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EVA・きっと沢山の冴えたやり方

・第二十三話 マグマダイバー・荒れ狂う赤   by saiki 20030530


蒼銀の髪を涼しげに揺らしながら、第一中学の制服をまとう
日本人形のように整った姿が、携帯を手にアタシ達へ振り返る・・・
アタシは何時に無く白さを増したその顔を見るなり、嫌な予感に囚われた・・・

「・・・現状は良く無いわ・・・加持さんから・・・
洞木(ほらぎ) さんの着ていた服一式が、中身なしで見つかったって・・・」
「なによ、それ・・・ヒカリは素っ裸だとでも言うの・・・」

アタシの奥歯が、無意識の内にぎりぎりと音を立てて噛締められる・・・
アタシの 相方(あいかた) ・・・蒼銀の髪をした少女=レイの奴も何時も無く無表情だ・・・

「二人とも落ち着いて・・・お茶が冷めるよ」
「・・碇君!・・・」
「シンジ!アンタね!」

アイツの、あまりにも平然とした声にアタシ達は声を荒げる・・・
でも、シンジの顔を目にして、アタシ達はそろって絶句した・・・

「そ・・・そうね、さめると美味しくないわね・・・」
「・・・あ、アスカ・・・わ、私もそう思うわ・・・」

アイツ・・・顔は何時ものように笑ってるけど、
あの、怖い物知らずのレイでさえ、ちょっと引くぐらい怖い目をしている・・・
レイとアタシは怖いぐらい緊張して、
ヒカリ失踪対策本部として徴発した、ホテルの客室の机に静かに付いた・・・

「加持さん達も探してくれてるけど、糸口がつかめないんじゃ・・・
犯人からの連絡を待つしかないか・・・彼らの本命が洞木さんだとは思えないし・・・」

机の上に乗せられたシンジの手が、その色が変わるほど握り締められる・・・

「僕が甘かったのかな・・・」

ここに居るのは、ネルフのガードは出払って今はアタシ達だけだ・・・
そしてアタシ達の前に座るシンジは、アタシ達でさえ始めて見るぐらいに怒ってる・・・

「アスカ、綾波も・・・洞木さんを連れ去った人の気配を感じた?」

シンジの目がアタシ達の瞳を覗きこみ、その口から深刻な疑問が紡ぎだされる・・・

「・・・碇君、私・・・感じなかった・・・」
「シンジ・・・アタシもよ」

そう・・・いまのアタシ達なら、たとえ気配を絶った武芸の達人でさえ、
害意を持って近づけば、容易(たやすく)く気がついたはずだった・・・でも何故・・・

「洞木さんを連れ去ったのは人じゃないか・・・
それとも、そうされた人か・・・
どちらにせよ、そんな物さえ作り出す 老人達(ゼーレ) ・・・
野放しにするべきじゃなかったのかもしれない・・・」

シンジが落ち込んでる・・・
世の中で悪い事が起こるのは、全部自分のせいだとでも言うように・・・
でも違う、そんな事あるはず無い・・・
あの圧倒的な力を持つ使徒達でさえ、結局はエヴァ達に倒された・・・

だから、使徒の力を持ってしても所詮万能では無いのだから・・・
アタシ達だってミスをする・・・
それに・・・
コイツは優しいから、あの老人達でさえ出来れば救済したかったんだろうけど・・・

「・・・でも、フィフスの事がある・・・打つ手が限られるわ、碇君・・・」
「それに・・・シンジ、最近までアタシの事にかかりっきりだったんでしょ?
時が尽きたわけじゃないわ・・・だからアタシは、まだフォローは可能だと思う」

そう、ミスはフォローすれば良いのよシンジ・・・
アタシは優しい笑顔であいつを包みこみ、
癒そうと机の上で握り締められたアイツの手を取る・・・

レイも同じ事を考えたのだろう、
シンジの手の上に載せられたアタシの手の上に、さらに白い手が乗る・・・
アタシはクスリと笑って、そっと手を引っ込めると、
改めてレイの手の上からシンジの手の上に自分の手を載せる・・・

「ごめんねレイ、2号さんは本妻の後からひっそりと慰めないといけなかったのよね」

アタシはチラッと舌を出すと、ワザとしおらしさを込めてレイに謝ってみせる・・・
レイは驚いたように目を見張ると、大真面目に以外そうな口ぶりで言葉を紡ぐ・・・

「・・・なぜ?それはただ象徴的な事、アスカの想いが私に劣るとは思わない・・・」
「ありがとう・・・でも、ちょっとした冗談をそう難しく考える悪い癖は抜けないわね・・・」

