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EVA・きっと沢山の冴えたやり方

・第十九話 瞬間心重ねて・母T   by saiki 20030107




アタシとレイ、シンジ、ミサトさん、加持さん、日向さん、それに副司令・・・
七人を前に、ブリーフィングルームで、赤木博士が呆れた様子でスクリーンを指示す・・・

「シンジ君の要請で、マギでひそかにハッキングしました、
ドイツ支部は、とんでもない事をしていたようです・・・」

赤木博士が大きな溜息をつく・・・まあ、一番の被害者はアタシなんだけど・・・

「ドイツ支部は、例のアダムの断片にも、使徒が引き付けられることを想定して
アスカへ、徹底的に単独による、使徒撃滅の方法を叩きこんだようですが・・・
最悪な事に、ほとんどが的外れな前提に立っていたようですね・・・」
「な・・なんですって、じゃあアタシの、あの血の滲むような訓練は、無駄だったって事・・・」

アタシは思わず、叫んでしまった・・・赤木博士の眼鏡が、きらりと照明を反射して光る・・・

「もし日向君が、シンジ君のファイルにある、使徒を前提に訓練を組む場合、相手の生物は?」
「そうですね生物と限定するなら、サメ、ワニ、ヘビ、ゴリラですか・・・
人間もOKなら、後は特殊な武器を持った人間、鞭とか棒術とかですね」

アタシは、長ったらしい警告の上で見せてもらった、シンジのファイルのページを頭の中でめくる・・・
たしかに、日向さんの言う訓練なら、役に立つかもしれない・・・しかし、アタシの訓練は、
人を相手にした対人訓練ばかりだった、これでは赤木博士が酷評するのも、無理ないわ・・・

「結局、ドイツ支部は、ゼーレのお膝元のせいか、軍隊色が強すぎると言う事だと思います・・・
彼らには、想像力と言う物がありません・・・使徒の形状、攻撃法方を人型に限定しています」
「なるほど、それで第四使徒の情報公開と同時に、アスカ君をアダムの断片と共に、手放したのだな・・・
自分達の手元に置いておいて、第5使徒などが現れた時は、まったく手におえんだろうからな・・・」

赤木博士の話に、副司令が頷く・・・
いまは、司令が出張中で居ない、それでネルフの指揮は副司令が取っている・・・
しかし、結局アタシは、ドイツの連中には、当てにされて無かったって事なのかしら?・・・

「それから、先の第七使徒戦で、アスカに起こったことですが・・・
おそらく単体での使徒撃滅が困難な場合、彼らは、アスカに、後催眠で条件付けして、
いざと言う時に神風ミッションを、無理やりさせる気だったんではないかと、私は推測します」

条件付け・・・結局、ドイツの奴らにとって、アタシはパブロフの犬って事か・・・

「ミサト・・・カミカゼミッションって、何の事なの・・・」
「玉砕覚悟での自殺的攻撃の事よ・・・」

アタシが聞くと、ミサトは吐き捨てるように説明してくれた・・・
なんて事なの、あいつらがアタシに、自殺的攻撃をさせるための、キーワードを組み込んでたなんて・・・

「アスカ、悪いけど、こういう治療はまともにやると長い時間がかかるわ・・・
心と言うブラックボックス相手に、探知機なしで地雷を掘るような物だから・・・
もっとも、リスキーだけど手っ取り早い方法もあるわ・・・ミサトがやった見たいにね」
「ああ、あれね、アスカあれは余り薦めないわよ・・・こう、人生観が変わっちゃうから」

赤木博士の悲観的な説明の中に、活路を見出そうとしたアタシを、ミサトがたしなめる・・・

「そういえば、ミサトが条件付けでシンジ達を撃ったって、
レイから聞いたわ、ミサトはどうやって、その条件付けを解除したの?」
「シンちゃんパワーでぱっーっと、四人分ばかし人の一生を経験させてもらったの・・・
それもけっこうエグイバージョンのをね・・・凄く悲しくて、胸が痛むわよアスカ・・・」
「うん、あれは出来る事なら止めた方がいいぞ、アスカ」
「うむ、私も薦めないよアスカ君・・・あれはこの老骨には、少々きつかったからね」

アタシの問いかけにミサトさん、加持さん、それに副司令が揃って首を横に振る・・・
よっぽど凄い事なのね・・・でも四人分って誰と誰の一生なんだろう?

