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穏やかな微笑と共に
第6話 case.Keel by saiki 20030703
暗闇にモノリスが浮かび上がり、声だけの密談が開かれる・・・
『すでに、裏死海
文書
に書かれた期日を半年も過ぎている、
それなのに、使徒があらわれぬとは・・・一体どういう事だ』
『補完どころか・・・今まで注ぎ込んできた、資金そのものが無効になりかねん・・・』
『それより、我らゼーレを付け狙うやから・・・こちらの方が問題だよ・・・
既にこの委員会の議席、半分以上の物が空席になってしまった・・・』
有象無象どもが・・・
私は精神的な頭痛を感じ、バイザーを押さえると、叱咤の声を発する・・・
『静まれ・・・まだ、碇とコンタクトは取れぬか?』
『キール議長!・・・コンタクトどころか、我らが心血を注いでいた、
ネルフそのものが、瓦解しかけております・・・』
この者どもに私が求めたレベルは、けして高い物では無いが・・・
結果と原因を履き違え兼ねないその振舞いに、私は心の内で役立たずの烙印を押した・・・
『再三に渡る本部への視察団は、軒並み行方不明に・・・』
『最後の手段として、ドイツ支部からセカンドチルドレン護衛と言う名目で、
あの男を向かわせましたが・・・それさえどうなることか・・・』
そう、使徒が現れぬ今となっては、エヴァはただの金食い虫に過ぎない・・・
ただただプライドを、人工的に異常助長されたチルドレンなど、すでに鬱陶しいだけだ・・・
『致し方ないな・・・この会議も、何者かに傍受されている恐れがある、
彼からの連絡があり、事態が明らかになるまで、しばらく補完計画を凍結・・・
各人、身の回りの保身を徹底せよ・・・これ以上議席が空くと、ゼーレ自体の運営にかかわる』
『『『『・・・・・・・』』』』
私の目の前で役立たずどもが、
マギのネット上の仮想空間から、ログアウトして消えていく・・・
そして、
空気の抜ける
音と共にアクセスデバイスのフードが開き、
私のバイザーの前に、見慣れたクラシックな装いの執務室が現れた・・・
そして、誰も居ない筈の部屋の中で、僅かな空気の乱れが視界の隅に表示される・・・
ぬう、これは・・・そうか、そういうことか・・・
「隠れていないで出て来たまえ・・・私のバイザーはごまかせん・・・
ゼーレのメンバーを次々と屠っているのは、お前の仕業だろう?・・・」
「流石にキール・ローレンス議長・・・
他の方々のようなわけには、行かないようですわね・・・」
部屋の隅の垂れ幕の裏から、まだ年端の行かない少女が私の前に姿を表した・・・
どうやら、ドアが開かれた様子が無い以上、
20センチ以上もある鋼の壁をどうにかして、この少女は部屋に入って来たと見える・・・
「只者では無い様だな・・・何者だ?碇の手の物か?」
「クスクス・・・ああ、あの人なら、もう何処にもいませんわ・・・既に還元済みですから・・・」
少女が、蒼銀の髪に縁取られた顔に穏やかな微笑を浮かべ、意味不明な事を口にする・・・
容貌が
綾波レイ
に良く似ているが、あの少女と同一人物とはとても思えなかった・・・
それに、この還元とはどういう意味なのだ・・・私は生まれて始めて覚た、例え様も無い恐怖に、
自らの体に埋め込んだ通信機で、警備へと連絡を取ろうとするが・・・どの部署からも答えがなかった・・・
声に現れそうになる、怯えを押さえながら、私は侵入者を軋るような声で詰問する・・・
「貴様・・・何をした・・・」
「あら・・・たいした事じゃありませんわ、
ここに残ってるのは、あと、おじさまだけと言う事・・・お分かりいただけます?」
少女が黒色のワンピースの埃を払うしぐさをしながら、小さく笑う・・・
まさか、数千いる警備の者を全て葬ったというのか・・・
少女の赤い眼と睨み会う私は、額に冷や汗が吹き出るのを感じた・・・
「ここには、いい思い出がないですから・・・早めに切り上げたいですわ・・・
だから、大人しくしていただけませんか・・・キール議長?」
「ふふ・・・そんな義務は私には、ないな・・・」
