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EVA・きっと沢山の冴えたやり方

・第十七話 アスカ、来日・危険な手荷物   by saiki 20021219




月光の下、俺は朱金の髪の少女とたたずむ・・・
足の下で揺れるのは、天下のUNの空母オーバー・ザ・レインボーの甲板だ・・・
葛城ほどでは無いが、惣流・アスカ・ラングレー・・・14歳にしては、可憐で聡明な少女が俺に尋ねる・・・

「加持さん、本部のファーストとサードの噂位は知ってるんでしょう・・・」
「ああ・・・ただ本部のガードが固くってね・・・ほんとに噂位だけどね・・・」

そうなんだよな・・・なんだか15年ぶりの使徒の来訪以来、本部のガードが不自然に固い・・・

「噂話で良いから・・・教えてよ加持さん」
「二人ともシンクロ率99.89%を叩きだすそうだ、まあ全然確認が取れないんだけどね」

不確かな情報だがこれで少女が、俺以外にもこだわって貰えると、
本部で俺が、動き易くなるかもしれないな・・・
それに、彼らと会った時のショックも薄らぐかもしれないしな・・・

「う、嘘でしょ・・・加持さん・・・」
「まあ・・・噂だからな、明日は二人に会うんだろ、直接聞いて見たらどうかな・・・」

本部付きの、ファーストチルドレン、綾波レイ・・・
そして、碇司令のご子息、サードチルドレン、碇シンジ ・・・
第3使徒(サキエル) 襲来以降の、彼らの情報が極端に少ない・・・俺としても興味があるが・・・

「加持さんごめん、アタシ今日は早く寝るわ・・・」
「ああ、アスカ・・・寝る子は綺麗になるからね・・・ゆっくりお休み・・・」

少女は俺の前で無防備に体を翻す、朱金の髪が霧のように踊る・・・

「うん、アタシ綺麗になって加持さんにもらってもらうんだ・・・」
「アスカ、こんなおじさんより、もっと若い子を探した方が良いぞ・・・」

すまんアスカ、アスカを傷つけたくは無いが、俺の心には葛城しか居ないんだ・・・
それにアスカは可愛くて綺麗なんだが、俺はロリコンじゃないから・・・
でも、それさえほんとの理由じゃ無いかも知れないな・・・
俺の手は血で汚れているから・・・いまじゃあ、最愛の葛城でさえ抱く権利は俺には無い・・・

薄汚れた俺は、明日やってくる彼らから少しでも情報を得ようと、ドブネズミのようにまめに動く・・・
ああ、こんな姿を葛城や、アスカに見せられないな・・・俺は、疲れをあらわに微笑を浮かべた・・・

   ・
   ・
   ・

アスカの目のような、青い空に雲が流れる・・・
でも、ドブネズミの俺には、そんな日に当たる所は似合わない・・・

整備員(メカニック) の服に身を包んだ俺は、狭いメンテナンスデッキから双眼鏡片手に、
駐機中のSu−27の影に隠れる、アスカを見つめる・・・

俺はさっき、アスカとすれ違った時に気づかれないよう、背中に目立たない盗聴器をセットした・・・

我ながら、こんなやり方さえ板に付いてしまったのが恨めしい・・・
俺の耳のイヤホンから、アスカに付けた盗聴器の音が流れる・・・

「い空・・・青い海・・・いいね、・・感じ・・・そ・思わない綾波?」
「・・・うん、碇君・・・・・ぱり海の・・青が良いわ・・・」

俺は受信機のボリュウムを上げる・・・切れ切れにしか聞こえないが・・・
聞きなれない少年と少女の声・・・サードと、ファーストか・・・
しかし、この話の内容は、いったい・・・どういう意味なんだ・・・

「ヘロ〜ォ、ミサト元気してた!?」

なに葛城がいるのか・・・まあ予測できる事態か・・・
作戦部長みずからお出ましとは、アスカも買われてるな・・・

「あは、貴方も背が伸びたかしら、可愛くなったわよアスカ」

葛城か・・・ああ、懐かしい声だ、ドイツでは徹底的に、お互い会うのを避けてたからな・・・

「み、ミサト・・・なんで泣いてるの?」
「ごめん・・・アスカ、私へんね・・・貴方に久しぶりに会ったからかな・・・」

葛城・・・おまえ、何故泣いてるんだ・・・
俺の胸の中が、ざらつく様に感じる・・・もう振られて8年も経つというのに・・・
俺は、まだ一途の希望をお前に残しているんだろうか・・・