ううっ・・・タイミングをはずしちゃったかしら・・・アタシを見る、二人の目線が寒い・・・

「・・・アスカ、 (ひど) い・・・」
「あんまりシンジが怖い目をしてるから、ちょっと場をね・・・ごめん・・・」

アタシは素直に二人に () びを入れる、心配してるのはアタシもなのだ・・・
何せ前世からの親友・・・アタシに、ヒカリほど気が合う女友達は居ない・・・
少しだけ場が和んだところへ、
シンジの携帯が ”喜びの歌”(ベートーベン第九) を奏で、せっかく和んだ雰囲気をぶち壊す・・・

「「「!!!」」」

アイツの顔が、思わず惚れ直すぐらい引き締まり 凛々(りり) しさをます・・・
シンジの手が携帯へ伸び、ためらいもなくそれを耳に当てた・・・

「・・・あっ、父さん・・・うん、こっちで何とかするよ・・・
うん、多分これに掛けて来るだろうから・・・悪いけど・・・
うん・・・帰ったらシナリオを練り直しだね・・・ごめん、じゃあ切るよ・・・」

シンジが溜息をついて携帯を机の上に戻すと、アタシ達の方にばつの悪い顔を向けた、
そんなシンジの表情に、レイの奴がちょっと頭をかしげて口を開く・・・

「・・・ お義父様(おとうさま) ?・・・」
「うん・・・まあ、心配してくれるのはありがたいんだけど・・・
戦自二個師団を展開しようとか・・・なるべく、大事にしたくないから断ったんだけど・・・」
「アンタの場合は、 お義母様(おかあさま) をサルベージするともっと大変になるかもね」

アタシはクククッと、押さえた少し意地悪い笑いを漏らす・・・
なにせシンジのお義父様は、お義母様の為に世界を滅ぼそうとした狂気の愛妻家なのだ・・・

まあ、その為に、妻の愛する息子を犠牲にしようとしたり、
広い視野に欠ける上に、何処か抜けてたようだけど・・・
いったい、事が済んだら、犠牲にしたシンジの事を、
お義母様に、どういい訳するつもりだったんだろう?・・・アタシには、いまだに謎だ・・・

「困った事に。アスカの言う事が否定できないな」
「・・・問題ないわ、アスカと同じで私達も親離れしてるから・・・」

レイの言う通りだ、こっちの14歳の私と違い、いまの私は当の昔に親離れしている・・・
キョウコママは、一夜にして親にべったりの14歳の私が消え、
ややドライな態度を取る、いまのアタシに変わった事を寂しがっていたけど・・・

まあ、どんな子もいつかは親を卒業するし、
その分男にべったりしてるから丁度バランスは取れてる・・・

「レイ、シンジの言ってるのは親達の方の事よ」
「・・・そう・・・そうかも知れない・・・」

レイが納得し (うなず) いた所へ、シンジの携帯が再びベートーベンの第九を奏でる・・・

「「「!!!」」」

シンジが再び顔を引き締め・・・ためらいもなく携帯を耳に当てた・・・
アイツの左手が、この場に居ない誰かの首を締める様に硬く握られ震える・・・

アタシはもう何十年も付き合ってるけど、こんなに怒っているアイツを知らない、
シンジの奴、誰に腹を立ててるのだろう・・・ヒカリを拉致したゼーレの実行部隊、
それとも、ヒカリの拉致を未然に防げなかった自分自身に・・・アタシは答えを知らない・・・

「わかった・・・でもその前に、洞木さんと話させてくれないと信用できないな・・・
うん、そう・・・じゃあ・・・掛かってくるのを待ってるよ・・・」

シンジが携帯の通話を切り、
意識して力を抜いて握りつぶさないように、それを机の上に戻す・・・
そして、その整ったあどけなさの残る顔へ、
珍しく、かってのお義父様のように、人の悪い笑みを浮かべた・・・

「レイ、新 那覇(なは) 空港のロビーの案内を検索して・・・
エントランス付近に、軽食屋か喫茶店が無いか・・・
それと、この時間に発着する便のナンバーと会社、
時間を、出来たらリアルタイムで調べて欲しいんだ」
「・・・わかったわ・・・」

レイが赤木猫印の成層圏の蒼をまとったノートを、
ネットに繋げると、リツコ顔負けのスピードでキーを叩き始める。
アタシは、すっかり冷めてしまった、
シンジの入れてくれたお茶をすすりながら、アイツに片眉を持ち上げてみせる。

