金と昌巳 1

 「こんなになるまでほっときやがって。死んじまうぞお前」
 白衣の大男は金修平といって、韓国籍のれっきとした医者だ。三十過ぎだが、大学病院を追い出されたとかで、四、五年前からこの街で小さな診療所をやっていた。土地柄に加え、無保険者を平気で診る男なので、いきおいまともな患者はよりつかない。
 「構わんといてほしかったわ。もうちょいで死ねたのに」
 破れ診察台の上で、悪態をついているのは昌巳と呼ばれている少年だった。自称11歳だが9歳くらいにしか見えない。本人も自分の誕生日を知らない。一人でこの街に流れてきた少年なので、街の人間も誰も彼の出生などは知らなかった。日頃は、愛嬌のある顔を裏切り、人好きのしないほど恐ろしく気の強い少年だったが、今はさすがに声に元気がなかった。
 「死ぬんならこれいらねえな。切ってやろうか?」
 「いたたたたっ! 何すんね。アホ! ボケ……」
 金はもがき苦しむ昌巳の両足をがっちり押さえて逃がさない。子どもらしくベソをかきだしそうな昌巳の横顔を、にやついた顔で見下ろしていた。

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