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絶望の淵の日常

第八話  停滞(ていたい)   by saiki 20030724



止むを得ず、朝食もインスタントの朝粥で済ましたアタシ達は、
座卓の上を片付けた後、お茶を前に今後の事について頭を寄せる・・・

「とりあえず、私達に必要なのは情報ね」
「・・・たしかに・・・そうかもしれない・・・」

アタシの凄く妥当な言葉に、 三人目(レイ) が頷く・・・
しっかりしなきゃ・・・自分がこの三人の中で、一番まともなのだから・・・
でも、こんな一番には成りたくなかったな・・・アタシは、心の中でぼやく・・・

「最低限、ネットにアクセスできる様にしないといけないから、
また、買い物に行かないといけないわね・・・アンタはどうするの?」
「・・・私は・・・碇君が心配だから・・・」

まあ、アタシもそうなんだけど・・・
でもアンタ、必要最低限の物も持って無かったわよね・・・

「ごめん、アタシが悪かったわ、アンタも来なさい・・・
アンタの物を、揃えないといけないのを忘れてた・・・
心配なのはわかるけど、シンジは逃げやしないわよ」
「・・・そう・・・そうかもしれない・・・わかった、行くわ・・・」

レイは、しぶしぶながら私の言葉に従う・・・
アタシは、彼女の髪を今一度白髪染めで黒く染め上げた・・・
コイツの、蒼銀の髪は溜息をつくほど綺麗だけど目立ち過ぎる・・・

「レイ・・・アンタ枝毛が多いわね・・・」
「・・・私・・・髪を気にした事無いから・・・」

ああ・・・なんてコイツ、女としての立振舞いを知らないんだろう・・・
アタシは、今更ながらに自分達が歪んで育った事を確信した・・・
機械の部品の様なレイ、愛に飢えながらも、それを得る (すべ) を知らないシンジ、そして・・・
見栄と、プライドの塊に育て上げられたアタシ・・・自分は、ネルフを呪わずにいられない・・・

   ・
   ・
   ・

アタシは、レイの目立つ蒼銀の頭髪を黒く染め上げるだけでなく、念の為ウィッグで髪を肩まで垂らす。
そして二人共、目立たない服装を身に付け、サングラスを掛けて出かける用意を整えた。

「シンジ・・・すぐ帰ってくるから、良い子にしてるのよ・・・」
「・・・碇君・・・」

アタシ達は、後ろ髪を引かれる思いでアパートのドアを締め鍵を掛けた・・・
レイの奴は、錆びて軋む階段を下りながらも何度も部屋の方を振り返る・・・

「大丈夫、アイツがアンタを置いて、何処かへ行ったりはしないわよ・・・」
「・・・そう・・・ありがとう、アスカ・・・」

アタシ達は、寄り添うようにしてバスの停留場へと足を運ぶ・・・
いつか三人で、この道を歩ける日が来ることを願いながら・・・

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   ・
   ・

レイの生活必需品の調達は、あっけなく済んでしまった・・・
コイツほんとに張り合いが無い、普通もう少しお洒落なんかに気を使っても良いと思うんだけど・・・・
ほって置くと何も言わない、レイに服のセンスとか、常識を求めたアタシがいけなかったのだろうか?

コイツには、少しずつでも良いから、アタシが一般常識と言う物を教えていかないといけないようだ・・・
服の袋を抱えたままで、もう一つの目的を果たすために、家電売り場に足を踏み入れたアタシ達は、
ノートパソコンの棚の前で脚を止めた、最近の流行なのか段々カラフルになって行くそれがずらりと並び、
高照度液晶に、デモ映像を前世紀の月着陸船を大きく凌ぐその処理能力を無意味に使いながら、目まぐるしく映し出していた。

「沢山あるわね・・・」

アタシは学校の端末や軍の備品しか、いじった事が無くて、少し途方にくれる・・・
思えば、学校用の物や、軍事用の物は、
民生の少し枯れて運用実績の有る物を、アレンジして使われる事が多い・・・
自分は最新のCPUとか、メモリの規格とか、OSとかについて、全く不案内なのに思いあたった・・・

「店員を呼んだ方が良いか?・・・」
「・・・・・・」

小声で呟いてから、レイがデスプレイのスペック表に眼をやってるのに気が付いた・・・

「レイ・・・アンタこれ判るの?・・・」
「・・・すこしだけ・・・二人目が赤木博士に、つきあわされた事があるから・・・」

一心にスペック表を読みながら、レイが答える・・・
アタシは、レイの意外な才能に頬を緩ませる・・・
なんだ、コイツにも、ちゃんと出来る事あるじゃない・・・
忙しなく見回していたレイの眼が止まり、アタシへ振り向く。

