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NOVEL

Un tournesol 〜出会い、そして〜
02 終

注意) 女装H/焦らし/寸止め

 直輝の下半身からは、湿った水音と微かなきぬ擦れの音が聞こえて来ていた。
 なんでこんな事に……、そう思いながらも直輝は蒼衣がする事を止める事が出来ない。いや、止めようとと思えば、止められるのだが、それよりも蒼衣から与えられるその感覚に直輝の体が拒否をしている。
 つまり、直輝は今、理性よりも快感に負けてしまっている訳だ。

「ん……、ふ、ちゅ……っ。」

 そんな鼻にかかった吐息をつきながら蒼衣は直輝の下半身に顔を埋め、一心不乱に直輝のそれを口で慰めている。
 その蒼衣の口から漏れる淫らな音を聞きながら直輝は、それでも必死になってなけなしの理性で抵抗をしていた。
 それは一重に蒼衣のフェラチオの巧みさのせいだ。
 流石に施設で仕込まれたと言ってただけあって、その口淫は直輝が今まで付き合って来た女達とは比べものにならないほど上手い。
 ともすれば、すぐにイッてしまいそうになるのを、直輝先程から思考を別の所に飛ばす事で辛うじて保っている。
 脳裏でうろ覚えの数式を解いたり、他の事に意識を向けたりしながら、ふと気分転換に視線を窓のほうに向ける。薄いカーテンの向こう側にはまあるい月。それが黄色い光を明るく放っているのを感じた。
 直輝はそのカーテン越しに見える丸い月と、その明かりをぼんやりと眺めながら、今一度、自分のこの情けない状況について考える。
 決心をし、蒼衣を押し倒した所までは、よかった。
 だが、覚悟を決めた筈の直輝だったが、結局男相手にどう愛撫していいか戸惑ってしまい、それを見た蒼衣が、直輝くんは何もしなくていいから、とそう微笑みながら直輝の体と自分の体をやんわりと反転させた。
 その後、ジーンズの前を手馴れた手つきで開けられ、ボクサーショーツの中から直輝のモノを引きずり出すと、直輝の制止も聞かずに蒼衣はそれを口にする。
 それが、十数分前の事。
 それから蒼衣の唇と舌、そして手で与えられる快感に我慢を我慢を重ねている。
 蒼衣の手つきや口でのそれは、男がどこをどうすれば感じ、どうすれば満足するのかを熟知したもので。
 そんな蒼衣の手馴れたフェラにあっさり屈してしまうのが直輝には悔しく感じられ、さっきから無駄な抵抗をしていたのだ。それに、あまりにも早くイッてしまうのは、まるで溜まってるみたいに思われ癪だった。そもそも男の沽券に関わる。
 しかし、そんな我慢もそろそろ限界だった。
 蒼衣の熱っぽい舌が絡まり、舐めあげ、先端を唇で強く吸われると、直輝の体にブルリと震えが走る。

「っ……! あ、蒼衣……、ちょ、待っ……っ。」

 慌てて直輝は手を延ばして、蒼衣の頭を股間から無理矢理遠ざけようとする。
 その瞬間、ちゅる、という唾液と直輝の分身から溢れ出る先走りを吸い込む音が蒼衣の口から聞こえ、直輝はもう一度ブルリと体を震わせた。
 ヤバイ、そう直輝が思った瞬間には、直輝の今までの我慢は水の泡と消えてしまう。

「しまっ……っ!」

 そう直輝が小さく口の中で叫んだ時にはもう遅かった。
 歓喜に打ち震える直輝の先端から、勢いよく白濁とした液が蒼衣の顔目掛けて迸る。

「ひゃっ……!」

 びちゃ、と言う擬音のままに、蒼衣の顔に直輝の欲望の証が飛び散り、その顔を白く汚す。
 勢いよく顔にかかったそれを、蒼衣は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐにどこかうっとりとした顔で受け止めた。

「ん……っ。」

 どろりと頬から顎へと直輝の精液が垂れてくると、蒼衣はそれを指ですくって躊躇することなく口へと運ぶ。
 直輝の青臭い、そして濃厚な精液に蒼衣はホゥ……とうっとりとしたような息を吐き、次々に垂れてくる直輝のそれを掬い取っては口にする。
 蒼衣にとってそれは別段珍しいことでも、おかしいことでもなく、蒼衣の中の常識では至極当然な行動と、行為だったのだが。
 しかし、それに驚いたのは直輝だった。

「わ、わぁっ! お、おま……っ!」

 蒼衣の顔にぶっかけただけでも直輝としてはかなりの衝撃だったのに、まさかそれを舐められるとは思わず、激しく動揺し、慌てて部屋の中を見渡しティッシュを探す。

「どうしたの?」

 直輝がキョロキョロと部屋を見渡し始めた事に蒼衣は相変わらず顔についた直輝の精液を指で掬い、ぺろぺろと舐めながら不思議そうにそう尋ねた。

「ば、ばかっ! な、舐めんな……!」
「え? なんで?」

 ざっと見渡した所にティッシュが見当たらず、直輝は仕方なしに自分のタンクトップを拾うと蒼衣の顔に着いている精液を拭おうとする。

「あ、ダメ! いいよっ、服、汚れるから!」

 直輝が自分の服で拭き取ろうとするのに気がつくと、蒼衣は慌ててそれを止めようと、迫りくる直輝の手とタンクトップを遮るように、両手で顔を覆う。

「いいんだよ。どーせ洗濯するんだし!」

 だが、嫌がる蒼衣の手を無理矢理押さえ込み、直輝はそう有無を言わさない口調でいうと、ゴシゴシと蒼衣の顔についている自分の吐き出した白濁液を拭き取り始めた。
 最初は直輝の服が汚れるのを嫌がって押さえ込まれた手を挙げようと少し抵抗していた蒼衣だが、結局どうやっても直輝の手を外す事は出来ないと悟ると、すぐに大人しくなり直輝にされるがままになった。

「……ごめんね……、服……。」
「気にすんなって。んな事より、お前こそ、出したモンな舐めんなよ……そっちんが汚ねぇだろうが。」
「え? 別に汚くなんかないよ。だって……。」
「汚ねーんだよっ! とにかく、無理に舐めたりしなくていーっていってんだ!」

 一通り吹き終えると、蒼衣が申し訳なさそうに瞳を伏せる。
 それを横目に見ながら、直輝は蒼衣の行動に文句を言い始めた。
 その直輝の言葉に蒼衣はきょとんとする。なにせ、そんな事を言われたのは初めてなのだ。施設では、常に出した精液は最後まで飲み込めと教えられてきた。顔にかけられたものも、体に出されたものも、舐めとり、綺麗にするのが自分の役目だと教えられてきたのだ。
 だからこそ、直輝の精液を飲むことも、それが全く汚いと思っていない事も、その理由を説明しようとしたがそれも直輝に遮られる。

「女でも舐めたり飲んだりすんの嫌がるんだ。だったら男のお前は尚更好きでもない野郎の精液飲むの嫌だろうが……。」

 蒼衣の言葉を遮り直輝が続けて言った言葉には、何か苦々しいものが含まれていて。
 その直輝の言葉と表情に少しの間キョトンとした顔でいた蒼衣だったが、すぐに、にこりと笑う。

「な、なんだよ……。」
「直輝くんって優しいんだね。」
「なっ! べ、別にふつう……って、おいっ、蒼衣?!」

 蒼衣の突然の笑顔と言葉に、直輝が面食らい、否定をしようとする。が、何を思ったのか蒼衣はもう一度にこりと直輝に微笑みかけると、胡座を掻いている直輝の股間に顔を埋めた。
 一度欲望を放出した直輝の分身は、ふにゃりと柔らかく頭を垂れている。それを優しく手で握ると、蒼衣は躊躇することなくまたその口の中へと吸い込んだ。
 ビリッとする快感が直輝の背筋を駆け登ってくる。
 一度射精を迎えたそれは少しの刺激にも過敏に反応し、蒼衣の舌と唇が優しく刺激する度に直輝の背中に電流を走らせた。

「ちょっ、蒼衣っ! もういいって!!」

 殊更強い刺激を与えないよう慎重に、しかし、的確に快感を加えていく蒼衣のフェラに直輝はそれを止めさせようと必死になる。
 直輝には蒼衣が一体何を考えているのかは解らなかったが、このままではまた蒼衣の口でイかされる事になりそうで、それだけはなんとしとも阻止したかった。
 蒼衣の肩を押し、その頭も押し返そうとする。
 だがどうしてか蒼衣は、直輝の股間から顔を離そうとはしなかった。

「……なんなんだよ、オメーは……。」

 あまりに離れようとしない蒼衣に直輝は呆れ返る。
 直輝の抵抗が止んだのを感じると、蒼衣は漸く直輝の分身から口を離した。だが、唇はそれの形に合わせて優しくキスを繰り返し、顔自体はそれ以上は離れようとはしない。

「なんなんだよ……。」

 蒼衣の行動に直輝がもう一度、呆れたような声を出す。
 すると蒼衣の顔が少し上向き、上目使いで直輝を見た。

「……みたいの。」

 恥ずかしいのか、それとも欲情しているからなのか、目尻を赤く染めた蒼衣は、甘く掠れた声で、小さく直輝に向かって呟いた。

「え……?」

 蒼衣が呟いた言葉が聞き取れず、直輝は思わず聞き返す。
 すると、蒼衣は更に頬を上気させ、潤んでいる瞳を恥ずかしそうに伏せた。

「……直輝くんの、せ、せい、液、飲みたい……の……。」

 そして、途切れ途切れに、蒼衣は小さな声で、それでも先程よりははっきりと直輝に向かって言った。

「……え……?」

 一瞬、直輝は何を言われたのか解らず真っ白になった頭で蒼衣の言葉を何度か繰り返す。

「……ダメ、かな?」

 しかし、再度蒼衣の掠れた声が直輝の耳に入って来た途端、先程蒼衣が言った言葉の意味をはっきりと理解した。
 途端、直輝の脳内から勢いよくなんらかの興奮物質が噴射される。
 今まで、一度として付き合った女にも言われたことのない言葉。寧ろ、女からはフェラする事自体嫌がられ、精液を飲むなんて絶対出来ない、としか言われたことのない直輝にとって、その蒼衣の言葉は直輝の心を鷲づかみにするほど、最強の殺し文句だった。
 脳内で生成された興奮物質はあっという間に直輝の体内を巡り、勢いよく蒼衣が握り締めている下半身へと流れ込む。

