は頭をかしげた、変だな・・・

「碇君・・・シート持参なの、用意良いわね・・・」
「今日は良い天気だからね・・・あ、レシビ渡しておくよ」

僕はレシビの紙を洞木さんへ渡すと、裏庭の木陰の芝生の上にシートを広げる・・・

「碇君達のお弁当美味しそうね・・・これ全部碇君が作ったの?」
「・・・これと・・・これは私・・・」
「うん、綾波もずいぶん上手になったね・・・これとこれは僕のお勧め、食べて見てよ洞木さん」

僕はお弁当の蓋に、幾つかおかずを載せた・・・綾波も負けじと、自分の作ったおかずを載せる・・・

「・・・私のもたべて・・・洞木さん、意見ほしいの・・・」
「じゃあ、これは私の自信作、碇君達に食べて見てほしいわ」

洞木さんも対抗上、おかずを出す・・・そんな僕らはお互い見合って、誰からとも無く笑い始める・・・

「クスクス・・・綾波さん、凄く表情が豊かになったわね・・・ひょっとして碇君のせい?」
「・・・うん、洞木さん・・・いまの私があるのは碇君のおかげなの・・・」

二人共いつの間にか、思いもよらぬ意味深な受け応えをしていた事に気づき、紅くなって沈黙した・・
僕は苦笑しながら、洞木さんのおかずに箸を付ける・・・
見事な味付けだ、冷えてもそれが損なわれていない・・・

「さすがだね洞木さん、塩と砂糖の加減が絶妙だよ・・・」
「碇君のも、凄いわ・・・これもレシビほしい・・・
綾波さんのも、とても一週間前に始めたとは思えない出来ね・・・侮れないわ」

僕達三人、弁当をつつきながらの料理談義に花が咲く・・・
きっとこれが、平和と言う物なんだろうな・・・僕はしみじみ感じて、幸せなため息を漏らした・・・

     ・
     ・
     ・

僕はため息を付いた・・・午後から、保安部絡みの用事が在るので、
早く終わらせたいのだけど・・・そうも、いかないらしい・・
いま、僕はエヴァのエントリ−プラグの中に居る・・・

『シンジ君、インダクションモードでの射撃シミュレーション、始めるわよ』
「わかりました・・・手早くすまします・・・開始してください」

ミサトさんが妙に張り切った声を上げる・・・
父さんには、僕達に訓練は必要ないって言っておいたんだけど・・・
作戦部に押し切られたらしい、まあ無理も無い事かもしれないな・・・

『マヤ、射撃シミュレーション、スタート』
『はい、射撃シミュレーション、スタートします』

僕を取り巻くように、仮想の第三新東京市が現れ、サキエルが攻撃を仕掛けてくる・・・
仮想のエヴァが撃つパレットライフルが、三点バーストで命中、目標を撃破する・・・

僕は無駄弾も無く、順調に目標を撃破し続ける・・・ちょっと退屈だ・・・

「リツコさん、なんか相手の攻撃が単調ですね、もう少し上のレベルは無いんですか?」
『解ったわシンジ君、ステージクリアごとにレベルを上げて行くように、設定を代えるわね』

リツコさんの嬉しそうな声が聞こえる、きっと、僕の正体をつかむためのデータが
増えるって喜んでるんでしょうね・・・解れば良いですね、リツコさん・・・

「ごめんなさい、ちょっと生意気でしたか?・・・」
『良いのよシンジ君、お互い無駄な時間は無いんだから』

まったく、僕も同じ意見ですよ・・・仮想空間の敵の出現スピード、複数同時出現、
移動スピードも速くなる、僕は他の事を考えながら、無意識に目標を撃破し続けた・・・

『シンジ君!・・・シンジ君!・・・』
「あ、はい・・・何でしょうミサトさん?」

ちょっと考え事していて、注意が疎かになっていたようだ・・・
ミサトさんが、いらついた表情で僕を睨んでいる・・・

『最高レベルの射撃シミュレーションを三回クリア、
シンジ君、どこで、ここまでの腕前になるまで練習したの?』
「町のゲームセンターです、これでも結構、高得点まで行くんですよ」

