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EVA・きっと沢山の冴えたやり方

・第十二話 鳴らない、電話・繰返された愚行   by saiki 20021124-20070721




私はだんだんと寂しくなる周りに、ちょっと怖気付いていた。

「綾波さんて・・・こんなとこに住んでるの・・・」

相田君に聞いた道を、私はとぼとぼ進む、こんな時に鈴原が居てくれたら・・・
彼の事を思い出して、私はちょっと頬を染める。
でも、同時に少し腹が立つ、彼はゲームセンターへ私を置いて、相田君と行ってしまったのだ。

「鈴原のやつ・・・ひとの気も知らないで・・・」

思わず、私の口から呟きが漏れる。
いやだ、わたし、こんな事考えて無いのに、
寂しさに圧倒されそうな私、空を見上げると太陽が低い、もうすぐ夕方・・・
閑散とした無人のマンモス団地に、建設機械の音が寂しく響く。
クラス委員長をしてなければ、ちょっとこんな所には足を踏み入れたく無い、
私はやっと彼女の住むマンションの棟を見つけ、薄暗い階段を足音を忍ばせるように上がっていく。

綾波、表札の名前を確かめる。
間違い無い、でも・・・
扉のポストには、色が変色したダイレクトメールや、学校からのプリントが詰まったままだった。

綾波さん・・・ポストを見て無いの? どうして?
相田君、あなた、プリントをいままで、ポストに入れてただけなの・・・なぜ?

「明日、ちゃんと弁明を聞かせてもらうからね、相田君・・・」

私は無性に腹が立ってきた、機械的にプリントをポストにねじ込んていた。
相田君に、ポストを見ない、綾波さんに、私の指が呼び鈴のボタンにかかる、
一瞬の戸惑いの後、私の指はボタンを押す、綾波さんは出ない、もう一度、もう一度・・・
私の指が震える・・・もう一度だけ、私はボタンを押す、部屋の中から何の物音もしない・・・

「なんで、綾波さん・・・」

私の背を冷たい物が滑り落ちて行く、・綾波さん、なんで出てくれないの?
何故その時、そんな事を考えたのか、彼女がアルビノでとても丈夫そうに見えず、
怪我をしたり、しばしば学校を休んでいた事もあるのだろうけど・・・

彼女が中で倒れて、死んでるのでは無いだろうか?
私はその考えに取り付かれる、背筋に冷たいものが伝い無性にここから逃げ出したくなった。

「綾波さん・・・居ないの?」

臆病者の私は、怖くなって相田君と同じ事をしようとした。
気持ち悪い汗で湿った振るえる手で、ポストにプリントをねじ込む・・・
その時・・・ドアが嫌な軋む音と共に開いた。
そしてそれにタイミングあわせたように、辺りに響いていた建設機械の音がぴたりと止まる。
私の周りが、影に引きずり込まれるような静寂に支配された様に感じた。
ゆっくりと目の前でその隙間を広げるドアの向こうには、薄暗い空間が広がる・・・

私の目は思わずドアの向こうを凝視した、早鐘を打つような心臓の音が耳に響く、
このままここから走って逃げたい、でも、私は引き込まれるように靴を脱ぎ中へと進んでしまった。

「あ、綾波さん・・・どこ?」

彼女の返事が無い、日ごろから無愛想で無口な彼女、
私は死ぬほど怖がってる、でも何故前に進むのだろう、クラス委員長の責任、心配だから?
ちがう、きっとこれは私の好奇心だ、綾波さんが如何なっているのか知りたい。
でも、彼女が倒れて冷たくなっていたらどうするの?

・・・いやっ、考えたくない・・・

「鈴原・・・助けて・・・鈴原・・・」

彼の名前を、私は小さな声で繰り返す。
心細いよぅ鈴原・・・そして、中に入った私は、薄暗い部屋の中を見回す。

「なにっ、これっ・・・綾波さんは、こんなとこへ住んでるの?」

幸いな事に綾波さんが倒れてるなんて事は無かった。
でも、ここは何なの?
手から鞄が床に落ちる、私はその場に崩れ落ちるように膝を突いた。
無意識に腕が自分の肩を抱く・・・な・・・なんなのこれは?

コンクリートむき出しの壁、枕とシーツには赤黒いものが染み付き、
冷蔵庫の横のダンボールには、茶色になった血に染まった包帯が投げ込まれている。
私達と同じ女の子の住むところじゃない。

あ、綾波さん貴方いったい・・・?

しかし、呆然と薄気味悪い部屋を見つめていた私は、気が付いた。
赤黒い染みが付いたシーツは乱れたまま、チェストは引き出しが引き出されたままで中が空っぽ、
クローゼットにも何も無い、ノートも教科書も携帯パソコンも、ここで何があったの?

