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EVA・きっと沢山の冴えたやり方

・第二十四話 マグマダイバー・初夜V 《全年齢版》    by saiki 20030706



私は薄汚いマットレスの上で、少しでも身を隠そうと、
後手に手錠をかけられ、何もまとっていない体をちじこませる・・・

「う・・・うううっ・・・」

私は思わず、幅広のテープで塞がれた口から、低い唸り声を漏らした・・・
使い込まれて、真っ黒に汚れたコンクリートの床から、ゆっくりと冷気が
薄いマットレスを通して、青ざめた肌へと滲み込んで行く・・・

周りには、怪しい黒い軍服の男達が幾人もいると言うのに・・・
不気味にも、まったく人の気配がしない・・・
まるで、一人で夜の墓場に取り残されてでもいるかの様な、妄想が私を襲う・・・

心を凍らせるような冷気が、自分の背筋を這い上がり・・・
生ぬるい南国の空気に囲まれながら、
私は唇を薄青く染め、体を小刻みに震わせる・・・寒い・・・
ストレスから吹き出る冷や汗が・・・
脇から鳥肌の立った乳房を伝って、マッドレスに滴り嫌なシミを作った・・・

精神的な疲労に霞む目に、男達の一人が自分へと近寄ってくるのが写る・・・
私は男から少しでも自分の体を隠そうと弱々しく、身をよじった・・・
その男は傍へ屈み込むと、突然、無骨な手で無遠慮に私の口に張られたテープを引き剥がす。

「ひっはっ・・・はぁ・・・ごほっ・・ごほっ・・・」
「・・・話せ・・・」

男が無表情なまま、墓穴から響くような不気味な声で、携帯を私の口元に突き付ける・・・
憔悴した私は、一瞬、何の事か分からずパニックに陥って黙り込む、
でも、携帯のスピーカーから聞こえてくる声が、そんな自分を現実に引き戻した・・・

「・・・ 洞木(ほらぎ) さん?・・・」

私は、頬が上気するのを感じた・・・
柔らかい、それでいて自分を包みこんで不安から守ってくれるような、力強い彼の声が聞こえる・・・
これは・・・これは幻覚じゃ無いわよね・・・無性に頬をつめって見たくなった・・・

「・・・ (いかり) 君・・・うん・・いまのとこは、なんとか無事だけど・・・
ええ・・・そうなんだ・・・ごめんなさい、迷惑かけちゃって・・・・・・
・・・そんな事無い・・・碇君のせいじゃ・・・」

ああ・・・この携帯の向こう側には、碇君が居る・・・
私は、いまの現状をすっかり忘れた自分の心臓が、
場違いにも、早鐘のようにどきどきと脈打つのを感じた・・・

「うん、がんばる・・・私がんばるから・・・」

私から携帯が、無情にも引き離される・・・
きっと、自分の声は最後まで彼に届かなかっただろう・・・
私は、気が利かない黒軍服の男を、気丈にも睨み付けた・・・

私の震えは、何時の前にか止まっている・・・
その代わり、碇君の温かい心が自分の体を包みこむような幻覚にとらわれた・・・

「・・・碇君・・・」

短い時間だったけど、碇君と交わした会話が私を勇気付ける・・・
私は、男がテープで自分の口を再び塞ぐのを、黙って気丈にも受け入れた・・・
碇君がきっと来てくれる・・・そう思って涙に滲む眼で、男を睨み付ける・・・
あんた達なんか・・・あんた達なんか、碇君達がきっとやっつけてくれるんだから・・・

    ・
    ・
    ・

私は、自分の全裸の体へ外からの、なま暖かい塩風が吹き付けてくるのを感じて、
不自由な体をのたうたせて、入り口を見えるように寝返りを打った・・・・

倉庫の一面を占めるような、大きな鉄の扉が開いていく・・・
何が起こったのかと、私はその疲れ切った体を振るわせる・・・

そして、信じられない光景を目にする事になった・・・
壱中の制服の上に、白と赤の上着を羽織った綾波さんとアスカが、堂々と男達の前に姿を表す・・・

彼女達に、黒軍服の男達が銃を手に駆けよる・・・綾波さん、アスカ逃げて・・・
ああ、私は口を封じられたのを、これほど悔しく感じた事は無い・・・
親友に、声が掛けられないのが、こんなに情け無い事だなんて・・・

「よくもアタシ達の親友に、薄汚い手を掛けてくれたわね・・・」
「・・・許さない・・・」

私は、二人の言葉に耳を疑った・・・どうして、どうして逃げてくれないの・・・

「レイ・・・アタシが切れないうちに・・・
ヒカリを連れ出して・・・アタシの切れた姿を見せたくないの・・・」
「・・・わかったわアスカ・・・」

アスカ何を言ってるの・・・綾波さん、何故そんなに冷静でいられるの・・・
私は、何が何だか分からなくなって、頭が混乱する・・・

「殺してやる・・・殺してやる・・・殺してやる!」

アスカの呪詛を繰り返すような低く押し殺した声が、微かに倉庫の壁に木霊する・・・
そして、綾波さんの白く細い腕が、思いもよらぬ速さと力強さで、私を抱き上げ、
軽々と、まるで等身大のクッションを抱えるように、倉庫の外へと運び出す・・・