「ウーン、ますます興味がわいてきたわ・・・シンジ君、準備が出来たら、私もミサトと、
同じのをお願いするわ、リアルな記憶の移植なんて、そう体験出来る物ではないもの」
「リツコ、そんな軽い気で、シンちゃんにあれをしてもらうと、絶対に後悔するわよ・・・」
「ミサトさん、せっかくリツコさんがお父さんの事を、許してくれるって言うんですから・・・
後は自己責任と言う事で、リツコさんに水をささないで上げてくださいよ・・・
それともミサトさんは、また、アタシだけ除者にしてとか言って、付きまとわれたいんですか?」

興味津々の赤木博士を、ミサトがいさめようとするんだけど、シンジの奴の言葉に、
嫌な顔をして口を閉じた・・・ミサト、そんなに嫌なことが有ったの?

「わかったわ、何を選ぶかは、アスカにまかせましょ、
もともと専門外の私達に出来るのは、助言ぐらいだしね・・・」
「そうね、最後に何を選ぶかはアスカしだいだわ・・・
ところで、アスカ、貴方は右肺を移植してるわね、それにあちこちの臓器も・・・記録にドナーが誰かは
数字しか書いて無いけど・・・免疫反応の事もあるし、一度検査した方が良くはない?」

赤木博士が、アタシに心配そうに聞く・・・アタシは全く覚えが無いので、思わず目を丸くした・・・

「それに、なんて書いてあるのか分からないけど、アタシにはそんな大怪我をした、記憶は無いわよ」
「おかしいわね、ここへ3から肺を移植、4から腎臓の一部ってあるんだけど・・・
ともかく一度、検査して見ましょうねアスカ、私からはこれで終わりです、何か付け加えたい方は?」

赤木博士はPDAに覚書を書き込むと、アタシ達を見回す・・・
それに答えてシンジが立ち上がって、口を開いた・・・

「では午後からは、弐号機のサルベージの予定です、
見学と手伝う方は二時までに第二実験場へ集合してください」

そう、シンジの言うとおり今日の午後、極秘の内にアタシのママのサルベージが行われる・・・
アタシは、期待と不安で胸が張り裂けそうだ・・・ママが帰ってくる・・・アタシの、ママが・・・

でも、そのためにアタシが払う犠牲も大きい・・・アタシの人生の、大半を掛けていたエヴァ・・・
シンジはアタシが、それに乗れなくなると言う・・・アタシが今までエヴァに乗れたのは、
ママを介してシンクロ出来たからで、ママの居ないエヴァにはアタシは乗れないのだと・・・

正直言って、アタシにはエヴァに乗れないという事が想像出来ない・・・
ママの居ないアタシの支えが、エヴァだったから・・・

でもいい・・・ママさえ帰って来てくれるのなら・・・アタシは瞬きして、滲んで来た涙を追い払った・・・

    ・
    ・
    ・

第二実験場で、胸の部分の装甲を外され、
赤いコアと呼ばれる物をむき出しにされた、アタシの弐号機が立つ・・・
コアの回りには、いろいろな計器が付けられて、大変物々しい様相をかもし出している・・・

「シンジ、凄い有様ね・・・サルベージって、こんなに物々しい準備が必要なのね・・・」

アタシは、床にのたうつケーブルを避けながら、シンジに話し駆ける・・・
シンジの奴が、苦笑しながら頭を掻く・・・レイが、いぶがしげなアタシに説明してくれた・・・

「・・・これはただの計測機、赤木博士の要請で準備された物・・・
私の零号機から、アイカをサルベージした時はこんな物は無かったわ・・・」
「ほんとなの・・・科学者って、そうまでしなけりゃ満足しないのかしらね・・・」

アタシは呆れて呟いた・・・ママをモルモットにされるみたいで、今ひとつ釈然としない・・・

「アスカ、科学は地道なデータと努力の積み重ねで進歩する物なのよ、我慢してくれないかしら」

アタシは突然後ろから声を掛けられて、驚いて振り返った、そこには、冷たい目でアタシを見つめ、
笑いかける金髪の女性、赤木博士がPDAを片手に立っ・・・アタシは、冷や汗と共にちょっと体を引く・・・