「ミサト、紹介してくれない」
「ああ、ごめんなさい、こっちがファーストの綾波レイさん、で、
こっちがサードの碇シンジ君、そして、このお兄さんが新作戦部長の日向マコト君・・・」

俺は、稲妻に打たれたように強張る・・・
”新作戦部長の日向マコト”奴は何者だ・・・俺の手持ちの情報にはない・・・
それにしても・・・葛城、どうしたんだ・・・お前は・・・
あれほどまでに、ネルフの作戦部長の地位を求め続けていたはずなのに・・・

「ミサト!作戦部長を降ろされたの?」
「あはは、最近部署を変わったの、だから貴方の上司は彼だからね・・・」

俺には、アスカの驚きが良くわかる・・・
何故そんなにも、お前は明るい声が出せるんだ・・・
俺の知らない間に、お前に何があった・・・どうしたんだ、俺は、ひたすらうろたえてる・・・

「ところで、アスカ・・・加持の馬鹿知らない?」

・・・うっ・・・葛城、俺がいるのを知ってるのか・・・
早めに撤退して、再会の心構えでもしておいた方が良いかな・・・
いや、こっちから葛城へ顔を出して先制した方がベターか・・・

「・・・バキッ!・・・ザーッ・・・」

耳の受信機からノイズが流れる・・・葛城に盗聴器を気づかれたのか・・・
俺の目は、葛城の手がアスカの後ろで動いたのを見のがさなかった・・・
あいつの目が、俺の方を見上げて・・・その顔に、猫がネズミをいたぶる時の、危険な笑顔が浮かぶ・・・

俺の額に、脂汗が一筋流れる・・・葛城・・・俺に気が付いたのか?・・・
そんな馬鹿な・・・この距離で分かるはずが・・・でもあいつの感は鋭いからな・・・

迷った時は構わず撤退、これが俺のもっとうだ、だから今まで生きぬいてこられた・・・
俺は迷わず狭いメンテスペースを、今日も身分相応にドブネズミのように這い回る・・・

   ・
   ・
   ・

俺は、狭い所で付いた汚れをシャワーで流して、さっぱりした格好でブリッジへ向かう・・・

「まあ仕方ないか・・・流石にブリッジに、盗聴機は付けられなかったからな・・・」

ブリッジ付近に近づくと、あの頭の固い提督の怒鳴り声が聞こえてくる・・・

《エヴァ弐号機及び同操縦者は、
我々がドイツ支部から預かっているんだ、港に着くまで管理は我々が行う!》
《はい、よろしくお願いします、ですが使徒が現れた場合は、
一時的に我々にご協力をお願いする事に、なるかもしれませんので、その際は》

何だか、ずいぶん物騒な話になってきてるな・・・
まさか、俺がはこんでる荷物のせいじゃ・・・

《失敬な!使徒ごときでどうにかなる、我が太平洋艦隊ではないぞ》
《失礼ですが、貴艦隊の最大の武器はN爆雷では?》

ブリッジの中から、まだ、声変わりしていない少年の声が英語で響く・・・

《そうだが・・・Mr日向、この少年は?》
《彼はサードチルドレン碇シンジ、ネルフ総司令、碇ゲンドウ氏のご子息です、提督》
《彼が、あの東洋の髭の魔王の・・・息子か》

提督が少年が誰だか知ると、少し嫌そうな声で呟く・・・
だがサードチルドレンの方は、穏やかな声で提督に話しかけた・・・

《父がいろいろな方面で、ご迷惑をおかけしています・・・それと、父は髭をそりましたので・・・》
《フフ、なかなかに父上とは違って、ユーモラスな少年だな・・・
たしかに、我が艦隊の最大の武器はN爆雷だが》

俺はブリッジに入るのを少し待つ事にした・・・
これはサードチルドレンが、どんな人物か見るのに良い機会かもしれない・・・

《日本の戦略自衛隊が、数ヶ月前、第3使徒にNで攻撃した際の、
映像記録を特別にお持ちしました、これを見てからご判断いただけますか、提督?》
《う、うむ、ではそれを見てから判断させてもらおうか、私のプライベートルームで良いかな?》