まさか、強盗、誘拐?

私の妄想が、悪い方へ悪い方へと転がり落ちる。

寝ている綾波さんを押さえつける黒い影、もがく彼女、顔に当てられる薬品臭の布切れ、
ぐったりする綾波さん、その小さな口にはガムテープが張られる、次に俯けにされた彼女の手に
後ろ手にテープが巻かれる、そしてスカートが捲れて太腿をさらした彼女の足にも、
他の男達が、彼女の部屋を漁り在る物を片っ端から、ダンボールに入れて持ち出す。
そして最後に、男の肩に担がれた綾波さんが、
もがきながら車のトランクへ押込められ、車はそのまま夜の闇へと・・・

「い!・・・いやあぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜っ!!」

私の悲鳴が誰も居ない部屋に響く、自分の妄想にパニックを起こした私は、
頭をいやいやするようにふる、お下げが自分の頬を叩く。
はっと私は、携帯電話を持ってたのを思い出した、鞄の中を引掻き回し、
めったに使わない携帯を汗で滑る手で握ると、短縮ジョグダイヤルを回した。

「警察、警察・・・だめ、信じてくれないかも知れない。
鈴原、鈴原・・・ああ、あれじゃあ役に立たないわ、そうだ!先生、先生なら・・・」

自分がクラス委員長をしていた事を神に感謝した、
いざと言う時の為、私は先生の携帯番号を知っている。
いまこそ、そのいざと言う時だ、携帯の呼び出しがなる・・・はやく、早く出て先生!

『ああ、洞木さんかね、君が私に掛けて来るのは、ほんとに珍しいね』
「せ、先生!綾波さんが!綾波さんが!・・・助けてください、先生」

私は目に涙を滲ませながら、分けの解らない事をうわ言の様に叫ぶ。
私、何を言ってるんだろう、心の中の冷静な私は呟く、みっともないわよヒカリと・・・

『ああ、落ち着きなさい洞木さん、息を三回吸って・・・吐いて・・・落ち着いたかな』
「・・・は、はい先生・・・」

私は少し落ち着いた、さすが先生、セカンドインパクトの話をするだけじゃなかった。
私は綾波さんの家へ訪ねた訳、何が起こったか、部屋の状態を事細かく説明する。

『ちょっと待ちなさい、警察にお手間を掛ける前に、こちらで分かる事を調べて見ますから』
「お願いします、先生・・・」

私は不安に駆られながら、携帯を握り締めたまま待ち続ける。

『ああ、これは洞木さんにすまない事をした・・・』
「へ、えっ?!」

先生何を言ってるんです、私の事は良いから、綾波さんを・・・

『綾波さんから転居届けが出ている、まだ洞木さんには知らせて無かったね』
「せ、先生〜〜〜〜〜っ」

私は心底情け無い声を出して・・・緊張の糸が切れた私は、泣きじゃくっていた。

『綾波さんの新しい住所を携帯に送ろう・・・心配させてわるかったね・・・』
「先生の・・・ばか!」

私は小声で呟くといきなり通話を切り、手の甲で涙を拭う、
着信音と共に私の携帯電話の画面に、綾波さんの家への地図が送られて来ていた
やっぱり先生は、セカンドインパクトの話をするだけの、ボケ老人だった。

「こうなったら、皿までね、綾波さんの新居を見て帰らなくっちゃ」

私はぐぐっと拳を握り締める、綾波さんの新居を見てみたい・・・
すでに、私の心の中では、当初のプリントを届けるは、二の次になっていた、

   ・
   ・
   ・

良かった・・・私はほっと胸を撫で下ろす、綾波さんの新しい家は普通のマンションだ。
ここも、あの、閑散とした無人のマンモス団地の、廃墟のような家だったらどうしようかと・・・
来るまで散々冷や汗を流していた、私は妄想で押しつぶされそうだったのだ。

私がベルを鳴らすと、ドアが開き、可愛い服をまとった綾波さんが姿を表す。

「綾波さん!いままでどうしてたの!無事だったの!貴方の家に行ったら部屋が荒らされてるから私!」
「・・・・・・」

私は心底安心して、何も知らない綾波さんについ愚痴を漏らす、私、なに言ってるんだろう?