「は・・・はい、赤木博士・・・」
「ああ、そうそうシンジ君、もうちょっとしたら、計測する測定機とかの選考が終わるから
近い内にミサトと加持君にやったあれを、私にもお願いするわ・・・
んんっ、いまからどんなデータが取れるか、ほんとに楽しみだわっ・・・」

博士が、その赤く塗られた唇を、舌の先でぺろりと舐めた・・・
アタシは、その姿にご馳走を前にした猫を思いだし、背筋に冷たい物が走る・・・
ぶらりと見物に現れたミサトが、赤木博士をたしなめた・・・

「好奇心は、猫をも殺すって言うわよリツコ、ほどほどにしなさい。
でもアンタって、アタシの言う事には耳を傾けないのに、加持の言うことは信じるのね」
「でもミサト、これは凄いチャンスなのよ!人の心の成り立ちから、ATフィールドの謎まで・・・
上手く行けば、いまの人格移植OSの上を行くもの、また恒星間飛行まで、応用は無限なのよ・・・
シンジ君、協力期待してるわよ。」

あはは、流石のシンジの奴も赤木博士の勢いに引いてるわ・・・まあ、あれじゃあ無理はないわね・・・
でも大丈夫かしら・・・下手をすると、アタシのママや、シンジのママも、あの後ろに続くかもしれないわ・・・

「あはは・・・まあ、生活に支障をきたさない範囲でよろしければ・・・」
「甘い!シンジ君、ちゃんと時間帯や日にちを指定しないと、リツコの事だから無理やり、
生活に支障をきたさない様に、生活事体を改変されちゃうわよ・・・
いい!シンジ君、行くべき学校が無くなったり、突然卒業証書が送られて来たり、
自分の家が何故か、何時の間にか競売に掛けられたりしてからじゃあ遅いのよ」

ミ、ミサト・・・アンタに何が合ったの・・・赤木博士の周りの人が、一斉に一歩後ろに下がる・・・
何時もは、博士を敬愛の目で見つめるマヤさえ、その目に恐れを浮ばせる・・・

「せ、先輩・・・ミサトさんに何をしたんですか・・・」

マヤが勇気を振り絞って、赤木博士に質問する・・・マヤ、アンタの勇気はアタシが褒めて上げるわ・・・

「いゃーね、マヤまで引いちゃって・・・ミサトの誤解よ彼女は大学の頃、加持君と二人で
一週間も部屋にこもりきりになってたから、部屋が汚れて蚤が大量発生した、ただ、それだけの事よ」
「でも、調べたら猫蚤だったわよ・・・」

赤木博士は妖しげに微笑みながらさらりと説明し、アタシ達が胸を撫で下ろそうとした時・・・
ミサトがぽつりと囁く・・・赤木博士が大の猫好きなのは、アタシだって知っている・・・
ちっ!往々にして真実は闇の中って事なのね・・・アタシ達は冷ややかに、赤木博士を見つめた・・・

「諸君もう良いだろう、そろそろ始めないかね・・・ここは寒くて、老骨にはこたえるよ・・・」
「そうだね、冬月副司令の言うとおりだ・・・さあ、かねてよりの打ち合わせどおりに、配置に着いてください」

さすが副司令、泥沼化しそうな事態をさらりと救い上げ、シンジに先を促す・・・
シンジもなれた物で、バトンを受け取って皆に行動を促した・・・

赤木博士とマヤは、マギと繋がってないシステムでデータの収集準備を始める・・・
シンジとレイ、それにアタシとミサトと副司令は、
一緒に自走タラップに乗り弐号機の赤いコアの前へと移動した・・・

「みんな、キョウコさんもアイカと同じように、取り込まれた時のイメージがフラッシュバックして、
暴れだすかもしれない、だから押さえつけるのを手伝ってね・・・
それと、アスカはしっかりママを宥めるんだよ」
「わかった、まかしてシンジ」
「わかったわ、シンちゃん」
「・・・了解、碇君・・・」
「ああ、しかし老体にはこたえるよシンジ君」

シンジの奴は皆をざっと見回すと、一つ頷いてコアの表面に手を這わした・・・
アタシの目の前で、コアが薄く光る・・・さっきまで硬い表面をしていたコアが、
まるで赤い水球のように、その表面に波紋を広げ・・・信じられない事に、
シンジの手が中へもぐりこんで行く・・・アタシは、青い目を見張った・・・

