Novel Top Page


EVA・きっと沢山の冴えたやり方

・第二十一話 マグマダイバー・疑惑に狂う心   by saiki 20030224



エヴァと呼ばれる、巨大で醜悪な兵器の前に、少年は恐れもせず自然体でたたずむ・・・
その時私は、かすかな違和感を覚える・・・私は思わず、値踏みするように彼を見つめた・・・

「はじめましてシンジ君。私はこのネルフでE計画を担当している赤木リツコです」
「あ、こちらこそはじめまして。碇シンジです。えっと、赤木博士」

私は、目の前の少年の目に自分に対する、哀れみのような物を感じ・・・
そして、私の疑問は、やがて疑惑へと大きく膨らんでいく・・・

碇シンジ 14歳 マルドゥック機関より選出された
サードチルドレン、エヴァンゲリオン初号機専属操縦者。

私には、彼が報告書とは明らかに違って感じられた・・・
彼は、私達へ天使のように朗らかに微笑む・・・
そして、それに魅入られた者は、老若男女すべてが彼に対して好意を持たざるおえない・・・

でも彼は14歳、そして時折かいま見える、彼の賢者を思わせる、黒曜石を磨いたような黒い瞳・・・
彼の持つアンバランスさに・・・何処かがおかしいと、私の女の感がささやく・・・

    ・
    ・
    ・

ざわめく第一発令所へ、私の疑惑を一身に集める彼の声が響く・・・

「はい!ミサトさん、あれは殲滅しました、帰り道を教えてください」
「リツコ、帰還ルートを指定して」

少年は、始めて乗ったエヴァで、使徒を完膚なきまでに殲滅した・・・
私は、その勘に従って怪しい彼を実験室に連れ込み、徹底的に調べ上げる、
インプラントの跡、脳波の乱れ、テロメアの欠損、DNA・・・
でも、全てのデータは、彼が”碇シンジ”本人だと言う結論を、無常に私に突き付ける・・・
本能とデータの板挟みになった私は、混乱して彼に問い掛けた・・・

「シンジ君・・・貴方は怪しすぎるわ・・・貴方は本当にシンジ君なの?」

彼は、私に挑み掛けるように嬉しそうに苦笑して、その黒い眼を細める・・・

「クスクス・・・そうですね、ほんとに怪しすぎますねぼくは・・・
でも、リツコさん本当にぼくから真相を聞きたいんですか?」

私は戦慄した・・・彼は何を言っているの・・・
結局、私は彼をそのまま、自分の元から出て行かせるしかなかった・・・

そして、多分その時から、私の中の妄執が、碇司令への報われぬ愛憎から、
シンジ君への、焼けるような好奇心へと、変わって行ったような気がする・・・

    ・
    ・
    ・

そして、しばらくして私は異変に気がついた・・・
あれほど重体だったレイが、何時の間にかシンジ君の後について、歩いているのを見かけたのだ・・・
ギブスが必要だったほどの、大怪我なはずなのに・・・私は、呆気に取られて、レイに呼びかける・・・

「レイ・・・もう体は良いの?」
「・・・はい、赤木博士、問題ありません・・・」

少女は私に、その赤い瞳を向けてうっすらと微笑む・・・
私は眼を丸くする・・・そして、後ろで苦笑するシンジ君を見て、彼が何かした事を私は悟った・・・
シンジ君・・・今に見てらっしゃい、私の眼が怒りに燃える・・・
ぐうの音も出ないぐらいに、貴方の事を暴き立てて上げるわ・・・

「・・・先輩・・・」

後ろで、何かが落ちる音が聞こえる・・・私は振り向く、そこには、顔を引きつらせたマヤが居た・・・
マヤ・・・童顔の私の後輩、そして聡明な私の助手・・・でも、いまはただの恐れ戦く小娘にしか見えない・・・

「どうしたのマヤ?」
「・・・は、はい何でもありません先輩・・・」

マヤは、慌てて落とした書類を拾うと、まるで後ずさる様に私の前から立ち去る・・・どうしたのマヤ?

    ・
    ・
    ・

何時の間にか、私への連絡なしでレイの住所が変更されていた・・・
それもあの、要注意人物、碇シンジ君と同じ住所だ・・・あの人は・・・碇司令は、何を考えているのだろう?
私は、あの人に連絡を入れる・・・そう言えば、最近あの人から呼び出しがない・・・
シンジ君に執着していた私は、すっかりあの人の事を忘れていたのに気がついた・・・
私は、つい最近まであんなに狂おしいほど、あの人に愛を求めたのに・・・

「碇司令・・・私です!」
「・・・私だ、何の用だ赤木博士・・・」

何か妙だ・・・何だかあの人の声に、何時もの有無を言わさぬ威厳と迫力がない・・・

「司令・・・お体の具合でも?・・・」
「いや、何も問題無いが・・・」

でも、あの人の声はあまりにも私の記憶と違う・・・

「そう・・・ですか、レイの事について、ご相談があるのですが」
「わかった時間を空けておく・・・30分後で良いかな、赤木博士?」

何だか、あの人の声に、私に対する引け目を感じるのは気のせいだろうか・・・

    ・
    ・
    ・

私は司令官室で、何時の間にか導入された、柔らかなソファーに座って呆然としている・・・
目の前には、かなり高額の小切手が置かれ、この人の髭のない、サングラス抜きの厳つい顔が、
少し青ざめて、私を見つめている・・・私は、顔を俯けたまま固まってしまった・・・

「すまなかった赤木博士・・・許してもらえるとは思わないが、
これは私の心づくしだ、受け取ってはもらえまいか?」
「・・・貴方は私を捨てるのですか?・・・親子二代、貴方に尽くしてきた、この私を・・・」

そう、目の前の小切手は情事の手切れ金・・・そして、目の前のこの男は、私を捨てようとしている・・・
いつかは、こんな事もあると思っていたけど・・・なぜか私の心は、思ったより冷静だ・・・

少し前なら、この人を殺したいほどに憎んだだろう・・・でも、今では涙も出ない・・・
何故だろう・・・ああ、そうか・・・私はとっくに、この人への報われぬ愛憎から、心を解き放っている・・・
いま、私の心を占めるのは、この人の息子のシンジ君・・・
彼への焼けるような好奇心が、私の心をつかんで放さない・・・

「ほんとにすまないと思っている・・・」

でも、目の前の人は誰?・・・
深々とテーブルに頭を擦りつけるように下げている、この見知らぬ人は・・・
そう、私と入れ違いに出て行った副司令も、
何か取り付かれていた物が落ちたように、颯爽とした笑顔をしていた・・・
レイ、碇司令、副司令・・・彼らは、何処かが変わってしまった・・・そう、彼、碇シンジが来てから・・・

