〜10〜

「貴方……いったい何をやってるのよ」
 選手控え室。パイプ椅子に腰掛けた那月が、前に立つ少女を見ながら大きな溜息を吐いた。
「すいませぇん」
 少女はシュンとして、細身の体を縮こまらせていた。立って並んでも10cmは少女の方が背が高いはずだが、ともすれば今は座っている那月の方が少女より大きく見えてくるから不思議なものである。

 9月。新女の3選手の参戦を目玉にした一番星プロレスの今シリーズは、開幕戦の茨城大会を皮切りに北上していく予定である。話題性も伴って、チケットの前売りは上々。そして本日、ここカシマ体育会館も試合開始前からすでに観客席がごった返す盛況振りであった。そんな中始まったオープニングマッチ。本来であれば後ろの試合へ弾みをつけるはずのその試合は、しかしながらあまりに呆気ない幕切れに観客席を大きな溜息で包み込んでしまったのだった。

「私に謝ったって仕方がないでしょう。本当に申し訳ないと思うなら今からリングに上がって客席に土下座してらっしゃい」
「うう……」
 あまりにキツイ先輩の言葉。しかし少女、富沢礼子は何も言い返すことができなかった。この日のオープニングマッチを務めた彼女は、実際そう言われても仕方のない体たらくだったのだから。
「別に貴方が試合に負けたから言ってるんじゃない。それはわかるわよね」
「はい」
「まだデビューして10試合もこなしていないんだもの。私もお客さんもそれほど大きな物を貴方に求めているわけではないわ。でも、今の貴方にも見せられる物があったんじゃないの。貴方は今日の試合でそれを見せる事ができたと思っていて?」
 那月の問いに、礼子は首をプルプルと横に振った。自分でも情けなくて涙が出そうだった。
 プロレスラーとして生きていく事を再度心に誓ったあの日から、礼子は自分なりに練習に励んでいた。練習についていく為、自分でペースを掴むまではと睡眠時間確保の為に就寝を早めた(あまりに遅い深夜番組は友人に録画を頼んで休日にまとめて見る事にした)。基礎練習、関節スパー以外にも、真琴や那月に師事し打撃練習にも励んだ。わずか数日ではあったが、充実感と達成感を胸に自分でもシリーズ開幕を楽しみにしていたのである。
 そして迎えた本日のオープニングマッチ。相手はAACの若手、アリッサ・サンチェス。だが礼子の気合は空回り、さらにアリッサの素早い空中殺法にも翻弄され、パニックを起こした礼子が苦し紛れに繰り出した大振りの掌底をかいくぐられるとスタンディングのスリーパーホールドに捕らえられ、たまらずタップした。試合時間、わずか4分13秒。
「試合が決まった瞬間、相手もキョトンとしてたわよ。まさかあれで決まるとは思っていなかったんでしょうね。貴方が空回りしている中、向こうも何とか試合を作ろうとしていたけれど、フィニッシュがあれじゃそれも台無しだわ」
「はうぅ」
 耳が痛い。しかし全てが正論で、自分でも弁解の余地がないだけに、礼子はただ耐えるしかないのであった。
「だいたい貴方は普段から……」
 くどくどくどくど。
「そもそも貴方は精神的に……」
 くどくどくどくど。
 いつ終わるとも知れない那月のお説教。礼子の頭はすでにパンク寸前だった。段々耳に入り込んでくる言葉の意味も良く分からなくなってくる。
「……もうその辺で勘弁してあげてもいいんじゃない」
 意外なところから助け舟が入った。那月の肩を叩いて止めたのは、苦笑いを浮かべた真琴であった。
「真琴先輩」
「那月の言いたい事はもう十二分に富沢に伝わってるよ。な?」
 そう言って、真琴は礼子の顔を覗き込む。
「は、はい」
「よし。じゃあ、明日から今日の反省も踏まえて練習。しっかりやって、次は頑張れ」
「はいっ」