「ひゃっ……?!」

 下半身から蒼衣が発した驚きの声が聞こえる。
 その声が耳に残っている間に、直輝は蒼衣の体を抱きしめると、そのまま床に押し倒した。

「な、直輝、くん……?」

 突然の直輝の行動と下半身の漲りに驚き、蒼衣は目を白黒させて直輝の名を呼ぶ。
 だが直輝は答えなかった。
 ただ無言で蒼衣の着ているキャミソールとシャツの中へと手を忍ばせる。

「や、な、直輝くんっ?! 何す……ん、んんっ……っ。」

 素肌を触られる感触に蒼衣は更に驚き、声をあげるが、その声はすぐに直輝の唇で塞がれる。
 そのまま唇を吸われ、直輝の舌が咥内へと侵入してくると、蒼衣はその心地よさにうっとりとなり、抵抗も忘れて直輝のなすがままになった。
 蒼衣にとってキスという行為は、今までは蒼衣から男の人の体にしたり、欲望そのものにするものであって、こういう風に唇同士を合わせると言うことはほとんどした事がない。
 だからか、直輝にされるそれは今まで感じたことのない感情と感覚を蒼衣の中に呼び覚ましていた。
 直輝の手がわき腹や、胸板を撫でる度に、ゾクゾクとした小さな電流が体中を走る。その感覚に、蒼衣は直輝に塞がれている唇の隙間から、堪えきれない吐息を漏らす。

「は……っ、くぅ……ん、ん……。」

 びくびくと小さく体を痙攣させながら、直輝の背中に戸惑いがちに蒼衣はそっと手を回した。何らかのスポーツによって引き締まめられた直輝の筋肉がその指先に触れ、微かに汗ばんでいるその感触に何故か蒼衣の心臓はドキドキと早く脈打つ。
 こんな胸の鼓動を感じたのは生まれて初めてで、蒼衣はどう対処して良いのか戸惑い、直輝の背中に回した手も、結局それ以上直輝に触れることは出来なくて、すぐに下に降ろしてしまった。
 だが、床の上に投げ出された蒼衣の手と指は、心細さを示すかのように畳の目を掻き、そして、軽く直輝を求めるように浮いたり、また降ろしたりを繰り返す。
 そんな蒼衣の態度と、服を通して、そして胸板に触れている手から直接感じるその鼓動の早さに直輝は小さく苦笑をする。
 まるで初めて男と体をあわす少女のような緊張が、直輝に伝わってきたからだ。
 少女って事はないか、そう自身の頭に一瞬思い描いたビジョンを打ち消すと、直輝は蒼衣の手に開いている方の自身の手を重ねる。
 その細い筋肉の筋にそって、指先を躍らせ、ゆっくりと蒼衣の肘から手のひらへと手を移動させる。直輝の手が触れ、刺激を与えるごとに蒼衣の唇から零れる吐息も、体の小さな痙攣も増えていく。
 そして、直輝の指先が蒼衣の指を探し当て、絡めとり、握り締めると蒼衣の体が驚いたように固まった。

「……っ、ん、ぁ、う……っ。」

 蒼衣の漏らす吐息に一層甘いものが増える。
 それをどこか心地よく聞きながら直輝は、胸板を触っていた指先をその先にある突起へと押し当てた。ぐり、と少し力をこめてそれを捏ねる。
 途端、蒼衣の体が大きく跳ね上がった。

「っ……ひっ、や、ぁ……っ!」

 びっくりして体を跳ね上げた瞬間に、直輝と合わせていた唇が外れ、蒼衣の口から小さな悲鳴のような声が漏れる。

「や、やだっ……っ。」

 自由になった口で蒼衣は小さく制止の言葉を吐く。
 それでも直輝の指は蒼衣の胸の突起を弄ることを止めなかった。それどころか、蒼衣の口が自由になったように、自由になった口を直輝はそのまま蒼衣の細い首筋に落とし、柔らかくその首筋を吸う。
 更に蒼衣の手を握っていた手も、そっと離れると、蒼衣の穿いているスカートの中へと侵入していった。
 その直輝の愛撫に蒼衣は、どうした訳か恐怖を覚える。

「直輝、くん……っ、止めて……っ、お願い、止めてっ……っ!」

 思わず、蒼衣は悲鳴に近い声で直輝に強く制止を願う。
 流石に、その蒼衣の酷く怯えたような声を聞き、直輝は一旦蒼衣の乳首を触る手を止めると、上から蒼衣の顔を見下ろす。
 蒼衣は顔を真っ赤にして、明らかに戸惑いと怯え、そして大きな不安をその顔に表していた。
 それに直輝は、少しばかり驚く。

「……どうした?」

 極力蒼衣を刺激しないように、直輝なりに優しい声を出して、蒼衣に尋ねる。それに蒼衣はふるふると頭を振り、今にも泣きそうに顔を歪めた。

「だめ、だめだよ……っ、僕に、そんな事、しないで……っ。直輝くんは、こんな事、僕にしちゃ、いけないんだ……っ。直輝くんは、こんな風に、僕に触れちゃ、ダメなんだよっ。」

 ぐずぐすと鼻を鳴らし、蒼衣は直輝にそんな事を訴え始める。
 蒼衣は、今まで直輝にされたような愛撫など、ほとんど受けたことがない。どちらかといえば蒼衣がその口や手などを使って奉仕をし、相手を満足させる立場にあった。自分が快感を得る訳では当然ない。
 寧ろ、自分が相手に愛撫されたり、それを受け止めるのは害悪だと。そう思い込まされている。
 蒼衣にとってのSEXとは、そういうものであり、快感とは程遠いものなのだ。
 だからこそ、この直輝の突然の愛撫に蒼衣は、されてはいけない事をされている、という恐怖と、不安を強く抱く。
 だが、直輝には当然のようにそれは納得の出来ない言葉だった。
 蒼衣の、怯え、不安に染められた顔を見下ろしながら、小さく溜息を吐く。そして、口を開いた。

「――あのさ、蒼衣。じゃあ俺はお前にフェラだけさせて、それだけで満足しろっつーのか? お前は俺に礼がしたいんだろ? だったら、抱かせろよ。俺はお前を抱きたいの。だから、俺のしたいように、やりたいようにさせろよ。じゃなきゃ、礼になんかなんねーだろ?」

 我ながら嫌な言い方をしている。そう直輝は思う。
 だが、あまりに蒼衣の言葉は直輝にとって、頭にくるものだった。
 自分から誘っておいて、いざ、直輝が事を運ぼうとすると嫌がる。しかも、直輝の行動を阻止し、肩透かしを食らわせたのはこれが二度目なのだ。
 ――確かに、一度目は直輝自身の覚悟が甘かったせいで戸惑ってしまい、結果、蒼衣の主導権の元、フェラチオを受け入れてしまった。
 しかし、今回は違う。
 直輝はもう戸惑いを捨て、蒼衣を本気で抱こうとしているのだ。それなのに、またもや主導権を奪われる事に、いや、直輝が主導権を握る事自体を拒否されたようなもので。
 それになにより、直輝の下半身はこれ以上ないくらい滾っている。このまま蒼衣にまた主導権を握られ、フェラチオでお茶を濁されては堪らない。
 直輝は、蒼衣自身にこの欲望をぶつけたいのだから。
 蒼衣の真意がどうれあれ、ヤる気になっている直輝が苛立つのも無理はない。

「ご、ごめん……、だけど、その、僕……。」

 直輝のいらいらした言葉に蒼衣は、おどおどと瞳を伏せる。
 蒼衣としても直輝が苛立つ意味はそれなりに理解しているつもだった。だが、どうしても自分が直輝に愛撫をされるという事が、受け入れられない。いや、受け入れられないというよりは、そもそもしてはいけない、自分はそんな事をされる資格などない、と強迫観念に囚われている。
 しかし、それを直輝にどう説明していいか蒼衣には解らない。
 言葉に詰まり、不満を露にしている直輝の顔さえもまともに見れず、唇を噛んで横を向いた。
 すると頭上から直輝が深い溜息を吐く音が聞こえてきた。
 そして、横を向いている蒼衣の顔を直輝の手が乱暴に正面へと向ける。

「な、直輝、くん……?」
「蒼衣。もうバックレはなしだ。」
「え……?」
「お前が嫌だと言おうが、泣こうがわめこうが、俺は俺がしたいようにお前を最後まで抱く。いいな。」

 そう、直輝は宣言する。
 直輝の思いがけない言葉に蒼衣は反論しようとするが、直輝はそれを許すことなく蒼衣のスカートを大きく捲り上げた。
 蒼衣の喉から羞恥と驚きの悲鳴があがる。
 だが、直輝は驚き戸惑っている蒼衣を無視して、スカートの下へ思いっきり顔を突っ込んだ。

「ひゃ、ひゃああっ……っ!?」

 直輝のその大胆ともいえる行動に蒼衣は、目を白黒させ、また変な悲鳴を上げてしまう。
 思わずスカートを押さえ込み、直輝の頭をスカートの上から押す。しかし、直輝は蒼衣の手の力などモノともせず、蒼衣の太ももに唇を押し当てた。
 女の太ももと違い少し筋張ったその感触に少しだけ苦笑しながらも直輝は、汗ばんでいるそこに強く優しく唇を走らせていく。

「ひぁ、……ぅ、や、やぁ……っ?!」

 その太ももに感じる直輝の唇の感触と、その体温に蒼衣は恥ずかしさと、なんとも言えない熱さにじたばたともがき、足を閉じて直輝をそれ以上進ませないよう抵抗を試みる。
 しかし、そもそもスカートの中に直輝の頭が入っている時点で、蒼衣の試みは失敗していた。
 直輝は必死になって抵抗をする蒼衣の太ももに舌を這わせ、甘く噛み、ゆっくりとその中心へと確実にじりじりとだが頭を進めていく。
 そして、直輝はするりと自身の手を蒼衣のふくらはぎへ押し当てるとそこを撫で上げ、そのまま上へ上へと指先を躍らせていく。
 蒼衣はそんな直輝の強行とも言える行動に、半ばパニックを起こしながらも、直輝の与える感覚にそれを阻止しようとする意思が折れそうになっているのを感じていた。
 現に直輝の唇が太ももを甘く噛むたび、その手が足を撫で上げる度、蒼衣の足や体からはどんどんと蒼衣の意思とは別に力が抜けていった。
 それでも必死になって直輝の頭を押さえつけ、太ももをぎゅうっと閉じて抵抗をする。
 そんな蒼衣の抵抗に、何故か直輝の唇が太ももの付け根付近で止まり、そこからゆっくりと唇が離れた。
 直輝の唇が離れた事で、諦めてくれたんだ、そう思い、ホッと息を吐いて、閉じていた瞳を開けた、その瞬間。
 直輝の両手がそれぞれ蒼衣の膝にかかると、凄い力で蒼衣の足を大きく開いた。