「・・・ああ、たいした事じゃ無いよアスカ・・・
微かにバックに、到着便が遅れると言うナレーションと、
オーダーを取るウエイトレスの声が入ってたからね・・・」

シンジはアタシへそう言って、ちょっと壁の時計を見て考え込む・・・
事も無げに言ってのけるが、シンジの言うそれらは、
普通ならけして聞こえない音だろう事に、アタシは気が付いた。

「アナウンスの時間も合ってるみたいだから、ダミーのバックノイズじゃ無いと思うよ」

机の上の携帯が三度目のベートーベンの第九を奏でる、
キーを打っていたレイが、ぴたりとその手を凍らせた様に止め、
アタシはお茶を気管へ入れ 咽返(むせかえ) る、
シンジは右手を強く握り締め、おもむろにその手で携帯を掴む・・・

「・・・洞木さん?・・・・・・・
うん、無事なんだね・・・・・・良かった・・・
レイもアスカも心配して・・・・・・
ううん、迷惑だなんて・・・多分これはネルフがらみだよ・・・
だから、洞木さんが気にする事は無いから・・・
うん、僕達の方が謝らなくちゃいけない・・・
きっと助けるから・・・ごめん・・・もう少しだからがんばって・・・・・・」

シンジが、いままで顔へ浮かべていた笑顔を消し、
向こうから切られた携帯を、ゆっくり耳から放す、
アタシは真赤になって止めていた息を吐くと、
激しく咳き込む、そして、レイの指が再び華麗なキータッチを再開した・・・

「アスカ、新那覇港の荷上げ用桟橋付属の倉庫、近くに駐車場と、
少しはなれた所にバス停が合って、多分草原に囲まれてる・・・」
「わかった・・・任せてシンジ」

アタシも赤木ネルフ謹製ワインレットのノートを、ネットに繋げると、
レイに負けないスピードでキーを叩く、高照度細密液晶の上で
次々とウインドウが開いては閉じて行き、テキストが高速にスクロールする・・・

「シンジ・・・何か気になる事があるの?」

ノートの画面を見つめ作業を続けながら、アタシはシンジへ問いかける・・・
アタシはさっきから、シンジの顔が無表情で怒りを押しとどめているように感じられたのだ・・・

「うん・・・僕の 杞憂(きゆう) ならいいんだけど・・・」
「珍しく、煮え切らないわね・・・昔のアンタみたい・・・どうしたのよ?」

アタシは、凄く嫌な予感がした・・・そして、シンジが嫌に歯切れ悪く口を開く・・・

「さっき掛かって来た携帯の・・・
洞木さんの声のエコーに、彼女の着ているはずの、服からの物が無いんだ・・・
まあ、微妙な物だから・・・僕が聞き逃したのかもしれないんだけどね・・・」

軽やかなキータッチの音が響いていた部屋の中で、二つのエラー音が小さく鳴り響く・・・
アタシとレイが、ちらりと厳しい目つきでアイコンタクトを取ると、再び作業に戻る、
気のせいか、アタシとレイの神速のキータッチが、更に迫力とスピードを増した・・・

「・・・碇君、 那覇(なは) 空港には一階と三階、四階にレストラン、二階にカフェテリアがあるわ・・・」
「うん・・・レイ、ちょっと良いかな・・・」

ネットで検索していたレイが指先を止めて、ちょっと困ったように立ったままのシンジを見上げる・・・
シンジがレイの肩越しに細密液晶の画面を覗き込み、感圧画面を指先でクリックした、
その度にシンジの体がレイの髪を擦り、アイツの頬を赤く染める・・・検索スクリプトを組み終わり、
実行を掛けたアタシは、そんなほほえましい二人の姿を見て、肩の力を抜き軽く溜息をついた。

「やっぱり、あのウエイトレスのお茶に対するうんちくは、
たぶん、二階のカフェテリアだと確定してもいいと思う・・・」
「シンジ・・・レイが真赤になってるけど・・・」

シンジがアタシの声に、慌ててレイからはなれた・・・

「ご・・・ごめん・・・」
「・・・いいの・・・謝らないで碇君・・・とても心地ち良かったから・・・」

レイが、ちらりとアタシの方へ恨みがましい流し目を向ける・・・
あのね・・・アタシは、こんな時にもしっかり 惚気る(のろける) 相方に、
聞かれないように気を付けて、再び小さく溜息をついた・・・