疑い深そうに、僕を見つめるリツコさん・・・僕の答えを聞くと
ますます目つきが怖くなる、ミサトさんは拍子抜けした様子だ・・・

『ゲームか・・・パイロット控え室に、何台か導入を考えた方が良いかもね・・・』
『もう良いわ、シンジ君上がって・・・レイ、今度は貴方の番よエントリ−して』
『・・・はい、赤木博士・・・』

冗談を言うミサトさんに、リツコさんの険しい視線が刺さる・・・
僕に代わって、綾波の射撃シミュレーションの準備が始まる。

「綾波・・・」
『・・・なに?碇君・・・』

スクリーンに写る、純白のプラグスーツに身を包んだ綾波の姿が、とても綺麗だ・・・

「がんばって」
『・・・うん・・・まかせて・・・』

僕の声に、綾波はとても麗しい笑顔で答える・・・
ミサトさんもリツコさんも、綾波の笑顔に相変わらず驚いているようだ・・・
まあ、無表情な綾波に慣れてるから、仕方ないかもしれないね・・・

今度は零号機が、仮想の第三新東京市に現れ、次々現れるサキエルを仮想エヴァの持つ
パレットライフルで確実に、三点バーストで撃破する・・・
しばらく、それが続き・・・時間が経つに従い、スタッフの顔に困惑が広がる・・・

『なんで、レイまで最高レベルの射撃シミュレーションを軽々三度もクリアするのよ』
「・・・問題ありません・・・葛城一尉・・・」

綾波は一見無表情に見えるけど、僕の目にはちょっと頬を膨らませているのがわかる・・・
クリアしろと言われて、その通りにしたのに文句を言われればあたりまえかな・・・

『まさか貴方も、ゲームで高得点出してるって、シンジ君と同じ事を言わないわよね』
「・・・いけませんか・・・赤木博士・・・」

心底意外そうな声で、綾波がリツコさんに答える・・・まあ事実だから・・・
昨日、アイカの社会勉強の時に三人で行ったし・・・アイカ以外はみな高得点だったからね・・・

『もう良いわ、レイあなたも上がってちょうだい・・・』

心底疲れた様子で、リツコさんが指示を出す・・・お疲れ様ですリツコさん・・・
でも、このままのパレットライフルには致命的な欠陥が在る・・・
ここは、リツコさんもミサトさんも気付いて無いので、指摘しておかないといけないな・・・
まあ前回は、僕も気が付かなかったんだけど、あれから僕もいろいろ学んだからね・・・

「リツコさん、これ実戦で使うんですか?」
「もちろんよ、何の為に射撃シミュレーションをしたと思うの?」

リツコさんの機嫌は最低のようだ、でもほって置く訳にいか無いな・・・
黒い眉をしかめ、睨め付けるリツコさんに、僕は課題を与える先生の気分になってしまう・・・
やれやれ、そんなに睨む事は無いのに・・・僕は、ため息を突いた・・・

「これに使う弾種は?」
「UNのMBTと同じ、劣化ウラン弾よ」

リツコさんも科学者だから、そこまで考えないのかな・・・でも・・・

「目標を貫き中に留まる事を前提とした劣化ウラン弾が、
ATフィールドとか、強固な使徒の体表で、砕け散った場合は周辺を
八酸化三ウランを初めとした、低放射性核物質とはいえ汚染すると思うのですが」
「マヤ、急いでマギでシミュレートして第三使徒戦での核被害の範囲とレベル」

やっと事態の深刻さに気が付いた、リツコさんが青くなる・・・
そう言えば、国連軍も劣化ウラン弾を使ってたんだ・・・僕も背筋がぞっとした・・・

技術部が騒然として慌しくなる、そのすぐ後作戦部も・・・
慌しく騒ぐ周りから、僕達はそのまま取り残された・・・

「午後からは保安部と忙しくなるから、食事に行こうか・・・」
「・・・うん、碇君・・・」

綾波が微笑む・・・僕は忙しく電話を掛けているミサトさんを捕まえて、
退室する旨伝える・・・二つ返事で了解をもらうと、食堂へ向かった・・・

食堂で大盛のサラダをつつきながら、僕の話を聞いて綾波がため息を突く・・・
確かに前回サードインパクトが起こらなかったら、劣化ウラン弾のせいで沢山の人が、
肺癌や皮膚癌、甲状腺癌などの癌で苦しんだろうと思うと僕も頭が痛い・・・

