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金魚すくいに目を輝かせる祐樹を横目に見ながら、俺は、決行の意志を少しずつ固めていた。浴衣の襟元からのぞく汗ばんだ胸・・・たまらないエロスだった。
たこ焼きの舟を片手に、人ごみを押しのけながら、俺は祐樹に話しかけた。
「祐樹、疲れてない?」
「まだまだ。兄ちゃん、もう帰りたいの?」
高揚した口調で、祐樹は答える。
「いや、そうじゃなくてさ。ちょっと休憩しないかい」
「いいけど」
「いいとこ知ってるんだよ。人来ない静かなところ」
俺は祐樹の手を引き、人並みの群に逆らって進むと、出店の列の背後にまわって、祭りのにぎわいを離れる。あたりは、急に薄暗がりになる。うら寂れて湿っぽい林を抜けると、黒々とした古ぼけた祠が、目の前にあった。
「これ、何の建物?」
手をつないだ俺を見上げる祐樹。
「これはな、昔のご本尊なんだ。もうずっと使われていない。取り壊すのが面倒で、ほっておかれたんだ」
「ふうん」
「ここの中、意外ときれいなんだよ。それに、誰も来ないし涼しい」
「お兄ちゃんの秘密の場所?」
「はは、そうだな。ちょっと中で休憩して行こうよ」
踏みつけると抜けそうな階段を上り、俺達は祠の暗がりに入った。
柔らかい木板の上に腰掛けて、隣に座った祐樹とピッタリとよりそった。
「思ったより明るいね」
「隙間だらけだからね。月明かりが差し込んでくる。でも、外からは俺達は決して見えない。不思議だね」
「うん」
頬ずりをするように、祐樹が顔を寄せてくる。
「祐樹、かわいいね」
「・・・この着物。お母ちゃんが買ってくれたんだ」
「浴衣姿もかわいいよ。けど俺、祐樹の裸も見てみたいな」
「・・・・・・」
「俺のこと、スケベだと思う? ヘンタイだって軽蔑するかい?」
「そんなことないよ! けど・・・」
否定の言葉は鋭かった。けれど、祐樹は自分の襟元を手で直して、胸を隠してしまった。
「祐樹!」
俺は、祐樹に覆い被さり、仰向けに押し倒した。
強く唇を吸うと、祐樹はそれには反応した。だが、胸をはだけようとした俺の腕には、しがみつくようにして抵抗した。ひとしきりもみ合って、相当に祐樹の浴衣は乱れたが、それでも祐樹は抵抗をやめなかった。
「止めて、止めてよお兄ちゃん」
祐樹は泣いている。俺は、息を荒げながら、祐樹を見下ろし、冷たいせりふを浴びせた。
「とうしてさ? 俺のこと嫌いなのか? だったらいいよ。もうこれっきりだ。祐樹とは」
うずくまっていた祐樹は、はっとしたように俺を見た。
「どこへでも行けよ。さよなら祐樹」
祐樹の顔に激しい動揺が浮かび、やがてその表情は悲しみに崩れた。
「そんな・・・本気なの? お兄ちゃん」
俺は祐樹から目をそらした。
「やだ、そんなのいやだ。お兄ちゃん・・・」
後ろから俺に抱きつく祐樹。
「本気じゃないんだろう? 俺のこと本気で好きなわけじゃないんだ。だったらいいじゃないか。他の友達と仲良くしなよ」
「そんなことないよ! 大好きだよお兄ちゃん。さよならなんて言わないでよ」
俺は黙って座っていた。
「どうしても・・・」
祐樹はうつむいた。
「いいよ、裸にしても。・・・でも、自分で脱ぐのは恥ずかしいから、お兄ちゃん」
「祐樹・・・」
俺は立ちつくす祐樹と向き合った。
「でも、嫌いにならないで、僕のこと・・・」
その時、俺にはその言葉の意味がわからなかった。
帯の布の、柔らかな手触り。俺は、祐樹を抱くようにして背中に手を回し、帯をひもといた。風に流れるように、床に静かに落ちる。胸がはだけられ、腰にはブリーフがのぞく。俺は祐樹の肩に手をかけると、両肩をなで下ろすように、浴衣を脱がせた。白いブリーフ一つの祐樹の小さな裸体を、板の隙間から差す月光が青白く染める。
俺は気がついた。彼の痩せた体に、無数の青黒い斑点があるのに。全身がまだらになるほどに、痣に覆われているのに。俺は、震える手で、彼の傷だらけの胸に触れた。
「お前・・・」
「驚いたでしょ。気持ち悪いと思った?」
伏し目がちに頭をたれて、祐樹は言う。
「そんなこと思うわけない。祐樹の体、きれいだよ」
それは本心だった。痛ましい傷が刻まれた祐樹の体。俺に甘える祐樹のどこか哀しげな潤んだ瞳。それが一つになって俺の心を揺さぶった。それは同情などという安っぽい感情ではなく、嗜虐的な俺の性に裏打ちされた、まごうかたなき愛情の奔流だった。
「お父さん、か・・・」
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