    ・
    ・
    ・

先週は松代へ出張・・・普通なら何でもない事だけど、今回の出張は次々とトラブルに見舞われて・・・
私の意向を無視して、どんどん滞在期間が伸びていった・・・どうも、私の考えすぎだろうか・・・
なにか、作為的な物を感じる・・・結局、私がすべき零号機の改修は、マヤに任せる事になってしまった・・・

「マヤ、疲れてる所悪いんだけど、もう少しだけがんばってちょうだい」
「はい先輩、がんばります」

私の労う声に、マヤが嬉しそうに微笑む・・・
疲れてるでしょうに、若いからかしら思ったより元気そうね・・・
まあ、彼女には苦労を掛けるけど、今度の事はマヤにも良い勉強になったと、私は思う・・・
この起動試験が無事に済めば、この子にも休みを上げられるわ・・・

「パルス及びハーモニクス正常、シンクロ問題なし」
「オールナーブリンク終了。中枢神経素子に異状なし」
「1から2590までのリストクリア、絶対境界線まであと0.5」

零号機は前回、このすぐ後に暴走した・・・ここさえ突破できれば・・・
レイ・・・あの人の人形だった少女・・・でも、いまは私にとって、ただ得体の知れない物でしかない・・・

「ボーダーラインクリア」
「零号機、起動しました!」
「A−10神経接続異常なし、初期コンタクト全て問題無し、ハーモニクスクリアー」

まずはひと安心と言うところね、マヤ・・・良くやったわ、明日は休みを上げられそうね・・・

「あぁ、せ、先輩・・・シンクロ率は99.89%です!!」
「慌てる必要は無いわマヤ、すでに前例のあることよ」

マヤが、レイのシンクロ率の数値を見て眼を見張る・・・
シンクロ率の異常な数値を知り、私は悟った・・・レイ貴方も・・・貴方もなのね・・・

「レイ、お疲れ様、もう上がって良いわ・・・」

私は片手を額に当てながら、実験場の片隅で、零号機を見つめるシンジ君を、
その貪欲な好奇心を目線に込めて、舐める様に見つめる・・・
彼は、私の目線に気がつくと困ったような微笑を浮かべた・・・シンジ君、今に見てらっしゃい・・・

    ・
    ・
    ・

今日は最悪の日だった・・・ミサトのごり押しで、エヴァによる射撃シミュレーションを行ったのだが・・・
それにより出た結果は、シンジ君とレイに関しては、射撃訓練の必要がないと言う否定的な物だけだ・・・
出た数値がパーフェクトで、長年訓練を積んだドイツに居るセカンドを遥かに上回っている・・・

何処かで訓練を受けたので無ければ・・・否、訓練を受けてもそう出る数値ではない・・・
私がどうやって射撃の腕を鍛えたのか聞くと、シンジ君とレイは共にコインゲームで腕を鍛えたと嘯く・・・
悪い冗談・・・でも、私は一概に否定できない事に気がついた、もしそうなら恐るべき事だ・・・
いまの、彼らには限界と言う物は無いのかも・・・すでに人としてのスペックを越えている・・・

また、シンジ君からパレットガンの、劣化ウラン弾について注意を喚起された・・・
何故気がつかなかったのだろう、私達は、もう少しで気づかぬまま、
低放射性核物質とはいえ、深刻な核汚染を広げる所だった・・・

そして、今日の最後に保安諜報部の猛者達と、
シンジ君達との合同演習と言うお題目での試合が行われた・・・
結果は、私の予想に反して保安諜報部の一方的な敗退・・・

あそこまで力量の差があると、全く相手にならない・・・
その最中、何人か怪我人が出たが・・・何だかそれも、わざとらしく私は感じる・・・
あの子達は、何を考えているのだろう・・・でも、きっと彼らを誰も止められない・・・

    ・
    ・
    ・

しばらく前に、最悪の日だと私は思ったが・・・
どうやら最悪の日は、どんどん更新され増えていく物らしい・・・
きょう、第四番目の使徒が現れた・・・結果は、エヴァの圧勝とも言えるべき戦闘だった・・・
初号機が、ATフィールドにより使徒の鞭状の器官を中へ塗りこめるように束縛後、
零号機が使徒の背後から攻撃、零号機による特異な現象が観測された後、
全ての計器が焼ききれたり、ブレーカーが飛ぶ・・・その後、第四使徒の撃滅が確認された・・・

やはり、レイもシンジ君と同じ、私にとっては謎の存在になってしまった・・・
冷徹な科学者の心が、私に解剖して見たらと囁く・・・だってレイには代わりがいるからと・・・
でも、セントラルドグマのダミープラグプラントに残っている、レイの体は何故か5体のみ・・・

何時の間に、レイの体が減ってしまったのだろう・・・しかしあそこには、マギの監視は届かない・・・
私は恐る恐る碇司令に現状を報告したが、彼はにやりと笑うと”問題ない”と私に答える・・・
私は気味が悪い・・・私の周りでなにが起きているのか、いまの私は非力だ・・・

    ・
    ・
    ・

今日も良く無い事が起こった・・・ミサトの馬鹿が、何を思ったのか勤務中に本部から失踪したのだ・・・
原因はきっとあの連中だ・・・シンジ君と碇司令、副司令、そしてレイ・・・
マギが危ういところで、あの馬鹿を見つけてくれた・・・

往来の激しい交差点の赤信号を、ふらふらと夢遊病者のように渡ろうとしたミサト・・・
マギが信号機の制御を乗っ取って、紙一重の差で無事に車をせき止める・・・

私はこのところ疲れていたせいか、少し切れてミサトの頬を叩いてしまった・・・
ごめんなさいミサト・・・でも、夕食を奢る約束はちゃんと果たしてもらうわよ・・・

    ・
    ・
    ・

あれからミサトが変だ、まるで碇指令や副指令のように、人が変わってしまった・・・
私を見ると避けるようにする、それに彼女のなんだか私をあわれんでいるような視線が痛い・・・
とうとうネルフ上層部で、変わって無いのは私だけになってしまった・・・

彼女は明るくなった、そして時々、突然思い出したようにクスクス笑うので、ほんとに気味が悪い・・・
副司令も何だか良く笑うようになり、何かに耐える様に顔をしかめる事がほぼ皆無になった・・・
そして、碇司令・・・この人が外見的には、一番変わったように見える・・・
この人はトレードマークの髭を剃った、それにほとんどサングラスを掛けなくなった・・・
いつもは、よほどの事がないと、ちょっと寂しげに微笑みながらいつも書類の決裁をしている・・・

でも、彼を持ってしても、レイの変わりようには比べられないかもしれない・・・
あの、人形のように無表情だったレイの微笑みは、
いまやシンジ君に次ぐ、良い意味での破壊力を発揮している・・・
彼女の笑顔でお願いされると、男性職員だけでなく、女性職員さえもほとんど逆らえない・・・