おお、そいつは俺も見て見たいな、ちょぃとご同伴させてもらえないか突付いて見るか・・・

《提督、私もご同伴させていただけますかな?》
《加持君、君をブリッジに招待した覚えはないぞ!》

提督は何だか、俺の事を嫌っているようだな・・・まあ仕方ないか・・・

《提督、申し訳無いのですが僕は加持さんと内密に話がありますので》
《それは、残念だなシンジ君、後でまた話がしたいものだが・・・》

提督が残念そうに俺を睨む・・・お、俺のせいですか提督・・・

《ええ、ぜひ・・・提督のお暇がありましたら・・・》
《・・・フフ、気に入ったよ私を振るとはな、シンジ君、だが友達は選んだ方が良いぞ》

シンジ君の笑みに提督が静止し、やがて提督の表情も朗らかになる・・・
彼の笑顔には横から見た俺さえ、ちょっと魅了されかかった・・・
なんだ、この動揺は・・・俺は真っ正直な、ストレートのはずなんだが・・・

《はい、そうします・・・では日向さん、ご迷惑でしょうがよろしくお願いします》
《OK、そちらの野暮用は手早くしてくれよ、
シンジ君、じゃないとこっちでもパーティが始まってしまう》

パーティだって・・・なんの事だ・・・俺が呆気に取られている間に
新作戦部長の日向なる人物は、ウインクして提督を誘うようにブリッジを出る・・・

「さあ、僕達も貴方の部屋へ行きましょうか・・・加持さん」
「い・・・いや、シンジ君、仕官食堂でランチなんかどうだい・・・もちろん僕のおごりで・・・だけどね・・・」
「さ・・・探したわよ、加持・・・」

俺の背後に、荒い息と、ラベンダーの微かな香りが広がる・・・
ま、まさか・・・葛城か・・・俺の背に、冷や汗が滴る・・・

「や・・・やあ、久しぶりだね葛城・・・」
「ごまかされないわよ、アタシ達はアンタの部屋に用があるのよ・・・加持・・・」
「さあ行きましょう、加持さん、父さんの荷物を早く片付けないといけませんから」

おいおいシンジ君・・・まさか、あれの中身を知ってるんじゃないだろうね・・・
シンジ君の笑顔と対照的に、葛城の表情は、舌なめずりをする猫科の動物のようだ・・・

俺の、ドブネズミの本能が囁く・・・逃げ出せと・・・でも本能君・・・俺は、どこへ逃げれば良いんだ・・・

しかも、本能によると百戦錬磨の葛城より、その後ろから、のほほんと付いてくる、
シンジ君の方が、百倍もやばいと言ってる・・・俺の本能も、ついに狂ったのかもしれないな・・・

葛城とシンジ君は、俺の部屋に入ると、おもむろに内から鍵を締めた・・・
作り付けのベッドと物入れ、引き出し式の来客用の椅子のみの、下士官用の狭い船室は、
三人入ると、部屋がますます狭く感じる・・・さあ、これから何が始まるんだい?

「さあ、あれを出しなさい!加持!」
「み、ミサトさん・・・それじゃあ強盗ですってば・・・」

おいおい、葛城・・・アバウトさに磨きが掛かってるぞ・・・

「でも、シンジ君・・・ 使徒(ガギエル) が来る前に、あれを何とかしたいのよ・・・」
「大丈夫、綾波とアスカが仕留めてくれますよ、それに、何のために装備を充実させたんです・・・」
「だ・・だってぇ・・・シンジ君・・・」

葛城、なんでお前が、シンジ君に甘えるんだ?・・・俺の目には、シンジ君の方が年上に見えるぞ・・・
それに使徒って・・・なんで、そんな事が分かるんだ葛城?・・・

「加持さん、とりあえず父さんと連絡を取ってください・・・
命令が変更になった事を貴方も、一応確認したいでしょう?」
「ああ、じゃあ、遠慮なく確認させてもらうよシンジ君」

俺は彼の目を見て、結果はわかっていたんだが・・・
一応、クライアントへ携帯で一報を入れる事にした・・・

「・・・どうも加持です、いまご子息の訪問を受けまして・・・」
『そうか・・・では、彼の指示に従ってくれたまえ・・・』

相変わらずの迫力のある声が響く、さすがに、東洋の髭の魔王と二つ名を受けるだけの事はある・・・

「構わないのですか、例の奴も来るとか・・・」
『その為の弐号機だ、予備のパイロットも付けてある・・・
最悪の場合は、君だけ逃げても構わんよ・・・まあ、シンジ達が居る限りその必要はないがな・・・』