「わっ、わぁぁぁっ?!」

 また蒼衣の喉から驚きの悲鳴が迸る。
 じたばたと今以上にもがくが、直輝の腕の力は蒼衣では振りほどくことが出来ない。

「や、やだっ、直輝くんっ……は、恥ずかしい……っ。止めて……っ。」
「ぜってーヤダ。」
「な、直輝くん……っ。」

 大股を強制的に開かれ、直輝の目の前にスカートの中身を全てを曝け出してしまった蒼衣は、その恥ずかしさに涙ぐむ。そして直輝に足を閉じさせて貰えるよう懇願するが、直輝はしれっとした顔でそれを却下した。
 直輝のあまりの無情ぶりに蒼衣はほとんど泣き声のような情けない声を出してしまう。
 そんな蒼衣をじろじろと無遠慮に眺めまわすと、直輝はにたりと笑った。
 スカートの下、蒼衣は女性物の下着を身に着けていた。
 しかも白いレースのふんだんに使われているそれには、本来女性ならばない膨らみがあり、直輝は一層にやりと嫌らしく笑う。

「へー、下着もちゃんと女物穿いてんだな。女装マニアの鏡じゃねぇか。」

 ニヤニヤと笑いながら直輝はそう蒼衣に向けて意地悪に言うと、蒼衣は更に顔を紅潮させる。瞳にはみるみる内に恥ずかしさによる涙が溢れてきた。

「やだ……、恥ずかしい、よぉ……っ。」

 思わず蒼衣は瞳を伏せ、両手で顔を覆うといやいやをするように頭を振る。その度に、顔を隠した両手の隙間から蒼衣の羞恥の涙が零れ落ちた。
 だが、その涙も直輝は故意に無視をする。
 もうちょっとやそっとの事では蒼衣に対する行動を止める気にはならないからだ。
 体を蒼衣の太ももの間へと割り込ませ、それ以上足を閉じられないようにすると、直輝は蒼衣の穿いている女物の下着、レースのショーツの上へとそっと手を這わせる。
 ショーツの下にある膨らみは、まだ柔らかかった。
 直輝はその膨らみの形に添うように手のひらで包み込むと、力を加えすぎないように優しく揉見始める。
 すると、直輝の手の中でピクリとそれは脈打ち、少しずつ硬度を増していった。
 手の中の感触に改めて、本当に男なんだな、とそんな事を思いながら直輝は、ゆっくりと蒼衣そのものへ愛撫を加えていく。
 直輝のその愛撫に蒼衣は、恥ずかしさと、恐ろしさと、そして何より今まで感じた事にない感覚に両手で顔を覆ったまま、戸惑っていた。
 他人にそこをこんな風に優しく触られる事自体、初めてで。蒼衣は自分の手以外から寄せられる淡い快感に、何度も何度もふるふると頭を振って耐えようとする。

「……っ、……ぅ、は、……ぁっ。」

 だが、欲望を生み出す中心でもあるそこを、直輝に何度も擦られ、揉まれている内に蒼衣の口から堪えきれないように吐息が漏れ始めた。
 ゾクゾクとした快感が握られているそこから発せられ、蒼衣の頑なな”他人の手による愛撫への絶対的な拒絶”という強迫観念さえもゆっくりと溶かし始める。
 どうにもならないもどかしさと、熱さに、蒼衣は戸惑い、ともすれば全てを委ねてしまいそうになる感情に先ほどの羞恥とは違う涙を零す。

「蒼衣。」

 そっと直輝が蒼衣の名を呼ぶ。
 その声に、蒼衣はふるふると頭を振り、隠している両手の下で更に強く瞳を瞑る。
 蒼衣のそんな態度に直輝はそっと苦笑をすると、体を上へとずらし、顔を覆っている手にキスを落とした。
 ちゅ、と音を立てて指先に吸い付き、そして手の甲にもキスをする。そのまま、顔の位置を移動すると、真っ赤に染まっている蒼衣の耳へと唇を近づけた。

「気持ち良いか?」

 蒼衣の耳を舌先で嬲りながら、直輝はそう質問をする。
 だが、当然蒼衣からの応えはなかった。
 蒼衣は直輝の言葉に、恥ずかしさを募らせ、更には直輝の言葉に、声に、何故か下半身から湧き上がる快感が強くなった事に戸惑っていた。心臓の鼓動も、また先ほど直輝にキスされた時よりも上がり、苦しいくらいに強く、早く脈打っている。
 ぎゅっと唇を噛む。
 このままでは、なんだか自分が大変なことになるような気がして、蒼衣は強い不安を覚える。
 だが、どうしても体には力が入らず、もう、直輝の体を自分の体の上からどけようとも思わなかった。

「蒼衣、凄く可愛い。」

 完全に抵抗する事を止めた蒼衣に、ひっそりと勝利の笑みを浮かべながら直輝は、普段ならば彼女に対しても絶対に言わないような言葉を蒼衣の耳の中に吹き込む。

「っ、ぁ、やっ……?!」

 ビクリと蒼衣の体も、下半身も過剰に反応を返す。
 直輝の手の中で蒼衣の分身は、ドクン、と強く脈打ち、とうとうショーツの上部から頭を出すほどに屹立し、ビクビクと跳ねる。
 それを直輝は手の感触で感じると、蒼衣の耳に加えていた愛撫を止め、体を起こして蒼衣の下半身を見た。
 白いふわふわのスカートはすっかりめくり上がり、そのお陰でスカートの下の白く華奢な足も、ショーツを着けている股間も直輝の目には全て見渡せる。そして、直輝が掴んでいるショーツの中からは、先ほどはなかった蒼衣の男根の先端が飛び出していて、なんとも言えない倒錯した景色を直輝の前に晒していた。
 思わずゴクリと生唾を飲み込む。
 男なんかに欲情することなど自分の人生には絶対ない、とほんの数時間前までは思っていた直輝だったが、今はその考えを全面的に改めるしかない。
 それ程、蒼衣に欲情している直輝が居た。

「……っ、や、なお、輝、くん……、見な、い、で……っ。」

 しかも、恥ずかしさに染まった声で、その癖、妙にそそる甘い声で蒼衣が直輝の名を呼ぶのだ。
 もう一度、ゴクリと生唾を嚥下する。
 そして、直輝はもう一段先に進む決意をした。
 すぅっと息を吸い込むと直輝は、また体を下へとずらす。そして、ショーツからちょこんと顔を出している蒼衣の分身へと顔を寄せた。
 そのまま、一気にそれを口にする。

「ひゃぁあっ?! や、ちょ、やだ、直輝、くん……っ?! やめっ、……っあ、ぁんっ!」

 突然直輝に自身の性器を口にされ、激しく動転した蒼衣は、慌ててその頭を押し戻そうとしたが、直輝の舌が蒼衣の鈴口に当てられてると、蒼衣自身想像していなかったような声がその喉から発せられた。
 今度はその声に驚き、自分の口を慌てて両手で押さえる。
 しかし、そのせいで直輝の頭は自由になり、更に深く蒼衣の性器を口に咥えられてしまう。その上、直輝は器用に手を蒼衣の背中側へ回すと、そのまま、尾てい骨あたりをショーツ越しに撫で、その下の溝に指を這わした。

「く、ん……っ、ふぁ……っ!」

 直輝の指がショーツ越しとはいえ、蒼衣の肛門へと触れると、蒼衣の体にジンッとした甘い痺れが走る。しかも、直輝の口はたどたどしいながらも蒼衣の分身へと舌を這わせ、震えるほどの快感を蒼衣へと与え、どれだけ口を手で押さえても、漏れる息は酷く甘い。その事がまた、蒼衣の体に、脳に、初めてのどうにもならないほど狂おしい感覚と、感情を与える。
 そして初めて上げる、止めようとしても止まらない甘い声に、蒼衣は戸惑う。
 必死になって口を手で押さえ、唇を噛む。それでも直輝に触れられ、舐められると、それは呆気なく解け、甘い声を漏らした。

「や、ぁ、あ……っ、くぅん……ひぁ……あ、な、なお輝、くぅ……んっ。」

 蒼衣の甘い声が直輝の耳朶を打つ。
 その声に満更でもない直輝は更に大胆に蒼衣のモノに舌を這わせ、先端を強く吸った。背中側に回した手は、ショーツ越しに蒼衣の穴を捏ねくり、擦る。
 その度に蒼衣の腰は揺れ、跳ね上がり、手の隙間から甘い声が止め処なく漏れた。
 気がつけば、蒼衣の穿いているショーツは直輝の唾液と蒼衣の性器から流れ出るカウパー液、そして汗で濡れそぼり、薄く下の肌が透け始めていた。そしてショーツの前部分に施してあるレースはぴったりと肌に張り付き、余計に蒼衣の性器の形をくっきりと浮かび上がらせる。
 体の華奢さとは裏腹に、蒼衣のソレは結構立派な代物だった。
 節くれだったそのシンボルに舌を這わせながら直輝は、少しだけ苦笑する。大きさとしては恐らく直輝とどっこいどっこい。それ程のモノが女物のショーツからにょっきりと頭と竿の半分を覗かせているのだ。
 しかし、上目使いに下から蒼衣を見れば、このうす暗闇の中だと、上半身だけなら貧乳な女の子にしか見えない。
 それなのに、だ。
 それなのに、ショーツの中から顔を覗かしているのは、立派な“男”なのだ。
 そのあまりに不釣合いな、倒錯した光景に、直輝は苦笑を深くする。
 直輝の苦笑には、他にも様々な感情や、思いが込められていた。
 一番大きく占めるのは、自分がこの光景に激しく欲情している事で。
 そう、女物のショーツから先端を覗かせている蒼衣のソレを舐めながら、直輝は酷く興奮していた。
 勿論蒼衣の漏らす甘い声や、快感に震える腰にも情欲を催してはいたが、なによりも直輝を興奮させていたのは、蒼衣のそのアンバランスな体にだった。
 まさか自分が男のモノをしゃぶってそれに興奮するなど、直輝は全く想像だにしていなかった。
 それもこれも、蒼衣だから、だ。きっと、蒼衣だから、これ程まで興奮するのだろう。そう、直輝は思う。
 蒼衣のモノを手で扱き、蒼衣の後ろをショーツの上から指先で突き、捏ねる。
 それだけで蒼衣は、堪えきれない様に甘い声を出し、更に直輝を誘うように腰を揺らす。
 口に溢れた唾液とともに蒼衣の先走りを直輝は飲み込む。塩気の強い独特な味に、直輝は少しだけ眉根を寄せたが特に気持ち悪いとも思わず、次々に溢れてくるそれを舐め、飲み込み続けた。
 そして、蒼衣の味にも慣れ、蒼衣そのものも最大の大きさになった時を見計らって、ちゅぽん、と音を立てて蒼衣のモノから口を離した。

