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 「ようミッキー!」
 「イった!」
 いきなりかすれたボーイソプラノを聞かされ、その直後三木は尻を二本の人差し指で攻撃された。カンチョーというやつだ。
 「こら、俺はオカマやないど!」
 振り返ると小柄で丸顔の少年がすがりついて頬ずりしてくる。髪はおかっぱの切りすぎみたいな感じだ。
 チビ玉と呼ばれている少年だが、推定十二歳なのに九歳くらいの身長しかない。愛嬌があるので特に外国人には人気がある少年だった。
 「五百円五百円!」
 「やらへんわ。どうせ俺と寝らんやろお前」
 にべもなく三木はチビ玉を押しのける。チビ玉はすぐに彼の横の西洋人に気づいた。
 「この人ミッキーの友達?」
 「そや、新しいお客さんやで」
 「ハロー! ナイストゥーミーチュー!」
 その極度にカタカナなチビ玉の英語は、最後まで聞いて一瞬の間がなければスペンサーには理解できなかった。そして答える間もなくズボンにすがりつかれて、理性や思考力がおぼつかない。
 三木は子どもにわからないように、小声の英語でスペンサーに耳打ちする。
 「気に入った子には、二百円くらい、小遣いやってもいいですが、キリがないですよ。あと子どもの勝手な値上げには絶対乗らないで下さい。相場がめちゃくちゃになって他の客に恨まれて、あなたも子どもにナメられる。いいことないです。小銭ありますか?」
 円の小銭はまだなかった。
 「よし、このおっちゃんからや。もう行け。見てみ、まだ鞄も置いてないから」
 三木は二百円硬貨をチビ玉少年に握らせる。不満そうな顔を見せたが、三木がいくら愛嬌を振りまこうが値上げ交渉に応じないことは理解していた。少年は忍者のように暗闇に消えた。
 「……あんな小さな子も……?」
 「ん? ああ。売っています。でもやばいことはやばいですよ。法律の面から言えば、十五歳以上でも一応アウトです。罰金ですけどね。十八歳以上なら、この国、買春自体違法のはずなんですけど、何も言われません。一方十五歳未満は、行為の内容次第では実刑打たれます。がまあ、三百万、円で揃えれば何とかなります。しかし旅行期間中には国には帰れないし、新聞に名前が出るかも知れない。心して下さい」
 無論この話は、計画前にスペンサーには十分話して聞かせた。しかし今こそ、現実味を持つだろう。

 何人かの少年達の「チップ攻撃」をかわしながら、三木とスペンサーは、目的のホテルまで歩き着いた。すっかり夜になり、さすがに冬の夜風は冷たい。三木は首をすぼめ、スペンサーはクールダウンしたからだに、情欲がみなぎるのを自覚しつつあった。  

※ 日本の通用硬貨は一円、二円、五円、十円、二十円、五十円、百円、二百円、五百円で、紙幣は千円、二千円、五千円、一万円である。少年へのチップは百円か二百円が普通であるらしい。

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