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EVA・きっと沢山の冴えたやり方
・第三話 見知らぬ、天井・疑惑
by saiki 20021104-080731
「”マギ”による3重チェック、異常ありません、シンクロ率はたしかに99.89%です」
私の疑問にマヤが答える。
碇シンジ 14歳 マルドゥック機関より選出された
サードチルドレン、エヴァンゲリオン初号機専属操縦者。
何かがおかしい、どこかが狂ってる、私の女の感が心の奥から突き上げるように囁く、
彼の14歳とはとても思えない落ち着き、どこと無く手馴れたしぐさに、
ミサトをからかうかのごときその振る舞い、彼はほんとに14歳なの?
そして、あの目、どこまでも引き込まれる黒曜石を削りだしたような黒い瞳、
しばし、まるで悟りを開いたとてつもない年齢を感じさせる、あの眼差し、彼は中学生のはずなのに?
しかも・・・彼の天使が舞い降りたがごとくふるまわれる、微笑み、
それを見つめる者は、老若男女すべてがほほを染める。
まるで見初められた、年行かぬ少女のように、
彼の微笑みの前では、殺人鬼でさえ自分の血塗られた手を見つめ恥じ入り、自害し果てるかもしれない。
この彼が、あの報告書の”碇シンジ”なの?
ゼーレのスパイ?洗脳された?それともクローン?でも彼の異常なまでのシンクロ率はなぜ?
私の深刻な悩みも知らず、発令所の中をミサトの声が響く。
「最終安全装置解除!エヴァンゲリオン初号機リフト・オフ!!」
エヴァは第三新東京市のはずれに射出された、大通りの真ん中に巨大な四角い穴が開き
夕日の赤い光の中、空中へ伸びたレールに沿ってエヴァを乗せたリフトがせり上がる。
リフト上のエヴァを固定する、肩の安全装置が超電磁レリーズに沿い二段階にスライドする。
最終安全装置を解除されたエヴァは、前のめりに己が足で大地へ立った。
彼が本物の”碇シンジ”かどうかは私には分からない。
でも、彼のあの高シンクロならなんの問題も無くエヴァは動くはずだ。
私は迷うことなく、双方向通信ウインドウ越しに彼に呼びかける。
「シンジ君、どうやってもかまわないわ、あれを殲滅して」
「リツコ!」
ミサトが叫びながら私の方を振り返る、
その顔には、信じられないという表情が張り付いている。
彼女の顔が無言で私に語り掛ける、ド素人に何を期待してるのと。
なぜそんなに驚くのミサト、私の指示がそんなに可笑しいかしら?
あの彼は、私達が考えていた彼とは違うわ、
私は真っ赤なルージュを引いた唇で、にやりと悪趣味な笑を浮かべだ。
『わかりましたリツコさん、これには武器は積んでいますか?』
「肩のウエポンラックにナイフがあるわ」
彼が落着き払った声で武器の有無を確認する。
私はパレットライフルがまだ未配置だったので、プログナイフのみが搭載されている事を伝えた。
左肩のウェポンラックが開きプログナイフが飛び出す、エヴァが自然な動作でそれを右手で持ち構える。
『ミサトさん指示は?』
「・・・シンジ君がんばって・・・」
ミサト!貴方ほんとに作戦部長なの?
私はミサトの指示なる物を聞いて頭を抱える。
これでは、応援部のチアリーダよりたちが悪い、
こんなめちゃくちゃな戦闘指示に誰が従うというのか?
だが彼はLCLを満たされたエントリープラグの中でクスリと笑う。
モニターの彼の脈拍に乱れは無い、発汗も正常、
こんな時でも、あの子は平常心を失わないでいられるとでも言うのだろうか?
私の額にいやな汗が伝う、彼はいったい何者?
『はい、がんばってみます』
「「「「・・・・・・・・」」」」
双方向通信ウインドウの中の整った中性的とも言える少年の顔が、私達へ極上の笑みを浮かべた。
笑みを見たスタッフ達が軒並みその動きを止め、
それを見た私の思考も幸せの中で止まった、自分の心臓が早鐘のように打つ音が聞こえる。
まるで思春期の少女のように頬が火照る、彼は・・・彼は、何者なのだろう?