「ふ、や……っ、直、輝……く、ん……?」

 突然直輝の口から開放されて、蒼衣は薄く目を開けると、思わず怪訝そうに直輝を見る。
 すると直輝は、にやりと蒼衣に向けてどこかいやらしさを感じる笑みを向けた。
 そして、蒼衣がその笑みに反応を返す前に、直輝は一気に蒼衣の体をうつ伏せに寝転がす。しかも蒼衣の腰を取ると、まるで四つん這いにするかのようにそれを持ち上げる。

「わ、わ、わぁっ!?」

 ゴロン、と直輝に力技でうつ伏せにされ、蒼衣はすっとんきょうな声を挙げ、肩越しにまた直輝を見た。
 しかし、自分のめくれ上がったスカートと、そこからさきの白いショーツに包まれた双丘に阻まれその向こう側にいる直輝の顔は見えなかった。見えるのは直輝の頭だけ。

「な、直輝くん……? な、なに?」

 直輝が一体何を考えているのかわからず、そして何をしようとしているのかわからず、蒼衣は少しだけ不安の色を滲ませた声で直輝の名を呼ぶ。
 だが、直輝は応えなかった。
 その代わり、つつつ……、と直輝の指が蒼衣の穿いているショーツにかかる。

「え? 直輝、くん……?」

 そして、蒼衣が呆気に取られている間に、直輝は器用にそれをスルンと一気に蒼衣の下肢から抜き取った。
 蒼衣の喉から驚きの声が漏れる。

「わ、わぁあっ、や、や、な、ななな、直輝くんっ……っ!?」

 軽いパニックを起こし、蒼衣は畳についていた両手を慌てて下半身へ持っていく。そして、直輝の前に晒されている尻と股間を隠そうとした。
 しかし、その手は呆気なく直輝の手によって阻まれる。

「や、やだ、やだっ! 見ないでっ、やぁっ!」

 直輝に両手を封じられ、蒼衣は身も心も焦がすような羞恥心に身悶えた。必死になって直輝の視線からその部分を隠そうと、腰をくねられ、足を閉じようと試みる。
 だが、その全てがただただ直輝の欲情を煽るだけでしかないのを、蒼衣は気がつかない。
 そして直輝は、暴れる蒼衣をなんなく手だけで畳に押し付けると、器用に蒼衣の腰を更にぐいっと持ち上げた。
 結果、蒼衣は頭を畳にくっつけ、背中で両手を直輝に封じられ、腰だけを高く突き上げた格好になる。
 その格好に、蒼衣は先ほどよりも強い羞恥心に身を晒され、体中に羞恥の血液が回るのを感じた。一気に体温を上げ、体中が朱に染まるのを感じながら蒼衣は、畳に押し付けられている頭をいやいやをするように振る。

「な、直輝、くん……っ、なんで、こんな格好……っ、僕、やだよぉ……っ。恥ずかしい、……よぉっ。」

 思わずまたべそをかいた情けない声が蒼衣の喉から漏れ、恥ずかしさからの涙が頬を伝って畳の上へと落ちた。
 そんな蒼衣に直輝は苦笑を零すと、目の前に晒されている蒼衣の白い臀部を空いた手で撫でる。

「あんま、可愛い声で啼くなよ。余計意地悪したくなる。」
「えっ……?! な、直輝くん……?」

 直輝の久々の声と言葉は、酷く高ぶり、そして妙に蒼衣にとって物騒な物言いだった。
 驚き濡れそぼる瞳を、無理矢理直輝の方へと向ける。
 すると、先ほどは見えなかった直輝の顔が、自身の腰の向こう側に見えた。そして、その顔を見て、蒼衣はビクッと体を一瞬震わせる。
 直輝の顔は、獰猛な肉食獣のそれだった。
 元々、眠そうな垂れがちの瞳に相反して、どこか暴力的な雰囲気を秘めた顔立ちではあったが、今の直輝の顔はまさに獲物を狙う獣のそれで。
 蒼衣は、その直輝の顔にゾクリと背筋が震えるのを感じた。だが、その震えは決して恐怖からのものではない。蒼衣自身、よくはわからない感情が自分を見つめる直輝の瞳から流れ込み、ゾクゾクと背筋を震わせる。
 その震えに蒼衣は自分自身どう接していいかわからず、思わず直輝から視線を外す。このまま見つめ続けられたら、蒼衣自身どうにかなってしまいそうだったから。
 蒼衣が直輝から視線を外した瞬間、直輝はにやりと獰猛な笑みを唇へ浮かべる。
 そして、小さく震える蒼衣の下肢に、そっと手を這わす。そのまま顔を近づけ、直輝は蒼衣の双丘の割れ目へと舌先を潜り込ませた。

「ひゃっ……っ?!」

 蒼衣の喉から変な声が零れる。
 まさか直輝がそんな行動に出るとは思わず、蒼衣は尻の割れ目に感じる直輝の生暖かい舌の感触に驚きながら身悶えた。

「や、やぁぁ……っ、だめっ、だめだよ……っ! 汚な……っ、あ、ひぁ……んっんんっ。」

 直輝の手で押さえつけられている両手を必死になって、直輝の頭のほうへと伸ばそうとする。
 だが、直輝の握力にはどうやっても逆らえず蒼衣は、またもやふるふると畳に頭を擦り付けるだけしか出来ない。
 直輝の舌は割れ目に沿って徐々に下へと下がっていき、ついに蒼衣の窄まりに到達する。
 舌先の感触から直輝はその窄まりに到達した事に気がつくと、小さく刻まれている皺に沿って舌先を走らせた。
 頭上からは蒼衣のなんとも言えない嬌声とも、悲鳴ともつかない声が聞こえてきていた。しかも、体は先ほどまでの抵抗を忘れたかのように弛緩し、びくびくと打ち震えている。腰はまるで直輝の舌の動きに合わせるかのように、くねくねといやらしく動く。
 どうやら蒼衣はこの部分が酷く感じるらしい。そう、直輝は蒼衣の体の反応と、声で判断すると、ひっそりと笑い、一気にそこを攻め始めた。
 舌先を尖らせ、ひくひくと蠢いているその窄まりに強引にねじ込む。
 途端に蒼衣の体に電流が走ったように、大きく跳ね上がった。

「っあぁっ、や、は、ああぁ……っんんんんっ――っ!」

 ビクンッ、と腰が跳ね上がり、蒼衣は自分自身押さえ切れないような衝動と、快感に戸惑いながら、口から漏れる声を抑えようと唇を噛む。
 だが、どれだけ噛み締めようとも、直輝の舌がぐりぐりとそこを解すように侵入してくると、我慢など出来なかった。
 そして急激に蒼衣の中で欲情は膨れ上がり、抑えることも出来ずにそれは爆発した。

「あ! やぁっ……っ、あぁ、ああんっ!」

 ビュルッ、そんな音が聞こえてきそうなくらい、それは一気に蒼衣の性器から迸った。
 驚いたのは、蒼衣自身だった。
 欲望を開放したそのなんとも言えない余韻と、脱力感に蒼衣は、呆然とする。
 気がつけば蒼衣の後ろに突き刺さっていた直輝の舌は引き抜かれ、荒く息をする蒼衣を上から直輝が眺めていた。

「……は、はぁ、はぁ……、な、なんで……?」

 にやにやと人の悪い笑みを浮かべ自分を見下ろしている直輝に、息を整えながら射精をした直後の上気した顔と瞳を向けて尋ねる。
 すると、直輝はもう一度にやりと笑った。

「俺だけがイかされたんじゃ面白くねーじゃん?」

 くつくつと喉を低く震わせながら直輝は自分が仕掛けた悪戯に人がまんまと引っかかった時のような、満足そうな声でそんな事を言う。
 それに蒼衣は、一瞬ポカンとした顔で直輝を見返し、次の瞬間には何故か顔を真っ赤にした。
 蒼衣のその反応に、直輝は、おや、と思う。

「……だっ、だからって、あんな、あんな……とこ、な、な、な、な、舐めっ、舐め……なく、ってっ!」

 カーッと羞恥心と怒りで体中を赤く染め上げながら蒼衣は、直輝に解放された両手を使ってポカポカと直輝の胸板を殴り始める。
 そのまるで子供が喧嘩をするときのような蒼衣の態度に、直輝は少しだけ苦笑すると、自分の胸板を叩き続けている蒼衣の両手の手首をあっさりと掴んで、その動きを封じた。

「っ……っ、も、もうっ……っ! 離してよっ!!」
「やだ。」
「直輝く……んっ、んぐっ。」

 恥ずかしさから頭に血が上っている蒼衣は、両手を掴んだ直輝の手を振りほどこうと躍起になる。だが、直輝はペロリと舌を出して蒼衣の言葉を却下すると、更に反論をしようとした蒼衣の口を自分の口で塞ぐ。
 抵抗する間を与えず、一気に舌を蒼衣の口の中へと侵入させると、蒼衣の舌を吸い上げ、絡め、口の中に淡い快感を刻み付ける。
 ビクビクと直輝のキスに蒼衣の腰が揺れた。
 直輝は握り締めている蒼衣の手を自分の首へと回すように置くと、揺れている蒼衣の腰へと手を回し、細いそれを強く抱きしめる。