「結局・・・なんでも後知恵なんだよね・・・」
「・・・碇君、私達の存在自体が後知恵その物よ・・・」

再び僕達は、ユニゾンして重いため息を付いた・・・
案外、世界と言う物は僕達が思う以上に、もろく儚い物かもしれない・・・

後日、使徒攻撃に劣化ウラン弾の使用はUNの権限で禁止された。
パレットライフルの弾種は高価な超硬度タングステン弾に変更される。

     ・
     ・
     ・

午後から僕達は保安諜報部の人達と、お手合わせする事になっていた。

発端は、父さんが僕達の監視活動を止めた事と、部屋から出てきた大量の盗聴器だ、
マヤさんが調べたところ、ほとんどが戦自と内調の物で、おそらくハウスケア会社に、
スパイがいると言う事で、手をまわすと言ってたけど、幾つかネルフ保安諜報部の物が、
出てきたらしい、また、どうやらリツコさん手製の物まで出てきたと言うし・・・
リツコさんも、なかなかに侮れないね・・・

逆に保安諜報部が穴だらけでも有るらしい・・・冬月さんが困った物だと唸っていたけど・・・
ほんとに困るのは僕達だから・・・再度、父さんに僕達の監視活動を止める様命令してもらった。

今度はチルドレン警備の支障になると、抗議が父さんの所に来た・・・
冬月さんが困って僕に相談する、そこで僕達は提案した、じゃあガードが必要なければ
監視の必要は在りませんねと、冬月さんは驚いてたけど・・・ATフィールドを単体で張れる、
いまの僕達に、危害を与えるには最低でも複数のN爆弾が必要だから・・・

人員が余れば、僕としてはアイカやクラスの皆の、警護に回してほしい・・・

そして、僕達は保安諜報部の防具を着た猛者の人達と、お見合いをしている・・・
仲人はお父さんと副司令、それに保安諜報部の責任者の人だ・・・
それに興味を持ったのか、リツコさんとミサトさんが、ちょっと離れて壁の花をしている。
父さんが立ち上がる、一斉に回りに緊張が走る、父さんはサングラスを外すと口を開いた。

「諸君すまない・・・今まで良く、ファーストチルドレンの綾波レイを守って来てくれた・・・
だが、使徒の襲来により守るべき対象が広がり、またファースト、サードともに一定以上の
自己の防御が可能な能力を身に付けたので、
連絡要員としての数名を残し、諸君らは本来の任務に戻ってもらいたい」

話し終わると、父さんは皆に向かって頭を下げた・・・立派だよお父さん、僕は微笑む・・・
いままでの威圧感ではなく、父さんがまず頭を下げる事から始めたので、みんな戸惑ったようだ・・・
ミサトさんは何が起こったのかと、リツコさんは信じられなくて呆然としている・・・

「どうも、この程は我がまま言って申し訳在りません、父さんからお話いただいたサードの碇シンジです、
本来なら皆さんに僕のガードをお願いするところなのですが、事態はますます悪化すると思われます・・・」

今度は僕が進み出て、笑顔を振りまきながら口を開く・・・すでに僕は、防具を着ている・・・

「あるいは、今後、ガード対象が僕の知り合いとか、友人へと広がるかもしれません・・・
その為、少しでも余裕を持たせるための方便とでも、思っていただければ幸いです」

僕も彼らに頭を下げる、まあプロのプライドが在るから、納得してくれないだろうなやっぱり・・・
まず一対一、その後は多対一で、ちょっとしたデモンストレーションをする事になっている・・・
保安諜報部の人達の中から、ひときわ存在感の在る人が僕の前に進み出た・・・