    ・
    ・
    ・

制服の上に、赤と白の上着を羽織ったアタシとレイの周りを、涼しさを増した風が舞う・・・
アタシ達は一面に茂った草原の中に身を沈め、アタシの隣でレイが低く綺麗な声でハミングを繰り返す、
そのたびに、彼女の肩口の辺りで、赤いATフィールドで形成された、
複雑な形状のピンポン玉ほどの力場形成体が、その全体から淡い輝きを放つ・・・

「・・・敵の監視システムへ、クラッキングしてもぐりこんだわ・・・
カメラ、マイク、センサーは、私達をもう捕らえる事は出来ない・・・」

アタシはまだ上手く出来ないけど、レイの肩口の力場形成体は、
あの赤い世界から逆行する時に使用するため、シンジが200年ほど掛けて開発した技術だ、
あのピンポン玉ほどサイズの中に、マギ並のマシンパワーを秘めている。

「通信のジャミングは?」
「・・・ええ、いまから掛けるわ・・・」

レイのハミングが僅かに変化する、それにつれて赤い光が絡まりあった
複雑なメビウスの輪のような力場形成体は、その本体から幾本かのロット状の短い突起を伸ばす。

〈シンジ・・・こちらはこれから突入する〉

アタシは自分の小指から、彼方のシンジへと伸びる、
殆ど不可視のATフィールドを沿わせた炭素原子で構成された単分子構造の糸を通して、
個体ATフィールド越しに、シンジと意識のプロトコルを繋ぎ話しかける・・・

糸を通して、アタシとシンジのATフィールドの干渉が、
自分のささくれ立った心へ、心地よい感覚をもたらすのを感じた・・・

〈わかった・・・こっちもそろそろ行動を起こすよ、
気を付けてねアスカ、それとレイにも、気を付けてって伝えてくれる?〉
〈うん・・・伝える・・・シンジも気を付けて〉

アタシは、くすりと幸せそうに微笑み、
左手の小指から伸びる 殆ど(ほとんど) 目に見えない極細の赤い糸を見つめる・・・
こんな時でも、ちゃんと気に掛けてくれるシンジに、
アタシは感謝した、そしてレイにシンジの言伝を伝えた・・・

「シンジがアンタにも・・・気を付けてって・・・」
「・・・碇君・・・」

レイが嬉しそうにあいつの名を呟く・・・アタシの頬も、レイと同じように火照ってる・・・
でも、アタシは表情を引き締めると、左手の一振りでシンジと繋がっていた単分子の糸を切り離す・・・
その瞬間、身近に感じていたシンジの気配が消え、アタシの心に焼ける様な喪失感をもたらした・・・
アタシはその、喪失感がもたらす背筋を伝い下りるような冷たい感触に、ちょっと体を振るわせる・・・

「・・・アスカ、建物や備品に傷を付けて、碇君の仕事を増やしては駄目よ・・・」
「わ、わかってるわよ、レイ」

アタシはレイの忠告に、僅かに頬を膨らませる、
でも、レイはそんなアタシを無視して、シンジが指定した 第13倉庫(てきのあじと) の前に立つ・・・
夜の闇の中、港に臨みながらも草原に囲まれた倉庫には、一見、何の変哲も無いように見えた・・・

「・・・アスカ・・・開けるわ・・・」

レイの瞳の色が一瞬増して、ATフィールドでドアの鍵のリレーをショートさせる、
目の前の海風に錆付いて、赤錆で薄汚れた見上げる様に大きな扉が、
以外に静かなモーター音と共に、その重そうな体をゆっくり開いていった・・・

通用口の方が目立たないんだけど、しっかり機械式の錠が下りていて壊さないと開きそうも無かった。
その点、大きなドアは必ず電動だから・・・アタシ達には何の苦も無く開けられる・・・

「レイ?・・・」
「・・・うん・・・」

外の暗さとは打って代わって、扉の隙間から漏れるサーチライトの光の中、
アタシ達は堂々と正面から、この 胡散臭い(うさんくさい) 倉庫の中へと足を進めた・・・
倉庫の中は意外に物があって、山積みされたコンテナがアタシ達の視界をさえぎる・・・

そして、錆びた鉄の匂いがする倉庫の中の空気を乱すように、
アタシ達を発見した黒軍服のゼーレの工作員達が、わらわらと 軽機関銃(H&K MP5) 片手に沸いて出る。
嫌に気配の薄い奴らの表情は、まるで昔のレイのように能面の如く無表情だった・・・