揺れる自分のお下げ越しに、アスカが一人で後ろに残るのが見えた・・・
アスカ!・・・私は、心の中で叫ぶ・・・

「こ・ろ・し・て・や・る・・・っ・・・・・・」

私達の後ろで締まるドア越しに、アスカの唸り声が微かに聞こえたような気がした・・・

「綾波さん・・・アスカは・・・アスカは一人で大丈夫なの?・・・」
「・・・大丈夫・・・いまは、近寄るとかえって危険・・・」

私は、口を覆うテープを剥がされるなり、大声でアスカの事を綾波さんに聞く・・・
私の問いに、彼女は抑揚を押さえた声でそっけなく答えた・・・
そして、あっさりと私の手足に嵌った手錠を壊すと、自分の上着を脱いで羽織らせてくれる・・・

「あ・・・ありがとう・・・」
「・・・洞木さん・・・怖かった?・・・」

彼女の赤い瞳が、薄汚れ震える私の上に注がれ・・・
検分するように自分の上を移動する視線が、最後に私の眼を覗き込んだ・・・
そして、彼女の赤い瞳と見つめ合って、何故綾波さんが昔のように、
抑揚の無い声で、自分に話しかけたのかを理解した・・・
彼女は、自分への彼らの仕打ちに、私がかって見た事が無いほど怒っていたのだと・・・

「うん・・・でも、もう大丈夫よ・・・貴方達が助けに来てくれたから・・・」
「・・・そう・・・よかった・・・」

私の答えに、彼女は・・・ほんとに綺麗な微笑みを浮かべる・・・
それをまじかに見た私は、思わず顔を赤く染めて、惚けてしまった・・・
そして、はっと気が付いた・・・さっきまで聞こえていた、銃の音が聞こえてこなくなっている・・・

「綾波さん、ほんとにアスカ一人で大丈夫なの?
応援を呼ばないと・・・アスカが・・・アスカが!・・・」
「・・・落ち着いて洞木さん、アスカなら大丈夫・・・
でも、いまは中へ入らない方が () いわ・・・あなたには、少し刺激が強すぎるから・・・」

綾波さんが、遠まわしに私を引き止める・・・この中では一体、そこで私は考えるのを止めた・・・
妄想癖も手伝って、考えがどんどん怖い方向へ傾いて行ったからだ・・・

「・・・もうすぐ碇君も来るから・・・その後なら、たぶん大丈夫・・・」

碇君の名前を聞いて・・・私は自分の姿を思い出し、顔が額まで赤く染まる・・・

「碇君が・・・来るの・・・」
「・・・ええ・・・彼の方も片付いたようだから・・・」

私の呟きに、綾波さんは港の沖の方を眺めて相槌を打っ、
自分も同じ方を見わたすと、沖の方で微かに明かりが揺れているのを見っけた・・・
何が・・・光・・・炎なの?・・・何かが燃えている?・・・

「・・・ごめんなさい・・・たぶん、私達にネルフから帰還命令がでるわ・・・
その時、貴方も一緒に修学旅行を中断して、第三新東京市へ帰る事になると思う・・・」
「うん、気にしないで・・・貴方達のおかげで、こうして無事だったんだから・・・」

綾波さんが私へ、すまなそうに謝る・・・でも、私は首を横に振った・・・

「・・・おそらく、ネルフは貴方にも護衛を付けると思うの・・・
もう、完全には普通の生活には戻れ無いかも知れ無い・・・」
「でも、碇君や綾波さん、アスカだってそんな生活してるんでしょ・・・
私だって・・・たぶん・・・我慢できると思うわ・・・」

彼女が顔を近づけ、じっと私の眼を覗き込む・・・
思わずその何の遠慮も無い眼差しに、自分の頬が熱くなるのを感じた・・・

「・・・ほんとに我慢できるの・・・何も知らないままで・・・」
「わ・・・私は・・・」

思わず言葉を自分の中へと、閉じ込めてしまいそうになる私へ・・・
綾波さんがその真紅の瞳で見つめながら、まるで壁へと追詰めるように話しかける・・・

「・・・洞木さん・・・貴方はどうしたいの?・・・」
「どうしたいって・・・私・・・」

彼女の赤い瞳が、動揺した私を射抜く・・・
率直な綾波さんの問いかけに、心の混乱を隠すように思わず目をそらした・・・

「貴方はこのまま、何も知らずに済ませるか・・・
全てを知って私達と歩むか・・・今なら選べるわ・・・貴方は、どうしたいの・・・」

彼女は私に再び選択を迫る・・・私は、私はどうしたいのだろう?
でも、私なんかじゃ・・・きっと、碇君の邪魔にしかならないに違いない・・・

「・・・でも・・・私は、今日みたいに、足手まといになっちゃうから・・・」
「・・・ほんとに・・・碇君や私達が、そう思ってると信じているの・・・」

私は彼女の真剣な赤い眼に、それ以上何も言えなくなった・・・
そんな私に、背後の暗闇から良く知った声が掛けられる・・・

「洞木さん・・・」
「い、碇君・・・」

私は、自分が綾波さんに借りた上着の下に、なにも着ていないことを思い出して・・・
思わず、項まで赤く染め上げる・・・心臓がドキドキと脈打つ音が、自分の耳の奥へ鳴り響く・・・

