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EVA・きっと沢山の冴えたやり方
・第二十五話 人の作りしもの・朱金の美獣
by saiki 20030727
翼長200メートルを誇る三角形の
全翼機STOL
が、
アタシの赤い弐号機を懸垂して、成層圏で周回飛行を続ける。
あ〜〜〜〜うざったい!・・・
なんでアタシが、こんなのにつき合わないといけないのよ!
今頃、ヒカリとレイの奴はシンジとラブラブしてる頃だろうな・・・
ひょっとして、あんなことやこんなこととか・・・
「あああ!・・・シンジッ!
もうこんな退屈なのはイヤーッ、アタシ帰るーっ!」
「こういうとこは、アスカ・・・変わんないな・・・
だいたい、こんなとこから、どうやって帰るんだ?」
作戦室を兼ねたミニラウンジに、自分の情け無い声が響き渡った。
加持さんが、突然叫び声を上げたアタシを呆れた眼で見つめる。
きっとみんな今頃、シンジの美味しい料理食べてんだ・・・
「飛び降りて、走って帰る〜〜〜っ」
「おい、おい・・・まあ、いまのアスカなら、
それぐらい軽いだろうけどな・・・でも、自分で志願したんじゃないのか?」
ううっ・・・それを言われると、言い返せなくなっちゃうわよね・・・
アタシは、しょぼんとして俯く・・・何だか、シンジのご飯が無性に食べたい・・・
「シンジ〜ッ・・・お腹空いたよ〜っ!
シンジの、ぬくぬくご飯が食べたいよ〜〜っ!」
使徒モードのアタシ達は、別に食べなくても、生きていくのにはなんら支障が無い。
でも、心が、体が、精神的な飢餓に襲われたように、無性にそれを求めるのだ。
シンジの焼いたトースト一枚でも良い、アタシはいま、それを猛烈に求めている。
「整備の都合があるからって、泊りがけなんて聞いてなかったわよ〜〜〜っ」
目尻に涙を滲ませるアタシに、加持さんが困った奴と、顔中に笑みを浮かべたまま眼を細める。
そして溜息をつくと、保冷庫を開き大きな風呂敷包みを取り出して、アタシの前に置いた。
そして、手元のパネルを操作し、機内にアナウンスを流す。
『テス、テス・・・加持より全乗組員へ、手隙の者は交代でランチに入れ・・・』
放送を終え、スイッチを切ると、
風呂敷包みを怪しそうに睨み付けるアタシへ、加持さんはニヤリと人の悪い笑いを漏らす。
「ああ、なんだ・・・今朝方、シンジ君にこれを託されてな・・・皆で食べてくれってな」
「か・じ・さ・ん・・・早く言ってよね・・・」
アタシは口を尖らせながら、速攻で包みを開くと、現れたお重を広げて手早く割り箸を二つに割る。
もち米を混ぜられた、冷えても美味しそうなおにぎりを筆頭に、玉子焼きに、お煮しめ、ウインナー、
唐揚に、春巻き、餃子、シューマイ、なんとミニハンバーグまであるじゃない・・・
アタシは、口の傍からよだれを流さんばかりに、飢えた表情で顔をニヤケさせた。
そして、真紅のプラグスーツを身にまとったまま、恥ずかしげもなく料理制覇へと乗り出す。
『あ〜〜〜っ・・・緊急続報、乗務員諸君、急がんと、アスカが全部食ってしまうぞ〜っ!』
「だーっ、アスカずるい〜〜〜っ・・・アタシもシンちゃんのお弁当食べる〜〜〜っ」
加持さんの放送に、慌ててミニラウンジへと、
乱気流に微妙に揺れる狭い通路を、えらい勢いでミサトを先頭にどやどやと、人が駆け込んでくる。
フン!裏切り者の加持さんの分まで、しっかり食ってやるんだから〜〜っ!
アタシの眼が、野獣のようにきらりと光った・・・と、後に加持さんが笑ってアタシへ言った。
・
・
・
アタシは、簡易シャワーで体の埃や汚れなどを落として、
エントリープラグに入り、下の第28放置区域から、お呼びが掛かるのを待っている。
ジェットアローンとか言う、玩具の完成披露記念会に行っている、副司令とリツコは、
前世のミサトの半分霞が掛かった記憶だと、ビール四本しかない、周りのご馳走が盛られたそれに比べて、
圧倒的に寂しいテーブルに座っているはずだ、可哀そうに、さぞかしお腹を減らしていることだろう。
シンジのお弁当で、お腹をぱんぱんにしたアタシは、くふふふとニヤケ顔で意地悪く笑った。
『アスカ・・・下からのGOサインだ、行けるな?』
「加持さん、アタシを誰だと思ってんのよ!
