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マスター:するとその「やさしいおじさん」が・・・
S氏  :結論から言うと、その男が犯人だった。そしてその男は事件に至る数日前までの記録を詳細に残していた。大学ノートに記された日記という形でね。逮捕後の供述と照らし合わせて、かなりはっきりと事件の全容を捕らえることができる。
 男は無職の四十男で、資産家の両親を早くに亡くして以来、遺産で食いつないできた人物だ。家宅捜索で、大量の少年の写真やビデオ、雑誌などのコレクションが発見されている。彼は成人してからの人生のエネルギーの大半を、そうした少年趣味のために費やしていたんだ。ある意味、うらやましくもあるが、食わんがために働かなくていい人間は、破滅に向かっていきやすいのかも知れないとも思う。
 それらの写真やビデオの中には、彼が自分で撮影したものも相当数含まれていて、被害者の少年のものもあった。これらの写真も、彼の犯罪の履歴を克明に物語るものといえる。被害者の少年の写真を時系列に追っていくと、当初は単なるスナップに過ぎなかったものがだんだんとヌードになり、きわどいポーズが増えてくる。Tシャツに半ズボンの笑顔の少年が、ブリーフ一枚の裸になり、全裸になり、股を開いてまだ発達しきっていない性器や肛門を大胆にさらす写真となる。自慰行為を連続撮影したもの、男と少年が抱き合っているもの、挿入している場面をセルフ撮影したものや、固定したビデオで撮ったものもある。ただし、このあたりまでは少年の表情は快感や喜びを表現するものではあっても、苦痛や暗さを感じさせるものはない。ところが、時が事件の一ヶ月前くらいに至ると、だんだんと男の「愛情表現」がエスカレートしていく過程が読みとれる。アクロバティックな立ちポーズでの肛門性交。太いディルドによる肛門拡張。手錠や、首輪による拘束、縄を用いた縛りや吊り。男の欲望がエスカレートし、少年の死によってしかとどまることのなかった嗜虐的行為の過程をうかがい知ることができる。少年の表情は暗くなり、苦痛を表すもの、悲しみを表すもの、助けを求めるような哀切なものもあった。
 これらの写真を見ると、私の心の中に、この少年に対する何とも言えない愛情が沸き上がってくるんだ。同情じゃない、紛れもない愛情だ。これほど哀しみの表情が似合う少年にかつて会ったことがあるか。変わり果てた死体としか対面していない、写真と、ビデオと、「やさしいおじさん」のノートの中の物語でしか知らない少年に、恋いこがれるんだ。
 この哀れな少年は、いったいなぜ、どんなふうにして、男の手に落ちていったのだろうか。

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