「ごめん、遅くなって・・・
洞木さん・・・大丈夫、怪我は無い?」
「うん、碇君・・・」

私は彼の言葉にホッとすると、なおさら羞恥心がこみ上げてきて・・・
心配そうな碇君を前にして、顔を赤くして俯いてしまった・・・

「さあ、アスカを皆で迎えに行かなきゃね・・・」
「・・・そうね・・・」
「はい・・・」

碇君が先に立って、私達は倉庫へと向かう・・・
でも、碇君が入った後、綾波さんは倉庫の前で立ち止まって、私の方を振り返った・・・

「・・・さっきの事は考えておいて・・・
私とアスカは、貴方を受け入れるわ・・・そして、碇君も絶対に貴方を拒絶しないから・・・」
「うん・・・ありがとう、綾波さん・・・」

彼女は重い命題を突き付けると、先に立って倉庫へと入って行った・・・
少し躊躇してから、私も綾波さんの後へと続く・・・

自分は、いったいどうすれば () いのだろう・・・嵐の中の小枝の様に揺れる心を、見つめながら考える・・・
でも、心の奥底ではもうどうしたいかは決まっていて、
自分はただ、それに気が付きたく無いだけだと言う矛盾を、既にその時、私は悟っていたのかも知れ無い・・・

倉庫の中へ、足を踏み入れた私の目の前に、異様な光景が広がる・・・
中は一面に、始めて見る色合いの、オレンジ色の液体が、まるで撒かれたように散らばっていた・・・
それが、靴を履いていない自分の、白い素足の爪先を僅かに濡らす・・・

「きっとヒカリには、アタシの姿は ヒンドゥー教のカーリーにでも見えたに違いないわね・・・」

私に微かにアスカの呟きが聞こえた・・・アスカ、私そんな事、思ってもいないわ・・・

「じゃあ僕はシヴァで、レイはパールヴァティかドゥルガーと言う役回りかな・・・アスカ?」

勇気を振り絞って、私がアスカへの言葉を紡ごうとした時、碇君がアスカへ答える・・・

「・・・シンジ・・・アタシ・・・」
「彼らは運のいい人たちだね、怒った僕に出会わなかったから・・・」

はっとして振り向くアスカを、碇君が優しく包みこむ・・・
ああ・・・アスカが、ついさっきとはうって代わって、何だかとても嬉しそう・・・
私はその姿がとても羨ましく感じられ・・・少しやきもちを妬く・・・
私は、無粋かと思ったけど・・・思い切って、アスカへ声を掛けた・・・

「ア、アスカ・・・大丈夫?」
「うん・・・もちろん大丈夫よヒカリ!」

私は、何時もと変わり無い彼女に、ホッと自分の胸を撫で下ろす・・・
あんなに銃を持った男達と渡りあったのに、どうやら、アスカに怪我は無いようだ・・・

「・・・”パールヴァティ”・・・雪山女・・・
そう、あなたは、そんな風に私を思っているのね・・・
でも、私と碇君に子供が出来ても”ガネーシャ”なんて、
お約束な名前は付けないから・・・期待しては駄目よアスカ・・・」

雪山女呼ばわりされた、綾波さんが抑揚の無い声で、鋭い氷の様な突っ込みを掛ける・・・

「・・・あのね・・・レイ・・・」

アスカは、真に情け無そうに、大きな溜息を付く・・・
私は、二人の場違いな会話に、辛うじて噴き出すのを我慢した・・・

    ・
    ・
    ・

私は、碇君達とネルフの重武装VTOLで空路を第三新東京市へと向かう・・・
周りには、護衛の同型機が四機、ダイヤモンド型に編隊を組んで飛んでいる・・・

「碇君・・・私・・・少しでも、碇君の手助けがしたい・・・」

私は、VTOLに揺られながら長考し、
考え抜いた末、ついに決意した・・・自分は、碇君に何があっても付いて行こうと・・・

「綾波?・・・」
「・・・洞木さんには、詳しい事は話して無いわ・・・
まだ、彼女は引き返せると思ったから・・・」
「ヒカリ・・・シンジに付いて行こうと思ったら、並大抵の事じゃ済まないわよ、 () いの・・・
きょう、あんなことが有ったからって・・・やけになってんじゃ無いわよね?・・・」

碇君は心配そうに、綾波さんとアスカは、少しきつい目を向ける・・・
私は、穏やかに笑って頷く・・・一緒に、後ろで二つに束ねられた、お下げが揺れた・・・

「一時の感情じゃ無いわ・・・私は、碇君に付いて行きたいの・・・」
「・・・本気だと思うわ・・・」
「まあヒカリだから・・・私も、信じて () いと思う・・・」

綾波さんとアスカが、私を前にして堂々とアイコンタクトの末、意思の同意を見る・・・

「僕は・・・二人が同意するなら、何も言う事は無いよ・・・
洞木さんなら、良く知ってるし・・・でも、鈴原君の事は・・・ () いの?」
「えっ・・・鈴原・・・」

そう言えば彼は、私と鈴原の縁を持とうとしてくれた事が会った・・・
あの時は、鈴原君は相田君とシェルターの外へ出て・・・巨大な紫の、使徒と呼ばれる変なのが・・・
あの日まで、私の心の中で五分五分だった、
碇君と鈴原君への想いの天秤が、碇君へと大きく傾き始めたような気がする・・・