「ん、んん……っ。」

 深く口付けされる事に慣れていない蒼衣は、直輝のこの口付けに翻弄され、体の力がどんどんと抜けていくのを感じた。その情けない体に、蒼衣の理性が必死になって抵抗を試みるが、その理性さえも溶かされるような直輝の熱い唇の感触と抱擁になすすべなく、結局受け入れてしまう。
 直輝が自分の首に回すように置いた蒼衣の両腕は、気がつけば蒼衣自身の意思で直輝の首に周り、そこにしがみついていた。
 蒼衣の体が弛緩し、直輝に縋り付いてくる状態に直輝は深く蒼衣に口付けをしながら、小さく笑う。
 そして、ゆっくりと腰に回した手を下へと降ろしていく。
 起き上がったことで蒼衣の臀部はスカートで覆われている。そのスカートを軽く捲り、その中へと手を忍び込ますと、直輝は蒼衣の太ももを一度撫で、そして指先を双丘の中心へと押し当てた。

「ひぁっ……?!」

 直輝の指先が蒼衣の窄まりを探り当て、そこを強くその指で押されると蒼衣は体を仰け反らして驚きの悲鳴を上げる。
 だが、続きの悲鳴はまた直輝の口の中へと吸い込まれていった。

「んっ、んんんっ……っ!!」

 蒼衣の唇を吸いながら、直輝は蒼衣の後ろの窄まりへとゆっくりと指先を沈めていく。先程、直輝が舌で潤し、解していたそこは、思ったよりもすんなりと直輝の指を体内へと導いた。
 その直輝の指が埋まっていく感触に蒼衣は驚き、思わずドンドンと直輝の肩を叩く。
 しかし、直輝の指が蒼衣の窄まりにどんどんと埋まっていき、ナカでぐりぐりと動かされると、蒼衣の腰にジンッとした痺れが走る。慣れ親しんだその快感に、蒼衣の意思とは別にガクガクと足が揺れ、だんだんと体を起こしているのが辛くなってきた。
 すると、その蒼衣の状態を悟ったのか、直輝が後ろに指を挿れたまま、ゆっくりと蒼衣の体を畳の上へと押し倒す。

「……蒼衣。」

 そして、蒼衣の体が完全に畳の上に横たわると、直輝は唇をようやく離し、囁くような声で蒼衣の名を呼ぶ。
 そうしながら直輝の指は蒼衣の中心を掻き回し、その内壁を指先で撫でるような動きをする。それは確実に蒼衣の体に快感を刻み、荒く熱い吐息を蒼衣の口から零させた。

「……な、なおき、くん……っ。」

 直輝の呼びかけに、蒼衣は欲情に潤んだ瞳を直輝へと向け、甘く蕩けた声で直輝の名を口にする。
 蒼衣のその声に、瞳に直輝はゾクゾクとしたなんとも言えない征服欲のようなものが体中に溢れ、ゴクリと唾を飲みこむ。

「蒼衣、ここ、挿(い)れていいか……?」

 口の中に溢れる唾を飲み込みながら、直輝は蒼衣にそう尋ねる。
 あえて、何を、とは言わなかった。
 尋ねられた蒼衣は、一瞬戸惑ったように瞳を左右に動かしたが、すぐに小さくコクリと頷く。そして、直輝の肩に置いていた手を、恐々と直輝の頬へと移動させた。

「さ、最初から、そのつもり、だったし……、そ、それに、その、僕、上手くいえないけど……、な、直輝くんとは、さ、最後まで、え、エッチ、したい……って、思……っ。」

 じっと直輝の瞳を見返し、その癖もの凄く恥ずかしそうに、最後は消え入るような小さな声で蒼衣は蒼衣なりの勇気を振り絞ってそう直輝に自分の気持ちを伝える。
 だが、蒼衣の言葉を最後まで言わせることなく直輝は、指先を侵入させていた窄まりから指を引き抜くと、その唇にまた深く口付けを落とした。
 半ば噛み付くようなそのキスに蒼衣は、一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに目を閉じて受け入れる。
 今度のキスは、蒼衣自身も積極的に直輝の舌に舌を絡め、今までの受身なだけとは違う情熱的な口付けを交し合う。
 蒼衣の唇を貪りながら直輝は、体を蒼衣の足の間に割り込ませた。そして蒼衣の足を器用にその両肩に担ぐと、その代わりに自身の欲望の塊をそこに押し付けた。
 蒼衣の体が小さく震える。
 その震えは明らかに男を受け入れる歓喜からくるものだった。それは直輝にさえも解るほどはっきりとしたもので。無意識にか、それとも意識的にか、直輝の熱を中心に感じた途端、蒼衣の足が直輝の腰に絡まり、更には直輝を受け入れやすいように蒼衣が腰自体を浮かせ、自身からまるでねだるように腰をそこに押し付け、腰をいやらしく揺らす。
 蒼衣のその行動に直輝は、改めて蒼衣がこう言った行為に慣れている事を感じる。
 その事に一瞬だけ胸の奥に苛立ったような感情を感じるが、それを無理矢理押さえ込み、直輝は押し当てたそれを蒼衣に埋めようと体を動かそうとした。
 と、その瞬間。
 あっ、と小さな声を挙げて蒼衣が直輝の行動を止めるかのように、蒼衣の手が直輝の肩を押した。
 ここまで来てまた寸止めかよ、そんな思いが直輝の脳裏に瞬間浮かぶ。

「あ、あのっ、直輝くん……っ。」

 そして蒼衣が直輝のキスから唇を自分から開放すると、蒼衣は、少し戸惑ったように直輝を上目使いに見た。
 その目は相変わらず欲情に濡れていて、直輝を拒否するような色は一切ない。それでも、蒼衣は困ったように眉を八の字に下げて、直輝を見上げていた。

「……なんだよ? まさかここまできて、止めるつもりか?」
「ち、違うよ……っ! そうじゃなくて、あ、あの……、そのまま、その、それ、挿れる、の……?」
「は?」

 寸止めをされた苛立ちをそのまま声に表すと、蒼衣は慌てたように首を振る。しかし、すぐにおどおどとしながらも、直輝に疑問をぶつけてくる。
 直輝は蒼衣の言いたいことが良くわからず、眉根を寄せて蒼衣にその真意を聞き返す。
 すると、蒼衣は戸惑ったように少し瞳を左右に動かしたが、直輝の肩に置いていた手を何を思ったのか自分達が重なり合っている隣にあるベッドの下へと伸ばした。
 直輝はその蒼衣の行動に疑問符を浮かべながら目で蒼衣の手を追う。すると、蒼衣は器用にベッドの下にあるプラスチックで出来た引き出し型の収納ボックスを開け、その中に手を突っ込むとすぐに何かを掴んで外へと手を出す。
 蒼衣が箱のようなものを引っ張り出すのを怪訝な面持ちで見ていた直輝だったが、それを蒼衣に目の前まで持ってこられると、あっ、と声を漏らす。

「そ、その……、これ、使う?」

 蒼衣が取り出したのはコンドームの箱だった。
 どうしてこんなものがこんな所にあるのか、そんな疑問が瞬時に直輝の脳裏に浮かぶ。しかもその箱は、すでに封が解かれ、何度か中から取り出したような跡があった。
 その事に、直輝はまたなんとも言えない苛立ちを覚える。

「……使って欲しいのか?」
「え?」

 思わず低い、機嫌の悪い声が直輝の喉から漏れた。
 その声に驚き、蒼衣は、直輝の顔を見返し、また驚く。
 直輝の顔には先程まで蒼衣に見せていた欲情に染まった肉食獣の面影は消え、ただただ不機嫌な感情が浮かんでいた。
 何故行き成り直輝が不機嫌になったのかは、蒼衣には解らない。
 だが、何か自分が直輝の機嫌を損ねるようなことをした事だけは解った。

「あ、あの……、こ、これ、あの、そのままじゃ、直輝くん、嫌、かと思って……。あ、あの、僕……。」
「もういいっ! ――このまま、ヤる。」
「え……、あっ、くぅううっ……っ!」

 蒼衣の弁明は直輝にとっては火に油を注ぐようなものだった。
 直輝の中でふつふつと凶暴な感情が湧き上がり、蒼衣の言葉を聞く間もなく、蒼衣の秘所に押し当てていた腰を一気に前へ突き出す。
 ぐっ、と一瞬の抵抗の後、直輝の肉棒はスムーズとは言い難いが、ゆっくりと蒼衣の中へと埋め込まれていく。だが、途中まで埋まると、直輝はまた一気に腰を引き、入り口付近まで戻すと、また乱暴に突き入れた。
 女とは違う、あまり潤いのないそこは直輝の肉棒による蹂躙に、ギシギシと軋み、入り口はその摩擦に引き攣れていた。
 その直輝の乱暴な動きに、蒼衣はひりつくような痛みを覚える。だが、挙げそうになった悲鳴は飲み込み、蒼衣は直輝の首に腕を回すと、そのままその痛みごと直輝を受け入れた。
 蒼衣にとって痛みを伴う挿入は、それ程珍しいことではない。
 直輝のこの挿入も、今までの蒼衣の経験の中ではまだマシな方だ。寧ろ、先程直輝の舌や指で解されている分、蒼衣にとっては気分的にも、肉体的にも負担は少なかった。

「っ、あ、ぅ……う、く……。」
「…………。」

 それでもそれなりの苦しさはある。苦痛の声を必死になって抑えてはいたが、眉根には深い皺が刻まれ、目尻には涙が溜まっていた。
 そんな蒼衣の姿を見下ろし、直輝は苛立ち紛れに無理矢理挿入したことを少しばかり後悔する。
 自分が何に苛立ち、何に憤ったのか直輝自身にもはっきりとは解っていはいない。だからこそ、自分の勝手な感情で、蒼衣に痛みを与え、苦しませているのかと思うと、直輝は腰を動かすのを止めるしかなかった。
 突然直輝の動きが止まり、蒼衣は怪訝そう瞳を開けて目の前にある直輝を見る。
 すると直輝は蒼衣の体を思いっきり抱きしめた。

「……え、ど、どうした、の……?」
「ワリィ……。八つ当たりした。」
「え……?」

 直輝の行動の突然さに、蒼衣は驚き、何度も眼を瞬く。しかし、直輝が何かに反省し、蒼衣に謝罪しているのだと理解すると、蒼衣は直輝の体を抱きしめ返した。

「良く、わかんないけど……、僕こそ、ごめんね。何度も、直輝くんの行動、止めしちゃって……。僕、本当に、直輝くんにされたような事、初めてだったから、どうしていいか、わからなくて……。イライラさせちゃったよね。ごめんね……。他にも、僕、気が利かないから、直輝くん、怒らせてばっかりだし……、お礼する、なんていっときながら、これじゃ全然お礼になんかならないよね……。」
「…………っ。」