私はマヤが急ぎの仕事を差し止めてまでも、レイの用事をしているのに何度も出くわした・・・
まったく困ったものねと、私が睨むと二人揃って謝ってくれたが・・・
でもその後、私が想定していた半分の時間で、
仕事を仕上げて提出されたのには驚いた・・・レイが、マヤを手伝ったのだろうか・・・

だとしたら、レイの能力はマヤ並みかそれ以上・・・
これで所業が怪しくなければ、ぜひ多忙な技術部へ引き抜くところだ・・・
そして、一連の事象の裏に、シンジ君が居るとしたら・・・
私の推測でしかないが、彼はレイ以上の能力を、持っているのかもしれない・・・

    ・
    ・
    ・

きょう、作戦部の人事異動が発表された・・・
葛城一尉の一時的な配置換えによる、日向一尉の昇進と作戦部長代理への就任、
それと彼の抜けた穴を埋めるため山岸二尉のメインオペレーターへの就任と昇進・・・

驚いた事に、ミサトはニコニコと笑って辞令を受け取った・・・
てっきり私は・・・乱闘騒ぎさえも視野に置いて、せっかく保安部員を配置したのに・・・・
ミサト、貴方の使徒に対しての復讐心はどこに行ったの?

夜、シンジ君の家で三人の為にパーティが開かれた・・・
個人的な情報収集のため、もちろん参加する事にする・・・
でも、ばらまいた盗聴器は全て潰されてしまった・・・
そして、レイの妹と紹介されたアイカ・・・その、レイにそっくりな容貌は、私を驚かせる・・・
まあ、すでに事態は私の手を離れて、制御どころか把握さえままならない・・・

帰り際、私はレイにセキュリティカードを渡した時、私の前で彼女はなぜか可愛く頬を赤く染めた・・・
おそらく、シンジ君の写真を見てだろう事は私も想像できた・・・良く見るとレイの体は、
微妙に丸みを増して、少女から女へと変わりつつあるように見える・・・
おそらく、同棲中のシンジ君とすでに肉体関係があるのかもしれない・・・

「レイ・・・良かったわね・・・ひたすら怪しくて、
うろんで、生意気だけど・・・貴方には良い人みたいじゃない・・・」
「・・・はい・・・碇君はとても良い人です赤木博士・・・」

私はなぜか、少しだけ嫉妬心が芽生えるのを感じる・・・
レイはきっと、シンジ君の事を、私より良く知っているにちがいない・・・

「私も、そこまで信じられたら良いんだけど・・・まだ、その勇気が無いわ・・・」
「・・・そう・・・ですか・・・」

悔しい・・・私は・・・いや、ひょっとして寂しいのかもしれない・・・
私は、無理に作った笑顔を、顔に張り付ける・・・

「じゃあね、レイ」
「・・・おやすみなさい、赤木博士・・・」

レイが、私達をエレベーターまで送ってくれる・・・
やがて落下する感覚・・・ドアが開き、どっぷりとくれた夜空を見ながらマヤと少し歩く・・・

「そう言えば・・・何時でもって言ってくれてたわね・・・」
「えっ?・・・何ですか先輩?」
「・・なんでもないわマヤ・・・」

夜空を見ながら私は、ふっと、シンジ君が、何時でも全てを教えてくれると、
逢った日に言っていたのを思い出した・・・あの申し出を、私は蹴ってしまったけど・・・
あれは、いまでも有効なのだろうか・・・何時に無く、私は弱気になってしまっている・・・

    ・
    ・
    ・

今夜は久しぶりに、ミサトと飲みに出かけた・・・
でも、ミサトの今夜の行動はほんとに怪しい・・・
私は、彼女が奢ってくれる言うのを聞いて耳を疑った・・・

でも、それ以上に驚いたのは、はんば酔った彼女の口から出た、シンジ君達の時間逆行の夢物語だ・・・
彼女は、私が思っていた以上に、空想力が豊富だった・・・
エネルギー保存則さえ知らない、彼女にしては出来た話だ・・・

しかし、私は少しぞっとした、彼女のまるで見てきたようなサードインパクト後の顛末・・・
もしサードインパクトが起これば、ほんとにそうなってしまうのだろうか・・・
少なくとも、碇司令はそんな事はしないと思いたい・・・あの人はどうするつもりなんだろうか・・・

    ・
    ・
    ・

まずいところへ第五使徒が現れ、ぶっ続け2日連続の撃滅戦となる・・・
おかげで、零号機は前衛芸術と見間違う塗装で出撃と相成った・・・
流石の私も、ちょっとあれを見て、
崩れ落ちるように膝をつくレイを見た時は、ほんとに可哀そうになった・・・
まあ、シンジ君が慰めていたから、割合早く立ち直ったみたいだけど・・・

始めての日向君の作戦指示は、ミサトには悪いけどほぼ完璧な采配だった・・・
結構技術部も腕を振るう機会に恵まれて、今度ばかりはエヴァで使徒を倒したと言うより。
エヴァを利用して倒したと言うべき、ネルフ職員の戦意を高揚するような勝ち方だった・・・
でも、作戦部長代理の日向君の動向は、少し不自然さが見受けられる・・・彼も、要注意かもしれない・・・

そして碇司令達のはからいで、そのまま撃滅後、私達は祝勝パーティへと突入する・・・
楽しかった・・・私も一時、何もかも忘れてマヤとワインを酌み交わす・・・
この時ばかりは、私はネルフの暗部も、補完計画も何もかも忘れられた・・・

翌日、なぜか裸でマヤと一緒に、仮眠室のベッドで二日酔いと共に目を覚ましたのは、いまもって謎だ・・・

    ・
    ・
    ・

いま、碇司令の命令で”急造型M装備”なる物を技術開発部で急ピッチで建造中だ・・・
推進部は全翼機エヴァキャリアのブースターロケットを加工して使用、攻撃兵器としては
N2爆雷を転用したN2魚雷を数そろえようと、昼夜を問わずフル操業している・・・

これは私が思うに、現在海の上を本部へと向かっている、セカンドチルドレンと弐号機の為のようだ・・・
では、やはり使徒は、一緒に運ばれているアダムの破片を、目指してくるのだろうか・・・

しかし、海中用の装備・・・碇司令は、次の使徒の確実な情報を持っていると言うのだろうか・・・
そう言えば、第五使徒に対する作戦部の対応は、いま思えば鮮やか過ぎると言っても過言ではない・・・
いまのネルフで、私を無視したまま、何かが影で進んでいるのは間違い無いと私は思う・・・

少し前、酔っ払ったミサトに聞いたタイムトラベルの夢物語でも信じられれば、帳尻が合うかもしれない・・・
でも、エントロピー保存の法則さえ分かっていない、彼女のよた話を信じるほど、
私は落ちぶれてはいないつもりだ・・・しかし、私には、まだ何が起こっているか特定できない・・・
マギを使っても、全然網に引っかからない・・・凄く悔しい・・・
私は超一流の科学者を自負していたけど、ここまで無力なのかと思うと、落ち込むばかりだ・・・