少しして引き出されたシンジの手には、白い一目で女性の物だと分かる手が握られている・・・
ずるりと引き出される全裸の黒髪の女性・・・バシャッと水の跳ねるような音と共に、
その見事に均整の取れた体が、タラップの床に横たわる・・・アタシは一瞬、呆気に取られ・・・

やがてアタシは、その意思の無い体にすがり付いて、頬を胸に擦りつけながら泣き始めた・・・

「ママ・・・ママ!・・・ママッ!!!」
「ひいいいっ・・・いゃあっ!・・・たすけてっ!・・・引き込まれるっ!ひいいいいっ・・・」

突然、ママは暴れだした、これがアイツの言ったフラッシュバックなの・・・
アタシは、ママに抱き付いてその動きを止めようとするが、ずるずると引きずられる・・・

「ママ!もう良いの、もう大丈夫なんだから、暴れないで、お願い!ママ!」

レイとミサトが両手を押さえ、副司令が背後から羽交い絞めにしてママを止めた・・・
ここから落ちると、タラップの下は床まで数十メートルある、確実にママの命が無い・・・

「ママ!アタシよアスカよ!ママ!」
「・・・ア・・・アスカ?・・・わたしのアスカ?・・・」

アタシの声にママの目に光が戻る・・・ママ、お願いアタシを見て!ママ!

「そうよママ、アタシは惣流・キョウコ・ツェッペリンの娘!アスカよ!」
「・・・ほんとにアスカなの・・・あの、小さかったアスカ・・・」

そうよママ、アタシよ!わかってママ!・・・
ママの手が、おずおずとアタシの背に回り、ぎゅっと抱き締めてくれる・・・
アタシもママを抱き締め返した・・・こうしていると、懐かしいママの香りがする・・・

アタシの肩に、ぽたりと暖かい物が滴る・・・
涙に曇った目で見上げると、ママの涙に濡れる、青い瞳がアタシを見つめ返した・・・

「アタシ、ママにずっとあいたかった・・・」
「ごめんなさいね、アスカ・・・ごめんなさい・・・」

ママがアタシに謝り続ける・・・良いのママ、こうして帰って来てくれたんだから・・・
ミサトが少し落ち着いたママにバスタオルを渡す、シンジと副司令は後ろを向いていてくれた・・・

「ママ、とりあえず体を拭いて服を羽織って、シンジと冬月副司令が目のやり場に困ってるから」
「そ、そうね・・・でも冬月副司令て・・・まさか京都大学理学部の、形而上生物学の冬月教授?」

ママはバスローブを羽織ると、アタシを胸に抱いたまま副司令に挨拶する・・・ママ、副司令を知ってるの?

「京都大学在学中にお噂はユイから・・・そう言えば、ユイは?
私の前に、エヴァに取り込まれたユイはどうなりました?・・・」
「ああ、ユイ君ならまだエヴァの中だ・・・」

ママが震えてる・・・ママ、ユイって誰なの?ママの知り合いなの?・・・
ママはがくりと膝を折る、慌ててアタシはママが倒れないように支えた・・・

「そんな・・・ナオコが、必ずサルベージして見せるって、メールに書いてたのに・・・
それに、アスカがこんなに大きくなってるなんて・・・いったい、あの後何が起こったんです?」
「大丈夫です、キョウコさん、母さんもちゃんとサルベージしますから」

シンジが、パニックに陥りそうだったママを、笑顔で引き止める・・・
ありがとうシンジ、やっぱアンタは頼りになるわ・・・アタシは、ちょっとだけホッとした・・・

「あ・・・あなたは?」
「碇ユイの息子のシンジです、キョウコさん・・・
貴方もいろいろ、質問したい事はあると思いますが、とりあえず検査を受けてもらえませんか、
サルベージの事例は貴方で二件目ですので、大事を取りたいんです」

確かにシンジの言うとおりだ、赤木博士が、歩いて行くと強情をはるママを、
無理やりストレッチャーに乗せて、レイの為に用意された自室の検査室へ運び込む、
無論アタシは付き添って、いろいろママに説明したり手伝ったりした・・・

