セクスマシン
(2)



 男の名は確か石崎といった。ボスより年嵩に見えたが、忠誠心は若い八尋に比ぶべくもないほどだった。
 八尋は拘束された両手を頭の上のフックに掛けられ、両足首に手錠をかけられていた。殺されることもリンチされることもないだろうが、自分が青年にしたような責めが始まるのは目に見えていた。
 石崎は手に大きな鋏を持って八尋に向かう。恐らく裁断用のものだろう。石崎は目に恍惚を浮かべシャキシャキと鋏を開閉してみせる。
「悪いな」
 そんなこと思ってもないように囁いて、石崎は八尋のシャツに鋏を入れる。腹に冷えた金属が当たって身体が震えた。
「あんま服持ってねぇんだ、勘弁してくれよ」
「ボスに新しいの買ってもらえよ」
「ハハッ、そいつぁ名案だ」
 鋏はザクザクと布地を切り裂いていく。首元に迫って来る刃先を避けるために八尋は顎を上げた。天井を見ながら、自分が怯えてるのだと気付いた。
 石崎の手がジーパンにかかる。まさかこれまで鋏で切るつもりはなかろう、と思っていると石崎が楽しげに鋏を鳴らした。
「ちょ、待て。逃げやしねぇから足のヤツ外してくれ」
「なんだ、高いのかこれ?」
「安モンだよ。アンタを楽しませたくないだけ」
「ハッ! 可愛いやつめ」
 憎らしげに鼻を鳴らしつつ石崎は右足に掛かっていた錠を外し八尋のジーパンを切らずに脱がせてやった。ついでとばかりに石崎は八尋の足をM字に開き拘束した。数日前まで自分が青年に強いていた恰好と、まったく同じにされ八尋は奥歯を噛んだ。
「ボスはおまえが不感症だっつう噂を気にされてなあ」
「どこのどいつだ、そんなデマ飛ばしてんのは」
「デマか」
 石崎の目がいやらしく細められた。八尋も調教師の端くれだったから、石崎の考えていることは手に取るように分かった。反応がないよりは、あった方が何かと遣り甲斐があるものだ。

 石崎はローションを取り出して八尋の萎えた性器に垂らしていく。八尋も見慣れたそれは、粘膜から催淫効果が吸収される代物だった。クチュクチュと音を立てて擦り込まれ、八尋は熱い息を吐いた。
「良くなってきたじゃねぇか。ま、ちと鈍いがな」
「あッ、うるせっ…、はぁっ」
「もう少し色気が欲しいな」
 そう言うと石崎は八尋の昂りを握り先端部分を重点的に擦り始めた。先端の粘膜は過剰なほど快楽を拾い電気信号のように身体を走っていく。目の前が白むほどの過激に八尋は全身を強張らせビクビクと震えた。
「うっく…、ああっ」
 声も唾液も涙も溢れ出るまま止められず、快楽に流される。竿を扱かれず亀頭ばかり弄られて放出もままならない。目の前が白んでくる。そのまま頭の中も白くなれば良いと思う。先端を濡らす液体がローションなのか先走りなのか、八尋には分からなかった。
「も…やめっ…! 漏れそ……」
「そうだろ、ちびりそうなくらいイイだろ?」
「うるせ…っ、あっ…あぅ」
 石崎の指先が先端の割目を抉った。八尋の身体が過剰なほど引き攣った。背をしならせて拘束から逃れようと身をよじる。石崎の笑う目から逃れる術もなく身体を躍らせた。
「なかなか良い反応だ…こっちは?」
 石崎の指が後腔へ滑った。液体のぬめりを借りても圧迫感は消えず、苦痛と違和感に八尋は呻いた。
「ココはあんま使わねぇの? 初めてってこたあねぇよな?」
「おまえ、ウルセェよ…」
 マジかよー、と困ったように息を吐きつつ石崎の目は楽しげに歪んでいた。内壁をぐるりと撫ぜられ八尋は小さく悲鳴を零した。
「参ったな」
 指を増やし律動させながら石崎は呟く。八尋が仕込む立場にあっても初物に対する対処は決まっている。依頼主にお伺いを立てるのである。男女に限らず『初めて』を重宝がる人間がいる以上、勝手に戴いてしまう訳にもいかない。
「ま、でも経験は極僅か、とでも言えばいいか」
「おまっ…! ふざけんじゃねえぞ!」
 内壁を擦りながら石崎は昂りも扱きたてる。内側の気持ち悪さと直接の刺激に翻弄され、八尋は堪らず放った。
「冗談冗談」
 石崎は笑いながら汚れた掌を拭う。流れる汗が目に染みて、八尋は片目をギュッと閉じた。
「この続きはボス次第だ。ボスもまさかオマエがこんなに純情だなんて思ってないだろうからなぁ」
 ケラケラ笑いながら石崎は八尋の拘束を解いていく。気だるさからすぐに動く気にはなれず、されるままになる。石崎の手が八尋の髪をグシャグシャに乱し、それを嫌がるように八尋は顔を背けた。
「セックス」
「あぁ?」
「嫌いなんだよ」
 石崎はああ、と頷いてボスに伝えておくと答えた。煙草を取り出した石崎に八尋は一本、と強請り箱ごと渡される。それで、しばらく家へ帰れないのだと分かった。


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(05.7.11)
置場