少女は、私のふてぶてしい答えに、何かを感じ、
素早く、その小柄な体を燕のように翻した・・・だが、その神速の動作も全て無駄だ・・・
私の執務机の回り、数10センチ以外の場所を除いた全ての床かから、赤黒い槍が一面に生え、
毛足の長い高価な赤い絨毯をずたずたに切り裂く・・・
日本のニンジャ・ムービー・モドキの、このイカレタ仕掛けが私の最後の切り札だ・・・
「詰めが甘かったな、
お嬢さん
・・・その槍の材質は、ロンギヌスの槍の
プロトコピーを使ってる、碇がらみの、たとえ使徒でも無事には済まんぞ・・・」
槍に体中を刺し貫かれた、蒼銀の髪の少女の笑みが苦痛にゆがんだ・・・
「
我ら
は、逆らう者には容赦はせん・・・もちろん、私もだ・・・」
私は目の前の光景に勝利を確信し、興奮を押さえながらも、満足そうに顔を綻ばせる・・・
さっきまで私を畏怖させていた少女は、槍にモズのはやにえの様に突き刺され、
もはや身動きすらしない、その口から赤い鮮血が床へと滴った・・・
「後は、こいつがどこから送り込まれたかを解明すれば、事は終わる・・・
おそらく、いや一番確率が高いのはやはり、碇ゲンドウ・・・奴だな・・・」
私は、ニヤリと凄みのある笑いを浮かべる・・・
「だ、から・・・あの・人なら、もう何処にもいないって、言ったはずですが・・・」
「き、貴様・・・まだ・・・」
私は、机の上のクラシックな受話器を取り上げようとして、その手を止めた・・・
少女は、驚異的な力で、自らの体を槍の穂先から引き抜いていく・・・
私の顔から、さほど多くも無い血が、音を立てて引いた・・・
「まったく、何を考えてこんな
馬鹿馬鹿しい仕掛け
を・・・
こんな物、ただ痛いだけなのに・・・陰険な陰謀家はこれだから・・・」
「ば・・・ばかな・・・ぷ・・・プロトコピーとは言え、ロンギヌスの槍だぞ・・・」
全身穴だらけの少女は、何を支えにしているのか、私の目の前でじりじりと宙へと浮かぶ・・・
そして、そのままゆっくりと空中を移動すると、目と鼻の先の執務机の上に降り立った・・・
私は、思わずその身を引き、皮肉な事に自らの仕掛けた槍ぶすまに、その行く手をさえぎられる・・・
「な・・何故だ!・・・この槍ならば、使徒さえ倒せるはずだ!・・・」
「たんなる、研究不足ですね・・・使徒のウイークポイントたるコアの無い私に、
たとえロンギヌスの槍でも、致命傷を与えるのは不可能に近いですわ・・・
まあ、検証さえ出来無い、サードインパクトを起こそうなどと考える、お馬鹿さんらしくは有りますが・・・」
私は体を震わせながら、現実を認められずに無駄に大声を張り上げる・・・
少女は、そんな私を、見世物でも見るような侮蔑の眼で見ると、一瞬の内にその身を元の姿へ戻す・・・
全身の槍が抉った後の穴から、瞬時に肉が盛り上がり、
沸き立つように欠損部分を塞ぐと、次の瞬間眩いほどの傷一つ無い白い体が其処に有った・・・
「お・・・お前に、補完計画の何が分かる・・・」
「分かりますわよ・・・なにせ、起こった後を見てきましたから・・・」
私は、少女の想像を絶する言葉に、軋むような唸り声を上げた・・・
蒼銀の髪の少女も、穴だらけの自分の服をその指でつまんで、嘆き声を上げる・・・
「もう・・・せっかくの喪服が穴だらけ・・・
これ、お気に入りだったのに、嫌になってしまいますわね・・・」
「ばかな・・・そんな馬鹿な・・・サードインパクトを見て来ただと・・・」
自分のお気に入りの服に開いた穴を、背中の物まで残念そうに数え終わった少女は、
私の方へ、赤い眼を向け、その瞳を細めると、その白い顔に危険な笑みを浮かべた・・・
「キール議長・・・これだけ、やりたい放題をしたんですから・・・
さぞかし、お気が済まれましたでしょうね・・・そろそろ退場してもらいましょうか・・・」
少女は、その顔に、穏やかな微笑を浮かべると、
執務机の上から、重さを感じさせぬ仕草で、ゆるりと床へと飛び降りる・・・
その仕草が・・・その黒い服の開いた穴からこぼれる肢体が、私の乱れた心を非現実へと縛り上げた・・・
「私は、この後まだ、料理教室に行かねばならない身ですから・・・」