やがてママは、検査に疲れたのかしきりと眠気を訴える・・・
赤木博士は、適当なところで検査を打ち切った・・・博士は明日も検査したいといっている・・・

でも、アタシは検査に名を借りたデータ取りの様な気がする・・・
まあいいわ、赤木博士も、ママに別に危害を与える訳じゃないんだし、
たぶんママも自分のデータを見たがるだろうし・・・

ママの為に病室が用意され、アタシはもちろん付き添うためにベッドを要求した・・・
そしていま・・・ママは、アタシの目の前で、穏やかな寝息をたてながら眠っている・・・

何だか夢みたいだ、
アタシが小さい頃、心を病んで目の前で首を括ったママが、いま、自分の目の前で眠っている・・・
アタシはそっと自分のベッドから抜け出すと、ママのベッドへ向かう・・・ママ・・・アタシと一緒に・・・
そんな時エアシリンダーの低い音と共に、病室のドアが開き、レイがすまなそうに顔を出した・・・

「・・・アスカ、ごめんなさい、少し時間いい?・・・」

もう!気を利かせなさいよ・・・レイ!・・・
まあ良い、アンタ達はママの命の恩人だもの・・・邪険にはしないわよ・・・

「何の用なのレイ?」
「・・・重大な相談があるの、付いてきて・・・」

廊下に出たアタシに、小さな声でレイは告げると、足早に先に立って歩き始めた・・・
やもなくアタシも、深夜で明るさを落された廊下を、レイの後を追う・・・
レイ・・・重大な相談ていったい何なの?・・・彼女の背中は、アタシに何も語らなかった・・・

    ・
    ・
    ・

アタシはレイに連れられ、ネルフ本部のずいぶん深いレベルまで、下りてきてしまった・・・
すでに周りには人の気配すらない・・・アタシは、少しずつ心細くなってきた・・・

「レイ・・・まだ下りるの・・・」
「・・・ええ・・・アスカ・・・」

立ち入り禁止、最重要区画・・・物騒な言葉が浮かび上がる扉が、
レイの前で、女王に道を譲る衛兵のように、次々とその戸を開ける・・・

「レイ・・・シンジは?」
「・・・先に行って待ってるはずよ、アスカ・・・」

アタシは、リニアエレベータで地獄への穴のような場所を下った・・・
人工進化研究所第三分室・・・アタシは辛うじてその漢字は読めたが、意味が良くわからない・・・

「レイ、あんた達は何者なの、普通の14歳の子供なんてとても思えない・・・」
「・・・そう、14歳で大学を出ている貴方にもそう見えるの・・・
確かに私と碇君は普通じゃないから・・・向こうに付いたら説明するわ・・・」

アタシは、周りの寂しさを紛らわそうと、口を開く・・・
レイはそっけなく答えると無言で、埃をかぶった殺風景な部屋を通り過ぎる・・・
次に現れたのは、無数のエヴァの残骸が横たわる広い部屋・・・そして・・・

「いらっしゃいアスカ、ネルフ本部の2番目に秘められた暗部へようこそ・・・」

アタシの目の前に、中央の試験管のような管と、頭上の脳を思わせる機械の塊が立ちふさがる、
シンジの奴が、そのわけの分からない装置に寄りかかったまま、アタシに芝居がかった挨拶を送った・・・

「ア・・・アンタね、アタシをこんなとこへ呼び出して何のつもりよ・・・
まさか、ひょっとしてそこらに、1番目に秘められた暗部とやらも存在するわけ?」

シンジが、悪戯っぽくクスリと笑う・・・黒いシャツと黒いスラックス、その姿は小悪魔のようだ・・・

「・・・1番目は、この下に、休眠した 第二使徒(リリス) の保管場所があるの・・・」

レイがさも当たり前のように呟く・・・
薄い青のワンピースに、青い髪、赤い眼の彼女は、まるで断罪のために降り立った天使のようだ・・・

「ネルフ・・・底が知れないわね・・・それと貴方達も、とても人とは思えないわ・・・」
「そう、アスカの言う通り、僕達はすでに人じゃあない・・・使徒、と言うより堕天使かもね・・・
僕は第一使徒アダム、レイは第二使徒リリス・・・
この下にある、巨大なリリスはもはや彼女の影でしかないんだ」