「シンジ君、俺はファーストのガードのチーフをしていた山岸だ、
君は自信が有るんだな、その実力のほどを教えてもらおうか・・・いつでも良い、かかって来たまえ!」
「はい・・・ごめんなさい、無理なお願いを聞いてくれて・・・怪我しないで下さいね」

この人はきっと良い人なんだろうな・・・他の人と違って余り邪気を感じない・・・
僕は予備動作なしで、あっさり山岸さんを手加減して投げ飛ばす・・・
呆気に取られたまま、山岸さんは保安諜報部の訓練室の畳の上を滑っていき・・・壁に当たって止まった。

「ふう、とりあえず出来るようだなシンジ君、皆手加減はいらん稽古を付けてもらえ!油断するなよ!」

山岸さんは僕に、得体の知れない物を敏感に感じたらしく、部下達に遠慮なくかかる様に命じた・・・
僕は、飛びかかかって来る人たちを受け、あくまで自然に投げ飛ばして行く・・・
瞬く間に、僕の前に人は居なくなった・・・
幾人かはちょっと強めに投げたので、意識が無く起き上がれない・・・

「ごめんなさい、未熟者なので力が入りすぎました、お医者さんを呼んでください・・・」

僕は頭を下げて謝った、リツコさんが起き上がれない人たちに駆けよる・・・
そして様態を見て、僕を睨んだ・・・

「碇司令・・・足の骨と、幾人かは肋骨が折れてます・・・」
「わかった赤木君、すぐ医療班を回してくれ・・・」

リツコさんは携帯で医療班を呼び出し、父さんは呆然としている・・・
綾波もちょっと意外そうな顔をしてた・・・

「綾波、君の番だ・・・がんばってね・・・」
「・・・うん、碇君・・・」

僕は、父さんの隣に座っていた綾波へ、手を貸して送り出すと、入れ替わりに椅子に腰を下ろす。
綾波には手を握った時に、個体ATフィールド越しに何故ああしたのか、知らせたので納得したようだ。

「シンジ・・・何故、怪我人を出した・・・」
「父さん、彼らは二重スパイだよ・・・ひょっとして余計なことだったかな・・・
でも僕としては、彼らにあまり酷い事をしないでくれるとありがたいけど」

父さんが小声で僕に尋ねる・・・綾波の様にすんなりと意思疎通できないので。
ちゃんと小声で理由と、彼らの扱いの希望を入れておく・・・
父さんは意外そうな顔で考え込んだ、これだと彼らは父さんのチェックに漏れてたのかもしれないな・・・

「・・・ありがとうございます・・・これまで皆さんが私を、ガードしてくれてたんですね・・・
碇君だけじゃなく、私も無理なお願いをして、ほんとにごめんなさい・・・皆さん怪我しないで下さいね」
「うむ・・・君のボーイフレンドのおかげで、ちょっと数が減ってしまったが、
まあ、連中には良い薬になったろうから気にしないでくれ・・・しかし、信じられんな、
サードはともかく君もか?・・・まあ今度は油断はしないよ、かかって来たまえ!」

今度も山岸さんが代表で一人で前に出る・・・綾波は心底すまなそうに謝った・・・
そして綾波も、優雅な動きで手加減を忘れずに山岸さんを投げ飛ばす・・・
構えていた山岸さんは、僕の時と同じように。吹っ飛んで壁に当たり止まった・・・

「くう、またか・・・、我々では歯がたたんか・・・無駄だと思うが・・・総員かかれ!」

山岸さんは綾波にも、僕と同じ物を感じたらしく、
諦めにも似た心境で、部下達に遠慮なくかかる様に命じた・・・
綾波の周りを、暴力と呼ばれる渦が吹き荒れ、
飛びかかかって来る人を、優雅な動きで投げ飛ばして行く・・・
彼女の回りに人が居なくなるのにたいして時間はかからなかった・・・
僕は立ち上がって、綾波の元へと歩く・・・

「お疲れ・・・綾波」
「・・・碇君も・・・」

僕達は笑って見詰め合った・・・そんな僕達に、山岸さんも笑って手を差し出した・・・

「フッ・・・君達は強いな、よほどの達人か、それとも我々がペテンに掛けられてるのか・・・
まさか赤木博士開発の怪しいドーピング薬・・・と言うことも無いと思うが・・・」
「ごめんなさい、山岸さん機密なんです、知らないほうが善いですよ、知ると後悔しますから」