「綾波?誰が来てるの?」
「レイおねーちゃん、どうしたの?」

彼女の後ろから同じぐらいの年の男の子と、少し幼い感じの少女が現れる。
綾波さんと男の子が同棲、幼い女の子・・・綾波さん達の子供・・・こ・ど・も・?
私の頭の中を、妄想が掻き回しパニックになる、同棲、同衾、妊娠・・・

「・・・洞木・・・さん・・・」
「ふ!ふけつよ〜〜〜〜〜〜〜っ!」

私の声が夕闇に響いた・・・

「ごめんなさいね、綾波さん、私、あわてものだから・・・」

私は平謝りに謝る。
ああ妄想が爆発してしまった、綾波さんと妹さんを
碇君のお父さんが引き取ったのだそうだ、ああ恥ずかしい・・・

その後、紅茶とクッキーをいただいて、碇君の好意で夕食の材料を提供してもらう。
成り行きで私は彼と一緒に料理する羽目に、彼の料理の腕は凄い。
なんか長年おさんどんをしていた私が、簡単に負けてしまいそうだ。

出来上がった料理は、半分ずつ交換してタッパーにつめてもって帰った・・・
なんだか凄く、得した感じがして嬉しい・・・
帰りに綾波さんと、彼女の妹、それになぜかペンギンが私に手を振ってくれた・・・

すっかり遅くなったので、碇君が私を家まで送ってくれる・・・
家に着いた私達を、碇君を私の新しいボーイフレンドと勘違いした、
コダマ姉ちゃんと、ノゾミが、無理に引きとめ様子を探ろうと、
お茶の接待攻撃を繰り広げ、私は赤くなったり青くなったりしてやめさせる・・・

碇君、私の家族を変に思わなかったかしら・・・凄くはずかしい・・・
彼はちょっと中性的な雰囲気で、その目は凄く温かい・・・なぜか頼りがいがある感じがする・・・

良いなあ・・・綾波さん、碇君と同じ家に居られて、鈴原もあんなだったら良いのに・・・
ちょっと見ないうちに、綾波さんの表情が柔らかくなったのも、きっと彼のおかげなんだろうな・・・

碇君の、あの太陽のような微笑みにさらされ続けると・・・私も、綾波さん見たいに、
人を引き付ける、笑みが浮かべられるようになるんだろうか・・・
私の頬が、碇君の微笑みを思い出して、ちょっと熱くなる・・・いいなあ、綾波さん・・・

「おいおい、きょうはやけにご馳走じゃないか・・・」
「すごーぃ!ヒカリおねえちゃん・・・」
「これほんとに、あの碇君て子が作ったの・・・」

碇君のおかげで、今日の夕食の席は凄く充実している・・・
食事が遅れて、ぶつぶつ言ってたコダマ姉さんも、久々に帰ってきた父さんも、
おなかすいたを繰り返してたノゾミも、何も言わずに舌ずつみを打っている・・・

私も碇君の作った唐揚をかじりながら、微妙に利かされた香辛料の下ごしらえに舌を巻いた・・・
碇君、この唐揚の下ごしらえのレシビくれないかな・・・うう美味しい・・・

何時もの1.5倍あった料理が全て消えた・・・余ったら明日のお弁当に使おうと思ったのに・・・
みんな食べすぎで、居間に転がっている・・・しまった、小出しにするんだった・・・

「ノゾミ、日曜あいてる?」
「うん開いてるよ、ヒカリおねえちゃん」

そう言えば碇君が、ノゾミを連れて来てって言ってたわ・・・レシビ貰うチャンスかも・・・

「日曜にお姉ちゃんタッパーを、碇君家に返しに行くから一緒に来ない?
綾波さんの妹とペンギンが居るから、退屈しないわよ・・・」
「ペンギン!行くっーっ、行くよヒカリおねえちゃん」

ノゾミが嬉しそうにはしゃぐ、私もちょっと嬉しいかな、碇君達に逢う口実がある・・・
でも、コダマお姉さんはちょっと不満そう、姉さん碇君達に逢ってどうするの・・・

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今日から碇君も第一中学に転校するそうだ、なんだかちょっと嬉しい気がする・・・
碇君や綾波さんに毎日あえる・・・私は碇君の家へ妹を連れて、最近良く出入りしている。

妹のノゾミはすっかりアイカちゃんと友達になった、もちろんペンペンとも仲が良い・・・
最近は、早く一緒にアイカちゃんと登校したいと、私達にノゾミがもらすようになった、

仲が良いと言うのは、ほんとに良い事だ、中学にもなるとああは言い切れない・・・
私は、ノゾミと同じ事を言うと、綾波さんに誤解されるのではないかとか、
いろいろ考えてしまう・・・なんだか、私は言いたい放題の、妹のノゾミがうらやましい・・・