「よくもアタシ達の親友に、薄汚い手を掛けてくれたわね・・・」
「・・・許さない・・・」

レイとアタシの目が、薄暗がりに赤い燐光を放つ・・・
アタシは、猫科の動物のように壮絶な笑みを浮かべ、
レイの奴は、前にも増して冷たく無表情な顔で、短く鋭い言葉を呟く・・・

聞く者全ての心の蔵を、冷たい手で鷲掴みにするようなアタシ達の声にも、
セーレの実行部隊の男達の、無表情な顔はかわらなかった・・・

唐突(とうとつ) にアタシは理解した、だからこいつらは、
アタシ達に悟られること無く、ヒカリを拉致できたんだ・・・
そこまで冷静に分析してたアタシの赤が混ざり紫に光る瞳に、
奴らの中に横たえられた、ヒカリの姿が目に入った・・・

アタシは、最初そのぼろぼろにされたヒカリの姿に呆然とし・・・
やがて、押さえようの無い怒りが、
アタシの心の狂気の赤黒い闇の中から、ふつふつと膨れ上がっていくのを感じる・・・

アタシは、奥歯をぎしぎしと軋らせながら、
喉の底から押し出すように、錆び付いたような唸り声でレイに呼びかける・・・

「レイ・・・アタシが切れないうちに・・・
ヒカリを連れ出して・・・アタシの切れた姿を見せたくないの・・・」
「・・・わかったわアスカ・・・」

あの・・・量産機達に陵辱された時の様にアタシの視野が狭まり、周りの世界を赤く染めて行く・・・
アタシの殺気が膨れ上がり・・・全身の使徒細胞がその偽りの姿を解き、戦闘モードへと移行する・・・
アタシの 紺碧(こんぺき) の瞳に赤い光が強く宿り、その色を紫から真紅へと塗り替え、
そして、めきめきと音を立てて全身の筋肉の 組成(そせい) が、アタシを 完全な戦闘生物(バーサーカー) へと変化させる・・・

「殺してやる・・・殺してやる・・・殺してやる!」

アタシは物騒な単語を、 呪詛(じゅそ) の様に繰り返し口にしながら熱くなって行く・・・
そして、自分の時間間隔が引き伸ばされて行き、周りで騒ぐ黒軍服どもが、
アタシには全て、スローモーションで動いているように感じられた・・・

「こ・ろ・し・て・や・る・・・っ・・・・・・」

紅い魔獣と化したアタシが、呪詛にドップラー効果を伴い、
ATフィールドをまとって、ゼーレの工作員達へと襲い掛かる、アタシの 殺戮の宴(さつりゃくのうたげ) が始まった・・・

血を求めるのはリリンの宿命なのか・・・
こんな事では、シンジに嫌われてしまうという声を頭の片隅に、
アタシの体は、優雅に男達の中を踊り殺しまくった・・・

頭が、手が、足が、胴が・・・この世の物の何物を持ってしてもあがらえぬ、
アタシが放つ、赤いATフィールドの位相空間に、薄紙の様に切り刻まれてゆく・・・

アタシの動きに付いて来れない敵の放つ攻撃は、ことごとく外れるかATフィールドに阻まれ、
アタシの身にかすり傷さえ付けられない、まあたとえ付いても一瞬の内に自分はそれを修復できる・・・

ただ一つ、シンジがアタシ達に注意を 促した(うながした) のは、
ロンギヌスの槍のコピー、ならびにその類型発展、発生技術に付いてだ・・・

だがアタシは、それほど槍を恐れる事は無いと思う、
弐号機、そして使徒の時もロンギヌスの槍がフィールドを貫くのに、
数秒のタイムラグが必要だったのをアタシ達は知っている、
だから、馬鹿正直に正面から受けずに斜めに力を逃せば、槍は力学的に回避が可能だ・・・
それを思い出すと、何時もアタシは、あの時なんで 惚けて(ほうけて) いたのかと、悔しくてたまらなくなるのだけど・・・

全てが終わった時、部屋の中は血でいっぱいだった・・・床にはコマ切れになった肉の塊が転がる・・・
アタシは返り血さえ浴びずに、呆然としてその血のオブジェと化した倉庫の中で、一人たたずんでいた・・・

