フォークダンスで口説いて 8/9
百合をモチーフとした可憐なシャンデリアの優しい明かりの下に、清田は、いた。エレベーターの前に敷かれた緑ベースで唐草意匠の絨毯は大谷の部屋と同じく毛足の長い、上等のシルク製だ。白い木枠にピンクとアイボリーのストライプの生地に花柄の入った優美な雰囲気の椅子に、彼は浅くかけている。頭を抱え込み、蹲るようにしたその上で、そっと声をかけた。 「そんなに頭、抱えてたら、目的の人がいても、見逃しちゃうんじゃないかな?」 秋野の囁きにガバッと清田が顔を跳ね上げる。立ち上がった拍子にストン、と猫足の椅子が倒れ、慌てた清田がそれを引き起こす。絨毯の吸音性は抜群で、椅子の倒れた衝撃すら大した音にはならなかった。 清田は自分の腕を掴むや、エレベーターの下りボタンをガチガチと幾度も押した。そんな乱暴な仕草をする清田は、珍しい。やがてやってきたエレベーターに自分を引き込むようにして乗せ、そのまま一階へと降りていく。 余りに険のある清田の表情に身体が竦んで、言葉をかける隙が無い。エレベーターから降り、深夜に近くなってもまだ人のさざめきの止まぬ優美な雰囲気のロビーを、清田はわき目も振らず、突っ切って行く。その場には余りに異質な清田と自分に、ロビーにいた人たちが、軽く目を見開いている。 腕を引かれていても、その大きな歩幅に合わせるのは一苦労だ。秋野は小走りになりながらも、必死で付いて行く。無言のままドスンと勢い良く、正面玄関にいた黒塗りの個人タクシーに乗り込んだ清田は、運転手に自宅の住所を告げている。 「清田……?」 ようやく声をかけても、ぎゅっと口を一文字に引き結んだまま、清田は返事すら返さない。痛いほどに秋野の右手を握り締め、そしてぐっと強く握った自分の右手を膝の上に乗せている。こんな場合だが、そのスーツ姿がビシリと決まっているのは流石だった。この程度のものでこうも目を惹くのだから、大谷の様なクチュリエのものを着たら、どうなってしまうのか、想像するのも恐ろしい。 場にそぐわぬ支離滅裂な事を思い、そっと清田の様子を横目で伺う。しかし相変わらずムッツリとした表情は清田の顔に張り付いたままで、秋野の不安を掻き立て始める。 好きだってメールにあったのに。あれは何だったんだろう? 側にいたい、ともあった。いたいけれど、いられない、と言うオチだろうか? ひょっとして、結婚はするが、付き合いは続けてくれ、だろうか? またもや最悪の想定が次々と秋野の頭を過ぎる。自分の視線に振り返りもせず、車窓の外に目をやったまま、清田は無表情に黙り込んでいる。その癖、気がかりそうにチラチラとバックミラー越しにこちらを伺う運転手の視線なぞ構わず、繋いだ手は離さない。 むしろ離してなるものかとばかりに力強く握り締めたままだ。 ふっ、と軽く息を整えて、秋野は空転する思考を止めた。とにかく話を聞くことだ。聞かない言葉をどんなに予測しても、埒が明かないのはさっきの不始末で解った筈だ。 清田を選んだ事は後悔しない。 自分が恐れ、怖がって楽な方向に逃げようとしたせいで、大谷すらも必要以上に傷つけてしまった。昨日の時点で彼の言葉に、応えられない、ごめんなさいと言えば綺麗に別れられた。一時は靡くかに見せて部屋を飛び出すなんて最低だ。自分の余りの情けなさに、ぐっと秋野は下唇を噛む。 ホテルからさほど遠くない清田の自宅にはほどなく着き、その瞬間だけ、秋野から手が外された。奥に座った清田が運転手にサッと二千円札を渡し「釣り、いいですから」と告げるや、再び秋野の腕を掴んで、グイグイと自宅の前まで引っ張って行く。 「清田、逃げないから……。お願い。痛い」 懇願するように小さく告げると、ハッとした顔で漸く、手を離してくれた。 