アタシは、シンジの年老いた賢者のような黒い目線に、無意識に一歩体を引く・・・

「アタシに、そんな常識外の事を、いきなり信じろっていうの、呆れて物が言えないわね・・・
それで・・・レイが言っていた、重大な相談て何なの・・・
アンタが自称使徒だって言うのが、何か関係してるの?」
「僕達は、アスカの事は大抵の事を知ってるんだ・・・
だから、アスカがエヴァに乗り続けたいのも知ってる・・・」

アタシは、お前は底が浅い女だって、言われたような気がして、少しむっと来た・・・

「アンタ達に、アタシの何がわかるって言うのよ!」
「・・・すべて知ってるわ・・・貴方のお母様が首をつった時の絶望・・・
泣かないって墓前で誓った言葉・・・空母で加持リョウジに迫った経緯・・・」

アタシは、レイの淡々とした呟きに・・・顔が赤くなる、ど、どうやってそんな事を・・・

「だ、誰にそんな事を聞いたって言うのよ、プライバシーの侵害だわ」
「アスカはいまでも、時々泣ながら寝てるんだろ・・・知ってるよ、僕達のアスカから聞いたからね」

シンジまでが、アタシの秘められた生活を知っている・・・なぜ?

「アタシは、そんな事を教えた記憶無いわよ・・・」
「まあ、いまはそんな事は重要じゃない、重要なのは、アスカがどのくらいエヴァに乗りたいかだよ」

アタシは、シンジの言葉に少し混乱する・・・
ママをサルベージした以上、アタシはエヴァに乗れないはずじゃあ・・・

「アンタ、アタシをだましたの?ママがエヴァに居なければ、乗れないって言ったじゃない!」
「うん、いまのままならね・・・だから、聞いてるんだ、アスカがどのくらい乗りたいか」

アタシは、シンジの言葉にどこに罠があるのかを必死で考える・・・

「いまのままなら・・・まさか、アタシにあんた達と同じ物になれって言うの?」
「そう、アイカをサルベージした零号機を、レイが動かしてるのは、アスカも知ってるね?」

アタシはシンジの言葉に、額に冷や汗が滲むのを感じる・・・こいつら、もしかして・・・

「まさかアタシを、無理やりあんた達の、都合の良い様にしようと言うんじゃあ・・・」
「それこそ、まさかさ・・・僕とレイはアスカからは、いわゆる起こらなかった未来からやって来た」

シンジが、しみじみとした口調で淡々と話す・・・アタシは、それをおとなしく聞く・・・

「そこは酷いところだったよ・・・もちろん、そこにはもう一人のアスカも居たんだ・・・彼女は
僕に頼んだのさ、戻った先の自分には、ママとの平和な生活か、そのまま戦うかを選ばせてくれって・・・」

アタシの青い目と、シンジの賢者の漆黒の瞳が絡み合う・・・

「どうするの・・・アスカ?・・・平和、それとも戦いか・・・どちらを選ぶの?」
「もし、アタシがママとの平和な生活を選んだら?」

シンジがレイの方を向き頷く、彼女は腰のポーチから取り出したPDAを操作した・・・
すると、アタシ達を囲むように赤い光が溢れ・・・
その光が、アタシの白いTシャツと、濃紺のショートパンツをオレンジに染める・・・

「・・・そんな・・・」
「・・・私のスペア達・・・魂の欠片で、辛うじて生を保った私の分身・・・
彼女達は、無に帰るのを待ち焦がれながら、ずっとここで漂ってるの・・・」

アタシは思わず口を覆う・・・アタシの目に、赤い光に照らされ水槽の中を漂う、
レイにそっくりの幾体もの全裸の体が見えた・・・酷い、なんなのこれ・・・

「・・・多分、私もこの体に魂が宿るまでは、ああして漂っていたんだと思うわ・・・
そして、貴方が平和な生活を選んだら、彼女達の一人にアタシ達のアスカを引き受けてもらうの・・・」
「アスカ、断るのなら早く断ってほしい、そうなればレイのスペアボディで僕達のアスカが帰ってくるからね」