「いまの私には・・・碇君だけだから・・・」

でも、きっと碇君の事を想い始めたきっかけは・・・
あの、始めて会った日・・・一緒に台所へ立った時、あの時からかも知れ無い・・・

    ・
    ・
    ・

あれから、ネルフへ着陸したVTOLを下り、装甲リムジンへ乗り換えた私達は、
碇君の家のあるコンフォート17へと向かった、そしていま、私は彼の家のリビングで、
受話器を片手に、電話越しとは信じられないほどの、迫力のある罵倒に晒されていた・・・

『ヒカリ!・・・私が納得するように、説明してもらうわよ!
何で、修学旅行へ行ってる筈のアンタが、其処に居るのよ!それに誘拐されかけたですって!・・・』

電話の受話器から、コダマお姉ちゃんの金切り声が、私の鼓膜を破らんばかりに振るわせる・・・

「うん、お姉ちゃん・・・しばらく、ネルフがガード付けてくれるって・・・
だから私、しばらくアスカの家にご厄介になる・・・うん、心配しないで・・・
あ、アスカに代わるわね・・・アスカ、ごめんなさいコダマお姉ちゃんが・・・」
「まあ、そりゃあ心配するわよ・・・代わって、私が話すから・・・
はい、代わりました、惣流・アスカ・ラングレ−です・・・
はい、妹さんは、ネルフが責任を持ってお預かりします・・・はい、ご安心ください・・・
いまから?・・・それはかえって危ないですから、お止めになった方が・・・はい、
詳しい事は明日、夕方にでも妹さんをお連れして説明に・・・はい、おやすみなさい」

私が誘拐されたと知って、荒れ狂うお姉ちゃんを、
アスカはいとも簡単に、それもあっさりといなして見せる・・・
あはは・・・私はアスカに一生頭上がらないかもしれない・・・

「ありがとうアスカ・・・お姉ちゃん、ああなると一歩も引かないから・・・」
「うふふ、これは貸しよ、ヒカリ・・・まあ、明日の夕方まで引き延ばしただけだから・・・
ちゃんとシナリオを練って・・・山岸さんか、加持さんあたりを連れて行った方が () いわね・・・
仕方ない、沖縄のお土産で買収するかな・・・たしか、1ダースほど 泡盛(あわもり) が有ったっけ・・・」

アスカが、天井を見上げて溜息を付く、ごめんねアスカ・・・
しばし考込むアスカに、なんて言って声を掛けて () いか悩んでいる私を、綾波さんが手招きする・・・
なんだろうと、アスカを置いたまま、私は綾波さんの待つ方へと足を運んだ・・・

「・・・ここなら・・・邪魔は入らないから・・・」

一見、普通のどこにでもある板製のドア・・・綾波さんがそれを開けると、思いのほかそれが分厚くて・・・
間に金属や、何かの機械か埋め込まれているのが、その扉の断面から窺がえる・・・

「うん、ここはリツコも手伝ってもらって、
念入りにシールドしてるから、センサーなんかにも引っかからないわね」

何時の間にか私の後ろに居たアスカが、私には理解不能な相づちを打つ・・・
部屋の壁一面に積み上げられた、茶色のダンボールの空箱には、抽象化された錨のマークが小さく印字されていた。

「ア・ン・カ・ー・コーポ?・・・」
「ダミーのペーパーカンパニーだよ、少し部品を特注しないといけないことが有ったんだ・・・」

私はたどたどしく、ローマ字書きされた、社名らしき名前を読み上げる・・・
碇君は、私の思考のバックグランドノイズにもにた呟きに、まめに解説を入れてくれた・・・
彼の目が、部屋の中央に置かれた、机ほどの大きさがあるキャビネットに注がれる・・・

「まあ、まだ試作段階なんだけど・・・」

碇君が、相田君が戦闘機に向けるような目で、キャビネットを見つめる・・・
私には、さっぱり見た目ではわからない部品が組み合わさって、
複雑そうにケーブルが這い廻り、拡張途中なのか光ケーブルの瞬きが漏れていた・・・

「なんだか、この部屋だけ片付かないな・・・アスカ、箱はまとめて置いてくれって言ったのに・・・」

床に投げっぱなしの箱に、碇君が溜息を付きながら呟く、アスカは舌を出しながら、その朱金の頭を掻いた・・・

「ご、ごめん・・・特注部品が入っていた空箱ね・・・
でもこれ、一応これも機密扱いだから、そこら辺に捨てられないわ・・・」
「アスカ・・・ミサトさんみたいになっちゃうよ」
「・・・葛城一尉の部屋・・・それは、茶羽ゴキブリの生息する人外魔境・・・」

綾波さんの抑揚の無い呟きに、
アスカは顔を盛大にしかめて、プルプルと首を振る・・・
よっぽど、ミサトさんと、比べられるのがいやならしい・・・

「加持さんとくっ付いてから、ミサト随分ましになったって聞いてるわよ・・・
わ・・・分かったわよ!・・・そんなに冷たい目で見ないでよレイ、ちゃんとするから」

ああ、お姉ちゃんをあっさり鎮めるアスカも、綾波さんには勝てないのね・・・
なんだか、二人の掛け合い漫才を聞いているとアスカがボケて、
綾波さんが突っ込むパターンが見えてきて、とても面白い・・・