「シンジ・・・私を嫌わないで・・・シンジ・・・」

興奮が去り、顔から血の気が失せたアタシの口から、繰り返し小さな 呟き(つぶやき) が漏れる・・・
アタシは、自分の中の感情という怪物にタズナをつけて操れると思っていたけど、
いま、アタシはそれに振り回されて、
ヒカリやレイが、倉庫から抜け出したかさえ確かめずに、暴れだしてしまった・・・

ヒカリがアタシのあの姿を見たとしたら、なんて思っただろう・・・
体にまとっていた狂気にも似た熱気が冷め、それが心まで及んだように、アタシの体が寒さに震える・・・

「きっとヒカリには、アタシの姿は ヒンドゥー教のカーリーにでも見えたに違いないわね・・・」
「じゃあ僕はシヴァで、レイはパールヴァティかドゥルガーと言う役回りかな・・・アスカ?」

アタシの口から、自分をヒンドゥー教の血を好む 畏怖神(いふしん) 、ドイツを祖国とする人の記憶に刻まれた、
忌まわしいあのハーケンクロイツをシンボルとする女神に、見立てる言葉が紡がれた時・・・
シンジの優しい声がアタシを包みこみ・・・アタシの血の気の失せていた頬へ、ぽっと赤みが戻る・・・

「・・・シンジ・・・アタシ・・・」
「彼らは運のいい人たちだね、怒った僕に出会わなかったから・・・」

シンジが不安に震えるアタシを、そっと優しく胸の中へと抱きしめ、
シンジの暖かさが、アタシの中へと広がっていく・・・

ああっ、シンジ、シンジ、シンジ、・・・アタシの心が歓喜に震える・・・
シンジに、嫌われていなくて良かった・・・
アタシはホッとすると同時に、シンジの後ろに隠れるように付いてきたヒカリに気が付いた・・・

「ア、アスカ・・・大丈夫?」
「うん・・・もちろん大丈夫よヒカリ!」

レイの白い上着を羽織ったヒカリが、心配そうな声で、アタシの無事を確認するように呼びかける・・・
アタシは精一杯のから元気を振り絞って、元気良く虚栄をはった声を張り上げた・・・

何時の間にか、床一面の人のなれの果ては、
レイのアンチATフィールドで位相を変換されLCLの類似物に変化している・・・
この足元を僅かに濡らすこのオレンジの液体も、
すぐに色を失い、沖縄の晴天の下で後方も無く蒸発してしまう・・・
そして、ここでアタシがした殺戮の跡は、跡方も無く、無かった事になってしまうのだろう・・・

「・・・”パールヴァティ”・・・雪山女・・・
そう、あなたは、そんな風に私を思っているのね・・・
でも、私と碇君に子供が出来ても”ガネーシャ”なんて、
お約束な名前は付けないから・・・期待しては駄目よアスカ・・・」
「・・・あのね・・・レイ・・・」

蓮の花は、アンタに似合うかも知れ無いけど・・・アタシは頭を抱える・・・
そんな自分を見つめるレイの目は、
雪山女に相応しいほど、アタシには果てしも無く冷たく感じられた・・・



To Be Continued...



-後書-

検索スクリプト=この場合は条件に合った物をネット上で探し回る簡単なプログラムだと思ってください。
ATフィールドで形成された力場形成体=佐伯の創作です、EOEのラストで出てきた初号機の羽状の物や、
 空中に発生した生命の木の図形の様に、ATフィールドで空間に回路を投射してマイクロS2機関のエネルギーで動いています。
 レイが低くハミングしてるのは、それを形成する思考の流れの条件付けを活性化するため(この物語上のお約束です)。
ATフィールドをまとわせた小指から伸びる赤い糸=佐伯の創作です、炭素原子で構成された単分子構造の糸、これは
 髪の毛より格段に細い物で幅が分子一個ほどしかありません、そのままでは崩壊するためフィールドでその存在を維持されてます、
 物語中ではアスカとシンジはこれでお互いのATフィールドを触れ合わせ、通信に使っています、究極の糸電話ですね、しかも赤い糸だし・・・(苦笑
アンチATフィールド=どうやら生物のATフィールドを中和しLCL類似物に還元出来るらしいです(汗
シヴァ、カーリー、パールヴァティ=ヒンドゥー教の神様です、カーリーは 修羅(しゅら) みたいな女神様、容貌はかなり独特です(滝汗


はう・・・ごめんなさい、一月ぶりの更新です
うーん今回はちょっと弱で”すぷらった”かも(滝汗
珍しくシンジ君怒ってます、まあこのへんはご愛嬌と言う事で・・・

ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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