アタシは、水槽の中の少女達が赤い眼を、目の前のレイへ向け微笑むのを見て・・・顔を引きつらせる・・・

「ちょっと待ちなさいよ!
それって断れば、最悪レイの姿をしたアタシが、もう一人増えて、私が二人になると言う意味なの?」
「・・・そう、エヴァに乗れ無い貴方と、私達と同じ存在のアスカ・・・
私達は、私達が知る貴方との約束を反故にしたくは無いから・・・」

アタシは、自分でない自分が、エヴァ弐号機に乗って戦う場面を想像して、戦慄した・・・
指を銜えて見てるアタシの前で、自分の知らないアタシが、自分以上の活躍をする・・・

「アタシは、そんなのに耐えられないわ・・・
アンタ達、さっさとアタシをまた弐号機に乗れるようにして、アンタ達なら簡単にできるんでしょ?」

突然、激昂したアタシが、シンジに食って掛る・・・
レイが、空母の上での様に、アタシを羽交い絞めにして引き止めた・・・

「・・・落ち着いてアスカ・・・貴方が望めば碇君はちゃんと望みどうりにしてくれるわ・・・
でも、経験者の私から幾つか、事例二件目になるアスカにアドバイスがあるの・・・聞いてくれる?・・・」
「わかったわ・・・話してレイ・・・」

レイは、アタシの耳元で呟く・・・もちろん、しっかり羽交い絞めにしたままで・・・

「・・・まず、短い間だけど激しい頭痛・・・そして記憶の混乱が起こるわ・・・
その後しばらくホルモンのバランスが崩れて、感情の起伏が激しくなる事が分かってるの・・・
それと、貴方は子供が産めない体になる・・・それでも良いの・・・アスカ?」
「貴方達と同じになり、弐号機に再び乗るためのリスクはそれだけ?」

ふん、アタシは再び弐号機に乗るためなら、その十倍のリスクにだって甘んじるわよ・・・

「・・・そうよ・・・あとATフィールドを自由に操れるとか、
体の修復が瞬時に出来るとかあるけど、それは問題ないでしょ、アスカ?・・・」
「楽勝ジャン!なんでもっと早く、アタシにこの事を言ってくれなかったのよ・・・
何でアンタ達に勝てないのか、いろいろ今まで悩んで、アタシの方が馬鹿みたいじゃない」

アタシは、シンジの奴を睨み付ける・・・きっと、アタシの事より優先順位の高い事でも有ったんでしょ・・・
シンジは、アタシの青い目の視線を避けるように、目をそらした・・・

「僕は・・・きっと、アスカを巻き込みたくなかったのかもしれない・・・
アスカは、レイと違って普通の生活も楽しそうだったから・・・」
「・・・そうね、碇君の言う通りだわ、あの頃の私に、突然自由に生活をしろと言われても、たぶん無理・・・
おそらく、来る日も来る日もベッドに腰掛けて、無に帰る日を待つぐらいしか、出来なかったと思うわ・・・」

アタシは、振り返って、肩越しにレイの赤い眼を驚いて見つめた・・・アンタ、なんて生活してたのよ・・・

「じゃあアスカは、OKなんだね」
「OKよ、さあ、さっさとやって頂戴!」

アタシは虚栄を張ってOKを出す・・・実を言うと、ちょっとだけ怖い・・・
迂闊にも、アタシはどういう風にそれがされるのか、聞いてないのを忘れていた・・・

「アスカの承諾を受けられたと言う事で、レイそのままアスカを押さえていてね」
「えっ!ええっ!込み入った準備とか、儀式とか、呪文とか無いの?」

アタシは、レイに羽交い絞めされたままで叫んだ・・・シンジの奴が呆れる・・・

「そんなやぼったいものは無いよ・・・アスカ、何考えてるの?」
「あはははは・・・ちょっとアタシの心の準備が・・・」

シンジの漆黒の眼が、わずかだが紅く輝く・・・アタシは、力無く笑った・・・
アタシの方へ差し出された、シンジの手の平の上に、紅く輝やく光球が何の支えも無く浮かび上がる・・・