私は少し遠回りになるけど、碇君達の通学路で待ち受ける事にした・・・

「おはよう・・・碇君、綾波さん・・・今日から二人とも学校?・・・」

彼らを見つけた私は、手を振って呼びかけた・・・
なんだか、並んで歩く二人の周りだけ、明るく感じるのは何故だろう・・・

「おはよう洞木さん、僕は今日から転校、綾波は復学だね」
「・・・おはよう洞木さん・・・今までありがとう・・・」

二人は私を見るとすごく温かい笑顔を手向けてくれた・・・私は思わず見ほれて歩みを止めてしまう・・・

その後、学校まで楽しく料理談義で盛り上がる・・・
料理の話題で、私に付いて来れる人が、今まで居なかったのもあり・・・
なんだかすごく嬉しい・・・この短い時間は、私にとっての至福の時間・・・

私と綾波さんは一緒に教室に入る・・・

「おはよう・・・」
「・・・おはよう・・・」

クラスの皆が、はっとして私達の方を振向く・・・クスクス、綾波さんの笑顔素敵でしょ・・・
私は知っている、彼女の笑顔のすばらしさを・・・そして、それが本とは誰に向けられているのかも・・・

私はちょっと優越感に浸る・・・だって、もうすぐ訪れる、彼の笑顔の素晴らしさも知ってるから・・・
やがて鐘が鳴り、ホームルームが始まる・・・

「第二から来ました、碇シンジです趣味はチェロと料理です、よろしくお願いします」

碇君、料理だけでなくチェロも弾くんだ・・・綾波さんは聞いた事が有るんだろうな・・・
私にも一度聞かせてほしいな・・・最後に碇君が、皆に笑顔を浮かべて挨拶した・・・
私達はそれに見とれて・・・教室のざわめきが消える・・・先生が何か言ってるけど・・・

碇君が私に、軽く目で挨拶してくれた・・・なんだかすごく得した気分がする・・・
このクラスの中で彼と親しいのは、綾波さんと私だけ・・・個人的に微笑んでもらったのも、
今は私達二人だけ・・・なんだかすごく嬉しい・・・なんだかこの感じ、鈴原と違う、何だろう・・・

碇君は、綾波さんの後ろの席に座った・・・ノートパソコンをLANに繋ごうとしている・・・
チラッと後ろを振り向いた私は、メールを出すため、キーをすばやく叩く。

《お昼一緒に食べませんか : 洞木》

碇君、私と一緒に食べてくれると良いけど・・・あ・・・返事が・・・

《綾波と一緒でよろしければ喜んで、良い天気だから外で食べない? : 碇》

私も綾波さんが居ると嬉しいな、あ、レシビを頼んでおかないと・・・

《こちらこそ、綾波さんによろしく。 ps・レシビ期待してます : 洞木》

なんだか、彼らとは良く話があう・・・早くお昼が来ないかな、楽しみ・・・

お昼は期待通りだった・・・裏庭の木陰の芝生の上にシートを広げ・・・
私達三人は、お弁当のおかずを交換しながら、料理談義を続けた・・・

楽しい・・・こんなに朗らかな気持ちで最後に話したのは何時だろうか、クラスの皆が、
私を”イインチョウ”て呼びだしてから、私は何時も気を使いながら、話していたような気がする・・・

でも、あれだけ誰とも話さなかった綾波さんと、こんなにうち解けて話せるなんて・・・
碇君達は私を”イインチョウ”ではなく”洞木さん”と呼んでくれる・・・
それは、とても嬉しい・・・でも、いつかぜひ”ヒカリ”って呼んでくれる日が来てほしい・・・

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私達三人は良く一緒に帰る様になった・・・あまり遅くなる時は碇君が家まで送ってくれる・・・

そのたび皆にからかわれるけど、私が碇君には、綾波さんが居るからと言うと、
必ずノゾミがアイカちゃんのお姉さんで、とっても優しくて綺麗なんだとなぜかのろけ・・・
それを聞くと碇君がちょっと顔を赤らめる・・・いいなあ、綾波さん自分を思ってくれる人が居て・・・

私も、鈴原が思ってくれると嬉しいんだけど・・・私の片思いだから・・・

そういえば、時々碇君に貰って帰るおかずは、我が家ではすごく人気者だ、ちょっと悔しいけど、
ネルフという所へ勤めてるお父さんは時々、遅くなると電話をしてくる、でも残念ね今日は
碇君におかず分けてもらったのにと言うと、早く帰るから俺のを必ず残して置けよと、
言い電話を切るようになった・・・

碇君にその事を話すと、それは良かったね、もっと頻繁におかずを分けようかと聞いてくれる・・・
私は、残業ができなくなって仕事の評価に響くからと、笑って言うと・・・頭を掻いていた・・・

碇君はほんとに優しい・・・
その時、彼は綾波さんだけでなく、私にもちょっとだけ幸せを、分けてくれてるんだなと感じて・・・
心が温かくなって、私の頬は少しだけ赤さを増す・・・
でも彼には綾波さんが居るから、私は多くを求めてはいけない・・・

