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穏やかな微笑と共に

第7話 case.Rei 2  by saiki 20030630



今日も雨が降る・・・
一年中夏が続くこの日本も、梅雨と呼ばれた時期は比較的雨の日が多い・・・
そんな日は、私は学校さえ行かず、
一日中、安物のベッドの上から、雨の雫が滴るのを眺め続ける・・・

私は・・・どうすれば良いのだろう・・・
碇司令から聞いていた、使徒と言う物が現れない・・・
あの人との、絆だと思っていたエヴァも、
私はもう半年以上、その姿を見ていなかった・・・

その言葉少ない姿を、逞しく思っていた碇司令・・・
時々、優しい言葉を掛けてくれていた副司令・・・
私の、メンテナンスをいやいやしていた赤木博士・・・

みんな、居なくなってしまった・・・
それでも私は、時々定期健診を受けにジオフロントに行く・・・
最近のネルフ本部には、人が殆どいない・・・
それに、私の姿を見ると、驚いたり逃げ出したりする人さえいる・・・

なぜ?・・・私は、途方にくれていた・・・
私は、いつ無に帰れるのだろう・・・

    ・
    ・
    ・

私は、何時ものルートを通って発令所に向かう・・・
伊吹二尉に、きょうの指示を貰うためだ・・・

「・・・何を・・・しているの?・・・」
「ああ・・お嬢ちゃん、ここには自動警備システムを付けるんでな、
しばらく通れないんだ、悪いけど他を当たってくれ・・・」
「・・・そう・・・わかったわ・・・」

そう、通れないのでは仕方ない・・・
慣れ親しんだ物が変わって行く・・・
私は、知らぬ間に周りの状況が変わって行くのが、とても恐ろしかった・・・

その後、更に十数回も迂回路を経て、私は発令所へとたどり着く・・・
でも、オペレーター席には誰も居ない・・・なぜ?
居るはすの、ショートの幼い感じのする女性が居ない・・・

私は仕方なく、更に下部の 下級職員の居る(Dレベル) フロアに足を運ぶ・・・
ここも人がまばらだった・・・私は、最初に出会った人に口を開く・・・

「・・・伊吹二尉はどこ?・・・」
「い、伊吹二尉ですか?・・・」

薄茶色の髪をストレートに腰まで伸ばした女職員が、少し引き気味に答える・・・
その眼鏡の向こうの黒い眼は、落ち着きなく動き回っている・・・どうしたというのだろう?・・・

「あ、綾波さんですね・・・私達にも分からないんです、
このネルフっていろいろと保守義務とか有って、
私達D級の職員には、上の方の所在は判らない様になっているんです・・・」
「・・・そう、ごめんなさい・・・」

私は、そんなに困った顔をしていたのだろうか・・・
彼女はその場を取り繕うように、耳寄りな情報を教えてくれた・・・

「ああ、でも、最近、碇司令から短いメールでご指示を戴きました、
ひょっとしたら碇司令は、お部屋に居らっしゃるんじゃないでしょうか?」
「・・・ありがとう、確認して見る・・・」

私は、少し嬉しくなって、この女性に微かに頭を下げると、
珍しく感謝の言葉を後に、足早に総司令長官室へと向かう・・・

ひょっとして、エヴァはもう必要なくなり、
あの人は私に、無に帰る許可をくれるかもしれない・・・
無・・・それは、おそらく私が生まれてきたところ・・・
きっと其処は、私にとって居心地の良い所に違いない・・・

    ・
    ・
    ・

警備システムの工事で迂回する事、数十回、
私は分厚い扉の前に立つ、前は横のブースにいた秘書がいない・・・
一瞬の躊躇の後、私は自分の指で、インターホンの通話ボタンを押す・・・
微かなノイズで、インターホンが繋がったのは確認できた、
だが、中からは誰も話しかけて来ない・・・仕方なく私は、口を開いた・・・

「・・・碇司令・・・私です・・・」

私の耳に小さな音が聞こえ、分厚い扉が開き、私を差招く・・・
中に入った私の背後で、扉が音も無く自動的に締まった・・・

「・・・碇司令?・・・」

私は赤い眼を執務机に向ける、副司令は居ないようだった・・・
そして、後ろを向いていた椅子が、ゆっくりと廻りその主を私の目に晒す・・・

「・・・あなた・・・だれ?・・・」
「いまだ覚醒していない、二人目の綾波レイさんね・・・」

私の目を、自分と同じ蒼銀の髪に赤い瞳が見つめ返す・・・
黒のブラウスとスカートを身にまとった、自分と同じ姿の、この人は誰なの?
少女は、穏やかな微笑を浮かべ、自ら名乗る・・・

「私は渚カヲル、 最後の貴方(リリス) と敵対していた者・・・
でも、今の貴方とは初見だし、まだ敵対もしていないはずよね?・・・」
「・・・良く意味が分からない・・・」

渚カヲルと名乗った少女は、碇司令のように机の上で両の指を組み合わせ口元を隠す・・・

「貴方はどうしたいの?・・・
いくら待っても使徒は来ないわよ、私が全て処理したから・・・」
「・・・そう・・・そうなの・・・」

少女は、蒼銀の髪をその細く白い指で掻き上げて、背もたれに深く寄り掛る・・・
椅子のスプリングの軋る僅かな音が、静寂が支配するこの部屋に、大きく響いたように感じられた・・・