アタシは、惣流・アスカ・ラングレーよ!」
アタシは、すぐさまエヴァにエントリーを開始する。
プラグ内へLCLを満たし、内臓電源を入れると、
周りの、殆ど黒に近いブルーの空が目に入る・・・加持さんのカウントが始まった。
「フュンフ、フィーァ、ドライ、ツヴァイ、アインス」
流暢なドイツ語のカウントが耳へと響く・・・加持さん、楽しんでるわね・・・
「ダンケシェーン、ヘル、カジ」
切り離される寸前、アタシは皮肉をスパイスに、ドイツ語で加持さんへ呼びかけた。
アタシの真紅のエヴァは、蒼く澄み渡った成層圏から一気に地上へと、水へ飛び込むようにダイブする。
ママを介さずに、ダイレクトにエヴァにシンクロしているアタシには、コイツが感じていることが、
自分のことのように良くわかる・・・コイツは、こうして空を飛ぶのが好きなようだ。
見る見るうちに、廃墟に囲まれた地上が近づいてくる・・・
薄い雲をつきぬけて、アタシはわざとぎりぎりでATフィールドを張り、殆ど物理法則に逆らったように、
物静かに地面に降り立った、音も振動も最小限に止め、エヴァの足さえ僅かしか地面にめり込んでいない。
「うふふふふ・・・さぞかし、驚いてるだろうな・・・」
アタシは人の悪い笑みを浮かべて、見物客がいるであろうトーチカの方へわざとゆっくりとエヴァを歩かせる。
S2機関を、
第六使徒
から取りこみ済みのアタシの弐号機に、
とっくに時間切れなんてわずらわしい制限は無いが、あくまで
老人達
への眼くらましだ。
『ご苦労様アスカ、いま、どこかで見たような、
典型的なヤラレメカ
が出てくるから』
「オーケィ・・・リツコ、そいつって、どこまでぐちゃぐちゃにして良いの?」
プラグ内の空間に、サウンドオンリーのウインドウが開きリツコの声が響く。
その声をバックに、アタシの瞳は、ロケットの整備施設のような巨大な格納庫が、
ゆっくりと左右に開いていくのを、目ざとく見つけた。
『アスカ、その不細工な機体は超電導バッテリーで動いてるわ、
だから、こてんぱんにしても構わないから、いえ、して頂戴、私が許すわ』
「了解!リツコ」
リツコがグフフと切れたように笑う、よっぽど披露会場で嫌なことが有ったらしいわね。
アタシの額に、LCL中だと言うのに、嫌な汗が一筋流れるのを感じる・・・
『あーっ・・・アスカ君、完璧に破壊してくれたまえ、その方が、彼らも悔いがのこらんだろうからな・・・
一々軍事用に拘り過ぎなのだよ彼らも、土建用にエコノミーを作れば売れるだろうに・・・』
「承知しました、副司令・・・きっちり、駄目ロボットを教育して差し上げます」
同じウインドウから、副司令の激励の声まで飛び出す・・・日本重化学工業のおっさん達・・・
あの、日ごろ温和な副司令まで怒らせるなんて・・・手加減の余地無しってとこね・・・
アタシは、レバーから手を離すと、クククと嫌な笑いを漏らしながら、両の指をニギニギと握った。
「さ〜て・・・誰に喧嘩を売ったか、教えて上げるわよ」
アタシの眼線の先には、ゆっくりと鈍重な体を動かし始めたJAがいた。
JAは超電導バッテリーの余剰液化窒素を、盛大に空中に放出し、その冷気にあたりが一瞬霧に煙る。
そして一歩、また一歩と、その重い足を踏みしめながらこちらへ向かって来た。
「のろい・・・鈍過ぎるーっ!」
アタシは自慢の朱金の髪を振り乱して、雄叫びを上げた。
こんなので使徒と戦おうなんて、百年、いや1億年早い。
待ちきれなくなったアタシは、優雅にモデル歩きでJAに歩み寄ると、チョィと体をずらしてソイツの前に、足を出した。
「な・・・なにやってんのよ・・・」
JAは、もう見事としか言えないようなパフォーマンスで、弐号機の足にけつまづいて・・・
コメデイぽく転げて行った・・・アタシは、額にでっかい汗の玉が浮かぶような、幻覚にとらわれる。
そして、転げた先で、道化ロボットが惨めっぽく立ち上がろうとして、失敗しているのを見るに置いて、
可哀そうにさえなってきた・・・アタシはゆっくり弐号機を、ソイツへ再び近づける。
「アタシは・・・いじめっ子かぁ?・・・なんか嫌な気分ね・・・」
ちょっと鬱が入ったアタシへ、弦が震えるような音と共に高速で何かが飛んで来る、
ひょいとそれを反射的によけて、背後で派手に物が壊れる音を聞いて、後悔した。
JA何がしの格納庫が、轟音と共に倒壊して行く・・・これは、質量兵器?