メインスクリーン上を軽快な動きでエヴァが走り抜けてゆく、
その行く手には使徒と呼ばれる巨大生物が立ちふさがる。
使徒が左手を持ち上げ、特殊舗装の道路を削りながら向かってくるエヴァに手の平を上げる、
使徒の手の平の中で、赤いレンズ状の物体が光り灼熱のロッドが伸びる
エヴァはまるで生物のようにひらりと身をかわし、そのまま使徒の懐に飛び込む。
オレンジ色に輝く八角形の現象が空間にきらめき、双方向通信ウインドウの中のシンジ君の
黒い目が、一瞬赤い光を宿した様に見え、そして次の瞬間、全てのスクリーンはホワイトアウトした。
「ATフィールド発生、位相空間広がります!」
「強電磁場発生!いえ、重力場も発生しています!」
「各種センサー網安全装置作動次々停止して行きます!光学サイト使用不能!」
「衛星回線すべて不通!ネットワークも混乱状態です!」
「エヴァ制御神経データロスト!モニター反応なし!パイロットの生死不明!」
私の前で半場麻痺していたオペレーター達が生き返えり、普段の二倍増しのスピードで動き出す。
「シンジ君!」
「な、何がおきているの!」
ミサトが叫ぶ、私も砂嵐の中のようにノイズが走るスクリーンを見つめ、
おろおろとなすすべも無く立ちすくんでいた。
『落着きたまえ葛城一尉!赤木博士、まずは現状を把握しろ』
上から碇司令・・・あの人の落着いた声が響く、私はたちまち落ち着きを取り戻した。
「・・・わかりました、碇司令!ミサト!連絡は口頭で有線を前提に、対核装備で斥候を出して」
「人の手で電話線を引っ張るって事!?・・・わ、わかったわ」
ミサトは対使徒戦ではともかく、こういう実戦レベルでは鋭い動きを見せる
たちまち志願者を募り、自らも分厚く動きにくい対核装備を装着し始める。
『センサー網回復しはじめました・・・エヴァ初号機を確認』
「初号機は無事なの?パイロットはシンジ君は無事なの!?」
対核装備を着込んだままのミサトが叫ぶ、
私も回復してきたスクリーンを睨みつけ、何が起こったのか知ろうと頭をフル回転させる
やっとホワイトアウトから回復した画面、そこに、使徒はいなかった・・・
外見上軽微な損傷を追ったエヴァ初号機が、夕日の中ただ一機立ちつくしていた。
「エヴァ初号機との双方向通信ウインドウ再起動します」
「シンジ君!無事なの?!」
マヤの声と共にエヴァ初号機との双方向通信ウインドウが立ち上がり
シンジ君の飄々とした顔を映し出す、相変わらず平然としている。
彼は慌てるとか興奮するとかしないのだろうか?
「はい!ミサトさん、あれは殲滅しました、帰り道を教えてください」
「リツコ、帰還ルートを指定して」
ミサトが私に仕事を振ろうとするが、私はそんな事にかかっているわけにはいかない。
彼が帰ってくる、圧倒的な力であの使徒をねじ伏せた謎だらけの彼が・・・
「マヤ、後はお願い、私はケージに下りるわ」
「はい!先輩、シンジ君、あなたから見て左後ろ100メータの路面に・・・」
私はマヤの声を後に、
非常用昇降機
の上に乗る、
指揮所の戦勝気分の中、私はそれに浸れずに胸のうちから不安がふつふつと湧き上がってくる、
なんてお気楽な奴らだろう、彼がどんなに異常か分からないの、
私は赤いルージュを塗った下唇をかみながら、
ケージへの下降ボタンを押そうとした時、ミサトがその狭いリフトへ無理やり乗込んできた。
「ミサト、これは一人乗りよ!危ないでしょう!」
「ごめ〜ん、リツコ、私もシンジ君に早く会いたいのよ」
この女は何を言っても前言を撤回しそうも無い、仕方なく私はボタンを押す、不安を胸に抱いたまま・・・
・
・
・
私達がケージに着いた頃、ちょうどエヴァ初号機が収容される場面に出くわした。
ケージ内も業務に差し支えないが、戦勝気分ですでに半場お祭り騒ぎだ。
エントリープラグが排出されびしょ濡れの学生服の少年が姿を表す、
整備班長が自ら彼にバスタオルを手渡し労いの声を掛ける、他の者もしばし手を休めて花道を作って少年を迎える。
知らないと言う事は幸せかもしれない、彼らはエヴァの呪われた真実を知らないのだ。
彼は周りに笑顔と感謝の言葉を振りまきながら、私達に近づいてくる。
ミサトも笑みを浮かべながら少年を迎える、貴方は気が付かないの?