すまん、とのみ清田は告げ、部屋の鍵を開け、中へ背を押し込むようにして、入れと言う仕草をされた。靴を脱ぐのも慌しく通いなれた部屋に入れば、荒々しい仕草でベッドに押し倒される。 「ちょっ、きよ、清田! 待って、清田」 必死に抗えば、窓の外から入る薄明かりの中で、清田が自分を射抜くような険しい眼差しで見つめていた。 「……あの男と寝たのか」 思いもかけぬ言葉に、ぎょっと目を見開く。 「そうなのか? 頼む、秋野。もう俺じゃ駄目か? 騙し討ちでホイホイ見合いしちまうようなバツイチで、情けない男は、駄目なのか?」 立て続けに出てくる清田らしからぬ言葉に秋野は驚くしか出来ない。 「何言ってんの。そっちこそ見合いの綺麗な人と、話が決まったんじゃないの?」 質問のつもりが、なじるようになった言葉に、清田はムッとした表情で口早に告げてくる。 「断ったに決まってるだろう! 一緒にいたのは昨日の詫びで食事をしてただけだ。向こうからそう言い出したんだからな。ちゃんと好きな人もいるって言って断った。何であの人とくっつくなんて思うんだよ? そんな馬鹿な事、言われるなんて、思いもしなかった」 怒ったように断言されてしまう。馬鹿なと言う言葉に、秋野もムッとした。清田から、女性の甘い移り香が漂うのが鼻に衝き、それが余計に怒りを増幅させる。 「どうせ馬鹿だよ。すみませんね。何だよ、あんな綺麗な人に腕なんか組ませて鼻の下伸ばしちゃってさ。おれには気付きもしないで、てっきりあっちとくっついたって見せ付けてんのかと思ったよ。しかもそんな甘い匂いプンプンさせて! もう、離して、離せよ!」 子供じみた言葉がポンポン飛び出してくる。未だかつてこんな台詞、誰にも言った事が無いのに。なのに口は止まらない。 「んだと? そっちこそ、如何にも風呂に入りましたって匂いさせてりゃ、疑いもするだろうが! どうせ俺みたいなショボいバツイチより、ああいう大人っぽい金持ちがいいんだろう?」 清田も自分と同じレベルの言葉を返してくる。反駁しようとして、ふと、無性に可笑しくなってくる。あの落ち着いた、大人びた清田が自分と同等のガキ臭い事を言い返している。散々混乱して馬鹿な行動を起こした挙句、この低次元の言い合いと来たらどうだろう。 まるで子供の喧嘩じゃないか。本当に馬鹿みたいだ。大谷が見たらさぞかし呆れる事だろう。思わず噴き出してしまった秋野は、とうとう笑いが止まらなくなってしまった。 「あは、あはははは! 本当、バッカみたい……あはは、おかしい。こんな二人して勘違いして子供みたいな事ワーワー言って。ごめんね、清田。おれが素直にちゃんと聞いてたら良かったね。本当にごめんね……ごめんね」 笑いながら、最後にはぽろぽろと零れる涙を拭っていれば、秋野の変貌ぶりに驚いていた清田が、ふっ、と顔の表情を和らげた。 「いや。俺こそ……。悪かった。心配させて。ごめんな。ごめん、混乱させたな」 そっと頬を掌で包み、額に軽いキスを送ってくる。瞳を閉じて唇に触れるキスを受け入れながら、清田の首に手を回しかけ、ふ、と思い出した事がある。これだけは尋ねたかった。 「ね、清田。あのさ、今着てるスーツ以外に昨日のスーツも買ってくれたでしょ? ひょっとして今のそれ、本当は必要なかった?」 たどたどしい口調で聞いてみれば、清田が驚いたような顔をする。 「んな訳ないだろ。何でそんなこと……」 「だって、ボーナスの時期でもないのにあんな一気に沢山……。おれは嬉しいし助かるよ、でも、考えたら、普通のサラリーマンの人がそんな一気に、しかも即金ってさ。そんな事とか考え出したら、何か色々心配になってきて……余計なお世話かもだけど。ごめん」 秋野が必死に言うと清田は苦笑気味に、優しい手つきで髪を撫で付けてくれる。 「ああ、あれ。