 ぎゅうっと蒼衣は直輝の体を抱きしめながら、恐る恐る直輝の頬や鼻に唇を押し当てるだけの稚拙なキスをする。そうしながら、蒼衣は今思いつく限りの自省と謝罪を口にする。
 そんな蒼衣の行動と、言葉に直輝は居たたまれない気持ちになり、唇を噛み締めた。
 蒼衣が謝る必要は微塵もないのだ。それなのに、蒼衣は自分が悪いのだと、そう直輝に謝り続ける。それは直輝の良心を酷く痛めた。

「違うんだよっ!」

 思わず直輝は蒼衣の言葉を遮り、そう叫ぶ。
 直輝の叫びに、蒼衣はビクッと体を竦めると、少しだけ怯えた目で直輝を見た。それにまた、直輝の胸が痛む。

「……デカイ声出して、ワリィ……。ただ、違うんだよ。ただ、俺は……。」

 そこまで言いかけ、直輝は自分が蒼衣に何を言おうとしたのか、言いたいのか、その適切な言葉が見つからず口を閉ざしてしまう。
 少しの間、言わなければいけない事を探して逡巡するが、結局上手い言葉は見つからず目の前にある蒼衣の顔を見下ろした。
 蒼衣は直輝の言葉をじっと待っていた。瞳にはまだ少しだけ怯えの色が残ってはいるが、それでも、直輝が怒っているわけではないというのを理解したのか、じっと直輝の瞳を覗き込み、その言葉を、直輝の思いを聞き取ろうとしているのが直輝にも見て取れる。
 その蒼衣の瞳を見下ろしている内に、直輝は少しだけ自分が苛立った理由がわかったような気がした。

「……たく、ダセェな、俺……。」
「え? 何?」
「ん、いや、なんでもない。……なぁ、蒼衣。」
「?」

 ガシガシと頭を掻き、直輝は小さく自分に向けて呟く。その呟きに、蒼衣は首を傾げて聞き返すが、直輝は適当に誤魔化した後、蒼衣の体をもう一度抱きしめ返す。そして、蒼衣の耳にそっとその名前を囁いた。
 直輝の態度に蒼衣は頭に疑問符を浮かべ、それでも、何かを言いたそうにしている直輝の言葉を遮ることはせず、静かに次の言葉を待つ。

「……動かしても、いいか? 俺、結構限界なんだけど。」
「へ? あ、えと、あ……、う、うん……いい、よ……。」
「痛かったり、辛かったりしたら、言えよ。俺、男に突っ込むの初めてで、限度わかんねぇから。」
「……うん。」

 しかし零された直輝の言葉は、酷く悪戯っぽい響きが含まれていて。蒼衣はその直輝の言葉と内容に面食らいながらも、それでも、その声の奥に含まれている真剣な色合いに、頷く。
 そして、更に続けられた直輝の言葉には、真っ赤になって頷いた。
 蒼衣が頷いたのを確認すると、直輝はすぐには動かず、まず蒼衣の耳や首筋にキスを落とす。また、蒼衣の体に回していた手を動かし、蒼衣の太ももや、足の付け根に指先を這わしていく。もう片方の手は、蒼衣のキャミソールとシャツの下へと忍び込ませ、その脇腹や、胸板へと指先を躍らせ、蒼衣の体に淡い快感を刻み込んでいった。
 動かす、と言っていたのにそこは動かさず、体を弄りだした直輝に蒼衣は怪訝な視線を向ける。
 だが、直輝はそれにチラリと一瞬だけ視線を合わせただけで、何も言わず、ただ黙々と蒼衣の体を手で嬲り、唇や舌で愛撫していくばかり。
 ゆっくりと顔の位置をずらしながら直輝は、蒼衣の体が反応を返してくるのをじっと待つ。
 片手でシャツのボタンを外し、重ねて着ているキャミソールごと上へと捲り上げると、蒼衣がビクリと体を強張らすのが直輝にも解る。
 だが、今度は制止の声は聞こえなかった。
 蒼衣は羞恥で顔を赤く染めながらも、直輝の愛撫には抵抗することを止めていた。これ以上抵抗したり、制止したりする事で、直輝の気持ちを掻き乱してはいけないと、蒼衣は考え、直輝がする事を全て受け止めようとしている。
 直輝の唇が蒼衣の胸板へと落ちると、流石に息を呑む。
 だが、優しく触れられるそれに、蒼衣はすぐに息を吐き出し、そっとその頭に手を回した。

「……ん、……ふ。」

 直輝の舌が、唇が素肌に触れる度、蒼衣は恥ずかしそうに、だが、堪えきれない様に甘い吐息を零す。
 更に直輝の手が蒼衣の臀部を摩り、揉むと、甘い痺れのようなものが蒼衣の体を走った。
 直輝のその蒼衣を労わるような優しい愛撫に、蒼衣の体からは力が抜け、直輝を受け入れている場所からも余分な力が抜けていくのを蒼衣自身感じる。

「……あ、あの、直輝、くん……っ。」

 小さな声で、直輝の名を蒼衣が呼ぶ。
 直輝はその声に視線だけ上に向けて、蒼衣を見ると、蒼衣は顔を真っ赤にし、潤んだ瞳を直輝に向けいた。

「う、動かして……、僕なら、大丈夫、だから……。」
「……。」

 決死の思いでそう直輝に自分の体が、準備が整ったことを伝える。
 だが、直輝は瞳だけで蒼衣に笑いかけると、無言で蒼衣の胸の突起に口を寄せた。

「っ……んっ、はっ……ぁ、んんっ。」

 直輝に直接乳首を舐められ、吸われ、蒼衣は今まで感じたことのないような甘い痺れがそこを中心に体中に広がり、もどかしいまでの快感を覚える。
 しかも直輝の手は蒼衣の下半身を這い回り、撫で、揉み扱き、直輝を受け入れている部分に疼くような快感を与えていた。
 初めてのその強い快感に、蒼衣は無意識に腰を揺らし、咥え込んでいる直輝自身にも刺激を与えようとする。

「ふ、あ……っ、なお、き、くん……っ、も、僕、……僕……っ、変に、なっちゃう……っ。ど、しよ……、こんなの……っ、僕、知らないっ……、たすっ、け、て……っ。」
「……っ、蒼衣っ。」

 狂おしいほど体の中で暴れまわる、今まで感じたことのないその渇望に、蒼衣は直輝に助けを求める。直輝の体中に切羽詰ったように手を這わせ、その筋肉の硬さに更にどうしようもない熱情を体の中に募らせ、蒼衣は、とうとう自分の手を直輝と結合している部分に滑り込ませた。
 自分で足を大きく開き、腰を浮かせ、直輝の欲望が埋め込まれている部分に指を這わす。そして、少しだけ窄まりからはみ出ている直輝の肉棒に指を絡ませた。
 その蒼衣の行動に、直輝は息を呑み、暴走しそうになる欲情を必死になって抑える。
 しかし、蒼衣の欲情で潤み、溶けそうな瞳で見られ、甘い声で求められると、今すぐにでも激しく動きたくなった。だが、それでは蒼衣を乱暴に扱ってしまうことになる。それだけは、直輝は避けたかった。
 だが。

「なお、輝くんっ……、これ、で、僕の中、擦って……っ、激しく、掻き回し、て……。ら、乱、暴に、して、いいよ、僕……、直輝、くんに、なおき、くん、になら……っ、乱暴に、エッチ、され、たい……っ、お願い……、ね、動いて……、直輝くん、も、一緒に、気持ち良く、なって……っ。」

 こんな風に蒼衣に腰を揺すられ、直輝の考えを見透かされたように、乱暴にして、なんてお願いされては、直輝の理性のダムはあっさりと崩壊していしまう。
 頭の中で理性が決壊する音を聞きながら、直輝は、ゴクリと生唾を飲み込むと、すぅっと息を深く吸い込んだ。
 そして、下肢に力を入れると一気にそれを動かし始める。
 先程までギチギチに直輝を締め付けていた蒼衣のそこは、不思議なことに柔らかく解け、まるで直輝のその乱暴な動きに合わせているかのように、内壁を蠢かせた。
 女の膣とは違うそのなんともいえない感触と、動きに、直輝は小さく呻く。
 まさか、ここまで男のナカが気持ち良い物だとは思っておらず、直輝は蒼衣の淫らに蠢くその内壁の感触に苦笑した。直輝が動く度に、そこは過敏に反応をし、直輝自身を締め付け、奥へと導く。その底の知れないその動きに、直輝は更に深く突き刺そうと腰を大きく動かした。
 入り口ギリギリまで引き抜き、一気に蒼衣のナカへと、ずずず……と、突き入れる。

「ひあっ! あ、あぁ……っ! やっ……、は、ぁっ、直、き、くん……っ」
「……痛いのか?」

 深く最奥まで突き刺すと、蒼衣が眉根を寄せ、いやいやをするように首を振る。そして、ぎゅうと、直輝に強くしがみついてきた。
 痛みがあるのかと思い、そう問いかけながら直輝が腰の動きを無理矢理止めると、蒼衣は更にいやいやと頭を振る。
 そしてうっすらと瞳を開け、直輝を見た。

「ち、違うの……、さっきの、凄く、良くて……、僕、その……い、イきそうに……。」

 一度は直輝と瞳を合わせた蒼衣だったが、すぐに恥ずかしそうに瞳を伏せ、消え入りそうな声で痛みではなく快感を感じたのだと、そう訴える。
 蒼衣のその言葉に、直輝の何かが沸騰しそうになった。
 肩に担いでいる蒼衣の足首を掴み直すと、それを限界まで蒼衣のお腹の方へと折り曲げる。そして、自分の体を蒼衣に密着させるようにくっつけた。

「ぅ、ん……ぁ、んっ、んんっ――っ。」

 ぐぐぐ……と、蒼衣の体を折り曲げるように密着すると、蒼衣のナカに埋め込まれている直輝自身も更に深く蒼衣の中へと突き刺さっていく。
 体を折り曲げられる苦しさと、それを凌駕するほどの直輝の熱さと、そこから発せられる快感に蒼衣はきつく眉根を寄せ、唇に手の甲を押し当てて零れそうになる悲鳴のような嬌声を抑える。
 すると、直輝の手がひょいっと伸びてきて、蒼衣の口を覆っているその手を半ば力ずくで退かせた。