碇司令、そこまでご子息をかってるんですか・・・
俺だけ逃げろって言われても・・・そこまで挑発されると、かえって逃げにくいじゃないですか・・・

「わかりました、彼の指示に従います・・・」
『うむ、君も大変だと思うが、葛城君をよろしくな・・・』

”葛城君をよろしく”・・・何でそこへ葛城がでてくるんだ・・・

「そ、それはどういう意味ですか?」
『ふっ・・・問題ない・・・プッ』

くそっ、切りやがった・・・なに考えてんだ、あの髭おやじは・・・
うう・・・いかん、冷静にならねば・・・

「シンジ君確認は取れたよ、で、俺は何をすれば良いんだ」
「そうですか、ではアダムを出してください・・・」

俺は狭いベッドの頭の方へ腰掛けると、葛城は足の方へ腰掛け、
シンジ君は、来客用の椅子を引き降ろして座る・・・

俺はベッドの下のスペースから、小型のがっしりしたトランクを取り出す・・・
そして、シンジ君の前のベッドの上に、なんでもないように載せる・・・
さあ、二人共お目当ての物は出しましたよ、で、これから何が起こるんだい?

「加持さん、これから面白い物をお見せしますよ・・・」
「シンジ君が言うなら確かよ加持、あんたが見たことっも無いような面白い物が見れるわよ・・・」

葛城が、さも可笑しそうに笑う・・・こんなに朗らかに笑う、彼女を俺は今まで見た事が無い・・・
俺は・・・いままで、葛城の何を見てきたんだ・・・

チタン製の真っ黒に塗られたトランク、
その黄色いバイオハザードマークが貼られた表面が、まるで水銀のように波紋を描く・・・
ゆれる波紋の中へ、シンジ君の右手がゆるりと沈み込んでいく・・・

俺は、幻覚を見てるんだろうか・・・葛城の目も、興味深そうに見開かれている・・・
では、これは、ほんとに、いま起こっている事実なのか・・・俺は、腕で目を擦る・・・

その時、俺は声にならない、この世の物とも思えない、異様な叫び声を聞いた・・・
葛城も、聞いたのか・・・目を瞬きさせている・・・

そして、トランクが一瞬、俺の目に奇妙にゆがんで見えた・・・
まるで、何物かがそこから逃れようと、空間を歪めた様に感じる・・・

その異常な事態を起こした少年は、場違いにもほほえましい笑みを浮かべた・・・
彼は、手をトランクから引き抜く・・・トランクの黒い表面には無論、傷は無い・・・
では、いままで俺が見ていたのは、幻だったのだろうか・・・

「さて、ミサトさんアダムの処理は終わりました・・・もう大丈夫ですよ・・・」
「あはは、良かった、これで第6使徒が来ても大丈夫ね・・・」

来るって葛城・・・ここへ来るのか、使徒が・・・
何を落ち着いてるんだ、二人共・・・俺の臆病な本能が、狂おしいまでに逃亡を示唆する・・・

「大丈夫なのか、ここに居て・・・何か手を打たないと・・・」
「へっ・・・加持、アンタいままで何見てたの・・・いま、手を打ったじゃない・・・」
「少なくとも、アダムと使徒との接触によるサードインパクトは無くなりましたね」

シンジ君が、さらりととんでもない事を言う・・・確かに、俺の調べた情報の中にも、そう言う話があるが・・・
何で彼が、そんな事まで知ってるんだ・・・これは、探り出せれば俺にとって、宝の山かもしれないな・・・

「シンジ君、どこからその情報を手に入れたんだい・・・」
「フフン、何時にもましてストレートな物言いね、加持・・・
無理にシンジ君で無くても、アタシだってそれぐらい知ってるのよ・・・
セカンドインパクトの真実とか、前回の人類滅亡までの出来事とか・・・」

葛城が、俺を挑発するような猫科の笑みをその唇に浮かべる・・・

「おいおい・・・人類滅亡とは大きく出たな、でもそんな先まで、俺は知りたいとは思わないぜ」
「なに言ってんのよ・・・滅亡まで、どれ位しか残って無いか、
あんたが知らないから、そんな事が言えるのよ、いい加持、その時まで、あと一年も無いのよ
それに・・・あんたは、このまま三重スパイを続けると確実に、その前に死ぬわ・・・」