 真琴は礼子の頭をクシャッと撫でた。頭で考えすぎるよりも、体にそれを叩き込み覚えさせる。それが真琴であった。礼子は胸がスッと軽くなったような気がした。
「……ふう。わかりました。真琴先輩がそう言うなら、私ももう何も言いません。でも礼子、貴方にしっかりしてもらわないと真琴先輩の名前にも傷がついてしまうのよ。あんな隙だらけの大振りの掌底、誰も教えていないでしょ。それにユキ先輩だって。ねえ、あずみ」
 那月は少し離れてモニターを見ていたあずみに話を振る。その声に振り向いたあずみは真っ直ぐ礼子の目を見つめた。
「……確かに、あの程度のスリーパーでタップしているようではユキ先輩に指導してもらっている意味が無いですね」
「あう、す、すいませぇん」
 あずみはたった一言で、那月の百の言葉と同じだけのダメージを礼子に与えた。礼子はこれ以上ないと言うほど小さくなる。
「わかったでしょう。貴方だけの問題じゃないの。貴方が不甲斐無い試合をすれば、指導する先輩達にも迷惑がかかる。まして今シリーズは新女の選手も参戦している。普段ウチの試合を見ていない人にも見てもらうチャンスであると同時に、その一度の観戦がウチの評価を決めてしまう事もある。最初に出てくる貴方がそんな調子じゃ困るのよ」
 那月は立ち上がると、礼子の胸を拳でトンと叩いた。
「体力や技術じゃない。今の貴方の問題は、全てココにあるわ。その問題が何であるかは自分自身で突き止めて、次からはしっかりしてちょうだい。わかった?」
「は、はいっ。がんばりますっ」
 礼子が勢い良く頭を縦に振ると、那月はようやく表情を緩めた。と、その時。
「ほう」
 再びモニターに視線を戻していたあずみが感嘆の溜息を漏らした。
「どうした、中森」
 あずみにしては珍しい反応に、興味をそそられた真琴がモニターを覗き込む。
「涼美さんが斉藤さんから3カウントを取られました」
「石川が?」
 本日の第3試合『ミネルヴァ石川、野村つばさ組 vs コンバット斉藤、渡辺智美組』。今シリーズのvs新女のオープニングマッチである。
「ええ。踵落としがフィニッシュでした。まさかいきなりタフな涼美さんを沈めるとは思いませんでしたね」
「ちょっと、つばさは何をしていたのよ」
 那月も首を突っ込んでくる。
「場外で渡辺さんに捕まっていました」
「まったく、何やってるのあの子」
 那月が爪を噛む。よほど悔しいらしい。
「さて、こうなってくるとますますあたしは負けられなくなったな」
 真琴が首を回しながら両手を組んで伸ばす。そう、休憩後の第6試合は真琴の出番。新女の小川ひかるとのシングルマッチなのである。初日にいきなり新女に2連敗しては星プロの名誉に関わる。それにシリーズ後半にはコンバット斉藤とのシングルが待っている。ここで小川相手に敗れるわけにはいかない。
「……甘い相手ではないですよ、小川さんは」
 ポツリとあずみが呟く。
「あずみ、何なのその口の利き方はっ」
 思わず気色ばんだ那月だが、あずみは落ち着きを崩さない。
「いえ。真琴さんが敗れると思っている訳ではありません。ただ、油断できる相手ではないと言っているだけです」
「同じ事じゃないの」
「いいよ、那月。あずみの言う事ももっともだ」
 憤る那月の頭にポンポンと手を置いて諌めると、真琴はモニターの中で勝ち名乗りを受けている斉藤を見つめながらあずみに言った。
「今日の相手が気を抜ける相手じゃないことはわかってる。それに、ここで負けては斉藤とのシングルの話もなくなりかねないしね。まあ、あたしは手加減なんて器用な真似はできないし、今日もいつもどおり全力でやるだけ」
「……そうですね」
