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EVA・きっと沢山の冴えたやり方

・第六話 見知らぬ、天井・恋人達T   by saiki 20021108



「ううっ〜〜〜やってられないわね」
私は空になったビールの缶を握りつぶし、
駐車場の隅にあるゴミ箱に投げ入れる。

私がいまひとつ機嫌が悪いのには訳がある、
徹夜で書類整理をして、やっと帰ろうとしていたところを、
副司令に用事を言い付けられたのだ、私のお肌が荒れたらきっとあの人のせいだわね。

それも用事が戦闘任務ならこの葛城一尉、何者をも恐れないのだけど・・・
シンジ君とレイのお買い物のあっシー君とは、私も落ちぶれた物ね・・・

・・・そういえばリツコの奴、シンジ君が怪しいから気を付けて、
何か有ったら知らせろと言ってたけど・・・目が怖かったわ、マヤちゃんが
怖がって引いてたし、いったいリツコとシンジ君との間で何が会ったのかしら?・・・

しかし、私のルノーちゃんはぼろぼろになるし・・・最近、ついて無いわ・・・
とりあえず保安部から車を借り出してきてるけど・・・これじゃあ、何時もの走りが出来ないわね・・・

しかし、シンジ君とレイ遅いわね・・・どこで油を売ってんのかしら・・・
ああ・・出てきた・・・いやだ、二人してべたべたじゃない・・・
でもあのレイが・・・男にあそこまで甘えるなんて思わなかったわ、
しかも良い笑顔をしてるじゃない・・・信じられないわね・・・

「おそ〜〜〜い!シンジ君、何してたのよ!」
「ごめんなさいミサトさん、ちょっと居眠りしてました」

シンジ君が照れくさそうに頭を掻いて、笑う。
あっ、この子、昨日あんなことが有ったし、
リツコや司令に引き回されて寝てないのかもしれないわね。
ごめんねシンジ君、私の考えが足りなかったわ・・・

「・・・おはようございます、葛城一尉・・・」
「おはよう、レイ、もう傷は良いの」

レイって、こんなに良い微笑を浮かべられるんだ・・・
あれ、レイは重症で身動き出来なかったんじゃ・・・
でも、確かに包帯を巻いてるけど、ちゃんと普通に歩いてるわね。

「・・・はい、問題ありません・・・」

いつもと同じ台詞だけど、俯いて薄っすらと頬を染めて言われると、
冷たいと言うより、可愛いと言う感じね・・・

「うん、まあいいわ、二人とも車を出すから乗って頂戴」

私はバックミラーで後部座席に二人が乗り込んだのを確認して、ゆるりと車を出す。

「シンジ君、どこへ行きたいの?」
「服から家具、調理道具と一通りそろえたいのでデパートへお願いします」

うん、シンジ君がここで一人住まいするなら必要よね、
でも調理器具と言う事は、彼、料理できるのかしら?

「シンジ君、料理できるの?」
「出来ますよ、機会を見てミサトさんにもご馳走しましょうか?」
「・・・葛城一尉・・・碇君の料理は、とても、とても、美味しいの・・・」

ちょっとレイ、あんたいつシンジ君の料理を食べたの?
シンジ君は昨日、この第三新東京市へ着いたばかりのはずなのに・・・

「お熱いわね二人とも、是非いただきたいわ、でもシンジ君、レイにいつ料理を・・・」
「そうそう、ミサトさんルノーの修理の件は、お父さん達から許可が取れました」
「やりーっ、ありがとうシンジ君、お姉さん嬉しいわ」

これでエビスビールを減らさなくて済むわ、うふっ、シンジ君ありがとう。

とと・・・ここはどこなのかしら、えっとカーナビを動かして・・・うう、反対方向へ向かってる・・・
くーっ、寝不足で調子が出ないわ・・・ビールが足りないのかしら・・・
後部座席の二人に気が付かれない様に、さりげなくハンドルを切りデパートへ向かう・・・

「そうそう、副司令から二人に携帯を預かってるわ、レイも古いのを私に渡して新しいのを使って頂戴ね」
「お手数をおかけします・・・」
「・・・はい、わかりました・・・」

二人が箱から携帯を取り出して思い思いの場所へしまい込む・・・レイは古いのを私に渡してよこした・・・
そのあと、シンジ君とレイは店に付く間無言で、時々微笑んだり、お互い見つめあったりしていた、
ちょっち気味悪いわよ二人とも・・・うーむ、最近の若いカップルは良く分からないわね・・・

無事車がデパートに着いた、やっぱりカーナビは人類が生んだ宝ね・・・
この東京第三デパートは、ネルフの資本がはいっていて24時間営業と言う、
常識はずれのわけの分からない営業を行っている、
しかも午前中に注文すると、夕方には配達してくれると言う便利なサービスも有る。

「はーぃ、二人ともお店に着いたわよ、不気味に二人してにやけてないで下りなさい」
「はぁ・・・不気味ですか・・・」
「・・・葛城一尉、不気味・・・ひどい・・・」

ちょっとからかったら、二人して肩を落として暗くなる・・・
くうっ、ほんとにやりにくいわね・・・

「まず何から買うの?大きい物は午前中に手配すると夕方には届くわよ」
「はい、ではまず家具から」
「レイちゃんもそれで、いい」
「・・・はい、問題ありません葛城一尉・・・」

