Novel Top Page
絶望の淵の日常
第三話
壊滅
by saiki 20030606
私の前で、大人達の無意味な会話が続く・・・
「・・・碇司令、保安部が全力で捜査していますが・・・
ご子息の行方は、いまだ判明していません・・・
それに・・・セカンドチルドレンも所在が不明です・・・」
葛城三佐が、すっかり憔悴しきった姿で肩を落として、碇司令に報告する・・・
私は彼女の報告の、あまりに意味の無い内容に、
第壱中学のアサギ色のジャンバースカートの裾を、無意識の内に握り締めていた・・・
「碇・・・我々は、シンジ君を追詰めすぎたのではないのか?」
「むう・・・検討は後だ冬月、まずはあいつを見つける事だ・・・
いいか・・・葛城三佐、シンクロ率の落ちたセカンドは後回しだ、
パイロットを確保するため、なんとしてもサードチルドレンを見つけろ。」
碇司令が無表情に、疲れた表情の葛城三佐を追詰める・・・
私は、この人達きらい・・・
だって、誰一人私をまともに見てくれないもの・・・
でも、私は、何故かこの人達の会話の中心人物・・・
サードチルドレンに興味があるからここにいる・・・
「はい、必ず・・・」
何の確証も無い断言の後、葛城三佐は力無い歩みで、
私などそこに居ないかのように、むやみに薄暗く広い司令官公務室から姿をくらます・・・
「シンジ・・・シンジは、私を捨てたのでしょうか、冬月先生・・・」
「碇、何を言う・・・
シンジ君を10年も前に、捨てたのはお前の方では無いのか?」
赤いサングラスを傾け、自分の机の上に載せられた物を見つめる碇司令は・・・
”お世話になりました、探さないで下さい シンジ”と乱暴に殴り書きされ、
皺くちゃになった、もと大学ノートの1ページだったであろうその小さな紙に、
何をしたら良いか分からないで戸惑っているように、私には感じられた・・・
「私は、ユイになんと言って・・・」
「いまさらだな・・・碇、それよりどうするのだ・・・
お前が後先考えずダミーシステムを使うから、初号機にはダミーはおろか、
辛うじてシンクロしていた、レイでさえ動かせんのだぞ・・・」
二人の話に自分の名前が出てきて、私はちょっと驚く・・・
でも、きっと二人目の私・・・この三人目の私の事じゃ無い・・・
「・・・17番目の使徒・・・」
「そうだ、まだ使徒は一体残っているのだぞ・・・碇・・・
しかも、ゼーレがフィフスチルドレンを送り込んで来る・・・
ゼーレのチルドレン・・・少年とは言え、平凡なパイロットとも思えん・・・」
私は、碇司令と副司令の、重苦しい雰囲気を振り払うかのように、
まるで影のように足音を立てずに、そっと部屋を抜け出す・・・
「・・・そうですね、先生・・・これから・・・」
分厚い装甲ドアが締まると、あの嫌いな人達の声が聞こえなくなる、
私は表面上の表情を変えずに、人知れずそっと溜息をつく・・・
シンジ・・・シンジ君・・・サードチルドレン・・・
その言葉を聞くたびに、私の中で、何かが揺り起こされる・・・
それは、青白い月に照らされた宝石のような使徒や・・・
私に向かって儚く優しげに微笑む、黒い髪の少年のビジョンだったり・・・
私へ語り掛ける、やわらかく包みこむような誰かの声だったりする・・・
それを感じるたびに、私の心は暖かくなり・・・
それが去ってしまう毎に、私は何故かたまらなく胸の辺りがキリキリと痛む・・・
「私・・・三人目の私・・・私は・・・何がしたいの?・・・」
ゆっくりと長い道のりを上がっていくエレベーターの上で、私は思わず自分の手の平を見る・・・
そこに自分の何かが、まだ見ぬ見知らぬ神の手で、
炎の朱文字となって、大文字で書き込まれてでもいるように・・・
二人目は何を思って、その魂を手放したのだろう・・・
三人目である私には、それが、まるでベール越しに見るようで理解できない・・・
深く深く、自分の中へと沈みこんで行く頑なな私の心を、微かなハミングが呼び戻す・・・
「歌は良いね・・・歌は心を潤してくれる・・・
リリンの生み出した、文化の極みだと思わないかい?