「声、我慢すんなよ。俺、蒼衣の声、聞きてぇんだからさ。」
「な、お、きくん……っ、そんな、は、恥ずかしい……よ……っ。」
「いいから、出せって。――それとも、あれか? 恥ずかしさも感じさせないくらい、よがらせて欲しいのか? 声、我慢できねぇくらいにさ。」
「や……っ、ち、違……っ、そ、そんなの……っ。」

 直輝の意地悪な言葉に蒼衣はまた顔を真っ赤にして、直輝に降ろされた手を顔に戻し、それで覆う。
 そんな蒼衣を見下ろし、直輝の心の中にどうにもならない加虐心がウズウズと湧き上がって来る。
 ペロリと舌なめずりをすると、直輝はぐいっと蒼衣の腰を掴み、上へと持ち上げた。そうでなくとも蒼衣の体は極限まで折り曲げられていたというのに、このせいで、蒼衣の足先が蒼衣の頭を跨いでその先の畳へと付くほどになる。

「ぅ、うぅ……っ、苦し……っ、……っっつ?!」

 直輝に無理な体勢を強いられ、蒼衣は苦しさに呻く。そして、顔を覆っていた両手を外して、驚いた。
 蒼衣の目の前には、蒼衣の下半身と、そして、直輝との結合部が曝け出されていた。

「や、やぁぁああっ……っ?!?!」

 あまりの刺激の強い光景に、小さく羞恥の悲鳴を上げる。
 それに直輝はにやりと意地の悪い笑みをして見せ、目を白黒させ顔を紅潮させている蒼衣の頬に優しくキスを落とした。
 その格好のまま、直輝はゆっくりと腰を後ろに引く。
 ゆっくりと蒼衣のナカから自身の分身を引き抜き、そして、蒼衣に見せ付けるようにゆっくりとそれをまた元へと戻した。
 それを何度も何度も、ゆっくりと繰り返す。

「や、あぁっ、あ、……っ、は、ぁあぅ……っ。」

 直輝に与えられるじわりじわりとした快感と、何より目の前に曝け出されたあまりにも刺激的で羞恥心を大いに掻き立てる光景に、蒼衣は頭の中がくらくらとする。
 折り曲げられた苦しさに喘ぎながら、また、直輝に与えられる快感に意識が遠退きそうになるほど感じていた。
 がりがりと畳の目を爪で掻き、ささくれを作る。

「っ、あぁ、は……っ、はぅ……っん、あ、なお、き、くん……、い……ぃっ、いぃ、よぉ……っ。きもち、いぃ、よぉ……、ぁ、あぅ……っ。」

 ずずず……と、直輝のものが蒼衣のナカから引き出され、突き入れられる度に、蒼衣はどんどんと理性が直輝に吸い取られ、蕩けていくような感覚を覚えていた。
 気がつけば、声を我慢する事も忘れ、今まで男に抱かれても出した事がないような甘ったるい声で、直輝の名を呼び、無理な体勢ながら腰を自ら揺すって直輝の全てを感じようとする。
 そんな蒼衣に、直輝は堪らないほどの劣情を催す。
 しかし、殊更ゆっくりと蒼衣を焦らすように動かしていた腰が、次第に直輝自身がその焦らすような動きにもどかしさを感じてきてしまう。そのまま腰の動きを強く、早くしようと思ったが、不安定な体勢のため、どうしても勢いをつけようとすると、蒼衣の体が反動で倒れてしまう。
 なかなかに扇情的な体勢を崩すのは惜しかったが、直輝自身もう抑えが利きそうもなかった。

「蒼衣……、蒼衣……っ。」

 そう蒼衣の名を囁きながら、無理矢理折り曲げていた蒼衣の体をゆっくりと元に戻す。そして、今度は自分が蒼衣の体の上に折り重なるように倒れた。
 蒼衣に体重をかけないようにしながら、直輝は正常位の体勢で蒼衣の足だけを折り曲げ、広げさせると、腰を軽く持ち上げ、一気に動かす。
 今までの苦しい体勢と、じわりとした快感から一転。直輝の強い攻めに蒼衣は、髪を振り乱して乱れた。

「ひぁ……っ! ぁ、や、やぁ……っ、イ、く……ぅっ、……ぉきくん……っ、直、き、くん……っ、ぼ、僕、ぼく……っ!」

 腰を直輝の動きに合わせながらくねらせ、蒼衣は体の中で暴れまわる快感にのた打ち回る。直輝が突き入れるたび、尾てい骨から想像だにしなかった快感が体中を駆け巡る。それは、最終的には蒼衣の牡へと集まり、どんどんと射精感を募らせていた。
 後ろで感じる事は出来ても、それが射精へと繋がる事などなかった蒼衣はその感覚と快感に、言い知れない恐怖を覚える。
 その恐怖心を和らげようと、汗だくになりながら荒い息を吐き蒼衣を攻めている直輝の体に手を伸ばし、必死になって縋ろうとした。
 直輝の背中へと腕を回し、その躍動する筋肉に爪を立てる。
 その小さな痛みに直輝は少しだけ顔を顰めたが、すぐに余裕のない顔になると、目の前で乱れ狂っている蒼衣の唇へ自身の唇を乱暴に押し当てた。
 途端に蒼衣から舌を求め、絡めてくる。
 互いに今までの人生で経験した事もないような、濃厚で情熱的なキスを交わし、唇だけでなく顔中にもキスを降らし、唾液を互いの唇で互いの顔に擦り付け合う。
 部屋の中に木霊する荒い息はもはやどちらのものともつかなかった。

「っ、あおい……っ、イけよ……っ、ほらっ、いいぜ、イけって……っ!」
「あ、あふ……っ、やぁ、なお、っくん、あ、ダメ、……だめぇ……っ、イっちゃう、ぼく、なおきくんに……、おしり、で、おしりだけで、イかされちゃう……っ。」

 互いの顔にキスを降り注ぎながら、腰を振り合う。
 直輝は蒼衣の熟れた内壁にこれ以上ないくらい自身の欲望を擦り付ける。
 蒼衣自身の内壁から滲み出る体液と、直輝の男根から出る先走りによって女の秘所の様に濡れそぼっているそこを、わざとぐちゅぐちゅといやらしい音を立てて掻き回す。
 そして蒼衣は、直輝を更に感じようと、深く奥まで咥えこもうとして、自分で足を大きく広げ、更には己の手で尻の肉を限界まで開いていた。
 そうした事で直輝のイチモツが蒼衣の一番深いところをえぐるように突き立つと、蒼衣の体の中で溜め込んでいた情欲が一気に爆発する。

「ふあっ、あぁぁああぁ――――ぁあんんんっ!!」

 甘く蕩けきった嬌声とともに、蒼衣の男根から勢い良く飛び出したそれは、重なり合っている直輝と蒼衣の腹を白く汚した。
 熱くぬるぬるとしたその感触に直輝は、堪らない感覚を味わう。
 自分の男だけで蒼衣を射精させた、という、その征服欲と満足感、そして並々ならぬ優越感に一気に直輝の腰にも重い快感が走った。
 自分にも限界が訪れた事を直輝は悟ると、射精の余韻に浸り、荒い息を吐いている蒼衣の唇をもう一度貪る。
 舌を濃厚に絡めながら、更に腰の動きを早めた。
 蒼衣が射精した事に寄って、そこは酷く直輝を締め付け、直輝を今まで以上に刺激する。

「……っ、く、蒼衣……っ、俺も……っ。」

 数回擦り付けただけで、直輝も体の中に溜まっていた熱い欲望が勢い良く蒼衣のナカへと爆発するのを感じた。
 熱く掠れた声で蒼衣の名を呼び、射精する瞬間、蒼衣の腰を掴み最奥まで突き刺す。そうする事で自身の先端からどくどくと熱い精液が蒼衣の内臓に向けて放たれ、満たしていく。
 相手が女であれば恐らくとてつもない文句を浴びせられるだろう中出しに、蒼衣は何もいうことなくただ直輝の体にしがみ付き、どこか嬉しそうな表情でそれを受け止める。
 その蒼衣の態度と、避妊を気にしないでいい射精に、なんとも言えない開放感を感じ、思わず満たされた溜息が直輝の口から漏れた。
 中出しでの快感と、征服感に直輝は浸りながら、なぜか欲情を吐き出した後の妙に醒めた理性は、蒼衣と関係を持ってしまった事に対してどこか後悔にも似た感情を生み出す。
 それに何故だろうとは直輝は思うが、激しく交わった後の疲れですぐにどうでも良くなってしまった。

◆◇◆◇

 直輝はそのまま蒼衣のナカに全てを出しきった後も、暫くはその余韻に浸るように蒼衣の腰を掴んでゆるゆると腰を動かし続ける。
 直輝にそうしてジワジワと緩い快感を与え続けられ、蒼衣はぐったりとしながらも小さく喘ぎ声とも、息遣いとも取れるような声を上げていた。
 蒼衣は始めて感じるその満ち足りた妙な安らぎと、圧し掛かられる直輝の重さと体温に不思議な幸福感に戸惑う。

「ぁ、はぁ……ぁ、あん……っ、なお、きくん……っ、ぼく、……どうしよう……。」
「……蒼衣?」

 直輝が射精の余韻と蒼衣のナカの気持ち良さに浸っていると、蒼衣が困ったような声を出す。
 それに酷く不安そうな色が含まれているのに気がつき、直輝は蒼衣の胸に乗せていた頭を持ち上げ蒼衣の顔を見た。
 蒼衣は困ったように眉を八の字に下げ、だが、妙に潤んだ瞳で直輝を見返す。

「ぼ、ぼく……、なんか、変、なんだ……。こんなの、こんな感情、初めてで……どうしよう……。」
「? どうした? 蒼衣? きつかったか? どっか痛いのか?」

 蒼衣の不安が零れ落ちそうなくらい震えた声に、直輝はぎょっとして蒼衣の顔をまじまじと見る。
 すると蒼衣は、ふるふると頭を振った。
 そして直輝の背中に再度腕を回して、その筋肉の感触を手のひらで感じるかのように触りながらぎゅっと直輝に抱きつく。