微妙に明るさを変える光球は凄く綺麗だ・・・アタシは思わずそれに見とれた・・・
それは、ゆっくりとシンジの手を離れて、アタシの額へ漂い寄る・・・

「これが、前の世界のアスカさ」

アタシの青い目が問いかける疑問に、シンジが答えた・・・
そして、それはアタシの額の中へ溶け込むように消える・・・なんか変な気分ね・・・・・

「ひくうううっ・・・ううっ・・・」
「ごめんアスカ、それはすぐ収まるから・・・」

アタシの頭の中を、何かが抉るような痛みが駆け巡る・・・
そして、アタシの脳裏にイメージが走馬灯のように湧き上る・・・

シンジと一緒にエントリーする私、シンジとユニゾンする私、火口でシンジに助けられるアタシ、
シンジとラーメンをすするアタシ、シンジに後れを取る私、使徒に精神を犯されるアタシ、
量産機に蹂躙されるアタシ、赤い海でレイに引かれてシンジにサルベージされるアタシ、
レイと抱き合うアタシ・・・アタシ・・・アタシは・・・アタシは・・・アタシは惣流・アスカ・ラングレーだ!

「・・・シ・ン・ジ・・・」
「アスカ・・・」
「・・・アスカ?・・・」

シンジ達がアタシの目を心配そうに覗きこんでる・・・シンジ・・・アタシも帰ってきたわよ・・・

「クククッ・・・こんな時に、なんていえば言いのかしらね・・・そうね・・・アイシャルリターン!」
「・・・アスカ、なんか変ね・・・それに意味が違うわ・・・」
「うん、これは使徒化の副作用で、ドーパミンが過剰分泌してるのかもしれないね」

アタシはハイになっていた、
そしてその火はすぐに消え、今までの、シンジ達への自分の所業を思いだす・・・
ああ、やっぱりこのアタシも、アタシだったわね・・・天邪鬼なのは、どうなっても変わらないわ・・・
アタシ、レイにひどい事言って・・・それに、アイカ・・・アタシの名前の一部を、もらったと言う少女・・・

「ごめんねレイ、アンタにもアタシ、
気づかずに無神経な事言っちゃったみたいだし・・・それにアイカにも・・・」
「・・・いい、私達のアスカが帰ってきてくれたから・・・」
「アスカ、アイカにはあった時に謝れば良いよ、あの子は賢いから、きっと分かってくれる」

アタシは涙を流しながら、シンジとレイの言葉を聞いた・・・
ママ、戦友、想い人、アタシの欲しかった物を全部手に入れた・・・
いまのアタシは幸せ者だ・・・だから・・・絶対にあの赤い海の世界を、実現させてはならない・・・

    ・
    ・
    ・

結局アタシは、ママより想い人を取った・・・ママには、明日謝りに行こう・・・
いままでシンジがレイに独占されてたと思うと、アタシはちょっぴり嫉妬に駆られたのだ・・・

シンジが自宅のドアをカードキーで開け、ただいまと声を掛けながら中へ入る、レイもその後に続いた・・・
アタシも、ただいまと声を掛けながら中へ入る・・・
すると眠そうな目を擦りながら、リビングで、うたた寝をしていた少女が、アタシ達に声を掛けた・・・

「おかえりなさい・・・シンジ兄ちゃん、レイお姉ちゃん、えっと・・・ア、アスカお姉ちゃん?」

挨拶をしかけて・・・アイカは、アタシの雰囲気が以前と違うので戸惑っている・・・
だから、アタシはアイカを無理やり抱きしめて、あの時の事を思いだして思わず微笑む・・・

「待たせたわね、アイカ・・・いま、このアタシが貴方の名前の元になったアスカよ」

少女の瞳が、からかわれたと思ったのかアタシを睨みつける、
でも、アタシの真摯な眼を見て視線がやわらかく変わった・・・

そして、アタシの横のレイに無言で問いかける、レイが大きく笑って頷く・・・
アタシの胸の中で、レイにそっくりな少女の頬を、涙が伝った・・・




To Be Continued...



-後書-


アイシャルリターン = 第二次大戦時、日本軍にフィリピンを追い出された時にマッカーサー元帥が
吐き捨てた言葉、”私は帰ってくる”(うろ覚えですけど)だからアスカは完全に意味を履き違えてますね(汗)

ついにキョウコがサルベージ、アスカが使徒モードに入りました
ウーン時間が開いてしまった、風も引いてるし・・・
おお、今測ると熱もある37.3、ああ、今日は寝ますのでお休みなさい・・・(滝汗)


ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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