彼は絶対に、あの身上書にある”碇シンジ”じゃないわ、分からないのミサト!
私はミサトの後ろから彼を睨み付ける、彼はその視線を瞳で軽く受け止めると、
そのまま微笑み返した、私の心が波間に翻弄される枯葉のように揺れる。
「ミサトいいかげんになさい、貴方はまだ仕事が残っているでしょ!
それに、いつまでシンジ君をここへ引き止めるつもりなの?
彼にはまずシャワーを浴びてもらって、その後検査を受けてもらわなければいけないのよ」
「シンジ君また後でね・・・」
ミサトは後ろ髪を引かれるよすで、しぶしぶ発令所へ戻って行く、これで邪魔者が一人へった。
私は保安と医療部員を携帯で呼び出すと指示を飛ばした。
すぐに一般所員の格好をした保安部員が3人ばかり、
バスロープとタオルを持参で駆けつける。
早速、たわいない話題を振りまきながら彼を囲むようにロッカー室に移動、
設備の説明と理由を付けて2人付けてシャワーを浴びさせる、
その間に服に付いた毛髪をいく本か採取、服はそのままクリーニングへ
毛髪は医療部員に回しDNA検査を開始させた。
さあシンジ君、貴方はゼーレのスパイ?
それともだれかに洗脳されたの?
クローンでも面白いかもしれないわね?
貴方が何者か、きっとこの私が探り出して上げるわ。
しばらくすると、バスロープを羽織ったシンジ君が部屋から出てくる。
ククク・・・さあいらっしゃいシンジ君、私の部屋へ・・・
・
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・
考えた末、二名の保安部員は部屋の外で待たせる事にした。
だから、いま部屋の中に居るのはシンジ君と私の二人だけだ。
もちろん、私が合図すればコンマ5秒で彼らは部屋の中へ飛び込んでくるだろう、
それに私の白衣のポケットには、護身用の超小型拳銃ハミングバードR133が忍ばせてある。
14歳の子供一人ぐらい止めるのは何とでもなる。
しかし、彼の体をレイ用に整備されている医療器具で検査したが何も出てこない
整形施術の後や何かを埋め込まれた後、洗脳による脳波の乱れ・・・
やがて、DNA分析の結果も届くが白だった、クローンによるテロメアの欠損が見られない
採取された毛髪のDNAは、彼が”碇シンジ”自身であることを証明していた。
だが彼は怪しい・・・私の感がそう強固に主張している。
検査の間に彼の服がクリーニングから戻って来たので彼に渡し、着替えてから出てくるよう
彼に言いつけて私は一足先に執務室に戻る。
私は迷っていた、そこで私は、なぜか彼にストレートに聞いて見る事にしたのだ。
「シンジ君、貴方は怪しすぎるわ・・・貴方は本当にシンジ君なの?」
狂気の沙汰だ、言葉が真っ赤なルージュを塗った口から放たれた後、私はそう悟った。
認めるはずは無い、しらを切るか、それとも私めがけて死に物狂いで飛びかかってくるか・・・
だが彼の反応は、私の思いもよらぬものだった。
「クスクス、そうですね、ほんとに怪しすぎますねぼくは・・・
でも、リツコさん本当にぼくから真相を聞きたいんですか?」
彼は苦笑する、そしてあっけに取られる私へ、あの使徒さえ魅了するような微笑を浮かべる。
私は頬をピンクに染めたまま、しばし動けなくなった。
その間、私は日ごろの私らしくない思いに囚われていた、なぜ彼の目に引かれるのだろう?