ボーナスと保険の満期がダブったんだよ。俺、12月には買ってないだろ? それに昨日のスーツだって、仕事で役がついたから客先に行くなら、少しはいいのが欲しかったってだけで。心配させて悪かったよ。そうやってお前が、色々気ぃ回してくれるのが解るから、余計に助けになれたらって思ってさ。けどそれ以前に、こんなに散々心配させてちゃ、モトも子もないよな。すまん」 彼の言葉にホッとしながらも、秋野は内心、複雑だ。実のところ、こうやってヤキモキしたのは、単にそう言う心配だけではない。つまらない、馬鹿な独占欲だって一因だ。 「そっか。なら納得だけど。役付きなんて凄いね、おめでとう、それに本当にいつも有難うね」 小さな声で礼と祝いを告げれば、もう一度優しく額を撫でながら、秋野の言葉に清田は苦笑を浮かべている。 「いや、そんな大した役じゃねえし。それより俺が金持ちなら、こんな心配もさせなくて済むのにな。ごめんな」 そんな事を言って詫びてくる。ふと思い出した事があり、秋野は口を開いた。 「確かにおれ、今までは、お金持ちの人との付き合いが多かったよ。でも協力とかは一度も頼んだ事、無かった。そもそもおれの勤めてる店の物とか、必要じゃない人らだし、そう言う事、言わないのが、おれのプライドだったしね。貰ったプレゼントとかも、引っ越す時に全部捨てちゃった。あの人らの側にいる為には必要な飾りだけど、おれの日常にはいらないし。清田だって見た事ないでしょ?」 淡々と問いかければ、清田は驚いたように目を見開き、秋野の言葉にコクン、と頷いた。 「おれさ。お金持ちが好きなんじゃないよ。ただ、そう言う人のほうが距離が上手く取れるし、仕事も理解してくれる人は多かった。でも今、おれは、清田が好きなんだよ。清田が、おれに、恋愛にお金とか計算なんて全然通用しないって。本当に豊かな事とか辛い事って何なのかって。一杯教えてくれたんだよ」 長々と話しても、秋野の訴えたい事が、伝わったかどうかは怪しい。けれど清田は少し困ったような、そして何故か少し潤んだ目で秋野を見詰め、そっと告げる。 「色々悩ませてごめんな。俺も、もう秋野じゃなきゃ嫌だ。秋野を誰かに取られるのも嫌だ。俺、こんな、気が変になったんじゃないかってぐらいに人を好きになったの初めてで、自分で自分が見えなくて。その上お前をこんなに悩ませて苦しませて、本当にごめん」 ぎゅっ、ときついほどに抱きしめられる。その強さと痛みが今は嬉しい。 「それ、おれの言う台詞だよ。清田。多分おれら、もっと話しなきゃ駄目なんだね。そりゃそうだよね。付き合いだしてまだ3ヶ月にも足りないんだもんね」 そっと秋野は呟いた。すると彼も優しい口調で返してくれる。 「そうだな。少しずつゆっくりでいいから。二人で色々積み重ねていけるといいな」 そう言う彼の瞳を見上げて、秋野はコクン、と頷く。そして馬鹿な事を言っているかも、と思いつつもポツポツと言葉を紡いでいく。 「あのね、清田、出来たらでいいから。もしこれからも、あのお店で買ってくれるんなら、なるべく、おれの前で買ってくれないかな?」 恐る恐る、頼んでみる。すると案の定、清田が不思議そうな顔をしている。 「ん? どういう意味?」 尋ねられた事に、秋野はぐっ、と息を飲んで、腹を括り、一気に喋った。 「あのお店では、清田に似合うのを、おれも一緒に考えたいんだ。それに、清田のカッコいい姿は、せめておれが一番に見たいんだよ。昨日、今日とその立場、あの人に取られたような気になってさ……。こんなヤキモチ、馬鹿らしくてうざいだろうけど、ごめんね」 その言葉を言った途端、今度は清田が、ぐっ、と息を飲んでいる。 ん? と、秋野は彼を見上げた。すると、清田は薄闇の中でも解るほどに頬を赤く染め、眉を顰めて困ったような顔をしている。 