「さてと、洞木さんに全てを知ってもらうのには、
例の記憶パッケージの転写が、一番手っ取り早いんだけど・・・」

碇君がOAチェアに腰を降ろして、漫才に和む私達に話を切り出した・・・

「・・・反対・・・洞木さんには刺激が強すぎるわ・・・」
「確かに、アレは大人向けね、
ヒカリを、リツコやミサトと同列に扱うわけには行かないわよ」

一瞬で気持ちを切り替えた綾波さんとアスカが、碇君と同じようにチェアに腰かける・・・
私は綾波さんに手招かれ、綾波さんとアスカの間の椅子に、恐る恐る腰を降ろした・・・

「・・・聞いてても、分からないかもしれない・・・でも、貴方の事だから・・・」
「まあそうだわね、ヒカリの事だからね・・・で、シンジ代案は?」
「うん、綾波、アスカ、僕の内の誰かの物を、ダイジェストでって事になると思うんだ」

碇君の言葉に、綾波さんとアスカが、間に私を挟んで目を見合わせると、クスリと笑った・・・

「・・・洞木さんは誰が () いの?・・・」
「まあ、人外、見栄の塊、元軟弱男・・・どれも凹凸付けがたいわね・・・」
「えっ・・・意味が分からないんだけど・・・」

二人の赤と蒼の瞳に、突然覗き込まれた私は、あたふたとうろたえる・・・

「アタシ達が、恥をしのんでヒカリに、自分の人生を大公開してあげようって話・・・
まあ、詳しい原理とか、どういう事をするとかは、
たとえ言ったって、ヒカリには判んないだろうから、この際端折るけど・・・」

何だか、アスカの話を聞いてると、一番重要な所を誤魔化された様な気がしてきたけど・・・

「まあ、他人の記憶なんて極論言えばノンフィクションドラマや、
アルバム見るみたいな物よ・・・さあ、選びなさいヒカリ、アタシ達三人の中で誰が () いか・・・」

困惑する私へ、アスカが選択を迫る・・・三人の中で・・・
もちろん誰だかは、私の心の中で説明が分からないなりにも、既に決まっていた・・・

「碇君・・・お願いできるかしら・・・」
「あ・・・うん、洞木さん・・・こんな僕で良かったら、でもがっかりしないでね・・・」

私がニコリと笑うと、碇君が珍しくちょっぴり引き気味に答えた・・・

「・・・そう・・・人外の私では駄目なのね・・・」
「ごめんなさいね、綾波さん・・・でも私、碇君の事もっと知りたいから・・・」
「まあ、ヒカリの事だから・・・こうなると思ってたけどね・・・まーいいか・・・
でもね、覚悟しておいてね、アタシらの中で、こいつが一番生きてんのが長いんだから・・・」

アスカの言葉に、私の頬が僅かに引きつる・・・

「仏陀が菩提樹の下で、悟りを開いたとか言われてるけど・・・多分コイツの方が長いわよ・・・
達磨大使も顔負けの長さなんだから・・・軽く千年ぐらいしてんじゃ無いの?
アタシとレイはさ、まあ良いとこ相対年齢がミサトやリツコと同じ30数年だけど・・・
シンジ・・・アンタもう軽くメトセラの歳、越えてんじゃなかったっけ?」
「何時も歳を聞くのは、ルール違反とか言ってないかな・・・アスカは?
大丈夫だよ洞木さん、ちょっと耳年よりになるような物で、直接的な害は無いはずだから・・・」

私はごくりと唾を飲み込むと、弱々しい頬笑みを碇君へと向ける・・・

「アスカ・・・洞木さんを怖がらせてどうすんのさ・・・
ごめん、洞木さん・・・アスカが調子乗っちゃって・・・この続きは、また今度にしようか・・・」
「あの・・・碇君・・・信じてるから・・・いい、いますぐやって・・・」

私の、真剣な目を覗きこんだ碇君は、クスリと笑うとゆっくり眼を閉じ、
そして、その眼を再び開くと、私の額に人差し指と中指を軽く当てて確認した・・・

() いんだね・・・洞木さん?・・・」
「お願い、やって・・・碇君・・・」

綾波さんとアスカが、無言で両脇から私の肩に軽く手を当て支える・・・
碇君の確認の言葉に、私は唇に薄く笑みを浮かべて、承認の言葉を呟く・・・
多分自分の発した、その言葉は、震えて無かったと思う・・・

そして、私の意思の中で、何かが白くスパークした・・・

自分の中へ、碇君が流れ込んでくる・・・私は愛しい人の過去を覗き込む・・・
碇君のお母さんが、エヴァに消えた時私は其処に居た・・・彼がお父さんに捨てられた時・・・
彼がエヴァに乗り組んだ時・・・そして綾波さんとの出会い・・・私との始めての出会い・・・
オーバー・ザ・レインボーの上で、碇君がアスカに頬をはられた時の痛み・・・
続く使徒戦・・・ぎりぎりと削られていく余裕・・・アスカがおかしくなり、綾波さんが自爆し・・・
やがて襲い来る白い量産機達に陵辱し尽くされ、訪れる赤い海の世界・・・
でもその後も、彼の記憶は続く・・・後悔し、呆然と諦め、怒りに燃え、絶望に打ちひしがれ、懺悔が続く・・・
長い虚無の日々・・・やがて微かな希望の元、学び、構築し、神に祈り、ついに綾波さんが復活した時の喜び・・・
そして探索、諦めを経て、アスカを見出した時の嬉しさ・・・そして二人と共に歩む日々の充実・・・