確かにペテンだよね、綾波も僕も人じゃないから・・・でも知らせるわけにも行かないし・・・
僕は心の中でちょっと舌を出し、悪びれず謝る・・・ごめんなさい皆さん・・・
そんな僕らを、ミサトさんは嬉しそうに、リツコさんは疑惑に狂った目で見つめ続ける・・・
そして、翌日から僕達に対する監視活動が廃止されガードは最少人数・・・各数人に減らされた・・・

     ・
     ・
     ・

その後も僕達は、作戦部と技術部の作り上げるシミュレーションを、即日撃破し続けた・・・
やがてミサトさんのシミュレーションのストックが追いつかなくなり、自然に間が開いて行った・・・

また、何度もシンクロテストをしようとしたリツコさんだけど、いつやっても僕達のシンクロ率が99.89%なので、
自然とこちらもやらなくなった・・・まあお父さんがやらなくても良いと言ってたのに・・・
二人とも意地でやり続けたわけだし、その為の予算が削れると副司令は大変喜んでくれた・・・

     ・
     ・
     ・

そして、僕達はここしばらく平和な学生生活を続けている・・・

今日も僕達はお弁当を食べた後、僕は裏庭の木陰の芝生の上へ寝転び、
綾波はその横で文庫を読む、洞木さんは料理の本を研究中だ。
誰にも邪魔されない満たされた時間・・・でも、そんな時は突然終わった、僕と綾波の携帯が同時に鳴る。
綾波が携帯のディスプレイを確認して、ちょっと緊張した面持ちで、僕と眼を合わせた・・・

「・・・なに、二人ともどうしたの?・・・・」
「・・・碇君、非常召集・・・」
「今回はちょっと時間がずれたね、綾波・・・やっぱり、バタフライ効果かな?」

慌てる洞木さんをほったまま、僕は綾波の視線に笑顔を返す・・・
綾波はちょっと考え込んでから、文庫に栞を挟み閉じる・・・

「・・・そうかもしれないわ・・・」

洞木さんが体中で僕達に説明を求めてる・・・ごめんね洞木さん。

「ごめん、洞木さん、わけありなんだ、僕と綾波は早退するから、
先生に伝えておいてくれる、学校の方にも連絡は行ってると思うけど、念のために」
「え・・・ええ、 () いけど・・・」

洞木さんが心配そうに僕を見る・・・ああ、彼女に言い忘れた事がある・・・

「洞木さん、もうすぐ避難警報が出るけど、
相田君と鈴原君を絶対シェルターから出さないでね、出ると死ぬような目に遭うから」
「碇君・・・それはどういうこと?・・・」

洞木さんの目に、僕に対する不信感が広がる・・・
言っても洞木さん、信じてくれないだろうな・・・あれを見せるわけにも行かないし・・・

「ごめん、言えないんだ・・・」

僕は草を払いながら立ち上がる・・・その時、丁度、ネルフからの迎えの車が裏門に横付けになった・・・




To Be Continued...



-後書-


MBT = メイン・バトル・タンク主力戦車
劣化ウラン弾 = 重いのが取柄の、劣化とあるけど、生きの良い放射性物質の塊、砕けると大変危険

今回はレイちゃん視点だと暗くなるので明るいシンジ君視点です・・・
なんだか視点の明暗のバランスが難しい・・・

それに格闘描写は苦手なんで、当初はシンジは合気道、レイは白鳳院流古武道(苦笑)
なんかを振ろうと思ってたんですが、ぼろが出そうなのであえて描写を避けました。(滝汗)

なんだか無理やりエピソード詰め込みすぎた感じが・・・
現時点でこのウェブページ内で最長・・・でも綴じ代部分がちょっと辛い(涙)
でも永延と6話に延長とかも問題あるし・・・
予定では三話構成だったのが、すでに四話になってるから手遅れかも(汗)

次回は第4使徒・シャムシエル戦の予定です、視点はやはりリツコかな(謎)


ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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