百人一首いろいろ...旅行雑記の後任に
選ばれた琥珀の随筆

若菜つみ  浅茅生  乱れそめにし  逢いみての  花ぞ昔の
花よりほかに  けふ九重に  春すぎて  今はただ  暁ばかり
いまひとたびの  むべ山風を  わが身ひとつの  みをつくしても  かぢを絶え
まつとし聞かば  くだけてものを  いかに久しき  よに逢坂の  ながながし夜を
かこち顔なる  紅葉の錦  恋しかるべき  今ひとたびの  世をうぢ山と
今日をかぎりの  雲のいづこに  人のいのちの  いつみきとてか  長くもがなと
夢の通ひ路  逢はでこの世を  いでそよ人の  雲がくれにし  まだふみもみず
さしも知らじな  あらはれわたる  名こそ流れて  かたぶくまでの  ものや思ふと
人しれずこそ  竜田の川の  置きまどはせる  しろきを見れば  衣かたしき
焼くや藻塩の  世を思ふゆゑに  山の奥にも  忍ぶることの  あはれ今年の
はげしかれとは  蘆のまろ屋に  閨のひまさへ  有明の月を  をとめの姿
わが身世にふる  人には告げよ  われても末に  雲居にまがふ  恋ぞつもりて
からくれなゐに  流れもあへぬ  人をも身をも  人に知られで  恋にくちなむ
末の松山  かけじや袖の  濡れにぞ濡れし  人こそ知らね  あまの小舟の
ふりゆくものは  人目も草も  霧たちのぼる  もれ出づる月の  いづくも同じ
人こそ見えね  つらぬきとめぬ  わが衣手は  声きくときぞ  三笠の山に
ふるさと寒く  富士の高嶺に  吉野の里に  外山の霞  かひなく立たむ
しづごころなく  みをつくしてや  昼は消えつつ  幾夜寝ざめぬ  憂きにたへぬは
なほ恨めしき  乱れて今朝は  身のいたづらに  ただ有明の  わがたつ杣に
みそぎぞ夏の  しるもしらぬも  松も昔の  なほまりある  憂しと見し世ぞ
あとがき・解説

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