今度、私もお返しにいっぱいおかずを持っていこう・・・
碇君達は私のおかずを、”お母さんの味”だといって、何時も喜んでくれるから・・・
でも、私の心境は複雑だ・・・
この歳で”お母さんの味”を出せる、私と言う存在は・・・ちょっと悲しくなった・・・
お母さん・・少しだけ、貴方を怨ませてくれますか・・・私は、お母さんの遺影に愚痴をこぼしたくなった・・・

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私は最近気が付いた、たまに碇君達はアイカちゃんを残し揃って居なくなる・・・
どこへ行くんだろう・・・そう言えば、綾波さんは昔から良く怪我したり休んだりしていた・・・

アイカちゃんに聞くと”きぎょうひみつ”なんだそうだ・・・
なんだか、少ししか経って無いのに、アイカちゃんがどんどん大人びてきてる気がする・・・
最初に会った時は幼稚園児みたいだったけど、今ではまるで中学生みたいだ・・・

二人とも、危ない事をしてるんじゃ無いと良いんだけど・・・
ふっと気が付いて、アイカちゃんに碇君達が心配じゃ無いかと聞いて見た・・・

「大丈夫だよヒカリおねーちゃん、おにーちゃんと、レイおねーちゃんは不死身だから」

それを聞いてノゾミは、おーそれはすごいと、笑う・・・そしてアイカちゃんはにこやかに微笑む・・・
私は、アイカちゃんの顔を見て納得した、彼女はお兄ちゃん達を信じてるんだ・・・
私には、とうの昔からその純真さは無い・・・
そうね、と言ってアイカちゃんへ微笑んだ、私の胸がちょっぴり痛む・・・

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   ・

今日も良い天気・・・
裏庭の木陰の芝生の上でお弁当を食べた後、私は碇君に対抗して料理の本を研究中だ、
彼の料理のレパートリーは広い、私もがんばらなくては・・・その碇君は芝に寝転んで惰眠を貪っている、
綾波さんはその横で何かわからないけど文庫を読んでいる・・・学校の騒音を逃れて静かで良い気持ち、
並んで座る彼らを見てると、綺麗な一枚の絵を見てるようで、なぜか心が洗われる・・・

その静けさを、碇君と綾波さんの携帯が破るように同時に鳴った・・・
綾波さんが携帯のディスプレイを確認して、ちょっと緊張した面持ちで、碇君と眼を合わせる・・・

「・・・なに、二人ともどうしたの?・・・・」

私はその意味が解らない・・・なにが有ったの綾波さん・・・

「・・・碇君、非常召集・・・」
「今回はちょっと時間がずれたね、綾波・・・やっぱり、バタフライ効果かな?」

ああ・・・碇君が綾波さんの視線に笑顔を返してる・・・なに・・・なにが起きてるの・・・
綾波さんはちょっと考え込んでから、文庫に栞を挟み閉じた・・・

「・・・そうかもしれないわ・・・」

綾波さんが碇君に答えるけど、私にはなにが何だかわからない・・・碇君、私に説明して・・・

「ごめん、洞木さん、わけありなんだ、僕と綾波は早退するから、
先生に伝えておいてくれる、学校の方にも連絡は行ってると思うけど、念のために」

えっ、・・・学校公認で・・・早退するの・・・信じられない・・・

「え・・・ええ、良いけど・・・」

私は心配そうに碇君を見つめる・・・なにが、起きてるのかわからない・・・
碇君は知ってるの?・・・碇君が突然私を振り返った・・・何か説明してくれるのかしら・・・

「洞木さん、もうすぐ避難警報が出るけど、
相田君と鈴原君を絶対シェルターから出さないでね、出ると死ぬような目に遭うから」

私はますます解らなくなった、避難警報が出る?何故解るの?
それに相田君と鈴原がシェルターから出る?・・・何故解るの?
死ぬような目っていったい何なの?・・・相田君と鈴原に何が起こるの?

「碇君・・・それはどういうこと?・・・」

私の目はきっと不信に曇っていたと思う・・・
なぜなら、私を見た碇君と綾波さんの瞳が寂しさに染まったから・・・

「ごめん、言えないんだ・・・」

碇君の心の底から振り絞るような声に、私の胸が、ぎゅっと締め付けられる様に痛んだ・・・
彼はズボンに付いた草を払いながら立ち上がり、
綾波さんと一緒に裏門に横付けになった車に乗り込んで、私の視界から消えて行った・・・