こんな可愛い表情を見るのは初めてデートをした喫茶店以来だ。 「ごめん、今のは、ちょっと……キタ。その、ロクに話もせずに盛ってばっかりだったのも、本当に反省はしてる。してんだけど……」 言い辛そうにするのが変だと思えば、秋野の太腿に、固いものがそっ、と触れた。ああ、あの時もそうだった、と思い出す。この正直さが今の秋野には、堪らない。 「あはは。うん……実はさ。おれも。結構その、へへっ」 もぞもぞと腰を揺すれば、若干盛り上がりつつある部分が清田にも解ったようだった。 互いに鼻をすりあわせるようにして、キスを交わす。 「今後、あの店じゃ、秋野の前以外では買わない。約束する。一番真っ先に秋野に見て貰うから。んで、さ。……本当に何もしてない?」 末尾の言葉で、清田が何を気にしているのかが解り、そっと告げる。 「さよならのキスだけはした。軽くだけど。おれが迷ったのが悪いんだ。もう絶対しない。不安に思ったらちゃんと話すから。ごめんね。匂いはこれ、頭冷やそうと思ってシャワー借りただけだし。誓ってそうだから」 秋野の言葉が終わるや、荒々しい勢いで清田が唇にむしゃぶりついてくる。まるで動物同士が食み合うような狂おしいキスに溺れていく。大谷との触れるだけの微かなキスの余韻は、瞬く間に掻き消されてしまった。 水音と、荒い吐息と喘ぎ、それにベッドの軽い軋みと衣擦れの音が混じる。部屋にはムワン、と濃密な雰囲気が立ち篭め始めた。 清田がそっと身を起こし、そのまま無言でジャケットを脱ぎ捨て、キュッと絹に悲鳴を上げさせてネクタイが引き抜かれる。 軽く首を捻って絹の束縛を引き抜くこの仕草は、男の色気の最たるものだ。プチプチとシャツのボタンを手早く外し、アンダーシャツも纏めて首を抜く。 躍動感溢れる彼の動きにうっとりと見惚れていれば、瞬く間に、綺麗に引き締まった、セクシーそのものの上半身が現れる。秋野もモソモソと自分のジャケットとニットベストを脱ぎ、ネクタイを外そうとすれば、慌てたように手を押さえられる。 「ちょ、タンマ、秋野。頼むから、待って。そっから後は俺にやらして。お前を脱がせるのは俺だけの特権にして、な?」 そんな甘いお強請りに、秋野の目が思わずジワン、と潤む。上半身は裸でスラックスのみと言う猛々しい程の清田の姿。腹の上に跨られ、これから自分をたっぷり可愛がってくれる相手の乞い願うような強請りに否やがあろう筈が無い。 「じゃ早く……脱がして……」 なるべく淡々と呟いたつもりが、酷く甘ったれて聞こえるのが恥ずかしい。 「うっわ……くそ、秋野っ……」 ギュッと眉間に皺を寄せた清田が秋野の上にそっ、と屈み込み、ネクタイに手をかける。優しくシュッと衣擦れの音がして、大きな手が器用にシャツのボタンを外していく。その間にも絶え間なく優しいキスを、あちこちに降らせてくれる。 アンダーシャツを着ない秋野の肌は早くも淫らな期待にしっとりと汗ばみ、淡いピンクの乳首は尖りきって、愛撫を待ち構えている。 「もうこんなにしてる……」 指先で乳頭のしこりを軽く弾かれて、ビクン、と身を震わせる。その様子を見てニヤッ、と清田が嬉しそうに笑っている。余りに自分が物欲しげで、事実そうなのだが、恥ずかしくて、まともに清田の顔が見返せない。 恋人の愛撫を待ちわびたその乳首に、チュッと可憐な音を立てて吸い付かれると、ビリッと背筋に軽い刺激が走る。 「っ、あんっ!」 高く上がった甘い喘ぎを堪え、人差し指を口にあてると、そっ、とそれを取り払われた。いつも清田は最中の、秋野の声を聞きたがる。 焦れるほどゆっくりと丁寧に施される愛撫に下着の中はもうぐっしょりだ。秋野の大好きな大きく少しザラついた掌が、もう一方の胸を撫で回し、指で、ツン、と飾りを弾かれると、またビクン、と身体が弾ける。 