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「あんたとチビちゃんと絡むの見たいとか言ってるわよ。ヘンタイねえ。だから時間欲しいって」
「……いややて……」
ジョージは赤面した。照れくさいのは本当だが実はそれほど嫌ではない。体力に勝り意思の通じにくい、時にはかなり狂った人間もいる客とSEXするよりは、よほど誤魔化しがきいて楽だ。
「あんたも慣れてるからわかると思うけど、うまく機嫌とればまだかなりチップ絞れるわよ。腕の見せ所よ」
「……わかった」
ジョージはうなずく。
時間は十時からと決まった。朝は適当だ。一万円だからきっちり時間では切れない。朝飯時だろう。巨漢のロシア人が眠っているチビ玉に軽くキスし、ジョージをハグし、笑み崩れた源ちゃんママの手を握ってチップを渡し、バイクタクシーで夕食を摂りに消えた。
†
「チビ、起きい」
「……うーん」
ベッドで悶える小さなからだ。
ジョージは冬場でもツナギで身をかためタイヤにスパイクを履きバイクを疾走させる。一人の時間。爆音と冷たい風、それが彼の小さな「あたたかく」幸せな時間だった。少年の街で暮らす子らは、心に溜まる澱を清める儀式を、それぞれに身につけていく。ゲーム、シンナー、ケンカ、いじめ、アクセサリーの買いあさり……。本質的な解決などなく、出口はどこにもないのだから、ひとときの儀式を、どの子も必要としていたのだ。
あの日、一息入れに寄ったコンビニのATMの前で、野良犬のように寝転んでいたチビ玉。
見過ごせなかった。頭や素足にまで雪が積もって、もう死んでいると一瞬思った。そばにしゃがみ込むと、弱々しく目が開いた。
「お父ちゃん……」
か細い、本当に蚊の鳴くような声は、そう聞こえた。
「お父ちゃん、どこや? おい! 大丈夫か!」
ジョージはチビ玉のからだの雪を払う。コンビニの中に引きずり込んだ。
「なんやねおい、変なの引っ張り込むなよ」
顔見知りの年配の店員だ。ビデオゲームのマリオブラザーズのキャラクターのような口ひげをした中年男。
「見てわからんのか死にかけてんにゃ! 金払うからタオルよこせ。ちょっとの間暖房あたらせろ!」
凄みと切羽詰まった調子のこもったジョージの言葉に、眠たげな店員も肩をすくめ、バスタオルを棚から引っぱって包装を破り取った。
ジョージはチビ玉のボロ切れのような着衣を剥ぎ裸にした。タオルでからだを拭く。幼いのでからだのラインは柔らかいが痩せている。特に手足が痛ましいほど細い。膝小僧はすり切れていた。タオルでからだを拭く。コンビニの通路で。客は誰もいない。
店員は子ども向けのシャツとパンツを棚から引っぱってジョージの横に無造作に置いた。
「おごりや」
「……ありがとう」
「上っ張りあるか?」
「俺の服の中に入れる」
「……このからだやったらつっこめるか」
店員は口ひげを撫でながら柔らかく笑った。
「病院か? 金なんかどうせないやろ?」
「金さん叩き起こす」
「あのヤクザ医者か。つかまる(見つかる)とええな」
「うん。ありがとう。シャツ代も今度払うから」
「ええて、それより急げ。お前の腹でも背中でも温めてやるのが一番ちゃうかその様子では」
「うん」
新しいシャツとパンツのチビ玉を抱いてジョージは小雪の舞う店外に出、ちょっと考えて、チビ玉を赤ん坊のように腹に向かい合わせに抱きつかせるようにし、はだけた上着をかぶせチャックを七分ほど閉めた。
(よし、金さん頼むからいてくれよ……)
ジョージは単車を疾走させる。時速一三〇キロ。スパイクではこれでも限界を超えていた。
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