    ・
    ・
    ・

いま、第六使徒を屠った、エヴァ弐号機が新横須賀に到着した、
その腹部には使徒が抉った素体までに及ぶ、幾つかの牙の跡・・・
アスカの話だと、彼女は戦闘の途中で気を失い、使徒を仕留めたのはレイだと言う・・・
では、レイはエヴァ弐号機とシンクロしたと言う事になる・・・
エヴァ、その忌まわしい呪われたシステムを知る私にとっては、信じられない話だ・・・

でもこれは、私の個人的な興味・・・技術部として、また公人としての問題は、
”急造型M装備”が使徒撃滅に、余り役に立たなかったと言う事実だ・・・
でも、私がそれを問題と思い、改良を提案した所、日向君は今後M装備は必要ないと公言する・・・
やはり彼らは、使徒について明快な情報をつかんでいるとしか私には思えない・・・

    ・
    ・
    ・

信じられない・・・あの、ミサトの酒の上の余田話が真実だったなんて・・・
久々に再会した加持君の口から私へ、更に詳細なシンジ君達の逆行の真実が明かされた・・・
正否は、次に現れる第七使徒に付いての加持君の情報の検証で、確かめる事が出来るだろう・・・

人の記憶のみの逆行・・・事実としたらなんて素晴らしい・・・
しかも、限定された物だが記憶の委譲、シンジ君はそれを、誰へでも処置できるらしい・・・
ぜひともデータを取らねば、応用しだいでは科学の新しい扉を開く事が出来る・・・

これで私は、母さんを越えることが出来るかもしれない・・・
でも、ちょっと悔しいのは、加持君の左手に指輪が光っていた事だ・・・
どうやらミサトに先を越されたようね・・・とうとう売れ残りは、私だけになってしまった・・・

ゲンドウさんが恨めしい・・・でも、あの人は二度と私を振り返らないだろう・・・
だから、私も早く加持君以上の人を見つけて・・・そして、あのミサトをギャフンと言わせるのよ・・・

    ・
    ・
    ・

第七使徒が現れた・・・加持君の情報どうり、使徒は二体に分離する・・・
これで、あの話は正しいと私は確信できた・・・素晴らしい、ぜひデータを得なければ・・・
早速、測定器具の選考に入らないと・・・
でも、アスカの弐号機が使徒に傷つけられて、私の仕事を増やす・・・

また、私の寝る時間を削らないといけない・・・最近鏡を見るのが怖い、化粧ののりも悪いし・・・
ただ、使徒をシンジ君とレイが、完璧なユニゾンで撃滅したのは救いだ・・・
前の時は、エヴァは三機とも修理中だったらしい・・・前の私は、よく倒れなかった物だ・・・

弐号機修復プランを作成中の私の携帯が、ニャアニャアと猫の声を響かせる・・・
誰だろう、この番号を知って居る人はごく少ない・・・携帯のパネル表示には、SINJI・IKARIの文字・・・
私は、知的好奇心で喜び震える・・・
彼から私への、始めてのコール・・・彼は私へ、何を語ってくれるのだろう・・・

『リツコさん、シンジです』
「貴方から携帯が掛かって来るのは始めてね・・・ご用件は何かしら?」

私は、心の内の喜びを暴露しないように、きわめて冷静な声を作る・・・

『加持さんからの話は、納得いって頂けましたか?』
「ええ、第七使徒で確証がもてたわ・・・だから私も、貴方の味方と考えてくれて良いわよ。
それから、ぜひシンジ君にお願いしたい事があるんだけど、聞いてもらえるかしら?」

私は、肉食動物が獲物を吟味する時みたいに、チラッと舌を出して下唇をなめる・・・
シンジ君、まさか断らないわよね・・・あのミサトでさえ、体験済みらしいし・・・

『物にもよりますけど・・・たとえば、お父さんとよりを戻したいとかは、お断りしますよ・・・』
「うふふ・・・言うわねシンジ君、大丈夫そんなつまらない事じゃないわ・・・
ミサトや加持君にしたと言う、前回の世界の記憶の転写をお願いしたいんだけど、どうかしら」
『僕は余りお勧めしませんが、是非にと言われるのでしたら・・・』

携帯からは、シンジ君のちょっと沈んだ溜息が聞こえた・・・でも、彼承知したわね・・・

「シンジ君、それは、そんなに溜息を付くほど疲れるの?」
『いえ、最初に合った時言ったように・・・あれは・・・真実は毒なんですよ・・・
人生観が変わるほどの、リツコさんにとっての他人の経験が詰まっているんです・・・」

そうか・・・一応、リサーチをミサトと加持君から、丹念に掛けた方が良い見たいね・・・

「シンジ君、ミサト達は大丈夫だったんでしょ、私の意思は変わらないわ・・・
計測用の測定機とかの選考が終わり次第、それを私へお願いしたいの・・・」
『仕方ないか・・・分かりましたリツコさん・・・ところで今回掛けた用事なんですけど』

有意義なデータが取れそうな実験が出来るから、私は気分が良いわ・・・
だからシンジ君、なんでも頼んで頂戴、私は貴方の味方なんだから・・・

『ドイツのマギコピーから、アスカのデータをハッキング出来ませんか?』
「良いけど・・・何が目的なのシンジ君?」

そう言えば、第七使徒戦でのアスカの振舞いは異常だった・・・

『ドイツ支部がアスカに色々してるみたいなので、何とかしたいんです・・・』
「分かったわ・・・それだけで良いの?」

まあ、あそこのオペレーターの腕ならマヤでも何とか出来るでしょうけど・・・

『それと、一時間ばかり弐号機の修理を休んで、人払いしてもらいたいんですが』
「それも出来るけど・・・シンジ君、あそこで何をするの?」

シンジ君、弐号機の周りから人払いして、いったい何をするつもりなのかしら?
私の好奇心にポッと火が付く・・・私の科学者の感が囁く・・・好機を逃すなと・・・

『アスカのお母さん、つまりキョウコ・ツェッペリン女史をサルベージするんです』
「サルベージって・・・まさかコアから?・・・出来るのそんな事が?」

たしか、お母さんが試みた時は失敗したはず・・・でもシンジ君なら、あるいは・・・

『できますよ、リツコさんも綾波の妹をご存知ですよね?』
「知ってるわよ、レイそっくりの・・・確かアイカちゃんだったっけ?
ちょ、ちょっと待って、シンジ君まさかあの子は零号機の中の・・・」

私は青い髪、赤い眼のレイそっくりの可愛い幼女を思い出した・・・

『ええ、一人目の綾波です・・・納得していただけましたか、リツコさん?』
「わかったわシンジ君・・・都合が付き次第、貴方へ連絡を入れるわ・・・」
『わかりました、連絡を待ってます』