「あ・・・あに考えてんのよ、コイツ見境無い・・・」
JAの肩口で、次々とプラズマ化した空気が派手な燐光を放つ・・・
今度は避けずにアタシは、レールガンの弾体を、反射的に弐号機の手の平で弾いた。
「ちいぃっ!」
フィードバックで手の平が、バレーボールの玉を下手に弾いたように痛む。
JAの次ぎの3射目を今度は、ATフィールドを張って洋上へと弾いた。
シンジなら、最初からATフィールド使うかな、とか自分で反省しながらアタシは頬を掻いた・・・
「あんたっ!はた迷惑な事は、止めなさいよ〜〜〜っ!」
アタシは、フィールドを纏わりつかせた弐号機の手で、JAの肩口に特設されたリニアガンの射出口を塞ぐ、
派手な音と共に、ロボットの肩口を抉る様に、リニアガンの第4射が暴発する。
本来、開口部から抜けるはずだったプラズマと、フィールドに当たって溶け砕けた弾体が、
リニアガンの加速部と、超電導コイルを弾けさせたのだ。
超電導コイルを維持していた、極低温の液体窒素が噴出して、派手にあたり一面を霧で煙らせる。
「やっぱ、脆いわね・・・」
アタシは、JAの肩の破口に指をかけて、かなりボロけた厄介者を引きずり立たせた。
立ち上がると同時に、生意気にもコイツはアタシの弐号機に殴りかかって来る。
JAの右のストレートを、アタシは優雅に弐号機に受け止めさせ、封じられた右の代わりに、
繰り出された左は、余裕で展開したATフィールドにぶち当たり、あっさりとJAの左の拳が潰れた。
「まあ、ここまでボロけても動くそのタフさと、くじけぬファイトは買っても良いんだけどね・・・」
アタシは呆れ顔で、弐号機の左手でJAの右の拳も軽く握りつぶす。
この脆さじゃあ、どう考えても使徒との戦闘には向かないわよね・・・
かと言って、とってもじゃないけど盾にもなりそうに無い・・・何の為に、こんなもの作ったんだか・・・
「まあ・・・旧態歴然な軍事産業じゃ、こんなものかぁ・・・」
何時までもこんなちゃばんに付き合ってられない、たてまえ、エヴァの稼動時間は五分なのだ。
アタシは、猫がねずみを前にしたように、その桜色の唇を妖艶に舌で舐め上げる。
そして、いきなり高機動モードに入ると、瞬時にJAの背後に廻って両の膝の裏に蹴りを入れた。
「あんたに怨みは無いけど、スクラップにさせてもらうわ」
見事に膝間接に食らわせられたJAは、面白いように仰向けに転がる。
アタシは、ゲシゲシと弐号機の足の裏でポンコツを踏みまくる、哀れJAは足の形の凹みを無数に付けられて、
あっさりと限界を越えた装甲が、軋むような嫌な悲鳴と共に割れ砕け、超電導バッテリー用の液体窒素が漏れ、
ガスの抜ける音と共に、辺りの水蒸気が結露して霧を生む・・・弐号機の活動開始から、実に四分16秒。
時折、青白い火花を散らしながら、アタシの足の下でスクラップとなった、JAはその動きを完全に止めた・・・
「任務完了!」
アタシの晴れ晴れとした声が、エヴァの外部スピーカーから、だだっ広い披露会場全域へと響き渡った。
エヴァの視界は、力尽きて崩れるように座りこむ、七三別けの黒髪の男と、
その傍らで、出来の悪い生徒を諭す教諭のような副司令、
そして、真赤なルージュを塗った唇をほくそ笑む様に三日月形に吊り上げるリツコを、その眼の隅へ捕らえた・・・
To Be Continued...
-後書-
現れたお重 = 「きっと沢山…」第七話でゲンドウ達がシンジにプレゼントした重箱(作者談
超電導バッテリーで動いてる = 第14話でゲンドウに、核分裂炉で動いているのをリークされたため
急遽代替エネルギーとして搭載された、レールガンもその時、合わせて搭載された(作者談
レールガン = リニアレールガン:ドーナツ状加速器内で磁性体の弾体を、超電導コイルで加速して打ち出す質量兵器。
JA無残(大爆笑
アスカvsJAを書いて見たくて、本来は16話辺りに入るはずの「人の作りしもの」を
わざわざここへ持ってきて見ました、よろしければ、皆さんのご意見いただければ幸いです(汗
しかし短い・・・この世界のJAじゃ、エヴァと立ち打ち出来ないと言う事で描く事があまり無いのです(苦笑
ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。
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