私は車を対テロモードに設定して、離れる・・・このあたりの手順は
ドイツで短い間だけどアスカの護衛任務をこなしたので、われながらなれた物だ。
目的の階への移動もエスカレーターを使う、
これは、エレベーターに閉じこめられたりするのを防ぐ意味が有る。

「さあ、おねーさんはここで待ってるから、手早く済ましてね」
「はい、ミサトさん・・・行こう綾波」

目的の階に着くと私はレジの前で待つことにした、ここの店員の何人かは保安部が
入ってるはずだからセキュリティはランクB−だ、わざわざ付いて回る事も無いわね。

シンジ君達はどうやら、同じ物を三つ色違いで購入してるみたいだわね・・・なんで三つもいるのかしら?
・・・ちょっ・・・家具の送先は全部同じところじゃない・・・これは・・・どういう意味よ・・・

「シンジ君・・・これは、どういうことなのか、お姉さんに分かるように説明してくれるかな!」
「ミサトさん、どういうことって・・・意味が分からないんですが」

シンジ君たら、しらばっくれる気かしら・・・

「このベッドのうち、少なくとも一つはレイちゃんのでしょう」
「はい、そうですよミサトさん」
「男の子と女の子が一つ屋根の下で暮らして、間違いでも起きたらどうするのよ!」

シンジ君が深いため息を突く、レイもだ・・・
この子もこういうしぐさが出来るのね・・・
レイが寂しそうな顔で口を開く・・・

「・・・葛城一尉、問題ありません、私達の同棲はすでに碇司令と副司令から許可をいただいています・・・」
「許可が出てれば良いって問題じゃないわよ、もし子供でも出来れば大問題じゃない!」

世界で三人しか見つかっていないチルドレンの一人に、
子供が出来てエヴァに乗れないなんて事になったら、
すごく問題じゃない、その前に倫理的な事もあるけど・・・

「ミサトさん、綾波はいま子供の出来ない体なんです、そういう話はやめてもらえませんか」
「シンジ君口からでまかせ言っても分かるわよ・・・レイちゃん、シンジ君の言う事はほんとなの?」
「・・・はい、葛城一尉、私と碇君とは別のものだから・・・
いまのままでは私が欲しくても、子供は出来ません・・・」

シンジ君が少女を庇う様に抱きしめ、レイは無表情に淡々と語る・・・
私は、レイの言う事を聞いて呆然とした”欲しくても、子供は出来ません”・・・
知らないとはいえ、私はなんて事をレイに言ってしまったの・・・私の眼が潤む・・・

「ごめんなさい・・・ごめんなさいレイ・・・」
「・・・葛城一尉・・・私は・・・大丈夫です・・・」

レイの表情が暗い・・・明るい光で照らされた家具売り場が、
私達三人の回りだけどんよりと暗く感じる・・・
私には作り笑いを顔に貼り付け、子供達と話し続けるしか出来る事は無かった・・・

「シンジ君三つ目のベットは誰が使うのかな?お客さん用?」
「これは、いまは、わけが有って来れないけど、綾波の妹さんの為のベッドです」

レイに妹・・・私はレイの事を何も知らないのに気が付いた・・・
彼女はどこに住んでるの、どこで生まれ、どんなご両親に育てられたのか・・・
なぜ私は、いままで何も確認しなかったの・・・私はどうしたんだろう・・・

「そうなの・・・早く妹さんと、一緒に暮らせるようになれば良いわね・・・」

私の口から出たのは、あたりきたりの台詞でしかなかった・・・
使徒への復讐にこだわって、私はこの子達をコマとしてしか思えなくなってしまってるのかも知れない・・・

その後暗さを拭い去れないままに、私達は、調理器具を購入して配達の手続きをする。
次に行ったのは家電売り場で、パソコンと照明器具、家電などを購入、これも配達してもらう。

それから服の売り場に行き、レイがシンジ君の選んだ服を試着して、シンジ君に意見を聞く、
シンジ君がほめると少女は頬を紅色に染めそれの購入を決める・・・その繰り返しに付合う・・・
子供達二人にだんだん微笑が戻って行く・・・でも私の心は晴れない、うわべだけで笑みを装う。

レイの服をいろいろ選んでいたら、いつの間にか2時になってしまった、
彼女が肉が食べれないというので、私のおごりでパスタ料理の店へと向かう・・・

私と子供達との、一見にぎやかな食事風景・・・でも、私の口から出る言葉には心がこもっていない・・・
笑いもうわべだけ物だ・・・私の心の中ではレイの言葉が繰り返し響き続ける・・・
・・・”欲しくても、子供は出来ません”・・・繰り返される言葉が、私をモノクロームの景色へと沈めて行く・・・

食後には地下の食品売り場に下りて、シンジ君が手馴れた様子で食材を選んでいくのに付いて行く・・・
彼に聞けば一週間分の食材だと言う、料理音痴の私には判らないが・・・
どうやって選んでいるんだろう・・・同じ物に見えても、その中から良い物を選んでいるようだし・・・