彼の目は14歳の純真な目から、想像さえも出来ないぐらい年老いた慈悲深い目との間を行き来する。
わたしは茫然自失状態から、ゆっくり現実へと浮かび上がって行った。
「あ・・・貴方は私に、本当にすべてを語ってくれるというの?」
はっと気が付くと、彼にその気があれば私をくびり殺せるぐらいの時間が経っていた。
「ええ、リツコさんが望むなら、すべてを、リツコさんが疑いを挟む必要が無いぐらい
そして、ある意味僕の真相はリツコさんの未来を含む話になります。」
「フフフ・・・見くびられたものね、私が貴方の語る事を鵜呑みにするわけ無いじゃない。
それに、未来は常に不確定だわ。」
私は彼をあざける、心の内では未来を恐れているのかもしれないのに・・・
「まったくです、リツコさん、未来は不確定、だから僕はここにいるんです。
そして、ぼくがリツコさんに伝えられる、真相は劇薬です、それを知らせる事は僕に取って、
貴方を地獄の業火にさらす事にしか思えない、だから気が進まないんです。
でも、その責任の一端を担った人達に知らせないと、何も変わらないでしょうね。
何度でも同じ過ちを繰り返す・・・」
「じゃあ、シンジ君は私が納得する真相を私に示せると主張するわけね」
私の額をいやな汗が滴る。
私の科学者の本能が真相を欲する。
そして女の部分が声高々にやめろと叫ぶ、
今日の私は変だ、ひょっとしたら彼のあの天使の頬笑みに当てられたのかもしれない。
日ごろの冷静な私らしくない思いが、グルグルと私の心の中を渦巻き魂を焼き溶かす。
「ええ、でもリツコさんは僕に真相を語ってほしくないようですね。」
「・・・・」
彼は寂しそうに私に微笑んだ・・・
なぜか私の胸が、ぎゅっと締め付けられるように痛む、
そう、矛盾したことだが、いまの私は彼の真相を欲していない。
だが、必ず自分自身の手で真相とやらを引きずり出して、
逆に彼の目の前にさらしてやる・・・という怒りにも似た感情が内に渦巻いている。
私は渾身の思いを込めて、彼の寂しそうな瞳をにらみ付けた。
「そうかもしれないわね・・・」
私は気を静めようと、無意識の内にタバコを取り出し火をつける。
「ほんとなら、リツコさんやミサトさんが知って苦しむような真相なんて知る必要はどこにも無いんですよ。
出来れば僕はリツコさん達が何も知らない内に、すべてが終わってほしいんです」
「私がミサトと同じに扱われるのは、我慢ならないわね、私の権限で、貴方を監禁する事も出来るのよ。」
私は精一杯虚栄を張って彼を睨み付ける。
私は、彼に何を言ってるの?
もちろん、そんな事が出来るとは思わない。
あの碇司令が、具体的な根拠なしでそんな事を許すわけ無いもの・・・
「リツコさん、貴方が知らないほうがいいと言うのは、
あくまで僕の個人的な意見です、知りたければいつでもお教え出来ますよ」
「そう・・・もう良いわ、でも具体的な根拠が出てきたら覚悟しておく事ね」
私はどこか異常なのだろうか?
せっかくの彼の申し出を思わずけっていた。
私はいらいらしながら吸い掛けのタバコを、
お気に入りの猫のイラスト付きの灰皿に揉み付けるようにして消す。
「そうします、リツコさん、
ところで、僕はお父さんとはいつ話し合えるんです
エヴァに乗る前に一応了解は取ったはずなんですが?」
「そういえば、そんなことも有ったわね、所員を呼んで案内させるわ。
でも、お父さんが忙しかったら、また今度になるかも知れないけどそれでもいい?」
私は、親切そうな顔でさらりと彼に許諾して見せたが
それは嘘だ、私の心の中では彼に対する負の思いがどろどろと、
業火を上げて渦巻いている、私の中の一番いやな自分が彼に向けて、
絶対に合わせてなんかやるものかと舌を出す。
「はい、お願いしますリツコさん」
彼は私に苦笑を漏らす、その私を見透かすかのような笑みに
心を凍らせながら、私は携帯で表の保安部員を呼び出し指示を与える。
彼は私に軽く会釈すると、保安部員に連れられて去って行った。
私は締まったドアを、しばらくの間、心のうちの葛藤を押さえるように睨んでいたが
おもむろに携帯を手に取り、親指でボタンを軽快に操作し短縮ダイアルを呼び出す。
『・・・私だ・・・』
「碇司令、シンジ君の事なんですけど・・・」
シンジ君、貴方の思いどうりなんかにしてやるものですか、
どろどろとした思いが渦を巻いて私怨で理性を飴のように溶かす、思えばこの時からかもしれない。
私の中の妄執が碇司令への報われぬ愛憎から、
シンジ君への焼けるような好奇心へと変わって行ったのは・・・
To Be Continued...
-後書-
ハミングバードR133 = グロックG26のような小型の拳銃、メーカーならびに形番は作者の創作です。
今回は意表を突いてリツコさん目線で話を追って見ました
第3使徒・サキエルあっけなく逝ってもらいました(笑)
あのATフィールドの結界の中でいったい何があったんでしょうね(それは秘密)
リツコさんなんだか壊れてます、最初はあっさり補完する気だったんですが
どろどろと悶えてこそのリツコさんと、考えなおしましてこのようになりました(苦笑)
ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。
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