「っ、あんっ、あっ、い、いいっ」 指で少し強く捻られたり、押し潰されるのがビンビンと響いて堪らなく気持ちいい。甘い痺れに身を任せながら、自分も清田が欲しくて、そろそろと彼のスラックスに手を這わせる。 早くも完全に隆起したそれが上質な生地越しに熱くドクドクと脈打っているのが嬉しい。こんなにも自分を欲しがってくれている、その証拠。早く欲しい。そして沢山可愛がって欲しい。たまらぬ思いで思わず指で金具を探り、チーッと指先で静かに引き降ろす。 抜からず自分のベルトを早くもくつろげていた清田が、ビクン、と震えた。 「こ、こらっ……今、相当ヤバイんだって」 微かに切羽詰った状況を訴える声が、とても色っぽい。そんな清田の焦りが、無性に嬉しくてならない。 「ん……おれも相当ヤバい。だからね、清田」 そう言うとやおら身を起こし、下着からぶるり、と弾け出て天を衝く、逞しくも愛しいものに迷わず、むしゃぶりついた。 「おっ、おいっ、あき……の、っ、うっ!」 焦った様子の清田が身を引こうとしたのに慌てて縋りつく。 「お願い……先、口の中、して。欲しい」 清田の目を見詰めて、たどたどしい言葉で小さく呟けば、目の前でグン、と一層逞しく滾るのが頼もしい。余りに素敵なそれに思わず頬ずりをして、チュッチュッと先端にキスをしてから、茎の部分にねっとりと舌を動かしながら這わせていく。 先端からつーっと先走りの液が流れてくるのを、水音も構わず啜りこんだ。清田の出したものは一滴すらも逃したくない。全てにおいて普通サイズを凌駕した逞しいそれを、早く自分の中で思うさま、暴れさせて欲しい。 その為には一度自分の口の中で爆ぜさせた方が長く可愛がって貰える。なのにこうやって直接触ると、早く解放させてあげたいような、ちょっと苛めてみたいような複雑な気分になる。 はしたない考えと欲で頭を一杯にしていれば、ツルツルと自身のものから滴が滴るのが解る。着衣ごと、思わずベッドに腰を擦りつけるようにしながらも、清田への愛撫は止められない。 清田も観念したように、じっと秋野の動きに身を任せ、両手で髪をゆっくりと撫でてくれている。セックスは信頼関係も大事だ。こうやって安心して身を委ねてくれるのが、秋野にとっても凄く嬉しい。 時々うっすらと目を開けば、上目遣いの自分に蕩けるような視線をくれるのも嬉しい。緩んだスラックスを下着ごと、撫でるようにして、そっと引きおろす。そして膝立ちになった清田の太腿の内側を指を立てて、そろそろと撫でさする。するとビクン、と肩を揺らし、あっ、と甘い声が漏れた。清田の腰に縋るようにして身体を起こし、ペタン、とベッドに座り込み、その愛しい狭間に顔を埋める。 そっと下生えをかきわけ、唇で丸い袋を甘く挟みこみながら、時折、尖らせた舌で細かく突いて揺り動かす。清田がこの愛撫を好きなのは学習済みだ。花茎の部分を片方の指で挟み、上下に擦りながら、先端は時折、空いた手の指先で丸く描くのも忘れない。 先走りが立て続けに出始めたのが解り、秋野は彼の露出した性器の先端をすっぽりと口の中に納めた。大きく長いそれを含むと軽いえずきが上がるが、気にせずぐっ、と喉奥に入る限りを入れる。嵩高い部分を上あごに擦りつけ、歯を立てぬように注意をしながら顔を前後に動かし始める。上あごの摩擦の快感にウットリしながら、それを何で擦っているのかを思えば、羞恥を覚えると同時に、酷く昂ぶってくる。 頬を窄めて時折吸うようにしながら角度を上げ始めた屹立に合わせ、頭を上下に動かす。あいた手で余った茎の部分を擦り、緩急をつけて袋を揉みこめば、先走りの蜜が一層激しく口の中にツルツルと零れ落ちてくる。啜りこむようにして嚥下しながら、動きを激しくし、時折、気持ちいいかと確認する。 