ファーストチルドレン・・・綾波レイ・・・」
エレベーターのエントランスで、白シャツに紺のスラックスと言ういでたちの、
銀髪、赤眼の少年が、私を待ちうけていたかのように、涼やかな笑みと共に呼びかける・・・
「・・・・・・・・・」
私は無言で、その少年を彼と同じ色の赤い瞳で睨み付けた。
「進化の末、
僕達はリリン達と同じこの体に行き付いた・・・君はボクと同じだね・・・」
「・・・あなた・・・誰?・・・」
私の、珍しく荒げられた氷のように冷たい声に、彼は場違いな微笑で答えると、
私を無視したように、地下深くへと下るエスカレーターへと足を向ける・・・
「・・・僕は渚カオル・・・
フィフスチルドレンだった・・・つい、今し方まではね・・・」
彼、渚カオルは、エレベーターで私から遠ざかりながら呟く・・・
その小さな呟きは、何故か不思議と私の耳へ大きく響いた・・・
「・・・どこへ・・・行くの・・・」
「本能の赴くまま・・・と言うより、義務を果たしにかな・・・
まあ、あまり乗る気では無いのだけど・・・他に僕には道が無いのでね・・・」
遠ざかっていく・・・私と同じ雰囲気をまとう、彼の背中にやるせない哀愁が漂う・・・
エスカレーターの深遠の彼方へと、私の前から消え去ろうとする、彼の呟きが聞こえる・・・
「綾波レイ・・・君は、アダムの元へは行かないくてもいいのかい?・・・」
もう見えないぐらい遠方に行ってしまった、聞こえるはずの無い彼の呟きが聞こえる・・・
その呟きに、私は突然気がついた・・・彼・・・渚カオルが使徒だと言う事に・・・
・
・
・
騒がしいのは嫌い・・・私は、この事態を引き起こした、渚カオルを怨んだ・・・
狭いエレベーター内の私の耳元で、
高らかにサイレンが鳴り響き、第一級非常体制の宣言が繰り返される・・・
『セントラルドグマ付近で、パターン青を検出!第17使徒と思われる!
非戦闘員は直ちに退去!繰り返す!非戦闘員は施設内から直ちに退去!』
私を乗せて直下降していたリニアエレベーターが、電源を切られ赤い非常灯を灯して止まる・・・
駄目・・・このままでは彼に追い付けない・・・私は自分の本体に近づいたため、量子空間を通して
引き出せるようになったS2機関の力を使い、一瞬張ったAFフィールドでエレベーターのドアを吹き飛ばす。
メンテナンス用のキャットワークへ出た私は、遥か下方で次々と破砕されていく分厚い装甲隔壁の狭間に、
自分の下へ展開したAFフィールドで重力を緩和して、ゆっくりと下降する彼の姿を微かに望む・・・
私に、彼と同じ事が出来るのだろうか・・・
瞬時の躊躇の後、私は彼の後を追ってドグマへのメインシャフトへ、その身を躍らせた・・・
自由落下の中、私は額に汗を浮かべて自分の下へ、真に強固なAFフィールドを展開する・・・
フィールドの展開で重力を遮蔽したはずだが、なかなか最初に得た落下の勢いが止まらない・・・
だが、徐々にそれも地球の自転による遠心力で相殺されていく・・・
今度は、私の降下が完全に止まってしまった・・・
やはり、慣れない事はなかなか上手く行かないことを、私は今更ながらに実感する・・・
「・・・このままでは・・・」
私は無意識に、奥歯を強く噛締める・・・
何故か、私は柄にも無く、自分が焦っているのを感じる・・・
焦る・・・この不思議な感覚・・・三人目の私が、始めて感じるこの感覚・・・
2人目の私も、この胸を焼き焦がすような感覚を、感じた事があるのだろうか・・・
私は、遥か下方で瞬く赤い光を睨み、やや早い落下速度で、