全てが駆け足で、私の中を通り過ぎて行った後・・・
自分でも膨大すぎて、それらが殆ど思い出せなくなった、でも・・・
私は覚えてる、彼がどんなに寂しかったかを・・・
そして、私を含めていま、どんなに皆を愛してくれているかを・・・

自分の頬を・・・つっと涙が一筋伝う・・・
私は、思わず碇君に抱き付いた・・・そして、彼の胸に顔を埋める・・・
彼の手が、私の髪を優しく梳く・・・そして碇君の声が暖かく、耳に響いた・・・

「ごめん・・・びっくりしたでしょ・・・
こんな情け無い僕を、洞木さんは嫌いになった?・・・」
「ううん・・・むしろ逆、前より好きになっちゃった・・・」

私は、碇君の胸から顔を上げて、手の甲で涙を拭いながら、彼へとっておきの笑顔を捧げた・・・

    ・
    ・
    ・

ゆったりとお湯に浸りながら、陵辱され疲れ切った体から、
だるさがお湯へと流れ出て行くような気がする・・・
私は、何気なく自分の手首を見つめ、其処に残る (しるし) に気づいて呟いた・・・

「手錠の後・・・付いちゃったな・・・」
「ヒカリたら、もう何を暗い顔してんのよ・・・もっと嬉しそうな顔したら?」
「・・・一生に一度の経験・・・アスカがはしゃぐのは筋違いだわ・・・」

少しだけナーバスに陥り掛ける私を、アスカが笑いながら鼓舞する・・・
アスカの派手な身振りに、彼女の豊かな胸が揺れ、浴槽のお湯が音を立てて溢れる・・・
それを、綾波さんが眉をひそめて突っ込み・・・アスカが、少し頬を膨らませ抗議した・・・

「始めての時、アタシを弄んでおいて・・・何を言ってんのよ・・・この本妻は」
「・・・そう?そうなの?・・・すいぶん喜んでいたように思えた・・・
でも、喜んでいたのは、アスカの体だけなの?・・・とても納得できない・・・」

あははは・・・何か一言でも漏らすと、私にもおはちが廻って来そうだったので・・・
私は、虚しい笑いを漏らしながら、二人のじゃれあいを眺め続ける・・・

「ねえ!聞いてよヒカリ!・・・コイツ、始めての時シンジの奴を、この浴槽に押し倒して・・・
最後までいたしたのよ・・・アタシが、本妻を譲ってやったからって・・・もう信じられない・・・」
「あははは・・・綾波さん・・・アスカの言ってる事は、ほんとなの?」
「・・・黙秘権を行使・・・」

あの、物静かな綾波さんがと・・・私は、信じられない思いで彼女へ聞いて見た・・・
でも彼女は、僅かに顔を顰め、ブクブク息を吐き出しながら、目元までお湯にもぐる・・・
私は直感した・・・綾波さんって、ほんとは大胆だったんだなと・・・

「ほらレイ・・・どざえもんに成らない内に、出るわよ・・・
じゃあ、ヒカリじっくり磨いてシンジん所へ行くのね・・・アイツ待ってるから・・・
アタシ達は邪魔しないから・・・せいぜいがんばんなさい・・・うふふふ」
「あ・・・あの・・・アスカ?」

アスカが綾波さんの腕を持って、ざぶりとばかりに豪快に浴槽からでる・・・
私は、少しの間だけだけど、押し寄せる波に翻弄された・・・

「さあて、今晩は徹夜で後始末するわよ、もちろんレイもね・・・」
「・・・がんばって・・・」
「あ・・・はい・・・」

アスカに引きづられて、
濡れたまま浴室を後にする綾波さんが、私へと小さく手を振った・・・
一人、広い浴室に取り残された私は、ちょっとだけ寂しさを感じる・・・
でも、これからの事を思うと、胸が高鳴って・・・
私は、赤くなった頬を手の平で押さえて、一人にやける・・・

「でも、キスマーク・・・二人ともあんなとこへ付けて・・・」

私は見ていないふりして、二人の胸の谷間に、しっかりと碇君のキスマークが、
刻み込まれているのを見つけていた・・・なんか () いな、あれ・・・

「碇君、私にもあれしてくれないかな・・・う、うふふふふ・・・」

あう・・・いけない、いけない・・・
妄想に浸って湯あたりしたら、本末転倒と言うものだわ・・・
それこそあの二人に、末代までお笑いのネタにされてしまう・・・
私は、寄席のネタにされると言う、恐ろしい空想を、頭を振って打ち消した・・・

    ・
    ・
    ・

私は、そっと碇君の部屋のドアを叩く・・・かすかな音が薄暗い廊下に響いた・・・
でも・・・中からは何も音がしない・・・碇君?寝ちゃった?・・・

「碇君・・・開けるね・・・」

私はそっと部屋の中へ入る・・・
常夜灯の照らす部屋の中では、やはり彼がすやすやと安らかな寝息をたてていた・・・

「・・・碇君も、疲れていたのね・・・」

私は一つ溜息を付くと、バスローブを脱ぎ、椅子の上へきっちりと畳む・・・
そして、一糸まとわぬその裸体を晒したまま、
タオルケットの端を持ち上げて、彼のベッドへそっともぐりこむ・・・
彼の香りが、自分の体を包みこみ・・・私は、ゆるりと眼を細め悦に浸った・・・