何で葛城は、俺が三重スパイをやってるのを知ってるんだ・・・
それに、人類滅亡まであと一年も無いって・・・いったい・・・

「さあ、選びなさい加持、あたし達ネルフか、それとも内務省調査部か、ゼーレかを・・・」
「ま、待ってくれ葛城、突然そんな事を言われても・・・」

俺は何言ってんだ・・・葛城の前で、内調か、ゼーレを選ぶと、確実に撃ち殺されそうな気がするが・・・

「ミサトさん、なんか悪いテレビ番組見ましたね・・・加持さんを追詰めて、どうするんです・・・」
「あははは、ばればれかなシンジ君・・・でもね、こいつのお気楽さだと、
これぐらいしないと、そのうち裏切られるわよ・・・でも私、こいつの事は、本気だから・・・」

葛城・・・お前も変わったな・・・彼女の、せつなそうな目が俺を見つめる・・・
こんな俺でも、求めてくれるのか葛城・・・俺の答えは・・・そう、最初から決まってる・・・

「そんな事は、最初から決まってる、俺は、ネルフに・・・いや、葛城に付くさ・・・」
「・・・ありがとう、加持・・・じゃあ、ご褒美にあんたに特典を上げるわ・・・
加持がほしがってた情報を分かる限り、あんたへ教えて上げる・・・」

また、彼女の目に妖しい光が宿る・・・何があるんだ葛城・・・

「さあ加持・・・アタシのラブリーな口から説明を聞く?・・・
それとも・・・シンちゃんの力を使って、その場に居た如き、臨場感ある現実を教えてもらう?・・・
そうね、あんたは間違っても選ばないと思うけど、なにも聞かないと言う選択もあるわよ・・・」
「おいおい、葛城はどれを選んだんだ?」
「もちろん、シンちゃんの力を使う方法よ、シンちゃんは反対だったんだけどね・・・
でも、私は、おかげで、もう泣くほど臨場感溢れる情報を、つかむ事が出来たもの・・・
私、シンちゃんには、一杯感謝してるわ・・・」

葛城が俺を挑発している・・・俺は、かなりの危険を感じた・・・
だが俺は、挑発を受けてしまうんだろうな・・・
俺にとって、真実を追い求める事は、生きる事と同義だから・・・

「よーし、決めた!シンジ君一つ頼むよ・・・」
「良いんですか、ミサトさんの言った通り、僕はこの方法を勧めませんが・・・」

俺はシンジ君に笑い掛けた・・・
君は正直なんだな・・・だが、俺を覗き込んだ彼の眼を見て、笑いが引きつる・・・
そこには、長い年月を経て磨き上げられた、英知が潜んでいる・・・俺の本能がそう告げる・・・
シンジ君、君は何者なんだ・・・何故、そんな目が出来るんだ・・・

「おう、やってくれ、俺は覚悟を決めたから・・・」
「じゃあ、加持さん気をしっかり持ってくださいよ」

彼が近づく・・・シンジ君の黒い眼の底で赤い光が揺れる・・・
俺はちょっと疑問を持ったので、彼に尋ねて見る事にした・・・

「シンジ君、準備とかは要らないのかい・・・」
「別に、少しの精神統一と、あえて言えばある程度近い方が疲れなくて良いですが・・・」

なんてことだ、彼は何時でも出来たんだ・・・膝がぶつかった時でも、握手したときでも・・・
では、何故、お手軽に真実を広げない・・・
俺には信じられない・・・だが、彼の次の言葉で、俺はなんとなくその訳がわかった・・・

「真実なんて劇薬を、だれかれ構わずばら撒くと・・・ろくな事にはなりませんから」
「君は・・・思いやりがあるんだな、シンジ君・・・」

もし自分が、明日死ぬ事が分かって、普通で居られる奴が世の中に、何人要るだろう・・・
真実はそう言う物だ・・・劇薬・・・彼の言う通りかもしれない・・・
シンジ君は少し悲しげな笑みを浮かべ、俺の額に人差し指を押し当てる・・・