そしてサイレンが鳴り響く・・・

私は、そのバンシーの泣き叫ぶような音に身を振るわせる・・・

「碇君、綾波さん・・・貴方達はいったい何を知っているの・・・」

私の呟きは、周囲の慌しい音にまぎれて消えた・・・

   ・
   ・
   ・

その後、私はクラスの皆と 第334地下避難所(シェルター) に避難した。
避難所の中は壱中生徒と、近くにある民家の住民が避難してきている。

「あのねイインチョウ、山本の奴が私に・・・」

この私の前の、私を”イインチョウ”と呼ぶ人は誰だろう・・・
私は、ただただ話し掛ける彼女に、適当に返事をして上の空で考え続ける・・・

私は、頭を上げて、相田君と鈴原が座っているのを確認する・・・

碇君は、私に”相田君と鈴原がシェルターから出る”と言った・・・
だから私は、彼らを見張らなければいけない・・・

「もうたまらないのよ、一言、貴方から言ってやってもらえない・・・」

私の前の彼女が、何か話している・・・彼女の声が邪魔で、考えがまとまらない・・・

もし出たら、彼らに何が起こるのだろう・・・死んでしまうのだろうか・・・
いや、もしそうなら碇君はちゃんと言ってくれるはずだ・・・

私は、確認する、相田君と鈴原はちゃんと居る・・・

では”死ぬような目”とはいったい・・・鈴原が居なくなるかもしれない・・・
人が死んでしまうよう様な事が・・・じゃあ、いったい外で何が起こってるんだろう・・・

なぜ、碇君君は私に話したんだろう・・・私が、鈴原に引かれてるから・・・
私、碇君に鈴原の事を言った事は無いはず・・・何故、彼は知ってるの・・・

「委員長、悪いんだけど俺達、ちょっとトイレね」
「うん・・・」

頭の中を考えが、ぐるぐる回ってなかなかまとまらない・・・
私、どうしちゃったんだろう・・・鈴原に、何か有るかもしれないから怖いの・・・
違う・・・そんなんじゃない、確かに鈴原は心配だけど、何か漠然としてつかみ所がない・・・

じゃあ何なの・・・私が悩んでるのは・・・
碇君、綾波さん・・・そうだ、彼らの住んで居る世界が、私のそれとかけ離れている様で怖い・・・
彼らの笑顔が、私から離れて行くかも知れない、それが怖いんだ、わたしは・・・

私は思い出したように、頭を上げて、相田君と鈴原が居るのを確認・・・居ない二人が居ない、何故!・・・

「相田君!鈴原!」
「どうしたのイインチョウ?」

私は取り乱して、二人の名前を叫んだ、前に居た少女が私に何事が会ったのか尋ねる・・・

「相田君と鈴原が居ないのよ・・・ユズハ、二人を知らない?」
「あれ、さっきここへ来たじゃない・・・トイレがどうとか言って・・・」

ああ・・・なんてこと、二人で行った・・・二人で・・・・
私の体が振るえる・・・まだ、間に合うだろうか・・・せっかく、教えてくれたのに・・・

「大丈夫?、イインチョウ、顔色が悪いよ・・・」
「わ・・私は大丈夫・・・それで二人はどっちへ行ったの・・・」

私のけんまくに、ちょっと引いたユズハが、恐る恐るシェルターの一角を指し示す・・・

「ありがと、ユズハ!」

私はユズハが、指し示した方へ駆け出した・・・

「鈴原!あの、馬鹿!馬鹿!馬鹿!」

馬鹿は私だ・・・ちゃんと碇君が知らせてくれたのに・・・

「すずはら〜〜〜〜〜っ!」

私は躊躇せず男子トイレへ掛け込んだ、そして容赦なく並んだ個室のドアを叩き開ける・・・
居ない、どこにも居ない!私は絶望に駆られる・・・私が目を離したせいだ・・・

私の荒い息が、トイレのタイルに響く・・・鏡の向こうの私は、真っ青だった・・・
私は・・・私は・・・絶望感が自分を苛む・・・まだ・・・まだ、追いつけるかもしれない・・・

「ゆ・・・許さないんだからっ〜〜〜〜!!」

私は、誰を許さないんだろう・・・そう、自分自身が許せない・・・
私は出入り口へ駆ける・・・間に合うだろうか・・・いや間に合わせないと・・・

インナーロック、二枚の分厚い防護扉が、私の細腕で押すと軽々と外へ開く、
私は素早くドアと壁の間の、細い隙間を潜り抜ける・・・
そして、手を離すとドアはゆっくりと自分で閉じて、カシッと鍵が掛かった・・・

「何であいてるの・・・」

私は、最外部の防護扉が開いてるのを見て愕然とした・・・
自分で締まるはずなのに、壊れてる・・・でも、鈴原が出て行ったのは確かだ・・・

「鈴原!開けたドアは締めろって習わなかったの!」

私は防護扉を抜けると、華奢な肩を当てて、渾身の力を込めてそれを締める・・・
カチリとロックが掛かった音がする・・・
良かった、これで中の皆は大抵の事から守られるはずだ・・・
ここが開いていたら、シェルターの強度は半分以下になってしまう・・・