「碇君・・・」

私は、小さく呟くと彼の胸に頬を摺り寄せた・・・
こうしていると、携帯電話越しに聞いた彼の声を思い出して・・・体が熱くなる・・・
碇君の、胸の鼓動が聞こえる・・・それはとても逞しく、ホッとする音だ・・・

「・・・あ、ごめん・・・つい、うとうとしちゃってたようだね・・・」
「うん・・・いいの・・・碇君、疲れてるんでしょ?・・・」

彼が、自分の胸の上に載った私の頭を、優しく撫ぜてくれる・・・・

「僕は大丈夫・・・洞木さんこそ疲れてるんじゃ無い?・・・
今晩はこのまま一緒にいてあげるから・・・ぐっすり、寝たほうが () いよ・・・」
「ううん・・・それは駄目・・・綾波さんやアスカと違って・・・
家に姉妹や父さんがいる、私には・・・チャンスそのものが少ないんだもの・・・」

私は、タオルケットを押しのけて、碇君の腰の上へと馬乗りになると・・・
彼の肩の左右に両手を突いて、ゆっくりと体を前に倒し乳房を押し付ける・・・

「だから、ちゃんと女にして欲しいの・・・それと、ベッドでだけで () い、ヒカリって呼んで・・・」
「うん・・・わかった、ヒカリ・・・」

私は嬉しくなって、碇君の口を自分の唇で塞ぐ・・・
自分の体が彼を求めて、熱くなっていくのを感た・・・

    ・
    ・
    ・

目を覚ますと、ベッドはもぬけの殻だった・・・
昨夜の事を思い出して、私は音を立てて顔を赤くする・・・
そうか・・・昨日の晩、碇君と・・・
私は、気だるそうに起き上がると、周りを見まわす・・・

「碇君・・・どこへ行ったの?・・・」

彼が見当たらない・・・何だか、突然昨日の事が夢のような気がして・・・
私は、慌てて全裸の上にバスロープを羽織る・・・ふと、自分の胸元が目に入った、
標準より少しだけ豊かな胸の間に、薄っすらと碇君のキスマークがその存在を主張する・・

「・・・やっぱりアレは・・・夢じゃ無いんだ・・・」

私は、火照る頬を両の手で押さえると、しばしいやいやと首を振る・・・
しかし、自分でもらちがあかないなと思い直して、寝室から出て彼を探し始めた・・・

碇君は、綾波さんとアスカと一緒に、量子コンピューターの試作品で、
ネットに接続していた、私に気が付いた彼は、ニコリと綺麗な笑みを浮かべる・・・
あれ・・・なせ私は、碇君達がしてる事が分かるの?・・・

「ごめん、マギと組んで昨日の後片付けをしてるんだ・・・
ゼーレと、かなり派手にやり合っちゃったからね・・・
この時期に、こんな事は起こらないはずだったんだけど・・・」
「しかたないわ・・・でも、前世の時より良くなっているんでしょ?」

私は、微笑みで答える・・・彼は、良い方向へと導こうと。いまも頑張っているのに・・・
私を、拉致した人達はそれを阻もうとしている・・・世の中は、なんて理不尽なんだろう・・・

「まあ、それはそうかもしれないけど・・・
そうだ、洞木さん試して見る?・・・いまの洞木さんなら扱えるはずだから」
「え・・・ええ・・・やって見る・・・」

彼と入れ替わりに、椅子へ座った私の項に、
碇君が、コードの付いた 500円硬貨位のパッチ(インターフェース) を当てる・・・
貼られた時はひやりとしていたパッチだけど、だんだん暖かくなって肌に馴染んで来た・・・
私は思い切って始めて触る、機械のキーに手を滑らせた、授業用のパソコンしか、
触った事のない私だけど、なんだか、それとなく、これのやり方が分かるような気がする・・・

私は、キーボードをブラインドタッチで、何時もの5倍のスピードで連打する・・・
突然、自分の視野の中にパッチからフィードバックされた、仮想のウインドウが開いた・・・
私は落ち着いて、目線で工具マークのアイコンをポイントすると、
新規にアカウントを作り、その数百に渡るパラメーターをざっと自分用に調整する・・・

「綾波、アスカ、洞木さんのサポート頼めるかな?」
「・・・ごめんなさい・・・いま手が離せない・・・」
「ああ、大丈夫アタシがやるから・・・レイはそのまま、ゼーレの資金ルートを追って・・・
ほんとなら、シンジとの初めての夜の感想を、ネチネチと問い詰めたいけど・・・きょうは我慢するか・・・」

私は、あははと笑って背筋を伝う冷や汗をごまかす・・・
ぽんと注意を発起する音と共に、自分の作業視野に、
アスカらしいデザインの、赤いトランプのエースマークのアイコンが浮かぶ・・・
私は、週番マークでも付けようかしら・・・それとも、いっそ特急ヒカリ号のアイコンとか・・・

「ヒカリ?・・・アタシがサポートする、まずは肩の力を抜いて、深呼吸して心を落ち着けて・・・」
「うん、ありがとうアスカ・・・じゃあ、スタートするね」

私はさらりと書いた、サポート用のスクリプトをコンパイルすると、実行キーを押す・・・
途端に、私の視野を極彩色の情報が埋め尽くし、私は気を失った・・・

    ・
    ・
    ・

自分の髪を、優しい指がすき上げて行く・・・
何だかこのまま、まどろんでいたい誘惑に囚われる・・・
私は、ゆっくり意思を現実へと浮かび上がらせながら、
自分が柔らかい物を頭の下にして、仰向けに横たわっているのを感じた・・・