レイもだけど、彼もどんな生活をしていたのか・・・きっと普通の中学生の生活ではないのだろう・・・
彼が時折、私に見せるすごく落着いた、そう、悟りきったような黒い瞳・・・
それを見るたびに、私はいたたまれない衝動に駆られた・・・
私は、この子達の生を削って復讐の糧にしてる・・・鬼のような浅ましい、けもの・・・

私は駐車場へ戻ると車の周りを一周して目視で異常の有無を確認し、
それから、おもむろにリモコンの表示も確認してから車を対テロモードの設定から解除、
二人と荷物を乗せると、私は少しだけ乱暴に自動車を発進させる・・・

シンジ君が次は、レイの家から引越しの為に荷物を運ぶという・・・私は後部座席を見た、
そこはすでに、服と食材で踏み場が無いほど埋め尽くされている・・・

「後、荷物を載せるとしたら助手席しかないけど、レイちゃんの荷物はそんなに少ないの?」
「・・・はい、大丈夫です・・・葛城一尉・・・」

荷物が全部助手席に入るって・・・レイ、あなたどんな生活をしてるの・・・
疑惑に囚われながらも、私はレイに住所を聞いてカーナビに入力する・・・
カーナビの指示に従って車を進めると、どんどん道の周りが寂しくなって行く・・・

「レイちゃん・・・ほんとに道はこっちで良いの」
「・・・はい、葛城一尉・・・」

レイと私が幾度も繰り返す応対・・・でも道の周りに人影がまばらになって行く・・・
やがて、カーナビが短い旅の終わりを告げる・・・
そこは無人の寂れたマンモス団地、どこからか建物を壊す音が寂しく響く・・・

再び私は車を対テロモードに設定して、引越しを手伝うために車を離れた・・・
子供達を連れ立って私は階段を上る・・・4階の一室に綾波レイの表札がかかる・・・
扉のポストには、いつから入っているのかダイレクトメールや何かがあふれていた・・・

部屋の主の少女は鍵も開けずにドアを引く・・・レイ、貴方・・・鍵を掛けてないの・・・
私の眼が驚きに丸くなる・・・しかしそれは序の口だった・・・

薄気味悪い部屋の中は、コンクリート打ち出しの壁がむき出しで・・・女の子の住むところじゃない・・・
枕とベッドには洗っても落ちなかったのだろう・・・赤黒く変色した血がこびりつき・・・
冷蔵庫の横のダンボールには、乾いた血に染まり茶色になった包帯が無造作に投げ込まれている・・・

私は好奇心に負けて薄汚れた冷蔵庫の扉を開け、そして後悔した・・・
中にはビスケットと思われる開け掛けの袋と、飲みかけの水のボトル・・・
私は、胸に開いた大きな穴がだんだん広がるような気がして、あわてて冷蔵庫の扉を閉める・・・

「綾波・・・眼鏡はどうするの・・・」
「・・・いらない・・・前とは違うもの・・・」
「そうだね・・・」

子供達の小声の応対が、私の心を現実へと引き戻す・・・
ふっと私は子供達を見た・・・シンジ君がレイの教科書とノートパソコンを鞄に入れている・・・
そして、レイが作りつけのクローゼットからスポーツバックに服を詰め込んでいた・・・
詰め込められるのは、少しばかりの安物の下着と体操着、数着の学生服・・・

私は、少女の引越し荷物が車の助手席に納まったのを見て、心底泣きたくなった・・・
心が引き裂かれるように痛む・・・私は、私の半生は何だったのだろう・・・
ハンドルにうつ伏した私が、力無い声で少女へ訪ねた・・・こらえ切れず、私の眼から涙がこぼれる・・・

「レイちゃん、あそこに居て寂しくなかった・・・」
「・・・私・・・あそこに居た間は、寂しいと言う事を知らなかったから・・・・
でも、いまの私はそれが分かるけど寂しくは無いわ・・・碇君がいるから・・・」

少女の声がガラスの鈴のように儚く響く・・・”碇君がいるから”・・・
レイ・・・貴方はシンジ君の中へ、自分の在るべき場所を見つけられたのね・・・
でも私は、復讐にとらわれ8年前に自分の在るべき場所を捨て去ってしまった・・・
閉ざされた車の中の空間に、ハンドルにうつ伏した私のすすり泣きがいつまでも響き続けた・・・



To Be Continued...



-後書-


なんて事だ・・・例のセフイロトの天井の部屋で”知らない天井だ”の台詞を入れて
”見知らぬ、天井”のタイトルを消化しようとしたのに・・・シンジ君はTV版十八話で一度見ている
ことが判明しました・・・ついに予定外の延長戦、アスカ君すまん君の本編への出演が遠のいたよ(笑涙)
買い物とレイの家をミサトに見せるというイベントが欲しいために今回の一話を挿入しました、
読んだ方が気にいっていただけると幸いなのですが。
次回、見知らぬ、天井・最終話”初夜T(仮題)”ついにX指定突入か?で逢いましょう(爆笑)


ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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