シンジ君からの携帯が切れる・・・アイカ、一人目のレイ・・・
私の周りには、何だか思って見なかったほど、多くのヒントがばらまかれていたようだ・・・
何で見落としていたのか、自分でも不思議な気がする・・・あんなに、そっくりだったのに・・・

でも、これはデータを揃えるチャンスよ、マヤを引きずり込んで・・・あの子なら・・・
私は自分の智の展望が広がるような気がして、性的興奮にも似た快楽を覚える・・・
くくくっ・・・私の喉から、嬉しそうな笑いが漏れた・・・シンジ君、貴方はまれに見る掘り出し物だわ・・・

    ・
    ・
    ・

私の手で、ドイツのマギコピーのファイヤーウォールはあっけなく陥落した。
母さんほどじゃないけど、私の腕もまんざら捨てたもんじゃない・・・
片手で高速にキーを叩きながら、私はマグのコーヒーを音を立てずにすする・・・

「・・・な、何なのよ、これは・・・あいつら、えげつない事を・・・」

誰も居ない私の執務室に、思わず発した自分の声が響く・・・
アスカの極秘ファイルの数は膨大な物だった、その内容は流石の私でさえ、
吐き気をもよおすような内容で、ほとんどが占められている・・・
でも・・・私も、レイにしてた事は、程度の差があれこいつらと同じか・・・

「無様ね・・・わたしも・・・この手も、すでに汚れ切ってるのに・・・」

自分の口から、己を嘲る低い虚ろな笑いが漏れる・・・私はすでに、レイに謝る言葉を持たない・・・
椅子の背もたれによりかかり、落ち込んでいる私の携帯が”猫踏んじゃった”を奏で始めた・・・

『先輩、弐号機は指示どおりに準備できました』
「お疲れ様マヤ、速かったわね・・・」

携帯からは元気が良いマヤの声が響く、この子もいつか私のように、
自分の手が汚れたと、思うことがあるのだろうか・・・
まあ、ダミープラグの開発が中止になったのは、この子の為を思うと良かったかもしれないわね・・・

『・・・先輩、大丈夫ですか?』
「どうしたのマヤ?」
『いえ、何だか先輩の声が凄くお疲れみたいなので・・・』

有難うマヤ・・・貴方は、こんな私でも気遣ってくれるのね・・・
でも、きっとそれは貴方が、私が今まで何をして来たか知らないせい・・・
知ればきっと、貴方も私を軽蔑するでしょうね・・・科学と言う悪魔に売ったはずの、私の心が痛む・・・

「大丈夫よマヤ、今日はもう上がって頂戴、
貴方も疲れてるだろうから、それと明日は・・・分かってるわね?」
『はい先輩、私を信用してください、私の口が堅いのは先輩もごぞんじですよね?』

マヤの声は、まるで子猫が不安がってすりよって来るようだ・・・
だから私の声に、微妙に温かみが戻る・・・

「頼りにしてるわよマヤ」
『はい、おやすみなさい先輩』

私は携帯の通話を切って、再びデスプレィと向かい合う。
これをこのまま、アスカに見せるわけにはいかないわね・・・
私はハッキングしたデータから要点だけを抜き出し、抜粋し推敲まで掛ける・・・
基本的に画像データは載せないように気を配る・・・
こんな物見たら、おそらくランチが喉を通る者は皆無だろう・・・

    ・
    ・
    ・

午前中はアスカの症状に関するブリーフィング、内容を聞いてあの子はずいぶんご立腹だったけど、
ひそかに恐れていた、錯乱や自閉症には陥らなかったので、私はホッと胸を撫で下ろした・・・

何はともあれ無事に終わったので、遅くまで掛かって元データをいじったかいが有ったというものだ・・・
まあシンジ君とか副司令あたりには、生のデータじゃないことは、とっくにばれてるでしょうけど・・・
でも、私にもアスカが、あのファイルに有った様に、あちこち移植を受けているようにはとても思えない・・・
彼女も免疫抑制剤など服用してはいないと言うし、ぜひ一度徹底的に検査の必要があるわね・・・

そして、ランチをはさんだいま、アスカのお母さん、
惣流・キョウコ・ツェッペリン女史のサルベージが行われる・・・
私が始めて見るサルベージ・・・用意した計測器が役に立てば良いのだけど・・・
シンジ君とレイ、それとアスカとミサトと副司令が、
自走タラップに乗り弐号機の赤いコアの前へと移動する・・・

「マヤ、用意は良いわね・・・」
「はい先輩、でもアスカちゃんの為にも成功すれば良いですね」

マヤが心配そうな顔で、頭上の自走タラップを見上げる。

「大丈夫、シンジ君が失敗するはず無いわ、マヤは安心してデータ取りすれば良いのよ」
「うふふふ・・・先輩も、シンジ君を信じてるんですね」

私の傍らで控えていたマヤが、ちょっと薄気味悪い笑いを漏らす・・・
マヤ、貴方何を考えてるの・・・私の顔がちょっと引きつる・・・

「そうですよね、シンジ君の笑顔は素敵ですから・・・
やっと先輩も、あの笑顔の良さが分かってきたんですね・・・私、嬉しいです先輩・・・
一時は先輩が、シンジ君は怪しいって、彼を見る目付きが凄く怖かったです・・・
でも、あんなに素敵に笑う人に悪い人は居ないはずです・・・だから・・・」
「あ、あのね・・・マヤ・・・」

私はマヤの長い言葉に、思わず背筋を冷たい物が伝うのを覚える・・・
マヤ、貴方まさかショタだったの・・・
思わず口走りそうなった私は、無理やり喉の奥へとその言葉を飲み込む・・・

「マヤ、手がお留守よ・・・デ−タ取りに集中しなさい」
「は、はい、先輩」

突然、私の目の前の計器の幾つかに、反応が記録される・・・サルベージが始まったようね・・・
目の前の計器に集中しようとしていた私の耳に、アスカと見知らぬ女性の声が響く・・・

「ママ・・・ママ!・・・ママッ!!!」
「ひいいいっ・・・いゃあっ!・・・たすけてっ!・・・引き込まれるっ!ひいいいいっ・・・」

ここからはほとんど見えないけど、
自走タラップの上は修羅場のようだ、何か分からないが叫び声が聞こえる・・・

「マヤ、データは取れた?」
「ハイ、ばっちりです先輩」

私の問いかけに、マヤは大きく頷く・・・私はホッと溜息をついた・・・
良かった、この先こんな機会何度あるか分からない・・・私は自走タラップを見上げた・・・
それに、アスカもお母さんが無事サルベージできたようだし、まずはめでたいってところかしら・・・