 あずみが小さく微笑む。そう、元々自分の助言など必要なかったのだ。どんな相手であれ油断どころか愚直なまでに全力で立ち向かう、それが近藤真琴というプロレスラーであったから。
「さて、じゃあそろそろウォームアップを始めないと。富沢、お前も那月の説教が終わったんだから雑用に戻れ。雑用も新人の大事な仕事だぞ」
「は、はいっ」
「もう、真琴先輩ったら説教だなんて」
 むくれる那月を尻目に、礼子は慌てて控え室を飛び出していった。
「さあ、あたしも少しは先輩らしい所をあいつに見せてやらないとな」
 ストレッチを始めながら真琴が呟く。遥ほどではないが自分も口下手な方だと自覚はある。言葉で伝えるよりも、背中で語る。今までがそうであったように、これからも。結局、自分にはそれしかできない。ならばその背中から、より多くの物を受け取ってくれればいい。そういう試合を見せてやらなければいけないと、真琴は思う。おそらくもう、そう多くの試合を見せてやる事はできないであろうから。真琴は拳を握った。

「そろそろ、ギブアップしたらいかが」
「んぐ、だ、誰が、こんなものでぇっ」
「あら。じゃあ、これでどうっ」
 グイィッ。
「うあぁぁぁっ」
 本日の第6試合『近藤真琴 vs 小川ひかる』のシングルマッチ。開始15分、真琴はリング中央で小川のストレッチプラムに捕らえられていた。
 序盤は真琴が鋭い打撃を主体にペースを掴んでいたが、試合が進むにつれある程度目が慣れた小川が打撃を捌きながら徹底的に腕を狙っていく。星プロにもラッキー内田を始め関節技使いは何人かいるが、皆フィニッシュは足狙いでこれほど徹底的に腕を攻められる事は珍しい。いつもと勝手が違う戦いに順応する前に、真琴は小川の関節地獄に捕らえられてしまった。
「真琴先輩、返してっ。貴方も何ぼーっとしてるの、声出しなさい」
 セコンドについた那月が真琴に檄を飛ばし、隣で青い顔をしている礼子を叱咤する。
「で、でも、あれだけ完璧に決まったら」
 多少なりとも関節技を齧っている礼子にしてみれば、あれだけ完璧に入ってはとても返せるとは思えない。しかし那月は言う。
「バカッ。貴方何の為にセコンドについたのよ。勝手に限界を作らないでちょうだい」
 今日の試合、真琴サイドには那月、礼子、そしてあずみがセコンドについている。これまで礼子は幸やあずみと行動を共にしていたのだが、今シリーズは真琴の側につく事になった。それに伴い、あずみも真琴についている。「大勢で群れるのはイヤ」と幸だけは単独行動をとっているが。真琴の控え室に礼子やあずみが居たのもそういう理由からだった。
「確かに決まり具合は完璧。だが」
 あずみが呟く。
「そうよ、まだ終わってはいない。よく見なさい、真琴先輩の目を」
 那月に促され、礼子は眉を顰めながら真琴を見る。苦痛に歪んだその表情。しかしその瞳は確かにまだ死んではおらず、むしろ炎を宿していた。
「真琴先輩……」
 礼子は思わず手のひらを握り締める。真琴なら、きっと返してくれる。そう思えた。
「あれが……あれが、私に足りないものなんだ」
 そう呟くと、礼子は両手を丸めて口に添え、力の限り叫んだ。
「真琴先輩っ、頑張って、返してーっ!」
 その声に、真琴はピクリと反応する。
「いい加減に、観念してください」
「くああぁぁっ」
 小川の絞り上げがさらにきつくなり、真琴は苦痛の呻きを上げる。しかし激痛以上に、小川の焦りを真琴は感じていた。小川にとってここはアウェー。そしてリング中央で必殺技に捕らえておきながらすでに1分近く、いまだギブアップを奪えずにいる。時間を掛ければ掛けるほど、真琴への声援は会場中を埋め尽くしていく。ヒールならまだしもクレバーな小川だけに、会場の空気を読んで一旦技を解き次の攻撃に移るべきでは、という逡巡が生まれる。