「……あ、あの……呆れない?」

 直輝の体に抱きつき、その肩口へ顔を埋めると蒼衣は、おどおどと直輝にそう尋ねる。
 その蒼衣の言葉に直輝は一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに小さく苦笑をすると自身の腕も蒼衣の背中に回し蒼衣を抱きとめた。

「しねぇよ。なんだよ、言ってみな?」

 汗で湿った蒼衣の髪を撫でながら、直輝は極力優しい声を出して蒼衣を安心させようとする。
 直輝の言葉と態度に、蒼衣は直輝の肩口に、すりっ、と額を擦り付けると、ゆっくりと息を吸い込み吐き出す速度で口を開いた。

「……あ、あの、僕……、その、……直輝くんと……あの……えとっ。」

 勇気を振り絞って口を開いたものの、やはりいざとなるとなかなか蒼衣は上手く言葉に出来ない。
 恥ずかしさと、こんな事を言い出したら絶対嫌がられるに違いない、と言う不安とがない交ぜになって蒼衣は、暫くもごもごと口の中で言葉にならない言葉を呟いていた。
 その蒼衣の相変わらず引っ込み思案な所に、直輝は苦笑を深くすると、それでも蒼衣が次の言葉を発しやすいように優しく、だがぶっきら棒に後押しの言葉をかける。

「……なんだよ? 大丈夫だから、言ってみな?」
「……あ、あの……僕、直輝くんと、と……、ともだち……に、なり、たい……ん、だけど……、あ、あああ、あのっ、そのっ、別に変な意味じゃなくて……っ! ふ、普通に、その、DVD観たり、とか、ご飯食べたりとか……そういう、普通の、ともだち、になって欲しい……ん、だけ、ど……。」

 するとようやく蒼衣は、顔を真っ赤にしながら直輝に向かってそう一気にまくし立てた。だが、一番肝心な『友達』と言う単語は、恥ずかしいのか、消え入るように小さい声で。それでも、直輝を上目使いで見つめる瞳には、かなり真剣な色合いが含まれている。
 その蒼衣の告白と、表情に直輝は一瞬、ポカンとした後、思いっきり噴出した。
 蒼衣の体を抱きしめながら直輝はゲラゲラと笑う。
 そんな直輝に今度は蒼衣がポカンと口をあける番だった。

「なっ……なんだよっ……!! ぼ、僕……凄い、勇気出して、言ったのに……っ! 他人に対して、こんな風に友達になりたい、なんて僕、今まで思った事ないから……っ、なのに……っ!」
「だ、だって、お前っ……、この状況で、と、友達って……っ、ひゃ、ひゃはは……っ、ヤバイ、笑い死ぬ……っ。」
「うぅ〜〜〜〜っ、だって、だって……っ。」

 暫くポカンと直輝の馬鹿笑いを見ていたが、流石にムッとしたのか蒼衣は声を荒げる。顔をムッと顰めると、自分の体に折り重なるようにして笑い続けている直輝の体を無理矢理、押しのけた。
 ゴロンと畳の上に転がってもまだ、直輝はゲラゲラと腹を押させて笑い転げる。
 そんな直輝にプーッと頬を膨らませ、更に抗議の声を挙げようと蒼衣は口を尖らせながら言葉を更に重ねようとした。
 しかし直輝がようやく笑いを引っ込め、少しばかり真剣な顔をして体を起こすと、蒼衣は言おうとした言葉を口の中に飲み込み、ただ睨み付ける。

「や、悪い、悪い。でも、蒼衣。お前さぁ、SEXした相手に友達になろうって、しかも普通の友達って……そりゃ、ないだろうよ。」
「う〜〜っ、でも、僕……。」

 いつの間にやら畳の上に正座した格好で、蒼衣は直輝を睨み付け、口の中でごにょごにょと直輝への反論を呟く。
 だが、蒼衣自身も直輝の言いたい事は解る。自分だって、同じ状況で同じ事を相手に言われれば、笑うとまで行かなくとも、驚き、相手の言う事を怪訝に思うだろう。
 そう解ってはいても、蒼衣は直輝とこのまま関係を終わらすのは嫌で、なんとか少しでも直輝と仲良くなりたいと思っていた。それは別に性的な意味ではなく、本当に、蒼衣としては普通に、この年代としては普通に仲良くなりたいと言うもので。
 だからこそ、今までの自分ならば決して言わなかった、言えなかった言葉を直輝に対して決死の思いで伝えたかったのだ。
 確かに拒否される事が頭に浮かばなかった訳ではない。
 それでも、ひょっとしたら、と言う思いに縋って、無理矢理不安を追い出して蒼衣は直輝に伝えたのだが、直輝にその思いを笑われ、蒼衣はだんだんと落ち込んでくる。
 言わなければ良かった、と少しだけ蒼衣は思う。
 とんどんと気分が落ち込み、直輝へ反論する事も出来ずとうとう蒼衣は膨らました頬も萎め、俯いてしまった。
 そんな蒼衣を見て、直輝は少し笑いすぎたな、とつい先程の馬鹿笑いをした自分を後悔する。
 だが、直輝としては本当に蒼衣がそんな事を言い出すとは思いもしなかったのだ。
 あんな潤んだ目で、あんな上気した頬で、溶ける様な甘い声で言われれば、男としてはもう少し色っぽい話を持ちかけられると期待するのが普通だろう。しかも、つい今しがた激しく情を交わしあった直後なのだ。
 直輝がその余りの肩透かし感に爆笑したとしても可笑しい話ではない。
 それでも、今のしょんぼりと俯いている蒼衣を見ていると直輝は笑ってしまった事を後悔してしまう。

「……あのさ、蒼衣。お前を抱いた俺がこー言う事言うのもなんなんだが……。」

 余りに打ちひしがれているように見える蒼衣に直輝はガシガシと頭を掻くと、言い難そうに言葉を捜しながら口を開く。
 直輝の声に蒼衣は、俯いていた顔を少し挙げ直輝を見る。
 すると直輝はどこか苦虫を噛み潰しているような渋い顔で、言葉に詰まっていた。それを見て、蒼衣はますます、変な事を言わなければ良かったと、先程言った自分の言葉を酷く後悔する。
 だが、続いた直輝の言葉に蒼衣の瞳が大きく見開かれた。

「……俺、お前の事はすでに友達だって思ってるんだけど。」
「……ぇ……。」

 ボリボリと頭を掻き、言い難そうに、だがきっぱりと直輝は蒼衣に向けて、そう言い切った。
 その言葉を聞き、蒼衣はまるで信じられないものを見るような目で直輝を見る。
 確かに直輝に友達になって欲しいといったのは蒼衣自身だ。しかし、まさかもうすでに直輝が自分の事を、友達認定しているとは全く思ってはいなかった。

「あ、ああああ、あのっ、だ、だだ、だけど、直輝くん……っ、ぼ、僕、だって、こんな女装って言う変態な趣味持ってるんだよ?! しかも、今日始めて話したばっかりだし、あの、それに、僕、無理矢理、直輝くんをその気にさせてエッチしちゃったし……っ、しかも、男とエッチするの慣れてるような気持ち悪い男だよ……?!」
「あー、まぁ、確かに? お前とは今日始めてまともに話したばかりだし、カミングアウトされたお前のその趣味も男としてどうかと思うし、お前に誘われたっつーても、途中からは俺主導でお前と本気SEXしちまうし、挙句お前の中に思いっきり出しちまったし、それに、男とヤるの慣れまくってるお前も心底どうかとは思うし、そんな状態で今更お前と普通の友達ってーのも変だなー、とは思うし、ありえねぇなぁ、とも思うんだが……。」

 驚き、余りに驚きすぎて、蒼衣は直輝に自分がいかに直輝の友達として相応しくないかを熱く語る。
 そんな蒼衣に、苦笑を強く滲ませ、いちいち蒼衣の言葉に頷き、肯定しながら言葉を続けていく。
 そして、パニクり、泡を食っている蒼衣の肩を抱き寄せると、その耳に悪戯っぽい声で囁いた。

「でも、ま、俺、結構お前の事好きだぜ。あ、勿論男友達として、だけどな。」

 くすくすとからかいの色を強く含めた、だが、その奥に隠された割と真剣な色合いに蒼衣は一気に自分の体温が上がっていくのを感じる。
 カァァァ……と、顔を赤く染め、隣にある直輝の存在を強く感じ、蒼衣はだが、恥ずかしくて俯く代わりに、直輝の首に手を回して抱きついた。

「直輝くん……っ、ありがとう、僕、どうしよう、本当に、嬉しいよぉ……っ。」

 首にしがみ付き、嬉し泣きする蒼衣に直輝は小さく苦笑する。耳元でぐずぐずと鼻を鳴らす音が聞こえ、つくづく変な奴に懐かれたものだと、直輝は思う。
 だが、直輝は蒼衣の背中に手を回し、抱きしめ返すと、宥めるように頭を撫でてやる。
 自分より背が高いくせに、妙に子供っぽくて華奢で涙もろくて色っぽくて、意外に喜怒哀楽がはっきりとしてる蒼衣に直輝は、確実に親しみと、妙な愛情を感じていた。
 それは、女に対して感じるそれとは勿論違う感情ではあったし、男友達に感じる友情とも恐らく違う感情ではあったが、それでも直輝は蒼衣に親しみを覚え、これからも仲良くしていきたいと改めて思う。
 そして、蒼衣は直輝に縋りついて嬉しさで涙を零しながら、今まで感じた事のないような安らぎと幸福感に戸惑っていた。
 一体この感情がどこから来て、これからどこに行くのか蒼衣自身解らない。
 それでも今はただ、直輝と友達になれたという、嬉しさに蒼衣は直輝にしがみ付いて泣くしかなかった。

◆◇◆◇

「直輝くん、これから友達として宜しくね。」
「あ、あぁ。」

 気が済むまで泣いた後、蒼衣は直輝の前にちょこんと正座をすると、晴れやかな笑顔で直輝にぺこんと頭を下げた。
 そんな蒼衣の言葉に頷きながら、直輝は改めて、変な奴、と蒼衣に対して思う。
 それでも、今の季節に咲き誇るひまわりのように明るい笑顔を見せられて、直輝は満更でもなかった。
 出来る事なら、この笑顔をずっと絶やさないようにしたいと、そう心底思う。
 そして、蒼衣もまた。
 直輝と共に笑える今を、これからを、大切にしたいと考えていた。

 二人の物語はこれからゆっくりと始まる。

第一話「出会い、そして」 終