「……っ、いい……気持ちいい、秋野」 うっとりとした声音で漏らされるそれに調子づき、舌先でチロチロと先端を抉るように突っつけば、先の小さな穴がヒクヒクと開く。 花茎もビクビクと震えて大喜びしている。ぶるるっ、と腰骨近くの下腹部が震えたのを見れば限界が近いのかもしれない。こんなに早いのは珍しいな、と思いながら促すように動きを激しくすると、くっ、と頭上で息を呑む声が聞こえた。 「あき、秋野、くっ、やばっ、い、くっ!」 切羽詰った声を清田が上げた途端、口の中に勢い良く粘った液体が飛び込んでくる。やや離し気味に距離を取ったのは正解で、いつもより多目のそれが立て続けに口の中に飛んでくる。指先で花芯を激しく扱きながら最後の一滴まで余さずそれを受け止めてから、ようやく口を離す。 「すごい、いっぱい」 それが嬉しくて白濁を口に含んでニッコリと笑いかけると、清田が顔を真っ赤に染めている。 中にたっぷりと出されたその粘液は、苦いし匂いもあればエグ味もある。けれど秋野は最近この味が、かなりのお気に入りになってしまった。清田が自分を欲しがり、気持ちよくなってくれたと言う何よりの証なのだ。彼の体内から出されたその嬉しいものが不味いだなんて、思えない。気の持ちようで自分の味覚すら簡単に変わるのが、怖い程だ。 自分の唾液で少し粘りを薄め、唇の回りについたものもこそげ取るようにして、コクン、と飲み込む。 「お、おい。秋野、無理すんなって」 あわてた清田が躊躇っている。それにまた、フルフルと首を振った。自分のものでも匂いが気になるだろうと、軽く手を口の前にかざしながら、本音を漏らす。 「どして? 無理してないよ。だって清田のだもん。凄いおいしいよ。全部欲しいくらいだし。清田、こんなの、嫌い?」 そう言った途端だった。甘く綻びていた彼の目つきが急に表情を変える。自分の言葉が彼の牡の本能を刺激したのだろうか。ぎらぎらと滾るような輝きを帯びた目で自分を見られるのが、嬉しくて堪らない。 その視線だけで息が上がり、納まりがつかぬ程の欲情を感じる。もう奥の襞はとっくに綻びていた。そしてヒクヒクといやらしく蠢いて、自分の中で暴れ狂う恋人を待ち焦がれている。 獰猛なほどの視線とは裏腹にそっとベッドに押し倒され、手早くベルトとスラックスを脱がされた。肩に手をやり、うつぶせになる様に導かれ、腰をぐい、と上げた拍子にヒョイヒョイと器用に靴下まで脱がされてしまう。 獣の姿勢での交わりは多いが、いつも堪らぬ程の羞恥を覚える。清田が何をしたがっているかの予測もつく。秋野がいつも最後には根負けをして強請ってしまう程に大好きな、アレに違いない。でもこれと清田の腹の上に乗る体位だけは、気持ちの良さとは裏腹に慣れる事なく、恥ずかしい。 「秋野。俺の大好きな所、開いて見せて」 そんな言い方をされると、喜んで開かざるを得ない。清田は普段はそう口がうまい訳では無いのに、こんな言い方は酷く巧みだ。どうすれば秋野が恥じ入りながらも行動するかが何となく、解るのだろう。 そろそろと掌で尻たぶを支え、指先でくっ、と開く。その指先にチュッと軽いキスが落ちてきた。既にローションで潤されていた清田の指先が、自分の最奥をクルクルと撫で回す。それにヒクヒクとした痙攣で応えるのが余りに物欲しげでいたたまれない。 「ん、もう欲しい?」 秋野のその部分と会話をするように囁くと、襞の入り口にチュッと軽いキスをくれた。そのまま暖かく湿ったものが粘った液体と共にぺたり、と待ち望んだその部分に与えられる。 「っ、あんっ、あっ!」 最初のセックスの時から施されたそれに、秋野も次第に馴染んでしまい、もう最近では当たり前の様になってしまった。清田もこれが相当好きらしい。もっと激しくされるのが待ち遠しくて、うずうずと腰が揺れる。