「・・・デスクトップ並の、本格的な作業にはこれ・・・
持ち運んで、軽い作業をするならこの機種でよいと思うわ・・・」

レイが、その身に付けた専門知識で絞り込んだ機種を指差す。
それは黒に近いブルーの大型のノートと、大学ノート大の薄手の真赤なノートだった。

「うふふ、良かったわね、レイ・・・
アンタは役立たずじゃ無い、今それを自分で証明して見せたじゃ無い?」

珍しく、何時も無表情なアイツの目が丸く見開かれる・・・
そして、微笑むアタシの前で、レイの目尻に滲んだ涙がゆっくりと頬を伝った・・・
アタシはその涙へうろたえながらも、レイの奴へ可愛い花柄のハンカチを差し出す。

「見っとも無いから、それで拭きなさいよ・・・」
「・・・ごめんなさい・・・」

レイは、渡したハンカチで目尻を押さえながら、アタシへ謝る・・・
アタシは、少し戸惑いながらも、何か言ってやらねばと口を開く・・・

「あ・・・謝る必要は無いわよ、アタシはアンタを褒めてんのよ」
「・・・ありがとう・・・」

レイの奴は、アタシのぎこちない賛美の言葉に、ほんとに綺麗な笑みを浮かべ・・・
アタシはそれを見て、自分もそんな笑みを浮かべたいと、ちょっとだけ悔しさを感じた・・・

結局、両方の機種を現金で購入したアタシは、書類に住所や、偽名やらと共に、
途中コンビニで作っておいた、ネット銀行の口座を書き入れて二人分のネット接続の手続きを済ませる。

レイの奴は、帰りのバスの中でも嬉しそうに、買った服の袋に足を絡め、
ノートパソコンの箱に、僅かに赤く火照った顔で、頬擦りを繰り返す・・・
その顔には、初めて自分で選んだ物に対する、愛着とも言うべき物が浮かんでいたとアタシは感じた・・・

思ったより早く帰って来たアタシ達を、少し赤く変わりかけた、
ラベンダー色に染まる空をバックに、シンジが一人残るボロアパートが迎える・・・
心持ち足を速めたアタシ達の下で、錆び付いた階段が軋む音を立てた・・・

鍵を開けると同時に、レイの奴が服とパソコンを桟敷に残して、
シンジへと駆け寄り、変りが無いのを確認してホッと胸を撫で下ろす・・・
アタシは慌てず、鍵を掛けてからその後を追った・・・

「・・・碇君・・・」
「ただいま・・・シンジ」

アタシ達は、それぞれの表現方法で、物言わぬままじっと座り続けるシンジへと声を掛ける・・・
返事をするとは思っていないけど・・・やはり、掛けた声に反応が無いのはきつい・・・
アタシは、レイに聞こえないように、ひっそりと溜息を吐くと服を片付けて、赤いパソコンの箱を開けた。

「ごめん、レイ・・・松代のマギ2号に、
こっちの所在を怪しまれずに、こっそりと、アクセスする方法ってあるかな?」

シンジの頭をいとおしげに撫ぜ続けていたレイが、顔を上げてアタシを見つめ、コクリと頷いた・・・
そして、名残惜しげにシンジの方を振り返りながら、蒼いノートを立ち上げネットへと繋ぐ。

「・・・少し時間がかかるけど、それでいい?・・・」
「時間にはあまりこだわらないから、ぜひとも、
安全な方法を取りたいわね・・・出来れば、アタシに説明しながらそれを進めてくれる?」

レイの指がキーボードの上を、まるでリツコのように、残像を残しそうな速さでタイピングする。
アタシはそれに見とれて感心しながらも、
こりゃあキーボードがあまり持ちそうも無いわねと、心の内で密かに呟いた・・・
少し見ているうちに、コンパクトにまとめられたプログラムが、目の前で組みあがっていく。

「アンタに、そんな才能があるなんて・・・何で言わなかったの?」
「・・・そう・・・これも私の才能なのね・・・
今まで、誰も言ってくれなかったから・・・気が付かなかったわ・・・」

呆れてジト眼で見つめるアタシへ、レイの奴はちょっと首を傾げると何でも無いように答えた・・・




To Be Continued...



-後書-


コンパクトにまとめられたプログラムが目の前で = 普通はこう言う事は無理です(笑
  映画とかアニメとかの特有の現象です、もう完全に保障出来ます、絶対バグが出ますし(苦笑

ちょっとネット小説に嵌っている間に、ずいぶん時間が経ってしまいました
ううむ・・・軽い浦島太郎状態です、ぬおおお・・コミケの準備が(滝汗

ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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