アサギ色のジャンバースカートを吹き上げる風にはためかせながら、先を急いだ・・・
・
・
・
彼の張ったATフィールドの結界を、苦労して潜り抜けた私は、
ヘブンズドアを潜り抜け、赤い天井とLCLの水路の狭間を、セントラルドグマへ向かう・・・
彼に遅れる事数分・・・私が着いた時には、すでに時遅く、全ては終わっているのだろうか・・・
彼方に、巨大な赤い十字架に
磔
になった、私のもう一つの体が見えてくる・・・
彼は、その白い巨体の前にやるせない表情でたたずんでいた・・・
『人工知能により自律自爆が決議されました、所員は速やかに退避して下さい』
この、私と彼の二人しかいない空虚な空間にも、律儀に合成された女性の音声の警告が響く・・・
その声に、頭を上げた彼が私に気づいて、その重い口を開いた・・・
「・・・君は・・・ここにあるのがリリスだと、最初から知ってたんだね・・・」
「・・・・・・・・・・」
私は、無言で彼に答える・・・
彼は、リリスに被せられた七つの瞳、ヤーヴェの目が象眼された仮面を振返る・・・
「これもリリンの思惑のままと言うことか・・・ちょっと悔しいけど・・・
僕は、このまま逝く事にするよ・・・君は、どうするんだい?・・・」
彼の寂しげな赤い瞳が、私を射抜く・・・
私は・・・私は、一体どうしたいのだろう?・・・
一瞬、戸惑った私の心に、あの懐かしい黒髪と、黒曜石の黒を思わせる優しい瞳が思いだされる・・・
「・・・・・・・・・」
「そうか、僕と違って、君には想う人がいるんだね・・・」
17番目の使徒・・・彼の顔が、私に優しく笑いかける・・・
その瞬間、セントラルドグマ全体にN2爆発の業火の、
網膜の視神経を焼きつかせるような、眩い閃光が走った・・・
「行って、その想いを遂げたまえ・・・綾波レイ君・・・」
私の気が遠くなる前・・・彼の、そんな声が聞こえたような気がした・・・
瞬間、焼け付くような感覚の後、私は第三新東京市の外れに横たわっていた・・・
分子間を通り抜けたのか、量子空間を極小単位に分解されて再構成されたのか・・・
全く分からぬまま、茫然自失でそこへ放り出されていたというのが正しいのかもしれない・・・
ただ、ぼんやり分かったのは・・・
私の本体とスペア達が無に帰った事と、あの、彼の気配が絶えたと言う事だけだった・・・
「・・・私・・・なぜ、まだ生きてるの・・・
それに・・・何が起こったの?・・・」
くすぶる壱中の制服に、無残に焼け爛れた体からの痛みを感じながら・・・
最後の綾波レイたる私は、途方にくれて抑揚の無い声で呟く・・・
「・・・行かなきゃ・・・」
私は、火傷の苦痛に顔をしかめながら、力無く立ち上がる・・・
辺りは、地下からの爆発の振動がまだ絶えず、地割れからは黒煙と炎が立ち上っていた・・・
To Be Continued...
-後書-
分子間を通り抜 = いわゆる、壁抜けだと思ってください、
これがデフォルトで出来るキャラと言うと、真っ先に思い着くのが天地無用の魎呼(りょうこ)かな(謎
量子空間を極小単位に分解されて再構成 = テレポートの一種だと思ってください。
うーん、ゲンドウ・・・ちょっとキャラが違う(汗
当HPで回想シーン以外で初登場のカオル君もなんか違うかも(滝汗
これで三人とも、やっと時間軸が追いつき一致しましたね(苦笑
ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。
Novel Top Page
Back
Next