「・・・大丈夫?・・・」
「ヒカリ・・・スクリプト見たわよ、あれじゃあ、のっけから飛ばしすぎよ・・・
あ・・・ヒカリも、お腹空いてるでしょ・・・
たしか、朝から何も食べて無いものね・・・アンタも、サンドイッチ食べる?」

目を開けると心配顔の綾波さんと、サンドイッチをぱくついてるアスカが目に入った・・・

「あはっ・・・ごめんなさい、ちょっと失敗しちゃった・・・
うん・・・それに、お腹も空いてるみたいだわ、アスカ、サンドイッチ貰える?・・・」

アスカの言葉に、お腹が凄く空いてるのを自覚して、
私は彼女に、サンドイッチをねだった・・・
そして、手渡されたそれを口に入れながら、
自分がいま、頭の下敷きにしている柔らかい物は何かと、はたと考える・・・

「ごめん・・・情報に酔ったんだね・・・言っておけば良かった・・・
最初からあれの全開は無理だよ、知識の定着には、少し時間がかかるんだ・・・」

頭の上から突然降って来た、碇君の言葉に慌てて起き上がる・・・
あ・・・碇君がいままで、ずっと自分に足を枕代わりに貸していてくれたんだ・・・
何だか逆なような気がと、内心思いつつも、私は頬を赤く染める・・・

「碇君は・・・ここまでの力を使って、何を目指しているの?」

頬を染めたまま、私は碇君へ問いかける・・・
きっと、碇君がしようと思っている事は、彼に分けてもらった記憶の中に、
朱色の太文字で書きこまれているんだろうけど・・・いまの私には、それを探しているほど余裕が無い・・・
自分が彼の手助けをするには、彼がどうしたいか本人に、しっかり聞いておく方が () い・・・

「うん、僕の記憶を、洞木さんがもう少し紐解ける様になれば、納得してもらえると思うけど・・・
僕にも、僕達人類が、もう二度とエデンに帰れないし、帰る気も無いのは分かっているんだ・・・
でも、できれば僕達の力でバベルの頃に、少しでも近づける事が出来るかも知れ無い・・・」

たとえそれが小さな事でも、彼は全ての人の為に善意で世界を改変しようとしている・・・
私はその時悟った、彼にはそれが可能である事を・・・そして正に、彼は 救世主(メシア) かも知れ無いことも・・・

「それに、僕達三人が・・・こんな力を持つ必要も、
野放しにしておくことも、出来ないのは洞木さんにも分かるだろう?」
「それは・・・」

碇君は其処まで私へ言うと、正に天使の微笑み・・・
いえ、それを遥かに越えた、神の慈しみとも言える表情を浮かべる・・・

「この四人以外には、たとえネルフやお父さんにも、いま言った事は秘密だよ・・・」
「はい・・・」

彼の必殺の微笑みの前では、私は頬を赤く染め、ただただ頷くことしか出来なかった・・・


To Be Continued...



-後書-

量子コンピューター = 問題を定義する前に既に答えが出ると言う、
  殆ど冗談のような話さえあるコンピューター、作中の試作品は人の持つATフィ−ルドの、
  那由多分の一を使用して、極小の量子空間へアクセスできる事を目標に開発している・・・
  しかし現在は其処まで行っていないため、演算速度がオペレーターのフィールドの強弱に依存する。
ペーパーカンパニー = 現実に存在する、トンネル会社とも言われる
  TV中では加持が調べていたマルドゥック機関がそれに該当する
エデン = この場合はLCLに還元される事ではなく、懐古主義者などが言う、古き良き(謎)原始農耕生活を指す。
  娯楽や刺激になれた現代の人間が、科学抜きでそのような生活をしようとすると地獄を見る(と作者は愚考しているがいかに?
バベルの頃 = バベルの塔を作れたのは、言語が統一されていたからで、神は怒って人々の言葉の共通性を失わせた・・・
  と言うくだりがある、この場合は、少しでも人々のコミュニケーションが、スムーズに行えるようにする、と言う意味で取って欲しい(作者注
メトセラ = 旧約聖書中に登場する人物、”エノク”と言う人物の息子で、のちの族長となり、
  969歳まで生きたらしいです、彼の死と共に”ノアの洪水”が起こったと言う説もあるようですが、
  今回はただ単に伝説上の長寿の人と言う事で名前が出ています。
  アスカはひょっとして、ロバート・A・ハインラインの”メトセラの子ら”を読んでいたのかもしれませんね(苦笑
揉まれると大きくなる = 俗説です、信じないで下さいね(作者談
泡盛 = アワモリ(古酒クースー)沖縄の地酒、蒸留酒、アルコール度数が高い

どうも、大変永らくお待たせしました、ヒカリさん誘拐事件編、やっと完結(苦笑

もう少しで、洞木お父さんを存在を忘れて抹殺しかかるし・・・
大変、長い間やってると、こうも最初の頃の事を忘れてるのは、もう笑うしかありません・・・
でも一時、まじめに洞木さんに、お父さんが居ないかもしれないことを、TVで検証してたんですが・・・
全然確定できませんでした・・・鈴木妹と一緒で、なんと巧妙に避けられてることか・・・
そう言えば、洞木コダマさんが、ヒカリのお姉さんかどうかもTVでは確認できませんでした(汗

ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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