俺の中で真実と言う劇薬が弾け飛ぶ、葛城の思いが俺を満たす・・・そして、俺の死に涙するアイツ・・・
冷たい通路に倒れ一人死に行くあいつ・・・そしてアスカの思いが・・・
ちらりと見ただけの蒼銀の髪の少女レイ君のそれが・・・そしてシンジ君の思いが・・・
傷つき蝕まれていく三人の年若い子供達・・・そして、どこまでも赤いLCLの海・・・

俺は、始めて聞いた彼らの声が、青い海と空を讃える物で有ったのに気が付いた・・・
そう、青い空と青い海は美しい・・・赤いLCLの海を一度でも見た物にとっては・・・

何時の間にか俺は、寒さで振るえていた・・・自分の追い求めた物を、与えられたというのに・・・
なんて虚しいんだ・・・
プライドを捨て、ドブネズミみたいに動き回って、求めていた物が得られたというのに・・・
シンジ君、確かに君の言う通り真実は劇薬だ・・・
心に開いた穴から、体温が逃げて行くような思いが俺を蝕む・・・

そんな俺を抱き締める、微かな懐かしいラベンダーの香り・・・
ああ・・・葛城だ・・・彼女の穏やかな暖かさが俺を包み込む・・・

「おちついた・・・加持君・・・」
「ああ、助かったよ葛城・・・」

俺は、まだ体の中に僅かに残る、寒さに体を身じろぎさせる・・・
そして、俺の目は、葛城の眼をいたわるように覗き込む・・・葛城も、こんな思いをしたのか・・・

「私は、レイちゃんに慰めてもらったの・・・」

葛城が頬を、少女のように紅色に染める・・・そうか・・・
俺は、蒼銀の髪の少女に、葛城の事で礼を言おうと、その時心に誓った・・・

「加持さん、ネルフは貴方に、新しく極秘で設立されるゼーレ対策班、
通称諜報0課に、主任として所属してもらう事を望んでいます」
「了解、謹んで拝命させてもらうよ、シンジ君」

俺を抱き締める、葛城の顔が笑顔で一杯になる・・・

「ウフフフ・・・主任への、着任おめでとう、上司殿・・・」
「ああ、言い忘れてましたが副主任はミサトさんです」

うくっ・・・何だか、はめられた様な気がするんだが、シンジ君・・・
葛城の、方向音痴が治っていないとしたら、大変なお荷物になる・・・

「そうそう、ここにもう一枚、ミサトさん以外の、僕を含めた幹部職員からの要望書が、あります」
「ちょっち、そんなのは私、聞いて無いわよシンジ君」

シンジ君が、悪戯っぽくにやりと笑う・・・そんなとこは、碇司令譲りなのかシンジ君・・・
葛城が、目を丸くしている・・・お前も、内容を知らないのか・・・

「緊急に葛城邸の維持管理、
ならびに葛城一尉の、食生活ならびに健康管理任務就任を望む、幹部職員一同」
「俺にそれをしろってシンジ君、それって・・・」

俺はうろたえて・・・葛城の顔を覗き込んだ・・・葛城は、恥ずかしそうに顔を真赤にする・・・

「いまなら、使徒戦以後指定で教会の費用と長期休暇、旅行代のセットが付いてくるんですが・・・」
「無事に使徒戦を乗り切って見せろ、と言う事かい、シンジ君・・・」

俺は、シンジ君へ挑むような目つきで睨みつける・・・

「ええ、加持さんも、あの赤い海でLCLの中で一つになっても、嬉しく無いでしょう?」
「・・・ええい、忌々しいが俺の負けだよシンジ君・・・もっとも、葛城が良いと言えば・・・」

言いかけた俺の唇を、葛城のそれが塞ぐ・・・彼女の舌が、貪欲に俺を求め絡み合う・・・
長い間、貪り続けていた唇が離れ、透明な唾液が糸を引く・・・俺は、葛城の目を覗き込んだ・・・

「良いのか、葛城・・・俺は、そこらのドブネズミみたいに、汚れきってる・・・」
「私が、あんたじゃないと嫌なのよ・・・加持・・・」

俺はシンジ君の方を向くと、重々しく口を開いた・・・

「シンジ君、俺は喜んで、その要望書に従おう」
「・・・良かった、これが無駄にならなくって・・・」

シンジ君の天使の微笑がきらめく・・・俺達は一瞬言葉を失った・・・
彼はそんな俺達に構わず、ポケットから小箱を取り出して蓋を開いた・・・
中には、シンプルな金と銀の指輪・・・