「確か、貴方の願いは無に帰る事だったわね・・・
よかったら、私がそうして上げても良いのよ?・・・」
「・・・私を無に帰す?・・・」

背もたれに寄り掛ったまま、彼女の眼が細く絞られる・・・
なに・・・貴方、面白がっているの?・・・

「貴方のスペアはもう無いの・・・
だから、ここで貴方を殺せば、それだけで無に帰れるわよ・・・」
「・・・そう、だったら・・・お願いするわ・・・無に帰して・・・」

無に帰れる・・・私は歓喜に震える・・・
もう、何も気に病む事は無い・・・無に帰れば悩む事なんて無いもの・・・
渚カヲルと名乗る少女が椅子から立ち上がり、ゆっくり私の方へ近づく・・・
私も待ちきれずに、顔に微かに歓喜の表情を浮かべて、彼女の方へ足を進めた・・・

() いのね・・・」
「・・・ () いわ・・・」

私の前に立った彼女が、確認の言葉を口にする・・・
私はそれに答えて、僅かに唇を微笑ませた・・・

彼女の白い指が、私の首に掛かる・・・そして、じわじわと首を締め上げた・・・
肺への空気が、そして脳への血液が縊られ止る・・・苦しい、でもこれは無への通過儀式・・・
これさえ凌げば・・・私は無へ帰れるはず・・・そして意識がもうろうとして・・・

「・・・なぜ・・・私は無に帰りたかったはずなのに・・・」
「やっぱりね・・・何度でも自殺すれば、そのうちスペアが無くなって無に帰れるのに・・・
ただ無為に時間を過ごしているから・・・もしやと思っていたけど・・・」

何時の間にか私は、首を締めていた 少女(カヲル) を突き飛ばしていた・・・
私は、無に帰りたかったのでは無いの?・・・
自分が信じられなくなって、私は思わず両の手を見つめて呟く・・・

「でも、このままにはして置け無いわ・・・
貴方を、ここから帰すわけには行かないのよ・・・」
「・・・何をするつもり・・・」

少女の纏った気配に、私は少し怯んで後ずさりする・・・
彼女は、微笑を顔に貼り付けたまま・・・私を壁際まで追詰めた・・・
彼女の手が私の頬に触れ、優しくその輪郭をなぞる・・・
私は始めて、文字どうり背筋が凍る思いを味わった・・・

「今度は苦しくしないからね・・・安心して良いわ・・・
さようなら・・・二人目の綾波レイさん・・・」

その瞬間、私は世界が自分の瞳の色と同じに染まるのを見た・・・
そして水袋がはじけるような音が、生命の木の下、薄暗く無駄に広い部屋の中に響き渡った・・・

    ・
    ・
    ・

今日も雨が降る・・・そういえば、この雨が止んだ事は有ったのだろうか・・・
私は首を傾げる・・・思い出せない・・・
滴る雨の雫を、私は安物のベッドの上から無気力に眺め続ける・・・
目の前で滴る雫が、無限に供給され滴り、そして、無に帰って行く様でとても興味深い・・・

私には、何か役目が有ったような気もする・・・
そして、何かを求めていたような気も・・・
そんな、ぼんやりとしたあやふやな思いが、たまに浮かび上がる・・・

ふと時計を見て、食事の時間が来た事を知った・・・
一日に何度か繰り返される、体へのエネルギーの補給・・・
冷蔵庫から取出した、ミネラルウオーターで流し込む幾ばくかの錠剤・・・
そして、カロリーを補うスティック状のサプリメント・・・

味気無い作業の後、最後にミネラルウオーターを一口飲んで元に戻す・・・
この儀式にも似た食事も、私は幾度繰り返したのだろう・・・
そして・・・ふと思った、ミネラルウオーター、サプリメント、錠剤・・・
何時までも尽き無いそれは・・・誰が、何時補給しているのか?・・・

考え続けるが、答えは出ない・・・
今日は少し蒸し暑いようだ、私は安物のベッドから立ち上がると、
服を脱ぎ散らかしながら、浴室へと向かう・・・

浴室の入り口で、足を止めた私は、
壁に取り付けられた等身大の鏡に、生まれたままの姿の私が写りこんいるのを眺める・・・
ニキビ一つ無い白い陶器のような肌、形の良い乳房、括れた腰、ふくやかな腰のライン・・・
年頃の女性なら、羨望の眼で見つめるだろうそれも、私には意味が無い・・・
そして、他人の眼を引く、奇異な蒼銀の髪と、赤い瞳も見慣れた物だ・・・

だが、鏡に写り込んだ私は、何かが微妙に違っているような気がして・・・
私は、じっとそれを覗き込む・・・それが、何かを私に語り掛けた様な気がしたのは、何故だろう・・・
私は、何故かそれが、自分に幸せか問い掛けたような気がした・・・

「・・・分からない・・・」

私の口から・・・その質問への答えが漏れる・・・
少しの間、浴室に響いたその声も、やがてかすれて無へと戻っていった・・・




To Be Continued...



-後書-


私が全て処理した = 某チャットで質問されたけど、思うに使徒もLCLに還元処理したのでは無いかと思います(作者談
生命の木 = セフイロトの木と呼ばれる生命の根源を表した図形、何故かネルフ総司令執務室の無駄に広い天井一杯に描かれている。

TVで無に帰る、無に帰るとしきりに口にしていたような気がしたので、
シンジに合わなかったら、やっぱり望みは、無に帰る事かなとも思ったのですが・・・
その割にはレイって、自分で積極的に無に帰らないので。(笑
真に望むのは現状維持かと、自分なりに最終結論を・・・(オィオィ、苦笑

なんか、禅問答のようになってしまいました・・・(禅にはまだ深みが足らないか、汗
流石に連日4日目にもなると、少し電波が途切れて来たようです(苦笑

ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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