「うおあぁっ」
 その逡巡による一瞬の緩みを真琴は見逃さなかった。体を捩り足を伸ばし、懸命にストレッチプラムの形を崩す。
「くっ」
 もう一度ストレッチプラムの体勢に入り直す事も出来たが、小川はそのまま真琴を押さえつけてのフォールを選択した。
『1、2、……オォーッ』
 カウント2.8で真琴が肩を上げる。那月と礼子は思わず抱きついて喜び合った。小川は悔しそうに顔を顰めると、先に立ち上がって距離を取る。真琴がよろよろと立ち上がるのを見て、小川は真琴の死角にあるロープへ走った。決め技は返されたとはいえ、十分なダメージは与えた。あと一押しで倒せる、そう判断した小川は得意のジャンピングネックブリーカーを狙う。
 ロープの反動を利用しさらに加速をつけ、小川は真琴に飛びつくタイミングを測る。が、マットから飛び上がるよりも早く。真琴の右足が唸りを上げて顔へ飛んできた。ハイキック。しかしそこまでは予想の範囲内。頭を下げてそれをかわすと、そのまま脇を一気に走り抜けてさらに反対側のロープで反動をつける。今度こそ、そう思い狙いを定めようとした小川だが、しかし真琴は思った以上に近い位置にいた。
「ひかるさんっ」
「しまったっ」
 小川のセコンドについた斉藤の声が飛ぶが、間に合わない。そう。ハイキックをかわされる事は真琴も織り込み済み。かわされてすぐさまバックステップでロープへの距離を詰めると背後目掛けて体を捻っていたのだ。
「どうだあっ!」
 ガツンッ!
「あぐっ」
 真琴のバックブローをカウンターで食らい、小川は吹っ飛ばされた。
「あたしは、負ける訳にはいかないっ」
 真琴が握り締めた拳を突き上げる。フィニッシュ宣言だ。観客席のボルテージも最高潮。館内が大きく揺れる。
 ふらつきながら立ち上がる小川へ真琴がダッシュし距離を詰め、その眼前でグルンと回転する。
「くうっ」
 左側頭部を襲う左のバックブロー。しかしこれは小川が両手できっちりガード。すぐさま反撃に出ようとした小川だが、その目の前ですでに真琴は逆回転を始めていた。
「あっ」
「これで、どうだあっ!」
 竜巻のような猛回転から唸りを上げて、真琴の右拳が今度は小川の右側頭部を襲う。ガードは間に合わない。真琴の必殺・サイクロンバックブローが小川を飲み込み、粉砕した。
 バガアァッ!
「きゃあうっ」
 もんどりうって倒れこむ小川に真琴が覆い被さり、そのままマットに押さえつける。
『1、2、…………スリィーッ!』
 レフェリーがマットを3度叩く。
「よおぉしっ」
 膝立ちになった真琴が両拳を握り締めて吼え、小川は仰向けのまま右手で額を押さえる。17分22秒。近藤真琴の見事な逆転勝利であった。

 レフェリーに勝ち名乗りを受け、観客の声援に応えていると、リングに上がった那月と礼子が真琴に抱きついてきた。
「おめでとうございます、真琴先輩っ」
「お、おい」
「凄かったです。私、感動しましたっ」
 瞳を潤ませて真琴を見つめる礼子。今の礼子には、真琴が絶体絶命のピンチから大逆転勝利を収めたアニメのヒーローのように見えていた。真琴は微笑むと、礼子の頭に手を置きグリグリと撫でる。自分の戦う姿から礼子が何かを感じたのなら、この試合は勝利という結果以上に大きな意味を持つ物になったと言えるだろう。
「お前も、いずれ出来る後輩達にそう思ってもらえるようなレスラーになるんだぞ」
「はいっ」
 礼子の元気な返事に満足気に頷く真琴。その時ふと視線を感じて後ろを振り返る。そこには小川に肩を貸した斉藤が、じっと真琴の顔を見つめていた。その表情は冷静で、先輩が負けた事による怒りや悔しさが含まれているようには見えない。ただその瞳の奥には、来るべき戦いへの期待感が膨らんでいるように見えた。
