Novel Top Page

穏やかな微笑と共に

第3話 case.Fuyutuki  by saiki 20030630



私の目の前を、等間隔に取り付けられたパイロットランプが通り過ぎて行く・・・

「碇の奴、厄介ごとを押し付けおって・・・どこへ行ったのだ・・・」

私は書類仕事で痛む腰をさすりながら、暗いセントラルドグマのへの直通エレベーターの中で唸る・・・
まったく、何だというのだ・・・赤木君の次は、碇の奴がここへこもってしまうとは・・・

「こんな陰気で、寒いとこに長居をするとは・・・年寄りをいたわると言う事を知らんのか・・・」

思わず、私は物言わぬエレベーターの壁に小言をこぼす・・・

「いかん、いかん・・・
どうも歳を取ると、愚痴が増えていかんな・・・」

私は自らの小言癖に、溜息を突きながらエレベーターが目的地へ着くのを待つ・・・
ここには監視モニターも、生きた連絡ルートも無い・・・全ては機密を守るためだが・・・
だからと言って一々、私自身が足を運ぶ羽目になるとは・・・

やっと、エレベーターのドアが開く・・・
やれやれと (こうべ) を上げた私の目前に、蒼銀の髪が目に入る・・・
ああ・・・彼女がここへいると言う事は、今日はダミープラグの実験でも有ったのか・・・

「レイ君・・・赤木博士と、碇の奴を知らんか?」
「・・・・・・」

彼女は、何も言わずに踵を返すと、元来た道を引き返す・・・
私が躊躇していると、振り返って首を傾げる・・・
どうやら、私へ付いて来いと言うつもりらしい・・・

「うむ・・・わかった、付いて行けばいいんだね・・・」

私は、蒼銀の髪の少女の後を大股に歩く・・・
この、少し変わった少女の事を思うと、私は今でも胸が痛む・・・
ユイ君似の彼女は、碇の希望の象徴であり、私の絶望の産物なのだから・・・

その時、私はレイ君が素足のままなのに気が付く・・・

「レイ君・・・靴はどうしたのだ?・・・」
「・・・・・・」

少女が、その真紅の瞳で私を不思議そうに見つめる・・・
やれやれ、彼女とは、もう少し 意思疎通(コミュニケーション) が取れていたと思っていたが・・・

「いやいい・・・赤木博士の部屋か、パイロット控え室に、
服と靴のスペアがあるだろう、後で届けさせ・・・仕方ない私が持ってくるよ・・・」

ここへ、他の人間を入れる事は出来んな・・・
こんな事まで、私がやらねばならんのか・・・私は、大きな溜息を付いた・・・

「で、碇と赤木博士は?・・・この中かね?・・・」

少女は”人工進化研究所第三分室”のドアを開けて、中を覗き込む・・・
そして、私の問いかけに、彼女は小さく頷いた・・・しかし、”人工進化研究所第三分室”とは・・・
ここへ来るのは、ずいぶん久しぶりなのを思い出した・・・もう何年になるのだろう・・・

「ぬう・・・これは・・・」

部屋の中を見た私は、思わず唸り声を上げた・・・
塵の積もった床には、アクリル製のバケツほどの大きさの容器が二つ、
中にLCLとおぼしき液体を、なみなみと湛えている・・・

だが、真に異様なのは、それでは無くその中に浸たっている光輝く球体だ・・・
それが、赤く輝きながら、周りに微細な絡まりあった光の糸のような物を纏っている・・・

それを見た私は、何か嫌な気配を感じた・・・
この、地獄へ引きずり込まれるような感覚は一体・・・
私の張りをなくした背中を、嫌な汗が滴り落ちる・・・

私は、ここしばらく無かったほどに、たとえ様も無い恐怖にうろたえていた・・・
これは・・・何が起こっているというのだ・・・それに、赤木君と碇の奴は・・・
後ずさりして振り返ると、後に付いて入ってきたレイ君が、私をその赤い瞳で見上げる・・・

「ここで・・・何が起こっているのだ、赤木博士の新しい実験か何かが暴走して・・・
いや、それさえも分からんか・・・こうしてはおられん・・・レイ君、一度上に戻るぞ、さあ一緒に来たまえ」

私の声にレイ君が、いやに穏やかな微笑を、
ユイ君似の、その陶磁器で出来ているような白い顔に浮かべた・・・
その笑みに、私は違和感を覚えた・・・彼女が、今まで笑みを浮かべることが有っただろうか?