じゅっ、と言う音と共に自分の内側に清田の舌が入ってくる。 「ん、ふぅんっ、うんっ」 温かい唾液と共に舌を差し込まれると、甘く重い粘った感覚がジワッと沸く。じゅくじゅくと言う淫らな音と共にグリグリと内壁を抉るようにされると、思わず鼻から抜けるような声が漏れる。そしてもっと、とせがむように腰を左右に振ってしまう。 中にぐっぐっ、と押し込むようにされたと同時に、放置されていた前の滾りをゆるく扱かれれば、ふわっと中が綻びる。その隙にジュルン、と淫靡な水音も高く、深くまで温かく弾力のあるものが入った。そのままグリグリととこね回すようにして摩擦をされると益々、疼くような感覚がゾクゾクと背筋を伝う。余りの良さに切ない喘ぎがあがった。 「あ、あぁ、それ、いい、もっと、あ、ぁぁ」 思わず強請った言葉を恥じる間もなく、粘った音と共に中をこね回され、前部を強めに扱かれた途端、ギュッと後部が引き締まる。その瞬間に、ズッ、と引き出された摩擦で背筋を激しい電流が走っていく。 「あーっ、あっ、いく! いくぅ!」 びゅくびゅくと白濁が凄い勢いで飛び出しパタパタとシーツに飛び散る。けれど後ろの刺激はまだ続いている。そして前の芯はそのままの固さを保ち、ビクビクと震えている。 「凄い、秋野。舌だけでイッちゃったな。それにもうここ、トロトロだ。指、すぐに三つ入っちゃう、ほら、根元まで」 逐一状況を呟かれると、ぶるっ、と襞が震えて清田の指をしゃぶるように貪る。こうやって状況を言われながら、言葉でねっとりと苛められるのが大好きなのは、とっくに見抜かれている。そして、清田の言葉通り、もう限界だった。涙ぐんだ目で振り返る。 「もう駄目、して、すぐ来て。奥、突いて」 口の端からだらだらと垂れる涎も構わず、はしたない事を求めれば、大好きなそれを尻の狭間にヌルヌルと擦り付けられた。先ほどの放出の後も全く萎えていなかったが、今は凶暴な程の大きさで熱く滾っているのが解る。思わず手を伸ばし、尻を振りながら、再び強請る。 「はやく、ねえ、早くこれ、欲しい」 「くっ、秋野、ちょ、待っ……」 慌てたようにスキンを捜しているらしいのが解った。そんなものはいらない。中に一杯出して欲しいのだ。もう羞恥心なんてどこ吹く風だった。必死にそれを自分の入口にあてがって、もう一度強請る。 「そのままして、これで中、一杯してぇっ」 堪らぬ思いで語尾を引くように言うと、くっ、と息を飲む音の後で、ぐい、と凶暴なほどに膨らんだそれが、奥に突き進んでくる。 清田の体温そのものが埋まってくるのが酷く嬉しい。清田にのみ許し、本当は常にして欲しくてたまらない程の、その行為。しかし秋野の方は、後で腹具合を気にせねばならなくなる。それを気遣い、清田は常にスキンをつけようとする。特に秋野の休みの前日以外には生身ではナシ、というのが最初の頃の決まりごとだった。結局は秋野が我慢しきれず、それを破る事も増えているのだが……。 待ち望んだそれが狭い襞を押しのけるようにして軽く前後しながらグイグイと奥に進んでくる。 その刺激だけで、再び前はトロトロに蕩けてしまう。侵入時の痛みすら全く感じず、嵩高い部分が敏感な場所を通り抜け、奥へと一気に貫かれた途端、ビクビクと身体が甘く震える。 ざりっとした下生えが尻に当たり、清田の欲望が全て納まったのが解った。 「はあんっ、ぜん、ぶ? はい、っちゃった?」 尻を揺すりながら聞けば、清田がうん、と返事をしてくれる。 「凄い、秋野。全部すんなり入ったぞ。中がトロトロなのにキュウキュウしてて滅茶苦茶気持ちいい。何かまだデカくなりそう……」 耳元に倒れこむようにして囁かれ、これ以上になるのか、と内心で驚く。そのまま耳をぴちゃぴちゃと舐められている内にぐうっ、と体内で清田が逞しくなるのが解った。