「・・・良かったわねアスカ」
「そうですね、先輩・・・」

私が思わず漏らした呟きに、マヤが笑顔で答える・・・
でも、弐号機からキョウコさんをサルベージすれば、アスカは乗れなくなるはずだけど・・・
シンジ君ちゃんと考えてるのかしら?・・・愚問か・・・彼がそれを考えていない筈はない・・・

「マヤ、後は頼んだわよ・・・データを引出した後、
計測器のメモリーも、上書きして初期化するのを忘れないで」
「はい、任せてください先輩」

私の念押しに、マヤが笑顔で答える・・・どうやら上も、落ち着いたようだ・・・
自走タラップから、バスロープを羽織った黒髪に青い瞳の20代後半の女性が、
アスカに支えられて床へ降り立つのを・・・私はストレッチャーの前で待ち構える・・・

「キョウコさんですね、一応検査したいので、ストレッチャーに乗ってください」
「大丈夫です、ちゃんと私は歩いていけますから・・・それより、スリッパか何かいただけませんか」
「ママ・・・赤木博士の指示に従って、ママはあそこから出たばかりなのよ、無理しないで!」

流石にアスカのお母様ね、気が強いところはそっくり・・・でも、愛娘に何時まで逆らえるかしら?
私は少しの間、二人の掛け合いを見物する・・・でも、なかなか決着が付かないわね・・・

「アスカちゃん・・・ママは大丈夫よ・・・」
「だめ!言う事を聞いて、ママはこれからちゃんと検査をしてもらうのよ!」
「そんな事を言わないで、ね、アスカちゃんちょっとだけだから、久しぶりにネットとかしたいのよ」
「ママ!そんな事より検査の方が大事よ!」
「じゃあ、ちょっとだけ、パパと話すのに電話をかけさせて」
「ママ、パパはアタシ達を捨てたの、もうとっくに再婚しちゃってるわよ!」
「ええっ!そんな!神の前で永遠の愛を誓ったのに・・・」
「あんな尻軽男なんかほって置こうよママ!
それにママをサルベージした事は、極秘なんだから電話は駄目!」

なかなか二人とも元気ね・・・もうちょっと、湿っぽい事になると思ってたけど・・・
私はちょっと思いついたので、彼女の耳元へ顔を寄せた。

「キョウコさん・・・このまま長話をしていると、サルベージ直後の貴方の身体データと言う、
貴重なデータを取りそこなう恐れが有るのですが・・・ご協力いただけませんか・・・」
「赤木博士、それ・・・私にも見せていただけるかしら」

彼女も同じように、低い声で私に答える・・・私は、ふっと口元に薄い笑みを浮かべた・・・

「もちろんです・・・ご入用なら、サルベージ中のデータも有りますが・・・」
「それにも興味あるわ、お願いね赤木博士・・・」
「はい、かならず・・・」

アスカは、私達二人が少し話した後、彼女のママが突然ニコリと笑って私と握手し、
あっさりストレッチャーに乗ったのを見て、その青い目を丸くした・・・
これが、大人の付き合いと言うものよアスカ・・・私は、笑いをこらえるのに苦労する羽目に陥る・・・

    ・
    ・
    ・

私の科学者としての冷静な目は、シンジ君達三人を一目見ておかしい事に気が付いた・・・
アスカの、シンジ君へのスタンスが違う・・・昨日までは、彼の一歩前を歩こうとしていた・・・
でも今日はレイと同じ、控えめな恋人の距離と位置を保って居るように見える・・・

このスタンスは、シンジ君を頂点とした三角関係?・・・何故突然に・・・
どういう心境の変化だろう?・・・そう言えば、レイの時もこんな感じで突然だった・・・

「おはようアスカ・・・もうキョウコさんに挨拶したのかしら?」
「おはようございます、赤木博士・・・昨日は結局、家へ帰ったので
ママったら今朝からお冠で、宥めるのに苦労しちゃいました・・・」

アスカがちらっと、舌を出して微笑む・・・何だか、何時ものぎすぎすした所がない・・・
むしろ、円熟した女らしさが漂っているような気がする・・・レイの時も、一夜にして印象が変わったけど・・・
アスカの変化もそれと同質ではないけど、同じぐらい顕著な物に見える・・・

「アスカ・・・シンジ君の依頼で、今から貴方のシンクロテストをするのだけど・・・
これは、昨日キョウコさんをサルベージしてるから、貴方にとって危険な事になるかも知れ無い・・・
だから、私達は貴方に無理に乗ってもらいたく無いの・・・貴方には拒否する権利があるわ・・・」
「赤木博士・・・貴方は・・・もう分かってるんでしょ・・・大丈夫、何の危険も無いわ」

やっぱり・・・アスカの変化は、おそらくシンジ君達と同質の物・・・
アスカは涼しい顔で、私へと笑いかける・・・それは、何時もの硬さが無い、ほんとに綺麗な微笑み・・・

「博士、たぶん最後のテストになるから、チャチャッと片付けましょう、
午後からは、ガードの山岸さん達と一戦交えてガードを外してもらわなきゃならないんです・・・
それと、お昼は、シンジがお弁当を作ってきてくれてるんです、ご一緒にお食べになりませんか?」

私は、アスカの軽い物言いに盛大に溜息を着く・・・
確かにシンジ君のお弁当は、私にとっても大変魅力的だ・・・

「わかったわ・・・なんとなく、結果が分かるような気がするのは、嫌な物ね・・・じゃあ早速、
アスカはプラグスーツに着替えてきて、手早くやるからシンジ君達はここで待ってても良いわよ」

アスカはスキップするみたいに、笑顔ですっ飛んでいく・・・
私は、ちょっと厳しい目付きで、シンジ君を睨むと口を開いた・・・

「シンジ君、あれはどういうことなの?」
「リツコさん、どういう事と言われますと?」

シンジ君は微笑みを浮かべたまま、まともに私の瞳を見つめ返す・・・

「貴方は、アスカに何をしたの?」
「アスカの希望どおり、僕達と同じように人柱なしで、弐号機に乗れるようにしただけです」

私は、自分を見つめ返す彼の目が、一点の曇りのない賢者の瞳だと感じた・・・
でも私は、納得いかない・・・それが、かって私が犯した罪のように思えて・・・

「アスカは変わってしまった・・・レイと同じに・・・前のアスカはどうなったの?」
「リツコさん、人は時と共に変わるものです・・・でも、それは昔の自分の上に、
積み重ねられたものです・・・だから、変わる前の僕達は、変わってしまった僕達の中に居る・・・
いえ、むしろ同じ物の一断面に過ぎない・・・まあ、アスカの場合はちょっとダブってるのは認めますけど」

つまり、人生という書きかけの小説ファイルへ、完結した同じ小説ファイルを上書きした状態・・・
とでも言えば良いのかしら・・・でも、人の人生って、そんな簡単に割り切れるものなの、シンジ君?