「見つけたら、とっちめてやるんだから・・・」

ああ、止められないだけでなく、私も出てしまった・・・
私も死ぬような目に遭うんだろうか・・・ひょっとしたら、死ぬかもしれない・・・

「鈴原!どこいったのよ!・・・」

せっかく、碇君が教えてくれたのに、それを生かせなかった私に他に道は無い・・・
一か八か、相田と鈴原の二人を引きずって、私も死ぬような目に遭う前に無事に帰る・・・

その時はそれが最善だと思った、でも、後で考えると冷や汗が止まらなかった・・・

でも・・・私は、碇君がくれた機会を逃がした・・・そう思い込んだ・・・
そして、挽回できないと、私から彼らが離れてしまう・・・

あの笑顔が二度と見られないかもしれない、それが怖かった・・・
あの二人が、そんな人達じゃないって事は、心の底では分かっていたのに・・・

「・・・鈴原!あそこなの?!」

私は、近くに神社がある事を思い出した・・・
いつか、相田君が第三新東京市が見渡せると言って、カメラを回していたのを思い出したのだ・・・

「待ってなさいよ・・・鈴原!!」

私は駆け出した・・・細い獣道を通り、お下げを振りながら、数百段有る石段を駆け足で登る・・・
肺に空気が足りない・・・息が切れる・・・汗が下着を濡らしまとわり付く・・・

「・・・す・鈴原!・・・」

私は、最後の数段を這うようにして上がる・・・
胸が苦しい・・・うう、汗が気持ち悪い・・・
遠くから建物が崩れるような音や打撃音、
何かが切り裂かれるような音が聞こえる・・・すでに、何かが始まっている?

「すごい!これぞ苦労のかいもあったというもの・・・」
「うわっ、けったいなもんやな・・・あんなのが攻めて来とるんか・・・
あの紫のが・・・何とかってロボットかいな・・・迫力あるのぉ・・・」

碇君がせっかく心配してくれてるのに、相田と鈴原!あんた達って・・・
二人の能天気な声に、私は切れた・・・噛締められた奥歯がぎしぎしと軋む・・・
アドレナリンが血中へ放出され・・・私の、手足の筋肉の痛みが一時的に霧散する・・・

「ううう、人の苦労も知らないで・・・あんたたちわっ!」

私は二人の後頭部を両の拳骨で殴りつけた、碇君が、碇君が知らせてくれたのに・・・
ここへ居ると、死ぬような目に遭うか・・・死ぬのよ!・・・あんた達!・・・

「な・・・なにすんじゃイインチョウ!」
「ひどいよイインチョウ!」
「いい訳は無し!帰るわよ!二人とも!」

私は二人の耳を引いて立たせる・・・痛がるが無視した・・・
あんた達!ここにいて不幸になりたいの・・・私の心が悲鳴を上げる・・・

「痛い!痛いよ!」
「かんべんや!イインチョウ」
「そら!走って!走って!・・・次は蹴るからね!」

ああじれったい・・・早く走って・・・
この時、私達がどれぐらい死に近かったのか・・・
何の前触れも無く、鋭い音と共に、私達の左40メートルぐらいの場所の地面が一直線に裂けた・・・

「「うわ−っ!!!」」
「きゃあぁぁぁぁっ!!!」

私達を、吹き飛んだ石や砂利が襲い無数の傷を作る、その後に焼けるような熱さが襲った・・・
・・・わ、私、死んじゃったの・・・ごめんなさい碇君、私、何もできなかった・・・

『リツコさん、これあんまりきいて無いみたいです』
『しかたないわね、高いだけあって劣化ウラン弾より、
30%増しの貫通力があるはずなんだけど・・・」

耳元で大きな声がする・・・この声・・・碇君・・・碇君なの・・・
私は恐る恐る、地面に伏せていた頭を上げる・・・目の前に巨大な紫の何かが見える・・・

『それに、とっさに奴の鞭を叩いちゃったので、何処か調子が悪いみたいです・・・』
『シンジ君、ライフルをそれ以上いじらないほうが良いわ暴発するわよ』

これって、いったい・・・私の目の前を塞ぐ、巨大な人型の物・・・

『リツコさん、これに銃剣とか付けると、もう少しつかえるんじゃ無いでしょうか?』
『ああ、それ良い考えねシンジ君、作戦部からも提案書を出すわ』

私は・・・泣いていた・・・私を碇君が助けてくれたんだ・・・

『ミサトさん、鞭は僕が押さえてますから、綾波を早く奴の後ろへ・・・
それと、奴を撃滅したら至急、救護班を・・・初号機の後ろの山へ』
『シンジ君、怪我でもしたの?』
『モニター回線を回しますので、そちらでも確認してください、後ろの山で三人、怪我人です』