 時間にして数秒、二人の視線が絡み合う。しかし斉藤は何も言わぬまま視線を外し、渡辺と共に小川に肩を貸してリングを下りていった。真琴もただ、黙ってその去っていく背中を見つめていた。

「いたた……やられちゃったわ」
 ここは新女の3人に与えられた控え室。痛めた側頭部を氷で冷やしながら、小川ひかるは天を仰いだ。
「も〜。ひかる先輩は優しすぎるんですよ。どうしてあそこで解いちゃうかなあ。あたしだったらもっとこう、ギューッと」
 ギューッ、と絞めるポーズを取る渡辺智美。
「あの空気じゃ仕方ないわよ。それにあのまま絞め続けても近藤さんの心は折れてくれそうに無かったもの」
「そっかな〜。もう一息だと思ったんだけどな〜」
 納得がいかないのか、智美は首を捻る。ひかるは苦笑すると、じっとモニターを見つめているコンバット斉藤に声を掛けた。
「ごめんね彰子。役に立たない先輩で」
「そんな事はありません。今日の試合、非常に参考になりました」
 斉藤は向き直ると、ひかるに向かって頭を下げた。
「序盤にひかるさんが近藤さんのパンチを捌きながら数を引き出してくれたお陰でだいぶリズムも掴めましたし。あの裏拳をこの目で見れたのも大きな収穫でした。ひかるさんには感謝しています」
「ふふ、どういたしまして」
 律儀にもう一度頭を下げる斉藤に、ひかるは微笑んだ。もちろんひかるとて負けても良いなどという気持ちでこの試合に臨んだわけではない。だが勝敗よりも、いかに近藤の引き出しを数多く開けるかに重点を置いたのも事実。もっともそんな事に気を配らずとも、端から隠すつもりなどないのか相手は頭から全開で突っ込んできたのだが。
 プロレスという異なったジャンルを楽しみつつも、どこか今の新女に物足りなさを感じているように見えて仕方のない斉藤が、自ら望んでようやく実現させた今回の星プロへの参戦。すでに下り坂に入り始めた自分のレスラー人生を、その後輩に少しでも役立ててあげられるなら、とひかるは思う。
「どう、ここのリングは。楽しい?」
「はい。ウチにはいないタイプの選手が多くて新鮮です。今日戦った石川さんも、驚くほどタフでした。あれだけ私の蹴りを受けても立っていられるとは」
「だよね〜。あたしだったらあっきーの蹴り、一発だって受けたくないもん」
 智美が自分の両肩を抱いて大袈裟に震えてみせる。
「……その呼び方は止めてください、智美さん」
「なんで〜。かわいいじゃん、あっきー」
 言いながらべたべたと斉藤に絡みつく智美。どうにも憎めない智美の性格に、先輩である事も合わせ、嫌がりつつもあまり邪険には扱えない斉藤であった。
「むっ」
 いつの間にか斉藤の視線はモニターへ戻っていた。ひかるもつられてそちらへ視線を送る。EWAのドリュー・クライの打撃ラッシュをかい潜り、イージス中森が蹴り足を捕らえてドラゴンスクリューを決めた。そのまま足を取りアキレス腱固めを極める。まったく無駄のないスムーズな動きに、同じく関節技使いであるひかるも思わず嘆息を漏らした。
「すごいわね、彼女」
 タッグパートナーが慌ててカットに入り事なきを得たものの、シングルマッチなら今の一瞬で決まっていただろう。一方悔しそうな素振りも無く、中森もまたタッグパートナーと交代する。
「ええ。彼女とは最終戦で戦う事になっている。楽しみです」
 モニターから視線を外さずに呟く斉藤。その拳が強く握り締められているのを見て、ひかるはなんだか嬉しくなる。
「……本当に、良かったわね」
 食い入るように画面を見つめている斉藤に、ひかるは小さく呟いた。

 続く……


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