「お待たせ・・・なんか難しそうな顔をしてるわね、何か有ったのシンジ?」
「アスカ・・・いまの貴方は、変わる前の貴方の記憶を持ってるわね」

アスカが、怪訝そうな顔で私を見つめる・・・

「もちろん、どちらも私だもの、博士は何を聞きたいのかしら」
「敬語を使わなくて良いわアスカ、貴方は進んで今の状態を受け入れたの?
それとも無理やりシンジ君に強制されたの?それで、どうこうする気は無いけど、聞いておきたいの」

アスカが人の悪そうな表情で、ニヤリと笑う・・・それを見た私の額に、嫌な汗が浮んだ・・・

「もうリツコったら・・・せっかくイメチェンしようと思ったのに・・・
いいわリツコ、答えて上げる・・・ちゃんとシンジは私に選ばせてくれたわよ・・・
だから心配要らないわ、でも惜しかったかもしれないわね・・・突然、レイが二人になって、
その片方がアタシと同じ性格・・・と言う事態も、昨日まで有りえたんだけど・・・」

アスカが、さも面白い事に気がついたと言うように、手をうち合わせる・・・

「でも、良く考えたらアタシ的には、そうならなくて正解かもしれないわね・・・二人とも満足しないと思うから
片やママを取られ、もう片方はエヴァ弐号機を取られて・・・きっと、けんかになっちゃうわね」

アスカは私をそっちのけで、自分の言葉が自分のつぼに嵌ったのか、
声を殺し、体を前のめりに折り曲げて苦しそうに笑い続ける・・・
私は憮然とした表情で、それを眺め続けた・・・アスカに、何を言ったら良いのか分からなかったから・・・
まあ、昨日までの人生の悲惨さが滲み出るような、暗いアスカよりは良いかもしれないけど・・・

「・・・大丈夫です・・・赤木博士、碇君はちゃんと頼まないとキスさえしてくれませんから・・・」

しばらく首をかしげていたレイが、静かに私に告げる・・・それを聞いたアスカの笑いが、ぴたり止まった・・・

「・・・そうなのレイ?」
「・・・うんアスカ、そうなの・・・」

何なのよ、この二人・・・すっかり仲良くなって・・・
私はてっきり入ってきた時のスタンスで、貴方達がシンジ君をめぐって、
三角関係かと思ったけど・・・何だか、ちょっと違う気がする・・・

「まあ良いわ・・・アスカ、テストを始めましょう」
「ふふ・・・りょーかい、リツコ」

自信満々に、シンジ君の方へ親指を掲げたアスカは、
すでにお約束になりつつあるあの、忌まわしい数字・・・シンクロ率99.89%を弐号機で記録した。

また、午後から保安諜報部の有志を一人でなぎ倒し、
翌日からアスカへの監視活動が廃止され、ガードは最少人数に減らされたのは言うまでもない・・・

この子達・・・いやすでに、彼らは自分達を人ではない物と定義してる・・・
いったい、彼らは人である事さえ捨てて、何を求めているのか・・・

    ・
    ・
    ・

少し額が痛い・・・でも、動かすとノイズが記録に乗ってしまう・・・
マヤ・・・いや、これは彼女に頼んだ方が良いか・・・

「ごめんなさいキョウコさん、ヘッドバンドを少し締め付けてください」
「でも、これ以上締めると痛いわよ・・・リツコちゃん」

キョウコさんが、私の言葉に顔をしかめる・・・
彼女なら、私の言葉どおりやってくれるだろう・・・
サルベージされたアスカのお母さん、キョウコさんは、
いまカモフラージュの為に、皮肉な事に綾波姓を名乗っている・・・

「長い時間じゃないので大丈夫、それにノイズが乗るとまずいですから」
「・・・わかったわ、痛かったらちゃんと言って頂戴ね」

キョウコさんが私の頭を固定するバンドを、慎重に締め付ける・・・
良かった、思ったほど痛くない・・・いま私は、自らの意思で、
検査用のベッドへ、がんじがらめに固定されている・・・

なぜなら、動くと計測器にノイズが混じるからだ・・・
そして、スパゲティーみたいなケーブルに繋がれた私を、
シンジ君達が、呆れたように見つめ・・・それぞれの、重い口を開いた・・・

「何だか、凄い事になってますね・・・」
「・・・やはり赤木博士は、マッドだったの・・・」
「ママ・・・お願い、アタシが言えた事じゃないかもしれないけど・・・
リツコの真似をして、人の道を踏み外さないでね・・・」

動けないのを良い事に、なんか散々な事を言われてるような気がするわね・・・
キョウコさんの顔が引きつってる・・・そして、マヤも・・・貴方も自覚があるようね、マヤ・・

「シンジ君・・・準備OKよ、やって頂戴・・・マヤ、キョウコさん記録を・・・」
「はあ・・・分かりました・・・」

私を見下ろす、シンジ君のちょっと悲しげな笑顔・・・
そして、額へと彼の指が乗せられる・・・
これで、やっと私の追い求めた物が手に入る・・・私は、彼に合ってから感じていた、
狂おしいまでの好奇心が満たされる瞬間を、今か今かと待ち続ける・・・

そして、彼の繊細な指先から、ゆるりと私の中へ悪夢が流れ込む・・・
そしてその生々しいまでの実在感が、私を叩きのめす・・・
これがミサトや加持君、副司令や碇司令を変えた前の記憶・・・
私は幼いミサトとなって、セカンドインパクトを経験した、
そして休む間の無くアスカとなって、
その悲惨な幼児体験から精神崩壊、量産型エヴァに陵辱され、心が粉々になるのを体験した・・・
次に、私はレイになっていた・・・
そして彼女をもてあそぶ私・・・心を削られるような、その生き様が私を後悔させる・・・
最後に私は、何時の間にかシンジ君になっていた・・・彼の孤独が、後悔が、怒りが、私を埋め尽くす・・・
そして、どこまでも赤いLCLの海・・・私は・・・私は、今まで何をして来たの・・・

私は、自分で自分の生き様を、否定したくなった・・・
科学者としてお母さんを越える・・・世界に認められる・・・お笑い草よ・・・
いま、やっと私は悟った・・・人生はロジックじゃない、その意味を・・・

「先輩!先輩!しっかりしてください・・・」
「うん・・・大丈夫よマヤ・・・」

気が付くと、何時の間にか私は拘束を解かれ、天井を見上げながら涙を流していた・・・
心配顔のマヤが、私の涙をハンカチで拭いながら呼び掛ける・・・
キョウコさんも、落ち着きのない眼で私を見つめている・・・

大丈夫・・・私はきっと大丈夫よ、マヤ・・・だから、そんな悲しい顔をする必要な無いわ・・・
私はゆっくりと上半身を起き上がらせて、シンジ君達を見つめる・・・
私を見る、彼らの瞳には、心配の色は浮んでいるけど、私を責めるような光は皆無だ・・・