きっと私達の事だ・・・結局、私には足を引っ張る事しか出来なかった・・・

『な・・・シンジ君のクラスメイト!』
『何故こんなところに?』

紫の人型の向こうに、8角形のオレンジの図形が浮かび上がり、
蠢き光る鞭の様な物を、塗り込める様に押さえつけている、
その鞭は、頭がイカの様に三角形の、気味悪い浮かぶ物から伸びていた・・・

『洞木さん達・・・質問は無し!僕の指示に従って!従わないとひどい事になるからね!
目を閉じて、できれば手で覆って、閃光を見ると危険だから、特に相田君!」
「二人とも碇君の指示に従って・・・背くと、私が後で殴るからね!」
「わかった・・・見ない!絶対に見ない!」
「おう!男に二言は無いわい」

ごめん、碇君・・・私にはこれぐらいしかできない・・・

『洞木さん、無理なこと頼んでごめん・・・』
「・・・わ、私こそ・・・せっかく碇君が、私を頼ってくれたのに何もできなかった・・・」

私は目を瞑ったまま、泣いた・・・碇君は私を怒らない・・・
でも、私は自分自身を許せなかった・・・私は、きっと碇君を信じて無かったのだから・・・

『零号機、使徒後方へ射出、零号機にATフィールド発生、位相空間広がります!』

目を塞ぐ手の平と、瞼を通しても、なおも明るい閃光が、まわりを包み込む・・・
私達は沈み込むように気を失った・・・

   ・
   ・
   ・

気を失った私達は、あの後すぐネルフの病院へ収容される。
切り傷や打撲が多かったけど、私を見てくれた先生は傷さえ無く、直ると太鼓判を押してくれた。

その後、三人とも個別に尋問を受けた・・・
私の尋問には、碇君と綾波さんが同席してくれたので、少しだけ心強かった・・・
シェルターから出た理由を聞かれたが、碇君が、もしシェルターから出る学生がいたら、
止めてくれと頼んだといってくれた・・・でも、外へ出たのは私の意思なのに・・・

碇君は黙ってと言うように、私にウインクを飛ばす・・・庇ってくれるの?ごめんなさい碇君・・・
ミサトさんと言う人が、碇君に越権行為だとねじ込んだけど・・・

私が、最外部の防護扉が開いていた事を話すと、青くなってすぐ調査に向かわせた様だ
どうやら防護扉は故障、センサーも何処かおかしかったらしい・・・
ほんとなら防護扉は勝手に締まるはずだし、人が出入りすれば解る様になってるのだと言う・・・

結局、私達はお咎めなしとなった・・・でも、私はお父さんにこっぴどくしかられた・・・
翌日、教室に現れた相田君と鈴原君の二人も、ぼこぼこにされてたから、たぶん私と同じように
お父さん達にすごく怒られたのだと思う・・・鈴原君などは目の周りに痣まで有った・・・

そして、私はお昼に、碇君と綾波さんに会ってひたすら謝った・・・

そんな私に碇君は微笑みながら、なぜ死ぬかもしれないのに、
シェルターから出たのか、説明したら許すよと悪戯っぽく微笑む・・・
私は彼の引き込まれるような、黒い目を見たまま動けなくなった・・・

私はその時いろいろ考えてたはず・・・でも良い言葉が見つからない・・・
私は悩みながらも、彼に告白する・・・言葉が見つからないと・・・

彼は微笑んで言った、じゃあ宿題だね・・・急がなくても良いよ・・・
それが説明出来る様になったら、洞木さんも自分を許せるようになるから・・・

それから私は、いつも、それを言い現せる言葉を捜している・・・
碇君と綾波さんの、優しい春の光の様に暖かく見守る、至高の微笑を受けながら・・・




To Be Continued...



-後書-


当初はリツコさんの視点でと思ってたんですけど
ひょいとヒカリの視点ではどうだろうかと考え付き、けっきょくヒカリ視点を採用しました(汗)

ヒカリ視点の利点、致命的に情報が少ない、軽い妄想癖がある、感情的に書いてもOK、
11話でシンジ君に相田君と鈴原君の事を頼まれたので話を絡ませられると言う美味しい事情が在ります。
そのため第四使徒・シャムシエル、うやむやのうちに沈黙・・・効果的な視線です(苦笑)
で・・・結果としてはどうだったでしょうか?よろしければ感想いただけると幸いです(汗)

しかし、どんどん話が長くなるなあ・・・エディターで600行オーバーだから11話を抜いて最長更新。
しかも見返して見ると、ちょっと表現にアスカ入ってるかもしれ無い・・・(汗)


ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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