既に、死を覚悟した、私の心は既に半ば壊れていた・・・
脳内麻薬のせいか・・・自分が見、聞く物全てが新鮮で異常な感動をもたらす・・・
少女の、猫科の動物のような無駄の無い、軽やかな動きに・・・
少女が、その顔に浮かべる微笑の美しさに・・・
床に降り立った少女の、黒色のワンピースの胸元の穴から覗く乳首がプルリと震える様に・・・
私はそれら全てに異様に感動を覚えた・・・
自分に、死をもたらすであろう者の、なんと美しいことか・・・
「さようなら・・・キール議長・・・」
少女の、その優雅に伸びる腕が私の頭へと伸び、白く細い指先が私の髪を優しく撫ぜる・・・
私へ、映像を送るバイザーの映像が明滅を初め、視界が緩やかに赤一色へと染まっていく・・・
自分の体から力が抜け、流れさって行く・・・私の、存在自体が消えていくようだった・・・
そして、狂った心が、私へ異常な歓喜を呼び覚ます・・・
私へ死を下す天使に祝福を、貴方はたとえ様も無く美しい・・・
たとえ、この身が塵となり滅びても・・・貴方の美しさを私は、永劫に渡って称え続け・・・
・
・
・
地平線の彼方から、
赤い波
が私の足元へと打ち寄せる・・・
空は濃い青紫に染まり、遥か彼方まで赤い海と、白い砂しか存在しない世界・・・
私は、ここへ何時からいるのか・・・そして、私は誰なのだろうか・・・
悩み続けていても、一向に結論が出ない事を悟った私は、ゆっくりと重い腰を上げる・・・
足元では、水を食んだ砂が、僅かに窪みをつくり、
そこへ、じわじわと病的に赤黒い水が染み出してきた・・・
それに目をしかめながら、私は、見覚えの無い、
身に纏った濃い緑の軍服のような上着から、白く粒の揃った砂を払い落とす・・・
「・・・誰か・・・いるはずだ・・・」
私は、自分を鼓舞するように、喉の奥から錆びた声を絞り出す・・・
「・・・必ず・・・何処かへ・・・いるはずだ・・・」
だが、見わたす限り白い砂が続く地平に、
方位さえ分からぬ私は、ともかく海沿いに、右手の方向へと歩み始めた・・・
To Be Continued...
-後書-
裏死海文書 = どうやらインパクトの事とか、使徒の事が書いてあるらしい謎の文書、
こんな出所の怪しい物を当てに、前もって検証できない人類補完計画などと言う
計画を実行するゼーレは、作者の個人的感想としてはトンでも集団以外の何物でも無い(苦笑
ロンギヌスの槍 = ATフィールドを無効に出来る赤黒い二股の怪しげな槍、オリジナルは
第15使徒・アラエルを一瞬で屠り月に突き刺さる、コピーはVSエヴァ量産機戦で、
アスカ搭乗の弐号機のATフィ−ルドをあっさりと突破、エネルギー切れの同機に致命傷を追わせる。
モズのはやにえ = モズ(鳥)には昆虫などの餌を、木の枝の先端に突き刺しておく習性がある。
コア = 使徒とエヴァにある赤い球状の器官、どうやらS2機関と言うエネルギーの発生器官らしい、
この器官は運が悪いと爆発する、また、エヴァの物は休眠、もしくは退化していて動いていない。
料理教室に行かねば = これはその通りの意味で、シンジ君ゲットのため料理を習うカヲルさんの姿が微笑ましく脳裏に浮かぶ(作者談
第1話で、少しカヲルの口から言わせてますが、この話では、レイの素体に入っているカヲルは
量子空間を通じて、リリス(本体)とタブリス(本体)のS2器官からから、エネルギーを引き出していると言う設定です(オリジナル)
ですから、カヲルさんにはコアは有りません、ついでに綾波レイシリーズにも、もちろんそんな物は搭載されていない事になってます。
キールの幸せって・・・と考えたら人類補完計画の成功と、
孫に囲まれて老衰でポックし・・・しか浮かばなかったので(汗
今回夢落ちに、こういう結末を振って見ました(苦笑
この話は”戦国時代+エヴァ小説リンク集”の投稿掲示板に、2回に渡って連載された物を、編集、加筆修正して掲載した物です。
ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。
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