「なぜ・・・何故、貴方達は私を責めないの?・・・」
「どうなさったんですか?先輩・・・」

マヤが驚いて、私の肩に手を置く・・・でも、私は、その手を払いのけて立ち上がった・・・
そして、少しよろける足でシンジ君の前に立ち、彼の肩に手を置きその目を覗き込む・・・
私は彼の目を覗きこんだまま、ゆっくりとしゃがみこんだ・・・私の足が震える・・・

「あれだけの事をした私を・・・何故責めないの、シンジ君!レイ!アスカも!」

己を断罪する言葉が、自分の震える唇から絞り出される・・・
そんな私の頬を流れる涙を、シンジ君の指がそっと拭う・・・

「混乱してるんですよリツコさん・・・第三使徒以降に起こってる事は、
だんだん違っているでしょ・・・今はダミープラグも無いし、綾波もあの廃墟には居ない、
加持さんも死んでいないし、アスカも心を病んでなんかいない・・・」

シンジ君の口から、私への免罪の言葉が紡がれる・・・

「だから、あれをしたのは貴方じゃない・・・
そして、これからはあんな事を起こさないようにすれば良いんですよ・・・」
「そうよリツコ、シンジの言うとおり、ミサトと酒飲んで忘れなさいよ」
「でもアスカ・・・私が第三使徒以前に、レイにした事は許されないことよ・・・」

シンジ君だけでなく、アスカも私を慰めてくれる・・・でも私には、それが心から信じられない・・・
だから私は、自分を断罪する・・・そして、私はレイの顔がまともに見れなかった・・・

「・・・赤木博士、謝らなければならないのは、私かもしれません・・・
碇君の心のキャパシティや、当時の居場所の特定などの条件を考慮して、
逆行の場所と時間を決めたのは私です・・・もし私が、もっと前の時点へ設定出来れば・・・」

私に向かってレイが、突然饒舌に話し始めたので、驚いて彼女の方を向いた・・・
レイは俯いて、その両の握り締められた拳は震えていた・・・
何を言ってるのレイ・・・何故、貴方は私へ謝罪するの・・・

「・・・私は、貴方のお母さん、ナオコさんや、碇君のお母さん・・・
アスカのお母さんさえ救えたかもしれません・・・だから赤木博士、自分を責めないで下さい・・・」
「リツコ・・・レイがここまで言ってんだから、アンタも冷静になりなさいよ・・・」
「しっかりして下さいリツコさん・・・さあ、マヤさんも心配してますよ・・・」
「先輩・・・」
「リツコちゃん・・・」

レイの寂しさと心配が入り混じった瞳、アスカの少し怒りを含んだ目、マヤの潤んだ瞳、
キョウコさんの憂いを込めた眼差し、シンジ君の勇気付けるような暖かい微笑み・・・
すっかり罪の意識で冷え切った心に、皆から寄せられる気持ちが暖かい・・・

私は・・・私はここへ居て良いのかもしれない・・・

    ・
    ・
    ・

そろそろ撤収が始まるから、大丈夫でしょうけど・・・少し硫黄の匂いがきつくなってきたわね・・・
私は高速でキーを叩きながら、パイプ椅子に座りぬるくなったコーヒーを喉へ流し込む・・・

「マヤ、マグマの動きはどう?」
「はい先輩、大分安定してきました・・・噴火の恐れは無いと思います」

マヤが私へ笑いかける・・・もう、この子ッたら舞い上がっちゃって・・・
よっぽどこの後が楽しみなのね・・・まあ、若いから無理ないかもしれないわね・・・

「マヤ、気を抜かないで・・・温泉は逃げはしないわ」
「はい、がんばります・・・マギへの高速回線開きました、全データ、カスパーへ送ります」

私はマヤへちょっとだけ釘を刺すと、携帯の短縮を押して極秘回線でシンジ君を呼び出す・・・

「シンジ君・・・わたし、第八使徒はけりが付いたわ・・・そう、本部待機は解除、
アスカに、水着を買いに行くように言って上げて・・・うん、レイも行くの・・・そう」

第八使徒は私達技術部の手で、急造した耐圧液化ヘリュウム爆雷と、
耐圧爆雷の波状攻撃により、あっけなく殲滅された・・・
この使徒は、捕獲を考えなければ案外あっさりと屠る事が出来るみたいね・・・とても興味深いわ・・・

「今度は、ちゃんと修学旅行に行けるわよ・・・明日からだったかしら?
気を付けて・・・そう・・・楽しんでらっしゃい・・・
うん、私達もこれが済んだら温泉で羽を伸ばして帰るから・・・遠慮は要らないわよ」

エヴァキャリアにエヴァ全機を搭載して、シンジ君達にも本部待機してもらっていたけど・・・
結局待機だけで終わってしまった・・・まあ無駄に終わるって事は、私達にとって良い事なんだけど・・・
前の私達は、エヴァに拘り過ぎていたのかもしれない・・・

「ええ、じゃあ・・・・お土産期待してるわ・・・」

私は携帯の通話ボタンを切って、ディスプレィに写る自分の姿を見つめる・・・
その中には、久しぶりに黒髪に戻った私が居た・・・母さん、もう私は貴方にはこだわらないわ・・・




To Be Continued...



-後書-


うわーっ・・・なんか大変難産でした・・・
うーん、話の最初からリツコさんの行動を再検証してとか言ってたら
大変難しい上に、独白ばかりでチョッチ苦しかったです・・・
でもせっかく、やったんだしなーとか言ってそのまま残す私は
書き手としてかなり問題あるかも(滝汗)
ともかく最長記録の更新です、駄作記録も更新かも(ナイアガラ涙)

でも下のシーンはどうやっても入らなかったのでカット(苦笑)
アイデアスケッチ的な物なので誤字脱字等は平に語勘弁を(汗)

    シンジ君納得いか無いわ
    何で私の視点記憶が無いの、この科学者の私の冷静な視点が在れば
    今後の動きに凄く役に立つのに

    あの世界の貴方が協力してくれなかったんです赤木博士

    私が・・・なぜよ

    赤木博士は科学的な質問には協力的だったけど
    過去の検証への協力をお願いすると消えるの・・・

    父さんとの間に凄くショックな事が何か在ったようですね・・・
    アヤナミの体を壊した時なんか凄く怖かったです・・・

    ああ、シンジ君の記憶にある・・・その私は自分でも怖いほど狂気をはらんでいた
    ミサトの記憶の私は、狂気を包んだまま憔悴しきっている・・・
    ・・・これね、こんなことじゃ私は科学者としても最低かもしれない・・・
    ついに私は母さんを越えられなかったと言う事なのね・・・


ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


Novel Top Page

Back  Next