「だ・・・誰だね君は?・・・・」
「くすくす・・・やっと気が付きましたか・・・」

レイ君にそっくりの蒼銀の髪の少女は、さも可笑しそうに低い笑いを漏らす・・・
私は、思わず後ずさりした・・・・内心、護身用に銃を持ち歩くべきだったと、
自分を責めながらも、心の中のもう一人の自分は、
お前に人を撃つ度胸があるのかと、冷静に自分自身を自嘲した・・・

「何が、目的だね・・・」
「くすくす・・・さあ、何だと思います?・・・」

学者とは因果な商売だ、こんな時さえ自分自身おも分析するとは・・・
ひょっとして赤木君も、その最後はこんな感じだったのかも知れんな・・・
そして、私もこの少女の手に掛かって、このジオフロントの奥底で果てる事になるのか・・・
私は、自らの予測に妙に納得している、自分自身が少し情けなかった・・・

「わ・・・私の命かね?・・・」
「くすくす・・・どうでしょうか・・・そうして欲しいんですか?・・・」

ゆっくりと後ろに下がる足がベットに当たり、私は、ベッドの上に座りこむような形で追詰められた・・・
少女が眼と鼻の先に立ち、私の頬を自然な動きで壊れ物を扱うように、その両手で包みこんだ・・・
少し体温の低い少女の手が頬を慈しむように撫ぜ、その赤い瞳が私の眼を覗き込む・・・

「ば・・・馬鹿な事を、死にたい奴がどこにいるのかね・・・」
「くすくす・・・本当に?・・・」

背筋を悪寒が駆け抜ける、目の前の少女は、
猫が鼠を玩具にするように、私を弄っているのか?・・・

「集団自殺に等しい、人類補完計画を望む・・・貴方が、死にたく無いと?・・・」
「・・・ど、どこでそれを!・・・」

思わず大声を上げた私を、少女は冷たい笑みを浮かべて見つめる・・・
そして、突然、私の目の前が真紅に染まり・・・
意思が暗闇に包まれる瞬間、水の詰まった袋が弾ける様な音が聞こえた・・・

    ・
    ・
    ・

むう・・・少しうたた寝をしていたようだ、縁側でうたた寝するとは・・・
自分も、ずいぶん歳を取った物だ・・・少し乱れた浴衣の袖を直しながら、私は深く溜息を付いた・・・

「お目覚めですか先生?」
「ああ・・・今は何時かね?」

私のそばに座る、子供を生んでずいぶん立つのに、
未だに浴衣を着る姿も眩しい昔の教え子が、苦笑しながら時間を教えてくれた・・・

「もうそんな時間か、ユイ君・・・そろそろ、風も冷たくなって来た様だ・・・
あの子達を、部屋に入らせた方が良いのではないかね?・・・」
「そうですわね・・・シンジ、レイ、そろそろ花火を片付けなさい」

ユイ君が庭で花火をしている、色違いでお揃いの浴衣姿の子供達に呼びかける・・・

「「はーぃ」」

ユイ君自慢の二卵性双生児の子供達が、見事にユニゾンして返事をすると、
浴衣の袖を振り乱しながら、花火を漬けた水の入ったバケツを仲良く二人で下げてこちらへと駆けて来る。
なんとも可愛い子供達だ、彼らがユイ君似で、今は亡き六文儀の奴に似なくて本当に良かった・・・

「後は僕がしておくよ、先にお上がり」
「うん、お兄ちゃん・・・」

少年は、少女を残してバケツを一人で抱えて後始末に去って行く、
ああ、彼も父親が居ないせいか、立派な妹思いの子に育ったようだ・・・

「・・・おじいちゃん・・・」
「うむ・・・なにかね?」

ユイ君そっくりの、黒髪に赤に近いライトブラウンの瞳の少女が、
私を陶磁器のように白い整った顔で見上げて、その小さな口を開いた・・・

「おじいちゃんは・・・いま、幸せ?・・・」
「うん・・・ああ、もちろん幸せだとも・・・」

私の前で、とても抽象的な質問を発した少女は、穏やかな微笑を浮かべた・・・




To Be Continued...



-後書-



この話は”戦国時代+エヴァ小説リンク集”の投稿掲示板に、2回に渡って連載された物を、編集、加筆修正して掲載した物です。


ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


Novel Top Page

Back  Next