「安物で悪いんですが・・・まあ、ちゃんとした物を買うまでの繋ぎにと思って・・・」
「シンジ君、ありがとう、それで十分だ、俺はこだわらないよ・・・」
「私もよ・・・シンジ君、そこまで気を回してくれたのね、ありがとう」

こういう物は値段じゃない・・・どんなに、それに心がこもってるかだ・・・
俺達は彼の心配りに、誠意で答える・・・その時、船室が大きく揺れ・・・
倒れそうになった葛城を、俺がしっかり抱き締める・・・

「・・・第6使徒です・・・大丈夫、綾波も付いてますから・・・
でも、残念ながら、従軍牧師さんを手配するのは、これで遅れそうですね・・・・」
「シンジ君・・・君がやってくれ・・・俺は、牧師にこだわらないから・・・」
「私からもお願い・・・シンジ君・・・形だけでもいいから・・・」

俺と葛城はシンジ君に頼み込む・・・
あれを見てしまった俺達には、すでに確実な明日など考え付けない・・・
シンジ君は俺達を見て、大きな溜息をついた・・・

「解りました・・・加持さん貸しですよ、お礼は、ジオフロントのスイカで良いですから」
「良く知ってるな、シンジ君・・・好きなだけ持って行ってくれ・・・」

シンジ君が厳かに口を開く・・・

「じゃあ、略式で行きますよ・・・
汝、加持リョウジは、この者を病める時も健やかなる時も、妻として生涯愛する事を誓いますか・・・」
「誓う!俺は葛城を愛し続ける事を誓うよ、シンジ君!」

俺は思わず、柄にも無い真剣な声を上げた・・・

「汝、葛城ミサト は、この者を病める時も健やかなる時も、夫として生涯愛する事を誓いますか・・・」
「誓うわ!シンジ君」

葛城も、なぜか声に真摯な感情がこもっているように、俺は感じた・・・
俺達の宣言を間じかに聞いて、シンジ君が、ちょっと照れて頭を掻く・・・

「あの・・お二人とも、僕じゃなく神様に誓ってくれないと・・・」
「大丈夫、いまのシンジ君は使徒だもの・・・天使なら役不足は無いわ、自信を持ちなさい・・・」

葛城が物騒な事を、さらりと言ってのける・・・おいおい、葛城・・・
なるほど、シンジ君が尋常な14歳だとは思ってなかったが・・・まさか使徒とはな・・・

「まあ、納得していただけるのなら、僕は構いませんが・・・」
「・・・シンジ君、早く続き・・・」

葛城が待ちきれ無いように、シンジ君に先を急がす・・・

「では・・・指輪を交換してください・・・」

俺達は、お互いの左手の小指に指輪をはめる・・・
何で俺の指は、こんなに震えるんだ・・・たかが、指輪をはめるだけじゃないか・・・
ふと見ると、葛城の指輪を持った指も、震えるえていた・・・お前もか葛城・・・

俺達は、どちらからともなく、お互いを見詰め合う・・・二人の間で、笑顔が広がる・・・
今度は震えるえずに、お互い指輪をはめ終わった・・・
俺の左手の薬指に、シンプルな金の指輪が光る・・・葛城の指には銀の指輪が・・・
嬉しそうに微笑む俺達の周りで・・・船室がまた、少しゆれる・・・

「では、誓いのキスを交わしてください・・・」
「葛城・・・」
「加持君・・・」

俺と葛城の頬を、嬉し涙が伝う・・・
俺達は思い切り、ディープなキスを交わす・・・俺達の誓いのキスは・・・少し涙の味がした・・・




To Be Continued...



-後書-


なんだか、16話から間が開いてしまいしました・・・
加持さんは、表面上はダンディな好ましいお兄さんをしていますが
裏では何してるか分からない人なので・・・内面を書くのは大変難しい・・・

表現上おとなしく書きましたが、この人、何人殺しているか・・・(滝汗)

しかし、こんなんでほんとに良いのか・・・加持・・・
まあ、下水をドブネズミみたいに、真相を求めて、かぎ回るような生活よりは、なんぼかましだが・・・
明日からお前さんには、葛城のためのおさんどんが待ってるんだが(ナイアガラ汗)


ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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