最早秋野は切れ切れの喘ぎしか返せない。そのまま乳首を指先で軽く掻かれると、ビクビク、とまた、内部がうねる様に痙攣する。 ぐっ、と奥に押し付けて、ぐりぐりと中で抉るようにされるのが、堪らない。あっあっ、と枕を鷲づかみにして悶えていれば腰を掴まれ、小刻みにユサユサと揺すられた、途端だった。 「あっ、ああ、それ、あ、あーっ、ああーっ!」 ビクン、と性器が揺れてまた、凄まじい勢いで精液が飛び出した。続けられる揺さぶりに、いつもより長くダラダラとした射精感を覚える。いつまでも終わらぬような射精が漸く止まっても、清田はまだ奥を軽く揺すっている。それがゾワゾワとした奇妙な感覚を呼び起こしていく。 「くっ、秋野、ほんっと凄い、中、きっついけど気持ちいい、……ごめ、俺も限界かも」 切迫した声で告げられた途端、ぐっ、一際奥を衝かれ、激し目のストロークに切り替えられる。 立ち上がりかけた性器が半分萎えた状態となった瞬間、妖しい感覚が秋野を襲った。後ろがヒクヒクと蠢いて、そして擦られる度に脳天の奥まで突き抜けるような衝撃が何度も何度も、身を襲う。 「あーっ、ああんっ、いく、またいくぅっ!」 もう声も抑えられず泣き叫ぶようにした途端、ビクビクと襞と下腹部、大腿部に到るまでが痙攣し、耳の奥がキーンと鳴る。痙攣の止まぬ間も清田は細かな抽挿を繰り返している。ふわっと痙攣が解けた途端、奈落の底まで落ちるような感覚の後で、また再び激しく上り詰めていく。凄い快感だった。 こんな凄まじいものは知らない。清田はまだ終わる気配がなく、衝き続けられ、何度も上り詰めるのに、性器は半分萎えたままで、精液は一滴たりとも出ていない。 「ああ、秋野、それ多分、ドライだな」 様子を見ていたらしい清田の声が、少し嬉しそうだが切羽詰まっている。まさか。これがドライオーガズムなのだろうか? 確かに噂通りの状態にはなっている。初めてだった。 「そんないいのか。凄い、俺も嬉しい」 その清田の言葉こそが、脳内に沁みるオーガズムそのもののように思える。 「あっ、これ、なに、ひあ、あぁぁんっ!」 もう裏返ってしまった声で喘ぎ続けるしか出来ず、清田の動きが一層激しくなると同時に、イキッ放しの状態になる。彼の荒い息が皮膚に触れてすら、悶えるほどに気持ちいい。 「っ……秋野、い……くっ」 「ぁぁっ、してぇ、奥、してぇ、いっぱいぃ」 語尾を引きながら清田に強請れば、グッグッと一際強く衝かれた。直後に、熱い液体を迸らせながらグチュグチュと擦り込まれる。 「あ、あんっ、、好きぃ、それっ、好きぃ……」 これが秋野は大好きだ。長い放出は中々止まず、蕩けながらも貪欲に襞は恋人に絡みついて、一向に離そうとしない。長い射精に、清田も深く感じたのが解って、酷く嬉しい。 「くっそ、まだ納まんねえ。もうちょっといいか? 明日休みで良かったな、秋野」 苦笑しながら呟く清田に、もう、頷くしか出来ない。中を穿たれたまま、今度は腹の上へと上がらされる。清田の攻めは下からのゆったりとした物になり、秋野は自ら足を割り開いて結合部も露に、様々な角度を試してみる事すらした。 清田に、優しい口調ながらも強請られ、それが好きだ、と言われたら、全て頷くしか出来ない。どんな恥ずかしい姿勢や欲求すらも彼が望むのならば叶えずにはいられない。羞恥に啜り泣きながらも、その淫らな欲求には確実に悦びをも覚える。 ねっとりと粘っこく、重苦しいような悦楽の渦へと、なりふり構わず溺れこんで行く。 清田の体内での放出が三度目を迎えた頃。 「秋野、愛してる」 耳元で囁かれたのを境に、とうとう秋野は、意識を手放した。
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